姉妹チート

和希

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またあした

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(1)

 俺と友恵は空港にいた。
 友恵はこれから一人でイギリスへ向かう。
 ジハードの重鎮を説得するためだ。

「大丈夫か?」
「十郎が心配するなんて珍しいわね。私が妻だから?」

 そう言って友恵は笑っていた。

「心配しないでも大丈夫。こう見えて私強いの」
「それは心配してない。ただ、不利な状況に追い詰められる事も……」
「その不安要素は既に排除済みじゃない」

 自分の子供の事を「排除」と言ってのけるのが友恵の強さだ。
 いかなる私情を持ち込まない冷徹さ。
 唯一弱点になりそうな俺ですら……

「十郎なら一人でどうにかなるでしょ」

 信頼しているというか心配する必要すらないというか。

「ならいいが。用心してくれ」

 ガキの喧嘩に乱入するわけじゃない。
 支配者の本拠地に殴り込むんだ。
 
「私を信用して。私は絶対にミスを犯さない」
「こっちも準備を進めておく」
「だめ、十郎は動かない方が良い」

 SH相手に絶対はない。
 万が一これ以上失態を曝したら友恵の足を引っ張る。
 片桐冬夜風に言うとしたら「デッキの構築が完成するまでは動くな」ってところだろう。
 奴らは1年足らずで見事に俺たちの第一撃を完全に潰した。
 まだ俺たちはあいつらを見くびっていたという事だろう。
 するとアナウンスが流れる。

「どうする?しばらく離れるんだしキスくらいしておく?」
「そうだな」

 愛情が無いように見える俺達だけど、友恵は俺にとって唯一信用できる妻。
 ガキの頃から数々の死線をくぐってきたパートナー。

「じゃあ、なるべく早く片付けてくる」

 そういって彼女は笑みを浮かべる事もなくさっさと手荷物検査を受けに行った。

「んじゃ俺たちはまだ出番がないわけか?」

 黒人の大男がそう言った。
 もちろん日本人じゃない。
 俺たちの手に残された最後の持ち札「ホテル・カリフォルニア」のボス。
 それを温存しておくのは理由があった。
 手持ちの札を全部失えば友恵の立場がなくなる。
 もちろん、増援を待ちながら手段を考えておく必要がある。
 何もしてこなかったのは手出しできなかったから。
 最初はじわじわと後悔させて嬲ってやるつもりだった。
 しかし奴らは自分の行動を正当化し歯向かう者には容赦しないと言っている。
 その事に気づいた時は痛手を負ってた。
 あの形勢で最後の切り札を使ってもすぐに対処するだろう。
 仕切り直しをする必要があった。
 奴らは本当に日本で育ったのか?と思いたくなる程冷静で攻撃的だ。
 温い日本人と舐めていたらだめだ。
 なら最初から全力で潰しにいかないとまずい。
 しかし警戒されている中、仕掛けても失敗は目に見えている。
 一度奴らの目をそらす必要がある。
 それはたやすい。
 無謀にも果敢にFGの連中が攻め続ける。
 そのFGも頭を失い、残骸が暴れているだけだが十分役には立った。
 後はこちらが準備をするだけだ。
 ホテル・カリフォルニアのボスのゴッティに説明した。

「という事は俺たちはまだ当分バカンスしていたらいいのか?」
「そうだな。伊豆や沖縄にでも行ってみたらどうだ?」
「沖縄はまずいだろうな。在日米軍と一戦やりたくなっちまうぜ」

 こいつらならやるだろうな。
 そんな真似をして米軍が潰れるのは構わないが、一番やっかいなのは片桐冬夜が嗅ぎつけた時だ。
 奴らはいまだに俺たちの事を尾行し続けている。
 奴を先に始末するか?とゴッティは言ったがやめとけと言った。

「お前達の実力を疑っているわけじゃないが、お前達はまだ片桐冬夜を知らない」

 たかだか日本人だと舐めてかかるだろう。
 だが、あいつらの実力はそんな物じゃない。
 その証拠がモスクワの悲劇だ。
 ヤーナもリンもそれで悲惨な最後を遂げた。

「だとするとどうする?核でも撃つか?」

 さすがにシェルターなんてものはないだろうが、江口家は何を隠し持ってるかわからない。
 迎撃用の兵器を持っていると想定しておいた方がいいだろう。
 それにそれは有効な一撃だが、奴らに口実を与えてしまう。

「先に使ったのはそっちだからな。あとで文句を言うなよ」

 その程度にしか思っていないだろう。

「先に撃ったもん勝ちじゃないのか?」
「例えばだ。片桐冬夜の息子の空がそれを知った時必ず防ぐ手札くらい持ってるはずだ」

 隕石を落下させるような奴だ。
 何をしてきても不思議じゃない。
 常に最悪の事態を想定しないと話にならない。
 だからと言ってビビッていてもらちがあかない。
 だからまず戦略を練る。
 一撃で致命傷になりうる手を考える。

「面倒な相手だな……で、手はあるのか?」
「まずはあっておくべき人物がいる」

 そう言って話している間に地元のファミレスについた。
 待っていたのは沖田浩二だった。
 沖田にもSHには手を出すなと言っておいた。
 そしてずっと機会を狙っていた。
 その結果どうなったかを知りたかった。
 予想通りだった。

「手を出さなければあいつらから仕掛けてはこない。それは間違いないようだ」
「そうか……」
「だけどこのままで済ませるつもり?」

 浩二が聞いてきた。

「人生は長い道のりだ。その道のりの中で最も幸せな時はいつだと思う?」
「……結婚した時?」
「発想はあっているが外れだ」
「どういう事?」
「結婚して幸せなのは結婚した二人と両家の親だけ」
「まあ、そうだね」
「その程度じゃ面白くない」

 そう言って俺はにやりと笑う。

「……そいつらが子供を授かった時。もっとたくさんの人間が幸せの絶頂になるだろう」
「……つまりその子供が狙い?」

 ゴッティが聞くと頷いた。

「おいおい、復讐をただの赤ん坊誘拐で済ませるつもりか?」

 ゴッティが言う。
 声がでかい。
 ここは日本のファミレスだ。
 東南アジアの酒場じゃない。

「誘拐するくらいならその場で殺すさ。あいつらが仕掛けてくる口実くらいしか効果はないだろう」

 ヤーナがやったやり方のもっと派手な方法にしよう。

「あまり焦らさないでくれ。俺もそんなに頭がいいわけじゃないんだ」
「……なるほど、そういうことか」

 浩二の方は察したらしい。

「あいつらはどうも同じ地域に住んでいるらしい」

 そうすれば子供が成長すれば立派になって学校に行くだろう。
 その学校を爆破してしまえばいい。
 成長した子供を失う絶望。
 さぞ俺達を憎んでくれるだろう。
 片桐冬夜とて老いには勝てない。
 空だって冷静でいられるか分からない。
 そこに畳みかけるようにあの地区を焦土にしてやる。
 一人も逃さない。
 皆殺しにしてやる。

「随分壮大な計画だな」

 そんなに待つなら俺は一度帰国するぞとゴッティは言う。
 俺はダメだと言った。

「あいつらはこっちの行動を把握してるのを忘れるな」

 ゴッティ達が退き上げたら油断するかもしれない。
 調子づいたSHが畳みかけてくるかもしれない。
 準備する必要もある。
 それをゴッティに手伝ってもらう。

「何をすればいいんだ?」

 ゴッティが聞いてきた。
 そこで浩二の出番だ。

「浩二。お前は大学に行ったら既存のリベリオンを利用していいから、とにかく頭数を揃えろ」
「そんな寄せ集めじゃSHに太刀打ちできない」
「だからゴッティがいる」

 ゴッティにそのガキどもを訓練させる。
 時間は十分ある。
 その理由はさっき言った。

「しかしそのガキが暴れ出したらあいつ等の警戒をそらせない」

 思ったより頭がいいようだな。
 浩二の言う通りそんな寄せ集めのガキを集めたところで勝手に暴走しだすのはFGを見れば明らか。
 だからそれが狙いなんだ。

「ガキが暴れてるだけのしょぼい集団になったと思わせる事が出来たらそれでいい」

 能力のある奴は確保して鍛えていく。
 それに気づかれさえしなければ問題ない。
 FGとリベリオンの小競り合い。
 そう思わせることが出来れば成功だ。

「その言い方だと思ったより早く動く気だね?」

 浩二が聞いてくると頷いた。

「すでに小学生になってる子供もいるらしいからな」
「しかしただのガキじゃ効果ないだろ?」

 逆に警戒されるし口実を与える。

「大丈夫だ。本命はちゃんと決めてある」
「誰だ?」
「ここで言えるのはそれだけだ。時期が来たら伝える」

 どうせこの話も盗聴しているんだろ?

「んじゃ俺は京都にでも行ってみるかな?」
「芸者は諦めろ。あれは一見さんお断りなんだ」
「なんだそれ?」
「分かりやすく言うと会員制だ」

 厳密には違う。
 誰か行ったことのある人間がいれば誰でも入れる。
 そして一度入れば後は自由に入れる。
 なんでそんなルールがあるのか?
 部屋に置いてある茶器などが高価だから破損したときに誰に弁償させるかわかりやすくするため。
 そしてもっと大事な理由は「お客さんの好み等を知る必要がある」から。
 客の事をよく知って客に応じたおもてなしをする事を重要視されているから。

「んじゃすき焼きでも食うくらいしかねーか?」
「それはしばらく我慢しろ。日本じゃすき焼きを食うのは冬だ」

 理由はやっぱりそんなに大したことじゃない。
 白菜が必要視する人間が多いから。
 すき焼きは冬の季語になるくらい冬のイメージが強い。
 ただそれだけ。
 風習と言うわけではないが弁当屋でもすき焼き弁当を売るのは冬だ。

「道路も狭いし暴れる相手もいねーんじゃ退屈だぞ」
「そのうち出番が来るから我慢しろ」

 さっき言ったが一流の兵士に鍛え上げるのはお前が必要だ。
 状況に応じては海外に一度送る。
 だけどゴッティは首を振った。

「そのガキはこの地元でドンパチさせる気なんだろ?」

 夜の砂漠をで敵を察知する訓練も必要だけど時間がかかる。
 それより夜の繁華街や昼間の混雑した街の中で静かに命令を実行する能力の方が重要だ。
 ゴッティもただの脳筋じゃないようだ。
 そんなやつがギャングのボスになれるわけがないが。

「じゃあ、今夜はここまでだ」

 これ以上奴らに情報を与えてやる必要はない。

「今後はどうするんだ?」
 
 ゴッティが聞いていた。
 連絡手段だろう。
 
「それは友恵に任せてある。心配するな」

 当分は与えてもいい情報だけを伝える。
 獲物は泳がせておくのが一番いい。
 油断したところを捕まえて遊んでやろう。
 これからどうするか考えながら家に帰った。

(2)

 終業式。
 あまり問題なく1年を終える事が出来た。
 多少問題があったけど。
 通知表をカミラ達と見せ合いながら教室を出る。

「今日はパーっと遊ばない?菫も彼氏つれてくればいいでしょ」

 こんな日まで2人でイチャイチャしなきゃいけないほどデートしてないわけじゃないのはカミラ達も知っている。

「陽葵の言う通り菫は正行も連れてくればいいじゃん」

 そんな話をして私も暇だし行こうかなと思った時だった。

「ごめん、紀子をちょっと借りたいんだけど」

 そう言ったのは高橋雪菜だった。
 
「何かあるの?厄介事なら私達も介入するよ?」

 最近大人しくしてたから憂さ晴らしに殺してやる。
 菫がそう言っていた。
 だけど雪菜は違うと言った。

「ご、ごめん。あまり大勢で行くと相手も怯えるだろうし」
「……ふーん」

 陽葵はそう言ってにやりと笑った。
 カミラも気づいたらしい。

「それじゃ二人は楽しんできなよ」
「なんで二人だけなんだ?」

 ぽかっ

 結が聞くと茉奈が小突いて結に耳打ちする。

「それってコソコソする物なのか?」

 茉奈の時はそうじゃなかったろ?
 
 ぽかっ

「私の時だって恥ずかしかったの!」

 それでも必死で告白したらしい。

「ふーん。ま、いいや。帰ろう」
 
 結達はそう言って家に帰る。
 私達は体育館裏に行く。
 するとクラスの男子がやって来た。

「ああ、息吹。こっちこっち」

 雪菜が手を振る。
 それに気づいた男子がこっちに来た。

「彼は斎藤息吹。ただのクラスメートだと言いたいんだけど……」
「どうかしたの?」

 カミルが聞いていた。

「彼、リベリオンなの」

 雪菜の一言で斎藤君は怯えている。
 まあ、一番の獲物のSHに見られているんだから誤解もするだろう。

「それで、要件は何?」

 私が言うと斎藤君は私をじっと見ている。
 言いたい事は大体感づいていた。
 ほら、雪菜がここまでおぜん立てしたんだからしっかり決めてよ。

「……一目ぼれです。気がついたら好きになってました。紀子さんが好きです」

 分かっていたけどちょっとだけ心に響いた。
 純粋そうな彼の一言が私の胸を震わせる。
 自分に落ち着くように言い聞かせてまず聞くべきことを聞いた。

「どうして私なの?」

 綺麗だからとか優しいからとか理由はいくらでもあるだろうけどその程度なのだろうか?
 まあ、小学生の恋愛だからそれでもありだろうけど「かわいいから」と告白した相手が最悪の旦那だったと聞いたことがある。
 しかし彼は違うようだった。
 彼はあまり気が強い方じゃない。
 だから誘われるがままにリベリオンに入った。
 しかしその気の弱さからリベリオンの中でもパシリの様な存在だった。
 ある日コンビニでジュース買ってこいと無茶な指示を出した馬鹿がいた。
 当然休憩時間に買ってくるのは無理がある。
 しかもお金も斎藤君が払えという。
 斎藤君も最初は拒否していた。
 そして暴力に入ろうとした馬鹿の腕を私が掴んだ覚えがあった。

「なんだお前?リベリオンに喧嘩売るのか?」
「その言葉そっくり返す。私達の餌になってくれるの?」
「なんだと?」

 馬鹿が私の後ろを見ると今にも襲い掛かりそうな菫たちがいた。

「お、俺達はリベリオンだぞ」
「だから何?」

 FGだろうがリベリオンだろうがふざけた真似をしている馬鹿が居たら殺してこい。
 そんな教育を受けている。
 今すぐ校庭に投げ飛ばしてやっても構わないよ?

「斎藤だってリベリオンなんだ。これはリベリオンの中の問題だからお前らには関係ない」
「本当に頭悪いね。だから何?困ってる男子がいたから見るに見かねて介入しただけ。あんた達の事情なんて私に関係ない」

 これ以上しょうもないことに時間を費やすなら天音を見習って投身自殺させてやってもいいよ。
 そんな話をしていると休憩時間が終わる。
 リベリオンの連中は何も言わずに席に戻って行った。
 菫達も席に戻る。

「あ、ありがとう」
「気にしないで、斎藤君も自分で嫌な事を嫌と言えるのはすごいから」

 目の前に鬱陶しいことしている奴がいるなら皆殺しにするのがSHのルール。
 相手が誰だろうと関係ない。
 私達を敵に回したことを後悔されるのがルール。
 だから斎藤君が気にすることはない。
 そう言って私も席に戻った。

「……それだけ?」
「情けないと思った?」

 それはないけど……私を好きになる理由ってそんな物でいいのだろうか?

「助けてくれて嬉しかった。それから四宮さんの事だけを考えていた」

 何か恩返しがしたい。
 何かないだろうか?
 そんな風に見ていたら気づいたことがある。
 私には彼氏がいない。
 それを寂しいと思ったことはあるけど、いつかその時がくるだろう。
 そう思っていたら本当に来た。

「僕は四宮さん達みたいに強くない。だけど四宮さんが寂しくないようにさせることなら出来る」
「本気でそう思ってる?」
「……僕じゃやっぱり力不足かな」
「そうじゃなくてそれがどれだけ大変な事なのか分かってて言ってる?」

 私は親を失って弟の健太くらいしか家族はいない。
 今は菫達の親が引き取ってくれて世話になってる。
 弟がいるから平気……って事もない。
 ママ達は平等に面倒を見てくれるから不満もない。
 だけどやっぱり斎藤君の言うとおりだ。
 カミラ達は恋人とメッセージをしたりしている中私は精々SHのグルチャを見てるだけ。
 去年のクリスマスイブに初めてをプレゼントした子もいる。
 バレンタインはパパや健太達に渡しただけ。
 菫やカミラ達に比べたらやっぱり孤独な部分もある。
 それを斎藤君が本当に埋めてくれる。
 私はそうでないけど、同棲していても一緒の時間が少ないからって別の男を求めた例だってある。
 逆に彼女を残して遠い異国で活動している人もいる。
 私が何が言いたいかわかる?
 信頼なんて言葉は軽々しく口にするほど簡単な物じゃない。
 相手を強く思っていつも寂しくないように常に行動することが必要になる。
 それが斎藤君に出来るの?
 私は斎藤君に預けてもいいの?
 初恋だからそんなに難しく考えなくてもいいかもしれない。
 でも私は簡単に両親を失った。
 大切な人を失うのが怖い。

「こう見えて私って結構重い女子なの」

 そう言って斎藤君を見た。
 斎藤君はずっと私を見て考えてから答えた。

「僕は誤解していたんだね」

 やっぱりダメか。
 そうじゃなかったらしい。

「僕が思うような強い女子じゃなかったんだね」

 斎藤君は気が弱いし喧嘩も強くない。
 だけどどんなに冷たい心の中にも秘められた熱があった。
 だから意志が強い。
 パシリを断るくらいには強い。
 だから斎藤君は言った。

「だけどそういう事情なら僕にでも力になれる。なって見せる」

 斎藤君に甘えたらいい。
 まだ子供だけど将来きっと私の隣に立っているから。

「どんな事情があろうと関係ない。何度でも言う。僕は四宮さんが好きだ」

 はっきりと言ってみせた。
 それだけでもすごいと思う。
 だから私も答える事にした。

「本当に守ってくれる?約束だよ?」
「分かってる」
「わかった。……とりあえず連絡先交換しよう?」

 そう言ってスマホを取り出す。

「いいの?」
「今さら冗談だったなんて言ったら、雪菜たちに殺されるよ?」

 そういう意味でも覚悟してね。
 そう言うと斎藤君もスマホを出した。
 話が終わると店を出る。

「じゃあ、また」
「待って」

 一人で帰ろうとする斎藤君を呼び止めた。

「さっき言ったばかりじゃない。私を一人にしないで」
「でも帰る家ちがうんじゃ」
「斎藤君はどこに住んでるの?」

 私の住んでいる地区と同じだった。
 策者も考えるのが面倒になったんだろう。

「途中まで一緒に帰ろう?」
「う、うん」

 そう言って雪菜達と3人で家に帰る。

「斎藤君さ、せっかく彼女出来たんだから手くらい繋いだらいいんじゃない?」

 雪菜たちは手をつなぐを超えて腕を組んで歩いている。
 さすがに私もいきなりそこまでは無理だ。

「いいかな?」

 そう言って斎藤君が手を差し出すと私は黙ってその手を握る。

「斎藤君はもう少し欲を出すべきなんじゃないの?」
「今はまだいいよ。小学生だし」

 そのかわりせめて今年のクリスマスにキスくらいはしてほしい。
 そう伝えた。 
 先に雪菜が帰って私の家に着く。

「またね」
「あれ?せっかくの春休みなのにデートくらい誘ってもらえないの?」
「ご、ごめん。初めてでどうしたらいいか分からなくて」
「そういう事も言わないでよ」

 それでは私がまるで慣れてるみたいじゃないかと。
 マニュアルを見て交際するのもありだけど、お互い初めてなんだから手探りで楽しむ方法を考えたらいいんじゃないか?

「……夜にまたメッセージでも送るよ」
「うん、待ってる」

 そう言うと斎藤君は家に向かって歩き出した。
 その背中を見送って家に帰ると、先に陽葵達が帰っていたみたいだ。
 部屋に入ってくるなり質問攻めにあう。
 夕食の時間にパパとママに菫がばらす。
 普通の事なのになぜか恥ずかしくてうつむいていた。

「そっか……これで恋人がいないのは陽葵と健太かい?」

 パパがそう言っていた。

「健太にはいるよ」

 私がばらしてやった。
 神谷佳織とそういう仲なのは何度か健太から相談を受けたから知っている。

「ちょっと待ってよ。私だけいないって事!?」

 陽葵が叫ぶ。
 私はともかく菫に先を越されたのは納得いかないらしい。

「そのうちいい人に会えるよ」

 ママが慰めていた。

「他の子は皆恋人がいるのかい?」
「カミルや雪菜もいないはずだよ」
「そうか……」

 パパは少し寂しそうな表情だった。

 ぽかっ

「今からそんな事でどうするの?」

 キスをしたり抱き合ったり愛し合っていく。
 その度にじいじは友達を飲みに行っていたそうだ。
 父親って大変なんだな。
 もうすぐ春が訪れる。

(3)

「んじゃ乾杯!」

 俺たちは高校卒業が決まると打ち上げをしていた。
 送別会じゃない。
 だってほとんどが地元大に進学する。
 崇博と歩美がF1の世界に挑むくらいだ。
 小学生のころからチームが発足してずっとドライバーの崇博と歩美と共に進歩し続けてきたチームT
 ついに頂点のF1にたどり着いた。
 やるからには負けない。
 だけどこれまで以上に危険な世界。
 ドライバーの命を守るためにスタッフも必死なんだそうだ。
 
「二人ならきっとすぐに頂点だね!」

 千帆達がそう言っている。
 千帆と姫乃も家を出て彼氏と同棲を始めるそうだ。
 そして千帆と歩美はあらかじめ彼氏の善斗と善久から聞いていたけどやっぱり驚いたそうだ。
 
「ただの入学祝だと思いなさい」

 どうせ同棲するんだったら母さんが用意してあげる。
 そう言って晶さんは家を2軒建てた。
 歩美はとりあえず善久に言ったらしい。

「ごめん、しばらくはレースに専念したいから……」

 子供は作れない。
 子供でも作る気でいるんじゃないかと歩美に思わせるくらいの家の大きさだったそうだ。
 俺と莉子も引っ越しの手伝いで行ったけど凄かった。
 同棲する大学生が住む家じゃない。

「分かってるよ。僕も大学生だし弁えるてるつもりだから心配しないでおくれ」
「善斗。私はいつ大学辞めてもいいよ?」
「千帆、僕はまだ自殺願望はないんだ」

 そんな真似したら実の母親に埋められる。
 それだけは勘弁しておくれ。
 一国一城の主となったのは善斗だけじゃない。
 岳也達も同じだ。
 崇博も戸惑ったらしい。

「杏采の嫁入り道具と思ってくれたらいい」

 恵美さんはそう言っていたそうだ。
 しかも2人で暮らしても2人は殆ど家にいない。
 大丈夫なのだろうかと崇博は心配していたそうだ。
 そんな崇博に恵美さんが一言言ったらしい。

「それが何?」

 そのくらいで寂しいと泣き出すようなやわな娘は石原家にはいない。
 一度決めた相手なら、意地でも手放すなと杏采には教育してある。
 片桐家の娘程ではないけどそれだけの覚悟を持てないのなら男と一緒に暮らすなんて認めない。
 恵美さんはそう言ったらしい
 片桐家で家を出る娘にも愛莉が教えるらしい。
 多少浮気されても許すくらいの覚悟を持ちなさい。
 まあ、そんな彼氏を選ぶような娘じゃないみたいだけど。
 男もそこまで言われたら浮気なんて無理に決まっている。
 残るのは罪悪感だけだから。

「崇博に重圧与えたかな?」

 杏采がそう言って笑っている。
 でも、多田家も誠司が身をもって示した。
 愛する人は一人だけでいい。
 その人の気持ちを考えたら自分だけ快楽を得ようなんて馬鹿な考えは自然に消える。
 実際誠司はアウェーで飲む事はあっても風俗に行くことはないらしい。

「行ってもいいけど病気だけは気を付けて」

 そんな風に送り出されたら、さすがに行けないらしい。

「なんで息子は立派なのに父親のお前はなんでいつまでたっても治らないんだ?」
「俺の息子だって立派だぜ?」
「まじめな話をしてる時にふざけるな!」

 そんな話を崇博と杏采は聞いてたそうだ。
 俺も莉子と暮らす時に莉子が愛莉から何か話があったようだ。
 その間父さんと話をしていたら、父さんからアドバイスを受けた。

「皆言ってたんだけどね。とりあえず彼女には逆らうな」

 片桐家の男性は彼女に絶対逆らえない。
 後はへそを曲げたら少し優しく抱いてやったりするとすぐに機嫌を取り戻してくれる。
 父さんの欠点があるとしたらそういう話をしている時に周囲の気配を読み取れない事だろう。

 ぽかっ

「冬夜さんは私の事をそういう風にみていたんですね」
「お、お嫁さんはいつも忙しいのだから労わってやれって事だよ」
「不思議ですね。私にはそういう風には聞こえなかったのですが……莉子はどう思いますか?」
「私にもそうは聞こえなかった」
「だそうです。説明してくれませんか?」

 その後父さんは愛莉に叱られていたらしい。
 だけど分かるんだ。
 父さんは愛莉から小言を受けてる間も笑顔でいた。
 日頃貯めている愛莉の不満を受けて入れてやってるんだろう。
 娘は父親に理想の彼氏像を求めるそうだけど息子もそうだろう。
 多分父さんの様にやっていれば間違いはないだろうから。

「お前達も2人で暮らすのか?」

 俺は直人たちに聞いていた。

「まあ、週末とかは鏡花の家に泊まっていたんだけどな」
「そ、それは言っちゃだめって言ったでしょ!」
「別に隠すことじゃないだろ?」

 これから一緒に暮らすんだから。
 楽しい話は1次会で終わり。
 2次会はカラオケで会議が始まる。
 ちなみに俺と莉子はアルコールは止めている。
 父さんが子供達の最初の酒は父さんと一緒に飲まないか?と言っていたから。
 18歳で堂々と飲めるスペインにいる冬吾もそれを守っているらしい。
 で、皆が注文して飲み物が届くと話は始まった。
 もちろん盗聴対策はしてあった。
 車にもCPUくらいついていてプログラムをいじったりして燃調とかを調整する。
 それをしているスタッフを見ていた歩美が独自にPCを欲しがると誠さんから教わったらしい。

「出会い系とかにはまるよりはましだろ?」

 誠さんがそう言うと神奈さんは反論できなかった。
 歩美が問題ないというと始める。
 問題は沖田の今後の行動についてだ。
 卒業前に神谷十郎と話をしていたのはしっかり恵美さん達が掴んでいた。
 リベリオンのグループチャットもしっかり見張りがいる。
 地元で隠し事をする方が難しい。
 で、気になる事は再び頭数を集める事。
 雑魚がいくら集まろうと関係ない。
 問題は雑魚以外だ。
 アメリカのギャングが鍛えて立派な兵士に育てるらしい。
 もう恋愛小説の要素がどこにもないぞ。
 そいつらがいつ動くかもしっかり分かっている。
 俺たちが子供を作って小学生くらいになったら学校ごと粉々にしてくれるらしい。
 ここが日本だという事すら分かってなさそうだ。
 当然父さん達が相談した。
 だけど父さんは一言だけ言った。

「だから何?」
「だから何ってお前……」

 誠さんもさすがにそれはまずいと思ったんだろう。
 自分の孫が危ないかもしれないのに放っておけと言うのかと神奈さんがも言っていた。

「関係ないね」

 こういう時の父さんは何か企んでいる最中だと愛莉は知っていた。

「冬夜さんの考えをちゃんと説明してあげてください」
「何か手立てがあるのか?」

 渡辺さんが言うと父さんは笑った。

「大したことじゃないよ」

 彼らは盗聴されているのに気づいているから濁していたけど、父さんは何が本命か大体気づいている。

「いつだよ?」

 神奈さんが聞くと父さんは誠さんを見て言ったらしい。

「僕と誠の孫だ」

 それを聞いてさすがに神奈さんは不安そうにしていた。

「優奈達を狙ってるって事か?」
「違うよ」

 優奈や愛菜には海翔がいる。
 同様の理由で結莉や茉莉に手出しができるわけがない。

「じゃあ、誰だ?」
「一番僕達の期待を背負う孫なんて分かり切ってるだろ」

 その子達の将来が潰えたらさすがに動揺するだろう。
 それで誠さんが感づいたらしい。

「まさか誠司と冬吾の子供か?」
「そう考えるのが妥当だろうね」
「ちょっと片桐君!自分の孫が狙われてるのによく平静でいられるわね」

 亜依さんがそう言ったそうだ。
 だけど父さんは動じなかった。

「逆を言えばそれまでは大したことはしてこないって事だろ?」

 せいぜいその雑魚を使って仕掛けてくるだけ。
 仕掛けてくるだけと見せかけて本命を準備する。
 よく考えてると思うけどわざわざ盗聴されているのにそれを教えるところを見るとまだ舐めてるんだろうね。
 父さんはそう言ったらしい。
 理由は簡単。
 それだけ時間があるというのは父さん達にも対策する準備期間をくれるという事。
 雑魚が暴れてるのは息子たちが始末するだろ。
 息子たちに任せて僕達は気づいてないと思わせた方が有効だろう。
 いつも相手の手札を見てから対処してるからリスクもあった。
 だけど今回は相手の切り札を把握した。
 後は仕掛けるタイミングを待つだけだ。

「だから冬眞、用心しておけ。多分僕の予想が正しかったら僕達が予想してないところをつついてくるはずだから」
「それはどこ?」
「それを考えるのが空や冬眞の仕事。予想が出来ないところを狙うんだから分かるわけないだろ?」

 そう言ってる父さんは気づいてそうだったけど最後まで言わなかった。
 いつまでも親を頼るな。
 空も王を名乗るくらいならそのくらい自分で何とかしろ。

「冬眞の親は厳しいんだね」
「善斗ほどじゃないと思うけどな」
「で、答えは分かったのか?」

 岳也が聞いていた。
 当然空と2人で相談していた。
 SHのリストを見て徹底的に調べた。
 するとなんとなく狙いが分かった。

「誰だったんだ?」
「お前だよ」

 直人が聞いてくるとそう返した。
 SHの絆の外に居そうな直人たち。
 そういうメンバーがいくらかいる。
 それに岳也の兄や姉の友諠と幸。
 理由は人数が少ないから。
 改めてみると恐ろしいまでに戦力が足りない世代が大学生だ。
 空も改めて見て初めて気づいた。
 冬吾や誠司が抜けたらどうなるか?
 それを失念していた。
 他にもいくつか急所のような場所があるとだけ伝えた。

「で、俺たちはどうしたらいい?」

 直人が聞くと俺は考えた。
 相手はこっちが相手の作戦を把握していると思って狙ってくるだろう。
 だから常に最悪のケースを考えて動くしかない。
 
「直人はとりあえず絶対に鏡花を一人にしちゃだめ」

 莉子が答えた。
 直人と鏡花。狙うなら鏡花だろう。
 つまりは直人は鏡花だけを守ればいい。
 直人の能力ならギャングが鍛えても無駄な雑魚くらいどうにでもできるだろ。
 
「母さんに頼んで二人に護衛をつけようか?」

 杏采が言う。
 それを聞いて思いついたことがある。
 父さんなら多分やると思う。

「それもいいんだけど、もう一つ頼みたい事がある」
「他にも護衛をつけるっていうならいいよ」
「そうじゃなくて常にマークして欲しい奴がいる」
「誰だよそれ?」

 岳也が聞いてきた。
 俺は迷うことなく答えた。

「沖田浩二」

 リベリオンがどんな組織に変貌してるかわからないけど俺達の処理は間違いなく沖田が指揮するだろう。
 だったら沖田にプレッシャーを与えてやればいい。

 いつでもお前をやるぞ?

 ただやられっぱなしじゃ癪だしな。

「なるほど、分かった。母さんに頼んでおく」

 大学ならそんなに部外者への警戒が高くない。
 石原家のエージェントならそのくらいわけないだろう。
 何か事を起こしたらまずあいつを押さえつける。
 それだけで指示系統が乱れるはず。
 多分善明の……翼の家の燃やしたのもそんな理由だろう。
 片桐家の身動きを封じられることが最優先事項だから。

「んじゃ、とりあえず冬眞の案でいくという事で少しは楽しむか」
「そうだね、私お替りおねがい」
「あんまり飲みすぎるなよ」

 崇博が歩美に注意している。
 朝まで遊んで家に帰る。
 まだ荷解きしていない荷物もある。
 入学式までに片づけておきたい。
 とりあえずはシャワーに入って寝る事にした。
 すると莉子が抱き着いてくる。

「いよいよだね」
「そうだな」
「一緒に幸せになろうね」
「俺はいつでも幸せだよ」
「……ありがとう。私も幸せだよ」

 そうして新しい春の準備を進めていった。
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