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I believe
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(1)
「瞳子、表情が固いよ」
母さんがスマホで写真を撮ってくれた。
今日は僕達の卒業式。
小学校の時より泣いてる女の子が多かった。
小学校の時と違ってこの先は皆別々の進路を選ぶ。
本当に分かれてしまうから当然だろう。
誠司は相変わらずだった。
様々な女子から告白を受けていた。
だけど小学校の時とは違っていた。
「ごめん、俺今サッカーの事で頭が一杯だから」
そう言って断っていた。
「誠司の邪魔になるような事はしないから!」
そう言ってねばる女子もいたそうだ。
でも誠司は自分の意思を曲げなかった。
「本当にそう思うか?だとしたらその程度の気持ちなんだ。他を探した方がいい」
本当にそうなら誠司に全力で尽くすはずだ。
だけど誠司は全部に応える事は出来ない。
そんな事が続けばきっと彼女がいつか心が折れる。
そんなのを分かっていて気安く恋人なんて作ることは不可能だ。
本気で好きなら傷つくのは彼女だ。
全力で自分の事を見て欲しいと願うはずだ。
それに応える事は出来ないから付き合う事は出来ない。
「じゃ、サッカーが終るまで待つよ」
「そんなの無理だよ」
W杯に五輪。
その頂点に立ちたい。
冬吾がいたら絶対それが出来るはず。
その時に冬吾の足を引っ張ることは許されない。
俺は冬吾を活かすプレイをしなければならないのだから。
そんなに先まで気持ちが変わらないと本当に誓えるか?
そんな覚悟を俺に持つよりもっと彼女を大切にしてくれる人を探した方が建設的だ。
悪いけど今の俺に彼女を作る余裕なんてない。
その相手は泣いていた。
それでも誠司は振り向かなかった。
中途半端な優しさは残酷なものだから。
そんな話を誠司としていた。
「誠司も成長したんだね」
そう言ったのは誠司の元カノの冴だった。
「そんな風に変われるなら私も我慢すればよかったかな?」
「そう思うなら今からでも遅くないぜ」
「遅すぎたのは誠司だ。ばーか」
そう言って冴は笑っていた。
卒業式が終ると家に帰る前に恒例の行事がある。
回転寿司屋でお祝いだ。
僕は味覚音痴ではないけど精々魚の種類が分かるくらいだ。
「この魚は鮮度がない」
そんな訳の分からない屁理屈をこねるつもりはない。
食べられるのなら何でも食べる。
それが片桐家の鉄則。
100円の寿司だろうが10000円の寿司だろうが食い物であり料理だ。
作った人に敬意を払わないといけない。
片桐家ではそう教え込まれる。
「でも誠司も防府でよかったの?」
城科とか選ぶと思ったけど。
理由は女子の制服が可愛いから。
「んなもん買って来て彼女に着せるだけで済む問題じゃないか」
相変わらずの様だ。
誠司の母親に叱られている。
「冬吾と一緒にいられるのはあと3年だ。だったら一緒に楽しんだ方がいいだろ?」
僕達は高校を卒業したら。18歳を越えたら海外に挑戦するつもりでいた。
だから離れてしまう。
それなら一緒に高校生活を楽しもうぜ。と誠司は笑っていた。
もちろん高校を出たらサヨナラじゃない。
誠司と約束をしていた。
「どんな約束なの?」
冬莉が聞いた。
母さん達も気になるらしい。
誠司と相談した。
別に隠す事じゃないだろう。
「海外に行くのは4年間だけ。その後は日本に戻ってくる」
その時にお互いレベルアップしていることを誓った。
「どうしてそんなことするの?」
冬莉が不思議そうに言った。
海外のクラブの方が年棒は高い。
だけど僕達の夢の終点はその先にあった。
「2人で地元クラブに入ってクラブワールドカップを制覇すること」
今まで国内のサッカーチームで成し遂げたのは誠司の父さんがいたころの地元クラブだけ。
だからもう一度頂点に立つ。
誠司や隼人と約束した。
「お前……そんな事母さん聞いてないぞ」
誠司もまだ親には話してなかったらしい。
「まだ先の話だから。まずはU-18で結果出さないと話にならないし」
誠司が答えた。
「瞳子、大変だよ」
「私は聞いてたんだ……」
瞳子が答えると皆驚いていた。
だって4年と言う数字にこだわったのはもう一つ約束していたから。
「僕に4年間だけ時間を下さい。瞳子が大学卒業したら必ず迎えに行くから」
「冬吾はもうプロポーズみたいなこと言ったの!?」
母さんが驚いていた。
僕だって馬鹿じゃない。
それなりに考える。
海外は僕の夢、だけどその夢の時間の間瞳子は一人で耐えなければならない。
瞳子なら大丈夫だと信じている。
だけど瞳子が心が折れるかもしれない。
何か形で示してやりたい。
その結果が今の約束。
「そういう事なら母さんも応援してるから」
「大丈夫。その時の冬吾達の席は私が力づくで空けておくから」
恵美さんが言う。
地元サッカークラブのメインスポンサーは江口グループ。
そのくらい造作でもないだろう。
寿司を食べ終わるとデザートを食べる。
そして家に帰って着替えて制服をクローゼットにしまっておく。
「思い出に取っておくといいよ」
父さんがそう言っていたから。
もっとも冬莉は茜から「洗うのは止めた方がいい。その方が価値があがるから」と言われてそのままにしていたら、母さんにバレて、理由を聞かれて2人で怒られたらしい。
そんな話を瞳子としていた。
「冬吾君は私の制服欲しい?」
たまにこういう意地悪をするのが瞳子だ。
「それって答える必要あるの?」
「どうして?」
「だって瞳子僕と一緒の高校だろ?」
また制服姿の瞳子と会う事になる。
瞳子と夜を過ごすときに制服着たままでなんて間抜けなお願いはしたことがない。
誠司はやらかしたらしいけど。
「私愛莉さんに頼まれてる事があるんだ」
「母さんに?」
「うん」
なんだろう。
「あの高校は帰りに食べ物屋さんが沢山あるから冬吾君を抑えてって」
なるほどね。
「瞳子はラーメンとかだめだろ?」
「さすがに学校帰りのおやつじゃないでしょ」
瞳子だって体型を崩さないように気を配っているらしい。
「だったら一緒にファストフード店で十分だけど……」
「けど?」
「茜が言ってたんだ」
女子高生の中でブームはうどんだと。
「しょうがない彼氏だね~」
瞳子はそう言って笑っていた。
電話をしていると夕食の時間になる。
「あの高校の焼きそばパンだけは押さえておきなさい」
「どうして?」
昼食は瞳子が弁当作ってくれるって言ってたけど?
「凄く美味しいんだ。一度でも食べる価値はあるよ」
ぽかっ
「冬夜さんの頭の中は食べ物しかないんですか!?」
「……愛莉の事もあるよ」
「……えへへ~」
「冬吾もだけど冬眞も酷いんだよ!」
莉子が言い出した。
「あ、あれくらいいだろ!?」
冬眞が慌ててる。
おにぎりでも食べたのだろうか?
コンビニの奥に本棚がある。
そこに18禁の雑誌がある。
当然立ち読みされないように封がされてある。
その表紙に見とれていたらしい。
「冬眞!あなた彼女の前でなにやってるの!?」
「冬眞も男だね~。莉子も相手してやりなよ」
「それがさ、茜。私にはあまり興味がないみたいなの」
求めたらしてくれるけど。
母さんの説教が長引いた。
父さんはただ笑っていた。
夕食が済むと風呂に入る。
その後に冬莉が入るんだけどその後が問題が。
「茜はいい加減に素直にお風呂に入りなさい!」
「明日から休みなんだからいいじゃん!」
「そんな事言ってると知りませんよ!」
壱郎も就職する。
いつプロポーズされても知りませんよ。
「プロポーズされたらすぐ一緒に暮らすなんてことないから大丈夫だって!」
「茜が実家で暮らすといっても母さんは知りませんよ!」
「愛莉。そういうのは父親としては実家にいてくれた方が嬉しいんだけど」
「冬夜さんは娘離れに慣れて下さい!」
「あ、そうだ冬吾。ちょっと話がある」
父さんが言った。
何だろう?
リビングのソファに座る。
「誠司との約束は愛莉から聞いた」
「うん、だめだったかな?」
「多分U-18以降は激しいポジション争いになると思う」
自分がいつでもフィールドに立てると思い上がるな。
そして絶対に手を抜いてはいけない。
それは相手を侮辱してるのも同じだ。
どんな相手でも全力を尽くしなさい。
父さんがバスケやっていた時の教訓らしい。
練習はチームメイトと争うけど試合はチームメイトと協力する。
協力するというのは相手にあわせて手を抜く事じゃない。
みんなが全力でプレイして役割を果たして成り立つチームが一番強いんだ。
「とりあえずは目の前の目的に必死に取り組みなさい」
慌てる事はないから。
「分かった」
そう言って部屋に戻る。
高校生活までの休日は新しい生活への準備期間。
その時が来るのを楽しみにしていた。
(2)
「じゃ、かんぱーい!」
私達大学卒業組は盛り上がっていた。
瑞穂と恋も戻ってきていた。
偶に帰ってきては彼氏の奏と会っていたそうだけど。
居酒屋で食べまくってカラオケで馬鹿な歌を歌う天。
無駄だとは思っていても天を叱る。
「そんな歌を聞かされる彼女の気持ちを考えて」
「俺は繭のおっぱい好きだぞ」
「天は私のそれしか見てないのですか!?」
口うるさく言うのは理由がある。
それはこんな天も来月には社会人だ。
社会人でもこんな馬鹿な歌うのは光太達が実証している。
だけど天は社会人でも特殊な部類だ。
如月リゾートの会長。
新卒で就く職業じゃないと思うんだけど兄の善明や大地が前例を作っているから問題ないのだろう。
普通はあり得ないと思った事を平気でするのが天だ。
新入社員歓迎会などの席で会長がこんな歌を歌いだしたら大事だ。
母親の如月伊織さんも心配で仕方ないらしい。
なぜなら父親の如月翔太が似たような事をやらかしらしい。
大学の合宿で最低限のマナーを身につけるだろうと思ったらSHは嫁が次々と懐妊してそれどころじゃなくなっていた。
「あ、思い出した」
天が何か思い立ったらしい。
歌おうとしている瑞穂からマイクを借りて話をした。
「今さらだと思うけど一応報告しとく」
ああ、その事か。
今さらだと言ったのはSHの人間にはもう招待状が届いているはずだから。
「来月恋と要が結婚式を挙げる。ちょっと早いけどおめでとう」
天がそういうと恋と要が照れていた。
地元を離れて2人で暮らして大丈夫だとお互いの事を信じられたのだろう。
「地元に戻ったら結婚しよう」
クリスマスイブの日に要からそう言われたらしい。
2人で宝石屋さんを巡って指輪を選んだそうだ。
瑞穂も地元に帰ってくると実家に帰らずに奏と同棲することを選んだ。
そんな朗報が舞い込んで来たら否応でも皆盛り上がる。
朝まで騒いで、そしてタクシーで帰る。
「ところで、天」
「どうした?」
私は天の顔を見て言った。
「あなたはいつ私に求婚してくれるのですか?」
天は驚くかと思ったけど案外落ち着いていた。
「それは考えていたんだ」
「え?」
だけどいくら如月グループの御曹司とはいえ、その力でプロポーズしていいか迷ったらしい。
婚約指輪くらい自分で働いてプレゼントしたいと思ったそうだ。
「だからクリスマスまで待ってくれないか?」
「……口うるさい私を選んで後悔しない?」
「俺が今までやってこれたのは繭のお陰だよ」
自分は頭が悪いけど、そのくらい気づく。
「そんなに謙遜しなくてもいいのに」
「言っとくけど酒の勢いでとかじゃないからな!」
そんなの天の顔を見ていたら分かるよ。
不器用だけど嘘を吐くのが下手な人。
いい年して子供の用に喜んではしゃぐあなたが好きなの。
「楽しみにしてますね」
「任せとけ!」
いよいよ私も妻になるのか。
母様達にはまだ内緒にしておいた。
どんなセリフで私を喜ばせてくれるのだろう?
どんな言葉で天に伝えたらいいだろう?
考える時間は十分ある。
その時までじっくり考えようと思った。
(3)
「七海、おめでとう」
「明日奈ありがとう」
今日は私と夏弥の結婚式。
「綺麗だね」
母さんが私の花嫁姿を見てそう言ってくれた。
「これで俺も老後の生活を考えるだけだな」
父さんがそう言って笑っていた。
父さんはもう覚悟を決めていたのか、他の友達から聞いたような泣くという事は一切なかった。
そして披露宴を終えて2次会で挨拶を受けていた。
「次は明日奈の番だね」
「だといいんだけどね~」
そう言って明日奈は彼氏の梅本優斗を見ている。
「ちょっと待ってくれ。俺だって来月から働くんだ。少しくらい猶予をくれよ」
「猶予をあげたらプロポーズしてくれるの?」
「……いつかするから」
「分かった」
明日奈はそれで満足したみたいだ。
楽しみにしておくといいよ。
面白い物が見れるから。
普段馬鹿な事ばっかり言ってる彼が急に真顔になって凄く悩んで一言言う。
そして彼女の反応を見て普段見た事無いような喜びを表現する。
そして父親に挨拶する時にまた過剰なまでに緊張している。
男って大変なんだなって思えるから。
でも女性だってその一言をどれだけ待てばいいのか不安になるんだよ。
自分にその一言を告げてくれるのか不安になるんだよ。
だからお互い様。
もっと相手を信じて。
ずっと見て来て相手だからこそ信じてる。
恋の始まりはもう遠く昔のこと。
あなたの笑顔を探してる。
始まった時からずっとあなたを見ていた。
追いかけていたあなたをきっと見ている。
一人で部屋の鍵を開ける瞬間は寂しい。
愛を貫いて苦しむよりほんの少し甘えたい時もある。
「お疲れっす」
「あざっす」
2次会を終えた私達は先に家に帰る。
着替えて風呂に入ると寝室で彼がスマホを見ていた。
何か難しい顔をしている。
どうしたんだろう?
私もスマホを見る。
……まだ続くのね。
でもそんな事はどうでもいいじゃない。
私は夏弥からスマホを奪い取った。
「今日は私に時間を下さい」
「そ、そっすね」
普段は軟派に見える彼も私と2人きりになると急に臆病になる。
もっと私を信用して欲しい。
私はあなた以外の誰にも抱かれるつもりはないよ。
ちゃんと捕まえてよ。
「ねえ、夏弥」
「どしたっすか?」
彼がキッチンからドリンクを持ってきてくれた。
グラスを受け取ると彼がベッドに入る。
「子供いつがいい?」
「へ?」
驚いたみたいだ。
でもある程度予定を立てておきたい。
私も地元にずっといるわけじゃない。
コンサートでいろんなところに行く。
その交渉はUSEに任せている。
それでも急に妊娠なんてしたら大変だ。
違約金だって発生する。
だからどうするか決めておきたい。
「七海の予定に合わせるっす」
人任せにするつもりなんだ。
多分、そう言うと思っていたから決めていた。
「じゃあ、すぐ作ろう?」
「へ?」
意外だったようだ。
「でも普通2人の時間を楽しむものだって聞いたっすけど?」
「私が家にいた方が2人っきりの時間が増えると思うっすよ?」
妙な時期を狙って作ろうと思ったら出来るだろうけど、天音さんは苦戦したらしい。
だったらさっさと済ませた方が良くない?
心配しないで。
子供が出来たらある程度育つまで休止するから。
「じゃあ、今夜もっと頑張らないとっすね」
「大丈夫っすか?」
彼は何も言わず抱き絞めてくれた。
(4)
「ただいま~」
僕はいつも通り家に帰る。
美希の様子がおかしい。
「何かあった?」
美希に聞くと美希は僕が帰ったことに気づいたようだ。
「あ、旦那様。お帰りなさい」
「……どうしたの?」
いつもの美希じゃないよ。
すると美希は耳打ちした。
「今夜2人で相談したい」
「わかった」
何か重要な事なのだろう。
……こういう時の女性は……。いや、まさかないだろう。
ちゃんといつも気をつけてる。
でも絶対じゃないと言っていた。
それは絶対に許される事じゃない。
でも2人で相談ってそういうことなのか?
気になって食事どころじゃなかった。
「あのさ、美希……まさか……」
「……そうじゃありません!」
美希を見るとしかめっ面をしていた。
風呂に入って出る頃には比呂達は部屋に入って寝ている。
後は美希を待っていた。
その時に妙な事を言ってた。
「スマホとテレビ禁止は見ないで。ゲームでもしてて欲しい」
なぜ?
しょうがないからスマホのゲームをしていた。
美希が風呂から出てくる。
こういう時は飲まない方がいいって言ってたな。
ジュースにしておいた。
「だからそうじゃないから」
美希が怒っている。
「いや、真面目な話みたいだからアルコールは止めておこうと思って」
判断が鈍るから。
「で、話って何?」
僕が美希に聞くと、美希は時計を見てからテレビをつける。
ニュースをやっていた。
よくある事件だ。
公園で死体を発見した。
身元は……原川郁夫。
胸をナイフで刺されて一撃らしい。
美希の顔を見る。
次にスマホを見る。
SHのグルチャがその事件の事で騒いでいた。
「実は遠坂のお爺さんからも聞かれたの」
僕が関係しているのか?
もちろんしてない。
アリバイもちゃんとある。
死亡推定時刻は僕の勤務時間だ。
ただ、手下にやらせたかどうかを確認したかったらしい。
もちろんSHでそんな真似……多分しない。
もっと慎重に隠すはずだ。
天音達も驚いていた。
何があった?
「今茜が調べてる」
美希が言う。
「で、皆空の判断を待っている」
この事件をどう見るか?
「多分、美希の考えであってるんじゃないかな?」
「やっぱりそうなるよね」
年下の子供相手に下手を打った。
役立たずに用はない。
ただの切り捨てだろう。
そしてそのくらい容易くやってのける相手が今度の敵。
どう出る?
「やられる前にやれでいいだろ!被害が出てからじゃ遅いぞ」
天音は言う。
翼も美希も同じみたいだ。
小さな子供もいる。
さすがに出方を見るなんて悠長な事を言ってられない。
だけど僕は違う意見を持っていた。
「先にやるって誰をやるの?」
「……原川組じゃないの?」
「それって天音が言ってたように日本全土を対象に暴れるの?」
「でも……」
「相手が分からない以上こちらも迂闊に動かない方がいい」
父さんだって言ってた。
先に動いた方が不利だと。
ましてや相手は僕達の規模を把握してるかもしれないのに僕達は相手の情報すらない。
先に動くなんて無謀すぎるだろう。
FGが動くのか原川組が動くのか誠心会が動いてるのか見極める必要がある。
「空の言う通りかもしれないね」
先に仕掛けるなら手札をしっかり準備しなさい。
今は茜達に任せるしかない。
僕達の手に負える相手かどうかもはっきりしないのだから。
「ただ用心はした方がいいね。こういう事をあっさりやる連中だって事は分かったから」
「そうですね」
そう言いながら美希は翼に連絡してる。
「仕事で疲れてるのにすいません」
「いいよ、あいつを潰した時点でそんな予感がなかったわけでもないし」
これで相手は本物の筋の物だって立証できた。
それならそれなりの対応をするだけだ。
とりあえずは我慢比べだ。
わずかな事でも見逃さない。
一気に引きずり出してやる。
トカゲのしっぽ切りを平気でする連中なら、胴体をしっかり捕まえるまでだ。
「で、どうして男の人って単純なのですか?」
「何か?」
「私が2人で話しがあるって言っただけで旦那様は妙な事考えたでしょ?」
「そりゃ、思いつめた顔でそんな事言われたら普通に考えたらそうじゃないの?」
「あのさ、少しは私を信用してくださいな」
美希だってそんな事故が起きないように色々考えてるし、周期だって計算してる。
薬だって飲んでるくらいだ。
そんな馬鹿な事は絶対に起きない。
「分かった」
「じゃ、罰ゲームですね」
へ?
美希はにっこりと笑っている。
こういう時は罰ゲームを与えてやればいいと母さんから聞いたそうだ。
「さっき言ったでしょ。馬鹿な事は絶対に起きないって」
「分かった」
「疲れた旦那様を癒してあげたい気持ちくらいあるから」
「ありがとう」
そう言って寝室に向かう。
また長い1年が始まろうとしていた。
「瞳子、表情が固いよ」
母さんがスマホで写真を撮ってくれた。
今日は僕達の卒業式。
小学校の時より泣いてる女の子が多かった。
小学校の時と違ってこの先は皆別々の進路を選ぶ。
本当に分かれてしまうから当然だろう。
誠司は相変わらずだった。
様々な女子から告白を受けていた。
だけど小学校の時とは違っていた。
「ごめん、俺今サッカーの事で頭が一杯だから」
そう言って断っていた。
「誠司の邪魔になるような事はしないから!」
そう言ってねばる女子もいたそうだ。
でも誠司は自分の意思を曲げなかった。
「本当にそう思うか?だとしたらその程度の気持ちなんだ。他を探した方がいい」
本当にそうなら誠司に全力で尽くすはずだ。
だけど誠司は全部に応える事は出来ない。
そんな事が続けばきっと彼女がいつか心が折れる。
そんなのを分かっていて気安く恋人なんて作ることは不可能だ。
本気で好きなら傷つくのは彼女だ。
全力で自分の事を見て欲しいと願うはずだ。
それに応える事は出来ないから付き合う事は出来ない。
「じゃ、サッカーが終るまで待つよ」
「そんなの無理だよ」
W杯に五輪。
その頂点に立ちたい。
冬吾がいたら絶対それが出来るはず。
その時に冬吾の足を引っ張ることは許されない。
俺は冬吾を活かすプレイをしなければならないのだから。
そんなに先まで気持ちが変わらないと本当に誓えるか?
そんな覚悟を俺に持つよりもっと彼女を大切にしてくれる人を探した方が建設的だ。
悪いけど今の俺に彼女を作る余裕なんてない。
その相手は泣いていた。
それでも誠司は振り向かなかった。
中途半端な優しさは残酷なものだから。
そんな話を誠司としていた。
「誠司も成長したんだね」
そう言ったのは誠司の元カノの冴だった。
「そんな風に変われるなら私も我慢すればよかったかな?」
「そう思うなら今からでも遅くないぜ」
「遅すぎたのは誠司だ。ばーか」
そう言って冴は笑っていた。
卒業式が終ると家に帰る前に恒例の行事がある。
回転寿司屋でお祝いだ。
僕は味覚音痴ではないけど精々魚の種類が分かるくらいだ。
「この魚は鮮度がない」
そんな訳の分からない屁理屈をこねるつもりはない。
食べられるのなら何でも食べる。
それが片桐家の鉄則。
100円の寿司だろうが10000円の寿司だろうが食い物であり料理だ。
作った人に敬意を払わないといけない。
片桐家ではそう教え込まれる。
「でも誠司も防府でよかったの?」
城科とか選ぶと思ったけど。
理由は女子の制服が可愛いから。
「んなもん買って来て彼女に着せるだけで済む問題じゃないか」
相変わらずの様だ。
誠司の母親に叱られている。
「冬吾と一緒にいられるのはあと3年だ。だったら一緒に楽しんだ方がいいだろ?」
僕達は高校を卒業したら。18歳を越えたら海外に挑戦するつもりでいた。
だから離れてしまう。
それなら一緒に高校生活を楽しもうぜ。と誠司は笑っていた。
もちろん高校を出たらサヨナラじゃない。
誠司と約束をしていた。
「どんな約束なの?」
冬莉が聞いた。
母さん達も気になるらしい。
誠司と相談した。
別に隠す事じゃないだろう。
「海外に行くのは4年間だけ。その後は日本に戻ってくる」
その時にお互いレベルアップしていることを誓った。
「どうしてそんなことするの?」
冬莉が不思議そうに言った。
海外のクラブの方が年棒は高い。
だけど僕達の夢の終点はその先にあった。
「2人で地元クラブに入ってクラブワールドカップを制覇すること」
今まで国内のサッカーチームで成し遂げたのは誠司の父さんがいたころの地元クラブだけ。
だからもう一度頂点に立つ。
誠司や隼人と約束した。
「お前……そんな事母さん聞いてないぞ」
誠司もまだ親には話してなかったらしい。
「まだ先の話だから。まずはU-18で結果出さないと話にならないし」
誠司が答えた。
「瞳子、大変だよ」
「私は聞いてたんだ……」
瞳子が答えると皆驚いていた。
だって4年と言う数字にこだわったのはもう一つ約束していたから。
「僕に4年間だけ時間を下さい。瞳子が大学卒業したら必ず迎えに行くから」
「冬吾はもうプロポーズみたいなこと言ったの!?」
母さんが驚いていた。
僕だって馬鹿じゃない。
それなりに考える。
海外は僕の夢、だけどその夢の時間の間瞳子は一人で耐えなければならない。
瞳子なら大丈夫だと信じている。
だけど瞳子が心が折れるかもしれない。
何か形で示してやりたい。
その結果が今の約束。
「そういう事なら母さんも応援してるから」
「大丈夫。その時の冬吾達の席は私が力づくで空けておくから」
恵美さんが言う。
地元サッカークラブのメインスポンサーは江口グループ。
そのくらい造作でもないだろう。
寿司を食べ終わるとデザートを食べる。
そして家に帰って着替えて制服をクローゼットにしまっておく。
「思い出に取っておくといいよ」
父さんがそう言っていたから。
もっとも冬莉は茜から「洗うのは止めた方がいい。その方が価値があがるから」と言われてそのままにしていたら、母さんにバレて、理由を聞かれて2人で怒られたらしい。
そんな話を瞳子としていた。
「冬吾君は私の制服欲しい?」
たまにこういう意地悪をするのが瞳子だ。
「それって答える必要あるの?」
「どうして?」
「だって瞳子僕と一緒の高校だろ?」
また制服姿の瞳子と会う事になる。
瞳子と夜を過ごすときに制服着たままでなんて間抜けなお願いはしたことがない。
誠司はやらかしたらしいけど。
「私愛莉さんに頼まれてる事があるんだ」
「母さんに?」
「うん」
なんだろう。
「あの高校は帰りに食べ物屋さんが沢山あるから冬吾君を抑えてって」
なるほどね。
「瞳子はラーメンとかだめだろ?」
「さすがに学校帰りのおやつじゃないでしょ」
瞳子だって体型を崩さないように気を配っているらしい。
「だったら一緒にファストフード店で十分だけど……」
「けど?」
「茜が言ってたんだ」
女子高生の中でブームはうどんだと。
「しょうがない彼氏だね~」
瞳子はそう言って笑っていた。
電話をしていると夕食の時間になる。
「あの高校の焼きそばパンだけは押さえておきなさい」
「どうして?」
昼食は瞳子が弁当作ってくれるって言ってたけど?
「凄く美味しいんだ。一度でも食べる価値はあるよ」
ぽかっ
「冬夜さんの頭の中は食べ物しかないんですか!?」
「……愛莉の事もあるよ」
「……えへへ~」
「冬吾もだけど冬眞も酷いんだよ!」
莉子が言い出した。
「あ、あれくらいいだろ!?」
冬眞が慌ててる。
おにぎりでも食べたのだろうか?
コンビニの奥に本棚がある。
そこに18禁の雑誌がある。
当然立ち読みされないように封がされてある。
その表紙に見とれていたらしい。
「冬眞!あなた彼女の前でなにやってるの!?」
「冬眞も男だね~。莉子も相手してやりなよ」
「それがさ、茜。私にはあまり興味がないみたいなの」
求めたらしてくれるけど。
母さんの説教が長引いた。
父さんはただ笑っていた。
夕食が済むと風呂に入る。
その後に冬莉が入るんだけどその後が問題が。
「茜はいい加減に素直にお風呂に入りなさい!」
「明日から休みなんだからいいじゃん!」
「そんな事言ってると知りませんよ!」
壱郎も就職する。
いつプロポーズされても知りませんよ。
「プロポーズされたらすぐ一緒に暮らすなんてことないから大丈夫だって!」
「茜が実家で暮らすといっても母さんは知りませんよ!」
「愛莉。そういうのは父親としては実家にいてくれた方が嬉しいんだけど」
「冬夜さんは娘離れに慣れて下さい!」
「あ、そうだ冬吾。ちょっと話がある」
父さんが言った。
何だろう?
リビングのソファに座る。
「誠司との約束は愛莉から聞いた」
「うん、だめだったかな?」
「多分U-18以降は激しいポジション争いになると思う」
自分がいつでもフィールドに立てると思い上がるな。
そして絶対に手を抜いてはいけない。
それは相手を侮辱してるのも同じだ。
どんな相手でも全力を尽くしなさい。
父さんがバスケやっていた時の教訓らしい。
練習はチームメイトと争うけど試合はチームメイトと協力する。
協力するというのは相手にあわせて手を抜く事じゃない。
みんなが全力でプレイして役割を果たして成り立つチームが一番強いんだ。
「とりあえずは目の前の目的に必死に取り組みなさい」
慌てる事はないから。
「分かった」
そう言って部屋に戻る。
高校生活までの休日は新しい生活への準備期間。
その時が来るのを楽しみにしていた。
(2)
「じゃ、かんぱーい!」
私達大学卒業組は盛り上がっていた。
瑞穂と恋も戻ってきていた。
偶に帰ってきては彼氏の奏と会っていたそうだけど。
居酒屋で食べまくってカラオケで馬鹿な歌を歌う天。
無駄だとは思っていても天を叱る。
「そんな歌を聞かされる彼女の気持ちを考えて」
「俺は繭のおっぱい好きだぞ」
「天は私のそれしか見てないのですか!?」
口うるさく言うのは理由がある。
それはこんな天も来月には社会人だ。
社会人でもこんな馬鹿な歌うのは光太達が実証している。
だけど天は社会人でも特殊な部類だ。
如月リゾートの会長。
新卒で就く職業じゃないと思うんだけど兄の善明や大地が前例を作っているから問題ないのだろう。
普通はあり得ないと思った事を平気でするのが天だ。
新入社員歓迎会などの席で会長がこんな歌を歌いだしたら大事だ。
母親の如月伊織さんも心配で仕方ないらしい。
なぜなら父親の如月翔太が似たような事をやらかしらしい。
大学の合宿で最低限のマナーを身につけるだろうと思ったらSHは嫁が次々と懐妊してそれどころじゃなくなっていた。
「あ、思い出した」
天が何か思い立ったらしい。
歌おうとしている瑞穂からマイクを借りて話をした。
「今さらだと思うけど一応報告しとく」
ああ、その事か。
今さらだと言ったのはSHの人間にはもう招待状が届いているはずだから。
「来月恋と要が結婚式を挙げる。ちょっと早いけどおめでとう」
天がそういうと恋と要が照れていた。
地元を離れて2人で暮らして大丈夫だとお互いの事を信じられたのだろう。
「地元に戻ったら結婚しよう」
クリスマスイブの日に要からそう言われたらしい。
2人で宝石屋さんを巡って指輪を選んだそうだ。
瑞穂も地元に帰ってくると実家に帰らずに奏と同棲することを選んだ。
そんな朗報が舞い込んで来たら否応でも皆盛り上がる。
朝まで騒いで、そしてタクシーで帰る。
「ところで、天」
「どうした?」
私は天の顔を見て言った。
「あなたはいつ私に求婚してくれるのですか?」
天は驚くかと思ったけど案外落ち着いていた。
「それは考えていたんだ」
「え?」
だけどいくら如月グループの御曹司とはいえ、その力でプロポーズしていいか迷ったらしい。
婚約指輪くらい自分で働いてプレゼントしたいと思ったそうだ。
「だからクリスマスまで待ってくれないか?」
「……口うるさい私を選んで後悔しない?」
「俺が今までやってこれたのは繭のお陰だよ」
自分は頭が悪いけど、そのくらい気づく。
「そんなに謙遜しなくてもいいのに」
「言っとくけど酒の勢いでとかじゃないからな!」
そんなの天の顔を見ていたら分かるよ。
不器用だけど嘘を吐くのが下手な人。
いい年して子供の用に喜んではしゃぐあなたが好きなの。
「楽しみにしてますね」
「任せとけ!」
いよいよ私も妻になるのか。
母様達にはまだ内緒にしておいた。
どんなセリフで私を喜ばせてくれるのだろう?
どんな言葉で天に伝えたらいいだろう?
考える時間は十分ある。
その時までじっくり考えようと思った。
(3)
「七海、おめでとう」
「明日奈ありがとう」
今日は私と夏弥の結婚式。
「綺麗だね」
母さんが私の花嫁姿を見てそう言ってくれた。
「これで俺も老後の生活を考えるだけだな」
父さんがそう言って笑っていた。
父さんはもう覚悟を決めていたのか、他の友達から聞いたような泣くという事は一切なかった。
そして披露宴を終えて2次会で挨拶を受けていた。
「次は明日奈の番だね」
「だといいんだけどね~」
そう言って明日奈は彼氏の梅本優斗を見ている。
「ちょっと待ってくれ。俺だって来月から働くんだ。少しくらい猶予をくれよ」
「猶予をあげたらプロポーズしてくれるの?」
「……いつかするから」
「分かった」
明日奈はそれで満足したみたいだ。
楽しみにしておくといいよ。
面白い物が見れるから。
普段馬鹿な事ばっかり言ってる彼が急に真顔になって凄く悩んで一言言う。
そして彼女の反応を見て普段見た事無いような喜びを表現する。
そして父親に挨拶する時にまた過剰なまでに緊張している。
男って大変なんだなって思えるから。
でも女性だってその一言をどれだけ待てばいいのか不安になるんだよ。
自分にその一言を告げてくれるのか不安になるんだよ。
だからお互い様。
もっと相手を信じて。
ずっと見て来て相手だからこそ信じてる。
恋の始まりはもう遠く昔のこと。
あなたの笑顔を探してる。
始まった時からずっとあなたを見ていた。
追いかけていたあなたをきっと見ている。
一人で部屋の鍵を開ける瞬間は寂しい。
愛を貫いて苦しむよりほんの少し甘えたい時もある。
「お疲れっす」
「あざっす」
2次会を終えた私達は先に家に帰る。
着替えて風呂に入ると寝室で彼がスマホを見ていた。
何か難しい顔をしている。
どうしたんだろう?
私もスマホを見る。
……まだ続くのね。
でもそんな事はどうでもいいじゃない。
私は夏弥からスマホを奪い取った。
「今日は私に時間を下さい」
「そ、そっすね」
普段は軟派に見える彼も私と2人きりになると急に臆病になる。
もっと私を信用して欲しい。
私はあなた以外の誰にも抱かれるつもりはないよ。
ちゃんと捕まえてよ。
「ねえ、夏弥」
「どしたっすか?」
彼がキッチンからドリンクを持ってきてくれた。
グラスを受け取ると彼がベッドに入る。
「子供いつがいい?」
「へ?」
驚いたみたいだ。
でもある程度予定を立てておきたい。
私も地元にずっといるわけじゃない。
コンサートでいろんなところに行く。
その交渉はUSEに任せている。
それでも急に妊娠なんてしたら大変だ。
違約金だって発生する。
だからどうするか決めておきたい。
「七海の予定に合わせるっす」
人任せにするつもりなんだ。
多分、そう言うと思っていたから決めていた。
「じゃあ、すぐ作ろう?」
「へ?」
意外だったようだ。
「でも普通2人の時間を楽しむものだって聞いたっすけど?」
「私が家にいた方が2人っきりの時間が増えると思うっすよ?」
妙な時期を狙って作ろうと思ったら出来るだろうけど、天音さんは苦戦したらしい。
だったらさっさと済ませた方が良くない?
心配しないで。
子供が出来たらある程度育つまで休止するから。
「じゃあ、今夜もっと頑張らないとっすね」
「大丈夫っすか?」
彼は何も言わず抱き絞めてくれた。
(4)
「ただいま~」
僕はいつも通り家に帰る。
美希の様子がおかしい。
「何かあった?」
美希に聞くと美希は僕が帰ったことに気づいたようだ。
「あ、旦那様。お帰りなさい」
「……どうしたの?」
いつもの美希じゃないよ。
すると美希は耳打ちした。
「今夜2人で相談したい」
「わかった」
何か重要な事なのだろう。
……こういう時の女性は……。いや、まさかないだろう。
ちゃんといつも気をつけてる。
でも絶対じゃないと言っていた。
それは絶対に許される事じゃない。
でも2人で相談ってそういうことなのか?
気になって食事どころじゃなかった。
「あのさ、美希……まさか……」
「……そうじゃありません!」
美希を見るとしかめっ面をしていた。
風呂に入って出る頃には比呂達は部屋に入って寝ている。
後は美希を待っていた。
その時に妙な事を言ってた。
「スマホとテレビ禁止は見ないで。ゲームでもしてて欲しい」
なぜ?
しょうがないからスマホのゲームをしていた。
美希が風呂から出てくる。
こういう時は飲まない方がいいって言ってたな。
ジュースにしておいた。
「だからそうじゃないから」
美希が怒っている。
「いや、真面目な話みたいだからアルコールは止めておこうと思って」
判断が鈍るから。
「で、話って何?」
僕が美希に聞くと、美希は時計を見てからテレビをつける。
ニュースをやっていた。
よくある事件だ。
公園で死体を発見した。
身元は……原川郁夫。
胸をナイフで刺されて一撃らしい。
美希の顔を見る。
次にスマホを見る。
SHのグルチャがその事件の事で騒いでいた。
「実は遠坂のお爺さんからも聞かれたの」
僕が関係しているのか?
もちろんしてない。
アリバイもちゃんとある。
死亡推定時刻は僕の勤務時間だ。
ただ、手下にやらせたかどうかを確認したかったらしい。
もちろんSHでそんな真似……多分しない。
もっと慎重に隠すはずだ。
天音達も驚いていた。
何があった?
「今茜が調べてる」
美希が言う。
「で、皆空の判断を待っている」
この事件をどう見るか?
「多分、美希の考えであってるんじゃないかな?」
「やっぱりそうなるよね」
年下の子供相手に下手を打った。
役立たずに用はない。
ただの切り捨てだろう。
そしてそのくらい容易くやってのける相手が今度の敵。
どう出る?
「やられる前にやれでいいだろ!被害が出てからじゃ遅いぞ」
天音は言う。
翼も美希も同じみたいだ。
小さな子供もいる。
さすがに出方を見るなんて悠長な事を言ってられない。
だけど僕は違う意見を持っていた。
「先にやるって誰をやるの?」
「……原川組じゃないの?」
「それって天音が言ってたように日本全土を対象に暴れるの?」
「でも……」
「相手が分からない以上こちらも迂闊に動かない方がいい」
父さんだって言ってた。
先に動いた方が不利だと。
ましてや相手は僕達の規模を把握してるかもしれないのに僕達は相手の情報すらない。
先に動くなんて無謀すぎるだろう。
FGが動くのか原川組が動くのか誠心会が動いてるのか見極める必要がある。
「空の言う通りかもしれないね」
先に仕掛けるなら手札をしっかり準備しなさい。
今は茜達に任せるしかない。
僕達の手に負える相手かどうかもはっきりしないのだから。
「ただ用心はした方がいいね。こういう事をあっさりやる連中だって事は分かったから」
「そうですね」
そう言いながら美希は翼に連絡してる。
「仕事で疲れてるのにすいません」
「いいよ、あいつを潰した時点でそんな予感がなかったわけでもないし」
これで相手は本物の筋の物だって立証できた。
それならそれなりの対応をするだけだ。
とりあえずは我慢比べだ。
わずかな事でも見逃さない。
一気に引きずり出してやる。
トカゲのしっぽ切りを平気でする連中なら、胴体をしっかり捕まえるまでだ。
「で、どうして男の人って単純なのですか?」
「何か?」
「私が2人で話しがあるって言っただけで旦那様は妙な事考えたでしょ?」
「そりゃ、思いつめた顔でそんな事言われたら普通に考えたらそうじゃないの?」
「あのさ、少しは私を信用してくださいな」
美希だってそんな事故が起きないように色々考えてるし、周期だって計算してる。
薬だって飲んでるくらいだ。
そんな馬鹿な事は絶対に起きない。
「分かった」
「じゃ、罰ゲームですね」
へ?
美希はにっこりと笑っている。
こういう時は罰ゲームを与えてやればいいと母さんから聞いたそうだ。
「さっき言ったでしょ。馬鹿な事は絶対に起きないって」
「分かった」
「疲れた旦那様を癒してあげたい気持ちくらいあるから」
「ありがとう」
そう言って寝室に向かう。
また長い1年が始まろうとしていた。
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