姉妹チート

和希

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世界の果てから

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(1)

 今日は冬吾君のお父さんたちに招待されてホテルのホールに来ていた。
 一緒に来ていた冬莉達と「学校生活はどう?」とか雑談をしていた。
 前面にある大きなスクリーンにはサッカーのスタジアムが映されていた。
 今日はヨーロッパ1を決める大会の決勝。
 奇しくも冬吾君の所属するチームと誠司君の所属するチームが勝ち残ってきた。
 前評判もかなり難しいらしいけど、やはり誠司君と冬吾君次第と言われている。
 誠司君がいないチームで冬吾君がどうプレイするか。
 全くプレイできないわけじゃない事はここまでフル出場していることから分かる。
 しかしそんな冬吾君のプレイを知り尽くしている誠司君がどんな戦術を使うかがマニアの間では話題になっている。
 むしろ冬吾君の所属するチームと対戦する相手はこの一戦は見逃せないだろうと冬吾君のお父さんが言っていた。

「良いところも悪いところも知り尽くしているのが誠司だからね」
「……その様子だと冬夜は予想してるのか?」
「誠だって同じじゃないのか?

 二人の父親はどんな展開になるか予想しているらしい。

「二人ともどう考えているんだ?」

 渡辺正志さんが聞いたら二人はにこっと笑った。
 全く同じことを考えていた。

「見た目は一方的な展開。だけど危険を伴う戦術」

 その先は実際に見て楽しんだ方がいいと2人は言っていた。

「しかしどっちを応援した方がいいかわからないわね」

 恵美さんが言っている。

「どっちも応援すればいいじゃないか」

 冬吾君のお父さんが言っていた。
 二人ともすごいのは間違いない。
 このリーグが始まって終盤に入籍していきなりスタメンを張っているんだ。
 冬吾君に至っては10番を奪い取った。
 しかもそれが実力で奪ったものだと示すかのようなプレイをしていた。
 誠司君も負けていない。
 背番号は違うけどしっかり司令塔としてのポジションを確保している。
 年上だろうと先輩だろうと構わず指示に従えないないなら交代させるぞと言わんばかりの強気のプレイ。
 この二人が揃った日本代表は歴代でも最強のチームになるんじゃないかとマスコミも報道していた。
 だからこそ気になる。
 冬吾君を封じる手があるのか?
 誠司君はそれを理解しているのか。
 多分二人は今回だけじゃない。
 これから様々な形で対戦するだろう。
 誠司君も言ってた。

「互いの持ち札を知っているからこそ、互いに弱点を曝して戦うんだ。本番で弱点を一つでもなくすように」

 誠司君は日頃の生活は最悪だけどサッカーの時間だけは違うらしい。
 冬吾君がそう言ってた。

「あ、選手出てきた」

 泉が言うと皆スクリーンを見ていた。

(2)

 やられた。
 そう来たか。
 誠司の作戦に見事にはまってしまった。
 強固なDFとそこから始まる電撃のような速攻。
 最強の矛と盾と賛辞されているのは聞いていたけど、それがまさか僕達にここまではまるとは思ってなかった。
 DFは常にペナルティエリアを守っている。
 いつもと違うのは僕にマークを付けていない。
 この距離なら長距離砲が使える。
 なのにマークを付けない。
 理由は簡単。
 DFがシュートコースを限定させるから。
 目には映らないけどコースが限定されたらキーパーでも止められる。
 そう、キーパーが僕の長距離砲をしっかり受け止めていた。
 当然のように無回転シュートも止める。
 U-18で止められていたのだから当たり前だろう。
 さらにもっと単純な方法で僕にサッカーのプレイをさせない。
 DF以外は全員上がって徹底的に味方を追い込む。
 たまらず僕も下がろうとするけど司令塔のマルコが「お前は絶対にそれ以上下がるな!」と指示する。
 誠司のとった戦術の目的は”僕にサッカーをさせない”事。
 ボールの支配率をしっかり確保して僕にボールを渡さない。
 万が一カウンターを食らってもDFが確実に潰すと誠司は信頼しているようだ。
 それはマルコも同じ強気でいた。

「どんな状況に陥っても冬吾にボールを渡せば必ず点をもぎ取れる。だから守備は俺たちに任せろ」

 そう言って僕を絶対に守備に下げさせなかった。
 こっちも僕以外のメンバーが守備に回っている。
 長距離砲は3発と決めてある。
 しかしそれを止めるゴールキーパー。

「下がるか悩む暇があったらどうやって点を取るかお絵かきしてろ!」

 それが僕のプレイスタイルだろ?
 出来ないならベンゼマと交代されるぞ!?
 無回転も長距離もダメ。
 あとはドリブルでどうにかするか?
 前線に来ているのは僕だけ。
 他に出来る事……。
 僕は相手ゴールを見ていた。
 父さんが言っていたな。

「冬吾は一つ切り札をもったらそれしか考えない癖がないか?」

 そんなことしてたら見抜かれるぞ。
 もっと視野を広げて考えてごらん。
 父さんの言ってた言葉を思い出しながら眺めていた。
 もちろんボールが来たときは対処する。
 しかし相手も馬鹿じゃない。
 ほとんどが攻撃に参加しているのだからたまに飛んでくるボールはしっかりチェックしてくる。
 そんな運動量が試合終了まで持つのがプロなんだろうな。
 父さんか……
 一つだけ思いついた。
 周りをもう一度確認する。
 こういう時何て言うんだっけ?

 謎は全て解けた。

 後は味方を信じてチャンスを待つだけでいい。
 たった一回くれたら決めてやる。
 準備は出来た。
 しかしそれは前半には来なかった。

(3)

 まさかの展開だった。
 冬吾君のあのシュートを止めるキーパーがいるなんて思わなかった。
 どれだけ体を鍛えてるんだろうと冬莉と話をしていた。

「やっぱり想像通りだったね」
「そうだな。誠司もしっかりサッカーの事考えてるじゃないか?」

 一回寝るのいくら?ってイタリア語でどういえばいいんだろう?
 そんな馬鹿な質問を誠さんにして、神奈さんに見つかって大目玉を食らったらしい。

「あいつらしいよ……」

 今日は冴も来ている。
 問題は依然変わらないまま。
 あまり深入りしない方がいいって冬吾君も言ってたから、私からは何も言わないようにしてる。

「誠、これはどういう状況なんだ?」

 渡辺さんが聞いていた。

「試合前に言ったろ?一方的な試合になるけどかなりリスクがある」

 そのリスクを冒してまで1点だけ先制しようと企んでいるんだろう。
 後はチームの特徴の分厚い守備で守り抜くつもりなんだろう。

「それが冬吾が何もできない理由か?」

 渡辺さんが言うと冬吾君の父さんが答えた。

「良くも悪くも冬吾次第で試合が傾くよ」

 あの子がどこまで我慢できるがで、勝負は決まる。

「でも冬吾のシュート決まらなかったじゃないか?」

 桐谷さんが聞いていた。

「まあ、トップレベルになれば止めるだろうね」
「じゃあ、後半下げられるのか?」
「僕が監督だったら下げないね」

 冬吾君のお父さんはたまに分からないことを言う。

「通用しない選手を使い続けるってどうなの?」

 恵美さんが言うと公生さんが言った。

「シュートが通用しないだけで冬吾が通用しないとは片桐君は言ってないよ」

 公生さんは何か気づいたのだろうか?

「一般論で言ったら前半みたいにただセンター付近で突っ立ってるだけの選手を重宝するなんてありえない」

 公生さんが言うと冬吾君のお父さんはうなずいた。
 皆誠司達の猛攻を気にしすぎだよ。
 カメラのせいもあるけど冬吾があそこにいることに意味があると答える。
 現に冬吾が下がろうとした時に「戻れ!」と言っていた節がある。と冬吾君のお父さんが説明した。
 実際あれだけの猛攻に防戦一方の冬吾君のチーム。
 だけど逆にとらえるとあれだけの猛攻を仕掛けても一点を奪えない。
 普通なら焦ってむきになる。
 だけどちょっとでも冬吾の存在を忘れたら作戦が台無し。
 だからかなりのリスクを誠司君のチームは冒している。
 そこまでしないと試合にならない。
 1点でも取れたらあとは必死に守るだけだから優位に働く。
 だけどそれが出来ない誠司君のチームもつらいはず。
 それもこれも冬吾君があの位置を維持しているから。
 ボールの支配率はテレビでも出ていたけど圧倒的に誠司君のチームが上だった。

「もし冬夜が冬吾ならどうする?」
「チャンスを待つね」

 たった一度あればいい。
 逆を言えばたった1点取るだけで冬吾君のチームが優位になるから。
 その一点を取る方法はあるのだろうか?

「無回転も長距離砲も通じないから冬吾が点を取れない。多分相手もそう思っている」
「……誠司もそうだろうな」

 読者ですら忘れていそうな冬吾の恐怖。
 それは多分後半やってくるから絶対に目を離したらだめだよ。

「冬夜さん、それは何ですか?教えてくださいな」
「教えたらつまらないだろ?」

 二人の初めての勝負。
 どちらに軍配が下るか楽しみにしようじゃないか。
 冬吾君のお父さんはそう言ってスクリーンを見ていた。

(4)

「冬吾、落ち着け」

 監督が言う。
 大丈夫、ゴールシーンはしっかりイメージした。
 後はボールが来るのを待つだけ。
 誠司の奴は僕を止めるのに成功したと思い込んでる。
 あのフォーメーションを見て確信した。
 いけるはず。
 だからボールを持ってこい。
 マルコにそう伝えた。

「その様子だと策は考えたようだな」

 マルコが言う。

「まあ、ぼーっと試合見てましたじゃ下げられるからね」

 一つだけ注文していいかな?

「なんだそれ?」
「たった一回でいいからカウンターを狙いたい。その一回で絶対に決めてあげる」
「できなかったなら?」

 僕からポジションを奪われたベンゼマが聞いてきた。

「即交代でも構わないよ?」

 多分僕が通じないってことだから。

「日本人はそんな嫌味言うのか?絶対決めるって顔に出てるぞ」
「まあ、ね。それなりに試合の流れは見てたから」
「心配するな。俺達が絶対ゴールは死守してやる。その代わりに一撃で決めてこい」

 キーパーのアルフォンスが言う。
 それが僕の仕事だと。

「じゃ、帰って祝杯と行こうぜ」
「僕用にブドウジュース用意しといてね」
「お前はヒーローインタビューの準備しとけ」

 アザールがそう言って、僕の背中をたたく。
 ここから先は僕のターンだよ。誠司。
 覚悟しときなよ。

(5)

「誠司の言うとおりだな」

 アントニオが俺を褒めていた。
 アントニオがあのシュートを止めることが出来るから出来た作戦だけどね。
 冬吾のチームと試合が決まった時からずっと考えていた。
 その結論が「冬吾を試合に参加させない」事。
 冬吾がプレイをしたらそのプレイが致命傷になる。
 だから賭けに出た。
 冬吾にマークを付けていても無駄だ。
 あいつのダッシュはどんなマークも振り切ってしまう。
 しかもそのスピードでドリブルしてフェイントまで仕掛ける。
 あいつのドリブルを防いでもどこにボールを運ぶか絶対に誰にも予想できない。
 だったらあいつにサッカーをさせない方法をとるしかない。
 徹底的に攻めてゴール前に押し込んでその位置を維持する。
 たまにロングパスで冬吾に渡すだろうからそれだけチェックすればいい。
 あいつまで下がったらこっちの思惑通りだ。
 冬吾まで防戦に回ったら誰も攻めることはできなくなる。
 一点さえ取ってしまえば守備には自信がある。
 いくら冬吾でも2種類のシュートを封じられたら一人でドリブルで突破を試みるしかない。
 だけど俺たちの守備にそれは通じない。
 現に前半はあいつはセンターでぼっとしてこっちを見ていた。
 守備に回ろうとしたけど相手の司令塔が「そこから動くな!」と何度も指示していた。
 そこが賭けだ。
 一度でも冬吾にボールが渡ったら作戦は破綻する。
 その事を皆に伝えていた。

「冬吾と一緒にプレイしていた誠司が言うんだから多分そうなんだろう」

 監督はそう判断した。
 実際冬吾のチームに対して優位に立っていた。
 ただ、最後の決め手が見つからない。
 相手もほぼ全員で守っているんだ。
 でもカウンターは一度もさせなかった。

「あとは俺たちが点を取るだけだな」
「いいパスを頼むぜ」

 アレクシスとラファエルが言う。

「任せとけ。勝ったら俺結婚するんだ」
「日本ではそれ死亡フラグって言うんじゃなかったか?」
 
 レオが言う。

「そんなフラグへし折ってやるよ」

 そんな意気込みで後半に望む。
 相変わらず攻め続けているけど点が取れない。
 気のせいか?
 相手が何かを狙ってるように見えた。
 DF同士で話している。
 その目論見を把握した時俺は叫んだ。

「そのシュートは待て!」

 しかしラファエルは打った。
 正確に言えば打たされた。
 シュートを誘導したキーパーはしっかりつかむとサイドバックにパスを渡す。
 ボランチではなくサイドバックに渡した。
 サイドバックはそのままドリブルでこっちのエリアに侵入する。
 誰もチェックしてないから当たり前だ。
 慌てて戻るチームメイト。
 俺は冬吾を探す。
 センターにはいなかった。
 センターにいる必要がなかった。
 忘れていた。
 あいつはそんな生易しいスキルの持ち主じゃない事を思い知った。
 冬吾がこっちのエリアのコーナーで待ち構えていた時背筋が凍った。

 やばい!

 DFに指示を飛ばす。
 しかしサイドバックのパスの方が早かった。
 冬吾はボールを見ないでも把握する奴だ。
 確かに俺を見ていた。

 さあ、お前の罪を数えろ。

 そんなメッセージを受け取っていた。
 冬吾はパスしたボールをトラップせずにクロスを上げる。
 冬吾のチームのFWも押し込むつもりで陣取っている。
 しかしそのボールはそんな生易しいもんじゃない。

「アントニオ!そのボールは取らないとまずい!」

 誰もが忘れていたプレイ。
 あいつは狙ったところに必ずボールを打つ。
 それもご丁寧に回転をかけてボールを曲げながらでもやってのける。
 アントニオも打ち損ねたと誤解したボールはギリギリのところでゴールの中に入り込み、ゴールの横側に突き刺さった。
 やられた。
 やっぱり死亡フラグなんて言うもんじゃないな。
 あいつの弱点を暴いたつもりだったけど大きな間違いだ。
 あいつは敵に回したくない。
 それを思い知らされる試合になってしまった。
 チームのみんなも動揺してプレイに精細を欠いていた。
 せっかく考えていたウノゼロゲームは冬吾達のチームの勝利で幕を閉じる。
 長い笛が鳴ると冬吾のチームは喜んでいた。
 そんな中冬吾が俺に近づいてくる。

「最初は正直焦ったよ」
「俺もいい線いってると思ったんだけどな」
「次また頑張って」
「その余裕絶対消してやるからな」
「楽しみにしてる」
「……せっかくだしやっとくか?」
「そうだね」

 そう言って冬吾とユニフォームを交換した。

(6)

「あれ、お前が教えたのか?」
「……そもそもあれが冬吾の原点だよ」

 僕は誠にそう返した。

「あれって確か冬夜さんが高校の時に一度だけ試合に出たあれですか?」

 愛莉は覚えていたようだ。

「そうだね」
「トーヤの家系は誠の家系に本当に容赦しねーな」

 カンナが笑って言う。
 
「でも誠司の作戦もいい線いってたと思う」

 冬吾をゲームから排除する。
 そのアイデアはよかったと思う。
 あの痛恨のミスがなければ。
 もう少し誠司のチームのFWが押し切っていたらまた違う展開になっていたはず。
 カウンターの起点になったあのシュートはおそらく冬吾のチームのGKが誘ったんだろう。
 そこからの展開は多分冬吾の案だろう。
 絶対に司令塔からしかボールを受け取らないというわけではない。
 それを警戒されてるなら別の手を考える。
 相手のDFはペナルティエリアにまとまっていた。
 それも多分間違いじゃないと思う。
 そうじゃなかったら冬吾は正面突破も考えていただろう。
 偶然か必然か分からないけど両サイドのコーナーががら空きだった。
 だから当然のようにそこを狙った。
 冬吾をフリーで蹴らせたら何をしでかすかわからない。
 そしてその悪夢が起きてしまった。

「結局、冬吾に弱点は無いって事か?」
「そうじゃないだろ誠」

 少しは自分の息子を褒めてやれ。

「冬吾のいるチームは必然と冬吾が点を取ってくれると信頼しきってる」

 少なくとも前半は冬吾を封じた結果、全然攻めに回れなかったじゃないか。
 敗因をあげるとしたら冬吾のプレイを誤解していたことだろう。
 その敗因にも誠司は気づいているよ。
 やっぱりどんな形で冬吾を封じるのであれ、冬吾をフリーにしたらいけない。
 冬吾までのボールの流れを冬吾が探し出して味方に指示するんだから。
 その時にフリーにしていたら致命傷になりかねない。

「やっぱり冬吾は自由にさせたらいけないってことだな」
「そうなるだろうね」
「でもあの二人が揃ったら地元チームは安泰ね」

 恵美さんが言っていた。

「それはどうかな?」
「どういうこと?」

 僕は答えた。
 少なくとも冬吾の隠し技に気づかれてしまった。
 あの僕譲りの恐ろしいまでのキックの精度。
 厳密に言うとまだ冬吾には奥の手があるけどそれはまだ秘密。
 多分”優等生と劣等生”から読んでる人なら気づいてるはず。

「片桐先輩やりましたね!」

 水島桜子と佐が来た。

「お前の子供はやっぱり半端ねーな」
「佐の言う通りです。片桐先輩ももう少しやる気があれば同じようになってたのに」
「桜子、それは絶対無理だ。むしろ冬吾が奇跡なんだ」
「きっと奇跡の世代って言うんでしょうね。誠司君と冬吾君ならW杯だって……」
「うぅ……」

 愛莉が悩んでいる。
 しょうもないことを考えているのだろう。
 愛莉に伝えた。

「過去の事なんて関係ないだろ?僕は愛莉との生活を選んだ。そのことに後悔はしてない」
「それはわかってるんですけど」

 あの二人はインタビューを受けるだろう。
 それが愛莉と瞳子の悩みらしい。
 
「……スペイン料理楽しみにしてたからね」
「冬夜さんはあれをどうにかする方法を考えてくださいな」

 それは難しい問題だな。

「誠!誠司だって同じだぞ。あいつの方が質が悪い!」

 負けた悔しさを風俗で慰めてもらうくらい言い出しそうだぞ!
 カンナも大変だな。

「た、たぶんそこまで馬鹿じゃないよ」
「でもお前の子だぞ!」
「お、俺だってインタビューでそんな馬鹿な事言ったことないよ」
「インタビューって言えば私誠司君と冬吾君の担任だったんですよね。何か取材に来るのかな」

 桜子は何も心配していないらしい。

「冬吾のインタビュー始まったよ」

 冬莉が言う。
 全員が不安そうに聞いていた。
 だけど……。
 冬吾の奴どこでそんなセリフ覚えたんだ?

「今日の試合の結果をまず誰に伝えたいですか?」

 インタビュアーが尋ねると冬吾は言った。

「ここから世界の果てに置いてきた愛しい彼女に今日の試合の報告がしたいです」

 皆が静まり返る。
 瞳子は嬉しいのか恥ずかしいのか照れていた。

「へえ、あいつどこであんな言葉覚えてきたんだろ?」

 冬莉も悩んでいる。

「神奈……また後で飲みにいかない?」
「そうしたいところなんだけどな……」

 カンナはそう言って桐谷君と誠を見る。

「今日は祝杯だ!街に繰り出そう!」
「おおともよ!瑛大。今夜の俺たちは無敵だ」

 それは死亡フラグだといい加減理解すればいいのだが。

「と、いうわけだ。私はこの馬鹿亭主を家に連れて帰らなければならない」
「ったく……このバカは私達の楽しみすら奪うつもりか!?」
「亜依がその気なら俺だってまだ頑張れるぞ!」
「そういうのを堂々と言うのをどうにかしろと言ってんだ!このバカ!」

 冬莉達は瞳子を見てる。

「さあ、これから瞳子が彼女ってバレたら大変だよ」
「大丈夫、母さんがそういう情報はもみ消すつもりでいるから」

 頼子が言っていた。
 こうして冬吾と誠司の初めての対決は冬吾が勝った。
 しかしこの後もっと衝撃的なことが起こるとはだれも予想してなかった。
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