姉妹チート

和希

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遊景

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(1)

「天!何をもたもたしているのですか!?」

 まずい。繭が機嫌が悪そうだ。
 花見の件はあの後しっかり繭の機嫌を直したけどまたやり直しになる。
 さすがにしんどい。
 急いで髭を剃って髪を整える。
 歯磨きと洗面?
 別に男がそこまで気にしなくてもいいだろ。
 準備が終わると洗面所から出る。

「準備終わったよ」

 すると繭はやっぱり機嫌が悪そうだ。
 俺を険しい表情で見ている。

「ネクタイしっかり締めなさい!あといつになったらそのズボンの穿き方をやめてくれるのですか!」

 いつも通りの説教だった。
 繭は俺が腰の真ん中あたりで止めるのをやたらと五月蠅く注意する。
 昔日本代表のオリンピック選手がやって記者会見で怒られたそうだ。

「ちっ、うっせーな。さーせん」

 それを記者会見で言ってのけるかなり勇敢な猛者だったらしい。
 繭に言わせたら”ただの馬鹿”らしいけど。
 俺は別にオリンピックの選手とか大層な身分じゃない。
 しかし繭に言わせると違うそうだ。
 如月グループの跡取り。
 年齢も20後半。
 なのにいつまで若者ぶってるつもりだと叱られる。
 今日はそれだけじゃないならしい。
 息子の大和を見るように言われる。
 幼稚園のパンツだからゴムだからどこでも留まる。
 だから俺の真似をして腰の中間あたりでとめていた。
 すると幼稚園の制服だから問題が発生する。
 上のシャツはそんなに長くない。
 必然的にパンツが見えてしまう。
 見えてもいいパンツを穿けばいい。
 そんな理屈が幼稚園児の大和に通じるわけがない。
 繭が許すはずがない。
 
「問題はそれだけじゃありません」

 そう言って繭は娘の綺羅を指差す。
 ……確かにこれはまずい。
 綺羅も大和と同じような恰好だった。
 女の子の見せパンなんて幼稚園児にあるわけがない。
 そんなものを見てもしょうがないけど、俺の父さんならきっと喜ぶ。
 俺の家も水奈や遊達と同じような父親なんだから。
 母さんが何度も着て連れて帰っていたらしい。
 俺が仕事が終わって真っ直ぐ帰らなかったら会社が必ず潰れる。
 だから絶対に寄り道だけはするな。
 大地と善明から厳重に注意されていた。
 だから俺のいない昼間に現れるらしい。
 そして繭ですら悩む状態なんだそうだ。
 悩んだ末に俺の母さんに知らせる。
 繭の母さんに知らせないのは、知らせたら大惨事が待っていることを知っているのだろう。
 そんな事を考えている間に繭は俺の服装を正してネクタイをきつく締める。

「繭、ちょっときつすぎ……」

 俺が何かを言おうとすると繭がキスをしてきた。

「綺羅たちが生まれてからあまりしてくれないから不安だったの」

 そう言って繭は笑っていた。

「おあついね~」

 どこで覚えてきたのか分からない事を綺羅が言う。

「じゃ、行きましょうか」

 繭が言うと、俺たちは家を出る。
 家から幼稚園まではそんなに距離が無い。
 そして幼稚園も駐車場がない。
 だから歩いて向かう。
 途中で、茜達にあう。

「あ、繭達も今年だったんだ?」

 茜の子供も今年入園らしい。
 聞くところによると今年は結構な人数のSHがいるらしい。
 繭の妹の梓の娘も今年入園だそうだ。
 話をしていると、勝次も子供を連れてきた。

「よう、久しぶりだな」
「勝次も子供いたんだな」
「そりゃ俺だって結婚してるんだから作るよ」

 勝次が父親か。
 遊達が聞いたら笑うだろうな。

「天も人のこと言えないでしょ!」

 しっかり繭が注意する。

「……お前の所はそういう状態なんだな」

 勝次が不思議そうに見ていた。

「勝次は何か違うの?」

 繭が聞いていた。

「それがさ……生まれた時から大変だったんだよ」

 勝次の妻の加奈子が言った。
 生まれた時は抱き方が危なっかしかったらしい。
 それでも自分の子供だと思って必死に練習したそうだ。
 その甲斐あって今では勝次が仕事から帰るとすぐに太一と結花は玄関に向かって「抱っこ~」ってせがむらしい。
 休みの日もまともに休ませてもらえない。

「どっかいきた~い」

 そんな感じで仕事をしてた方が楽じゃないかと言うくらい大変なんだそうだ。
 お陰で加奈子は家事が楽だと言っていた。

「加奈子が羨ましいですね」
「繭は違うの?」
「子供よりも旦那の世話が大変で……」
「なんですって?」

 やばい!
 振り向くと晶さん達が立っていた。
 繭が孫の入園式だからと呼んだらしい。

「その話はあとでじっくり聞かせてもらいましょう」

 俺は笑っているくらいしかできなかった。

「そ、それにしても随分落ち着きのある子供だね」

 善幸さんがそう言って綺羅達に挨拶をしている。

「こんにちは、今日はお忙しい中ありがとうございます」

 綺羅はそんな風に答えていた。
 さすがに茜達もびっくりしたらしい。
 まあ、天音の娘は晶さんにむかってババアと言える子らしいからな。

「随分丁寧にあいさつするのね。……子供ってこんなんだったかしら?」
「繭の教育なんじゃないのかい?繭は特別大人しい子だったから」

 初めて喧嘩した時は思いっきり叩きのめされたけどな。
 多分護身術と称した殺人術くらいは仕込んでいるのだろう。

「ありがとうございます」

 綺羅はそう言ってにこりと笑って会釈をする。
 本当に俺の娘なんだろうか?

「繭はすごいね」
「茜はどうなの?」

 繭が茜に聞くと笑ってごまかしていた。
 
「まさかこの歳でそう来るとは思わなかったよ」

 茜がそう言って説明した。

「こらっ大人しく風呂に入りなさい!」
「別に汚れてないから平気だよ!」
「それもそうだよね」
「茜、納得したらダメだろ」

 茜は娘の椿を風呂に毎日入れるのが一苦労らしい。
 とにかく風呂に入りたがらない。
 入っても大人しく体を洗わせてくれない。
 壱郎が洗おうとすると「パパロリコンだったの?」と平然と言うらしい。
 もし壱郎がそうだったとしてもそれはロリコンなんて生易しい物じゃないだろう。
 だから茜がやるしかない。
 身近にある時計やリモコンをバラバラにするスキルの持ち主。
 しかもちゃんと元通りにするスキルもある。
 それを見た茜はすぐにPCを与えた。
 しかも買ってきたPCじゃない。
 茜がネットショップで適当に選んだパーツとケース。

「これ組み立てられる?」

 壱郎はさすがに無理だろうと思った。
 だけど昴と椿は見事に完成させた。
 漢字の読み書きよりも先にプログラム言語を覚えるネットの住人。

「さすが片桐家は違うわね」

 晶さんが驚いていた。

「でもそれ愛莉には言わない方が……」
「そう思って今日も呼ばなかった」

 茜は佐原家に嫁入りしたから愛莉さんも口出ししないだろうと思ったそうだ。

「そうだったの!?」

 晶さんの反応を見て嫌な予感がした。

「そういう理由だったのね?」
 
 晶さんの隣に茜の両親が立っていた。
 晶さんが「うちの綺羅達と同い年の孫がいるんでしょ?入園式には呼ばれなかったの?」と聞いたらしい。
 当然愛莉さんは驚いた。
 しかし片桐さんが「佐原家の孫なんだから僕達が行く必要もないでしょ」と言った。
 だけど愛莉さんは「何か隠してる気がするんです。それが不安だから様子見だけしませんか?」と言って今日来たみたいだ。

「まさか孫にまでそんな癖をつけていたの?」
「愛莉!それは違う!この子は自分の意思で風呂に入りたくないと言ったの!」
「同じでしょう!母親がそれを容認するのはどう説明するのですか!」
「ぼ、僕がちゃんと注意してるので……」

 壱郎が仲裁していた。
 片桐さんの口添えもあって愛莉さんは納得した。

「愛莉も寂しいんだよ。偶には顔を見せにおいで」
「はーい」
「じゃあ、晶さん。僕達はもう帰るから」
「あら。ついでに見ていけばいいじゃない?」
「見ての通りただ何を隠しているのか知りたかっただけだから」

 愛莉さんも天音という例があるから娘の子育てが不安らしい。
 まあ、娘の顔を見てないから寂しいというのもあるんだろう。
 片桐さん達は最初から式には出るつもりはないらしく私服姿だった。

「じゃあ、茜。気を付けて」
「わかった」

 そう言って片桐夫妻は帰って行った。
 しかし親の立場でこういう式に出るのは初めてだけどやっぱり退屈だ。
 しかし今は晶さんもいる。
 欠伸でもしようものなら今夜の夕食が大惨事になる。
 式が終わると適当にファミレスで昼食にした。
 綺羅と大和はまだ幼稚園児。
 普通にお子様ランチを頼んでいた。
 おまけが欲しいわけじゃなくてそのくらいしか食べられないと分かっているらしい。
 食べられない量を注文して悪戯に時間を使いたくない。
 そんな風に思っているんだろう。
 綺羅は繭が育てただけあって、品のある子だ。
 大和の口にソースがついていたら「綺麗に食べないとダメですよ」とハンカチで大和の口を拭いている。
 俺たちが話をしている間も静かに聞いていた。
 大和も同じようにじっと耐えていた。
 綺羅に怒られると思っているそうだ。
 大和は綺羅には絶対逆らえない。
 勝次の子供はキャッキャと騒いで加奈子さんと勝次を困らせている。
 意外と勝次は厳しくしているようだ。
 勝次が注意すると大人しくなる。

「親が甘やかせた末路が俺と兄貴の小学生時代だからな」

 親がまずしっかり小学校で大人しくしているようにしつけて学校に通わせなければならない。
 当然子供の主張が正しかったらそれを親が庇ってやればいい。

「天も見習ってください」

 繭がそう言っていた。
 まあ、子供の事も大体繭に任せていたからな。
 昼食を済ませると家に帰り、子供たちは着替えて昼寝をする。

「勝次達も変わったんですね」
「ああ、それ天音達も言ってた」

 喜一から聞いたらしい。

「社会に出るとそれまでの価値観が全く違うものになる」

 SHだFGだなんてどうでもいい。
 そんな物よりもまず自分の妻や子供を守らなければならない。
 FGのリーダーだったとか威堕天の頭だったなんてステータスは逆効果だ。
 どんなに粋がっていても、反社会勢力に属しない限りはその「汚点」を払拭することから始めないといけない。
 分かりやすく言うと、まじめに働いて稼ぐ事。
 喜一の場合は東京に一人で行ってそんなものが何の役にも立たないと思い知ったと言っていた。
 良くも悪くもFGや暴走族は縦社会だ。
 だからそういう点では社会にすぐ順応できる。
 むしろ自由気ままにやっていた学生の方が難しいだろう。
 光太の通っていた高校も就職が前提の工業高校だったのでそういう仕組みをしっかり叩き込まれる。
 この2人の子供もいずれは社会に出る。
 まあ、大和は俺の後継なんだろうけど。
 だからこそ今からしっかり躾けていかないといけない。
 それを繭は必死にやっていた。
 だからこのくらいは言ってあげよう。

「いつも子供の面倒押し付けてごめん。ありがとうな」
「あら?天がそんなこと言うなんて珍しい」

 夕食の後に大和たちが寝るとそんな事を言っていた。

「母の日にでも何かプレゼントしようか?」
「それもいいのですが……少しだけ天に甘えたらいけませんか?」

 繭がそう言って照れくさそうに笑う。
 意味はなんとなく分かった。

「それはいいんだけど、疲れないのか?」
「そうならないようにしてくれるのが天の役目でしょ?」
「……じゃ、寝室に行こうか?」
「ええ」

 そうやって子供たちは初めて社会という世界に飛び込むことになった。

(2)

「莉子、まだなの!?」
「もうちょっとだけ待って!」

 朝からあわただしい事になっていた。
 だから朝食の片づけは俺がするからって言ったのに。
 その間に準備をしてほしかったんだけど。
 時計を見ながら焦っているとやっと莉子の準備が終わったみたいだ。
 
「まだ大丈夫だと思う。急ごう」
「地元のバスは遅れる事はあっても早く来ることはないから大丈夫」

 時刻表通りに来ることの方が稀なんだから。
 まあ、バスだから仕方ない。
 信号や渋滞に巻き込まれたら遅れるに決まってる。
 信号も渋滞もない地区のバス停ですら同じだ。
 市街地から運航してきたバスがそのまま市街地に向かうバスに変わる。
 車で行くことも考えたけどやはり入学式の後の事を考えるとバスの方が良いだろう。
 父さんから忠告が来ていた。

「莉子と二人で初めて飲むんだからそれはいいけど、絶対に車を運転したらダメだよ」
「冬夜さん。冬眞達はまだ未成年なのに飲酒を容認するのは親としてどうなんでしょうか?」
「愛莉。そうはいっても冬眞の同級生を考えてみなよ」
「……そうですね。莉子は飲みすぎたらいけませんよ」

 と、いうわけでバスで向かう。
 目的のバス停で降りると会場のホテルに向かう。

「あ、来た来た。随分時間かかったね」
「莉子の準備が時間かかって」
「冬眞、そういう時は女性のせいにしちゃだめだよ」

 千帆がそう言って笑っていた。
 女性は時間がかかるのは仕方ない。
 服やアクセサリも考えたりする。
 それは独り身なら周りのいい男を見つけたいから。
 彼氏がいる時は彼氏に恥をかかせたくないから。
 笑って許すくらいの度量は見せないといけないと千帆が言う。

「別に怒ってはないんだけどさ」
「……千帆達ってひょっとして岳也からスーツ買ってもらった?」

 莉子はすぐに気づいたらしい。
 俺や莉子のスーツもそれなりのものを買ったんだけど明らかに違う。

「うん、綺麗な彼女を見て欲しいからって」

 千帆達はそう言って嬉しそうに答えていた。
 まあ、家を準備するくらいだからブランドのスーツくらいどうってことないか。
 そうして式を終えると昼食を済ませてそのままSAPに遊びに行く。

「冬眞達はバスで来たのかい?」
「ああ、たぶんそうなるだろうと思ったから」

 大学生ではないけど崇博や歩美も合流した。
 まあ、そうなるだろうと思ったよ。
 店は岳也が予約してあるらしい。
 善斗達や岳也はもう親と酒を飲むという儀礼をを済ませていた。
 父さん達はどうしてそうしなかったのだろう?
 簡単だった。

「冬吾には約束しておいて冬眞達と先に飲むのは違うだろうと思ったからね」
 
 父さんはそう答えていた。
 だけど折角仲間がいるんだ。
 楽しむときは楽しんだ方が良い。
 父さんはそう判断したそうだ。

「莉子。あまり酎ハイとかが美味しいからって飲みすぎたらいけませんよ」

 あとで必ず足に来る。
 愛莉がそう言ってるんだからそうなんだろう。

「冬眞も注意しておいた方が良い。愛莉がそうだったから」
「愛莉がどうかしたのパパ?」

 莉子が聞くと愛莉が慌てていた。

「そ、その話は子供にしていい話じゃありません!」
「この子達だってもうそのくらい分かるから大丈夫だろ」

 そう言って父さんが説明した。
 愛莉が飲み会に行ったら周りに酔ったと思わせて父さんに甘えたい放題だったそうだ。

「うぅ……冬夜さんだって似たような事あったじゃないですか」
「そういうわけ。人間酔うと何をするか分からないから気をつけなさい」

 乱痴気騒ぎでやりたい放題する人間もいるらしい。
 大勢で女性をトラックの荷台に乗せて服を剝がそうとする馬鹿がいたんだと聞いた。
 まあ、酔ってなくても軽トラくらいひっくり返しそうな連中がSHだけど。
 日が沈む頃になると岳也の案内で店に行く。
 普通の居酒屋だった。
 杏采もいるしもう少しおしゃれな店をイメージしていたけど。

「なんとなく憧れてたんだよね。こういう渋い店」

 さすがにこんな店で烏龍茶だけって無理だから今までこれなかったらしい。
 皆が飲み物を手にすると、俺に挨拶するように善斗が言う。
 適当に挨拶をして乾杯して食べ始めた。

「初めてのビールは多分冬眞も驚くんじゃないかな?」

 父さんがそう言っていた。
 空や翼もそうだったらしい。
 不評を買っていたそうだ。
 確かにこの味のどこがいいのか分からない。
 家に常備しておく必要は全くなさそうだと思った。
 逆に莉子は酎ハイやカクテルをジュースみたいな感覚で飲んでいる。
 慌てて注意する。

「いいじゃん。キッチンドリンカーとかには絶対ならないから!」

 楽しい雰囲気にのまれているのもあるんだろうな。
 帰りはタクシー頼んだ方が良いだろう。
 そうやって盛り上がっていると、思わぬ人物が現れた。
 遊と水奈と天音と天。
 どうしてここに?

「SHの飲み会に私達が参加しない理由はない!」

 天音がそう言って開いてる席に座ると注文する。

「いやあ、最近こうやって飲むことないから偶にはと思ってさ」
「天音……結莉達は?」
「ああ、大地が面倒見るから大丈夫」
「悠翔がいるから大丈夫だろ?」

 天音はともかく水奈は大丈夫なのか?それ。

「あ、俺達だけじゃないから。強力なパトロン準備しておいたから好きなだけ食え!」
 
 遊が言っている。
 まさかとは思うけど……。
 そのまさかだった。

「おっす、遊。待たせたな」
「久しぶりの飲み会と聞いて駆けつけたぜ!」

 神奈さんをごまかすのに時間がかかったらしい。
 瑛大さんは「同僚と飲んで帰る」と言ったそうだ。
 育児もほとんど終わってるからそのくらいいいかと亜依さんが許可したらしい。
 しかし千帆と姫乃はそうは思わなかった。

「今夜は俺達に任せろ!夜の遊び方ってのを教えてやる!」

 飲む前からすでに盛り上がってる遊達。
 しかしそんなに甘いわけがなかった。

「……どうして誠君達がいるの?」

 その声を聞いて誠さんと瑛大さんが振り返る。
 すると神奈さんと愛莉と学が立っていた。
 歩美と千帆達が知らせたらしい。
 前もって母親から聞いていたんだそうだ。

「もしあの馬鹿たちが現れたらすぐに知らせろ」

 そして愛莉たちの予想通り誠さん達が現れた。

「天音!結莉達放って何してるの!?」
「きょ、今日くらいいいだろ?冬眞達を祝ってやらないと」

 愛莉だって同じだったんだろ?と天音が言う。
 だけど神奈さんが言う。

「渡辺班は愛莉が妊娠してその後次々と子供が生まれて育児で飲み会どころじゃないとしばらく活動してなかったんだ」

 子供たちが大きくなってそろそろ色々遊ばせたくなるだろうと渡辺さんが活動を再開させたらしい。
 その事は誠さん達も当然知っている。

「……で、次はこっちが質問する番だが、どうして誠たちがここにいるんだ?」

 それは確かに気になった。

「お、俺は瑛大が大人の夜の遊び方を教えてやろうって言って来たから乗っただけだ」

 それはたしかに18歳なら入れるけど彼女がいるのにどこに連れて行く気だったんだろう?

「お、俺も遊から千帆達に夜の騒ぎ方を教えてやってくれって言うから……」

 その千帆達からすごい冷たい視線を浴びている瑛大さん。

「ま、待ってくれ。私は母さんをちゃんと誘ったぞ!もう父さんくらいしか家にいないからたまには騒ごうぜって……」
「ああ、私は最近は退屈だ。誘ってくれたのはありがたいと思った。だけど水奈は肝心な事を忘れてないか?」

 神奈さんが言う。
 大体想像がつく。
 学がここにいるから。

「水奈。お前が日頃大変なのは認める。ちゃんと家事をやっているみたいだ。だけど一つ問題がある」
「な、なんだよ学?」
「お前今夜の夕食どうした?」
「あ!?」

 天音は察したらしい。

「お前まさか……」

 そのまさかをしでかしたらしい。
 ご飯を作るのを忘れて遊びに来たから悠翔と茉奈が台所に立って冷蔵庫の中にある者をあさって作ったらしい。
 学が帰って来た時はその最中でエプロンをつけた茉奈がキッチンに立っていた。

「ただ、憂さ晴らしをしたいだけなら仕方ないと思ったけど……そもそも悠翔達だけを家に置いていて危険を感じなかったのか?」

 そうでなくてもSHを狙う敵なんていくらでもいるぞ?
 学がそう言う。
 
「学が帰ってくるから大丈夫だと思ったんだよ!」
「子供を放って夜遊びって何考えてるんだ馬鹿!遊も同じだ。お前なずなに同僚と飲むって言ったそうだな!?」

 神奈さんは怒っている。
 あとで家に帰ったらなずなにしっかり怒られたらしい。

「別に飲みに行くくらいは許すけど、どうして嘘を吐くの?SHの飲み会で私が怒る事が起きるわけ?」

 起こすつもりだったのは誠さんがはっきり言っていた。
 最後に愛莉が天音を見てにこりと笑って言った。

「さて、天音はどういう風に説明してくれるのかしら?」

 SHの大学生の入学祝だから?
 それにしては変ですね。
 空達は知らないのはどう説明するのですか?
 そもそも大地は家で結莉達の面倒を見てるそうじゃないですか。
 それも大地が帰ってきたら温かいご飯を作ってあげようと結莉が準備したそうですよ。

「も、もう家事も出来るように仕込んだんだ。すごいだろ?」

 だから家を空けても大丈夫だから参加した。
 問題ないだろ?
 だって結莉達を襲って後悔するのはその犯人だ。
 死ぬなんて表現が生温いくらいのことはする娘だぞ。
 それを親が認めていいのだろうか?

「で、天音は誰から聞いたの?」
「ふ、普通にSHのチャットで言ってたんだ」
「……天音。嘘を吐いたらダメって昔言わなかった?」

 翼も駆けつけていたそうだ。
 翼がはっきり言う。

「そんなログは一切SHのチャットには無かった」

 そうなると不思議な事がある。
 水奈も遊も誰から聞いた?
 
「あ、たぶん私」

 千帆だった。
 千帆は善斗や岳也だけじゃ面白くない。
 だから水奈や遊を誘った。
 誠さんと瑛大さんまでは予想してなかった。

「それで水奈が天音に言ったのね?」

 愛莉が天音を睨みつける。
 天音も笑うしかなかった。

「……帰りますよ。言いたい事はいっぱいあるの」

 そう言ってみんな連行されていた。
 翼が最後に俺達に言った。

「せっかくの席をしらけさせてごめんね。月末にでも歓迎会してあげるから」

 それが空からの伝言。
 俺たちはその後飲みなおして昼間行ったから良いだろうとカラオケには行かずに帰った。
 後日善明が用意したホテルのホールで歓迎会があった。
 花の学生生活の始まりにしては不穏な空気の残るパーティとなった。
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