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key to my heart
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(1)
待合室で待っていると麻里が戻って来た。
その様子からして結果が何となく分かったけど、聞いてみた。
「どうだった?」
「……喜んで欲しい」
今年俺は父親になれるらしい。
ここは病院。
騒ぐわけにはいかない。
ただ麻里の手を強く握った。
「やったな!」
「……うん」
麻里は少し恥ずかしそうだった。
家に帰る前によるところがある。
USEの本社に車で向かう。
「シートベルトとか大丈夫か?」
お腹圧迫するとまずいんじゃ……。
「私がシートベルトしなかったら将門がやばいよ」
まだそんな状態じゃないから大丈夫らしい。
USEに着くと社長たちが待っていた。
「さっきメッセージで麻里から結果は聞いたわ……おめでとう」
専務がそう言った。
これからの事について話した。
時期的には平気だろうけど暑いだろうから夏のライブツアーは白紙にする。
しばらくは出産への備えと産後の育児を2人で頑張れ。
俺の親は多分手伝ってくれるだろうけど、それに甘えてはいけない。
あくまでも俺と麻里の子。
役割は果たせ。
その間の俺の活動は、作曲活動を手伝って欲しい。
IMEには大勢のアーティストを抱えている。
その作曲・編曲を任せたい。
活動拠点は予定通り地元で構わない。
麻里だって親がそばにいた方が安心だろうから。
「出産に立ち会わないなんてふざけた真似許さないからね」
専務はそう言った。
今年度中に地元に家を手配する。
それまでは麻里の家にいたらいい。
「社長すいません……」
今は飛ぶ鳥を落とす勢いで売れてるフレーズだったけど、活動再開時に売れる保証はない。
折角の時期に申し訳ないと麻里が言った。
すると専務は笑う。
「私は女性に子供を産むななんて非道な事を言うつもりは無いわよ」
今は子供の事だけを考えなさい。
今後の打ち合わせが終ると家に帰る。
麻里と2人で麻里の親に報告する。
「将門君の親にも報告してあげなさい」
そう言われて俺はすぐに親に電話する。
「育児は大変だと思うけど、将門がまずしっかりしなさい」
そう言われたと麻里に言う。
「頼りにしてますよ。旦那様」
麻里はそう言って笑っていた。
後日事務所からメディアに正式に通達を送った。
もちろん大騒動になる。
しかし地元の所在地を事務所は隠していた。
どれだけ検索しても分からないようにしておいた。
それは専務達のツテを使って行われた。
暴こうとした奴には制裁が待ってるらしい。
「で、どっちなんだ?」
「何が?」
性別だよ。
すると麻里は笑った。
「まだ3ヶ月だよ。分かるわけ無いでしょ」
そういうものなのか。
「将門はどっちがいいの?」
麻里に言われると俺は悩む。
「うーん、両方欲しいかな」
「私に双子を産めと言うの?」
「そうじゃなくてさ」
どっちでも俺の子には変わらないんだろ?
「将門の子じゃなかったら誰の子だって言うのよ!」
私はそんなに浮気性じゃない!
「し、知ってるよ」
俺の子供だからどっちでもいいから無事に生まれて来てくれることを願うよ。
「任せて」
「それと……」
「何かあるの?」
「子供だけ残して麻里がいなくなるなんて勘弁してくれよ」
「縁起でもない事言わないでよ」
そして俺達は産休前最後のアルバム「私の心の鍵」をリリースした。
(2)
「愛莉、お願いがあるんだけど」
「どうしたの冬莉?」
愛莉が食器を洗いながら私を見た。
「私にチョコレートケーキの作り方教えて欲しい」
愛莉なら何度でも作ったことあるんでしょ?
パパに何度もあげたんでしょ?
「娘からそんなお願いされたの久しぶりですね」
志希君にあげるの?
そう言って愛莉は笑っていた。
もうすぐバレンタイン。
去年志希に適当に渡した。
それでも志希は喜んでくれた。
精一杯のお返しを貰った。
今年はもっと喜んで欲しい。
瞳子と相談してたら「じゃあ、手作りのお菓子でいいんじゃない?」と言われた。
「だけど去年それで失敗したからさ」
「だからもっと心の籠った物を作ればいいじゃない」
ラッピングなんかも工夫したらいい。
志希君ならきっと伝わるよ。
しかしただのチョコじゃ申し訳ない。
そして私はろくにキッチンに立ったことが無い。
作り方をネットで調べたらいいだろうけど、ここは熟練の愛莉に聞いた方がいいだろう。
そして風呂を出ると愛莉にお願いしていた。
「バレンタインね。分かりました。材料は母さんが買っておくから」
「ありがとう」
「冬莉にとってそんなに大事な人なんだね」
リビングで私達のやり取りを聞いていたパパが言った。
「パパの分も作ろうか?」
「大丈夫、愛莉が用意してくれるから」
「娘にもらってうれしくないの?」
「嬉しいけど愛莉が一番だから」
「嬉しいけど、もっと娘を大事にしてくださいな」
愛莉はそう言って喜んでいた。
そして前日の夜早速作ることにした。
私はどうやらそれなりに料理の基本は出来てるみたいだ。
レンジを開けたらダークマターが生成されていたという事はなかった。
「冬莉、ついでに私の分も作っておいてくれない?」
茜が言う。
「茜も来なさい!壱郎君にくらい作ってあげなさい!」
「もう買って来たからいいよ」
去年志希と買いに行ったチョコレートのブランドの物を買ったらしい。
まあ、そっちの方がいい気がしてきた。
出来上がったのを切り取ってラッピングする。
味に自信があるわけじゃなかったのでパパや冬吾達に食べさせてみた。
「美味しいよ」
パパはそう言っていた。
冬吾も同じだった。
「あとはそうね……何かメッセージを添えるといいんじゃない?」
愛莉が言うのでラッピングしたケーキを冷蔵庫に入れると部屋に戻ってメッセージを考える。
相手は志希だ。
ストレートな方が伝わるだろう。
だから思ったことをそのまま書いた。
準備が終ると早めに寝た。
翌日学校に行く。
皆がチョコレートを配っている。
冬吾も瞳子から貰っていた。
誠司は相変わらずだ。
頼子も颯真に渡していた。
「あれ?冬莉は渡さないの?」
瞳子が聞いていた。
志希も私を見ている。
「今はまだ渡せないから」
少し残念そうな志希だった。
心配しなくていいんだよ。
ちゃんと作ってあるから。
事情を知ってる冬吾は何も言わなかった。
下校の時間になると皆でコンビニに行く。
泉と誠司は何か用があるらしい。
買い食いしながら家に帰る。
「じゃあ、また」
私の家の前で志希が言うと、私が志希を掴む。
「志希は今日は何の日か分かってないの?」
「知ってるよ。バレンタインだろ?」
「バレンタインに本命のチョコ欲しくないの?」
他に貰ったとか言ったら怒るよ?
「いや、今年な無いのかなってがっくりしてた」
「そんなわけ無いでしょ」
私だって中学生……思春期だ。
好きな人にしてあげられることなら何でもするよ。
「とりあえず家に上がってよ」
「分かった」
そう言って志希を家に入れた。
私の部屋は茜がいつ帰ってくるか分からない。
しかし空の部屋に入れたら志希に勘違いさせるかもしれない。
残念ながら私も今日はそこまで考えてなかった。
だからリビングに案内してた。
「あら?空の部屋じゃなくていいの?」
愛莉が言う。
「うん」
志希はそんなに年中がっついてる猿じゃないから。
志希を座らせると私は冷蔵庫からチョコレートケーキと飲み物を用意する。
それを志希に渡す。
ちゃんと箱にはメッセージカードを添えておいた。
「はい、今年は頑張りました」
ちょっと照れ臭いけど志希に渡す。
「ありがとう」
そう言って志希は受け取ると、早速メッセージカードに気づく。
「今まで素敵な思い出をありがとう。これからも末永くよろしくお願いします。……大好き」
志希は喜んでくれたみたいだ。
じっとそのメッセージカードを眺めていた。
「でも学校で渡さなかったのはなんで?」
「箱を開けたら分かるよ」
私がそう言うと志希は箱を開ける。
チョコレートケーキだ。
学校に一日置いてたら痛むかもしれない。
だから冷蔵庫にしまっておいた。
志希はそれを見て驚いていた。
「これ、冬莉が1人で作ったの?」
「そうだよ」
去年の事は反省しているんだ。
愛莉に全部任せるなんて馬鹿な真似はしない。
志希は一口食べると「美味しい」と言ってくれた。
その一言がどれだけ嬉しいのかすぐに分かった。
その一言の為にどれだけの世の中の女子が頑張るんだろう?
「ありがとう」
たった一言じゃ私の気持ち全てを伝えられないけど。
でもそれ以上何も言えなかった。
嬉しくて頭がパニック起こしてる。
「……やっぱり空の部屋使った方が良かったんじゃない?」
愛莉がそんな事を言っていた。
「それは別に今日じゃなくていいから」
「どうして?」
「私から誘わなくても志希から誘ってくれる」
きっと私の気持ちに気づいてくれるはず。
だって私の心の鍵を持っているのは志希だけなのだから。
食べ終えて少し話をしていた。
もちろんリビングで。
二人っきりになると私が自分を抑えきれそうにない。
パパが帰ってくる頃に志希は帰っていった。
「お返し奮発しないとね」
志希がそう言った。
「そうだね……とりあえず今はこれで許してあげる」
そう言って志希とキスをする。
「また一緒に選ぼう?志希とデートしたい」
「分かった」
「それじゃ」と言って志希は帰っていった。
家に戻ると「よかったね」と愛莉が笑っていた。
(3)
「ありがたいけど、今はそういう気分じゃないから」
ごめん。
そう言うと女子は泣きながら走り去っていった。
今日はこれで最後かな?
そう思って教室をでて昇降口に向かうと泉が待っていた。
「モテるのも大変ね」
「まあな」
その気持ちに応えられないからしょうがない。
中途半端に優しくするのは残酷だと父さんも言ってた。
「で、泉はなんで残ってるんだ?」
「誠司を待ってた」
え?
まさか……。
そのまさかだった。
「私も渡す相手いないからさ。取りあえず作ってみた」
特に意味が無いという。
でも……。
そんな俺を見て泉は笑みを浮かべていた。
「とりあえず開けてよ。馬鹿でも分かるようにしておいたから」
何があるんだろう。
箱からしてでかいけど何が入っているんだ。
巨大な正方形のチョコレートだった。
そしてホワイトチョコでメッセージを書いてあった。
「義理」
なるほどな。
「サンキュー」
そう言って箱を仕舞う。
「いやさ、母さんに怒られてさ……」
え?
「あなたチョコくらい配って男子に愛想いいとこ見せておきなさい!」
「面倒だからいいよ、善斗達に適当に買って来るよ」
「ダメ!いいから母さんが教えてあげるから作りなさい!」
誰でもいいとはいえ、知らない男子に渡して誤解されたくない。
とはいえ冬吾達だと彼女に申し訳ない。
それで俺だったというだけの話。
「だからお返しとか考えなくていいよ」
「わかった」
ここで俺が泉と仲良くしてると周りに誤解されて困るのは泉だ。
「じゃ、帰ろう?」
「ああ……」
そう言って靴を履き替えて学校を出る。
「しかし冬莉の変わりようを見てると私も彼氏作ろうかなと少し考えるな」
「だったら俺がいるぜ」
「その軽口直ったら考えてあげる」
途中で泉と別れて家に帰る。
家に帰ると父さんが喚いていた。
「どうしたの?」
そんな父さんを見ている母さんに聞いてみた。
母さんは俺を見てにこりと笑った。
「歩美からチョコもらえなかったから騒いでるだけだ」
って事は俺ももらえないのかな?
「誠司はどうせ沢山もらってきたんだろ?」
母さんが言うと首を振った。
「一個だけだよ」
すると父さんの動きが止まった。
「お前本命決めたのか!?」
父さんがそういうので、俺は笑いながら泉に貰ったチョコレートを見せた。
父さんは憐れむような眼で俺を見ている。
母さんは何を考えていたのか笑みを浮かべていた。
「これ誰にもらったんだ?」
「泉」
「なるほどな……」
すると母さんが俺にチョコをくれた。
「必要ないかもしれないと思ったけど、0個じゃかわいそうだと思ってな」
取りあえず作っておいたらしい。
「か、神奈。俺には!?」
「ちゃんと用意してあるよ。喜べ愛妻からのプレゼントだ」
「ありがとう、神奈!愛してる!」
「子供の前では止めろと言ってるだろこの馬鹿!」
そんな両親を羨ましそうに見ながら俺は部屋に戻った。
夕食が出来たのか母さんが部屋に来た。
「あ、今行く」
「ちょっと待て誠司」
母さんが呼び止めるので振り返った。
「誠から話は聞いていたんだけどちょっと疑っていたんだ。でも、今のお前を見て安心したよ」
心配するな。お前にも必ずいい人が現れる。
母さんはそう言って部屋を出る。
いつかきっとどこかで……。
俺の持つ鍵は誰の心の鍵なのだろう?
そんな事を考えていた。
待合室で待っていると麻里が戻って来た。
その様子からして結果が何となく分かったけど、聞いてみた。
「どうだった?」
「……喜んで欲しい」
今年俺は父親になれるらしい。
ここは病院。
騒ぐわけにはいかない。
ただ麻里の手を強く握った。
「やったな!」
「……うん」
麻里は少し恥ずかしそうだった。
家に帰る前によるところがある。
USEの本社に車で向かう。
「シートベルトとか大丈夫か?」
お腹圧迫するとまずいんじゃ……。
「私がシートベルトしなかったら将門がやばいよ」
まだそんな状態じゃないから大丈夫らしい。
USEに着くと社長たちが待っていた。
「さっきメッセージで麻里から結果は聞いたわ……おめでとう」
専務がそう言った。
これからの事について話した。
時期的には平気だろうけど暑いだろうから夏のライブツアーは白紙にする。
しばらくは出産への備えと産後の育児を2人で頑張れ。
俺の親は多分手伝ってくれるだろうけど、それに甘えてはいけない。
あくまでも俺と麻里の子。
役割は果たせ。
その間の俺の活動は、作曲活動を手伝って欲しい。
IMEには大勢のアーティストを抱えている。
その作曲・編曲を任せたい。
活動拠点は予定通り地元で構わない。
麻里だって親がそばにいた方が安心だろうから。
「出産に立ち会わないなんてふざけた真似許さないからね」
専務はそう言った。
今年度中に地元に家を手配する。
それまでは麻里の家にいたらいい。
「社長すいません……」
今は飛ぶ鳥を落とす勢いで売れてるフレーズだったけど、活動再開時に売れる保証はない。
折角の時期に申し訳ないと麻里が言った。
すると専務は笑う。
「私は女性に子供を産むななんて非道な事を言うつもりは無いわよ」
今は子供の事だけを考えなさい。
今後の打ち合わせが終ると家に帰る。
麻里と2人で麻里の親に報告する。
「将門君の親にも報告してあげなさい」
そう言われて俺はすぐに親に電話する。
「育児は大変だと思うけど、将門がまずしっかりしなさい」
そう言われたと麻里に言う。
「頼りにしてますよ。旦那様」
麻里はそう言って笑っていた。
後日事務所からメディアに正式に通達を送った。
もちろん大騒動になる。
しかし地元の所在地を事務所は隠していた。
どれだけ検索しても分からないようにしておいた。
それは専務達のツテを使って行われた。
暴こうとした奴には制裁が待ってるらしい。
「で、どっちなんだ?」
「何が?」
性別だよ。
すると麻里は笑った。
「まだ3ヶ月だよ。分かるわけ無いでしょ」
そういうものなのか。
「将門はどっちがいいの?」
麻里に言われると俺は悩む。
「うーん、両方欲しいかな」
「私に双子を産めと言うの?」
「そうじゃなくてさ」
どっちでも俺の子には変わらないんだろ?
「将門の子じゃなかったら誰の子だって言うのよ!」
私はそんなに浮気性じゃない!
「し、知ってるよ」
俺の子供だからどっちでもいいから無事に生まれて来てくれることを願うよ。
「任せて」
「それと……」
「何かあるの?」
「子供だけ残して麻里がいなくなるなんて勘弁してくれよ」
「縁起でもない事言わないでよ」
そして俺達は産休前最後のアルバム「私の心の鍵」をリリースした。
(2)
「愛莉、お願いがあるんだけど」
「どうしたの冬莉?」
愛莉が食器を洗いながら私を見た。
「私にチョコレートケーキの作り方教えて欲しい」
愛莉なら何度でも作ったことあるんでしょ?
パパに何度もあげたんでしょ?
「娘からそんなお願いされたの久しぶりですね」
志希君にあげるの?
そう言って愛莉は笑っていた。
もうすぐバレンタイン。
去年志希に適当に渡した。
それでも志希は喜んでくれた。
精一杯のお返しを貰った。
今年はもっと喜んで欲しい。
瞳子と相談してたら「じゃあ、手作りのお菓子でいいんじゃない?」と言われた。
「だけど去年それで失敗したからさ」
「だからもっと心の籠った物を作ればいいじゃない」
ラッピングなんかも工夫したらいい。
志希君ならきっと伝わるよ。
しかしただのチョコじゃ申し訳ない。
そして私はろくにキッチンに立ったことが無い。
作り方をネットで調べたらいいだろうけど、ここは熟練の愛莉に聞いた方がいいだろう。
そして風呂を出ると愛莉にお願いしていた。
「バレンタインね。分かりました。材料は母さんが買っておくから」
「ありがとう」
「冬莉にとってそんなに大事な人なんだね」
リビングで私達のやり取りを聞いていたパパが言った。
「パパの分も作ろうか?」
「大丈夫、愛莉が用意してくれるから」
「娘にもらってうれしくないの?」
「嬉しいけど愛莉が一番だから」
「嬉しいけど、もっと娘を大事にしてくださいな」
愛莉はそう言って喜んでいた。
そして前日の夜早速作ることにした。
私はどうやらそれなりに料理の基本は出来てるみたいだ。
レンジを開けたらダークマターが生成されていたという事はなかった。
「冬莉、ついでに私の分も作っておいてくれない?」
茜が言う。
「茜も来なさい!壱郎君にくらい作ってあげなさい!」
「もう買って来たからいいよ」
去年志希と買いに行ったチョコレートのブランドの物を買ったらしい。
まあ、そっちの方がいい気がしてきた。
出来上がったのを切り取ってラッピングする。
味に自信があるわけじゃなかったのでパパや冬吾達に食べさせてみた。
「美味しいよ」
パパはそう言っていた。
冬吾も同じだった。
「あとはそうね……何かメッセージを添えるといいんじゃない?」
愛莉が言うのでラッピングしたケーキを冷蔵庫に入れると部屋に戻ってメッセージを考える。
相手は志希だ。
ストレートな方が伝わるだろう。
だから思ったことをそのまま書いた。
準備が終ると早めに寝た。
翌日学校に行く。
皆がチョコレートを配っている。
冬吾も瞳子から貰っていた。
誠司は相変わらずだ。
頼子も颯真に渡していた。
「あれ?冬莉は渡さないの?」
瞳子が聞いていた。
志希も私を見ている。
「今はまだ渡せないから」
少し残念そうな志希だった。
心配しなくていいんだよ。
ちゃんと作ってあるから。
事情を知ってる冬吾は何も言わなかった。
下校の時間になると皆でコンビニに行く。
泉と誠司は何か用があるらしい。
買い食いしながら家に帰る。
「じゃあ、また」
私の家の前で志希が言うと、私が志希を掴む。
「志希は今日は何の日か分かってないの?」
「知ってるよ。バレンタインだろ?」
「バレンタインに本命のチョコ欲しくないの?」
他に貰ったとか言ったら怒るよ?
「いや、今年な無いのかなってがっくりしてた」
「そんなわけ無いでしょ」
私だって中学生……思春期だ。
好きな人にしてあげられることなら何でもするよ。
「とりあえず家に上がってよ」
「分かった」
そう言って志希を家に入れた。
私の部屋は茜がいつ帰ってくるか分からない。
しかし空の部屋に入れたら志希に勘違いさせるかもしれない。
残念ながら私も今日はそこまで考えてなかった。
だからリビングに案内してた。
「あら?空の部屋じゃなくていいの?」
愛莉が言う。
「うん」
志希はそんなに年中がっついてる猿じゃないから。
志希を座らせると私は冷蔵庫からチョコレートケーキと飲み物を用意する。
それを志希に渡す。
ちゃんと箱にはメッセージカードを添えておいた。
「はい、今年は頑張りました」
ちょっと照れ臭いけど志希に渡す。
「ありがとう」
そう言って志希は受け取ると、早速メッセージカードに気づく。
「今まで素敵な思い出をありがとう。これからも末永くよろしくお願いします。……大好き」
志希は喜んでくれたみたいだ。
じっとそのメッセージカードを眺めていた。
「でも学校で渡さなかったのはなんで?」
「箱を開けたら分かるよ」
私がそう言うと志希は箱を開ける。
チョコレートケーキだ。
学校に一日置いてたら痛むかもしれない。
だから冷蔵庫にしまっておいた。
志希はそれを見て驚いていた。
「これ、冬莉が1人で作ったの?」
「そうだよ」
去年の事は反省しているんだ。
愛莉に全部任せるなんて馬鹿な真似はしない。
志希は一口食べると「美味しい」と言ってくれた。
その一言がどれだけ嬉しいのかすぐに分かった。
その一言の為にどれだけの世の中の女子が頑張るんだろう?
「ありがとう」
たった一言じゃ私の気持ち全てを伝えられないけど。
でもそれ以上何も言えなかった。
嬉しくて頭がパニック起こしてる。
「……やっぱり空の部屋使った方が良かったんじゃない?」
愛莉がそんな事を言っていた。
「それは別に今日じゃなくていいから」
「どうして?」
「私から誘わなくても志希から誘ってくれる」
きっと私の気持ちに気づいてくれるはず。
だって私の心の鍵を持っているのは志希だけなのだから。
食べ終えて少し話をしていた。
もちろんリビングで。
二人っきりになると私が自分を抑えきれそうにない。
パパが帰ってくる頃に志希は帰っていった。
「お返し奮発しないとね」
志希がそう言った。
「そうだね……とりあえず今はこれで許してあげる」
そう言って志希とキスをする。
「また一緒に選ぼう?志希とデートしたい」
「分かった」
「それじゃ」と言って志希は帰っていった。
家に戻ると「よかったね」と愛莉が笑っていた。
(3)
「ありがたいけど、今はそういう気分じゃないから」
ごめん。
そう言うと女子は泣きながら走り去っていった。
今日はこれで最後かな?
そう思って教室をでて昇降口に向かうと泉が待っていた。
「モテるのも大変ね」
「まあな」
その気持ちに応えられないからしょうがない。
中途半端に優しくするのは残酷だと父さんも言ってた。
「で、泉はなんで残ってるんだ?」
「誠司を待ってた」
え?
まさか……。
そのまさかだった。
「私も渡す相手いないからさ。取りあえず作ってみた」
特に意味が無いという。
でも……。
そんな俺を見て泉は笑みを浮かべていた。
「とりあえず開けてよ。馬鹿でも分かるようにしておいたから」
何があるんだろう。
箱からしてでかいけど何が入っているんだ。
巨大な正方形のチョコレートだった。
そしてホワイトチョコでメッセージを書いてあった。
「義理」
なるほどな。
「サンキュー」
そう言って箱を仕舞う。
「いやさ、母さんに怒られてさ……」
え?
「あなたチョコくらい配って男子に愛想いいとこ見せておきなさい!」
「面倒だからいいよ、善斗達に適当に買って来るよ」
「ダメ!いいから母さんが教えてあげるから作りなさい!」
誰でもいいとはいえ、知らない男子に渡して誤解されたくない。
とはいえ冬吾達だと彼女に申し訳ない。
それで俺だったというだけの話。
「だからお返しとか考えなくていいよ」
「わかった」
ここで俺が泉と仲良くしてると周りに誤解されて困るのは泉だ。
「じゃ、帰ろう?」
「ああ……」
そう言って靴を履き替えて学校を出る。
「しかし冬莉の変わりようを見てると私も彼氏作ろうかなと少し考えるな」
「だったら俺がいるぜ」
「その軽口直ったら考えてあげる」
途中で泉と別れて家に帰る。
家に帰ると父さんが喚いていた。
「どうしたの?」
そんな父さんを見ている母さんに聞いてみた。
母さんは俺を見てにこりと笑った。
「歩美からチョコもらえなかったから騒いでるだけだ」
って事は俺ももらえないのかな?
「誠司はどうせ沢山もらってきたんだろ?」
母さんが言うと首を振った。
「一個だけだよ」
すると父さんの動きが止まった。
「お前本命決めたのか!?」
父さんがそういうので、俺は笑いながら泉に貰ったチョコレートを見せた。
父さんは憐れむような眼で俺を見ている。
母さんは何を考えていたのか笑みを浮かべていた。
「これ誰にもらったんだ?」
「泉」
「なるほどな……」
すると母さんが俺にチョコをくれた。
「必要ないかもしれないと思ったけど、0個じゃかわいそうだと思ってな」
取りあえず作っておいたらしい。
「か、神奈。俺には!?」
「ちゃんと用意してあるよ。喜べ愛妻からのプレゼントだ」
「ありがとう、神奈!愛してる!」
「子供の前では止めろと言ってるだろこの馬鹿!」
そんな両親を羨ましそうに見ながら俺は部屋に戻った。
夕食が出来たのか母さんが部屋に来た。
「あ、今行く」
「ちょっと待て誠司」
母さんが呼び止めるので振り返った。
「誠から話は聞いていたんだけどちょっと疑っていたんだ。でも、今のお前を見て安心したよ」
心配するな。お前にも必ずいい人が現れる。
母さんはそう言って部屋を出る。
いつかきっとどこかで……。
俺の持つ鍵は誰の心の鍵なのだろう?
そんな事を考えていた。
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