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i see the sky
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(1)
「結、綺麗だね」
「……」
「結、何か言ってあげないと」
美希が結に耳打ちしてる。
「結莉も綺麗だよ」
「……えへへ~」
結莉は天音と一緒に一生懸命今日着ていく服を選んでいたらしい。
それに気づいた美希が結に教えたみたいだ。
結莉は一生懸命結に話しかけるけど、草原が続く道が続けば眠くなる年頃だろう。
まあ、結と比呂は寝てるか食べてるかの2択だけど。
「本当に冬夜さんみたいになったのね」
母さんは困っている様だ。
比呂は結莉と交換して大地の車に乗っている。
大地の家に行くと「結の隣がいい!」と言い出したから。
今日はSHの子持ちの皆で一緒にサファリパークでも行かないかと翼から提案があった。
翼は天音や水奈達と頻繁に会っているらしい。
花やなずなも仲間入りだ。
天音が育児の仕方を教えるというちょっと不安な事態になっている。
海翔はまだ大人しい。
しかし翼は何かを感じ取ったらしい。
「あの子も何か隠し持ってる」
天音に注意するように忠告したらしい。
父さんも同じ事を言っていたそうだ。
なずなはやはり父親に問題があるようだ。
会社の新入社員歓迎の時に新入社員の女性を口説こうとしたらしい。
「浮気は文化だ!」
そう断言したそうだ。
だけどあのバカな歌を歌って自滅していた。
場は盛り上がったそうだけど。
何で知っているかというと、遊が口説いた相手は春山リリー。
恋の友達らしい。
遊が「恋が心配してたから連絡してやってくれ」と言ったので、リリーはそのまま報告した。
そして恋からなずなに伝わってなずなが激怒したらしい。
「こっちは琴音の世話で大変なのに何馬鹿やってるの!」
遊は朝まで付き合って帰ってきたそうだ。
当然遊の母さん達にも知られる。
大騒動だったらしい。
多分誠司の父さんと同じ運命をたどるんじゃないかと何となく思った。
学は分かるけど、粋はそういう飲み会も「子供が待ってるから」と断って帰って来るらしい。
「たまには羽を伸ばさないと粋も大変じゃないの?」
花が心配して言ったそうだ。
それでも「花も大変なんだからこのくらいなんてことない」と言ってくれるらしい。
そんな一言が花には嬉しいみたいだ。
水奈達の子供も順調に成長している。
悠翔を見て水奈の父さんが言ったそうだ。
「この子どっちかって言うと俺に似てないか?」
水奈の母さんも学の母さんも同じように感じたらしい。
「いいか誠。絶対に悠翔に妙な事を吹き込むんじゃないぞ!」
水奈の母さんが父さんに注意していた。
水奈の父さんに似ているのなら変な癖さえつけなかったら素敵な男性になると水奈の母さんは楽しみにしているらしい。
しかし問題は学の父さんだ。
「それは大丈夫。あの馬鹿が学の家に行ったら私に連絡するように言ってるから」
どんな子供になるんだろうな。
陽葵や菫と秋久も同じようだ。
とくに性格が曲がることなく育ってると聞いた。
もっとも秋久は将来に夢の欠片も感じてないようだと善明が言っていた。
菫は強気な女の子の一言では済ませられないような状態になっているみたいだ。
陽葵もそっとしておけば大人しいけど一度火をつけると手が付けられないらしい。
朔達も同じだ。
あの子達が小学校に行くようになったらどうなるんだろうな。
そんな楽しみをしていた。
片桐家の最大の問題は父親なんだろう。
水奈の父親みたいな意味じゃない。
むしろそうなら母さんが注意すればいい。
娘の方から父親から離れていくだろう。
しかし父さんは違う。
娘にとって文字通り「理想の父親」なんだそうだ。
だから父さんを母さんから奪い取ろうと考える。
それが母さんの悩み。
それは僕や冬吾達も同じみたいだ。
特に見た目が良いわけでもないのになぜか女子が近づいて来る。
彼女という立場で見ればそれほど心配の種は無いのだろう。
だけど父さんの息子だからたった一つのルールは守っている。
「彼女の機嫌を損ねると後が面倒だから止めとけ」
父さんも苦労したんだろうな。
「茜の気持ちがさっぱり分からないんだよね」
翼が悩むくらいなのだからそうなのだろう。
よく僕がSH最強というけど、物語史上最強なのは泉や結莉じゃないのかと思う。
善明の母さんを悩ませたり、ババア呼ばわりして生き残った結莉。
同じ事した黒いゴキブリは即座に処分されたよ。
「パパ、何処に向かってるの?」
比呂が聞いてきた。
「動物園のちょっと規模がでかいところ」
ライオンや虎が野放しになってる場所。
「そこ楽しいの?」
「楽しめるように考えてるよ」
今の時期ならライオンの赤ちゃんを抱っこできたり出来るよ。
比呂くらいなら大丈夫だろう。
しかし善明は今の結を筆頭とした、陽葵や菫、結莉や茉莉達を”最悪の世代”と称していた。
この”最悪の世代”が小学生デビューを始めたら大丈夫なのだろうか。
冬夜は校舎を破壊する程度の能力は持ってる。
しかし今のところその力をあまり使わないらしい。
それは前の事件で知った。
結や秋久が警戒するとそれを察した結莉や茉莉が前に出る。
「結は大人しくしてて」
結を怒らせるとどうなるか想像できるから。
現に結は大人を2度殺しかけている。
だから結が手を下す前に結莉達が始末するという図式が出来上がっている様だ。
もっとも茉莉の前には朔が立っているらしいけど。
そんな話をしているとサファリパークに着いた。
天音達を待つ。
最期に来たのは粋達だった。
「粋、どうしたんだ?直線でいくらでも飛ばせただろ」
「いや、遊。赤ちゃん乗せてて正面衝突でもしたら洒落にならないだろ?」
「馬鹿、そんな事にびびってんじゃねーよ!爺かお前は」
「遊は何回注意すれば理解するの!?琴音がいるのに行楽地で一家心中なんて私はいやだからね!」
「だからチャイルドシートつけたろ?」
「そういう問題じゃないでしょ!」
そんな遊となずなの口論を聞きながら子供を車から降ろすのに苦戦している学に声をかけた。
「手伝うよ。一人僕が抱えるから。人見知りするの?」
「それはないんだけどいいのか?空だって子供沢山いるだろう」
「双子だから大丈夫だよ」
見張ってる必要はあるけど。
「じゃ、すまんが悠翔と茉奈をお願いしていいか?」
「分かった」
そう言って悠翔と茉奈を預かる。
不思議そうな目で僕を見ていた。
結達も最初こんなんだったな。
ちなみに結はふわふわと浮いていたけど「ちゃんと歩くの!」と結莉に叱られて仕方なしに歩いている。
その方が天音も都合が良いのだろう。
海翔を抱えないといけないから。
そんな事をしているうちに美希がチケットを用意していた。
車で見て回ることも出来る。
だけど車を汚したくないとか色々理由がある。
どうせここに来るならサファリバスで回った方がいい。
みんながチケットを受け取るとサファリバスが来るのを待っていた。
(2)
「お、おいこれはどういうことなんだ?」
学が僕に聞いている。
流石に僕も驚いた。
サファリバスに乗って園内に入ると異変はすぐに起きた。
行く先々のエリアでサファリバスが止まるとバスに動物が群がって来る。
乗っている客が持っている餌が目当てだと言うのは知っている。
だけど予想外なのはすべての動物が結の前に伏していた。
結はそれを見ると美希に合図する。
美希は結の意図を汲んだのか写真を撮る。
写真を撮った後結が合図をすると動物は散開する。
それはライオンでも同じことが起きていた。
あらゆる生命が結にひれ伏していた。
比呂は肉食動物にニンジンを与えようとして美希に怒られていた。
「この後どうする?」
サファリバスを降りた後美希が聞く。
「この時期ならライオンの赤ちゃんと写真を撮れるはずなんだけど」
僕が言うと琴音や快たちは興味を持ったようだ。
陽葵や菫、結莉や茉莉は「お腹すいた!」とわめいている。
「じゃあ、私達だけ写真撮って来るから先にお昼食べていてよ」
そう言ってなずなや花達は別行動をとった。
「こんなしょぼい食い物しかないのか!」
そう喚いたのは結莉や茉莉ではなく天音。
結莉達は結の周りに集まって楽しそうに昼食を取っていた。
しかし気になるのはやはり茉奈。
前の花見の時もそうだったけど、結の事を意識している様に見えた。
……試してみるか。
「茉奈ちゃん、よかったらこっちにおいで」
茉奈に結の側の席を譲ろうとすると嬉しそうに結に近づく。
しかしその時テーブルの水を入れてあったコップがパリンと音を立てて割れた。
「うぅ……」
結莉が茉奈を威嚇している。
茉奈は委縮してそれ以上近づこうとしなかった。
結は気にせずに黙々と食事を続けている。
「おい、天音。お前の娘は私の娘が気に入らないのか?」
「どうなんだろうな?菫や陽葵の時はこんなことなかったけど」
天音にも理由が分からないらしいが、比呂が茉奈を落ち着かせている。
流石に可哀想だと思った美希が結莉を説得しようと試みる。
「結莉ちゃん。ちょっとだけでいいから茉奈ちゃんに譲ってあげよ?」
「やだ!」
「結莉ちゃんと違って茉奈ちゃんは滅多に結と一緒にいられないから」
「だめ!」
結莉は絶対に譲る気はないらしい。
すると意外なことが怒った。
「結莉。邪魔」
「結!?」
結が結莉に一言言うと結莉は「うぅ……」と唸りながらも茉奈に譲る。
結に近づいた茉奈は何も言わずにただ結を見ている。
結には茉奈のしたい事が分かるのだろうか?
食事を止めて茉奈の手を握る。
「これでいいか?」
結が言うと茉奈はまた元の席に戻った。
しかし茉奈のその表情を見て疑う者はいなかった。
「そ、空や……まさかとは思うけど」
「多分そうなんだろうね」
「でも相手が悪すぎるんじゃない?」
結莉のライバルって事でしょ?
「翼、忘れてるけど結莉は結の従弟だよ」
それにまだ2歳だ。
「でもいとこ婚ってありだったろ?」
天音が聞いていた。
「天音や翼が一番分かってると思ったんだけど」
結莉にとって初めての同い年の異性が結だったてこと。
その”好き”って感情を”恋愛感情”と誤解してるだけじゃないのか。
それは茉奈にも言える事なんだけど。
普通に考えたら茉奈の歳で初恋は考えづらい。
「結はもてるのね」
美希はそう言って延々と食べ続ける結の頭を撫でていた。
問題は結にその気が全くない事なのだけど。
そう、そんな感情はまだ芽生えていないと思っていた。
(3)
「ねえ、パパ」
「どうしたんだい?」
秋久が話しかけて来た。
普段親と会話するのも面倒に思ってるみたいなのに珍しいから少し驚いた。
秋久と陽葵と菫は後ろの席に座らせている。
ちゃんとチャイルドシートは準備したよ。
3人に何かあったら僕がただじゃ済まない。
秋久は助手席でもいいんじゃないかと思ったけど翼がダメと言ったので従った。
あの化け物みたいな車では来ていない。
あんなの乗ってたらこの辺にSSがないからたちまち業者を呼ぶ羽目になる。
「あの結って子と海翔って子なんだけど……」
秋久も感じるものがあったのだろうか?
それを感じる事が出来るだけでも凄いと思うけどね。
「特に結って子、パパとどっちが強い?」
また難しい質問をしてきたね。
「そんなのパパに決まってるだろ」
そう言いきれないのが結の恐ろしさだ。
そう言えば良い話があったな。
「秋久、戦いってのは強ければ勝つわけじゃないんだ」
まだ2歳の子に何を言ってるのだろう?
例えばその戦闘の状況による。
極端な例でいえば結に気配を察知されない距離からの狙撃なら勝てる。
でもあの子と対峙してせーのでやったらまず勝てない。
当たり前だ。
あらゆるものを弾き飛ばしてでたらめな威力のモデルガンを撃って来るんだから勝てるわけがない。
戦いというのは試合とは違う。
どういう条件で発生するか分からないのが戦闘だ。
ものすごい限定された条件にもっていけば秋久でも結を越えることが出来るかもしれないね。
そんな大人でも馬鹿馬鹿しい話を秋久は真面目に聞いていた。
多分様々な子に特殊能力をつけてくるだろう。
だから”最悪の世代”なんて名付けたんだろう。
しかし海翔まで見抜くとはね。
「皆凄いんだね」
秋久が言う。
「秋久も凄いじゃないか」
「そうなんですか?」
美希が聞いてきた。
僕は説明する。
「美希は戦闘において一番重要な事って何だと思う?」
「うーん、難しいですね」
「それがそんなに難しく考える必要は無いんだ」
「そうなんですか?」
美希が言うと僕は頷いて答えた。
戦闘において一番重要な事……それは相手と自分の差を正確に見極める事。
もっと簡単に言えば”自分より強い奴とは絶対に戦ってはいけない”という事。
まずいと判断したら気づかれる前にその場から逃げ出す。
勇猛果敢に戦って死ぬのはおろかな事だ。
そうやって危険を察知して生き残った者が最強なんだ。
秋久は2歳だけどもう相手の力量を見極める力がある。
普段は陽葵達にやられ放題だけどそれは陽葵達は敵じゃないと分かっているから。
陽葵達に彼氏ができるまでは自分が守ると意識しているのだろう。
だから手を出さない。
結達が異常なだけで普通に見たら秋久も十分な能力を持っている。
戦いはその能力を有効に生かしつつ相手に能力を使わせない事。
馬鹿みたいに真っ向から仕掛けるだけでは生き残る事は出来ない。
秋久は納得したみたいだ。
窓の景色を見ていた。
秋久の眺める空には何が映っているのだろう。
願わくば秋久がその力を発揮する場面に遭遇しない事。
って言っても無駄なんだろうな……
「結、綺麗だね」
「……」
「結、何か言ってあげないと」
美希が結に耳打ちしてる。
「結莉も綺麗だよ」
「……えへへ~」
結莉は天音と一緒に一生懸命今日着ていく服を選んでいたらしい。
それに気づいた美希が結に教えたみたいだ。
結莉は一生懸命結に話しかけるけど、草原が続く道が続けば眠くなる年頃だろう。
まあ、結と比呂は寝てるか食べてるかの2択だけど。
「本当に冬夜さんみたいになったのね」
母さんは困っている様だ。
比呂は結莉と交換して大地の車に乗っている。
大地の家に行くと「結の隣がいい!」と言い出したから。
今日はSHの子持ちの皆で一緒にサファリパークでも行かないかと翼から提案があった。
翼は天音や水奈達と頻繁に会っているらしい。
花やなずなも仲間入りだ。
天音が育児の仕方を教えるというちょっと不安な事態になっている。
海翔はまだ大人しい。
しかし翼は何かを感じ取ったらしい。
「あの子も何か隠し持ってる」
天音に注意するように忠告したらしい。
父さんも同じ事を言っていたそうだ。
なずなはやはり父親に問題があるようだ。
会社の新入社員歓迎の時に新入社員の女性を口説こうとしたらしい。
「浮気は文化だ!」
そう断言したそうだ。
だけどあのバカな歌を歌って自滅していた。
場は盛り上がったそうだけど。
何で知っているかというと、遊が口説いた相手は春山リリー。
恋の友達らしい。
遊が「恋が心配してたから連絡してやってくれ」と言ったので、リリーはそのまま報告した。
そして恋からなずなに伝わってなずなが激怒したらしい。
「こっちは琴音の世話で大変なのに何馬鹿やってるの!」
遊は朝まで付き合って帰ってきたそうだ。
当然遊の母さん達にも知られる。
大騒動だったらしい。
多分誠司の父さんと同じ運命をたどるんじゃないかと何となく思った。
学は分かるけど、粋はそういう飲み会も「子供が待ってるから」と断って帰って来るらしい。
「たまには羽を伸ばさないと粋も大変じゃないの?」
花が心配して言ったそうだ。
それでも「花も大変なんだからこのくらいなんてことない」と言ってくれるらしい。
そんな一言が花には嬉しいみたいだ。
水奈達の子供も順調に成長している。
悠翔を見て水奈の父さんが言ったそうだ。
「この子どっちかって言うと俺に似てないか?」
水奈の母さんも学の母さんも同じように感じたらしい。
「いいか誠。絶対に悠翔に妙な事を吹き込むんじゃないぞ!」
水奈の母さんが父さんに注意していた。
水奈の父さんに似ているのなら変な癖さえつけなかったら素敵な男性になると水奈の母さんは楽しみにしているらしい。
しかし問題は学の父さんだ。
「それは大丈夫。あの馬鹿が学の家に行ったら私に連絡するように言ってるから」
どんな子供になるんだろうな。
陽葵や菫と秋久も同じようだ。
とくに性格が曲がることなく育ってると聞いた。
もっとも秋久は将来に夢の欠片も感じてないようだと善明が言っていた。
菫は強気な女の子の一言では済ませられないような状態になっているみたいだ。
陽葵もそっとしておけば大人しいけど一度火をつけると手が付けられないらしい。
朔達も同じだ。
あの子達が小学校に行くようになったらどうなるんだろうな。
そんな楽しみをしていた。
片桐家の最大の問題は父親なんだろう。
水奈の父親みたいな意味じゃない。
むしろそうなら母さんが注意すればいい。
娘の方から父親から離れていくだろう。
しかし父さんは違う。
娘にとって文字通り「理想の父親」なんだそうだ。
だから父さんを母さんから奪い取ろうと考える。
それが母さんの悩み。
それは僕や冬吾達も同じみたいだ。
特に見た目が良いわけでもないのになぜか女子が近づいて来る。
彼女という立場で見ればそれほど心配の種は無いのだろう。
だけど父さんの息子だからたった一つのルールは守っている。
「彼女の機嫌を損ねると後が面倒だから止めとけ」
父さんも苦労したんだろうな。
「茜の気持ちがさっぱり分からないんだよね」
翼が悩むくらいなのだからそうなのだろう。
よく僕がSH最強というけど、物語史上最強なのは泉や結莉じゃないのかと思う。
善明の母さんを悩ませたり、ババア呼ばわりして生き残った結莉。
同じ事した黒いゴキブリは即座に処分されたよ。
「パパ、何処に向かってるの?」
比呂が聞いてきた。
「動物園のちょっと規模がでかいところ」
ライオンや虎が野放しになってる場所。
「そこ楽しいの?」
「楽しめるように考えてるよ」
今の時期ならライオンの赤ちゃんを抱っこできたり出来るよ。
比呂くらいなら大丈夫だろう。
しかし善明は今の結を筆頭とした、陽葵や菫、結莉や茉莉達を”最悪の世代”と称していた。
この”最悪の世代”が小学生デビューを始めたら大丈夫なのだろうか。
冬夜は校舎を破壊する程度の能力は持ってる。
しかし今のところその力をあまり使わないらしい。
それは前の事件で知った。
結や秋久が警戒するとそれを察した結莉や茉莉が前に出る。
「結は大人しくしてて」
結を怒らせるとどうなるか想像できるから。
現に結は大人を2度殺しかけている。
だから結が手を下す前に結莉達が始末するという図式が出来上がっている様だ。
もっとも茉莉の前には朔が立っているらしいけど。
そんな話をしているとサファリパークに着いた。
天音達を待つ。
最期に来たのは粋達だった。
「粋、どうしたんだ?直線でいくらでも飛ばせただろ」
「いや、遊。赤ちゃん乗せてて正面衝突でもしたら洒落にならないだろ?」
「馬鹿、そんな事にびびってんじゃねーよ!爺かお前は」
「遊は何回注意すれば理解するの!?琴音がいるのに行楽地で一家心中なんて私はいやだからね!」
「だからチャイルドシートつけたろ?」
「そういう問題じゃないでしょ!」
そんな遊となずなの口論を聞きながら子供を車から降ろすのに苦戦している学に声をかけた。
「手伝うよ。一人僕が抱えるから。人見知りするの?」
「それはないんだけどいいのか?空だって子供沢山いるだろう」
「双子だから大丈夫だよ」
見張ってる必要はあるけど。
「じゃ、すまんが悠翔と茉奈をお願いしていいか?」
「分かった」
そう言って悠翔と茉奈を預かる。
不思議そうな目で僕を見ていた。
結達も最初こんなんだったな。
ちなみに結はふわふわと浮いていたけど「ちゃんと歩くの!」と結莉に叱られて仕方なしに歩いている。
その方が天音も都合が良いのだろう。
海翔を抱えないといけないから。
そんな事をしているうちに美希がチケットを用意していた。
車で見て回ることも出来る。
だけど車を汚したくないとか色々理由がある。
どうせここに来るならサファリバスで回った方がいい。
みんながチケットを受け取るとサファリバスが来るのを待っていた。
(2)
「お、おいこれはどういうことなんだ?」
学が僕に聞いている。
流石に僕も驚いた。
サファリバスに乗って園内に入ると異変はすぐに起きた。
行く先々のエリアでサファリバスが止まるとバスに動物が群がって来る。
乗っている客が持っている餌が目当てだと言うのは知っている。
だけど予想外なのはすべての動物が結の前に伏していた。
結はそれを見ると美希に合図する。
美希は結の意図を汲んだのか写真を撮る。
写真を撮った後結が合図をすると動物は散開する。
それはライオンでも同じことが起きていた。
あらゆる生命が結にひれ伏していた。
比呂は肉食動物にニンジンを与えようとして美希に怒られていた。
「この後どうする?」
サファリバスを降りた後美希が聞く。
「この時期ならライオンの赤ちゃんと写真を撮れるはずなんだけど」
僕が言うと琴音や快たちは興味を持ったようだ。
陽葵や菫、結莉や茉莉は「お腹すいた!」とわめいている。
「じゃあ、私達だけ写真撮って来るから先にお昼食べていてよ」
そう言ってなずなや花達は別行動をとった。
「こんなしょぼい食い物しかないのか!」
そう喚いたのは結莉や茉莉ではなく天音。
結莉達は結の周りに集まって楽しそうに昼食を取っていた。
しかし気になるのはやはり茉奈。
前の花見の時もそうだったけど、結の事を意識している様に見えた。
……試してみるか。
「茉奈ちゃん、よかったらこっちにおいで」
茉奈に結の側の席を譲ろうとすると嬉しそうに結に近づく。
しかしその時テーブルの水を入れてあったコップがパリンと音を立てて割れた。
「うぅ……」
結莉が茉奈を威嚇している。
茉奈は委縮してそれ以上近づこうとしなかった。
結は気にせずに黙々と食事を続けている。
「おい、天音。お前の娘は私の娘が気に入らないのか?」
「どうなんだろうな?菫や陽葵の時はこんなことなかったけど」
天音にも理由が分からないらしいが、比呂が茉奈を落ち着かせている。
流石に可哀想だと思った美希が結莉を説得しようと試みる。
「結莉ちゃん。ちょっとだけでいいから茉奈ちゃんに譲ってあげよ?」
「やだ!」
「結莉ちゃんと違って茉奈ちゃんは滅多に結と一緒にいられないから」
「だめ!」
結莉は絶対に譲る気はないらしい。
すると意外なことが怒った。
「結莉。邪魔」
「結!?」
結が結莉に一言言うと結莉は「うぅ……」と唸りながらも茉奈に譲る。
結に近づいた茉奈は何も言わずにただ結を見ている。
結には茉奈のしたい事が分かるのだろうか?
食事を止めて茉奈の手を握る。
「これでいいか?」
結が言うと茉奈はまた元の席に戻った。
しかし茉奈のその表情を見て疑う者はいなかった。
「そ、空や……まさかとは思うけど」
「多分そうなんだろうね」
「でも相手が悪すぎるんじゃない?」
結莉のライバルって事でしょ?
「翼、忘れてるけど結莉は結の従弟だよ」
それにまだ2歳だ。
「でもいとこ婚ってありだったろ?」
天音が聞いていた。
「天音や翼が一番分かってると思ったんだけど」
結莉にとって初めての同い年の異性が結だったてこと。
その”好き”って感情を”恋愛感情”と誤解してるだけじゃないのか。
それは茉奈にも言える事なんだけど。
普通に考えたら茉奈の歳で初恋は考えづらい。
「結はもてるのね」
美希はそう言って延々と食べ続ける結の頭を撫でていた。
問題は結にその気が全くない事なのだけど。
そう、そんな感情はまだ芽生えていないと思っていた。
(3)
「ねえ、パパ」
「どうしたんだい?」
秋久が話しかけて来た。
普段親と会話するのも面倒に思ってるみたいなのに珍しいから少し驚いた。
秋久と陽葵と菫は後ろの席に座らせている。
ちゃんとチャイルドシートは準備したよ。
3人に何かあったら僕がただじゃ済まない。
秋久は助手席でもいいんじゃないかと思ったけど翼がダメと言ったので従った。
あの化け物みたいな車では来ていない。
あんなの乗ってたらこの辺にSSがないからたちまち業者を呼ぶ羽目になる。
「あの結って子と海翔って子なんだけど……」
秋久も感じるものがあったのだろうか?
それを感じる事が出来るだけでも凄いと思うけどね。
「特に結って子、パパとどっちが強い?」
また難しい質問をしてきたね。
「そんなのパパに決まってるだろ」
そう言いきれないのが結の恐ろしさだ。
そう言えば良い話があったな。
「秋久、戦いってのは強ければ勝つわけじゃないんだ」
まだ2歳の子に何を言ってるのだろう?
例えばその戦闘の状況による。
極端な例でいえば結に気配を察知されない距離からの狙撃なら勝てる。
でもあの子と対峙してせーのでやったらまず勝てない。
当たり前だ。
あらゆるものを弾き飛ばしてでたらめな威力のモデルガンを撃って来るんだから勝てるわけがない。
戦いというのは試合とは違う。
どういう条件で発生するか分からないのが戦闘だ。
ものすごい限定された条件にもっていけば秋久でも結を越えることが出来るかもしれないね。
そんな大人でも馬鹿馬鹿しい話を秋久は真面目に聞いていた。
多分様々な子に特殊能力をつけてくるだろう。
だから”最悪の世代”なんて名付けたんだろう。
しかし海翔まで見抜くとはね。
「皆凄いんだね」
秋久が言う。
「秋久も凄いじゃないか」
「そうなんですか?」
美希が聞いてきた。
僕は説明する。
「美希は戦闘において一番重要な事って何だと思う?」
「うーん、難しいですね」
「それがそんなに難しく考える必要は無いんだ」
「そうなんですか?」
美希が言うと僕は頷いて答えた。
戦闘において一番重要な事……それは相手と自分の差を正確に見極める事。
もっと簡単に言えば”自分より強い奴とは絶対に戦ってはいけない”という事。
まずいと判断したら気づかれる前にその場から逃げ出す。
勇猛果敢に戦って死ぬのはおろかな事だ。
そうやって危険を察知して生き残った者が最強なんだ。
秋久は2歳だけどもう相手の力量を見極める力がある。
普段は陽葵達にやられ放題だけどそれは陽葵達は敵じゃないと分かっているから。
陽葵達に彼氏ができるまでは自分が守ると意識しているのだろう。
だから手を出さない。
結達が異常なだけで普通に見たら秋久も十分な能力を持っている。
戦いはその能力を有効に生かしつつ相手に能力を使わせない事。
馬鹿みたいに真っ向から仕掛けるだけでは生き残る事は出来ない。
秋久は納得したみたいだ。
窓の景色を見ていた。
秋久の眺める空には何が映っているのだろう。
願わくば秋久がその力を発揮する場面に遭遇しない事。
って言っても無駄なんだろうな……
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