姉妹チート

和希

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Summersonic

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(1)

 7月。
 毎年恒例の海でのキャンプ。
 雪は私と一緒に木陰で海の絵を描いていた。
 今日の様な構図がいつもの定番になっていた。
 皆とはしゃぐ誠司郎と一人で過ごしている雪。
 本当にこのままでいいのだろうか?と不安になっていた。
 だけど愛莉さんも冬夜さんもなにも口出ししなかった。
 私達は試されている?
 冬吾さんがそう言っていた。
 だから私も雪と一緒にいる間は雪の事だけを考えていた。
 それでも母親だからだろうか。
 どうしてこの子は孤立することを望むのかが不安だった。
 この先あの子はこんな状態で孤独に過ごすのだろうか?
 母親としては不安だった。
 そんな時に神奈さんと亜依さんが来た。

「へえ、この子が雪ちゃん?」

 亜依さんが言うと雪は亜依さんを見ていた。

「大丈夫、それを取り上げたりしないから。私はね、愛莉の友達の桐谷亜依って言うの。よろしくね」

 愛莉さんの名前で悟ったのだろうか?
 雪は大人しかった。

「で、雪は何を描いてるんだ?」

 神奈さんはそう言って雪の描いてる物を見ようと近づいた。
 まずい。

「雪!」
「心配しなくていいよ、瞳子」

 ただ見たいだけと神奈さんが言うと雪は意外な行動に出た。
 目の前に広がる海を指している。

「ああ、海を描いていたのか。上手だな」

 そう言って神奈さんが頭を撫でようとする。
 しかし雪はいつもの様な拒絶反応を示さなかった。
 敵じゃないと認識したのだろうか?
 神奈さん達の目的も雪が何を考えているのかも分からない。
 ただいつもと違うのは……

「海と湖って何が違うの?」

 雪が神奈さん達に質問していた。

「ああ、それはな、まず海は海水なんだ」
「海水?」
「そう、普通の水よりしょっぱいんだ」
 
 だから何もしなくても普通のプールよりは浮力が生じる。
 この海の向こうに九州じゃない島がある。
 海を横断していけば外国に行くことが出来る。
 雪に分かりやすい説明をしていた。

「雪の大好きなお魚だっているんだよ」
 
 亜依さんがいうと雪が反応した。
 自分が描いてきた絵を見せる。
 お魚のの絵もあった。

「これがいるの?」
「ああ、そうだよ。さすがに釣った魚を生では食えないけど焼いて食べても美味いぞ」
「どうして生だといけないの?」
「魚ってのには寄生虫って危険な虫がいるんだ」

 それを熱処理せずに食べると激しい腹痛になったり命を落とす。
 
「じゃあ、なんで魚屋で売ってるの?」
「雪はお魚好きなんだな」
「うん」
「いいか、魚屋の魚ってひとくくりにするのが間違いなんだ」

 魚屋で取った魚は二つに分けられる。
 近海でとったのと遠洋で取って来たもの。
 近海で取ったものも魚屋さんが捌くときに寄生虫を取り除いて売りに出す。
 そう言ったものは「刺身に出来ます」と記載されている。
 遠洋で取ったものは冷凍保存する。
 冷凍した時点で寄生虫は死滅する。
 だからお刺身用でない魚は絶対に生で食べたらいけない。
 それは愛莉さんや私がしっかり注意してるから大丈夫だと神奈さんが説明する。
 雪はその話に夢中になっていた。
 
「まあ、この辺で取れる魚は絶対にやめておけ」

 少し距離があるとはいえ鉄工所や石油化学コンビナートの排水が混ざっている。
 そんな汚れた海水で生きている魚なんて食べたくないだろ?
 雪はそんな神奈さんの話を聞いては次々と質問していた。
 
「海と空の境目ってどうなってるの?」

 そんな事を楽しそうに聞いている雪。
 その質問には亜依さんが答えていた。

「雪。まず境目があるって言うのが間違いなの」
「どうして?」
「地球が丸いから」

 だから空と交わることは絶対にない。
 雪が凄いのはそれをすぐに理解すること。
 雪は新しいページに自分のイメージした空と地球を描こうとしてそして手が止まった。

「昼と夜ってどうしてあるの?」
「それはねえ……」
「太陽が関係するんだよ」

 雪が楽しそうにしているところなんて滅多にない。
 だから茉奈や結が様子を見に来ていた。
 そんな様子を見て私は不思議に思った。
 この子は孤独に生きていきたいわけじゃない。
 ちゃんと他の人とはコミュニケーションが取れる。
 なのにどうして誠司郎だけを嫌う?
 名前を聞いただけで拒絶している。
 日が暮れると子供たちが着替えてBBQの準備をしている。
 私も愛莉さん達と手伝っていた。

「片桐家がいるからいくら食材があっても足りないからね」
「恵美さん、だけど大地の奴まだカボチャを食べないんだ!」
「なんですって……!?」
「恵美、そういうのは大地だけじゃないの」

 愛莉さんが言っていた。
 冬吾さんもそうだった。
 
「肉はレアがちょうどいいんだろ?」

 そう言ってレアですらない生肉を食べようとするのが片桐家の子供。
 天音もそうだったらしい。

「結莉はどうなの?」

 愛莉さんが天音に聞いていた。

「あいつはもう冬夜の奥さんでいるつもりなんだろうな」

 芳樹はちゃんと焼けた肉を食べないとダメ。結莉が取ってあげる。

 そう言って芳樹の食べ物を調節してるらしい。
 もちろん量は変わらない。
 ただしっかり熱を通しているものを食べさせているだけ。
 その食べている間も雪は私から離れようとしない。
 その代わりに美嘉さんとかが雪と話をしている。
 純也達も平気だった。
 琴音や遊達も平気で雪を見ていた。
 何か共通点があるのだろうか?
 だから冬夜さんは今日私達を連れて来た?
 雪が思っていることを知るチャンスだから。
 だけど冬吾さんと話をしてもその理由が分からなかった。
 皆が花火しているのを絵に描いている結。
 それに気づいた茉奈達が雪を誘う。

「雪はそれを持ってて。お姉ちゃんが火をつけてあげる」
「うん」

 雪は綺麗な花火に見とれていた。
 
「綺麗でしょ」
「うん」

 一本が終わるとまた次の花火をつけてもらう雪。
 しかし雪にも思う所があったのだろう?

「お姉ちゃんはお兄ちゃんと二人で花火しなくていいの?」
「雪は優しいんだね。大丈夫。今日は雪と遊びたい気分だったから」

 それだけ人を思い遣れるならきっと素敵な彼氏に出会えるよ。
 結莉がそう言った時だった。
 雪が表情を一瞬だけ変えた。

「……そんな人いないよ」

 それが雪の本音なのだろうか?
 そんな人を望んでいるのだろうか?
 だったらどうして嫌われるような真似をする?
 私と冬吾さんにはいまだに理解できない行動だった。

(2)

「なるほどな。冬夜の目論見が分かったよ」
「そうだな。どんな奴なんだろうと思ったら普通の女の子だ」

 誠や桐谷君はすぐに見抜いたらしい。
 誠や桐谷君だからこそすぐに見抜いたのだろう。
 そして予想通りカンナや亜依さんには分かったらしい。
 多分天音や大地も気づいている。
 酒井君とかも同じだろう。
 だけど晶さんや恵美さんには絶対に分からない。
 何を基準に言っているのか?
 それをまだ教える歳じゃない。
 自分で変化する可能性だってある。
 それを邪魔するような行動はしたくない。

「でも気づかなかったらどうするんだ?」
「そんな事ありえないだろ」

 誠にそう答えた。
 そして天音が言う。

「そんな状態になっても”大丈夫”って言ってやるしかないんじゃないかな」

 天音に言う通り結に欠けているものなんてものがあるのだとすればそれは自信。
 一歩踏み出すだけの勇気があの子にはまだ欠けている。
 だけどそれは仕方のない事。
 まだ1歳でしかない雪がそんなものを持っているわけがない。

「それ誠司郎を拒絶する理由になるの?」

 恵美さん達はやっぱりわからないらしい。

「なるんだよ」

 愛莉はそう言って笑った。
 この世界の仕組みがそうなっているからそれが当たり前だと信じている。
 だけどそうでない女の子が大半なんだ。
 清純派。
 誠司風に言うとそうなるんだろうな。
 とても臆病で弱気な子。
 それは茉奈や心音の比じゃないくらい。
 だから恐ろしい。
 あの子も冬莉や天音と同じ片桐家の娘。
 怒らせると何をしでかすか分からない。
 現に今も自分が苦手な人間を拒絶するオーラを放っている。
 雪は恐らく結以上に慎重派なのだろう。
 最後の最後まで自分の切り札を見せるつもりはないらしい。
 あるいは無い切り札をあたかもあるように見せているだけ。

「だから冬夜さんは雪に気を付けてと言ったのですね」

 愛莉が言うと僕は頷いた。
 震える瞳子を冬吾が支えている。
 無理もないだろう。
 自分の娘がそんな飛んでもない子なのだから。
 それでも結の様な子供ならまだいい。
 どういう風に育てたらいいか分かる。
 だけど瞳子達はまだ雪についてよくわかっていない。
 自分たちが少しでも間違えたらとんでもないことになる。
 そんなプレッシャーを今与えたらのだから。
 言わなければよかったなんてことは絶対にない。
 その方がかえって危険な事もある。
 まず最優先すべきことはあの子が何かをしようとした時、それが良い事か悪い事かを判断する能力を瞳子達がもっていないといけない。
 それは愛莉に教えてもらえばいい。
 必要なら僕も手を貸すと言った。
 だけど雪は瞳子と冬吾の子だ。
 だから雪の事に僕達が過剰に口出しをするわけにはいかない。
 親を馬鹿にするような事態になったら大変だから。

「それはお前にも言えるんだぞ。水奈!」
「わ、分かってるから今母さんに教えてもらってるんだ!でも一つ問題があった」
「どうしたんだ?」

 誠が聞いていた。
 単純だ。
 どうして水奈がここまで成績が悪いのか。
 それはカンナが教えなかったから。
 そうじゃなかった。
 カンナでも教える事が出来なかった。

「い、いやぁ、さすがに液体の単位なんて覚えてないよ」

 ガソリンだって「満タンで」って言うくらいだぞ。
 学も笑うしかなかった。

「や、やっぱり俺が教えようか?」
「そのくらいなら俺だってできる。優奈達は俺達の孫なんだ!」

 誠と桐谷君が言い争っている。
 どうせあれだろう。
 カマをかけてみた。

「誠たちは家庭教師物にでもはまってるのか?」
「な、なんで冬夜が知ってるんだよ?お前も見たのか!?」
「ば、馬鹿瑛大!冬夜の罠だ!」
「まじか!お前ふざけるな」
「ふざけてるのはお前らだ!」
「いい加減にしろ!」

 亜依さんとカンナが怒り出す。
 だけどそれだけじゃなかった。
 
 ぽかっ

 僕はなぜか愛莉に小突かれた。

「どうして冬夜さんがそんなのを知ってるんですか?」
「なんとなく検索しただけ」
 
 中身は見ていない。
 だってどんな状況でもこの手の動画は結局するんだろ?

「興味を持ってもいけません!」

 愛莉が怒っているからやめておこう。
 しかし今度は空が興味を示す。

「なんで家庭教師とそんな関係になるの?」

 小学生と若くても大学生くらいでしょ?

 ぽかっ

「旦那様には関係ないから気にしなくていいですよ」
「でもさ美希……」
「気にしないでくださいな」

 空は酒を飲んでいた。

「私でよかったら私が見ます」
「でもなずなは琴音や朱鳥たちは?」
「遊がいるから大丈夫」
「待て!遊だって同じだろ!?」

 娘と同じ家にいたら、なずながいなかったら何するか分からないぞ。
 どうして桐谷君はそうなるのかが僕には分からない。
 そしてなずなは説明した。
 夏休みの宿題を遊に聞いているらしい。

「夏休みの宿題なんだろ?だったら自分でしないとダメだろ?」
「手伝ってくれたら私の事好きにしていいよ」
「い、いや。そうじゃなくてな……」
「私じゃまだ子供なのかな~?」

 5年生の子供に言われてもさすがに遊が困ってどうしたらいいかなずなに相談したらしい。

「遊は馬鹿か!そんな羨ましい状況なのに何もしないなんてそれでも男か!」
「馬鹿なのはお前だ瑛大!」

 そっか遊は娘の父親として苦労してるのか。
 今度大地達とアドバイスしてやろうかな。

 ぽかっ

「そういう相談は父親だけでしてはいけませんって言いましたよね?」

 どうも愛莉には最近読まれている。

「でもそういう状況ならなずなから言った方が良いかもしれないな」

 天音がアドバイスしていた。
 茉莉が同じような状況だから分かるんだろ。

「大地~今月分の銃弾全部使っちゃった」

 少し補充してくれないかな?
 娘が危険な目にあったら大変でしょ。

「ふざけんな茉莉!お前他人の旦那を誘惑してんじゃねーぞ!」
「天音は歳だから若い私が相手してやるって言ってるんだよ!」

 どうせ天音じゃ小さいから嬉しくないだろ

「うぬぬ……大地!お前からも何か言え!」

 天音がそう言って睨みつけると大地も慌てて何か言おうと考える。

「そういうのは彼氏の為にとっておいたほうがいいよ」

 多分上手い事言ったつもりなのだろう。
 僕でもそう答えたかもしれない。
 だけどこの2人には全く通用しなかった。

「そうは言っても朔の奴私を抱くつもり全くないんだぞ!」
「なんですって?」

 陸が頭を抱えている。
 そして晶さんが当然の様に怒り出す。

「あ、晶ちゃん待っておくれ。朔はまだ小学生だ」
「善君は大学生になっても誘ってくれなかったじゃない!」
「そ、それは語弊があるよ。僕には高校の時ちゃんと彼女がいた」

 そして男女の関係を持った。
 その結果岬がいるじゃないか?
 しかしその理屈だと別の問題が発生する。

「……で、私に手を出さなかったのはどういう理由なの?」

 やっぱりそうなると思った。

「そういえば望も同じだった。私じゃ物足りなかったの?」

 恵美さんが言うと石原君は慌てて首を振っている。

「晶さん、それなら俺が説明できる!」

 誠が珍しく酒井君を庇っていた。
 晶さんはなぜか僕を見る。

「誠君の説明で大丈夫なの?」
「多分大丈夫だよ。僕が言うより説得力あるかも」

 何しろ僕は愛莉以外の相手をしたことがないからね。
 風俗にすら行ったことがない。
 それは多分空も同じだろう。

 ぽかっ

「冬夜さんは知らなくていいの」

 愛莉に怒られた。

「晶さん。男だって馬鹿じゃない。そんな簡単に誰彼構わず女性をベッドに誘うわけじゃないんだ」

 誠が言っても説得力ないな。
 人選間違えたかな。

「じゃあ、何を基準に決めるの?」
「だから男だって馬鹿じゃない、そういう事をすれば子供が出来るというリスクを抱える事くらいわかる」
 
 それはゴムをつけたら絶対防げるわけじゃないことくらい承知しているのが酒井君だ。
 子供が出来たら男にも当然責任をとる必要が出てくる。
 その子を産むのか産まないのか?
 育てる覚悟を自分が背負えるか?
 そしてそれを決めてから彼女に問う事になる。
 産みたいか産みたくないか。
 勝手に子供をつくるななんて言った男の末路はこの世界では暗黙の了解だ。
 だから酒井君だって慎重になる。
 もし晶さんがそういう状態になったら自分が責任をとれるか?
 まだ大学生になって2年目くらいの話じゃないか。
 しかも晶さんは志水家のお嬢様。
 自分の命一つで許されるような状況じゃない。
 晶さんは誠の言い分を聞いて酒井君に聞いていた。

「私は一緒に暮らすという事はそのくらいの覚悟を決めていたのに分かってもらえなかったわけ?」
「そうじゃないよ、むしろ逆なんだ」

 誠が話を続ける。
 多分家をプレゼントされていた時から晶さんが本気だって事くらい酒井君だって分かっていた。
 少なくとも西松君が現れるまでには酒井君にだって感情があった。
 だから西松君の誘いに晶さんが応じた時酒井君が暴挙に出たんだろ?
 男と言うのはそういう物だ。
 彼女を愛しているから、好きでいるから臆病になる。
 それだけ大事なんだ。
 晶さんだって大学に通ってる身。
 子供を身ごもったなんて事になったら晶さんの人生を狂わせかねない。
 それでも晶さんとならって思えた時にしようと思っていたんだろう。
 まあ、実際酒井君は晶さんの凶行に戸惑っていただけだと思うけど口を出さなかった。

「多分恵美さんも一緒じゃないかな。男ってさ女性のことについて案外よく分かってないんだ」

 それは僕だってそうだったと誠が言うと渡辺君が確かに何も分かっていなかったなと笑っている。
 僕にだって初めての時は愛莉をスマートに誘導できなかった。
 そのくらい男にとって難しいことなんだ。

「その割には誠は間もないうちから私を押し倒していたじゃないか」
「あの時は神奈だって愛莉さんの張り合っていたから協力するって口実があったんだ」

 だけどカンナを抱けたことが嬉しくて翌朝誠は僕に連絡してきた。

「そういうわけだから秋久も朔も決して彼女を蔑ろにしてるわけじゃない」

 男って大好きな女子が自分の命よりも大切なんだ。
 だからそんな簡単に傷つける真似はしない。
 酒井君の孫なら絶対に間違いはない。
 中学生でお腹が大きくなったなんて嫌だろ。

「晶さん。私も愛莉を見習って子供達に言っていたの」

 翼が言う。
 そういうのはお互いの体が未熟なうちにしたら絶対にダメ。
 せめて中学生になるまで待ちなさい。
 キスくらいなら幼稚園で済ませてもいいけど、その先は絶対にダメ。
 彼女の事を思うのなら、自分の体を守りたいなら我慢しなさい。
 それを拒んで求めてくるような馬鹿な男とはさっさと別れた方が良い。
 小学生で初体験を済ませたなんて自慢話はこの世界でも通用しない。
 翼は陽葵達にそう教えて来たらしい。

「あの、パパ。一つ聞いてもいいかな?」

 翼が聞いてきた。
 なんとなく察しがついた。
 僕に正解を出せるのか不安だったけど聞いてみた。
 やっぱりだった。
 菫が自分の貧相な胸を見て悩んでるそうだ。

「これじゃ正行が気づいてくれない」

 そう言って落ち込んでる菫にどう声をかけたらいいかわからない。
 だって翼が言ったところで皮肉にしか受け取らないから。
 僕にかわってカンナが答えた。

「それはもう菫と正行の問題だ」
「そうなりますよね」
「それにトーヤに聞くのは間違いだ。こいつは私の胸を見てその気になれなかったのだから」

 それは違うぞカンナ。
 前から言ってただろ。
 僕には愛莉がいる。
 だからカンナとはそういう関係になれない。
 愛莉を見ていた。
 気づいてくれない。

 ぽかっ

 理不尽だ。

「てめぇ、神奈のスタイルに文句があるのか!?」

 誠が怒り出す。

「そう言って手を出してたら”俺の彼女に手を出すな”だろ?」
「神奈も冬夜さんを勝手に誘惑しないで!」
 
 またいつもの喧嘩が始まりだす。
 しかし今年は違うようだ。
 水奈が学を見て言う。

「菫だってまだわからねーよ。私だって母さんの娘だから諦めろって言われてたんだ」

 それがいつの間にか「諦めろって言ってた割に結構成長してるじゃないか」と学に喜んでもらえたらしい。

「学!お前そんな趣味あったのか!?」
 
 桐谷君が怒り出す。

「あの時は学は結婚していたんだ!当たり前だろうが!」

 亜依さんが言う。

「日本人っていまだによくわかりませんね」

 パオラが不思議そうに言っている。
 まあ、誠司の父親が誠ではそうなるよな。

「でも、冬吾や瞳子の悩みは良いんですか?」

 パオラが聞いていた。
 僕がにこりと笑って答える。
 
「今の会話の中に答えがちゃんと示されていたよ」
「え?」

 首を傾げるパオラ。
 冬吾達も悩んでいるみたいだ。
 そろそろ寝ようかと火を消して皆テントに入る。
 
「冬夜さん。どうして冬吾達に意地悪するんですか?」
  
 愛莉が聞いていた。

「意地悪じゃないよ。ごく当たり前の子供の感情をあの2人が理解できていないだけ」
 
 だから酒井君達なら分かったんだ。
 それに冬吾達に教えたところで結に何もしてやれない。
 雪が自分で気づくしかない。
 何のとりえもないごく平凡で気弱な少女。
 そんな少女がどういう風に成長していくのかを見届けようと愛莉に伝えて休むことにした。
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