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Baroque
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(1)
これはさすがに驚いた。
サファリパークにキャンプ場が出来たから今年はそこに行こうと話しあった。
そしてサファリパークに着いて早速サファリバスに乗る。
初めて本物のライオンやキリンを見た比呂達ははしゃいで冬吾さん達が持っている餌をあげていた。
そしてライオンやキリンもこのサファリパークに来て初めて結に会った。
だから畏れたのだろう。
ライオンたちは餌を求めてサファリバスに群がって来る。
その常識を覆したのが雪だった。
あからさまに雪を恐れて動物が近寄ってこない。
どうしてわかったのか?
動物が近づいてきても雪を意識してある程度の距離を取って離れていく。
すると雪が寂しそうな顔をする。
その気配を悟ったのか動物が近づいてくる。
雪は私の顔を見る。
こういう時の雪の考えはなんとなくわかる。
私はスマホでライオンの写真を撮った。
すると雪は餌を与えながらにこりと笑っていた。
ライオンは結の意思が分かるのだろうか。
黙ってその場を後にした。
「こ、これはさすがにどうなんだ?冬夜」
誠さんが冬夜さんに聞いてた。
しかし冬夜さんだって生まれて初めての事態なんだろう。
「結の時もそうだったけどこれはもっとすごいね」
そう言って難しい顔をして雪を見ていた。
雪と誠司郎は相変わらずだった。
雪から話しかける事は全くない。
近づこうともしなかった。
誠司郎も同じだけど。
しかし誠司郎も雪の事がどうしても気になる事態になっていた。
昼食を食べた後お店に入る。
猫でも犬でも関係ない。
気軽にペットに触れる事が出来る店がある。
そこで他の客を無視して雪に集まってくる犬や猫たち
しかも雪の前で低姿勢になって雪に撫でられるのを待っている。
雪は一匹ずつ撫でながら私に聞いていた。
「ここにいる犬や猫は毛がふさふさだけどどうして?」
近所にいる野良猫たちはそんな事は無い。
どうして違いがあるの?
すると冬吾さんが答えた。
「雪はどっちが好き?」
「うーん、ふさふさしてる方が気持ちよさそうだね」
「だからだよ」
日本人は雪と同じ事を考える。
だからそういう犬や猫を飼いたがる。
だけどふさふさしているから犬とか散歩に連れて行くとすぐに汚れる。
でも犬は散歩させないとストレスを貯める。
それが病気になる原因になる事もある。
そして手入れを怠るとシラミが湧いたりするから、普通の家庭が買うのは難しい。
猫も変わらない。
余り散歩したがらないのが長所なくらい。
でも運動しないと人間と同じだから肥満の原因になる。
肥満が病気の原因になるのは人間と一緒。
ここにいる犬や猫は専門のスタッフが毛の手入れをしたらシャンプーしたりトリムする。
餌だって大変だ。
栄養価の高いペットフードがあるけどそれを必要以上に食べさせると肥満になる。
ここにいるようなペットを飼うのは一般の家では絶対に出来ない。
面倒を見切れなくなった飼い主が放棄する。
そんな風になるから飼えない人たちがこういう場所で触れ合っている。
でも本当は犬や猫だって触られたり音をたてられたりするのがストレスになるんだ。
「そうなんだ」
自分の前に集まった猫を見てそう言った。
しかし雪の周りに集まっていると他の客が触れない。
誠司郎だってそうだ。
そんな様子を悟ったのだろうか?
「ほら、いってあげて」
雪がそう言うと静かに雪の下から去った。
そうするとやっと誠司郎達が猫と遊んでいる。
そんな様子を見ていた雪がスケッチブックで絵を描きだす。
多分他にする事無いから絵でも描いて時間を潰しているんだろう。
しかしその時冬吾さんが気づいた。
最初に気づいたのは冬夜さんらしい。
「雪の絵を見て」
冬夜さんがそう言うと私は雪の絵を見た。
ただ猫と、猫と遊んでいる誠司郎の絵。
あれ?
冬夜さんが言いたかったのはそういう事。
雪は今までそんな事無かった。
本当は誠司郎に興味があったの?
冬夜さん達が確信していたことはそういう事?
私が雪に声をかけようとすると愛莉さんが止めていた。
「まだだめ。今はじっと見守ってあげて」
愛莉さんがそう言うから私は熱心に猫と茉菜達を描いてる雪を放っておいた。
時間が来ると雪もスケッチブックをしまっていた。
誠司郎も猫を離して手をウェットティッシュで拭いていた。
それからキャンプ場に向かう。
その時の雪はいつもの雪だった。
キャンプ場ではBBQの材料も用意してくれているけど冬吾さん達がそれだけで足りるはずがない。
だから自分たちで用意しておいた。
「雪の気持ち少しは分かった?」
愛莉さんが聞いていた。
「自信はないけどなんとなくは……」
「だから言ったでしょ?昔の瞳子を思い出してって」
愛莉さんが言う。
瑛大さん達は平気で亜依さん達より若い女性を捕まえようと必死にアピールする。
その境目は人それぞれだから分からない。
だけど共通しているのは女の子だって幼い時から異性を気にしている。
好きになったりすることだってある。
だけど素直に言えないから遠くから見ているだけなのが普通の女の子。
想いを伝えないと気づいてくれないと分かっていても踏み出せないもどかしさ。
素直に好きだって言えないからそういうやり方しか知らずにいる。
普通はそうなんだ。
幼稚園児で恋人を作る世界。
だから雪の感情に気づくのは難しい。
私だって冬吾さんがそうだったから一緒に慣れたけど、冬吾さんじゃなかったら初恋は間違いなく失恋だった。
だけど愛莉さんや亜依さんは違うらしい。
「愛莉ほどじゃないけど可愛いって思われてる時あったから」
だから男子から色々ちょっかいを出されていた。
愛莉さんも優秀な上に綺麗だから虐められていた。
カンナさんでさえそうだ。
ちなみに翼や天音は手を出してきた男の子を保健室に放り込んでいた。
千歳先輩や桜子先輩の頭痛の種だったらしい。
桜子先輩は現在進行形で悩んでいるけど。
「面倒な性格してるんだな?」
美嘉さんが言うと「そういうわけでもない」と咲さんが言う。
「私や咲良はモテてたから男の方から寄ってきて有頂天になってた」
咲さんはそれでお姫様を気取っていたらしい。
でもそんな同じようなアピールで咲さんが興味を引くわけがない。
ただ純粋に咲さんを見ていた今の旦那さんに惹かれたそうだ。
「ならどうして私達には分からないって片桐君は言っていたの?」
恵美さんが愛莉さんに聞いていた。
愛莉さんは説明していた。
「恵美や晶はそもそも男性に興味がなかったでしょ?」
ただの取り巻き程度にしか思っていなかった。
そんな二人に何のとりえもないと思い込んでる雪の気持ちは分からない。
「て、事は雪も初恋は誠司郎なのか?」
「それが恋という感情だと自覚まではしてないんじゃないかな?」
ただ母親達を除く同年代の男子が誠司郎だっただけ。
自分でもよく分かってないんじゃないだろうか?
本当は話をしてみたいけど何を話したらいいかわからない。
だから自分には無理だ。
それで結が「諦めてる」と表現したんだろう。
そんなの雪を見ていたら分かる。
普通は初恋は実らない。
その理由に「相手との距離の縮め方を知らないから」と言うのがある。
当たり前の様に男女が話しているこの世界とは違って普通は好きな男子に話しかける事だって勇気がいるらしい。
やり方が分からないのだからどうしようもない。
だから諦めて「自分は誠司郎といたくない」と言う答えを無理やり作る。
その結果が誠司郎を自分から遠ざけている現状。
「だったら瞳子が教えてやればいいんじゃないか?」
天音が聞いていた。
だけど翼がそうじゃないという。
「多分パパ達がこう考えている。今はまだ誠司郎の事について触れるべきじゃない。って……」
「どうしてだよ?」
「まだ自分では秘密にしてるつもりの感情を親に指摘されたら頑なに拒むだけ」
だから雪が自覚して悩んでいたら相談に乗ってあげたらしい。
自分で認めてない感情を認めるまではそっとしてやれ。
「あいつは自分の孫の恋愛に力を貸してやろうとしないのか?」
神奈さんが言うとそれは違うと愛莉さんが否定していた。
「いつものノリなら逆に無理にでもくっつけようとするはずでしょ?」
渡辺班をみてたらそうじゃない。
だけど雪は大事な孫だ。
だから厳しいけど自分でしっかり悩めばいい。
その先にある物がなんだったとしても自分で見つけた答えなら納得するだろうから。
どんな選択肢が雪を待っていようとも、雪は自分で判断するべきだ。
間違えようとしていた時に私達親が修正してやればいい。
そんな事が出来るうちにしっかりと教えてやらなければならない。
雪が小学生になる頃にはもう冬吾さんでも手に負えないレベルになっているだろうから。
「天音みたいに皆殺しにしてやるとか言い出したらもう誰にも止められない」
冬夜さんがそう言っていたと愛莉さんが言う。
そしてBBQの準備が出来ると持って行こうとすると私達は立ち止まった。
雪が立っていた。
「ど、どうしたの?」
雪がここにいた理由が分からないけど私が雪に聞いていた。
「今の話って私の事?」
「聞いてたの?」
私が聞くと雪は頷いた。
「心配することじゃないよ。今はまだ分からない感情があるってだけの話だ」
神奈さんがそう言って安心させようとする。
「うん……」
雪の様子がおかしいけど、私達は雪を連れて戻った。
(2)
朝になるといつもの様に片桐君と石原君と渡辺君がいる。
多分時期に空達や木元先輩が起きてくるだろう。
「昨夜は参りましたね」
石原君はそう言って笑っている。
昨夜何があったか。
毎年やっている事。
それはBBQが終わった後の花火。
結莉や冬夜は線香花火とかで大人しく楽しんでいた。
問題は菫や茉莉だった。
ここはテントの区画が狭い。
だからロケット花火や打ち上げ花火はダメ。
当たり前のことを天音や翼が娘に説明していた。
しかしそんな事を素直に聞く娘じゃなかった。
「他人の家にロケランぶち込むのは良くてロケット花火がダメっておかしいだろ!」
そもそもロケランを国内で使用するのがおかしいんだと当たり前の事を説得するのに天音達では荷が重かった。
「そう言われると確かにそうだな」
「天音は娘に説得されてどうするの!?」
天音が納得しようとすると愛莉さんが叱っていた。
だけど菫は少し利口らしい。
悪知恵が凄いと言った方が良いのだろうか?
「テントにぶち込まなきゃいいんだろ?」
しかし何もない所なんてない。
そんなこと菫だって知っていた。
「夜だからと言って呑気に寝てるんじゃねえ!」
そう言って動物エリアに打ち込もうとするのを僕と大地が必死で止めていた。
初めてきていきなり出禁はさすがにいやだ。
そんな事をしたサファリパークの末路の方が恐ろしい。
「んじゃ、ラーメン食うまで何してたらいいんだよ!」
キャンプに来たら夜食のラーメンを食べないと茉莉は気が済まないらしい。
比呂は誠司郎と花火で遊んでいる。
それをパオラと誠司が見守っていた。
雪は相変わらず瞳子が見ている前で花火の絵を描いている。
「雪は花火しないのか?」
天音が聞いていた。
「みんなしてるから見てるだけでいいよ」
パッと見普通の女の子だ。
それでもラーメンを食べるまでは起きているらしい。
まだ1歳なのにこうも食欲があるのか?
片桐家の人間はこの時期からもうそういう風になっていくんだね。
あらゆる生命の主と言わんばかりの能力を発現した雪。
それを見ていた僕達も脅威を感じていた。
この子は絶対に育て方を間違えたらいけない。
ほんの些細なミスすら許されない。
瞳子にはむごい話だけどそのくらい危険な子だ。
だから「自分の子供くらい自分で見なさい」と突き放していた片桐君も手を貸しているのだろう。
今のところは何もない。
そう思っていた。
しかしあの子もこの世界の摂理に逆らえないらしい。
誰であろうと当たり前の様に恋をして、異性を愛してそして結ばれる。
誠司郎に対する雪の感情はそれだと片桐君は見抜いていた。
片桐君ですら危うく見逃すところだった。
僕達ですら気づくことを片桐君が見逃しかけた。
雪が心をなかなか開かないのもあるけどこの世界の常識にとらわれすぎた。
雪の反応が本来の子供なんだ。
その先どうなるかなんてわからない。
それでもあれだけの能力を持つ雪だからこそ自分で道を探さないといけない。
人に流されてはいけない。
どんな時でも自分の意思で自分の力を行使しないといけない。
それが雪が生まれた時から雪に課せられた宿命。
神様と言うのはなかなか残酷な試練を子供に課す。
でも、大丈夫だと片桐君は言う。
「どうしてだ?」
渡辺君が聞いていた。
「あの子が一番僕に似ているんだ」
片桐君がそう言って笑った。
片桐君の圧倒的なまでの能力の反面、愛莉さんと言う恋人を手に入れて劣等感に苛まされていた。
それでも大丈夫だと愛莉さんが支えていた。
だからあの子にもそんな相手が現れる。
「それが俺の孫って事か?」
まずい、多田君達が起きて来た。
もう僕達にくつろぐ時間を与えるつもりがないようだ。
「そう言うなよ善幸。俺だってこう見えて孫の成長を楽しみにしているんだ」
残念だけど誠司郎では雪の相手にならない。
多田君が言うと片桐君がそれを否定した。
「雪の今の気持ちは瞳子や愛莉でも分からないかもしれない」
「……まさか、本気で誠司郎を選ぶっていうのか?」
さすがにそれは無いだろう。
それは片桐君も最初はそう思ったらしい。
「……昔さ。桐谷君達に言ったこと覚えてる?」
「どのことだ?」
「好きの反対って何だと思う?って話」
「ああ、確か無関心だったな」
「誠の言う通り。だから僕も雪はそうだと思っていた」
まあ、あれだけ拒絶してたらそうなるよね。
でも片桐君が言うにはそうじゃないらしい。
「まさか誠司郎の事を好きになったとでも?」
「いくら何でもそれは無い気がするんだけど……気になる点がある」
愛莉さんから聞いたらしい。
雪の事を女性陣が相談していた話を雪が聞いていた。
雪に聞かれたことがまずいんじゃない。
どうしてあの場所に雪がいた?
「女の子だから手伝おうとしたとか?」
1歳でそれはいんじゃないのかい?石原君。
片桐君も同じ考えの様だった。
「それならもっと前に声をかけるだろ?」
「……冬夜は何が言いたいんだ?」
多田君が質問していた。
「……雪はひょっとしたら、誠司郎の事は無関心じゃないんじゃないのかという事」
「……そうなの」
突然背後から聞こえた雪の声に驚いて振り返る片桐君。
「ごめんなさい。この時間なら大丈夫だからって愛莉さんから聞いたから」
どうやら愛莉さん達にも聞かれたくない話らしい。
本当は片桐君だけに話したいのかもしれない。
瞳子が雪を連れて来ていた。
「そういう話なら僕達は少し席をはずそうか?」
「大丈夫です」
「……いいよ。そこにかけなさい」
そう言って片桐君は石原君に紅茶を二つ用意してもらうと、それをパオラさんと茉菜に渡す。
「で、話って何?」
「私は今何を考えているのですか?」
不安そうに聞いていた。
そんな事を不安そうに聞いてくるという事は。
だけど片桐君は首を振った。
「そう言う話ならたとえ僕が知っていたとしても教えられない」
雪だってそんな気持ちを人にべらべら教えられたくないだろ?
「そうですよね……」
雪は落ち込んでいる。
「どうしてそう思ったの?」
片桐君が聞くと雪は少し考えてから答えた。
単純な事だった。
楽しそうに他の子供たちと遊んでいる誠司郎。
そんな輪の中に入りたいと思うけど、仲間外れにされるのが怖くて飛び込めない。
自分が他の人たちと比べて異常な能力を持っている事は自覚している。
そんな自分が気持ち悪いと思われないか?
恐ろしいと思われないか?
そう考えると怖くて仲間に入れてと言い出せない。
まあ、普通はそう思うよね。
で、瞳子たちに相談しようとしてあの場にいてしまった。
私は誠司郎の事が好きなの?
でも私なんかが好きになっても相手にしてくれるわけがない。
そう思うとあまり眠れなかったらしい。
1歳の子にしてはヘビー過ぎる悩みじゃないのかい?
僕達は話を静かに聞いていた片桐君を見ていた。
「……そうだな。まず最初にはっきりさせておくことがあると思うよ」
「それは何ですか?」
「雪は誠司郎の事をどう思ってるの?」
僕達が楽観的に見れば雪は誠司郎が好きなのだろう。
でもそれは僕達の意見を雪に押し付ける事になる。
1歳の子にそんなむごいことをしたくない。
だからまずはっきりさせる事。
それは雪は誠司郎をどう思っているのか?
それを聞かないと僕達はアドバイスしようがない。
すると雪が自信なさそうに言った。
「お友達になりたい。だけど私みたいなのを相手にしてくれるとは思えなくて……」
「なるほどね」
それが恋だよ。
そんな事片桐君が言うわけがなかった。
もっとわかりやすい説明をしていた。
「捨て猫や虐待されたペットは人に対して物凄い警戒感を示すんだ」
自分の孫をペットに例えるのかい君は?
「そういう時どうすると思う?」
片桐君が聞くと雪は首を振っていた。
それを見た片桐君がにこりと笑って言う。
「最初からいきなり距離を詰めても警戒されちゃうだろ?」
だから最初は少し離れた場所からペットを見るんだ。
時間がかかるかもしれないけど焦っちゃいけない。
二人にはまだ時間がたっぷりあるんだから。
そしてまず雪に敵意はないと分からせていけばいい。
その時期が来たら少しずつ距離を詰めていくんだ。
雪にはまだたくさん分からない事がある。
雪が怖いのはそれを今の歳で分かっている事。
だから未知の物に対して恐怖を覚える。
「それでもいいんだよ」
片桐君が言う。
その時に雪の気持ちが変わってなければ誠司郎から動くよ。
気持ちが変わっていたらもうしょうがない。
だから初恋は普通は難しい物なんだろ?
まあ、片桐君の言う通りだね。
まずは雪の気持ちが大事。
しかし1歳の子供には荷が重いんじゃないのかい?
「おはよう、瞳子」
愛莉さん達が起きて来た。
「冬夜さんどうですか?」
「そうだね、まだ分からない」
まだ1歳だ。
そこまで強い意志があるのかもわからない。
茉奈と結が不思議なくらいなんだ。
いや、茉莉や朔達だって同じだ。
そして雪もどうやら例外ではないらしい。
「まずは自分の気持ち……分かりました。やってみます」
「そっか、お爺さんも応援してるよ。頑張って」
そんな辛い思いをどうして選ぶのか不思議だった。
ただの好きとかいう感情でもなければ憧れでもない。
ただ胸が締め付けられる思い。
誠司郎に振り向いてほしいという願い。
この世界の神様も随分悪戯がお好きなようだ。
「そうね」
愛莉さんはそう言って孫娘の頭を撫でる。
「じゃあ、もう一つだけヒントをあげる」
片桐君が言いだした。
「雪はまだ1歳。恋愛なんてまだ早すぎるんだ。だから雪が思い悩むのが本来は正常なんだ」
それは僕にも分かった。
だけどまだ何かあるのかい?
すると片桐君は信じられない事を言っていた。
「雪は自分にとりえが無いと諦めてないかい?」
雪にとりえが無かったら他の誰が取り柄があるんだい。
この世界で結と張り合える存在だよ?
「うん……」
「大丈夫、雪も冬夜さんや冬吾の子だからもっと自信を持ちなさい」
「片桐家ってだけで最強のチートなんだぞ」
「それは違うよ誠」
「なんでだよ?」
多田君が言うと片桐君は言った。
「片桐家だから。そのイメージが雪を苦しめてるんだ」
片桐家の娘。
その重圧を思いっきり受けて雪は悩んでいる。
確かにそんな重圧を1歳の子に与えていいものじゃないよね。
皇室に産まれてきた子供のような重圧だ。
「んじゃ、お爺さんの話はおしまい。頑張ってね」
片桐君はそう言って雪の頭を撫でる。
その雪の瞳にはある種の覚悟が秘められていた。
テントに戻って行く雪。
「冬夜的には勝算あるのか?」
「どういうわけか分からないけどこういう関係になると女性は強いんだ」
あの子も愛莉さんの孫娘。
そう簡単に挫けるわけがない。
泣きそうになった時に瞳子が支えてやればいい。
「何度も言うけど片桐家の子供は一途なんだ」
「それを私の前で言わないでくれ、結構ショックなんだ」
神奈さんはそう言って笑っていた。
裏を返すと片桐君は神奈さんにはそういう気持ちが無かったって事だからね。
「皆が心配することじゃないよ」
最後の季節は2人の季節。
結末は決まっている。
温かく見守ろう。
そう、最後の物語は既に始まっていた。
これはさすがに驚いた。
サファリパークにキャンプ場が出来たから今年はそこに行こうと話しあった。
そしてサファリパークに着いて早速サファリバスに乗る。
初めて本物のライオンやキリンを見た比呂達ははしゃいで冬吾さん達が持っている餌をあげていた。
そしてライオンやキリンもこのサファリパークに来て初めて結に会った。
だから畏れたのだろう。
ライオンたちは餌を求めてサファリバスに群がって来る。
その常識を覆したのが雪だった。
あからさまに雪を恐れて動物が近寄ってこない。
どうしてわかったのか?
動物が近づいてきても雪を意識してある程度の距離を取って離れていく。
すると雪が寂しそうな顔をする。
その気配を悟ったのか動物が近づいてくる。
雪は私の顔を見る。
こういう時の雪の考えはなんとなくわかる。
私はスマホでライオンの写真を撮った。
すると雪は餌を与えながらにこりと笑っていた。
ライオンは結の意思が分かるのだろうか。
黙ってその場を後にした。
「こ、これはさすがにどうなんだ?冬夜」
誠さんが冬夜さんに聞いてた。
しかし冬夜さんだって生まれて初めての事態なんだろう。
「結の時もそうだったけどこれはもっとすごいね」
そう言って難しい顔をして雪を見ていた。
雪と誠司郎は相変わらずだった。
雪から話しかける事は全くない。
近づこうともしなかった。
誠司郎も同じだけど。
しかし誠司郎も雪の事がどうしても気になる事態になっていた。
昼食を食べた後お店に入る。
猫でも犬でも関係ない。
気軽にペットに触れる事が出来る店がある。
そこで他の客を無視して雪に集まってくる犬や猫たち
しかも雪の前で低姿勢になって雪に撫でられるのを待っている。
雪は一匹ずつ撫でながら私に聞いていた。
「ここにいる犬や猫は毛がふさふさだけどどうして?」
近所にいる野良猫たちはそんな事は無い。
どうして違いがあるの?
すると冬吾さんが答えた。
「雪はどっちが好き?」
「うーん、ふさふさしてる方が気持ちよさそうだね」
「だからだよ」
日本人は雪と同じ事を考える。
だからそういう犬や猫を飼いたがる。
だけどふさふさしているから犬とか散歩に連れて行くとすぐに汚れる。
でも犬は散歩させないとストレスを貯める。
それが病気になる原因になる事もある。
そして手入れを怠るとシラミが湧いたりするから、普通の家庭が買うのは難しい。
猫も変わらない。
余り散歩したがらないのが長所なくらい。
でも運動しないと人間と同じだから肥満の原因になる。
肥満が病気の原因になるのは人間と一緒。
ここにいる犬や猫は専門のスタッフが毛の手入れをしたらシャンプーしたりトリムする。
餌だって大変だ。
栄養価の高いペットフードがあるけどそれを必要以上に食べさせると肥満になる。
ここにいるようなペットを飼うのは一般の家では絶対に出来ない。
面倒を見切れなくなった飼い主が放棄する。
そんな風になるから飼えない人たちがこういう場所で触れ合っている。
でも本当は犬や猫だって触られたり音をたてられたりするのがストレスになるんだ。
「そうなんだ」
自分の前に集まった猫を見てそう言った。
しかし雪の周りに集まっていると他の客が触れない。
誠司郎だってそうだ。
そんな様子を悟ったのだろうか?
「ほら、いってあげて」
雪がそう言うと静かに雪の下から去った。
そうするとやっと誠司郎達が猫と遊んでいる。
そんな様子を見ていた雪がスケッチブックで絵を描きだす。
多分他にする事無いから絵でも描いて時間を潰しているんだろう。
しかしその時冬吾さんが気づいた。
最初に気づいたのは冬夜さんらしい。
「雪の絵を見て」
冬夜さんがそう言うと私は雪の絵を見た。
ただ猫と、猫と遊んでいる誠司郎の絵。
あれ?
冬夜さんが言いたかったのはそういう事。
雪は今までそんな事無かった。
本当は誠司郎に興味があったの?
冬夜さん達が確信していたことはそういう事?
私が雪に声をかけようとすると愛莉さんが止めていた。
「まだだめ。今はじっと見守ってあげて」
愛莉さんがそう言うから私は熱心に猫と茉菜達を描いてる雪を放っておいた。
時間が来ると雪もスケッチブックをしまっていた。
誠司郎も猫を離して手をウェットティッシュで拭いていた。
それからキャンプ場に向かう。
その時の雪はいつもの雪だった。
キャンプ場ではBBQの材料も用意してくれているけど冬吾さん達がそれだけで足りるはずがない。
だから自分たちで用意しておいた。
「雪の気持ち少しは分かった?」
愛莉さんが聞いていた。
「自信はないけどなんとなくは……」
「だから言ったでしょ?昔の瞳子を思い出してって」
愛莉さんが言う。
瑛大さん達は平気で亜依さん達より若い女性を捕まえようと必死にアピールする。
その境目は人それぞれだから分からない。
だけど共通しているのは女の子だって幼い時から異性を気にしている。
好きになったりすることだってある。
だけど素直に言えないから遠くから見ているだけなのが普通の女の子。
想いを伝えないと気づいてくれないと分かっていても踏み出せないもどかしさ。
素直に好きだって言えないからそういうやり方しか知らずにいる。
普通はそうなんだ。
幼稚園児で恋人を作る世界。
だから雪の感情に気づくのは難しい。
私だって冬吾さんがそうだったから一緒に慣れたけど、冬吾さんじゃなかったら初恋は間違いなく失恋だった。
だけど愛莉さんや亜依さんは違うらしい。
「愛莉ほどじゃないけど可愛いって思われてる時あったから」
だから男子から色々ちょっかいを出されていた。
愛莉さんも優秀な上に綺麗だから虐められていた。
カンナさんでさえそうだ。
ちなみに翼や天音は手を出してきた男の子を保健室に放り込んでいた。
千歳先輩や桜子先輩の頭痛の種だったらしい。
桜子先輩は現在進行形で悩んでいるけど。
「面倒な性格してるんだな?」
美嘉さんが言うと「そういうわけでもない」と咲さんが言う。
「私や咲良はモテてたから男の方から寄ってきて有頂天になってた」
咲さんはそれでお姫様を気取っていたらしい。
でもそんな同じようなアピールで咲さんが興味を引くわけがない。
ただ純粋に咲さんを見ていた今の旦那さんに惹かれたそうだ。
「ならどうして私達には分からないって片桐君は言っていたの?」
恵美さんが愛莉さんに聞いていた。
愛莉さんは説明していた。
「恵美や晶はそもそも男性に興味がなかったでしょ?」
ただの取り巻き程度にしか思っていなかった。
そんな二人に何のとりえもないと思い込んでる雪の気持ちは分からない。
「て、事は雪も初恋は誠司郎なのか?」
「それが恋という感情だと自覚まではしてないんじゃないかな?」
ただ母親達を除く同年代の男子が誠司郎だっただけ。
自分でもよく分かってないんじゃないだろうか?
本当は話をしてみたいけど何を話したらいいかわからない。
だから自分には無理だ。
それで結が「諦めてる」と表現したんだろう。
そんなの雪を見ていたら分かる。
普通は初恋は実らない。
その理由に「相手との距離の縮め方を知らないから」と言うのがある。
当たり前の様に男女が話しているこの世界とは違って普通は好きな男子に話しかける事だって勇気がいるらしい。
やり方が分からないのだからどうしようもない。
だから諦めて「自分は誠司郎といたくない」と言う答えを無理やり作る。
その結果が誠司郎を自分から遠ざけている現状。
「だったら瞳子が教えてやればいいんじゃないか?」
天音が聞いていた。
だけど翼がそうじゃないという。
「多分パパ達がこう考えている。今はまだ誠司郎の事について触れるべきじゃない。って……」
「どうしてだよ?」
「まだ自分では秘密にしてるつもりの感情を親に指摘されたら頑なに拒むだけ」
だから雪が自覚して悩んでいたら相談に乗ってあげたらしい。
自分で認めてない感情を認めるまではそっとしてやれ。
「あいつは自分の孫の恋愛に力を貸してやろうとしないのか?」
神奈さんが言うとそれは違うと愛莉さんが否定していた。
「いつものノリなら逆に無理にでもくっつけようとするはずでしょ?」
渡辺班をみてたらそうじゃない。
だけど雪は大事な孫だ。
だから厳しいけど自分でしっかり悩めばいい。
その先にある物がなんだったとしても自分で見つけた答えなら納得するだろうから。
どんな選択肢が雪を待っていようとも、雪は自分で判断するべきだ。
間違えようとしていた時に私達親が修正してやればいい。
そんな事が出来るうちにしっかりと教えてやらなければならない。
雪が小学生になる頃にはもう冬吾さんでも手に負えないレベルになっているだろうから。
「天音みたいに皆殺しにしてやるとか言い出したらもう誰にも止められない」
冬夜さんがそう言っていたと愛莉さんが言う。
そしてBBQの準備が出来ると持って行こうとすると私達は立ち止まった。
雪が立っていた。
「ど、どうしたの?」
雪がここにいた理由が分からないけど私が雪に聞いていた。
「今の話って私の事?」
「聞いてたの?」
私が聞くと雪は頷いた。
「心配することじゃないよ。今はまだ分からない感情があるってだけの話だ」
神奈さんがそう言って安心させようとする。
「うん……」
雪の様子がおかしいけど、私達は雪を連れて戻った。
(2)
朝になるといつもの様に片桐君と石原君と渡辺君がいる。
多分時期に空達や木元先輩が起きてくるだろう。
「昨夜は参りましたね」
石原君はそう言って笑っている。
昨夜何があったか。
毎年やっている事。
それはBBQが終わった後の花火。
結莉や冬夜は線香花火とかで大人しく楽しんでいた。
問題は菫や茉莉だった。
ここはテントの区画が狭い。
だからロケット花火や打ち上げ花火はダメ。
当たり前のことを天音や翼が娘に説明していた。
しかしそんな事を素直に聞く娘じゃなかった。
「他人の家にロケランぶち込むのは良くてロケット花火がダメっておかしいだろ!」
そもそもロケランを国内で使用するのがおかしいんだと当たり前の事を説得するのに天音達では荷が重かった。
「そう言われると確かにそうだな」
「天音は娘に説得されてどうするの!?」
天音が納得しようとすると愛莉さんが叱っていた。
だけど菫は少し利口らしい。
悪知恵が凄いと言った方が良いのだろうか?
「テントにぶち込まなきゃいいんだろ?」
しかし何もない所なんてない。
そんなこと菫だって知っていた。
「夜だからと言って呑気に寝てるんじゃねえ!」
そう言って動物エリアに打ち込もうとするのを僕と大地が必死で止めていた。
初めてきていきなり出禁はさすがにいやだ。
そんな事をしたサファリパークの末路の方が恐ろしい。
「んじゃ、ラーメン食うまで何してたらいいんだよ!」
キャンプに来たら夜食のラーメンを食べないと茉莉は気が済まないらしい。
比呂は誠司郎と花火で遊んでいる。
それをパオラと誠司が見守っていた。
雪は相変わらず瞳子が見ている前で花火の絵を描いている。
「雪は花火しないのか?」
天音が聞いていた。
「みんなしてるから見てるだけでいいよ」
パッと見普通の女の子だ。
それでもラーメンを食べるまでは起きているらしい。
まだ1歳なのにこうも食欲があるのか?
片桐家の人間はこの時期からもうそういう風になっていくんだね。
あらゆる生命の主と言わんばかりの能力を発現した雪。
それを見ていた僕達も脅威を感じていた。
この子は絶対に育て方を間違えたらいけない。
ほんの些細なミスすら許されない。
瞳子にはむごい話だけどそのくらい危険な子だ。
だから「自分の子供くらい自分で見なさい」と突き放していた片桐君も手を貸しているのだろう。
今のところは何もない。
そう思っていた。
しかしあの子もこの世界の摂理に逆らえないらしい。
誰であろうと当たり前の様に恋をして、異性を愛してそして結ばれる。
誠司郎に対する雪の感情はそれだと片桐君は見抜いていた。
片桐君ですら危うく見逃すところだった。
僕達ですら気づくことを片桐君が見逃しかけた。
雪が心をなかなか開かないのもあるけどこの世界の常識にとらわれすぎた。
雪の反応が本来の子供なんだ。
その先どうなるかなんてわからない。
それでもあれだけの能力を持つ雪だからこそ自分で道を探さないといけない。
人に流されてはいけない。
どんな時でも自分の意思で自分の力を行使しないといけない。
それが雪が生まれた時から雪に課せられた宿命。
神様と言うのはなかなか残酷な試練を子供に課す。
でも、大丈夫だと片桐君は言う。
「どうしてだ?」
渡辺君が聞いていた。
「あの子が一番僕に似ているんだ」
片桐君がそう言って笑った。
片桐君の圧倒的なまでの能力の反面、愛莉さんと言う恋人を手に入れて劣等感に苛まされていた。
それでも大丈夫だと愛莉さんが支えていた。
だからあの子にもそんな相手が現れる。
「それが俺の孫って事か?」
まずい、多田君達が起きて来た。
もう僕達にくつろぐ時間を与えるつもりがないようだ。
「そう言うなよ善幸。俺だってこう見えて孫の成長を楽しみにしているんだ」
残念だけど誠司郎では雪の相手にならない。
多田君が言うと片桐君がそれを否定した。
「雪の今の気持ちは瞳子や愛莉でも分からないかもしれない」
「……まさか、本気で誠司郎を選ぶっていうのか?」
さすがにそれは無いだろう。
それは片桐君も最初はそう思ったらしい。
「……昔さ。桐谷君達に言ったこと覚えてる?」
「どのことだ?」
「好きの反対って何だと思う?って話」
「ああ、確か無関心だったな」
「誠の言う通り。だから僕も雪はそうだと思っていた」
まあ、あれだけ拒絶してたらそうなるよね。
でも片桐君が言うにはそうじゃないらしい。
「まさか誠司郎の事を好きになったとでも?」
「いくら何でもそれは無い気がするんだけど……気になる点がある」
愛莉さんから聞いたらしい。
雪の事を女性陣が相談していた話を雪が聞いていた。
雪に聞かれたことがまずいんじゃない。
どうしてあの場所に雪がいた?
「女の子だから手伝おうとしたとか?」
1歳でそれはいんじゃないのかい?石原君。
片桐君も同じ考えの様だった。
「それならもっと前に声をかけるだろ?」
「……冬夜は何が言いたいんだ?」
多田君が質問していた。
「……雪はひょっとしたら、誠司郎の事は無関心じゃないんじゃないのかという事」
「……そうなの」
突然背後から聞こえた雪の声に驚いて振り返る片桐君。
「ごめんなさい。この時間なら大丈夫だからって愛莉さんから聞いたから」
どうやら愛莉さん達にも聞かれたくない話らしい。
本当は片桐君だけに話したいのかもしれない。
瞳子が雪を連れて来ていた。
「そういう話なら僕達は少し席をはずそうか?」
「大丈夫です」
「……いいよ。そこにかけなさい」
そう言って片桐君は石原君に紅茶を二つ用意してもらうと、それをパオラさんと茉菜に渡す。
「で、話って何?」
「私は今何を考えているのですか?」
不安そうに聞いていた。
そんな事を不安そうに聞いてくるという事は。
だけど片桐君は首を振った。
「そう言う話ならたとえ僕が知っていたとしても教えられない」
雪だってそんな気持ちを人にべらべら教えられたくないだろ?
「そうですよね……」
雪は落ち込んでいる。
「どうしてそう思ったの?」
片桐君が聞くと雪は少し考えてから答えた。
単純な事だった。
楽しそうに他の子供たちと遊んでいる誠司郎。
そんな輪の中に入りたいと思うけど、仲間外れにされるのが怖くて飛び込めない。
自分が他の人たちと比べて異常な能力を持っている事は自覚している。
そんな自分が気持ち悪いと思われないか?
恐ろしいと思われないか?
そう考えると怖くて仲間に入れてと言い出せない。
まあ、普通はそう思うよね。
で、瞳子たちに相談しようとしてあの場にいてしまった。
私は誠司郎の事が好きなの?
でも私なんかが好きになっても相手にしてくれるわけがない。
そう思うとあまり眠れなかったらしい。
1歳の子にしてはヘビー過ぎる悩みじゃないのかい?
僕達は話を静かに聞いていた片桐君を見ていた。
「……そうだな。まず最初にはっきりさせておくことがあると思うよ」
「それは何ですか?」
「雪は誠司郎の事をどう思ってるの?」
僕達が楽観的に見れば雪は誠司郎が好きなのだろう。
でもそれは僕達の意見を雪に押し付ける事になる。
1歳の子にそんなむごいことをしたくない。
だからまずはっきりさせる事。
それは雪は誠司郎をどう思っているのか?
それを聞かないと僕達はアドバイスしようがない。
すると雪が自信なさそうに言った。
「お友達になりたい。だけど私みたいなのを相手にしてくれるとは思えなくて……」
「なるほどね」
それが恋だよ。
そんな事片桐君が言うわけがなかった。
もっとわかりやすい説明をしていた。
「捨て猫や虐待されたペットは人に対して物凄い警戒感を示すんだ」
自分の孫をペットに例えるのかい君は?
「そういう時どうすると思う?」
片桐君が聞くと雪は首を振っていた。
それを見た片桐君がにこりと笑って言う。
「最初からいきなり距離を詰めても警戒されちゃうだろ?」
だから最初は少し離れた場所からペットを見るんだ。
時間がかかるかもしれないけど焦っちゃいけない。
二人にはまだ時間がたっぷりあるんだから。
そしてまず雪に敵意はないと分からせていけばいい。
その時期が来たら少しずつ距離を詰めていくんだ。
雪にはまだたくさん分からない事がある。
雪が怖いのはそれを今の歳で分かっている事。
だから未知の物に対して恐怖を覚える。
「それでもいいんだよ」
片桐君が言う。
その時に雪の気持ちが変わってなければ誠司郎から動くよ。
気持ちが変わっていたらもうしょうがない。
だから初恋は普通は難しい物なんだろ?
まあ、片桐君の言う通りだね。
まずは雪の気持ちが大事。
しかし1歳の子供には荷が重いんじゃないのかい?
「おはよう、瞳子」
愛莉さん達が起きて来た。
「冬夜さんどうですか?」
「そうだね、まだ分からない」
まだ1歳だ。
そこまで強い意志があるのかもわからない。
茉奈と結が不思議なくらいなんだ。
いや、茉莉や朔達だって同じだ。
そして雪もどうやら例外ではないらしい。
「まずは自分の気持ち……分かりました。やってみます」
「そっか、お爺さんも応援してるよ。頑張って」
そんな辛い思いをどうして選ぶのか不思議だった。
ただの好きとかいう感情でもなければ憧れでもない。
ただ胸が締め付けられる思い。
誠司郎に振り向いてほしいという願い。
この世界の神様も随分悪戯がお好きなようだ。
「そうね」
愛莉さんはそう言って孫娘の頭を撫でる。
「じゃあ、もう一つだけヒントをあげる」
片桐君が言いだした。
「雪はまだ1歳。恋愛なんてまだ早すぎるんだ。だから雪が思い悩むのが本来は正常なんだ」
それは僕にも分かった。
だけどまだ何かあるのかい?
すると片桐君は信じられない事を言っていた。
「雪は自分にとりえが無いと諦めてないかい?」
雪にとりえが無かったら他の誰が取り柄があるんだい。
この世界で結と張り合える存在だよ?
「うん……」
「大丈夫、雪も冬夜さんや冬吾の子だからもっと自信を持ちなさい」
「片桐家ってだけで最強のチートなんだぞ」
「それは違うよ誠」
「なんでだよ?」
多田君が言うと片桐君は言った。
「片桐家だから。そのイメージが雪を苦しめてるんだ」
片桐家の娘。
その重圧を思いっきり受けて雪は悩んでいる。
確かにそんな重圧を1歳の子に与えていいものじゃないよね。
皇室に産まれてきた子供のような重圧だ。
「んじゃ、お爺さんの話はおしまい。頑張ってね」
片桐君はそう言って雪の頭を撫でる。
その雪の瞳にはある種の覚悟が秘められていた。
テントに戻って行く雪。
「冬夜的には勝算あるのか?」
「どういうわけか分からないけどこういう関係になると女性は強いんだ」
あの子も愛莉さんの孫娘。
そう簡単に挫けるわけがない。
泣きそうになった時に瞳子が支えてやればいい。
「何度も言うけど片桐家の子供は一途なんだ」
「それを私の前で言わないでくれ、結構ショックなんだ」
神奈さんはそう言って笑っていた。
裏を返すと片桐君は神奈さんにはそういう気持ちが無かったって事だからね。
「皆が心配することじゃないよ」
最後の季節は2人の季節。
結末は決まっている。
温かく見守ろう。
そう、最後の物語は既に始まっていた。
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