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(1)
「おいお前ら、無視してんじゃねーぞ」
少しは勉強したらしい。
陽葵達や結を刺激したらやばいと思ったのだろう。
そこで僕が目をつけられた。
まだ幼稚園に通うようになって2ヶ月しか経ってないのに面倒なことになった。
「おい、話聞いてんのか。四宮君がお前に用があるって言ってるんだよ!」
誰でも関係ないよ。
どうしてそっとしておいてくれないのだろう。
「用って何?」
とりあえず聞いてみることにした。
「FGに入るか金を出すか……」
その園児は最後までセリフを言わせてもらえずに石原茉莉に殴り飛ばされた。
「これで満足か?」
殴り飛ばしたことを悪びれる様子もなく聞く茉莉。
「ふ、ふざけんな」
「ふざけてんのはてめーの髪型だこの間抜け!」
結莉がもう一人を蹴飛ばす。
まずい、騒ぎが大きくなる。
そうなると結や陽葵達が気づく。
「き、君たちの申し出はお断りするよ。早いところ立ち去ったほうがいい」
「秋久!こんなやつ埋めたらいいだろ!」
茉莉がそう言ってるけど、早くこの事態を収拾しないと大惨事になる。
「あまり調子に乗ってるとそのきれいな顔に傷くらい入れても……」
直感的に何かが飛んでくるのを悟った僕はそれを瞬時に受け止めた。
医療で使うメスのようなものだった。
「やるじゃん。少しは楽しませてくれそうだな」
にやりと笑う四宮君。
しかし時間切れだ。
結が四宮君の腕を掴んでいた。
「虫くらいじゃ物足りなかったか?」
そう言って結が四宮君を睨みつけると途端に四宮君が「熱い!」と叫びながら床をのたうち回る。
「うるさいから外で遊んでろ」
そう言って結が四宮君を外に蹴飛ばす。
別に四宮君が燃えているわけじゃない。
「結、あれは私達のおもちゃだぞ!」
「だったら俺が代わりに遊んでやるよ」
何をして遊ぶんだ?
結が言うと結莉も茉莉も黙って陽葵達と殴り合いを再開。
「鬱陶しい連中だな。そんなに動いて面倒じゃないのか?」
結はそう言って茉奈と絵本を読んでいる。
動物の絵本だ。
「うさぎさん可愛いね」
「天音があんまりおいしくないって言ってたぞ」
「じゃあ、象さんは?」
「聞いた事ない」
ただ昔のアニメでマンモスを狩って肉を食うという物があった。
似たようなものだから食えるんじゃないかというのが結の主張。
実際は食用で使われている国もあるけど、基本的に条約で象の取引が規制されてるから難しい。
これが3歳のカップルの会話なのかどうかは知らない。
すると保母さんさんが来た。
すぐに庭で悲鳴を上げながら地面を転げまわっている四宮君を見つけた。
「何をやってるの?」
「新しい創作ダンスってやつじゃないの?」
桐谷琴音が答える。
しかしこれ以上の騒動を嫌った結が能力を解除した。
半泣きの四宮君に近づくと一言いう。
「3度目はないぞ。今度鬱陶しい真似したら間違いなく殺すからな」
その一言が致命傷になり結はまた親を呼び出される。
「怪我なかったからいいじゃない」
結の母親は一言そう言った。
「そういう問題じゃなくてですね」
「何が問題なのですか?」
最初に凶器を投げつけたのは四宮君でしょ。
だったら四宮君を注意するのが筋じゃないのか?
結の母親はそう言う。
「お願いですから3年間だけ大人しくするようにご指導願えませんか?」
「それは大丈夫です。あの子主人そっくりですから」
自分から面倒事をするような子じゃない。
結が動く事があるとしたら、それはあの子に何かちょっかいを出した時だけだと母親が言って解放されたらしい。
一方僕たちは皆と家に帰っていた。
「秋久は腰抜けか?」
「結がいるのに暴れたら家屋倒壊は免れないよ」
「だったら今はいいんだな」
「……懲りない連中だね」
何となく気づいていたけどね。
茉莉の様子を見るとも気づいてたんだろう。
喧嘩は強いし能力は認めるけど残念な部分がある。
殺気を向き出しにし過ぎだ。
それで尾行なんて無理だよ。
まあ、気づいてしまう僕も普通の幼稚園児じゃないと思うけど。
結果論から言うと僕は四宮達の仲間に囲まれていた。
「どういうつもりだい?」
「あんまり舐められっぱなしだとこっちも示しがつかないから」
凄い思考の幼稚園児だね。
人数は圧倒的に不利。
だけどみた感じ強いのは四宮と神谷の2人だけの様だ。
後はどうにでもなるだろうけど。
ただここで乱闘騒ぎを起こすのは幼稚園児としては不自然な気がする。
だから落ち着いて幼稚園児らしい行動を起こす。
ポケットから取り出した防犯ブザーを鳴らす。
すると酒井家の警護員が駆けつける。
四宮は臆する事無くまた例のプラズマを発生させようとする。
同じ手は二度は通じない。
前回そんな話をしていたけどその通りだと思う。
そんなの構わずプラズマを放つ四宮。
しかしそれは僕達の前に届く事はなかった。
届く前に消えたから。
一つは相手の能力を真似する「模倣」
もう一つは相手の能力を把握する「察知」
模倣には制限がある。
同時に二つ以上の能力は発現出来ない。
父さん達は力づくの戦闘だったけど僕達の世代はそんな単純なものじゃなかった。
相手に手の内を晒さずに相手の能力を見破る。
いかに相手に力を使わせずに抑え込むか。
そんな戦闘にはうってつけの能力だった。
だって……
四宮は再びプラズマを発生させようとするが出来ない。
四宮は焦っていた。
理由は簡単。
陽葵が見ていたから。
陽葵の持つ能力”貪欲”は”模倣”とは違い相手から無理矢理能力を奪い取る。
奪い取られた能力は使うことが出来ない。
彼の最大の攻撃はそれだけの様だ。
一つでも能力を奪っておきたいからね。
奪ってしまえば後は簡単だ。
2種類以上の能力は同時に使えないけど一人からだけという制約はない。
簡単だよ。
相手がどんな能力を持っていようと関係ない。
結の父さん達が言っていたそうだよ
切り札は先に見せたらだめ。
「もう打ち止めかい?」
こっちは大人の警備員もいるんだ。
今日は大人しく下がった方がいいよ?
彼は舌打ちをして手下を連れて去って行った。
最初の一発目がどうして消えたのか?
結や石原姉妹、多分菫と陽葵も持っている能力。
ステイシス。
停滞を意味するらしい。
僕が把握できる範囲内では能力の使用が無効になる。
結達は相手のみ封じ込めるという便利な物。
結のステイシス・ルーラーはさらに特性があるそうだけど。
それは僕でも模倣出来ない素質。
結の能力は総称して”炎の皇帝”と称されているそうだよ。
一度にいくつもの能力を発動させる。
結は際限なく能力を作り出す。
彼等が去って行ったのを確認して僕達も帰って行った。
黙っておきたかったのだけど茉莉が天音に話した。
「次からは証拠を残さないように殺してこい」
天音はそう言って頭を撫でてくれたそうだ。
それでいいのか母親。
(2)
家に帰ると夕食の時に茉莉から幼稚園での事件の事を聞いた。
結には勝てないと思ったらしくて秋久を狙ったらしい。
ふざけた真似しやがって。
この手でぶっ殺したいところだがさすがに親がガキの喧嘩に介入するわけにはいかない。
そんな馬鹿な真似をするのは面の皮の厚いババアだけだ。
3歳で自殺志願者が出たのか。
「天音、わかっているとは思うけど……」
「そうだな。まずは様子を見よう」
ガキの喧嘩で済んでいるのならそれに越したことはない。
大人の戦争に持ち込みたいならまた考えたらいい。
まだ戦う事の出来ない子供だっている。
それにしても……。
「大変なことになったな」
「そうだな」
巨大なプラズマを発生させる幼稚園児なんて恐ろしい。
大地がそう言ったけど私は首を振った。
「そうじゃねーよ」
プラズマを発生させた四宮でも能力を使って鎮圧した結でもない。
手持ちの能力をうまく運用している秋久だ。
切り札の使い方といい手札の増やし方といい幼稚園児がする戦闘じゃない。
結や茉莉に結莉、陽葵達はその能力を発揮させ強さだけで押し切ろうとするのに対して、秋久は自分の手札を増やしながら全てを見せずに最小限で済ませようとしている。
強いのは結だろうけど戦闘の上手さは秋久だ。
陽葵や菫も茉莉や結莉と対等に戦闘している。
まだ能力を誰も発揮してないけどそのうち何か発動するだろう。
あの子達とは強さの質が違う。
空の言い方をすれば手札を見せるタイミングを心得ているんだろうな。
まさかそんな形で結並みの強さを作るとは思ってなかった。
今言ったことをたった3歳の子がするんだ。
恐ろしさでいったら結を越えるかもしれない。
結も次から次へと能力を増やしているけど、そばで見ている秋久も同様に増やしていくんだ。
うまい具合に”複数の能力を同時には使えない”という弱点を把握して隠して戦う。
そしてどんなに能力を増やしていこうとステイシスという切り札を得た。
現段階なら結とまともに張り合える唯一の子供かもしれない。
結に劣るスピードやパワーを恐らく技で補うだろう。
とんでもない子を作り出したのは大地や空と変わらないようだ。
「天音が言うんだからそうなんだろうな。まさか結と張り合う能力とはね」
「パパレベルの戦闘能力だよ。それを3歳でやってのけるんだから小さい頃の私を超えてるよ」
「なるほど……でも、結莉や茉莉は心配だね」
「どうしてだ?」
「幼稚園の時から菫達と張り合って喧嘩してるなんて女の子としてどうなの?」
大地はそう言って笑っていた。
(3)
善明や翼は隠していた。
しかし秋久がミスを犯した。
それは防犯ブザーを鳴らして警護を呼んだ事。
当然酒井家の者だから僕達に報告が入る。
孫の事だから当然だ。
そして晶ちゃんが激怒する。
「大したこと無いと思って黙っていたら、ふざけた真似してくれるわね」
晶ちゃんを怒らせたら僕にも止める術がない。
「四宮や神谷が関わっているならリベリオンでしょ?片桐君に相談してみたらどうだい?」
そうやって片桐君に全部押し付けた。
ごめんよ。
で、今片桐君の会社に4大企業のトップが揃っている。
そのトップが片桐君の指示を求めていた。
「その話は空から聞いたよ」
結は良くも悪くも素直な子だ。
美希が呼び出されて事情を聞いていた。
流石に死人が出てもおかしくなさそうな事態なので父親に指示を仰いだ。
もっとも実家に電話したので茉莉と菫の乱闘ごっこも愛莉さんが知った。
天音は厳重注意されたそうだよ。
やっぱりもっとしっかり教育しておくべきだったのだろうか?
あの世代は順調に世界を破壊しようとしている。
空の王といわれた空の子供だ。
能力の名前からして「皇帝」とでも言わせたいのだろうか?
そして片桐君もやはり善明達と同じ意見なようだ。
秋久の能力の使い方が異常なまでに上手すぎる。
そして自分の役割を心得ている。
面倒事は避けたいけど結達が動き出したら取り返しのつかない事態になる。
だから秋久がしかたなくまず前出ている様だ。
それだけで立派だと思うんだけどね。
石原君も恵美さんを説得して結莉と茉莉には訓練はしないようにしたらしい。
と、いっても銃器の扱い方くらいはレクチャーするらしいけど。
ってそれで大丈夫なのかい?
話はそれたけど最大の問題は神谷が率いるリベリオンだ。
僕達に復讐するという無謀な目的を持った集団。
まさか幼稚園児にまでいたとは思っても見なかった。
特殊能力については片桐君も石原君もあまり重要視していない。
だって結や結莉たちは全部無効化するフィールドを展開するのだから。
むしろあの子達に危害というより関係ない子供を巻き込む方が怖い。
幸いにもFGは結の警告に恐れをなして全く関わらなくなったようだけど。
片桐君は少し考えて決断した。
「様子を見よう」
そんな危険な人物がいるのに放っておくのか?
むしろ危険なのは陽葵や結を刺激した時なんだけどね。
「その四宮も秋久には敵わなかったのだろ?」
「まあ、そうですね」
秋久の戦闘能力は異常だ。
能力の使い化が異常に上手すぎる。
もちろんそんな使い方なんて教えていないよ。
教え方が分からないんだから。
片桐君も同じ考えの様だ。
「今一番注意しないといけないのは彼等が暴れて結達を挑発した時」
何も考えてないから何をしでかすか分からない。
だから秋久が上手くあの子達を怒らせる前に処理することが大事だ。
秋久がしくじったら、最小でも家屋倒壊。
とんだ重荷を背負わされた孫に同情するよ。
「でもさすが片桐君の血をもってるわね。そんな力を隠し持ってるとは思わなかった」
親ですら気づかなかったのだから無理もない。
「多分酒井君達は薄々気づいてると思うけど、何でも力づくってわけには今回はいかない」
今までなら海外にボランティアに従事させるだけで済む。
しかしその兵隊が一番危険に晒されることになる。
子供の争いは子供に任せておけばいいだろう。
そうなるようにあの子達の異常な力があるんだから。
「気になる事もあるしね」
「それはなに?」
恵美さんが聞いていた。
「簡単だよ。それだけの組織を作ったんだ。背後に何かいるだろ」
それが日系のマフィアだけだとは思えない。
もっと表の顔があるはず。
それを探ってから葬る手もあるから、まずは様子見しよう。
「確かにそうね。じゃあ、神谷友恵という人間を探ってみるわ」
恵美さんが言うととりあえず事務所を出る。
「もう僕たちが直接動くにはしんどい年だ、あとは子供に任せよう」
その援護をしてやるだけでいい。
後始末くらいは手伝ってやろう。
「出来れば孫を暴れさせるような事態になる事だけは避けたいけどね」
片桐君は笑っているけど、それで困っているのは空じゃないのかい?
「おいお前ら、無視してんじゃねーぞ」
少しは勉強したらしい。
陽葵達や結を刺激したらやばいと思ったのだろう。
そこで僕が目をつけられた。
まだ幼稚園に通うようになって2ヶ月しか経ってないのに面倒なことになった。
「おい、話聞いてんのか。四宮君がお前に用があるって言ってるんだよ!」
誰でも関係ないよ。
どうしてそっとしておいてくれないのだろう。
「用って何?」
とりあえず聞いてみることにした。
「FGに入るか金を出すか……」
その園児は最後までセリフを言わせてもらえずに石原茉莉に殴り飛ばされた。
「これで満足か?」
殴り飛ばしたことを悪びれる様子もなく聞く茉莉。
「ふ、ふざけんな」
「ふざけてんのはてめーの髪型だこの間抜け!」
結莉がもう一人を蹴飛ばす。
まずい、騒ぎが大きくなる。
そうなると結や陽葵達が気づく。
「き、君たちの申し出はお断りするよ。早いところ立ち去ったほうがいい」
「秋久!こんなやつ埋めたらいいだろ!」
茉莉がそう言ってるけど、早くこの事態を収拾しないと大惨事になる。
「あまり調子に乗ってるとそのきれいな顔に傷くらい入れても……」
直感的に何かが飛んでくるのを悟った僕はそれを瞬時に受け止めた。
医療で使うメスのようなものだった。
「やるじゃん。少しは楽しませてくれそうだな」
にやりと笑う四宮君。
しかし時間切れだ。
結が四宮君の腕を掴んでいた。
「虫くらいじゃ物足りなかったか?」
そう言って結が四宮君を睨みつけると途端に四宮君が「熱い!」と叫びながら床をのたうち回る。
「うるさいから外で遊んでろ」
そう言って結が四宮君を外に蹴飛ばす。
別に四宮君が燃えているわけじゃない。
「結、あれは私達のおもちゃだぞ!」
「だったら俺が代わりに遊んでやるよ」
何をして遊ぶんだ?
結が言うと結莉も茉莉も黙って陽葵達と殴り合いを再開。
「鬱陶しい連中だな。そんなに動いて面倒じゃないのか?」
結はそう言って茉奈と絵本を読んでいる。
動物の絵本だ。
「うさぎさん可愛いね」
「天音があんまりおいしくないって言ってたぞ」
「じゃあ、象さんは?」
「聞いた事ない」
ただ昔のアニメでマンモスを狩って肉を食うという物があった。
似たようなものだから食えるんじゃないかというのが結の主張。
実際は食用で使われている国もあるけど、基本的に条約で象の取引が規制されてるから難しい。
これが3歳のカップルの会話なのかどうかは知らない。
すると保母さんさんが来た。
すぐに庭で悲鳴を上げながら地面を転げまわっている四宮君を見つけた。
「何をやってるの?」
「新しい創作ダンスってやつじゃないの?」
桐谷琴音が答える。
しかしこれ以上の騒動を嫌った結が能力を解除した。
半泣きの四宮君に近づくと一言いう。
「3度目はないぞ。今度鬱陶しい真似したら間違いなく殺すからな」
その一言が致命傷になり結はまた親を呼び出される。
「怪我なかったからいいじゃない」
結の母親は一言そう言った。
「そういう問題じゃなくてですね」
「何が問題なのですか?」
最初に凶器を投げつけたのは四宮君でしょ。
だったら四宮君を注意するのが筋じゃないのか?
結の母親はそう言う。
「お願いですから3年間だけ大人しくするようにご指導願えませんか?」
「それは大丈夫です。あの子主人そっくりですから」
自分から面倒事をするような子じゃない。
結が動く事があるとしたら、それはあの子に何かちょっかいを出した時だけだと母親が言って解放されたらしい。
一方僕たちは皆と家に帰っていた。
「秋久は腰抜けか?」
「結がいるのに暴れたら家屋倒壊は免れないよ」
「だったら今はいいんだな」
「……懲りない連中だね」
何となく気づいていたけどね。
茉莉の様子を見るとも気づいてたんだろう。
喧嘩は強いし能力は認めるけど残念な部分がある。
殺気を向き出しにし過ぎだ。
それで尾行なんて無理だよ。
まあ、気づいてしまう僕も普通の幼稚園児じゃないと思うけど。
結果論から言うと僕は四宮達の仲間に囲まれていた。
「どういうつもりだい?」
「あんまり舐められっぱなしだとこっちも示しがつかないから」
凄い思考の幼稚園児だね。
人数は圧倒的に不利。
だけどみた感じ強いのは四宮と神谷の2人だけの様だ。
後はどうにでもなるだろうけど。
ただここで乱闘騒ぎを起こすのは幼稚園児としては不自然な気がする。
だから落ち着いて幼稚園児らしい行動を起こす。
ポケットから取り出した防犯ブザーを鳴らす。
すると酒井家の警護員が駆けつける。
四宮は臆する事無くまた例のプラズマを発生させようとする。
同じ手は二度は通じない。
前回そんな話をしていたけどその通りだと思う。
そんなの構わずプラズマを放つ四宮。
しかしそれは僕達の前に届く事はなかった。
届く前に消えたから。
一つは相手の能力を真似する「模倣」
もう一つは相手の能力を把握する「察知」
模倣には制限がある。
同時に二つ以上の能力は発現出来ない。
父さん達は力づくの戦闘だったけど僕達の世代はそんな単純なものじゃなかった。
相手に手の内を晒さずに相手の能力を見破る。
いかに相手に力を使わせずに抑え込むか。
そんな戦闘にはうってつけの能力だった。
だって……
四宮は再びプラズマを発生させようとするが出来ない。
四宮は焦っていた。
理由は簡単。
陽葵が見ていたから。
陽葵の持つ能力”貪欲”は”模倣”とは違い相手から無理矢理能力を奪い取る。
奪い取られた能力は使うことが出来ない。
彼の最大の攻撃はそれだけの様だ。
一つでも能力を奪っておきたいからね。
奪ってしまえば後は簡単だ。
2種類以上の能力は同時に使えないけど一人からだけという制約はない。
簡単だよ。
相手がどんな能力を持っていようと関係ない。
結の父さん達が言っていたそうだよ
切り札は先に見せたらだめ。
「もう打ち止めかい?」
こっちは大人の警備員もいるんだ。
今日は大人しく下がった方がいいよ?
彼は舌打ちをして手下を連れて去って行った。
最初の一発目がどうして消えたのか?
結や石原姉妹、多分菫と陽葵も持っている能力。
ステイシス。
停滞を意味するらしい。
僕が把握できる範囲内では能力の使用が無効になる。
結達は相手のみ封じ込めるという便利な物。
結のステイシス・ルーラーはさらに特性があるそうだけど。
それは僕でも模倣出来ない素質。
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一度にいくつもの能力を発動させる。
結は際限なく能力を作り出す。
彼等が去って行ったのを確認して僕達も帰って行った。
黙っておきたかったのだけど茉莉が天音に話した。
「次からは証拠を残さないように殺してこい」
天音はそう言って頭を撫でてくれたそうだ。
それでいいのか母親。
(2)
家に帰ると夕食の時に茉莉から幼稚園での事件の事を聞いた。
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ふざけた真似しやがって。
この手でぶっ殺したいところだがさすがに親がガキの喧嘩に介入するわけにはいかない。
そんな馬鹿な真似をするのは面の皮の厚いババアだけだ。
3歳で自殺志願者が出たのか。
「天音、わかっているとは思うけど……」
「そうだな。まずは様子を見よう」
ガキの喧嘩で済んでいるのならそれに越したことはない。
大人の戦争に持ち込みたいならまた考えたらいい。
まだ戦う事の出来ない子供だっている。
それにしても……。
「大変なことになったな」
「そうだな」
巨大なプラズマを発生させる幼稚園児なんて恐ろしい。
大地がそう言ったけど私は首を振った。
「そうじゃねーよ」
プラズマを発生させた四宮でも能力を使って鎮圧した結でもない。
手持ちの能力をうまく運用している秋久だ。
切り札の使い方といい手札の増やし方といい幼稚園児がする戦闘じゃない。
結や茉莉に結莉、陽葵達はその能力を発揮させ強さだけで押し切ろうとするのに対して、秋久は自分の手札を増やしながら全てを見せずに最小限で済ませようとしている。
強いのは結だろうけど戦闘の上手さは秋久だ。
陽葵や菫も茉莉や結莉と対等に戦闘している。
まだ能力を誰も発揮してないけどそのうち何か発動するだろう。
あの子達とは強さの質が違う。
空の言い方をすれば手札を見せるタイミングを心得ているんだろうな。
まさかそんな形で結並みの強さを作るとは思ってなかった。
今言ったことをたった3歳の子がするんだ。
恐ろしさでいったら結を越えるかもしれない。
結も次から次へと能力を増やしているけど、そばで見ている秋久も同様に増やしていくんだ。
うまい具合に”複数の能力を同時には使えない”という弱点を把握して隠して戦う。
そしてどんなに能力を増やしていこうとステイシスという切り札を得た。
現段階なら結とまともに張り合える唯一の子供かもしれない。
結に劣るスピードやパワーを恐らく技で補うだろう。
とんでもない子を作り出したのは大地や空と変わらないようだ。
「天音が言うんだからそうなんだろうな。まさか結と張り合う能力とはね」
「パパレベルの戦闘能力だよ。それを3歳でやってのけるんだから小さい頃の私を超えてるよ」
「なるほど……でも、結莉や茉莉は心配だね」
「どうしてだ?」
「幼稚園の時から菫達と張り合って喧嘩してるなんて女の子としてどうなの?」
大地はそう言って笑っていた。
(3)
善明や翼は隠していた。
しかし秋久がミスを犯した。
それは防犯ブザーを鳴らして警護を呼んだ事。
当然酒井家の者だから僕達に報告が入る。
孫の事だから当然だ。
そして晶ちゃんが激怒する。
「大したこと無いと思って黙っていたら、ふざけた真似してくれるわね」
晶ちゃんを怒らせたら僕にも止める術がない。
「四宮や神谷が関わっているならリベリオンでしょ?片桐君に相談してみたらどうだい?」
そうやって片桐君に全部押し付けた。
ごめんよ。
で、今片桐君の会社に4大企業のトップが揃っている。
そのトップが片桐君の指示を求めていた。
「その話は空から聞いたよ」
結は良くも悪くも素直な子だ。
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やっぱりもっとしっかり教育しておくべきだったのだろうか?
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それだけで立派だと思うんだけどね。
石原君も恵美さんを説得して結莉と茉莉には訓練はしないようにしたらしい。
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ってそれで大丈夫なのかい?
話はそれたけど最大の問題は神谷が率いるリベリオンだ。
僕達に復讐するという無謀な目的を持った集団。
まさか幼稚園児にまでいたとは思っても見なかった。
特殊能力については片桐君も石原君もあまり重要視していない。
だって結や結莉たちは全部無効化するフィールドを展開するのだから。
むしろあの子達に危害というより関係ない子供を巻き込む方が怖い。
幸いにもFGは結の警告に恐れをなして全く関わらなくなったようだけど。
片桐君は少し考えて決断した。
「様子を見よう」
そんな危険な人物がいるのに放っておくのか?
むしろ危険なのは陽葵や結を刺激した時なんだけどね。
「その四宮も秋久には敵わなかったのだろ?」
「まあ、そうですね」
秋久の戦闘能力は異常だ。
能力の使い化が異常に上手すぎる。
もちろんそんな使い方なんて教えていないよ。
教え方が分からないんだから。
片桐君も同じ考えの様だ。
「今一番注意しないといけないのは彼等が暴れて結達を挑発した時」
何も考えてないから何をしでかすか分からない。
だから秋久が上手くあの子達を怒らせる前に処理することが大事だ。
秋久がしくじったら、最小でも家屋倒壊。
とんだ重荷を背負わされた孫に同情するよ。
「でもさすが片桐君の血をもってるわね。そんな力を隠し持ってるとは思わなかった」
親ですら気づかなかったのだから無理もない。
「多分酒井君達は薄々気づいてると思うけど、何でも力づくってわけには今回はいかない」
今までなら海外にボランティアに従事させるだけで済む。
しかしその兵隊が一番危険に晒されることになる。
子供の争いは子供に任せておけばいいだろう。
そうなるようにあの子達の異常な力があるんだから。
「気になる事もあるしね」
「それはなに?」
恵美さんが聞いていた。
「簡単だよ。それだけの組織を作ったんだ。背後に何かいるだろ」
それが日系のマフィアだけだとは思えない。
もっと表の顔があるはず。
それを探ってから葬る手もあるから、まずは様子見しよう。
「確かにそうね。じゃあ、神谷友恵という人間を探ってみるわ」
恵美さんが言うととりあえず事務所を出る。
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その援護をしてやるだけでいい。
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私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
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