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Der Freischutz
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(1)
「初めまして……かな?」
僕は一人の大人の女性と対面していた。
金髪のストレートロングヘア。
額にはあざがある。
とても背の高い彼女は赤いスーツがとてもよく似合う。
彼女は葉巻を咥えて噴水の周りを囲むコンクリートに座っていた。
僕とカミラをじっと睨みつけている。
彼女が「エリツィンの恋人」のボス。
彼女がここにいる理由が僕達がそうなるように誘ったから。
たかがガキ2人と侮っている。
僕とカミラは笑顔でいつでも彼女を殺す準備をしていた。
しかし彼女はじっとこっちを睨みつけたまま言った。
「初めまして。とりあえずこの前のおいたの事は謝って貰おうかしら。二人とも、とりあえずそこに跪きなさいな」
許しを請うのはそれからだという。
そんな要求に従う理由はない。
「そんなこと言って余裕見せてるけど本当は怖いんじゃないの?」
「跪け!」
するとカミラが突然「カミル!」と僕の名前を呼んで突き飛ばす。
僕がいた場所にはカミラが立っている。そしてカミラの肩を一発の銃弾が撃ちぬいた。
「カミラ!」
その場に倒れるカミラを支える。
「だから言っただろ”跪け”と」
跪いていたら銃弾は僕たちの頭上を通過していたのにと表情一つ変えずに言う。
「カミラ、大丈夫?」
「カミル……無事?」
カミラはそう言って笑おうとする。
でももう、そんな余力はないみたいだ。
声を出すのも精いっぱいらしい。
「大人の言うことは聞きなさいと教えてもらわなかったの?」
女性は言う。
このまま放っておくと致命傷でなくても失血死してしまうかもしれない。
どうすればいいか懸命に考えた。
逃げる?どこに?
どこに狙撃手がいるのか分からない状態でそんな真似できない。
それにたとえ逃げられたとしてもカミラを診てくれる医者なんているわけない。
考えている間も彼女は淡々と説明していた。
「お前たちは私をここに誘い出したつもりなんだろうけど、それがまず間違い」
この場所を選んだのは彼女自身だという。
彼女一人ここにおびき寄せたらあとはどうとでもなる。
頭さえ潰せば僕達は逃げ出せるはずだと思っていた。
だけどそれが致命的なミスだった。
例えばここが那奈瀬の公園だったら、周りに何もない場所で昼間に狙撃手が潜伏なんて無理だろう。
だけどここは市街地のビルがたくさんある中の公園。
あとは始末するのみ。
「……残念だったわね」
笑みすら浮かべずに睨みつける彼女。
一か八か彼女を人質にするしかない。
そう思って持っていたハチェットを手に襲い掛かろうとする、
「カミル駄目!」
そう言うと同時に僕の手首を銃弾が撃ちぬいた。
それを見て彼女は言う。
「ああ、”無駄な抵抗すると撃つよ”って教えてあげるの忘れてたわね。ごめんなさい」
まあ、どのみち殺すつもりだったからいい。
止めは刺さなくてもいいだろう。
死ぬまでここでゆっくり見届けてあげるから、言い残すことがあれば聞いてあげる。
僕ももうあまり動く力が残っていない。
僕達は死ぬの?
悲惨な思い出しかない僕達は死ぬしかないの?
僕達は生まれた時から不幸だった。
今まで楽しかった思い出なんてなかった。
そもそも幸せってなんだろう?
温かいご飯を食べて暖かい布団で眠って……。
この国では当たり前なのかもしれないけど僕達は違った。
虐待しか待っていなかった。
虐待の先に待っていたのは殺し屋の世界。
誰かが言った。
神様の言葉らしい。
「他人を殺した分だけ寿命が延びる。永遠に殺せば永遠に生きていける」
誰も僕達を救ってくれなかった。
自分で生きるしかなかった。
その結果がこれか。
僕達は何のために、誰のために存在していた?
「カミル……ずっと一緒だよ」
カミラは笑っていた。
目には涙があふれていた。
「恨むなら自分を恨め。お前らの親は私達に喧嘩を売るなとも教えてくれなかったのか」
親なんて……どこにいるんだい?
カミラを見て僕も覚悟を決める。
僕達は名前すら誰にも覚えられずにここで惨めに死んでいくんだ。
死を受け入れよう。
薄れていく意識の中で声が聞こえた。
「ガキならガキらしくもっと足掻いたらどうだい?少しだけ我儘を言っても罰は当たらない年頃だと思うよ」
どこかで聞いたことある声。
最後の力を振り絞って見上げてみる。
そんな奇跡あるのか?
僕達の側に立っていたのは酒井善明だった。
(2)
「菫、お願い」
「分かった」
陽葵がそう言うと菫が二人を見て傷口に触れる。
菫の力で出血を止める。
だが、状態からして十分なくらい失血している。
早く処置しないと危険なことに変わりはない。
「翼、病院に急いで」
「救急車呼んだ方が早くない?」
「駆けつける間に死にそうだ。それに……」
まだ騒ぎにはしたくない。
「気を付けてね」
「どういう意味だい?」
「分かってるくせに」
「何勝手な真似をしてるんだ?若造」
しかし彼女が合図をしたんだろうけど銃弾は飛んでこなかった。
大地と私兵がを手配しておいた。
「あの場所を狙うなら多分そんなにないはずです」
大地がそう言って狙撃手が構えていそうな場所に向かって始末しているはず。
少し遅れたみたいだけど。
「そこのババア!てめぇが焦げたエビフライか!」
大地が行くなら私も行くと言い出した天音が彼女に言っていた。
彼女の名前はヤーナ・アレンスキー。
エリツィンの恋人のボス。
「年上に対する口の利き方くらいこの国の人間は習わないのか?」
「そうだね、あなた如きに敬意を払う必要はないとは習ったけどね」
「あまり舐めないでくれないか?」
「舐めたくもなるよ、自分の立場も分からないで悠長に座っているんだから」
そう言うとヤーナの頬を銃弾がかすめる。
どうして自分たちが狙撃手を配置して僕達が準備してないと思えるんだい?
馬鹿にするのもいい加減にして欲しい。
「で、肝心の片桐空は相変わらず逃げ回っているのか?」
「あなた如きの小者相手に空が出てくると僕達の面子ってものがありまして。あ、空から伝言です」
「伝言?」
「そう、ただの挨拶みたいなものですよ」
糞ったれ。
「あまり悪ふざけが過ぎると殺すぞ?」
「ギャングのボスの割には頭悪いんじゃないのかい?それともまだ僕達を舐めてる?」
「どういう意味だ?」
「今のあなたに僕をどうこうすることはできない」
「この青2歳が……」
そう言ってヤーナが合図するけど、何も起きない。
ようやく状況を把握したみたいだ。
焦っているように見えた。
周りを見ていた。
「だから言ったでしょ?あまり我々のグループを舐めないで下さい、チンピラ」
ヤーナには部下がいる。
だから部下が周りに潜んでいる。
そんなことくらい僕でもわかる。
だから当たり前のように全部つぶした。
真っ向勝負なら負けろという方が難しいくらいの兵力差。
狙撃手はさっき言った通り大地と私兵が始末した。
「あとは残ってるのはお前だけだ。私がバラバラにしてその噴水に放り込んでやる」
血で一時的に赤い噴水になるだろうと天音が殴り掛かかろうとする。
それを陽葵が制した。
「天音や、もう少しだけ待っておくれ」
「私にやらせてくれるのか?」
「天音も大変なんだろ?育児のストレスってやつ」
大地が相手してやれないから大丈夫だろうかと心配していたと天音に説明する。
「そっか。あいつも考えてくれてるんだな」
天音はそう言って笑った。
「で、いつになったらいいんだ?」
「もうすぐ分るよ」
そう言って「ほら、子供相手に逃げ出すつもりか?」挑発する。
「舐めるなよ!」
そう言ってスカートをめくって太ももに装備していた銃を取り出す。
綺麗な足だなぁ、と見ていたけどすぐに視線を戻す。
「選択くらいさせてやる。誰から先にやられたい?」
当然撃っても弾くだけだけど。
「その前にもう少し話をしてもいいかな?」
「ガキがまだ能書き垂れるのか?」
「まず一つ、僕達はお前を射殺するつもりはない」
だから狙撃手になってる大地も撃たない。
「次にここは日本だ。一般人は銃を持っていない」
「だからなんだっていうんだ!?」
そう言って空に向かって一発撃つ。
サプレッサーはついていたけどさすがに昼間にそれは周囲の人が慌てる。
また純也に貸しを作りそうだな。
「まだ話が終わってないんだけど?」
「遺言の時間は終わりだボウヤ」
そう言って僕に向かって銃を撃つ構えにはいると銃が爆発した。
手を押さえて跪くヤーナ。
「他人の話は最後まで聞いた方がいいよ?」
そう言って僕はヤーナに近づいてヤーナを見下す。
「だから最後まで聞いた方がいいと言ったのに。銃を持っていないけど銃を封じる手段なんていくらでもあるんだよ」
理屈は簡単。
陽葵が奪い取った発火の能力を使っただけ。
銃弾が暴発しただけの事。
相手の能力を知ろうとせずに力づくでやるやり方はこの世界じゃ通じないぞ。
それが人を舐めてるっていうんだよ。
銃を持っていた手を押さえながら睨みつけるヤーナ。
そんなの意にも介さず天音に伝える。
「純也達が来た時に僕達いると面倒だからさっさと片付けろよ」
「任せとけ!」
「それともう一つお願いがあるんだけど」
「分かってるよ」
ヤーナの太ももに見とれていたこと翼に黙っておいて。
「やっぱ善明も男なんだな!」
私もその手で大地を悩殺するかと笑いながらぼこぼこに叩きのめす。
気が済んだ頃、サイレンが聞こえてくる。
天音はあっさりとヤーナを噴水に投げ捨てる。
後は純也に任せようと天音に言うと、大地に指示して撤収して病院に向かった。
(3)
手術中のランプがついたまま2時間近くたっていた。
確かに危険な状態だったけど長引いたのには理由があった。
さすがに江口家等の情報網を以てしても二人の血液型が分からなかった。
そう、かなり失血していて輸血が必要だった。
深雪先生が時間を稼ぎながら血液型を調べて輸血するのに手間取っていた。
幸いそれが命取りになることはなかった。
ランプが消えて二人がストレッチャーに乗せられ運ばれていく。
「恐ろしいまでの威力ね」
深雪先生が言う。
二人が受けた銃弾はそこそこでかい穴をあけたらしい。
陽葵が血を止めていなかったら絶対に助からなかっただろうと深雪先生が言う。
子供が食らっていい口径ではないだろうと話していた。
それもしっかりふさいだらしい。
「麻酔が切れたら二人と話していいわよ」
深雪先生がそう言う。
あとは警察にどう説明するかだ。
「それは考えなくてもいいって恵美が言ってた」
無理やりもみ消すつもりなんだろう。
もともと二人の戸籍すらないのだから楽な方だと言っていたそうだ。
しばらくして空と天音と大地と善明がやってきた。
菫と陽葵も来ている。
二人は家に置いておいてもよかったのだけど「私の友達の問題だから」と菫が言うので連れて来ていた。
「二人は?」
善明が聞いた。
「無事みたい」
「そっか」
「それよりも……」
ぽかっ
「他の女性の太ももに見とれていたんだって?」
「あ、天音。言わない約束だったろ?」
「ああ、だから私は言ってないぜ」
そう言って天音はにやりと笑う。
善明もすぐ気づいたようだ。
「ま、まさか」
「うん、私が教えた。私は口止めお願いされてないし」
パパったら私には興味示さないのにおばさんの足には見とれるんだよ!
菫からそんな告げ口を聞いていた。
「帰ったら晶さんに言いつけてやる」
「しょ、しょうがないだろ?男だったらつい目が言っちゃうんだよ。ねえ?空」
空を巻き込む善明。
空は笑ってごまかそうとしていた。
「そんなにきれいな足だったの?」
「白人て本当に白いんだね、透き通るような……」
ぽかっ
「嫁に普通そんなこと言うの?」
「説明しろっていったの翼だろ?」
「善明でもそういう好みってあるんだな」
天音が笑っていた。
「それよりあの2人の今後どうしましょう?」
大地が話題を変えようとしている。
二人の戸籍は恵美さんが無理やり作るだろう。
しかしあの二人の面倒を誰が見るか。
それが大きな問題だった。
「うちで見ましょうか?」
大地が言う。
「それは止めた方がいいよ」
「なんでだよ?」
空が言うと天音が聞く。
空は答えた。
「茉莉と結莉がいるから」
茉莉と結莉がさらに狂暴になるか、少なくともカミル達のゆがんだ性格を正す事はできない。
「……それ言ったら誰でも無理なんじゃないか?」
「私適任の親を知ってるんだけど?」
「誰だよ?」
天音が聞くと私は答えた。
それは……
(4)
「え、えーと……」
「そういう時は”お世話になります”って言えばいいのよ」
愛莉がそう言って二人を迎えていた。
またこの家が賑やかになるな。
愛莉たちが二人を連れてリビングに来た。
「この人が二人のパパだよ」
「お、お世話になります」
カミラがそう言って頭を下げる。
「よろしくね」
そう言うととりあえず家族を紹介する。
そしてあることに気づく。
「二人とも荷物は?」
「……ありません」
二人の親代わりだった十郎は衣服すら与えなかったらしい。
「じゃあ、明日私達と買いに行こうか?」
「い、いいんですか?」
そうだな、まず言っておくべき事があった。
「二人ともこれだけはしっかり覚えておいてほしい」
ここからは君たちは僕の子供だ。
子供の身の回りの世話をする役目を僕達が負う。
「分かってます。それでこれを……」
カミルがそう言ってバッグを差し出した。
その中身を見た。
これが陽葵を怒らせた要因か。
「この金は受け取っておくけど使わずに預金しておくよ」
「でも……」
「君たち二人を養うくらいの役職にはついてるからね」
金銭的な問題は心配しなくてもいい。
「カミル達はこの行動で陽葵達を怒らせたのを忘れたのかい?」
「あ……」
二人は思い出したようだ。
今だにその理由が分からないらしい。
そうだろうと思ったよ。
だから説明してやった。
「空達のグループは人助けと言う口実があるなら無償で動く」
対価は相手から奪い取るけど。
どうしてそうしてるかわかるかい?
「君たちは菫に言われたそうだね。信じられるのは金より力」
神よりはよっぽど役に立つ。
じゃあ、問題。
その力って何だと思う?
二人は悩んでいた。
そんな二人を見て笑った。
「絆ってこの国では言うんだ」
「きずな?」
カミラが答えた。
それは人との結びつき。
結束力。
どんなことがあろうと仲間を傷つけるのを許さない。
その為にどんな力でも使う。
仲間を助けるためなら一切の躊躇いをしない。
それがSHの強さなんだ。
誰かを守る強さ、誰かに背中を預ける信頼。
それが本当の強さ。
SHの影響力はそんなものでは片付かないけど、それでもそんな小さな事が大切なんだ。
それは金で簡単に得られるものじゃない。
だから菫は怒ったんだ。
「金で買える程度の信用だと思ったか?なめるな!」
そういう意味だろう。
「ご、ごめんなさい」
二人は菫たちに謝るけど、2人は笑って答える。
「そんなもんはすでに忘れた」
そう言って笑い飛ばせるようになったのも翼たちの教育の賜物なんだろう。
「覚悟しなさい、君たちに欠けてる物を全部教えるつもりでいるから」
「欠けているの?」
カミルが言うと僕はうなずいた。
「とりあえずは夕食の時間にしようか?」
愛莉にそう言うと「そうですね」と夕食の準備をしていた。
「食べる前に”いただきます”っていうんだ」
冬夜が教えていた。
暖かいみそ汁とご飯を口にして二人は涙をこぼしていた。
比呂がカミラに箸の使い方を説明している。
これでヴォルフ兄妹の物語はお終い。
これからはカミラ・片桐とカミル・片桐の物語が始まる。
それから善明の話を聞いた。
さすがに晶さんには言わなかったらしい。
「冬夜さんもそういうのに興味あるんですか?」
「まあ、普通見れないからね」
日本のどこに太ももにホルダーつけてる女性が歩いているんだ?
「それで天音の奴あんなこと言ってたのか」
「天音がどうかしたの?」
愛莉が翼に聞いていた。
「拳銃とホルダー貸せ!私がやってやるから我慢しろ!尻に見とれてた大地なら私の太ももでもいいだろ!」
「嫁に拳銃渡すなんて出来ないよ!」
「美希だってやってたんだろうが!」
「姉さんはバッグの中にしまっていたよ!」
菫もクリスマスプレゼントに拳銃もらったって言ってたぞ!
天音にとって貴金属よりも拳銃が欲しいらしい。
「あの子はいつになったら母親の自覚がでるのでしょうか……」
愛莉が困っていた。
そんな賑やかな食事を初めて体験したのだろう。
二人とも戸惑いながら楽しんでいた。
「初めまして……かな?」
僕は一人の大人の女性と対面していた。
金髪のストレートロングヘア。
額にはあざがある。
とても背の高い彼女は赤いスーツがとてもよく似合う。
彼女は葉巻を咥えて噴水の周りを囲むコンクリートに座っていた。
僕とカミラをじっと睨みつけている。
彼女が「エリツィンの恋人」のボス。
彼女がここにいる理由が僕達がそうなるように誘ったから。
たかがガキ2人と侮っている。
僕とカミラは笑顔でいつでも彼女を殺す準備をしていた。
しかし彼女はじっとこっちを睨みつけたまま言った。
「初めまして。とりあえずこの前のおいたの事は謝って貰おうかしら。二人とも、とりあえずそこに跪きなさいな」
許しを請うのはそれからだという。
そんな要求に従う理由はない。
「そんなこと言って余裕見せてるけど本当は怖いんじゃないの?」
「跪け!」
するとカミラが突然「カミル!」と僕の名前を呼んで突き飛ばす。
僕がいた場所にはカミラが立っている。そしてカミラの肩を一発の銃弾が撃ちぬいた。
「カミラ!」
その場に倒れるカミラを支える。
「だから言っただろ”跪け”と」
跪いていたら銃弾は僕たちの頭上を通過していたのにと表情一つ変えずに言う。
「カミラ、大丈夫?」
「カミル……無事?」
カミラはそう言って笑おうとする。
でももう、そんな余力はないみたいだ。
声を出すのも精いっぱいらしい。
「大人の言うことは聞きなさいと教えてもらわなかったの?」
女性は言う。
このまま放っておくと致命傷でなくても失血死してしまうかもしれない。
どうすればいいか懸命に考えた。
逃げる?どこに?
どこに狙撃手がいるのか分からない状態でそんな真似できない。
それにたとえ逃げられたとしてもカミラを診てくれる医者なんているわけない。
考えている間も彼女は淡々と説明していた。
「お前たちは私をここに誘い出したつもりなんだろうけど、それがまず間違い」
この場所を選んだのは彼女自身だという。
彼女一人ここにおびき寄せたらあとはどうとでもなる。
頭さえ潰せば僕達は逃げ出せるはずだと思っていた。
だけどそれが致命的なミスだった。
例えばここが那奈瀬の公園だったら、周りに何もない場所で昼間に狙撃手が潜伏なんて無理だろう。
だけどここは市街地のビルがたくさんある中の公園。
あとは始末するのみ。
「……残念だったわね」
笑みすら浮かべずに睨みつける彼女。
一か八か彼女を人質にするしかない。
そう思って持っていたハチェットを手に襲い掛かろうとする、
「カミル駄目!」
そう言うと同時に僕の手首を銃弾が撃ちぬいた。
それを見て彼女は言う。
「ああ、”無駄な抵抗すると撃つよ”って教えてあげるの忘れてたわね。ごめんなさい」
まあ、どのみち殺すつもりだったからいい。
止めは刺さなくてもいいだろう。
死ぬまでここでゆっくり見届けてあげるから、言い残すことがあれば聞いてあげる。
僕ももうあまり動く力が残っていない。
僕達は死ぬの?
悲惨な思い出しかない僕達は死ぬしかないの?
僕達は生まれた時から不幸だった。
今まで楽しかった思い出なんてなかった。
そもそも幸せってなんだろう?
温かいご飯を食べて暖かい布団で眠って……。
この国では当たり前なのかもしれないけど僕達は違った。
虐待しか待っていなかった。
虐待の先に待っていたのは殺し屋の世界。
誰かが言った。
神様の言葉らしい。
「他人を殺した分だけ寿命が延びる。永遠に殺せば永遠に生きていける」
誰も僕達を救ってくれなかった。
自分で生きるしかなかった。
その結果がこれか。
僕達は何のために、誰のために存在していた?
「カミル……ずっと一緒だよ」
カミラは笑っていた。
目には涙があふれていた。
「恨むなら自分を恨め。お前らの親は私達に喧嘩を売るなとも教えてくれなかったのか」
親なんて……どこにいるんだい?
カミラを見て僕も覚悟を決める。
僕達は名前すら誰にも覚えられずにここで惨めに死んでいくんだ。
死を受け入れよう。
薄れていく意識の中で声が聞こえた。
「ガキならガキらしくもっと足掻いたらどうだい?少しだけ我儘を言っても罰は当たらない年頃だと思うよ」
どこかで聞いたことある声。
最後の力を振り絞って見上げてみる。
そんな奇跡あるのか?
僕達の側に立っていたのは酒井善明だった。
(2)
「菫、お願い」
「分かった」
陽葵がそう言うと菫が二人を見て傷口に触れる。
菫の力で出血を止める。
だが、状態からして十分なくらい失血している。
早く処置しないと危険なことに変わりはない。
「翼、病院に急いで」
「救急車呼んだ方が早くない?」
「駆けつける間に死にそうだ。それに……」
まだ騒ぎにはしたくない。
「気を付けてね」
「どういう意味だい?」
「分かってるくせに」
「何勝手な真似をしてるんだ?若造」
しかし彼女が合図をしたんだろうけど銃弾は飛んでこなかった。
大地と私兵がを手配しておいた。
「あの場所を狙うなら多分そんなにないはずです」
大地がそう言って狙撃手が構えていそうな場所に向かって始末しているはず。
少し遅れたみたいだけど。
「そこのババア!てめぇが焦げたエビフライか!」
大地が行くなら私も行くと言い出した天音が彼女に言っていた。
彼女の名前はヤーナ・アレンスキー。
エリツィンの恋人のボス。
「年上に対する口の利き方くらいこの国の人間は習わないのか?」
「そうだね、あなた如きに敬意を払う必要はないとは習ったけどね」
「あまり舐めないでくれないか?」
「舐めたくもなるよ、自分の立場も分からないで悠長に座っているんだから」
そう言うとヤーナの頬を銃弾がかすめる。
どうして自分たちが狙撃手を配置して僕達が準備してないと思えるんだい?
馬鹿にするのもいい加減にして欲しい。
「で、肝心の片桐空は相変わらず逃げ回っているのか?」
「あなた如きの小者相手に空が出てくると僕達の面子ってものがありまして。あ、空から伝言です」
「伝言?」
「そう、ただの挨拶みたいなものですよ」
糞ったれ。
「あまり悪ふざけが過ぎると殺すぞ?」
「ギャングのボスの割には頭悪いんじゃないのかい?それともまだ僕達を舐めてる?」
「どういう意味だ?」
「今のあなたに僕をどうこうすることはできない」
「この青2歳が……」
そう言ってヤーナが合図するけど、何も起きない。
ようやく状況を把握したみたいだ。
焦っているように見えた。
周りを見ていた。
「だから言ったでしょ?あまり我々のグループを舐めないで下さい、チンピラ」
ヤーナには部下がいる。
だから部下が周りに潜んでいる。
そんなことくらい僕でもわかる。
だから当たり前のように全部つぶした。
真っ向勝負なら負けろという方が難しいくらいの兵力差。
狙撃手はさっき言った通り大地と私兵が始末した。
「あとは残ってるのはお前だけだ。私がバラバラにしてその噴水に放り込んでやる」
血で一時的に赤い噴水になるだろうと天音が殴り掛かかろうとする。
それを陽葵が制した。
「天音や、もう少しだけ待っておくれ」
「私にやらせてくれるのか?」
「天音も大変なんだろ?育児のストレスってやつ」
大地が相手してやれないから大丈夫だろうかと心配していたと天音に説明する。
「そっか。あいつも考えてくれてるんだな」
天音はそう言って笑った。
「で、いつになったらいいんだ?」
「もうすぐ分るよ」
そう言って「ほら、子供相手に逃げ出すつもりか?」挑発する。
「舐めるなよ!」
そう言ってスカートをめくって太ももに装備していた銃を取り出す。
綺麗な足だなぁ、と見ていたけどすぐに視線を戻す。
「選択くらいさせてやる。誰から先にやられたい?」
当然撃っても弾くだけだけど。
「その前にもう少し話をしてもいいかな?」
「ガキがまだ能書き垂れるのか?」
「まず一つ、僕達はお前を射殺するつもりはない」
だから狙撃手になってる大地も撃たない。
「次にここは日本だ。一般人は銃を持っていない」
「だからなんだっていうんだ!?」
そう言って空に向かって一発撃つ。
サプレッサーはついていたけどさすがに昼間にそれは周囲の人が慌てる。
また純也に貸しを作りそうだな。
「まだ話が終わってないんだけど?」
「遺言の時間は終わりだボウヤ」
そう言って僕に向かって銃を撃つ構えにはいると銃が爆発した。
手を押さえて跪くヤーナ。
「他人の話は最後まで聞いた方がいいよ?」
そう言って僕はヤーナに近づいてヤーナを見下す。
「だから最後まで聞いた方がいいと言ったのに。銃を持っていないけど銃を封じる手段なんていくらでもあるんだよ」
理屈は簡単。
陽葵が奪い取った発火の能力を使っただけ。
銃弾が暴発しただけの事。
相手の能力を知ろうとせずに力づくでやるやり方はこの世界じゃ通じないぞ。
それが人を舐めてるっていうんだよ。
銃を持っていた手を押さえながら睨みつけるヤーナ。
そんなの意にも介さず天音に伝える。
「純也達が来た時に僕達いると面倒だからさっさと片付けろよ」
「任せとけ!」
「それともう一つお願いがあるんだけど」
「分かってるよ」
ヤーナの太ももに見とれていたこと翼に黙っておいて。
「やっぱ善明も男なんだな!」
私もその手で大地を悩殺するかと笑いながらぼこぼこに叩きのめす。
気が済んだ頃、サイレンが聞こえてくる。
天音はあっさりとヤーナを噴水に投げ捨てる。
後は純也に任せようと天音に言うと、大地に指示して撤収して病院に向かった。
(3)
手術中のランプがついたまま2時間近くたっていた。
確かに危険な状態だったけど長引いたのには理由があった。
さすがに江口家等の情報網を以てしても二人の血液型が分からなかった。
そう、かなり失血していて輸血が必要だった。
深雪先生が時間を稼ぎながら血液型を調べて輸血するのに手間取っていた。
幸いそれが命取りになることはなかった。
ランプが消えて二人がストレッチャーに乗せられ運ばれていく。
「恐ろしいまでの威力ね」
深雪先生が言う。
二人が受けた銃弾はそこそこでかい穴をあけたらしい。
陽葵が血を止めていなかったら絶対に助からなかっただろうと深雪先生が言う。
子供が食らっていい口径ではないだろうと話していた。
それもしっかりふさいだらしい。
「麻酔が切れたら二人と話していいわよ」
深雪先生がそう言う。
あとは警察にどう説明するかだ。
「それは考えなくてもいいって恵美が言ってた」
無理やりもみ消すつもりなんだろう。
もともと二人の戸籍すらないのだから楽な方だと言っていたそうだ。
しばらくして空と天音と大地と善明がやってきた。
菫と陽葵も来ている。
二人は家に置いておいてもよかったのだけど「私の友達の問題だから」と菫が言うので連れて来ていた。
「二人は?」
善明が聞いた。
「無事みたい」
「そっか」
「それよりも……」
ぽかっ
「他の女性の太ももに見とれていたんだって?」
「あ、天音。言わない約束だったろ?」
「ああ、だから私は言ってないぜ」
そう言って天音はにやりと笑う。
善明もすぐ気づいたようだ。
「ま、まさか」
「うん、私が教えた。私は口止めお願いされてないし」
パパったら私には興味示さないのにおばさんの足には見とれるんだよ!
菫からそんな告げ口を聞いていた。
「帰ったら晶さんに言いつけてやる」
「しょ、しょうがないだろ?男だったらつい目が言っちゃうんだよ。ねえ?空」
空を巻き込む善明。
空は笑ってごまかそうとしていた。
「そんなにきれいな足だったの?」
「白人て本当に白いんだね、透き通るような……」
ぽかっ
「嫁に普通そんなこと言うの?」
「説明しろっていったの翼だろ?」
「善明でもそういう好みってあるんだな」
天音が笑っていた。
「それよりあの2人の今後どうしましょう?」
大地が話題を変えようとしている。
二人の戸籍は恵美さんが無理やり作るだろう。
しかしあの二人の面倒を誰が見るか。
それが大きな問題だった。
「うちで見ましょうか?」
大地が言う。
「それは止めた方がいいよ」
「なんでだよ?」
空が言うと天音が聞く。
空は答えた。
「茉莉と結莉がいるから」
茉莉と結莉がさらに狂暴になるか、少なくともカミル達のゆがんだ性格を正す事はできない。
「……それ言ったら誰でも無理なんじゃないか?」
「私適任の親を知ってるんだけど?」
「誰だよ?」
天音が聞くと私は答えた。
それは……
(4)
「え、えーと……」
「そういう時は”お世話になります”って言えばいいのよ」
愛莉がそう言って二人を迎えていた。
またこの家が賑やかになるな。
愛莉たちが二人を連れてリビングに来た。
「この人が二人のパパだよ」
「お、お世話になります」
カミラがそう言って頭を下げる。
「よろしくね」
そう言うととりあえず家族を紹介する。
そしてあることに気づく。
「二人とも荷物は?」
「……ありません」
二人の親代わりだった十郎は衣服すら与えなかったらしい。
「じゃあ、明日私達と買いに行こうか?」
「い、いいんですか?」
そうだな、まず言っておくべき事があった。
「二人ともこれだけはしっかり覚えておいてほしい」
ここからは君たちは僕の子供だ。
子供の身の回りの世話をする役目を僕達が負う。
「分かってます。それでこれを……」
カミルがそう言ってバッグを差し出した。
その中身を見た。
これが陽葵を怒らせた要因か。
「この金は受け取っておくけど使わずに預金しておくよ」
「でも……」
「君たち二人を養うくらいの役職にはついてるからね」
金銭的な問題は心配しなくてもいい。
「カミル達はこの行動で陽葵達を怒らせたのを忘れたのかい?」
「あ……」
二人は思い出したようだ。
今だにその理由が分からないらしい。
そうだろうと思ったよ。
だから説明してやった。
「空達のグループは人助けと言う口実があるなら無償で動く」
対価は相手から奪い取るけど。
どうしてそうしてるかわかるかい?
「君たちは菫に言われたそうだね。信じられるのは金より力」
神よりはよっぽど役に立つ。
じゃあ、問題。
その力って何だと思う?
二人は悩んでいた。
そんな二人を見て笑った。
「絆ってこの国では言うんだ」
「きずな?」
カミラが答えた。
それは人との結びつき。
結束力。
どんなことがあろうと仲間を傷つけるのを許さない。
その為にどんな力でも使う。
仲間を助けるためなら一切の躊躇いをしない。
それがSHの強さなんだ。
誰かを守る強さ、誰かに背中を預ける信頼。
それが本当の強さ。
SHの影響力はそんなものでは片付かないけど、それでもそんな小さな事が大切なんだ。
それは金で簡単に得られるものじゃない。
だから菫は怒ったんだ。
「金で買える程度の信用だと思ったか?なめるな!」
そういう意味だろう。
「ご、ごめんなさい」
二人は菫たちに謝るけど、2人は笑って答える。
「そんなもんはすでに忘れた」
そう言って笑い飛ばせるようになったのも翼たちの教育の賜物なんだろう。
「覚悟しなさい、君たちに欠けてる物を全部教えるつもりでいるから」
「欠けているの?」
カミルが言うと僕はうなずいた。
「とりあえずは夕食の時間にしようか?」
愛莉にそう言うと「そうですね」と夕食の準備をしていた。
「食べる前に”いただきます”っていうんだ」
冬夜が教えていた。
暖かいみそ汁とご飯を口にして二人は涙をこぼしていた。
比呂がカミラに箸の使い方を説明している。
これでヴォルフ兄妹の物語はお終い。
これからはカミラ・片桐とカミル・片桐の物語が始まる。
それから善明の話を聞いた。
さすがに晶さんには言わなかったらしい。
「冬夜さんもそういうのに興味あるんですか?」
「まあ、普通見れないからね」
日本のどこに太ももにホルダーつけてる女性が歩いているんだ?
「それで天音の奴あんなこと言ってたのか」
「天音がどうかしたの?」
愛莉が翼に聞いていた。
「拳銃とホルダー貸せ!私がやってやるから我慢しろ!尻に見とれてた大地なら私の太ももでもいいだろ!」
「嫁に拳銃渡すなんて出来ないよ!」
「美希だってやってたんだろうが!」
「姉さんはバッグの中にしまっていたよ!」
菫もクリスマスプレゼントに拳銃もらったって言ってたぞ!
天音にとって貴金属よりも拳銃が欲しいらしい。
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二人とも戸惑いながら楽しんでいた。
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