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(1)
「だ、大丈夫か?」
苦しそうななずなを見ていたらさすがに心配になる。
「ほら、腰のあたりをさすってやりな」
母さんが言うから言う通りにした。
「遊、来てたの?仕事は?」
「早退してきた」
初めての出産くらい付き添ってやれって言われたから。
今頃になって出産という事がどれだけ大変なのか思い知らされていた。
「ありがとうね」
「気にするなよ。俺に出来る事なんてそんなにないから」
「遊は育児を手伝う気がないの?」
「頑張るから……無事に産んでくれ」
俺にとって赤ちゃんもなずなも同じくらい大切な存在だから。
「そう思うんだったら。育児くらいちゃんと手伝ってやれよ」
母さんがそう言って俺の頭を小突く。
その後母さんが病室を出て2人きりになっていた。
「で、何人なんだ?」
この世界では双子や三つ子を強制的に産ませる傾向にある。
昔は六つ子なんて平気で産ませていた。
母体にどれだけ負担があるかも知らずに。
ましてやなずなは初産だ。
不安で仕方なかった。
「遊は今頃そんなこと聞くの?」
もっと前に聞いてくると思ってたけど。
「ごめん……」
「心配しないで。女の子が1人だって」
「そうなんだ……」
「妙な真似したら許さないからね」
「そんな事しねーよ。ただ先が不安でさ」
「どうして?」
「だって娘なんだろ?」
将来お嫁に行くんだよな。
「今からそんなんでどうするの?」
そう言ってなずなは笑っていた。
しばらくなずなと2人っきりで話してた。
するとなずなが突然苦しみだす。
「遊、ごめん。看護師呼んでくれないかな」
なずなが言うとナースコールを押す。
駆けつけた看護師がなずなの容態を見てすぐに分娩室に運ぶ。
「付き添どうしますか?」
看護師が聞いてきた。
どうすればいいんだろう?
「そばにいてやって。励ますだけでいいから」
それだけでなずなは安心するんだって母さんが言うので付き添った。
水奈の父さんから聞いていた。
出産するところは絶対に見るな。
「遊……手握っていいかな?」
なずながそう言うと俺はなずなの手を強く握りしめる。
こんなになずなに握力あったか?と思うくらい強く握っていた。
こんななずなをみてたら、光太みたいに呼吸法どころじゃなかった。
「頑張れ……」
他に言葉が浮かばなかった。
長丁場になった。
どれだけ時間が経ったのか分からない。
でもやがて産声が聞こえて来た。
「お疲れ様でした」
そう言って産まれてきた赤ちゃんを見せてくれた。
「どうぞ、お父さん」
そう言って俺に渡してくれた。
抱き方なんてわからない。
ちゃんと教室に通っておくんだった。
助産師に抱き方を教わる。
でも、思った。
「俺より先になずなが抱くんじゃないのか?」
「奥さんは疲れているんですよ。お父さんが抱いてあげないと」
助産師から受け取るとなずなが「赤ちゃんが見たい」と言うので見せてあげた。
「これからよろしくね」
なずなは嬉しそうだった。
病室に戻るとなずなは疲れて寝ていた。
でも2,3時間ですぐに起きなければならない。
初めての授乳。
俺は外にいた方がいいのかな?
するとなずなは言った。
「今更旦那に見られるくらいどうってことないよ」
赤ちゃんに乳をあげている姿は神々しかった。
そっか、俺もパパになったんだな。
すると外から母さん達の声が聞こえた。
「中に入って良いと伝えて」
授乳を終えて服のボタンを留めているなずなが言った。
父さんや学も一緒にいた。
「へえ、女の子か。おっぱい大きくなるといいな」
父さんがそう言うと母さんに小突かれていた。
「しょうもない事を言ってるんじゃない!」
「でも遊だってそう思うだろ?」
父さんが俺に聞いてきた。
「どっちでもいいよ。この子がちゃんと育ってくれるなら」
「お前でもそういう気持ちあったんだな」
母さんがそう言って笑っていた。
「遊。名前どうする?」
僕の希望を聞いてくれるとなずなが言う。
なずなから聞いた時から考えていた。
琴音。
それが俺の娘の名前。
「いいんじゃない?」
母さんが言う。
琴音はまだ寝ているので母さん達はまたなずなが退院したら様子見に行くと言って帰っていった。
「これから大変だね」
「わかってる……でもテレビで言ってた」
子供の為なら何だってしてやれる。それが親なんだって。
「一緒に頑張ろうね」
「ああ、頑張るよ」
俺も父親というステージに立つ時が来た。
(2)
「へえ……」
「どうしたの?」
花は快に乳をやりながらスマホを見て笑っている俺に聞いた。
「遊のところは女の子だってさ」
「そうなんだ。おめでとうって伝えてやってくれないかな」
「わかった」
花に言われた通りメッセージを送る。
みんなも祝福していた。
これからも次々と生まれてくるんだろう。
今年は妊娠の報告が続いていた。
父さんと花の両親が見舞いに来てくれた。
母さんは「まだお婆ちゃんて言われるのは嫌」と来なかった。
まだ喋れるまでには時間がかかるらしいんだけど。
父さんは不思議に思っていた。
母さんが麗華を産んだ時はそのまま家に帰ったらしい。
花ほど疲れてはいなかったそうだ。
花も明日には退院する。
「じゃ、また明日迎えに来るよ」
「うん」
そう言って家に帰ってスマホを弄っていた。
遊はあまり話題に加わってこなかった。
天音はそれでいいと思っている様だ。
生まれたての赤ちゃんがいるんだ。
少しでも出来る事があるなら遊がやってなずなを休ませてやれと言っていた。
翌日花を迎えに行った。
ベッドとかはもう準備してある。
花の荷物を持ってやる。
車にはチャイルドシートを準備しておいた。
快が初めて俺達の家にやってくる。
もっとも快は寝ていたけど。
まだ生まれてそんなに経ってない。
あまり泣く事も泣く花が逆に心配しているみたいだ。
言葉を話せない赤ちゃんは泣く事でお腹が空いたとか体の不調を訴える。
そのうち少しずつ表現方法が増えて行くそうだけど。
まだ昼夜がよく分かっていない。
快はあまり一度にたくさん飲んで貯える事ができないみたいだ。
1時間くらいで泣き出す事もある。
寝心地が悪くても泣き出す。
花が抱いてあやそうとすると俺が変わってやる。
「粋は明日から仕事じゃないの?」
「だからだよ」
俺がいる間は花に少しでも休んで欲しい。
俺が出来る事は俺がやるから。
幸い花には沢山ママ友がいる。
まさか天音が先輩になるとは思わなかったけど。
もっとも天音の子供はやっぱりとんでもない能力を持っているらしいけど。
「あまり特徴の無さそうな子でごめんね」
花が申し訳なさそうに言う。
それが普通なんだと思うけど。
「俺と花の子供には変わらないだろ」
きっと天音達と同じ事を考えている。
人生において最上の宝物。
「俺、ちゃんと父親になれるかな?」
「今やってくれてるじゃない」
「ありがとう」
その晩深夜もやっぱり泣き出す。
その都度花が世話をしていた。
「部屋分けた方がいいかな?粋の仕事に支障が出るんじゃない?」
徹夜して仕事行く奴だっているんだぜ。気にしなくていいよ。
「わかった」
数日たってなずな達も退院すると次は誰だ!?って話をしていた。
「多分私!」
山本環奈が名乗り出た。
他にも妊娠したと報告は沢山あった。
翼の子供の陽葵達を先陣に新しい世代の物語が始まる。
過酷な物語を越える事になるのだろう。
でも心配はしてない。
その為に子供達には力が与えられているのだから。
どこにゴールがあるのか分からないこの物語で、最後まで生き残る力を与えてくれるだろう。
(3)
赤ちゃんの泣き声で私が目が覚めた。
そして自分が出産中だったことを思い出した。
「水奈、目が覚めたか?」
声をかけてきた母さんにすぐに聞いた。
「赤ちゃんは!?」
「ちゃんと産まれてきたよ。ほら、双子だ」
そう言って学と母さんが抱きかかえている赤ちゃんを見る。
よかった。ちゃんと産まれて来てくれたんだ。
「泣いてる暇はないぞ。お腹が空いたみたいだから母乳を吸わせてやれ」
母さんはそう言って父さんと一緒に病室を出ようとするけど、父さんは出ようとしない。
「どうせ胸の膨らんだ水奈を見たいとか思ってるんだろうけどさっさと出ろ!」
「し、しかし学は見るんだろ?」
「学はこの子達の親だろうが馬鹿垂れ!」
「桐谷家の孫娘だから俺はいいよな!」
「瑛大も同じだ馬鹿!」
そう言って母さんと亜衣さんが二人を引きずり出すと私は準備をする。
戸惑っているのは学だけ。
「今更学に見られてもなんともねーよ」
「そ、それもそうだが……」
仕方のない旦那だな。
「この子達の名前どうする?」
私が寝てる間に考えたんじゃないのか?
「それなんだが、二人もいるんだし一人ずつ考えないか?」
「別にいいけど、学はどっちがいいんだ?」
「男の子の方を考えていたんだが」
優翔と決めたらしい。
「じゃあ、娘の方を私が考えたらいいんだな」
「ああ、どうも女の子の名前というのがぴんと来なくてな」
私は懸命に乳を吸ってる娘の顔を見て思いついた。
「茉奈ってどうかな」
「いいんじゃないか」
乳を吸い終わって二人が寝た頃また親が入って来た。
そして父さんが言う。
「娘の名前は決めておいたんだが……」
「すいません、もう茉奈って決めたので」
「へえ、いい名前じゃないか」
父さんは残念そうだが母さんはそう言ってくれた。
「じゃあ、水奈の事は悪いけど神奈に任せていいかな?」
亜衣さんは遊の子供の方が心配なのだろう。
「分かった。まあ、学が父親だから心配してないけど」
そしてしばらくして退院が決まる頃の事だった。
天音たちが様子を見に来て真っ先に驚いたのは茉奈の髪の色だった。
ピンク色のグラデーションのかかった少しくせ毛の髪。
父さん達も驚いていた。
「こりゃまた派手な子を産んだな」
天音はそう言って笑っている。
「名前はなんて言うの?」
驚いたのは天音の父さんが様子を見に来たこと。
天音も珍しがっていた。
「どうだ、かわいい孫だろう」
得意げに自慢する父さん。
「……そうだね」
なんだろう?
茉奈に何かあると思ったのだろうか?
天音の父さんは茉奈を見てにやりと笑っていた。
「一目見たかっただけだから。天音達もあまり長居したら水奈が疲れるから」
そう言って本当に一目だけ見て帰っていく天音の父さん。
「気をつけろ、パパ何か企んでる」
天音ですらそう思ったらしい。
その事を夜学に話した。
「学はどう思う?」
「どうだなぁ……」
学は少し考えてから言った。
「どんな子になろうと幸せになってくれるならそれでいいさ」
「そんなこと言って嫁にやる時に駄々をこねるなよ」
「そればっかりはなってみないと分からないな」
茉奈が幸せになってくれたらいい。
そしてそれが本当に実現するのはもう少し遠い未来の話だった。
「だ、大丈夫か?」
苦しそうななずなを見ていたらさすがに心配になる。
「ほら、腰のあたりをさすってやりな」
母さんが言うから言う通りにした。
「遊、来てたの?仕事は?」
「早退してきた」
初めての出産くらい付き添ってやれって言われたから。
今頃になって出産という事がどれだけ大変なのか思い知らされていた。
「ありがとうね」
「気にするなよ。俺に出来る事なんてそんなにないから」
「遊は育児を手伝う気がないの?」
「頑張るから……無事に産んでくれ」
俺にとって赤ちゃんもなずなも同じくらい大切な存在だから。
「そう思うんだったら。育児くらいちゃんと手伝ってやれよ」
母さんがそう言って俺の頭を小突く。
その後母さんが病室を出て2人きりになっていた。
「で、何人なんだ?」
この世界では双子や三つ子を強制的に産ませる傾向にある。
昔は六つ子なんて平気で産ませていた。
母体にどれだけ負担があるかも知らずに。
ましてやなずなは初産だ。
不安で仕方なかった。
「遊は今頃そんなこと聞くの?」
もっと前に聞いてくると思ってたけど。
「ごめん……」
「心配しないで。女の子が1人だって」
「そうなんだ……」
「妙な真似したら許さないからね」
「そんな事しねーよ。ただ先が不安でさ」
「どうして?」
「だって娘なんだろ?」
将来お嫁に行くんだよな。
「今からそんなんでどうするの?」
そう言ってなずなは笑っていた。
しばらくなずなと2人っきりで話してた。
するとなずなが突然苦しみだす。
「遊、ごめん。看護師呼んでくれないかな」
なずなが言うとナースコールを押す。
駆けつけた看護師がなずなの容態を見てすぐに分娩室に運ぶ。
「付き添どうしますか?」
看護師が聞いてきた。
どうすればいいんだろう?
「そばにいてやって。励ますだけでいいから」
それだけでなずなは安心するんだって母さんが言うので付き添った。
水奈の父さんから聞いていた。
出産するところは絶対に見るな。
「遊……手握っていいかな?」
なずながそう言うと俺はなずなの手を強く握りしめる。
こんなになずなに握力あったか?と思うくらい強く握っていた。
こんななずなをみてたら、光太みたいに呼吸法どころじゃなかった。
「頑張れ……」
他に言葉が浮かばなかった。
長丁場になった。
どれだけ時間が経ったのか分からない。
でもやがて産声が聞こえて来た。
「お疲れ様でした」
そう言って産まれてきた赤ちゃんを見せてくれた。
「どうぞ、お父さん」
そう言って俺に渡してくれた。
抱き方なんてわからない。
ちゃんと教室に通っておくんだった。
助産師に抱き方を教わる。
でも、思った。
「俺より先になずなが抱くんじゃないのか?」
「奥さんは疲れているんですよ。お父さんが抱いてあげないと」
助産師から受け取るとなずなが「赤ちゃんが見たい」と言うので見せてあげた。
「これからよろしくね」
なずなは嬉しそうだった。
病室に戻るとなずなは疲れて寝ていた。
でも2,3時間ですぐに起きなければならない。
初めての授乳。
俺は外にいた方がいいのかな?
するとなずなは言った。
「今更旦那に見られるくらいどうってことないよ」
赤ちゃんに乳をあげている姿は神々しかった。
そっか、俺もパパになったんだな。
すると外から母さん達の声が聞こえた。
「中に入って良いと伝えて」
授乳を終えて服のボタンを留めているなずなが言った。
父さんや学も一緒にいた。
「へえ、女の子か。おっぱい大きくなるといいな」
父さんがそう言うと母さんに小突かれていた。
「しょうもない事を言ってるんじゃない!」
「でも遊だってそう思うだろ?」
父さんが俺に聞いてきた。
「どっちでもいいよ。この子がちゃんと育ってくれるなら」
「お前でもそういう気持ちあったんだな」
母さんがそう言って笑っていた。
「遊。名前どうする?」
僕の希望を聞いてくれるとなずなが言う。
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それが俺の娘の名前。
「いいんじゃない?」
母さんが言う。
琴音はまだ寝ているので母さん達はまたなずなが退院したら様子見に行くと言って帰っていった。
「これから大変だね」
「わかってる……でもテレビで言ってた」
子供の為なら何だってしてやれる。それが親なんだって。
「一緒に頑張ろうね」
「ああ、頑張るよ」
俺も父親というステージに立つ時が来た。
(2)
「へえ……」
「どうしたの?」
花は快に乳をやりながらスマホを見て笑っている俺に聞いた。
「遊のところは女の子だってさ」
「そうなんだ。おめでとうって伝えてやってくれないかな」
「わかった」
花に言われた通りメッセージを送る。
みんなも祝福していた。
これからも次々と生まれてくるんだろう。
今年は妊娠の報告が続いていた。
父さんと花の両親が見舞いに来てくれた。
母さんは「まだお婆ちゃんて言われるのは嫌」と来なかった。
まだ喋れるまでには時間がかかるらしいんだけど。
父さんは不思議に思っていた。
母さんが麗華を産んだ時はそのまま家に帰ったらしい。
花ほど疲れてはいなかったそうだ。
花も明日には退院する。
「じゃ、また明日迎えに来るよ」
「うん」
そう言って家に帰ってスマホを弄っていた。
遊はあまり話題に加わってこなかった。
天音はそれでいいと思っている様だ。
生まれたての赤ちゃんがいるんだ。
少しでも出来る事があるなら遊がやってなずなを休ませてやれと言っていた。
翌日花を迎えに行った。
ベッドとかはもう準備してある。
花の荷物を持ってやる。
車にはチャイルドシートを準備しておいた。
快が初めて俺達の家にやってくる。
もっとも快は寝ていたけど。
まだ生まれてそんなに経ってない。
あまり泣く事も泣く花が逆に心配しているみたいだ。
言葉を話せない赤ちゃんは泣く事でお腹が空いたとか体の不調を訴える。
そのうち少しずつ表現方法が増えて行くそうだけど。
まだ昼夜がよく分かっていない。
快はあまり一度にたくさん飲んで貯える事ができないみたいだ。
1時間くらいで泣き出す事もある。
寝心地が悪くても泣き出す。
花が抱いてあやそうとすると俺が変わってやる。
「粋は明日から仕事じゃないの?」
「だからだよ」
俺がいる間は花に少しでも休んで欲しい。
俺が出来る事は俺がやるから。
幸い花には沢山ママ友がいる。
まさか天音が先輩になるとは思わなかったけど。
もっとも天音の子供はやっぱりとんでもない能力を持っているらしいけど。
「あまり特徴の無さそうな子でごめんね」
花が申し訳なさそうに言う。
それが普通なんだと思うけど。
「俺と花の子供には変わらないだろ」
きっと天音達と同じ事を考えている。
人生において最上の宝物。
「俺、ちゃんと父親になれるかな?」
「今やってくれてるじゃない」
「ありがとう」
その晩深夜もやっぱり泣き出す。
その都度花が世話をしていた。
「部屋分けた方がいいかな?粋の仕事に支障が出るんじゃない?」
徹夜して仕事行く奴だっているんだぜ。気にしなくていいよ。
「わかった」
数日たってなずな達も退院すると次は誰だ!?って話をしていた。
「多分私!」
山本環奈が名乗り出た。
他にも妊娠したと報告は沢山あった。
翼の子供の陽葵達を先陣に新しい世代の物語が始まる。
過酷な物語を越える事になるのだろう。
でも心配はしてない。
その為に子供達には力が与えられているのだから。
どこにゴールがあるのか分からないこの物語で、最後まで生き残る力を与えてくれるだろう。
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赤ちゃんの泣き声で私が目が覚めた。
そして自分が出産中だったことを思い出した。
「水奈、目が覚めたか?」
声をかけてきた母さんにすぐに聞いた。
「赤ちゃんは!?」
「ちゃんと産まれてきたよ。ほら、双子だ」
そう言って学と母さんが抱きかかえている赤ちゃんを見る。
よかった。ちゃんと産まれて来てくれたんだ。
「泣いてる暇はないぞ。お腹が空いたみたいだから母乳を吸わせてやれ」
母さんはそう言って父さんと一緒に病室を出ようとするけど、父さんは出ようとしない。
「どうせ胸の膨らんだ水奈を見たいとか思ってるんだろうけどさっさと出ろ!」
「し、しかし学は見るんだろ?」
「学はこの子達の親だろうが馬鹿垂れ!」
「桐谷家の孫娘だから俺はいいよな!」
「瑛大も同じだ馬鹿!」
そう言って母さんと亜衣さんが二人を引きずり出すと私は準備をする。
戸惑っているのは学だけ。
「今更学に見られてもなんともねーよ」
「そ、それもそうだが……」
仕方のない旦那だな。
「この子達の名前どうする?」
私が寝てる間に考えたんじゃないのか?
「それなんだが、二人もいるんだし一人ずつ考えないか?」
「別にいいけど、学はどっちがいいんだ?」
「男の子の方を考えていたんだが」
優翔と決めたらしい。
「じゃあ、娘の方を私が考えたらいいんだな」
「ああ、どうも女の子の名前というのがぴんと来なくてな」
私は懸命に乳を吸ってる娘の顔を見て思いついた。
「茉奈ってどうかな」
「いいんじゃないか」
乳を吸い終わって二人が寝た頃また親が入って来た。
そして父さんが言う。
「娘の名前は決めておいたんだが……」
「すいません、もう茉奈って決めたので」
「へえ、いい名前じゃないか」
父さんは残念そうだが母さんはそう言ってくれた。
「じゃあ、水奈の事は悪いけど神奈に任せていいかな?」
亜衣さんは遊の子供の方が心配なのだろう。
「分かった。まあ、学が父親だから心配してないけど」
そしてしばらくして退院が決まる頃の事だった。
天音たちが様子を見に来て真っ先に驚いたのは茉奈の髪の色だった。
ピンク色のグラデーションのかかった少しくせ毛の髪。
父さん達も驚いていた。
「こりゃまた派手な子を産んだな」
天音はそう言って笑っている。
「名前はなんて言うの?」
驚いたのは天音の父さんが様子を見に来たこと。
天音も珍しがっていた。
「どうだ、かわいい孫だろう」
得意げに自慢する父さん。
「……そうだね」
なんだろう?
茉奈に何かあると思ったのだろうか?
天音の父さんは茉奈を見てにやりと笑っていた。
「一目見たかっただけだから。天音達もあまり長居したら水奈が疲れるから」
そう言って本当に一目だけ見て帰っていく天音の父さん。
「気をつけろ、パパ何か企んでる」
天音ですらそう思ったらしい。
その事を夜学に話した。
「学はどう思う?」
「どうだなぁ……」
学は少し考えてから言った。
「どんな子になろうと幸せになってくれるならそれでいいさ」
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