姉妹チート

和希

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(1)

「お、お前には関係ないだろ!?石原!」

 僕が殴り飛ばした奴はそう言った。
 そいつは黒いリストバンドを右腕にはめていた。
 そして山本兄妹に絡んでいた。
 僕は山本恭一達に聞いてみた。

「何を話していたの?」

 すると恭一の妹の珠希が言った。

「FGにはいるかこの場で裸踊りをするか選べって」
「ああ、残念でした」
「じゃ、短い間だったけど。さよなら」

 そう言って桐谷優奈と愛菜が連中に襲い掛かる。
 先に言っておこうと思ったんだけどな。
 ちょっと遅いけど一応伝えておくか。

「黒いゴキブリは害にしかならないからさっさと殺処分しろって天音が言ってた」

 だから悪いけど死ぬのは君達。
 優奈と愛菜も手加減なんてものは最初っからするつもりが無い。
 中途半端に痛めつけたところで反撃を食らう。
 女の子が顔に怪我をしたら大事だ。
 だから遠慮せずとっとと止めを刺してやれ。
 天音が言っていた事と同じことを水奈から聞いたらしい。

「いいか海翔!お前は山本達のそばから離れるな」

 僕が手を出したら色々と後始末が大変になるのはにいにと変わらないらしい。
 悠翔も二人いれば十分だろうと僕の側にきて山本君達を落ち着かせている。
 優奈も愛菜も姉の茉莉や菫を見ていた。
 家でも家事を悠翔や茉奈がしている中暴れ回ってるそうだ。

「お前らFGに喧嘩売ってタダで済むと思ってるんじゃないだろうな!?」

 馬鹿がそんな事を言っている。
 もちろんタダですまないのは馬鹿達だった。

「偉そうに何言ってるんだお前!誰に口聞いてるんだ!?」
「お前らこそタダで済むと思うな!お望み通りバラバラにしてトイレに流してやる!」

 トイレにはトイレットペーパー以外の物は流したら行けないって聞いたんだけどな。
 優菜たちが私刑を続けていると先生が来た。

「何をやってるの!?桐谷さん達やめなさい!」
「こいつが水に流してくれと頼むからトイレに流してやろうとしてたんだ!」
「じゃまするとお前も放り込むぞ!」

 怖い者知らずな所は茉莉達にそっくりだ。
 結局馬鹿の命は助かった。
 そして母さん達がその日呼び出された。

「連休明けからいい加減にしろ!こっちだって色々忙しいんだよ!」

 天音は機嫌が悪そうだ。

「天音の言うとおりだ。ただ喧嘩してただけだろ!?」

 それが僕の母親の感想だった。

「優奈達だけが暴れるならいつもの事だけど海翔が動いたのは理由があるんじゃないのか?」

 水奈は毎日呼び出されているからそう思ったらしい。
 まあ、家でやったら悠翔や茉奈が怒るから幼稚園の窓ガラスを割って遊んでいた。
 もちろんただ割るんじゃない。
 子供用の柔らかいボールで窓ガラスを撃ちぬく威力を出せるか試していただけだった。
 3人共能力を家で使ったら怒られるから小学校で使って遊んでいる。
 遊びの対象は黒いリストバンドをつけた馬鹿達。
 ずっと言われている事

「黒いリストバンドは殺してくださいってサインなんだ」

 天音はそう説明していた。
 水奈や遊も同じことを優奈や琴音達に教えていたんだろう。

「自殺願望のあるガキの望みを叶えてやってるんだからいいだろ?それともお前も死にたいのか?」

 天音達は先生をやる気らしい。

「そうじゃなくてまだ5歳の子に人殺しをほのめかすのはどうかと思うんです」

 先生のいう事はまあ普通の世界なら常識なのだろう。
 だけど水奈や天音には通用しない。

「5歳で戦場を駆け回る子供だっているんだ。そんな甘えた教育はしてないぞ!」

 人間行きつくところは生きるか死ぬかだ。
 やわな精神じゃ世の中を生きていけない。
 食うか食われるか。
 人は何かを譲ると相手はさらに求めてくる。
 だから一歩も引いたらダメだ。
 逆に奪い取るくらいの気持ちを持て。
 僕に恋人が出来たら死ぬ気で守ってみせろ。
 それが男だ。
 天音や大地はそう言っていた。
 結局30分くらいしてから僕達は解放されて家に帰ろうとした。
 すると職員室に桜子が戻って来た。
 桜子は天音達が学校に呼び出されているのを知ったらしい。
 天音に近づいて話す。

「茉莉が給食の後いなくなったんです。すぐに家に戻ってください」

 電話を切ると天音が水奈に話す。

「どうせ暇だから帰っただけだろ?大丈夫じゃないか?」
「……そう言われると確かにそうだな」

 僕は違う事を考えていた。
 多分天音のやりそうな事は桜子だって想定しているはず。
 じいじが言っていた。

「常に最悪の事態を想定しなさい。現実はその斜め上を行くから」

 そしてその通りだった。
 家に帰ると誰かいる。
 茉莉がいるのは当たり前だけど愛莉もいた。
 愛莉は天音を睨みつける。

「あなた桜子からすぐに帰るように言われたんじゃなかったの!?」
「ま、待て愛莉。ちゃんと学校で桜子に会ってからすぐ帰って来たぞ」
「なんで天音が学校にいたの!?」
「天音は関係ない!!」

 茉莉が叫ぶとあーりと天音が茉莉を見る

「天音が悪いんじゃない。私が悪かった。それでいいじゃないか」

 これ以上天音を責めたら天音が可哀そうだ。
 そう言って茉莉は部屋に戻った。

「あ、愛莉。茉莉に何があったんだ?」
「……冬夜さんが心配していた通りになったみたい」

 じいじが水族館に行った時からずっと心配していたらしい。
 皆結莉の事ばかりに気がいって茉莉の事を気にも止めていなかった。
 正確に言うと茉莉の悪い所ばかりを見ていた。
 それがじいじが心配していた事。
 そして今日ついに爆発した。
 あーりは桜子から説明されたらしい。
 給食の時間、結莉は芳樹と二人で食べていた
 茉莉や菫も一緒だった。

「なんでお前は朔と食べないんだ?」

 菫が茉莉に聞くと茉莉は返した。

「お前だって一緒だろうが。なんで私と食ってるんだよ?」

 何も学校でべたべたする必要ないだろ?
 茉莉と菫はそう考えたらしい。
 だけど茉莉と同じクラスの馬鹿は余計な事を言った。

「お前らにも彼女いたのか?暴れるしかない男女なのに」
「んだと?」
「私はいま虫の居所が悪い。そんなに死にたいなら今すぐ殺してやる」

 そう言って茉莉と菫が立ち上がる。
 もちろん朔も自分の彼女を馬鹿にされて黙ってるような男じゃない。
 しかし一番行動が早かったのはにいにだった。
 気づいたら馬鹿は吹き飛ばされ教室の扉を貫いたそうだ。

「彼女がいるいない関係なしに、女子を泣かせる奴は俺が許さない」

 にいにがキレると翼か愛莉か茉奈しか止められない。
 しかしにいにの剣幕は茉奈にも止める事が難しいくらいだった。
 にいにを止めようと桜子が慌てて席を立つと茉莉が叫んだ。

「お前には関係ねーんだよ!お前は茉奈といちゃついてたらいいだろ!」

 そう言って教室を飛び出してそして家に帰って来たらしい。

「そんな事があったのか……」
「冬夜さんは言ってました。自分は結莉に比べて劣ってると思っていると……」

 結莉はいい子にしてるのに、茉莉にはそれが出来ない。
 だから茉莉は天音に迷惑をかけてるだけの邪魔ものなんじゃないか?
 朔にも迷惑をかけているんじゃないか?
 決してそんな事はないのに茉莉は自分が劣っている。
 そう思い込んでしまっている。
 さすがに天音にそんな茉莉を説得する方法は知らなかった。

「愛莉、ごめん。私にはどうしたらいいかわからない」

 そう言って落ち込んでいる天音。
 そんな天音にあーりがアドバイスしていた。

「私も同じような経験があるの」
「え?」

 天音はそう言ってあーりを見る。

「冬夜さんがそうだったから」

 じいじも愛莉と比べて劣っていると卑屈になっている時期があったらしい。
 そんな事絶対あり得ない。
 僕の知ってる中ではこの世界で絶対的頂点に立っている存在。

「パパがそうだったとして愛莉はどうしたんだ?」

 天音が聞くと愛莉はにやりと笑った。

「冬夜さんに私がいたように、茉莉には朔がいるのでしょ?」

 それに結莉だっている。
 大事な時があるとしたら今だ。
 あの子に自信を与えてやればいい。
 それは人に言われて気づくもんじゃない。
 自分で自分を認めてやらないといけないというけどそれも違う。
 他人が自分を認めてくれるから自分に自信が持てるんだと言っていた。
 難しいからよくわからない。
 話が済むと愛莉は帰って行った。
 そして入れ替わりで大地が帰って来た。
 大地が何があったの?と天音に聞いている。
 天音は夕食の支度をしながら大地に説明していた。
 
「なるほどね……」
「大地はどうしたらいいと思う?」
「天音も同じ経験してたじゃないか?」

 祈にアドバイス受けたんだろ?

「やっぱり恋人の存在か」
「そうだと思う。あの子にはまだ早すぎる重荷だったんだ」

 そして結莉にはにいにという絶対の支えがあるから大丈夫だった。
 大地が言うと「大地もそうだから心配するな」と天音が笑っていた。
 夕食の時間になると結莉と茉莉も部屋から出てくる。
 食事が始まると天音は茉莉に言った。

「茉莉、今度朔の家に遊びに行ったらどうだ?」

 天音が言うと茉莉は驚いていた。

「それ、結莉にも言われた」

 でもどうして?
 茉莉には不思議だったみたいだ。

「茉莉は多分結莉と変わらないくらい凄い子だよ」
「お世辞なんて聞きたくない」
「お世辞じゃない。事実菫くらいしか勝負になる相手がいないんだろ?」
「それって褒めているのか?」
「結莉の事ばかり話しているから自分に自信がないんだろ?」
「……私は生まれてくるべきだったのかな?」
「当たり前だ。私が茉莉に会いたくて必死に頑張って産んだんだ」

 そんなふざけたことを言う奴がいたら私が直々に海に沈めてやる。
 大地も「そうだね。じゃあ、僕はそいつの戸籍を抹消してやればいいかな」と言っていた。
 
「……でも、それがどうして朔と会う事になるんだ?」
「朔はお前の彼氏なんだろ?」

 そういう時に支えてくれて、守ってくれるのが恋人だろ?
 喧嘩では助けはいらなくても心の不安をぬぐい取ってくれるのがパートナーなんだ。
 だから偶には朔に甘えて見ろ。
 それはべたべたするだけじゃない。
 相談をするのもいいんじゃないか?

「……分かった」
「言っとくけどその日のうちに帰ってこい。小2で一晩過ごしたなんて愛莉に知れたら私が怒られる」

 天音がそう言って笑っていた。
 その週末の休日に茉莉は朔の家に向かった。

(2)

 お前なんかに恋人いるとか冗談だろ?
 クソガキにそう言われてかなりムカついた。
 でも私には結莉みたいに彼氏がいるから大人しくしてるなんて真似が出来なかった。
 自由に生きていたい。
 菫もきっと一緒だったんだろう。
 だから菫といつもつるんでいた。
 お互い彼氏の事なん手忘れていた。
 結は茉奈の立派な彼氏だ。
 茉奈どころか私達の行動をも制御している。
 そして結莉にも芳樹がいる。
 だから結莉は何もしないで大人しくしている。
 結莉達が機嫌を損ねたら最終的には結が動く。
 そうやって結莉は芳樹に甘えていた。
 だけど私は朔にそれをすることが出来なかった。
 朔が頼り無いわけじゃない。
 彼氏に頼っているだけの生活なんてのが私には無理だった。
 その結果結莉と比べられて、そして結莉がいつもいいところを持って行っていた。
 結莉には芳樹がいるから。
 じゃあ、朔はなんなの?
 朔は特別じゃないの?
 結を手に入れる事が出来なかった私はダメな子なのか?
 そんな不安定な気持ちの中あの事件が起きた。
 私のせいでまた天音が怒られている。
 天音は悪くない。
 悪いのは私だ。
 天音は私の事が嫌いになるかもしれない。
 不安が爆発した。
 部屋に閉じこもって考えていると結莉が帰って来た。

「あんまり給食食べれてなかったからお菓子持ってきたよ」

 あの馬鹿はちゃんと始末しておいたから大丈夫。
 そう言って結莉は笑っていた。

「結莉はいいな。芳樹が彼氏で」

 つい本音が出てしまった。
 嫌な女だな。
 だけど結莉は不思議そうに言う。

「茉莉にだって朔がいるじゃない」

 見た目で言えば朔の方が上じゃないの?
 それに彼女に対する気配りは絶対に芳樹より上だ。
 芳樹は結莉が彼女だったからよかった。
 だけど結莉以外の女子には絶対に付き合うなんて無理だ。

「……ひょっとして最近沈んでるのってその事が原因なの?」

 結莉が気づいたようだ。
 私は結莉に相談していた。
 結莉は話を聞くとすぐに回答した。

「朔に相談してみたら?」

 悩んでる彼女を放っておくほどSHの恋人は馬鹿じゃない。
 悩んでる彼女に気づかないほどSHの彼氏はマヌケじゃない。
 きっと朔も気づいているはず。
 だって世界で一番私の事を気にしているのは朔なんだから。
 夕食の時に天音にも言われた。
 私は風呂から出ると朔に個チャを送っていた。

「今度朔の家に遊びに行ってもいいかな?」
「いいよ。週末にでも来たらいいよ」
「悪い」
「俺もちょっと心配してたからさ」
「ごめん……」
「どうして謝るの?」

 彼女の事を心配するのは当然じゃないのか?
 結莉と同じことを言っていた。
 そして週末になると天音にお願いをしていた。

「どうしたんだ?朔の家に送ればいいのか?」

 天音は大地とテレビを見ていた。

「そうじゃなくて……私って服のセンス悪いんだろ?」
「ああ、そういう事か」

 天音は察してくれたらしい。
 天音は笑顔で聞いてくれた。
 天音と一緒に服を適当に選ぶ。

「そういや、茉莉と朔って初デートなのか?」

 天音が私の髪にブラシをかけながら聞いていた。
 そういやいつも家でゲームしてたな。
 あいつ、何やってたんだろ?
 そんな事を考えていた。
 浮気は絶対にないだろう。
 晶が絶対に許すはずがない。

「あんまり難しく考えないで初めてだったら楽しんで来い」

 私も一応母親だからな。
 夕飯くらいには帰ってこい。
 それ以上遅くまで遊ぶにはまだ早い。
 そう言われた私は朔の家に歩いて行った。
 
「あ、茉莉。よく来たね。ちょっと待ってろ」

 祈がそう言って朔を呼んでいる。

「ちょっと待ってて。片付いてなくて」
「お前茉莉が来ること分かってたのに何やってるんだ。母さんが聞いたら殺されてもおかしくないぞ」

 朔が部屋を片付けている間祈と話をしていた。

「大体の事は天音から聞いてる。だから私からも言わせてくれ」

 あまり深く考えるな。
 考えるだけ無駄だ。
 お前に恥をかかせた奴は天音達が黙っていない。
 文字通り地獄に突き落とすだろう。
 朔だって同じだ。
 朔がお前に恥をかかせたら私があいつを地獄に放り込んでやる。
 そんな話をしていたら朔が現れた。

「あれ?」

 朔は私を見て気づいたらしい。
 理由も察したのだろう。
 朔は笑って言った

「そんなに緊張しないでいいよ。大丈夫だから」

 そう言って朔は私を部屋に案内する。
 男の部屋に入るのってなんか緊張するな。
 タバコの匂いはしない。
 私達の歳でタバコを吸ってたら最悪だけど。

「で、今日はどうしたの?」

 祈がジュースとお菓子を持って来て部屋を出ると私は静かに言った。

「朔は私を彼女に選んで後悔してないか?」

 最大の不安を朔に聞いてみた。
 すると朔はにこりと笑った。

「自分から告白しておいてそれは無いよ」
「でも私は結莉に比べたら……」
「その前提が間違ってないか?」
「え?」

 私には意味が分からなかった。
 薄々朔は気づいてたらしい。
 冬夜から聞いたのかもしれないけど。

「結莉は彼氏が芳樹だからああなったんだろ?」

 私の理屈で言うなら私こそ彼氏が芳樹じゃない事が後悔してる事になる。

「それはない」

 私みたいな女子に彼氏がいる事が凄い事だって思う。

「茉莉の母さんもそうだったって母さんが言ってたんだ」

 石原家の跡取りだった大地と付き合うことになって重圧を感じて自由に動けない時期があったらしい。
 だけど祈も朔も同じ考えだったようだ。

「茉莉は自由にしていい。それを妨げる存在がいるなら彼氏である俺が排除する」
 
 その考えは多分結も一緒だと思う。
 結だって茉奈を馬鹿にするやつがいたら絶対に許さない。
 茉奈だけでなく仲間を傷つける奴には徹底的に痛めつける。
 茉奈はそれを知ってるから、結に背中を預けてなるべく結に余計な事をさせないようにしてるだけ。

「俺だって同じだよ。茉莉を傷つける奴は絶対に許さない」

 ただ結ほどの力はない。
 それでも茉莉を守りたい。
 そう言うと朔は突然私を抱きしめる。

「心細いならいつでも俺に言ってくれ。誓うよ。絶対に茉莉を手放したりしないから」
「朔……」

 気づいたら私も朔を抱きしめていた。

「朔。ごめん、私天音と約束してるんだ」

 まだ恋人と一晩過ごすのは早すぎる。

「そのくらい僕だって弁えてる」
「でも、これだけってなんか物足りなくないか?」
「俺はどうしたらいいんだ?」

 私達は当たり前だけどタバコを吸わない。
 だからシガーキスなんて面倒な真似はできない。

「……目をつぶれ」
 
 私も女の子なんだな。
 たかが唇を重ねるだけなのにこんなに震えてる。
 それを朔がしっかり支えてくれる。
 支えられるってこんな気分なんだな。
 包まれているだけで優しい気持ちになれる。

「俺からしようか?」

 何をするつもりなのか察したらしい。
 まあ、男がその気になったら男からしてほしいかもしれない。
 私は何も言わずに目を閉じる。
 唇にしっかり朔を感じた。
 まだ恥ずかしいから濃厚なのは無理。
 数秒間だけのファーストキス。
 これは結莉に自慢してもいいかな。
 キスを済ませると離れようとする朔をしっかりと捕まえていた。

「何も言わなくていいからこのままでいてくれないか?」
「……わかった」

 そう言って夕方くらいになって祈がノックするまでそのままの姿勢で朔と話をしていた。
 ノックの音を聞くと慌てて朔から離れる。
 だけどその雰囲気を読んだ祈はくすっと笑う。

「ちょっと来るタイミング間違えたかな。ごめんね。で、茉莉はどうする?」

 天音に言って夕食を一緒にするとか明日休みだから一泊していくとかあるけど?と祈が言う。

「ごめん、天音に言われてるから」

 夕飯迄には帰ってこい。
 どうせ朔のやつがびびって一緒に風呂とか絶対にありえないから。
 大地がそうだったらしい。
 
「お前は彼女の裸に興味が無いのか!?」
「ぼ、僕達まだ小学生だよ!?」
「天音は馬鹿な事を言って大地を困らせてはいけません!」
「馬鹿な事を言ってるのは大地のほうよ愛莉ちゃん。何男のくせに情けない事言ってるの!?そんなところまで望に似なくていい!」

 その晩じいじ達はお酒を飲んで話していたそうだ。
 多分私が朔と一晩過ごしたなんて事を大地が聞いたらさぞショックだろう。
 誠さんのように怒ったりはしない。
 瑛大さんの様に感想を聞いてきたりしない。
 多分じいじ達みたいに空達とお酒を飲むんだろう。

「もう少し大人になったら誘ってくれ」
「楽しみにしてるよ」
「……あんまり過度な期待をされても困るぞ」

 私は天音の娘なんだ。

「そう言うのに興味はないんだ」

 まあ、小2でそんな興味を持っている彼氏とか余裕で殴り飛ばすけど。
 家に帰ると夕飯が出来ていた。
 大地が色々質問してくる。

「心配しなくても抱いてキスしただけだよ」

 大地が箸を落とした。

「お前は馬鹿か!キスしたくらいでオタオタすんな!」

 天音が大地を叱っていた。
 大地はやっぱりショックだったみたいだ。
 後日、空や善明達と飲んだらしい。

「ねえ?キスってどのくらいしたの?」

 風呂に入った後、結莉が聞いてきた。
 
「別に。単に唇が触れた程度だよ」
「そっかぁ~いいなあ」

 え?

「結莉まだなのか?」
「結莉の相手は芳樹だよ?」

 あの糞真面目な性格をどうにかすることから始めないといけない。
 男と女の関係も両親が説明するから余計な知恵を一切持ってきたらいけないと言われているんだそうだ。

「ファーストキスってどんな味?」

 結莉が聞いてきた。
 そんな世間で噂されてるような味は一切なかった。
 しいて言うなら……。

「朔の味?」
「うぅ……」

 結莉は羨ましいみたいだ。

「で、悩みは晴れたの?」
「ああ、しっかり聞いてくれよ」

 結ほどじゃないけど朔が私の側にいてくれる。
 そばにいてくれる限り自由にしていい。
 そう言われたと説明した。

「よかったじゃん」

 結莉はそう言って笑っていた。
 きっと菫も同じような壁にあたるだろう。
 その時は私が菫の相棒としてアドバイスしてやろう。

 案外彼氏って頼りになるぞと……。

(3)

「レディを待たせるとは失礼な野郎だな」

 私達は東小と宗田小の校区の中間あたりにある山の中にいた。
 雑木林の中にぽつんとある空間。
 誰がもちこんだのか古いエロ本なんかも転がっている。
 滅多に人の来ないところだからうってつけの場所だった。 

「お前誰だ?」

 間抜けな男は私を見るなりそう言って睨みつけた。
 本当に女性の扱いがなってない奴だな。

「お前絶対に彼女いないだろ?」
「……なんだ?こんなところで告白か?」

 男がにやりと笑った。
 本物の馬鹿だな。
 まあ、どうでもいいや。
 茶番を続けるつもりもない。
 男に説明した。

「お前をパーティに誘った人物って言えば分かるか?」
「……あのメッセージはお前の仕業か?」

 やっと気づいたようだ。
 そう、私達はこの馬鹿達に恐怖を与えるためにじわりじわりといたぶって来た。
 やり方は簡単。
 SHにあるようにリベリオンにもグルチャがある。
 ガードはゆるゆるだったから楽に侵入できた。
 そして個人情報を次々と抜き取る。
 その後に一人一人を人気のない場所に誘い込んで痛めつけた。
 そして今夜はお前の番だと伝える。

「やっぱり全部SHの仕業と言うわけだ」
「案外物分かりが良いんだな?」
「そこまで分かってて俺が一人で来ると思ったか?」

 そう言ってにやりと笑うと後ろからぞろぞろと馬鹿の群れが出てきた。
 
「女一人で大した度胸だが、やっぱりお前の望み通り楽しませてもらうよ」

 女子一人で来たから自分の下半身を満足させられる。
 やっぱり天音の言うとおりだな。
 小学生では間違いなく終わってる思考だぞ。

「馬鹿は死ぬしかない」

 お前が考えてる程度の事私が考えてないと思ったか?

「では、精々楽しませてもらおうかしら」

 そう言って陽葵達が出てくる。
 しかし見た目で判断してはいけないという事を忘れている。
 大体が女子だからこいつらは油断していた。
 結や琴音を連れてきたら山火事になってしまうから私達だけで対処することにした。

「強気な女がどう変わるか見ものだな」
「貴方の劣情なんてどうでもいいけど、いくつか話をしてもいい?」

 陽葵が淡々と告げる。

「この期に及んで時間稼ぎか?」
「いえ、先に忠告だけしておきたいから」
「忠告?」
「そう、忠告。まずはそうね……あなたの仲間の話でもしない?」
「俺達の仲間?」
「そうよ。まずは今まで始末してきたあなたの仲間の事……最初は両足を切断された男子。……誰の仕業だと思う?」

 陽葵がそう言うと回答が動き出した。
 カミルが不意を突いてハチェットを両手に持ちリベリオンの一人の両足を切り飛ばす。
 男の悲鳴が聞こえるが陽葵は淡々と続ける。

「……次に両肩を銃弾で撃ちぬかれた男子」

 カミラが淡々と銃を乱射して急所を外して撃ちぬく。

「顔に大火傷を負った男子」

 雪菜が何人かの男を炎で包む。
 悲鳴の中静かに処刑方法を説明してそしてその状態を再現していく。

「……以上で忠告は終わり。最後にあなたに質問するわ」
「お、俺達をどうするつもりだ」
「SHに手を出したらどうなるか知らずに手を出したの?」

 行きつく先は地獄だ。
 そのくらい覚えておいて欲しいと陽葵が言う。

「こ、こんな真似してお前らただで済むと思ってるのか?」
「ごめん、何を言ってるのかさっぱり分からない。それともう一つ言わせて」

 人の話は最後まで静かに聞きなさい。
 
 その時に陽葵が私に目で合図を送る。
 私の能力を発動させる。
 男はすぐに気づいただろう。
 足が動かなくなった。

「で、質問。あなたがリベリオンの中学生のリーダーで間違いない?」
「そ、そうだ」
「じゃあ、あなただけは解放してあげる」
「なんでだ?」
「その方が手間が省けるでしょ?」

 貴方が自分でリベリオンのグループに伝えなさい。
 陽葵が言うと私を見る
 私は男に向かってゆっくりと歩く。

「私さ、どうしても許せないものが二つあるんだよね」
「な、なんだ」

 男にもう戦意はなかった。
 だけどそんなの関係ない。
 こいつらが二度と馬鹿な真似をしないように徹底的に恐怖を植え付ける。

「一つは伸びたラーメン。もう一つは私達に手を出す間抜けなグループが二つ」

 困ったものでしょ?
 男の目の前に立った私は顎を掴み持ち上げろ。

「だから忠告。弾に当たらないように頭は低くして生きた方がいいよ?」
「こ、こんな真似して警察がだまてないぞ」
「随分親切なんだね?」

 カミラが笑って言った。

「心配しなくてもいいよ。痕跡を残すような真似はしない。君にもちゃんと土産を持たせないといけないからね」

 カミルが笑って言う。

「おい、菫。これだけで終わりってわけじゃないだろうな」

 茉莉が聞いてくる。

「当たり前だろ。天音達が”絶対にSHに手を出す気が起きないくらいに痛めつけてこい”って言ってたんだ」

 そう言って私と茉莉が拳銃を取り出す。
 
「さあ、パーティを始めようか?」

 貧乏くじを引いたな。同情するぜ。
 できる限り逃げてみろ。でねぇと……
 ブギーマンに喰われるぞ!?
 リベリオンのリーダーらしい1人以外は残さず始末した。
 それを私が”奈落”に引きずり込む。

「じゃ、パーティはお終い。少しだけ清々したわ。ありがとう。また会う日が来ない事を祈りなさい」

 陽葵がそう言うと私達は男を置いて去って行った。

「しかしやっぱり同い年だとやりがいがないね」

 カミルが言う。
 カミルあまりこういう手段は取りたくないと聞いてた。
 だけど例外がある。
 仲間を傷つける者には容赦しない。
 それがSHのルール。
 カミルはそのルールに従ったまで。
 存在が消失した馬鹿どもはどうするつもりか?
 当然茜や天音と情報を共有している。
 
「そんな人間この国には存在しない」

 書類やデータだけで管理されているこの国ならそんなの簡単。

「でも私達より年上の人間とやりあおうとすると少し問題がある」

 陽葵がそれを言って笑った。

「馬鹿の処刑は私の特権だ。勝手にやるのは許さない」

 天音がそう言うのが分かってる。
 私達は家に帰って温かい夕食を食べてお風呂に入って温かいベッドで眠る。
 この話はこれでお終い。
 男の末路など話に出てくることはないだろう。
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