姉妹チート

和希

文字の大きさ
282 / 535

THE RIPPER

しおりを挟む
(1)

「サインをお願いします」

 そう言って宅配の品を受付の子が受け取っていた。
 それが最初の違和感。
 うちに宅配?
 まだお歳暮には早いぞ?
 受付の子が伝票を見て僕の所にやってきた。

「片桐さん宛ですけど」

 僕宛て?
 心当たりはない。
 
「何でしょうか?」
 
 そう言って楠木さんが触ろうとした時だった。
 すごく嫌な予感がした。
 
「触るな!」

 突然僕が叫ぶから事務所にいた全員がこっちを見た。
 怒鳴りつけた楠木さんも驚いて泣いている。

「ど、どうしたんですか?」
「ごめん、社長を呼んできてくれない?」

 僕が言うと楠木さんが社長室に向かう。
 箱にそっと耳をあてる。
 時計の音は聞こえない。
 時限式では無いようだ。
 すると電話が鳴る。
 受付の子が取る。
 
「はい、片桐税理士事務所です……え?分かりました」

 誰からだろう?

「片桐さん、お電話です」
「誰から?」
「それが原川と名乗るだけで……」
「いいよ、1番で受け取る」
「はい」

 僕が電話に出ると聞いた事のない、冷たい男の声が聞こえた。

「はじめまして。片桐空君」
「お前が原川郁夫か」

 ちらっと横を見ると社長が箱を調べていた。
 不安そうに箱を見ている楠木さん。

「で、今頃何の用?」
「君達の活躍はすごいね。どうしても俺に会いたいらしいからとりあえずはお近づきのしるしにプレゼントを贈りたくてね」
「この箱はお前の仕業か?」

 僕は社長に聞こえるように言った。
 社長は皆に箱から離れるように指示する。
 案の定だった。
 リモート式だったらしい。
 突然「ボン」と音を立てて箱が爆発する。
 中からは花びら舞い散った。

「こんな事をしてただで済むと思うなよ」
「君こそあまり大人を舐めない方がいいぞ?」
「何?」

 すると社長がすぐに指示を出す。

「窓から離れなさい」

 すぐに伏せるか離れろと指示を出すと皆がかがみこむ。
 突然窓ガラスが割れた。

「プレゼント受け取ってくれたかな」

 ふざけた真似をしやがって。

「あまり僕達をなめるなよ」
「それは俺のセリフだ。ガキの集団が大人に逆らったらどうなるかこれからじっくり教えてやる」
「空、電話替わってくれないか?」

 社長が電話を貸してくれと言う。
 素直に社長に電話を渡す。

「どうも始めまして。回りくどい話は無しにしよう。お前、覚悟出来てるんだろうな?」
「誰だお前?」
「片桐税理士事務所の社長だよ。後は言わなくても理解してるよね」

 お前はガキの悪戯と言ったけど、ガキの悪戯で済ませていたのを大人を巻き込んだ。
 お前は僕達にも喧嘩を売ったんだ。
 そんなに長生きできないぞ。
 社長はそう言った。

「ど素人に何が出来る?」
「やっぱり僕達を理解して無いようだね。あまり舐めるなよ」
「そんな事より子供の悪戯を止めるべきじゃないのか?」

 社員の無事も保証しないぞと脅かす。
 だけど社長は全く動じない。

「お前が社員に手を出すような馬鹿なら僕達も相応の対応をする。楽しみにしておけ」

 社長がそう言うと電話は切れた。
 社長はスマホで連絡しながら指示を出す。

「警察には電話しないで」
「ですがこれって……」
「分かってる。僕を狙った犯行だよ」
「私達大丈夫なんでしょうか?」

 女性社員は特に怯えている。

「君達の無事は約束するよ。社員を人質に取るような真似をするなら容赦しない」

 というか、もう遠慮する必要ないと思うけどと社長は笑う。

「あ、酒井君。今ちょっと空いてないかな?うん、事務所に来て欲しい」

 善明の父親に電話すると次は水奈の父さんに電話する。

「あ、誠。今練習中か?……ちょっと面倒な事になった。手を貸して欲しいんだけど。ああ、ごめんね」

 そんなやりとりを見ていると楠木さんが震えて泣いていた。
 そんな楠木さんの肩に手を乗せる。

「心配いらないから」
「……片桐先輩は大丈夫なんですか?」
「こういう馬鹿な真似をしたやつに遠慮はいらないからね」

 馬鹿は死なないと直らないとって本当なんだね。 
 そう言って笑って見せる。 
 やっと原川が出て来た。
 だけどまだ物足りない。
 父さんとそんな話をしていた。

(2)

 会議中だった。
 スマホが鳴る。
 渡辺班からの電話は出ないと晶ちゃんに怒られる。
 会議室から出てスマホを見る。
 片桐君からだ。
 どうしたんだろう?

「ちょっと頼みたい事があるんだけど」

 世の中どうしようもない馬鹿がいるみたいだ。
 被害はなかったけど、片桐税理士事務所に爆弾を送った無謀な輩がいるようだ。
 電話で報せて来たのは多分晶ちゃんや恵美さんが知ったら地元を空襲くらいやりかねないから。
 その爆弾の事を調べて欲しいらしい。
 忙しいから無理なんて絶対言わない。
 そんな事をしたらまた失業者が増える。 

「でも、特定は無理だよ」

 当たり前だけど指紋鑑定なんてできない。

「それは誠に頼んだ」
 
 事務所にはカメラがある。
 それがあれば割り出すくらい多田君ならやるだろうね。

「分かったすぐに行くよ」

 電話を切ると僕は秘書に急用が出来たと伝えて会社を出る。
 僕の急用は本当に急用なんだ。
 ホームレスを増やす羽目になるからね。
 片桐税理士事務所に着くとさっそく爆発した爆発物を見る。
 
「片桐君の想像通りみたいだね」

 ただの脅しの爆弾だ。
 リモートコントロール式の爆弾。
 その仕掛けも調べたけどそんなに大した距離からは使えない。
 多分この辺にいて電話で指示を受けて操作したんだろう。
 相手は警告のつもりでやったんだろうけど、相手が悪い。
 こんな挑発に簡単に乗るよ。
 遊んで欲しいなら徹底的に遊んでやる。
 そんな話をしていたら、多田君もやって来た。

「冬夜の言う通りに発信先を特定した」

 それは原川金融の番号ではなかった。
 プリベイト携帯の番号だった。
 当然偽名。
 多田君の力ではそこまでが限界。
 しかし渡辺班の力を侮っている。
 プリべだろうがなんだろうが無理矢理情報を引き出すのが江口家。
 そして恵美さんに頼むという事は晶ちゃん達が動き出すことになる。

「舐めた真似してくれるわね。そんなに死にたいならじっくりいたぶって殺してやる」

 予想通りになったよ。
 SHもそうだけど、渡辺班はもっと質が悪い。
 暴力団程度で怯むと思っているのが大きい間違いだ。

「で、冬夜どうする?」
「それはちょっとこっちに来てくれないかな」

 片桐君はそう言って僕達を社長室に案内する。
 事務の人がお茶を出して退室すると片桐君が話を始める。

「まず、原川組の方は空に任せよう」
「俺達は何もしないのか?」

 多田君が言う。
 そんなわけがなかった。
 片桐君がしないと言っても暴力団を壊滅させるくらいの事は晶ちゃんならやりかねない。

「原川組の事務所は空達が警告を出した。その結果原川組の事務所には原川がいないことは分かってる」

 もっともあの状態で事務所として機能しているかどうか疑問だけどね。
 思いっきり穴を開けたらしい。

「だから、原川を無理矢理あぶりだしてやろうと思ってね」

 片桐君の話を聞いていた。
 恵美さんの話だと1週間もあれば原川の自宅を洗い出すらしい。

「つまり自宅を潰してやるって事かい?」
「僕達に喧嘩をふっかけて来たんだ。全力で潰してやらないと気が済まない人もいるだろ?」

 晶ちゃんは原川を潰したくらいで気が済むはずがない気がするけど。

「で、どういう策を考えているんだ?」

 多田君が聞いていた。
 片桐君の中では策は出来てるみたいだ。

「プレゼントをお返ししようかなと思ってね」

 そう言って片桐君はにこりと笑った。
 やばい……。
 多分花びらが舞い散るくらいじゃ済まないだろう。
 肉片が飛び散るくらいの事はやりそうだ。
 話が済むと時間は定時を過ぎていたのでこのまま帰宅するよと秘書に電話する。

「話は聞いたわ」

 やっぱり晶ちゃんの耳に届いていた。

「子供達はどうするつもりなの?」
「やられたらやり返すつもり見たい」

 遠慮する必要は無い。
 雑居ビルだけどどうせ中にいるのは原川組の系列の企業や、原川組の事務所とかそんな物ばかりらしい。
 まあ、そんな物騒な団体がいるビルに入りたがる人もいないだろうね。
 徹底的に相手してやるつもりらしい。
 誰かが言っていた。
 俺達に手出ししたら割に合わないくらいには最低思い知らせなきゃいけない。
 そんな生ぬるい物じゃない。
 後悔する時間すら与えない。
 それは晶ちゃん達も一緒だろう。
 絶対にやってはいけないことをやったのだから仕方ないだろう。
 馬鹿は死なないと直らないと空が言っていたらしい。
 それは間違っている。
 馬鹿は死ぬしかない。
 もう僕や石原君の力じゃ止められないね。
 下手すれば自分の命が危うい状況になる。 
 原川と言う男の冥福を祈るよ。
 しかし原川と言う男は想像を絶する命知らずだったようだ。
 さらに渡辺班を刺激することになる。

(3)

「どう?天音」
「ああ、ゲームみたいだ。緑のサインが出た」

 天音はRPGを持って膝を曲げて構えている。
 反動が凄いので僕が後ろで支えてやる。
 しりもち付いただけで流産する事もあるらしいから。
 そんな事になったら僕は絶対無事で済まない。
 天音には防音の装備もつけてある。

「本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。一度やってみたかったんだよな!」

 天音は嬉しそうにしている。

「妊婦はストレスが溜まる一方なの。少しはストレス解消に付き合ってあげなさい」

 母さんと姉さんに言われた。
 解消の仕方が絶対間違っていると思うけど。

「あんまり無理しないでね……天音一人の命じゃないんだ」
「そんな簡単に流産なんてしねーよ」

 ならいいんだけど。

「大地も心配症だな。まあ、優しいんだろうけど」

 自分の嫁がこんなもの撃とうとしてたら誰でも心配するよ。
 反動でブレたら大変だから天音の手に自分の手を添えてやる、

「こんなところでそんな気分になられても私はいやだぞ?」

 それに今の天音では僕の相手なんてできないと寂しそうに言う。

「男の子なんだろ?楽しみにしてるよ」
「そっか。じゃあ、さっさと片付けようぜ」

 天音がそう言うとしっかり握る。
 
「いいよ」
 
 僕が言うと天音が引き金を引く。
 凄い音がした。
 そして予想通り天音の体では反動に耐えられなかったのでしっかりと支えてやる。
 その直後は爆発音がした。
 肉眼で確認する。
 しっかり原川金融の事務所に当たったらしい。
 元々穴が空いてあったけどそこから事務所内に入って爆発する
 雑居ビルにいる他の企業も大体が原川組関連みたいなので遠慮はいらないと母さんから聞いていた。
 母さん達は違う作戦があるみたいでそっちに忙しいらしい。
 RPGを撃った天音は嬉しそうに翼達に自慢している。
 さすがに2歳ちょっとの結莉と茉莉を家に残すわけにはいかなかったので連れて来ていた。
 2人にもちゃんと防音の対策はしてあった。 

「危ないからちょっと離れててね」

 そう言ってドアの側に残していた2人は嬉しそうにしている。
 自分の娘の将来が不安で仕方ない。

「じゃ、後は我々で片づけておきますので」

 石原家の私兵が来ると天音はその場にRPGを置いて結莉と茉莉を連れて家に帰る。
 その日のニュースはそれだけかと思ったら違っていた。
 
 二ヶ所同時爆破テロ。

 母さん達もやったらしい。
 原川と言う男は余程の自信家なのか馬鹿なのか分からない。
 母さん達が用意した大量の爆薬が入ったプレゼントを受け取って家の中で開けたらしい。
 時限式とかリモートコントロールとかじゃない。
 箱を開けた瞬間爆発する。
 幸か不幸か原川郁夫が家に不在の時間だったらしい。
 この場で肉片になった方がよかったろうに。
 しかしこの自信過剰な男は僕達にさらに燃料を投下する。

(4)

「あの……酒井さん」
「泉で良いって言ったよ」
「ごめん、慣れてなくて」

 そんな情けない言い訳は聞きたくない。

「今は2人だけだから少しずつでもいいから慣れてよ」

 呼び方なんてどうでもいいけど、それでも少しはそういう願望が芽生えていた。
 今は2人と言うのは教室の中。
 2人で話しがしたいというから放課後まで待っていた。
 
「別れ話とかそういうのじゃないみたい」

 冬莉が言ってたから多分それはないだろう。

「で、どうしたの?」

 2人で話なら電話でもよかったんじゃないの?

「直接お願いしないとさすがにまずいだろうなと思って」
「お願い?」

 キスしたいとかそんなのかな?
 冬莉が「いつでも大丈夫なように準備だけはしといた方がいいよ」っていうからそれなりの下着だけど。
 だけど初めてが学校の教室なんてエロ動画見たいなシチュエーションはいやだよ?
 半分辺りで半分外れだった。

「あのさ。い、泉が林田さんにお願いしてくれたでしょ?」
「その件の話?」
「うん。一つ条件を出されたんだ」

 それは自分の作品を一着でもいいから準備しなさいという事。

「テストがあるってわけね?」

 私がそう言うといっくんは頷いた。

「それと私とどう関係があるの?」
「モデルと泉にやってほしくて」

 へ?

「そう言う話だったら冬莉とかの方がいいんじゃない?」

 私の容姿はそこまでよくないよ?

「そんな事ないよ。泉だって十分綺麗だ。それに……」

 そこからがいっくんの最大の悩みだった。
 服を作るからにはサイズが分からないと話にならない。
 さすがに女子に「3サイズ教えて」なんていう馬鹿な彼氏は嫌だ。

「つまり私のサイズをいっくんに教えたらいいの?」
「それでもいいかと思ったけど……」

 何をそんなに恥ずかしがってるんだろう?
 彼に3サイズ教えるくらい別に抵抗ないよ?
 だけどいっくんの要望はそんなものじゃなかった。

「初めて好きな女性の為に服を作るんだ。しっかり正確にサイズを把握して作りたい」

 自分で私のサイズを測りたい。
 ぶっちゃけると裸の私を見たい。
 それが躊躇っていた理由か。
 しかしそれを教室でするの?

「あのさ、それ教室じゃないとダメ?」
「い、いや。場所はどこにしようかまだ考えてなくて。ただ泉の許可が欲しくて」
「断る理由を探す方が面倒なんだけど」
「ありがとう……後は場所だよね」

 中学生がつかえる個室なんてカラオケかネカフェ。
 もちろんそんなところで脱ぐような露出狂な願望はない。

「良い場所ある。私の家なら問題ない。ただし一つだけ条件がある」
「条件?」

 いっくんが聞いてきた。

「今日泊まっていきなよ」
「え?」

 最後まで言ってくれないとわからないのかな?

「私だけ裸みせていっくんは見せてくれないの?」
「でもそうなると……」
「その先は言わなくても分かってる。だから家に誘った」
「わかった」
「じゃ、早く帰ろう?」

 そして先にいっくんの家に行く。
 いっくんは弟たちの為に夕飯を準備しておく。
 夜は母親が帰ってくるから問題ないらしい。
 私の家に着くとまず母さんに会わせる。
 母さんはいっくんをじっと見る。

「少し教育が必要かもしれないけど。まあ、いいんじゃない」

 夕食まで部屋でゆっくりしてなさい。
 そう言うと私の部屋に行く。
 女子の部屋に入ったのは初めてらしい。
 妹がいるのに妙な話だな。
 兄妹と彼女じゃ違うのかな?
 いきなりベッドに押し倒すような獰猛な性格ではない。
 適当に話をしながら夕食の時間まで待っていた。
 スマホで母さんから呼び出しを受けるとダイニングに行く。
 父さんも呼び出しを受けたらしくて慌てて帰ってきたらしい。

「へえ、大人しそうでいい彼氏さんじゃないか」
「それが問題なのよ。善君」
「どうしてだい?」

 父さんが母さんに聞いていた。
 
「この性格だと泉が誘わないと絶対最後までいかないわよ」

 それって男としてどうなの?
 父さんは苦笑いしていた。
 娘が彼氏を一夜を過ごす。
 それは父親にとってつらいらしい。
 父さんは母さんと約束をしていた。

「片桐君達と飲むなら嫁くらい誘いなさい」

 そしてその日父さんは片桐さんと飲みに行った。
 色々考えなくても私といっくんを邪魔する者はいない。
 風呂に入ると部屋に戻る。

「じゃ、早速始めようよ」

 そう言って服を脱ぎだす。

「ちょ、ちょっとまって。まだ心の準備が」
「サイズを測るだけなんでしょ?」

 いっくんがデザイナーになったら沢山の人を採寸する事になる。
 心配しないで、その度にヤキモチを焼くような度量の狭い女じゃない。
 いっくんだってそんな目で見るわけじゃないんでしょ?
 仕事は仕事って割り切れる人だって分かってる。
 そう言うといっくんはメジャー等を取り出して採寸してノートにメモを取る。
 1時間ほどで済んだ。

「ありがとう、助かったよ」
「服、出来たら私が着るんだよね?」
「うん」
「楽しみにしてるね」
「任せて」

 その後の言葉が続かなかった。
 約束でしょ?

「私だけ裸なんてずるくない?」

 私がそう言うとようやく脱ぎ始めた。
 へえ、こんなもんなんだ。
 私は何も言わずにいっくんに抱きつく。
 いっくんはどうしたらいいか分からないらしい。

「とりあえずベッドに行こうか?」

 私が言うといっくんとベッドに入る。

「ど、どうすればいいのかな?」

 それを彼女に聞くのか?

「ぼ、僕初めてで……」
「あのさ、そのセリフってどうなの?」
「え?」
「私が手慣れてるみたいじゃない」

 私だって初めてだよ?

「あ、ごめん」
「ねえ、今夜だけじゃなくて夜を過ごすときに約束をして欲しい」
「約束?」

 そう、約束。
「ごめん」とか「大丈夫?」とか「どう?」とか一々聞いてこないで。
 聞かれる方が恥ずかしい。
 私にとって初めてがいっくんなんだし、いっくん以外の人を知るつもりなんてない。

「だからいっくんの望み通りにやってみてよ」

 それで不満があったら私が要求を伝えるから。
 するといっくんは私に恐る恐る触って来た。
 それは段々エスカレートしていく。
 油断してた。
 こんなに感じる物だったのか?
 声が出るのは演技だと聞いたけど、それは嘘なんじゃないかというくらい声が出そうになるのを押し殺していた。
 そしてお約束の事を彼は言う。

「ごめん、持ってきてなくて……」
「知ってる」

 そんなものを常備してるような男じゃない事くらいは私でも知ってるよ。
 だから準備しておいた。

「つけ方分かる?」
「それは大丈夫」

 そして終ると私は知らないうちにいっくんに抱きついていた。

「どうしたの?」

 何ていえばいいんだろう?
 一回だけじゃ物足りない。 
 もっと私を抱いて欲しい。
 そう言えば良いのだろうか。
 いう必要は無かった。
 一君は私を抱きしめてキスしてくれる。

「大好きだよ」
「当たり前でしょ」

 そうでない人に私が体を許すと思った?
 そうして夜遅くまで没頭していた。
 朝になって目が覚めると朝食の時間だ。
 いっくんを起こして服を着るとダイニングに向かう。

「育人君だったっけ?泉はどうだった?」

 母さんが言うと父さんはコーヒーを拭きこぼしていた。
 いっくんも動揺している。
 隠し事下手なんだね。

「良い思い出になりました」

 私がそう伝えると「それはよかったわね」と笑っていた。
 父さん達は今夜もいないんだろうな。
 朝食が済むと部屋に戻る。
 いっくんは悩んでいた。
 大体察したので私がいっくんに言った。

「早速デザインしたいんでしょ?私は平気だから」
「でもそれじゃ、ただ泉と寝るのが目的だったみたいじゃないか?」

 親だっていい気分しないんじゃないか?

「あのさ、恋人が一緒に寝るのっていけない事なの?」
「ま、まあそう言われると……」
「母さんには説明しておくから、将来がかかってるんだよ。頑張って」
「ごめん」
「いいよ、ただし一つ私からもお願いしていいかな?」
「何?」

 せめて月に1度は夜を一緒に過ごしたい。

 そのくらいならいっくんの邪魔にはならないでしょ?

「うん、今度は僕の家に来ない?」
「どうして?」
「僕も両親に泉を紹介したいから」
「わかった」

 そう言っていっくんは帰っていた。
 母さんに理由を話す。

「どんな服か楽しみね」

 母さんはそう言っていた。
 当たり前のように過ぎていた日々がいつか違う日々に変わるんだろうな。
 今はいっくんの向かう未来を祈っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

処理中です...