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Future World
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(1)
妙だ。
勝次が僕達を呼び出した。
グルチャじゃダメなのか?と聞いたけど。全員に聞かせられる話じゃないと指名をしてきた。
僕と学と光太と喜一。
善明とかは下手に呼び出すと企業が傾く。
とりあえず個室のある居酒屋に呼び出された。
「わざわざすまない」
勝次は僕達に向かって頭を下げる。
「とりあえず用件を言え」
光太が言うと勝次が一言言った。
「FGの件について」
何かあったのか?
確かに天音達に言ったらすぐに殺しに行くだろう。
そのこと自体は問題ないんだろうけど、もっと厄介な事になっていそうだ。
それは勝次と喜一の表情を見ていたら分かる。
「説明してくれ」
僕が言うと勝次が説明を始める。
「3月に原川郁夫が殺されたのは知ってるよな?」
「ああ、使い物にならないから始末されたんだっけ?」
多分それだけじゃない。
そういう事を平気でやる連中だという警告のつもりだったんだろう。
しかし原川組は分かってなかった。
だから夏に父さん達「渡辺班」が動いて警告した。
それ以来目立った行動はしていないが鬱陶しい真似をしているのは父さん達から聞いている。
それはもう大人の戦争だからと志水グループや江口グループが動き出したみたいだ。
僕達は下手に手を出すな。
小さい子供だっているんだから。
だから静観していた。
しかしFGが動いたとなったらそういうわけにはいかない。
「で、それが今回の用件なのか?」
「俺が説明するよ」
喜一が代わって答えた。
臆病な原川郁夫についていく必要はないとFGは原川組と連絡を絶った。
それが今月に入って突然年上の男がやって来た。
「何の用だ?おっさん」
「口の利き方に気をつけろ。これから俺がお前らを統率する」
突然そう言ったらしい。
「何者だお前?」
「四宮達樹」
当然そんな男知らない。
「わけわかんない事言ってると殺すぞ。怪我しないうちにさっさと失せろ」
FGの連中は相手にしなかった。
だけど四宮は突然スーツを脱いで一緒に来ていた男に渡した。
「喧嘩は久しぶりだが、ガキ相手には丁度いい慣らしだろう」
そう言って四宮はFGのメンバーを挑発する。
「なめてんじゃねーぞ!おっさん」
そう言って体格のいいメンバーが四宮に殴りかかる。
それを躱して反対に殴り飛ばす四宮。
一発で意識を飛ばすくらいの威力はあったらしい。
一人殴り飛ばされると次々に襲い掛かる。
バットなどで武装してる奴もいた。
しかしそんなのお構いなしに殴り飛ばしたり、蹴り飛ばす四宮。
10人以上やられると戦意を失くしていた。
「どうした?小僧。俺はまだ全然疲れてないぞ」
四宮が言うけど誰も殴りかかろうとしなかった。
そんな様子を見て四宮がニヤリと笑う。
「じゃあ、もう文句は無いな。下手に逆らったら命は保証しない」
そうして原川組は再びFGを支配した。
そんな四宮を恐れてFGを抜けてSHに入りたいという奴もいたそうだ。
だけどそんなの僕の意見を聞くまでもない。
「ふざけるな。例え空が許したとしても俺が許さない」
勝次はそう言って追い返したらしい。
そんな勝ち馬ライダーを入れたところでまた面倒な作業が増える。
喜一もそれでいいと判断したそうだ。
言いたい事は大体わかった。
原川組が相変わらずFGの裏にいる。
そして今度の四宮という奴は原川と違うタイプの人間らしい。
逆らう奴には容赦しない。
勝次もFGのリーダーだった。
今のFGのリーダーから事情を聞いた。
FGでも喧嘩の強い奴がいる。
そいつらでも全く敵わなかったらしい。
もちろん四宮は素手だ。
銃を持ち出したり、靴のつま先から刃物がでるとかそういう小細工は一切ない。
かなり強い奴なんだろう。
そしてやり方も原川よりも数段に残酷らしい。
光太は知っていたようだ。
「テレビでやってたぜ。確か繁華街の公園で乱闘騒ぎがあったとかなんとか」
ああ、あれか。
「で、FGはどうするつもりなんだ?」
「多分またSHを潰そうとしてくると思う」
喜一が答えた。
手段は厭わない。
SHは強い反面幼い子供という急所を抱えている。
FGの勢力は再び大きくなっている。
全員狙われたりしたらひとたまりもない。
「どうする?」
光太が聞く。
そんなの最初から決まってる。
「相手にする必要あるの?」
勝手に盛り上がってるだけだろ。
手を出してくるまで放っておけばいい。
その上で子供を狙うような無謀な真似をするなら容赦しない。
暴力団だろうが私兵だろうがまとめて魚の餌にしてやる。
「勝次たちも余計な手をだすな」
お前だって加奈子さんがいるだろ?
喜一も言うまでもない。
大事な赤ちゃんがいるんだ。
無理をするな。
「……空はあいつらの手段を予想してるのか?」
学は気づいたらしい。
そんなに難しい事でもない。
FGはもともと学生や未成年の連中がメインのグループだ。
仕掛けて来るなら学生だろう。
そんなところに大人が介入するわけにいかないだろ。
冬眞達には注意するように伝えておく。
あとは母親にも注意するようにしておいた方がいい。
と、なるとやっぱり酒井君達を頼るしかない。
FGだけなら放っておいても大したことは出来ない。
だけど裏に暴力団がいるなら別だ。
潰すなら先にそっちだろう。
だけどそれは父さん達がすでに動いている。
ならFGの出方を伺うしかない。
何を企んでいるのかすら分からないのだから。
「ということはやっぱり皆で相談するしかないな」
光太が言う。
「すまない、身内の不始末を押し付けてるみたいで……」
「勝次も勘違いするな。お前はもうSHの人間なんだ」
どんな理由があろうと仲間を傷つける奴は容赦しない。
「2人とも空の指示が出るまでは妙な真似をするなよ」
喜一だって嫁さんの職業を考えたら表立って行動できないだろ。
「そうだな……」
「じゃ、今日はとりあえずこの辺にしとくか?あまり遅くまでいると麗華が五月蠅いんだ」
光太が言うと僕達は家に帰る。
「おかえり、何の話でした?」
美希には伝えておいた方がいいだろう。
説明する。
「まだ懲りてないのですね……」
しかしFGが動くまではこっちも動けない。
先に叩きつぶすという手がない事もないけど、下手につついて子供を危険に晒せない。
そろそろFGとの因縁を片付ける時が来たか。
だけど事態はもっとややこしい事になっていく。
(2)
「桃花さん大丈夫?」
昼休みの時間に食欲がない私を見て、片桐先輩が声をかけていた。
「大丈夫で……」
弁当を見てるだけで吐き気がする。
こらえきれなくなってお手洗いに駆け込む。
「ちょっと楠木さん!大丈夫なの!?」
最近ずっと続いている事だ。
病院に行ってみるかな。
しかしそれなりの仕事を任せられるようになってその時間を見つけられずにいた。
そんな様子を見ていた社長が言った。
「今日はもう帰りなさい。僕が送るよ。空は一緒に来て」
私の家から会社に戻る足がいるからと社長は言っていた。
「でも、今日は午後から外回りが」
「その件は僕と空で受け持つから心配しないで。桃花さんはすぐに帰り支度をしなさい」
社長がそう言うので私は帰る支度をする。
その間に社長と片桐先輩は私の仕事の分配を打合せしていた。
「じゃ、帰ろう」
そう言って社長は私の車に乗って私の家に帰る。
その間に色々聞かれた。
そして最後に言った。
「帰ったらすぐに病院に行って。タクシーを使いなさい。それとこの事は秋斗にはちゃんと伝えて」
どうせ何も相談してなかったんだろ?
社長はそう言った。
「申し訳ありません」
「女性なら当然そうなるよ。そのリスクも考慮して女性社員を雇っているんだから」
社長は原因を見抜いた?
「愛莉をずっと見て来たからね。何となく予想くらいするよ」
そう言って社長は笑っている。
家に着くととりあえず制服を着替えて、タクシーを手配する。
「お客さんどちらに行きますか?」
そう言われて気づいた。
どこの病院にいけばいいんだろう?
何科かわからない。
そういう時は総合病院に行くしかないか。
しかし待ち時間が長い状態を我慢できるだろうか?
考えていても仕方ない。
「西松病院までお願いします」
そう言って病院に行くと受付に事情を説明する。
その間もまた気持ち悪くなってきた。
「そちらの席で待っていてください」
すぐに手配するから。
私がベンチに座って少し横になる。
本当にすぐに呼び出された。
呼び出された先は産婦人科。
検査を受けてすぐに診断された。
「6週目くらいですね」
どうやら私は子供を授かったらしい。
しかし素直に喜べない。
秋斗はきっと喜んでくれる。
だけど、折角仕事を覚えはじめたのにもう退職なの?
社長の判断を聞くしかない。
こんな状態で仕事を続けても会社に迷惑をかけてしまう。
喜べばいいのか悲しむべきなのか分からないでいた。
家に帰るととりあえず秋斗にメッセージを送る。
「今日は早く帰って来て欲しい」
そう言って早く帰ってこなかった試しは一度もない。
18時頃には帰ってきてくれた。
「ただいま。どうしたんだ?」
「ゆっくり話したいからまずはご飯とお風呂済ませて」
「わかった」
その時に私があまり食べてないことに気づいたようだ。
「最近食欲無いみたいだけど、どこか悪いのか?」
「大丈夫、そういうものらしいから」
「……わかった」
多分私の話の内容と関係していると判断したのだろう。
急いでご飯を食べて風呂に入る。
その間に何から話せばいいか悩んでいた。
正直に言うしかないだろうな。
秋斗が風呂から出てくるとリビングで座っていた。
「で、どうしたの?」
「……赤ちゃんがいるみたい」
「本当か!?」
秋斗も驚いていた。
「いつ生まれるんだ?」
「来年の5月くらい」
「そっか。親には連絡した?」
「まだしてない」
「じゃあ、急いだ方がいいな。俺も親に報告するよ」
「待って!」
スマホで報告しようとする秋斗を止めた。
秋斗も感づいたのだろうか?
「そういえば赤ちゃん出来た割には嬉しくなさそうだな……何か問題あるのか?」
出産が難しいとか、危険があるとか。
「それはない。大丈夫だって医者は言ってた」
「じゃあ、どうしたんだろう」
少し悩んだけど思い切って打ち明けた。
こんな状態だけど仕事を続けたい。
出産間近になったら産休は取れるって聞いた。
しばらくの間育休も取れるって聞いた。
だけど育児に専念すべきなんじゃないだろうか?
秋斗の子供ということは白鳥グループを担う大切な子だ。
少しでも不安は取り除いた方がいいんじゃないか?
私が働きたいというのはただの我儘じゃないのか?
そんな事を話しているうちに泣きそうになる。
そんな私を秋斗は優しく抱いてくれる。
「そんな悩みなら大丈夫だよ」
秋斗は笑みをこぼす。
働きたいならそうすればいい。
共働きの家が多い世界で桃花だけは働いたらいけないなんて馬鹿な話はない。
桃花が働いてる間は母さんにでも世話を見てもらうよ。
それが無理なら保育所に預ける。
そんな簡単に保育所に入れられるか分からないけど白鳥グループだって大企業だ。
会社の中に託児所があるからそこに預けて俺が面倒みるよ。
自分が望む事をすればいい。
私の将来なんだから。
その為の夫婦なんだろ?
「……ありがとう」
「俺も協力出来る事があれば何でもするから一人で背負い込むな」
「うん」
「じゃ、とりあず親には報告しておいた方がいいからするよ」
そう言って私と秋斗の両親に説明する。
「そうね、そういう事なら桃花の仕事の間は私が世話するわ」
秋斗の母さんがそう言った。
初めての孫で嬉しいらしい。
どうせ家で暇を持て余してるから丁度いいと言っていた。
翌日会社に行くと社長に相談した。
「わかった。とりあえず桃花さんは内勤に専念して欲しい」
外回りは他の社員で分担する。
その代わり受付や事務の仕事を手伝ってやればいい。
仕事よりもまず赤ちゃんを優先しなさい。
社長はそう言った。
みんな「おめでとう」って祝ってくれた。
予定日が5月だから3月には産休を貰えるらしい。
一番忙しい時期に抜ける事になるけど仕方がないと社長は言った。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
そう言って頭を下げる。
「友達が言ってたんだけどね」
社長が言った。
「だから赤ちゃんの命は尊いんだ」
妊婦だけじゃない。
沢山の人の支えがあってようやく生まれてくる子供。
大事にしなさい。
「僕の友達も働きながら子供を産んだ女性なんていくらでもいるよ」
それが女性なんだ。
そういうものだとしっかり認識することが本当の男女平等につながるんだ。
男だからとか女だからとかじゃない。
女性の本来の役割を理解してやる事が大事なんだ。
女性が苦労して産む代わりにその環境を男が作ってやる。
それが本来の男女平等なんじゃないのか?
男に女の代わりは出来ないのだから。
「……ありがとうございます」
「じゃ、そろそろ皆仕事に戻ろうか」
社長がそう言うと皆机に戻る。
女性社員が「頑張って」と励ましてくれる。
女性社員だからこそ出来る気づかいをしてくれる。
家に帰ると段ボール箱が置いてあった。
なんだろう?
「あ、桃花お帰り。もうすぐ夕飯出来るから」
秋斗が先に帰っていた。
「秋斗早くない?」
「あ、父さんが配慮してくれた」
妊娠中の嫁の代わりにすることなんていくらでもあるから。
定時であがっていいからさっさと帰って嫁が食べられる料理くらい勉強しろって言われたらしい。
それは良いんだけど……。
「この段ボールは何?」
「レモン水」
へ?
妊婦でも気軽に補給できる水分だからまとめ買いしたらしい。
「ありがとう」
「このくらいなんてことないよ」
こうして私は人生の難関に挑むことになる。
妙だ。
勝次が僕達を呼び出した。
グルチャじゃダメなのか?と聞いたけど。全員に聞かせられる話じゃないと指名をしてきた。
僕と学と光太と喜一。
善明とかは下手に呼び出すと企業が傾く。
とりあえず個室のある居酒屋に呼び出された。
「わざわざすまない」
勝次は僕達に向かって頭を下げる。
「とりあえず用件を言え」
光太が言うと勝次が一言言った。
「FGの件について」
何かあったのか?
確かに天音達に言ったらすぐに殺しに行くだろう。
そのこと自体は問題ないんだろうけど、もっと厄介な事になっていそうだ。
それは勝次と喜一の表情を見ていたら分かる。
「説明してくれ」
僕が言うと勝次が説明を始める。
「3月に原川郁夫が殺されたのは知ってるよな?」
「ああ、使い物にならないから始末されたんだっけ?」
多分それだけじゃない。
そういう事を平気でやる連中だという警告のつもりだったんだろう。
しかし原川組は分かってなかった。
だから夏に父さん達「渡辺班」が動いて警告した。
それ以来目立った行動はしていないが鬱陶しい真似をしているのは父さん達から聞いている。
それはもう大人の戦争だからと志水グループや江口グループが動き出したみたいだ。
僕達は下手に手を出すな。
小さい子供だっているんだから。
だから静観していた。
しかしFGが動いたとなったらそういうわけにはいかない。
「で、それが今回の用件なのか?」
「俺が説明するよ」
喜一が代わって答えた。
臆病な原川郁夫についていく必要はないとFGは原川組と連絡を絶った。
それが今月に入って突然年上の男がやって来た。
「何の用だ?おっさん」
「口の利き方に気をつけろ。これから俺がお前らを統率する」
突然そう言ったらしい。
「何者だお前?」
「四宮達樹」
当然そんな男知らない。
「わけわかんない事言ってると殺すぞ。怪我しないうちにさっさと失せろ」
FGの連中は相手にしなかった。
だけど四宮は突然スーツを脱いで一緒に来ていた男に渡した。
「喧嘩は久しぶりだが、ガキ相手には丁度いい慣らしだろう」
そう言って四宮はFGのメンバーを挑発する。
「なめてんじゃねーぞ!おっさん」
そう言って体格のいいメンバーが四宮に殴りかかる。
それを躱して反対に殴り飛ばす四宮。
一発で意識を飛ばすくらいの威力はあったらしい。
一人殴り飛ばされると次々に襲い掛かる。
バットなどで武装してる奴もいた。
しかしそんなのお構いなしに殴り飛ばしたり、蹴り飛ばす四宮。
10人以上やられると戦意を失くしていた。
「どうした?小僧。俺はまだ全然疲れてないぞ」
四宮が言うけど誰も殴りかかろうとしなかった。
そんな様子を見て四宮がニヤリと笑う。
「じゃあ、もう文句は無いな。下手に逆らったら命は保証しない」
そうして原川組は再びFGを支配した。
そんな四宮を恐れてFGを抜けてSHに入りたいという奴もいたそうだ。
だけどそんなの僕の意見を聞くまでもない。
「ふざけるな。例え空が許したとしても俺が許さない」
勝次はそう言って追い返したらしい。
そんな勝ち馬ライダーを入れたところでまた面倒な作業が増える。
喜一もそれでいいと判断したそうだ。
言いたい事は大体わかった。
原川組が相変わらずFGの裏にいる。
そして今度の四宮という奴は原川と違うタイプの人間らしい。
逆らう奴には容赦しない。
勝次もFGのリーダーだった。
今のFGのリーダーから事情を聞いた。
FGでも喧嘩の強い奴がいる。
そいつらでも全く敵わなかったらしい。
もちろん四宮は素手だ。
銃を持ち出したり、靴のつま先から刃物がでるとかそういう小細工は一切ない。
かなり強い奴なんだろう。
そしてやり方も原川よりも数段に残酷らしい。
光太は知っていたようだ。
「テレビでやってたぜ。確か繁華街の公園で乱闘騒ぎがあったとかなんとか」
ああ、あれか。
「で、FGはどうするつもりなんだ?」
「多分またSHを潰そうとしてくると思う」
喜一が答えた。
手段は厭わない。
SHは強い反面幼い子供という急所を抱えている。
FGの勢力は再び大きくなっている。
全員狙われたりしたらひとたまりもない。
「どうする?」
光太が聞く。
そんなの最初から決まってる。
「相手にする必要あるの?」
勝手に盛り上がってるだけだろ。
手を出してくるまで放っておけばいい。
その上で子供を狙うような無謀な真似をするなら容赦しない。
暴力団だろうが私兵だろうがまとめて魚の餌にしてやる。
「勝次たちも余計な手をだすな」
お前だって加奈子さんがいるだろ?
喜一も言うまでもない。
大事な赤ちゃんがいるんだ。
無理をするな。
「……空はあいつらの手段を予想してるのか?」
学は気づいたらしい。
そんなに難しい事でもない。
FGはもともと学生や未成年の連中がメインのグループだ。
仕掛けて来るなら学生だろう。
そんなところに大人が介入するわけにいかないだろ。
冬眞達には注意するように伝えておく。
あとは母親にも注意するようにしておいた方がいい。
と、なるとやっぱり酒井君達を頼るしかない。
FGだけなら放っておいても大したことは出来ない。
だけど裏に暴力団がいるなら別だ。
潰すなら先にそっちだろう。
だけどそれは父さん達がすでに動いている。
ならFGの出方を伺うしかない。
何を企んでいるのかすら分からないのだから。
「ということはやっぱり皆で相談するしかないな」
光太が言う。
「すまない、身内の不始末を押し付けてるみたいで……」
「勝次も勘違いするな。お前はもうSHの人間なんだ」
どんな理由があろうと仲間を傷つける奴は容赦しない。
「2人とも空の指示が出るまでは妙な真似をするなよ」
喜一だって嫁さんの職業を考えたら表立って行動できないだろ。
「そうだな……」
「じゃ、今日はとりあえずこの辺にしとくか?あまり遅くまでいると麗華が五月蠅いんだ」
光太が言うと僕達は家に帰る。
「おかえり、何の話でした?」
美希には伝えておいた方がいいだろう。
説明する。
「まだ懲りてないのですね……」
しかしFGが動くまではこっちも動けない。
先に叩きつぶすという手がない事もないけど、下手につついて子供を危険に晒せない。
そろそろFGとの因縁を片付ける時が来たか。
だけど事態はもっとややこしい事になっていく。
(2)
「桃花さん大丈夫?」
昼休みの時間に食欲がない私を見て、片桐先輩が声をかけていた。
「大丈夫で……」
弁当を見てるだけで吐き気がする。
こらえきれなくなってお手洗いに駆け込む。
「ちょっと楠木さん!大丈夫なの!?」
最近ずっと続いている事だ。
病院に行ってみるかな。
しかしそれなりの仕事を任せられるようになってその時間を見つけられずにいた。
そんな様子を見ていた社長が言った。
「今日はもう帰りなさい。僕が送るよ。空は一緒に来て」
私の家から会社に戻る足がいるからと社長は言っていた。
「でも、今日は午後から外回りが」
「その件は僕と空で受け持つから心配しないで。桃花さんはすぐに帰り支度をしなさい」
社長がそう言うので私は帰る支度をする。
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「じゃ、帰ろう」
そう言って社長は私の車に乗って私の家に帰る。
その間に色々聞かれた。
そして最後に言った。
「帰ったらすぐに病院に行って。タクシーを使いなさい。それとこの事は秋斗にはちゃんと伝えて」
どうせ何も相談してなかったんだろ?
社長はそう言った。
「申し訳ありません」
「女性なら当然そうなるよ。そのリスクも考慮して女性社員を雇っているんだから」
社長は原因を見抜いた?
「愛莉をずっと見て来たからね。何となく予想くらいするよ」
そう言って社長は笑っている。
家に着くととりあえず制服を着替えて、タクシーを手配する。
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そう言われて気づいた。
どこの病院にいけばいいんだろう?
何科かわからない。
そういう時は総合病院に行くしかないか。
しかし待ち時間が長い状態を我慢できるだろうか?
考えていても仕方ない。
「西松病院までお願いします」
そう言って病院に行くと受付に事情を説明する。
その間もまた気持ち悪くなってきた。
「そちらの席で待っていてください」
すぐに手配するから。
私がベンチに座って少し横になる。
本当にすぐに呼び出された。
呼び出された先は産婦人科。
検査を受けてすぐに診断された。
「6週目くらいですね」
どうやら私は子供を授かったらしい。
しかし素直に喜べない。
秋斗はきっと喜んでくれる。
だけど、折角仕事を覚えはじめたのにもう退職なの?
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こんな状態で仕事を続けても会社に迷惑をかけてしまう。
喜べばいいのか悲しむべきなのか分からないでいた。
家に帰るととりあえず秋斗にメッセージを送る。
「今日は早く帰って来て欲しい」
そう言って早く帰ってこなかった試しは一度もない。
18時頃には帰ってきてくれた。
「ただいま。どうしたんだ?」
「ゆっくり話したいからまずはご飯とお風呂済ませて」
「わかった」
その時に私があまり食べてないことに気づいたようだ。
「最近食欲無いみたいだけど、どこか悪いのか?」
「大丈夫、そういうものらしいから」
「……わかった」
多分私の話の内容と関係していると判断したのだろう。
急いでご飯を食べて風呂に入る。
その間に何から話せばいいか悩んでいた。
正直に言うしかないだろうな。
秋斗が風呂から出てくるとリビングで座っていた。
「で、どうしたの?」
「……赤ちゃんがいるみたい」
「本当か!?」
秋斗も驚いていた。
「いつ生まれるんだ?」
「来年の5月くらい」
「そっか。親には連絡した?」
「まだしてない」
「じゃあ、急いだ方がいいな。俺も親に報告するよ」
「待って!」
スマホで報告しようとする秋斗を止めた。
秋斗も感づいたのだろうか?
「そういえば赤ちゃん出来た割には嬉しくなさそうだな……何か問題あるのか?」
出産が難しいとか、危険があるとか。
「それはない。大丈夫だって医者は言ってた」
「じゃあ、どうしたんだろう」
少し悩んだけど思い切って打ち明けた。
こんな状態だけど仕事を続けたい。
出産間近になったら産休は取れるって聞いた。
しばらくの間育休も取れるって聞いた。
だけど育児に専念すべきなんじゃないだろうか?
秋斗の子供ということは白鳥グループを担う大切な子だ。
少しでも不安は取り除いた方がいいんじゃないか?
私が働きたいというのはただの我儘じゃないのか?
そんな事を話しているうちに泣きそうになる。
そんな私を秋斗は優しく抱いてくれる。
「そんな悩みなら大丈夫だよ」
秋斗は笑みをこぼす。
働きたいならそうすればいい。
共働きの家が多い世界で桃花だけは働いたらいけないなんて馬鹿な話はない。
桃花が働いてる間は母さんにでも世話を見てもらうよ。
それが無理なら保育所に預ける。
そんな簡単に保育所に入れられるか分からないけど白鳥グループだって大企業だ。
会社の中に託児所があるからそこに預けて俺が面倒みるよ。
自分が望む事をすればいい。
私の将来なんだから。
その為の夫婦なんだろ?
「……ありがとう」
「俺も協力出来る事があれば何でもするから一人で背負い込むな」
「うん」
「じゃ、とりあず親には報告しておいた方がいいからするよ」
そう言って私と秋斗の両親に説明する。
「そうね、そういう事なら桃花の仕事の間は私が世話するわ」
秋斗の母さんがそう言った。
初めての孫で嬉しいらしい。
どうせ家で暇を持て余してるから丁度いいと言っていた。
翌日会社に行くと社長に相談した。
「わかった。とりあえず桃花さんは内勤に専念して欲しい」
外回りは他の社員で分担する。
その代わり受付や事務の仕事を手伝ってやればいい。
仕事よりもまず赤ちゃんを優先しなさい。
社長はそう言った。
みんな「おめでとう」って祝ってくれた。
予定日が5月だから3月には産休を貰えるらしい。
一番忙しい時期に抜ける事になるけど仕方がないと社長は言った。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
そう言って頭を下げる。
「友達が言ってたんだけどね」
社長が言った。
「だから赤ちゃんの命は尊いんだ」
妊婦だけじゃない。
沢山の人の支えがあってようやく生まれてくる子供。
大事にしなさい。
「僕の友達も働きながら子供を産んだ女性なんていくらでもいるよ」
それが女性なんだ。
そういうものだとしっかり認識することが本当の男女平等につながるんだ。
男だからとか女だからとかじゃない。
女性の本来の役割を理解してやる事が大事なんだ。
女性が苦労して産む代わりにその環境を男が作ってやる。
それが本来の男女平等なんじゃないのか?
男に女の代わりは出来ないのだから。
「……ありがとうございます」
「じゃ、そろそろ皆仕事に戻ろうか」
社長がそう言うと皆机に戻る。
女性社員が「頑張って」と励ましてくれる。
女性社員だからこそ出来る気づかいをしてくれる。
家に帰ると段ボール箱が置いてあった。
なんだろう?
「あ、桃花お帰り。もうすぐ夕飯出来るから」
秋斗が先に帰っていた。
「秋斗早くない?」
「あ、父さんが配慮してくれた」
妊娠中の嫁の代わりにすることなんていくらでもあるから。
定時であがっていいからさっさと帰って嫁が食べられる料理くらい勉強しろって言われたらしい。
それは良いんだけど……。
「この段ボールは何?」
「レモン水」
へ?
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兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
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