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Rising Hope
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(1)
俺達は水族館に来ていた。
美味しそうな魚がいっぱいいるんだろうな。
どうしてそう思ったのかって?
だって、お寿司屋さんにはたくさんの種類の寿司があったから。
きっとそれだけたくさんの種類のお魚がいるんだろうと思っていた。
でも母さんが説明してくれた。
「結、同じお魚でも食べる部位によって種類が変わる事があるの」
例えば牛肉で例えると肝臓や腸などは種類が違う。
サーロインとヒレでも違う。
半島の人間は骨だけ残して残りの肉は残さず食べるそうだ。
もったいないの精神は日本人だけじゃないらしい。
それは日本人の理解を超えた事をする。
汚物のなかにつけておいた酒を飲むのが好きらしい。
大昔は汚物を舐めて誰のものか当てる遊びが流行っていたんだそうだ。
いけない。
食事の話の最中にしてはいけないと言われていた。
とにかく何でも食べる。
有名なのは犬でも食べるらしい。
あまりおいしそうなイメージはないけどそれは偏見だと父さんが教えてくれた。
「くじらやイルカを食べるのは日本人だけだよ」
それをよく思っていない人権団体という頭のねじが最初からなかった人間が文句を言うらしい。
文化が違えば食べる物も違ってくる。
まずいか美味しいかは個人的な話だ。
でも「それを食べるのは可哀そう」だと言って他国の食文化を否定することは間違っている。
だって人間は誰もがそんな罪を犯しているのだから。
魚を食べるし牛や豚だってどこの国でも食べる。
それは生まれた時から食用として育てられる。
牛や豚には生き残る権利がないんだ。
父さんの読んでいた漫画であった。
人間よりも強大な生物が生まれて人間を食べていた。
その生物の王様に「助けてください」と頼んだらしい。
王様は笑った。
「お前たちは豚や牛が助けを求めたら食べないのか?」
弱肉強食の世界を否定する漫画があった。
でもすき焼きが好きだった。
それが自然の摂理なんだろう。
同じ人間同士で戦うのは間違っている。
そんなやっぱり残念な思考の持ち主ががいるらしい。
どの生物だって同じ生物同士で争っているじゃないか。
オスは子孫を残すためにメスを勝ち取ろうと必死にアピールしている。
スポーツは良くて戦争はダメな理由が分からない。
日本は戦争を否定しているから絶対に狙われないと信じている狂信者がいるそうだ。
無抵抗を貫いた偉い人がいたらしいけどやっぱり命を落とした。
失くせない物が無い無力な人間にはなるなと歌っているバンドもいる。
父さん達も言っていた。
普通に生活している人でさえ受験や出世を求めて激しく争い合う。
争いのない日がくるといいなと歌っているバンドもいた。
だけどバンドの人自身が他の人よりも人気が出ないと収入がなくなってしまう。
冬莉達も懸命に悩んで歌を作っているそうだ。
父さんが教えてくれたことがある。
「昔そういう主義の国があったんだ」
今でもそうらしいけど。
だけど大半の国は行き詰って行った。
理由はそんなに難しくない。
「人はみな平等であるべきだ」
そう言って真面目に働く人も怠けている人も同じだけの収入なら当たり前の様に誰も働かなくなる。
結果に応じた報酬が貰える国に移住する。
やがて国自体が進歩が無くなる。
「金持ちや企業はその財産を貧民に与えるべきだ」
当たり前の様に金持ちや企業はその国から逃げ出す。
結果、お金の無い、ビジネスを考えようとしない怠けものばかりの国になる。
そんな国に未来があるわけがない。
するとどうなるか?
日本の近隣諸国がいい例だと言っていた。
「日本は戦争に負けたから金を払え」
1世紀近くたった今でもそう言って金をせびっている。
優秀な学者に研究費は与えずに近隣諸国に賠償金を払い続ける日本。
難しい話になったから元に戻そう。
水族館にはいろんな魚がいた。
関アジや関サバもいた。
ヒラメとかタコもいる。
綺麗だと言って蛍光色のクラゲがいた。
クラゲはあまり食べたくない。
キクラゲは食べられるのになんでだろう?
「キクラゲはクラゲとは違うんだよ?」
茉奈がそう言って笑っていた。
茉奈ははぐれないように俺と手を繋いでいるから上機嫌だった。
手を食べられるのはいやだなぁ。
キクラゲはキノコの一種らしい。
通りで半透明じゃないわけだ。
しかし大きいけどまずそうな魚が泳いでいる。
イルカも食べたいかと言われると食べたくない。
そういえばじいじ達が言っていた。
沖縄の魚は色が綺麗らしい。
陽葵達は見てみたいと言っていたけど俺は悩んでいた。
この世界には沖縄に憧れる人間がたくさんいるそうだけど多分俺はそうじゃない。
茉奈はどうなんだろうか?
「茉奈、沖縄に行きたい?」
レストランで昼食をしている時に聞いてみた。
「うん、ビーチとかすごく綺麗ってママが言ってた」
「……そっか」
「結は違うの?」
「うん」
「どうして?」
カラフルな魚って食べられるのだろうか?
昔原発の側でとれた不気味な色の魚を食べるアニメがあったらしいけどあまりおいしそうな色じゃなかった。
沖縄じゃ魚は食べられない。
そう説明すると茉奈は笑っていた。
「結、生の魚は綺麗だけど料理するんだから関係ないよ」
刺身や揚げ物にしてしまえばどの魚だって同じでしょ?
結莉がそう説明すると僕は納得した。
「沖縄にはラーメンみたいなそばがあるんだけど、やっぱりとんこつラーメンの方が好きだな」
「空は自分の子供に何を教えてるのですか!」
父さんが愛莉に怒られていた。
そういえば修学旅行というのでラーメンが食べまくれると父さんが言ってたな。
味噌ラーメンの本場の札幌の味が楽しみだ。
「結局片桐君の血を継ぐと食べ物が基準なんだね」
望がそう言って笑っていた。
「フォアグラより豚の角煮が食べたい」
茉莉達がそんな事を言い出してから週に一回はどこかのレストランに連れて行ってるそうだ。
片桐家の味の基準では石原家の用事で会食に出た時に大変なことになる。
「茉莉達に恥をかかせる雑魚がいるなら始末すればいい」
恵美はそう言っていたけど。
実際父さん達は三大珍味というのにあまり興味を示していなかった。
父さん達が美味しくないと思ったそうだから多分そうなんだろう。
だけど石原家ではそうはいかないらしい。
「ごめん恵美。私もなるべくいろいろな料理を食べさせていたんだけど」
愛莉が謝っていた。
しかしじいじ自身が「やっぱりラーメンが一番だよね」と言ってる以上その価値観は変わらないだろう。
しかし江口家主催のパーティで「ラーメン食べたい」とか言い出すのだけは阻止したいと天音にも注意してるらしい。
だけど天音も悩みがあるみたいだ。
「大地の分だけ特別に嫌いな食べ物を入れないようにと注意していたんだけど……」
さすがに天音でもエビフライが食べられるのにパスタの中に海老を入れるのを嫌ってよけていたりするそうだ。
それを聞いた恵美が激怒した。
「父親が好き嫌いしたら、子供に注意できなくなる事くらい分からないの!」
「恵美落ち着いて……どうしても見ただけで食べられないものがあるんだ」
「望がそんなんだから大地がそうなったんでしょ!?肉は食べて魚は食べないなんて小学生でもしないわよ!」
「恵美、僕はそうじゃない。ただロブスターとかをどう食べていいのか分からないから手を出さなかっただけだよ」
「同じでしょ!」
ちなみに菫は殻ごと食べようとして美希に注意されたそうだ。
その事を学校で菫が話すと茉莉が言った。
「お前実はどこかの秘境の蛮族なんじゃねーのか?」
「茉莉は知らないのか?昔こんな話があったそうだぜ?」
王族は最も強い盗賊・山賊の成れの果てだ。
「そういう事は私に勝ってから言え」
「上等だ、今からきっちりケリつけてやらぁ!」
「茉莉さんと菫さんはお願いだから大人しくしてて。ここは決闘場じゃなくて授業中の教室なの」
「じゃあ、授業終わってからやろうぜ」
菫がそう言うと桜子は何も言わなかった。
「……それであんな電話を桜子がしてきたのね」
晶の所にも電話がかかって来たらしい。
愛莉も電話で桜子からの話を聞いて天音に忠告してた。
「ま、茉莉。学校では大人しくしてるって約束しただろ?」
「先に挑発してきたのは菫だぞ!」
「なんでお前らは海老の話をしていたら決闘になるんだ!?」
天音もああ見えて色々苦労しているらしいと結莉から聞いた。
育児書を毎日読んではどうやって普通の女の子に育てるか苦労しているらしい。
結莉は大地の好き嫌いが無かったら問題はない。
しかし茉莉はそれだけじゃない。
大地にも色々相談しているらしい。
その結果結莉は順調に育っているそうだ。
天音がいない間の家事をするようになった。
「芳樹のいいお嫁さんになるの」
結莉はそう言っている。
そんな結莉を父さん達だけじゃなく皆が褒めていた。
だけどじいじだけはその状況をじっと眺めていた。
様子を見ていただけだと思ったけど多分天音達に気づかせるために言ったのだろう。
「茉莉は将来はお嫁さんになるのかい?」
じいじが茉莉にそう聞いていた。
「……そんな先の事わかんない」
「まあ、普通はそうですよね」
愛莉が言った。
しかしじいじは一つ不安を抱えていたのだろう。
水族館を出ると猿山には寄らずに家に帰った。
そしてその時じいじが天音に忠告していた。
「茉莉の事ちゃんと見てあげて」
「分かってるよ。でも何を言っても問題を起こすんだ」
翼と相談していると天音は答える。
だけどじいじはそうじゃないと言った。
「いやな予感がする。大地も一緒に茉莉を支えてあげて」
じいじがそう言って家に帰る。
家に帰ると部屋に戻って夕食の時間までテレビを見ていた。
「ネットだけの情報を鵜呑みにしたんじゃだめだ。テレビもたまには見なさい。そうやってどっちも情報のどこが正しいのか常に判断しなさい」
パパがそう言っていたからそうしてる。
正直どうでもいいニュースばかりなんだけど。
するとグルチャがやけに騒がしい事になっているのに気づいた。
「翔一が襲われた」
それに反応する菫や茉莉。
「パパ、悪いけど病院に連れて言ってくれないかな?」
カミラや比呂が言っている。
俺も気になるから父さんの車に乗って病院に向かった。
(2)
「翔一が襲われた」
家に帰るとそんなメッセージが待っていた。
「で、大丈夫なの?」
「私は大丈夫だけど翔一が……」
今病院で手当てを受けているらしい。
私達は急いでパパ達に事情を伝えて病院に向かった。
パパ達のSHだ。
当然事情は知っている。
だけど小学生の事件に大人が介入なんてみっともない事させられない。
だから私達でまず事情を聞こうと思った。
病院に着くと待合室で小雪が待っていた。
小雪は泣いていた。
「落ち着いて小雪。何があったのか説明して」
私がそう言うと小雪は事情を話した。
普通に連休だから翔一とデートをしていた。
すると突然翔一が後ろから金属バットで殴られた。
小雪は驚いて後ろを振り返るとグラサンをした同い年くらいの集団が立っていた。
「ちょっと付き合ってもらおうか?逃げられると思うなよ」
デパートの中だったので店員が慌てていると、そいつらは店員を恫喝する。
「余計な事するとけが人が増えるだけだぞ?」
大人の店員に平然とそう言って恫喝する集団。
小雪も両腕を掴まれて連れ去れていた。
当然叫び声をあげるが、誰も助けてくれなかった。
集団は小雪たちに目隠しをして手錠で手を縛られどこかの広場に連れていかれた。
目隠しを取ると集団は翔一に要求する。
「これからゲームをする。お前が立っている間は彼女には手を出さない。ただし、お前が手を地面につけたらこの女を襲う」
「SHにこんな真似してただで済むと思ってるのか?」
翔一がそう言うと要求した男はにやりと笑った。
「俺達は聞いてるぞ。そのSHとやらを名乗る奴は潰せと」
確かにパパが出した指示だ。
そして集団が暴行を始めた。
自分が倒れたら小雪がどうなるかくらいわかる。
小雪の歳だ。
まだ経験なんてあるはずがない。
必死に耐えて立ち続けていた。
その間小雪も叫び続けた。
意識が途絶えても立っていたそうだ。
「お願い、もうやめて!私を好きにしていいから!」
そう言うと男たちはにやりと笑って小雪の服に手をかけようとする。
「その辺にしとけ。お前らが誰だか知らんが一秒でも長生きしたいだろ?」
大人の声が聞こえたらしい。
集団が振り向くと純也が立っていた。
集団がデパートを出た後店員が警察に通報した。
本来なら少年課ですむ状態だけど彼らはミスを犯した。
前にも説明があったけどリベリオンの行動など全部SHにはお見通しだ。
話をたまたま聞いていた純也が茜に連絡した。
茜がその時間のログをたどる。
で、計画していることが分かった。
当然どこでそんな馬鹿な真似をするかも筒ぬけだし、そもそもそんな場所はそんなに多くない。
で「この件は俺が責任を取るから」と少年課の同僚に頼んで現場に駆け付けた。
「ていうわけで、さっさと解散しろ。余計な仕事増やすな」
刑事の言葉とは思えない事を言う純也。
そして連中は小雪に一言言った。
恨むのならSHを恨め。
そう言い残すと連中は去って行った。
その後純也が救急車を手配してその間小雪を落ち着かせていた。
しかし小雪は納得いかなかった。
「どうして警察はあいつらを逮捕しないんですか!?」
当然の意見だ。
だけど純也は言った。
「それでよかったのか?多分あいつら小学生だし精々補導程度だぞ」
「……あなた誰?」
ただの警察ではないと小雪も思ったらしい。
「遠坂純也。中央署の捜査1課。れっきとしたSHの一員だよ」
純也はそう言いながらSHのグルチャに連絡していた。
それを見た私達が今病院に駆け付けた
空達は水奈や天音が暴れ出すのを抑えるのに必死になってるだろう。
それも空が「あまり怒るとあいつらの思うがままになるぞ?」と言ったらしい。
「空はこのままでいいと思ってるのか!?ふざけたこと言うとお前も翔一みたいにしてやるぞ!」
「天音は自分の兄の事すら把握してないの?このままで済ますわけがないでしょ?」
確かに空が一番怒りそうだけど落ち着いてた。
「今回の事件は小学生の問題だから天音は陽葵達に譲ってやれないか?」
空がそう言うとすぐに天音が察したらしい。
「武器が欲しけりゃ言え。すぐに準備してやる」
「そうね。陽葵ちゃん達だけじゃ不安なら兵隊出してあげる」
恵美がそう言っていた。
「そんな物必要ない」
それが菫の結論だった。
そんな玩具でリベンジしたくらいじゃ気が済まない。
「連中の根城は宗田小。結構遠いけど大丈夫?」
茜がすでに素性を調べ上げていた。
確かに結構遠いな。
遠征させた分ちゃんと償わせてやる。
そんな話を小雪としていると病室から純也が出てきた。
「悪い、待たせたな。事情は聞いたから一応上に報告しておくよ」
「純也……多分分かってると思うけど」
「俺もお爺さんに叱られるかな?あまり面倒な仕事をしたくないんだ」
警察が関与したところだって奴らなりのパイプがあるだろう。
だから敢えて手を出さないから好きにしろ。
「できれば自転車で行くのは止めておけ」
どうせ加害者になるんだろ?
パトカーで送ってやるよ。
警察署まで行ったら空達が迎えに来るよ。
純也と話をしている間に小雪が翔一と話をしている。
私達も病室に入った。
「翔一、大丈夫?」
「見た目ほどは酷くないらしいよ……それより小雪は?」
「なにもされてないって純也が言ってた……」
「帰って!!」
小雪が突然叫んだ。
「翔一がこうなったのはSHが調子に乗ってるからじゃない!」
私達は何も言えなかった。
その後も小雪は私達を散々罵った。
これでは翔一と話が出来なさそうだと判断して病室を出る。
「さてと、どうする?」
カミラが聞いてる。
分かってるくせに。
「そんな事決まってるじゃない?」
私達はSH。
SHの誇りを守るのが私達の役割。
「……仇討ちなんて綺麗事は言わない」
これは穢れた獣同士の共食い。
私は病院を出ると手を出した。
「聖者の為に施しを、死者の為には花束を」
私の意図が分かった雪菜が手を重ねる。
「正義の為に力を持ち、悪漢共に制裁を。だけど私達は聖者の列には加わらない」
そしてさらにカミラが手を重ねた。
「サンタマリアの名に誓いましょう」
最後に紀子達が手を重ねて皆で誓う。
「すべての不義に鉄槌を」
その後家に帰ってグルチャで相談する。
結構日は連休明け。
作戦内容は……。
「問題ないと思う」
パパが言った。
私達は皆それなりに戦闘能力がある。
もちろん雪菜や紀子がいるから集団戦闘でもいい。
しかしそれではつまらない。
ただやり返すだけじゃだめだ。
SHに手を出したらどうなるかしっかりその体に刻み込んでやる。
(3)
大丈夫だろうか?
平静を装っていたが相手はリベリオン。
ついにSHに牙をむいた。
菫たちが大人しくしてるはずがない。
しかし相手はかなりいる。
菫達だけで始末できるのだろうか?
「……ねえ。もうSHなんて抜けた方がいいよ」
彼女の小雪がそう言った。
SHを名乗ればあいつらの標的になる。
もうSHは地元で絶対の存在ではない。
危険だから抜けよう。
小雪のいう事ももっともだ。
「小雪さんはSHを怒らせるとどうなるか分かってないと思う」
阿澄千夏がそう言った。
千夏の言うとおりだ。
中途半端に復讐したらさらに被害を産むことくらいは皆周知している。
だから二度と歯向かう気を起こさないように徹底的に心に恐怖を植え付ける。
SHの中でも片桐家が関わる事態になった。
絶対に怒らせてはいけない人間を怒らせた。
今頃きっと勝ち誇っているあいつらを後悔させる手段を練っているはず。
それは中途半端な似非SHなんて比べならないくらいの固い結束。
「それとさ、多分自分たちをきっと責めてる」
相羽爽一郎が言った。
あいつらが何かを企んでいるのは分かっていた。
多分俺達を狙ってくることも見当ついていたのだろう。
だけど連休だからと油断していた。
その結果この悲劇を作った。
「狙われると分かっていたなら一言忠告してくれてもよかったじゃない」
小雪がそう反論する。
だけど千夏が首を振る。
「そうじゃないの。それだと小雪さん達は毎日怯えて暮らすことになる」
いつどこで何者が何を仕掛けてくるかわからない。
そんな状況下で平然と暮らすなんて無理だ。
だから敢えて内密にしていた。
後は何度も言うけど連休だと油断していた。
ただそれだけの事。
「小雪。今更SHを抜けてどうにかなる問題じゃないんだ」
今はSHじゃないなんて理由どうでもいい。
ただSHに関わっていた。
それだけの理由でリベリオンは狙ってくる。
小雪は聞いたんだろ?
「恨むならSHを恨め」
それが彼らの目的だ。
「……私達どうなるの?」
いつもは強気な小雪が不安になっている。
だから千夏が言った。
「何も変わらない生活が待っている」
「ふざけるな!たった今SHに関わったってだけで狙われてるって言ったじゃないか」
「それでも変わらないの。その為にSHが動き出した」
そう言って千夏がスマホを見るように小雪に言った。
小雪は見て表情が変わった。
「相手の素性はとっくり割り出している。それは小雪が被害にあった時点から始まっていた」
そして菫たちが様子見に来た。
普通に考えたら処刑人は菫達だ。
「菫達何する気なの?」
小雪が聞くと俺が答えた。
「簡単だよ。二度とふざけた真似をしないように徹底的に処刑するつもりだよ」
さっきは小雪の前だから表情に出さなかったけど、菫達はかなり怒っている。
恵美さんが武器を用意しようか?と言ったけど菫達は断っていた。
それは子供の喧嘩に武器は情けないとかじゃない。
銃器くらいですますと思ったら大間違いだって意味だろう。
たぶんやる気だ。
たかだか中学生だと侮るなよ。
SHに手を出すという意味をしっかり叩きつけて……殺してやる。
「それがSH。普段はお遊びしてるだけの仲良しグループの裏の顔」
少々ふざけるくらいなら大目に見てやるが仲間や友達に手を出す真似は絶対に許さない。
それがSHの唯一のルールであって、最強の誇り。
「だからあまり菫達を責めないで欲しい」
俺はそう言ったら、小雪も少し落ち着いたらしい。
「さっきは言いすぎました。ごめんなさい。私SHの事何も知らなくて……」
小雪がそんなメッセージをグルチャに送っていた。
「知らなかったらこれから知ればいいんだよ」
天音がそう答えていた。
「フライパンだか何だか知らねーけどあいつらにも嫌でも思い知らせてやるだろうから気にするな」
禿げるぞ?
天音はそう言っていた。
「で、菫達は何を企んでるの?」
爽一郎が聞いていた。
「そうだね。浮かれ気分で連休を送ってもらう。そして連休明けに地獄に突き落としてやる」
やっぱり菫はやる気だ。
しかもただやるんじゃつまらない。
思った通り徹底的に心理的恐怖を植え付ける気だろう。
「話が纏まったところでちょっといいかな?」
そう言って看護師がやって来た。
「あんた達だけで帰すのは危険みたいだから遊が送るっていうから、今日は帰りなさい」
「いいんですか?」
「もし織田さんに遊が馬鹿な真似をしたらなずなに伝えて。あの馬鹿を地獄に放り込んでやるから」
「それはないよ。だってなずなも琴音達も一緒なんだ」
「父親の立場を忘れて馬鹿な真似はしないと思うけどちょっと不安だったから」
桐谷遊となずなさん達が来た。
「……翔一も看護師さんが綺麗だからって浮気したら怒るからね」
そう言ってやっと小雪が笑ってくれた。
「さすがにガキの俺じゃ相手にしてくれねーよ」
「ガキじゃなかったらするんだ?」
「心配なら霊安室に閉じ込めておいてもいいよ?」
看護師さんがそう言って笑った。
「じゃ、大人しくしててね」
また連休が明ける前に来るから。
そう言って小雪は帰って行った。
小雪の事も心配だけど、菫達が何をするつもりなのかが不安だった。
それは想像の斜め上を行く作戦だった。
俺達は水族館に来ていた。
美味しそうな魚がいっぱいいるんだろうな。
どうしてそう思ったのかって?
だって、お寿司屋さんにはたくさんの種類の寿司があったから。
きっとそれだけたくさんの種類のお魚がいるんだろうと思っていた。
でも母さんが説明してくれた。
「結、同じお魚でも食べる部位によって種類が変わる事があるの」
例えば牛肉で例えると肝臓や腸などは種類が違う。
サーロインとヒレでも違う。
半島の人間は骨だけ残して残りの肉は残さず食べるそうだ。
もったいないの精神は日本人だけじゃないらしい。
それは日本人の理解を超えた事をする。
汚物のなかにつけておいた酒を飲むのが好きらしい。
大昔は汚物を舐めて誰のものか当てる遊びが流行っていたんだそうだ。
いけない。
食事の話の最中にしてはいけないと言われていた。
とにかく何でも食べる。
有名なのは犬でも食べるらしい。
あまりおいしそうなイメージはないけどそれは偏見だと父さんが教えてくれた。
「くじらやイルカを食べるのは日本人だけだよ」
それをよく思っていない人権団体という頭のねじが最初からなかった人間が文句を言うらしい。
文化が違えば食べる物も違ってくる。
まずいか美味しいかは個人的な話だ。
でも「それを食べるのは可哀そう」だと言って他国の食文化を否定することは間違っている。
だって人間は誰もがそんな罪を犯しているのだから。
魚を食べるし牛や豚だってどこの国でも食べる。
それは生まれた時から食用として育てられる。
牛や豚には生き残る権利がないんだ。
父さんの読んでいた漫画であった。
人間よりも強大な生物が生まれて人間を食べていた。
その生物の王様に「助けてください」と頼んだらしい。
王様は笑った。
「お前たちは豚や牛が助けを求めたら食べないのか?」
弱肉強食の世界を否定する漫画があった。
でもすき焼きが好きだった。
それが自然の摂理なんだろう。
同じ人間同士で戦うのは間違っている。
そんなやっぱり残念な思考の持ち主ががいるらしい。
どの生物だって同じ生物同士で争っているじゃないか。
オスは子孫を残すためにメスを勝ち取ろうと必死にアピールしている。
スポーツは良くて戦争はダメな理由が分からない。
日本は戦争を否定しているから絶対に狙われないと信じている狂信者がいるそうだ。
無抵抗を貫いた偉い人がいたらしいけどやっぱり命を落とした。
失くせない物が無い無力な人間にはなるなと歌っているバンドもいる。
父さん達も言っていた。
普通に生活している人でさえ受験や出世を求めて激しく争い合う。
争いのない日がくるといいなと歌っているバンドもいた。
だけどバンドの人自身が他の人よりも人気が出ないと収入がなくなってしまう。
冬莉達も懸命に悩んで歌を作っているそうだ。
父さんが教えてくれたことがある。
「昔そういう主義の国があったんだ」
今でもそうらしいけど。
だけど大半の国は行き詰って行った。
理由はそんなに難しくない。
「人はみな平等であるべきだ」
そう言って真面目に働く人も怠けている人も同じだけの収入なら当たり前の様に誰も働かなくなる。
結果に応じた報酬が貰える国に移住する。
やがて国自体が進歩が無くなる。
「金持ちや企業はその財産を貧民に与えるべきだ」
当たり前の様に金持ちや企業はその国から逃げ出す。
結果、お金の無い、ビジネスを考えようとしない怠けものばかりの国になる。
そんな国に未来があるわけがない。
するとどうなるか?
日本の近隣諸国がいい例だと言っていた。
「日本は戦争に負けたから金を払え」
1世紀近くたった今でもそう言って金をせびっている。
優秀な学者に研究費は与えずに近隣諸国に賠償金を払い続ける日本。
難しい話になったから元に戻そう。
水族館にはいろんな魚がいた。
関アジや関サバもいた。
ヒラメとかタコもいる。
綺麗だと言って蛍光色のクラゲがいた。
クラゲはあまり食べたくない。
キクラゲは食べられるのになんでだろう?
「キクラゲはクラゲとは違うんだよ?」
茉奈がそう言って笑っていた。
茉奈ははぐれないように俺と手を繋いでいるから上機嫌だった。
手を食べられるのはいやだなぁ。
キクラゲはキノコの一種らしい。
通りで半透明じゃないわけだ。
しかし大きいけどまずそうな魚が泳いでいる。
イルカも食べたいかと言われると食べたくない。
そういえばじいじ達が言っていた。
沖縄の魚は色が綺麗らしい。
陽葵達は見てみたいと言っていたけど俺は悩んでいた。
この世界には沖縄に憧れる人間がたくさんいるそうだけど多分俺はそうじゃない。
茉奈はどうなんだろうか?
「茉奈、沖縄に行きたい?」
レストランで昼食をしている時に聞いてみた。
「うん、ビーチとかすごく綺麗ってママが言ってた」
「……そっか」
「結は違うの?」
「うん」
「どうして?」
カラフルな魚って食べられるのだろうか?
昔原発の側でとれた不気味な色の魚を食べるアニメがあったらしいけどあまりおいしそうな色じゃなかった。
沖縄じゃ魚は食べられない。
そう説明すると茉奈は笑っていた。
「結、生の魚は綺麗だけど料理するんだから関係ないよ」
刺身や揚げ物にしてしまえばどの魚だって同じでしょ?
結莉がそう説明すると僕は納得した。
「沖縄にはラーメンみたいなそばがあるんだけど、やっぱりとんこつラーメンの方が好きだな」
「空は自分の子供に何を教えてるのですか!」
父さんが愛莉に怒られていた。
そういえば修学旅行というのでラーメンが食べまくれると父さんが言ってたな。
味噌ラーメンの本場の札幌の味が楽しみだ。
「結局片桐君の血を継ぐと食べ物が基準なんだね」
望がそう言って笑っていた。
「フォアグラより豚の角煮が食べたい」
茉莉達がそんな事を言い出してから週に一回はどこかのレストランに連れて行ってるそうだ。
片桐家の味の基準では石原家の用事で会食に出た時に大変なことになる。
「茉莉達に恥をかかせる雑魚がいるなら始末すればいい」
恵美はそう言っていたけど。
実際父さん達は三大珍味というのにあまり興味を示していなかった。
父さん達が美味しくないと思ったそうだから多分そうなんだろう。
だけど石原家ではそうはいかないらしい。
「ごめん恵美。私もなるべくいろいろな料理を食べさせていたんだけど」
愛莉が謝っていた。
しかしじいじ自身が「やっぱりラーメンが一番だよね」と言ってる以上その価値観は変わらないだろう。
しかし江口家主催のパーティで「ラーメン食べたい」とか言い出すのだけは阻止したいと天音にも注意してるらしい。
だけど天音も悩みがあるみたいだ。
「大地の分だけ特別に嫌いな食べ物を入れないようにと注意していたんだけど……」
さすがに天音でもエビフライが食べられるのにパスタの中に海老を入れるのを嫌ってよけていたりするそうだ。
それを聞いた恵美が激怒した。
「父親が好き嫌いしたら、子供に注意できなくなる事くらい分からないの!」
「恵美落ち着いて……どうしても見ただけで食べられないものがあるんだ」
「望がそんなんだから大地がそうなったんでしょ!?肉は食べて魚は食べないなんて小学生でもしないわよ!」
「恵美、僕はそうじゃない。ただロブスターとかをどう食べていいのか分からないから手を出さなかっただけだよ」
「同じでしょ!」
ちなみに菫は殻ごと食べようとして美希に注意されたそうだ。
その事を学校で菫が話すと茉莉が言った。
「お前実はどこかの秘境の蛮族なんじゃねーのか?」
「茉莉は知らないのか?昔こんな話があったそうだぜ?」
王族は最も強い盗賊・山賊の成れの果てだ。
「そういう事は私に勝ってから言え」
「上等だ、今からきっちりケリつけてやらぁ!」
「茉莉さんと菫さんはお願いだから大人しくしてて。ここは決闘場じゃなくて授業中の教室なの」
「じゃあ、授業終わってからやろうぜ」
菫がそう言うと桜子は何も言わなかった。
「……それであんな電話を桜子がしてきたのね」
晶の所にも電話がかかって来たらしい。
愛莉も電話で桜子からの話を聞いて天音に忠告してた。
「ま、茉莉。学校では大人しくしてるって約束しただろ?」
「先に挑発してきたのは菫だぞ!」
「なんでお前らは海老の話をしていたら決闘になるんだ!?」
天音もああ見えて色々苦労しているらしいと結莉から聞いた。
育児書を毎日読んではどうやって普通の女の子に育てるか苦労しているらしい。
結莉は大地の好き嫌いが無かったら問題はない。
しかし茉莉はそれだけじゃない。
大地にも色々相談しているらしい。
その結果結莉は順調に育っているそうだ。
天音がいない間の家事をするようになった。
「芳樹のいいお嫁さんになるの」
結莉はそう言っている。
そんな結莉を父さん達だけじゃなく皆が褒めていた。
だけどじいじだけはその状況をじっと眺めていた。
様子を見ていただけだと思ったけど多分天音達に気づかせるために言ったのだろう。
「茉莉は将来はお嫁さんになるのかい?」
じいじが茉莉にそう聞いていた。
「……そんな先の事わかんない」
「まあ、普通はそうですよね」
愛莉が言った。
しかしじいじは一つ不安を抱えていたのだろう。
水族館を出ると猿山には寄らずに家に帰った。
そしてその時じいじが天音に忠告していた。
「茉莉の事ちゃんと見てあげて」
「分かってるよ。でも何を言っても問題を起こすんだ」
翼と相談していると天音は答える。
だけどじいじはそうじゃないと言った。
「いやな予感がする。大地も一緒に茉莉を支えてあげて」
じいじがそう言って家に帰る。
家に帰ると部屋に戻って夕食の時間までテレビを見ていた。
「ネットだけの情報を鵜呑みにしたんじゃだめだ。テレビもたまには見なさい。そうやってどっちも情報のどこが正しいのか常に判断しなさい」
パパがそう言っていたからそうしてる。
正直どうでもいいニュースばかりなんだけど。
するとグルチャがやけに騒がしい事になっているのに気づいた。
「翔一が襲われた」
それに反応する菫や茉莉。
「パパ、悪いけど病院に連れて言ってくれないかな?」
カミラや比呂が言っている。
俺も気になるから父さんの車に乗って病院に向かった。
(2)
「翔一が襲われた」
家に帰るとそんなメッセージが待っていた。
「で、大丈夫なの?」
「私は大丈夫だけど翔一が……」
今病院で手当てを受けているらしい。
私達は急いでパパ達に事情を伝えて病院に向かった。
パパ達のSHだ。
当然事情は知っている。
だけど小学生の事件に大人が介入なんてみっともない事させられない。
だから私達でまず事情を聞こうと思った。
病院に着くと待合室で小雪が待っていた。
小雪は泣いていた。
「落ち着いて小雪。何があったのか説明して」
私がそう言うと小雪は事情を話した。
普通に連休だから翔一とデートをしていた。
すると突然翔一が後ろから金属バットで殴られた。
小雪は驚いて後ろを振り返るとグラサンをした同い年くらいの集団が立っていた。
「ちょっと付き合ってもらおうか?逃げられると思うなよ」
デパートの中だったので店員が慌てていると、そいつらは店員を恫喝する。
「余計な事するとけが人が増えるだけだぞ?」
大人の店員に平然とそう言って恫喝する集団。
小雪も両腕を掴まれて連れ去れていた。
当然叫び声をあげるが、誰も助けてくれなかった。
集団は小雪たちに目隠しをして手錠で手を縛られどこかの広場に連れていかれた。
目隠しを取ると集団は翔一に要求する。
「これからゲームをする。お前が立っている間は彼女には手を出さない。ただし、お前が手を地面につけたらこの女を襲う」
「SHにこんな真似してただで済むと思ってるのか?」
翔一がそう言うと要求した男はにやりと笑った。
「俺達は聞いてるぞ。そのSHとやらを名乗る奴は潰せと」
確かにパパが出した指示だ。
そして集団が暴行を始めた。
自分が倒れたら小雪がどうなるかくらいわかる。
小雪の歳だ。
まだ経験なんてあるはずがない。
必死に耐えて立ち続けていた。
その間小雪も叫び続けた。
意識が途絶えても立っていたそうだ。
「お願い、もうやめて!私を好きにしていいから!」
そう言うと男たちはにやりと笑って小雪の服に手をかけようとする。
「その辺にしとけ。お前らが誰だか知らんが一秒でも長生きしたいだろ?」
大人の声が聞こえたらしい。
集団が振り向くと純也が立っていた。
集団がデパートを出た後店員が警察に通報した。
本来なら少年課ですむ状態だけど彼らはミスを犯した。
前にも説明があったけどリベリオンの行動など全部SHにはお見通しだ。
話をたまたま聞いていた純也が茜に連絡した。
茜がその時間のログをたどる。
で、計画していることが分かった。
当然どこでそんな馬鹿な真似をするかも筒ぬけだし、そもそもそんな場所はそんなに多くない。
で「この件は俺が責任を取るから」と少年課の同僚に頼んで現場に駆け付けた。
「ていうわけで、さっさと解散しろ。余計な仕事増やすな」
刑事の言葉とは思えない事を言う純也。
そして連中は小雪に一言言った。
恨むのならSHを恨め。
そう言い残すと連中は去って行った。
その後純也が救急車を手配してその間小雪を落ち着かせていた。
しかし小雪は納得いかなかった。
「どうして警察はあいつらを逮捕しないんですか!?」
当然の意見だ。
だけど純也は言った。
「それでよかったのか?多分あいつら小学生だし精々補導程度だぞ」
「……あなた誰?」
ただの警察ではないと小雪も思ったらしい。
「遠坂純也。中央署の捜査1課。れっきとしたSHの一員だよ」
純也はそう言いながらSHのグルチャに連絡していた。
それを見た私達が今病院に駆け付けた
空達は水奈や天音が暴れ出すのを抑えるのに必死になってるだろう。
それも空が「あまり怒るとあいつらの思うがままになるぞ?」と言ったらしい。
「空はこのままでいいと思ってるのか!?ふざけたこと言うとお前も翔一みたいにしてやるぞ!」
「天音は自分の兄の事すら把握してないの?このままで済ますわけがないでしょ?」
確かに空が一番怒りそうだけど落ち着いてた。
「今回の事件は小学生の問題だから天音は陽葵達に譲ってやれないか?」
空がそう言うとすぐに天音が察したらしい。
「武器が欲しけりゃ言え。すぐに準備してやる」
「そうね。陽葵ちゃん達だけじゃ不安なら兵隊出してあげる」
恵美がそう言っていた。
「そんな物必要ない」
それが菫の結論だった。
そんな玩具でリベンジしたくらいじゃ気が済まない。
「連中の根城は宗田小。結構遠いけど大丈夫?」
茜がすでに素性を調べ上げていた。
確かに結構遠いな。
遠征させた分ちゃんと償わせてやる。
そんな話を小雪としていると病室から純也が出てきた。
「悪い、待たせたな。事情は聞いたから一応上に報告しておくよ」
「純也……多分分かってると思うけど」
「俺もお爺さんに叱られるかな?あまり面倒な仕事をしたくないんだ」
警察が関与したところだって奴らなりのパイプがあるだろう。
だから敢えて手を出さないから好きにしろ。
「できれば自転車で行くのは止めておけ」
どうせ加害者になるんだろ?
パトカーで送ってやるよ。
警察署まで行ったら空達が迎えに来るよ。
純也と話をしている間に小雪が翔一と話をしている。
私達も病室に入った。
「翔一、大丈夫?」
「見た目ほどは酷くないらしいよ……それより小雪は?」
「なにもされてないって純也が言ってた……」
「帰って!!」
小雪が突然叫んだ。
「翔一がこうなったのはSHが調子に乗ってるからじゃない!」
私達は何も言えなかった。
その後も小雪は私達を散々罵った。
これでは翔一と話が出来なさそうだと判断して病室を出る。
「さてと、どうする?」
カミラが聞いてる。
分かってるくせに。
「そんな事決まってるじゃない?」
私達はSH。
SHの誇りを守るのが私達の役割。
「……仇討ちなんて綺麗事は言わない」
これは穢れた獣同士の共食い。
私は病院を出ると手を出した。
「聖者の為に施しを、死者の為には花束を」
私の意図が分かった雪菜が手を重ねる。
「正義の為に力を持ち、悪漢共に制裁を。だけど私達は聖者の列には加わらない」
そしてさらにカミラが手を重ねた。
「サンタマリアの名に誓いましょう」
最後に紀子達が手を重ねて皆で誓う。
「すべての不義に鉄槌を」
その後家に帰ってグルチャで相談する。
結構日は連休明け。
作戦内容は……。
「問題ないと思う」
パパが言った。
私達は皆それなりに戦闘能力がある。
もちろん雪菜や紀子がいるから集団戦闘でもいい。
しかしそれではつまらない。
ただやり返すだけじゃだめだ。
SHに手を出したらどうなるかしっかりその体に刻み込んでやる。
(3)
大丈夫だろうか?
平静を装っていたが相手はリベリオン。
ついにSHに牙をむいた。
菫たちが大人しくしてるはずがない。
しかし相手はかなりいる。
菫達だけで始末できるのだろうか?
「……ねえ。もうSHなんて抜けた方がいいよ」
彼女の小雪がそう言った。
SHを名乗ればあいつらの標的になる。
もうSHは地元で絶対の存在ではない。
危険だから抜けよう。
小雪のいう事ももっともだ。
「小雪さんはSHを怒らせるとどうなるか分かってないと思う」
阿澄千夏がそう言った。
千夏の言うとおりだ。
中途半端に復讐したらさらに被害を産むことくらいは皆周知している。
だから二度と歯向かう気を起こさないように徹底的に心に恐怖を植え付ける。
SHの中でも片桐家が関わる事態になった。
絶対に怒らせてはいけない人間を怒らせた。
今頃きっと勝ち誇っているあいつらを後悔させる手段を練っているはず。
それは中途半端な似非SHなんて比べならないくらいの固い結束。
「それとさ、多分自分たちをきっと責めてる」
相羽爽一郎が言った。
あいつらが何かを企んでいるのは分かっていた。
多分俺達を狙ってくることも見当ついていたのだろう。
だけど連休だからと油断していた。
その結果この悲劇を作った。
「狙われると分かっていたなら一言忠告してくれてもよかったじゃない」
小雪がそう反論する。
だけど千夏が首を振る。
「そうじゃないの。それだと小雪さん達は毎日怯えて暮らすことになる」
いつどこで何者が何を仕掛けてくるかわからない。
そんな状況下で平然と暮らすなんて無理だ。
だから敢えて内密にしていた。
後は何度も言うけど連休だと油断していた。
ただそれだけの事。
「小雪。今更SHを抜けてどうにかなる問題じゃないんだ」
今はSHじゃないなんて理由どうでもいい。
ただSHに関わっていた。
それだけの理由でリベリオンは狙ってくる。
小雪は聞いたんだろ?
「恨むならSHを恨め」
それが彼らの目的だ。
「……私達どうなるの?」
いつもは強気な小雪が不安になっている。
だから千夏が言った。
「何も変わらない生活が待っている」
「ふざけるな!たった今SHに関わったってだけで狙われてるって言ったじゃないか」
「それでも変わらないの。その為にSHが動き出した」
そう言って千夏がスマホを見るように小雪に言った。
小雪は見て表情が変わった。
「相手の素性はとっくり割り出している。それは小雪が被害にあった時点から始まっていた」
そして菫たちが様子見に来た。
普通に考えたら処刑人は菫達だ。
「菫達何する気なの?」
小雪が聞くと俺が答えた。
「簡単だよ。二度とふざけた真似をしないように徹底的に処刑するつもりだよ」
さっきは小雪の前だから表情に出さなかったけど、菫達はかなり怒っている。
恵美さんが武器を用意しようか?と言ったけど菫達は断っていた。
それは子供の喧嘩に武器は情けないとかじゃない。
銃器くらいですますと思ったら大間違いだって意味だろう。
たぶんやる気だ。
たかだか中学生だと侮るなよ。
SHに手を出すという意味をしっかり叩きつけて……殺してやる。
「それがSH。普段はお遊びしてるだけの仲良しグループの裏の顔」
少々ふざけるくらいなら大目に見てやるが仲間や友達に手を出す真似は絶対に許さない。
それがSHの唯一のルールであって、最強の誇り。
「だからあまり菫達を責めないで欲しい」
俺はそう言ったら、小雪も少し落ち着いたらしい。
「さっきは言いすぎました。ごめんなさい。私SHの事何も知らなくて……」
小雪がそんなメッセージをグルチャに送っていた。
「知らなかったらこれから知ればいいんだよ」
天音がそう答えていた。
「フライパンだか何だか知らねーけどあいつらにも嫌でも思い知らせてやるだろうから気にするな」
禿げるぞ?
天音はそう言っていた。
「で、菫達は何を企んでるの?」
爽一郎が聞いていた。
「そうだね。浮かれ気分で連休を送ってもらう。そして連休明けに地獄に突き落としてやる」
やっぱり菫はやる気だ。
しかもただやるんじゃつまらない。
思った通り徹底的に心理的恐怖を植え付ける気だろう。
「話が纏まったところでちょっといいかな?」
そう言って看護師がやって来た。
「あんた達だけで帰すのは危険みたいだから遊が送るっていうから、今日は帰りなさい」
「いいんですか?」
「もし織田さんに遊が馬鹿な真似をしたらなずなに伝えて。あの馬鹿を地獄に放り込んでやるから」
「それはないよ。だってなずなも琴音達も一緒なんだ」
「父親の立場を忘れて馬鹿な真似はしないと思うけどちょっと不安だったから」
桐谷遊となずなさん達が来た。
「……翔一も看護師さんが綺麗だからって浮気したら怒るからね」
そう言ってやっと小雪が笑ってくれた。
「さすがにガキの俺じゃ相手にしてくれねーよ」
「ガキじゃなかったらするんだ?」
「心配なら霊安室に閉じ込めておいてもいいよ?」
看護師さんがそう言って笑った。
「じゃ、大人しくしててね」
また連休が明ける前に来るから。
そう言って小雪は帰って行った。
小雪の事も心配だけど、菫達が何をするつもりなのかが不安だった。
それは想像の斜め上を行く作戦だった。
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