姉妹チート

和希

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deredevill

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(1)

 僕達は今日小学校を卒業する。
 最後の登校日。
 優奈達も綺麗な服を着ていた。
 
「へえ、海翔もかっこいいよ」
「ありがとう」
「それにしても不思議だな」

 智也が僕を見て言った。

「あんなにいつも何か食べてるのにその体形を維持できるんだ?」

 なんでだろう?
 結莉も茉莉も同じようなもんだ。
 最近は「受験生は夜食に鍋焼きうどんとか食うんだろ?私達にもよこせ!」とゲームしながら言ってる。
 この2人が徹夜で勉強する必要性は全くない。
 僕と同じやらなくても理解する。
 ただ、水奈から「済まないけど優奈と一緒に勉強してやってくれないか」と頼まれてるからどうやったら優奈が理解できるかコツをつかむために授業を聞いている。
 肝心の優奈は爆睡してたけど。
 悠翔も同じらしい。
 悠翔の場合は愛菜を勉強に集中させるところから苦労するらしい。
 勉強するには全く必要のないF・SEASONのハードな曲を聞いている。
 そのF・SEASONの冬莉の母親でもある愛莉は頭を抱えているらしい。

「冬莉の曲を聞いて育つ子供がどうなるかわからないのですか?」
「そんな事言っても冬華も気に入ってるんだよ?」
「その冬華がどうなってるのか冬莉が一番知ってるでしょ!」
「大丈夫だよ。彼氏でも出来たら変わるって」
「そんなわけありません!」
「なんで?」
「冬莉がそうだったでしょ!」
「失礼な!私だって結婚したら家の中を裸はないよ!」
「隠したって無駄です。志希から話を聞いてます」

 嫁とはいえやはり年頃の女性が下着姿でうろうろしてるのは目のやり場に困るらしい。
 しかもそれを真似して冬華も同じようになった。
 そんな嫁の問題を自分の親には相談できないから愛莉に相談してるらしい。

「茜だって同じじゃん。きっと片桐家の娘の特徴だよ」
「……じゃあ、莉子はどう説明するの?」
「ずっと彼氏と一緒だったから意識してたとか……」

 上手い具合に言い訳したかのように見えたが肝心な事を忘れていた。

「……じゃあ、私はどうなんだ?」

 天音がそう言うと冬莉も上手い言い訳が出来ずに笑っていた。

「でもさ、友達の家に入ったらまず服を脱ぐって女性もいるんだよ」

 最近冬莉の友達に女性声優がいるらしい。

「そんな事を真似してはいけません」

 愛莉は子供達が皆自立して一息つけるかと思ったら、天音と冬莉と茜の孫の監視が大変らしい。
 同じくらい大変なのが優奈の父親の学だと聞いているけど。
 愛菜は不思議に思ったらしい。
 愛菜が悠翔と勉強してるかと思ったら水奈がそれを真面目に聞いている。
 しかも悠翔に質問していたそうだ。
 それを聞いた学は頭を抱える毎日を過ごしている。
 だけど学の弟の遊の娘の琴音はそんな事無いらしい。
 ただ遊にべったりと甘えているそうだ。

「パパ。明日休みなんでしょ?私が朝まで相手してやる」
「琴音はまだ子供だからだめだよ」
「じゃあ、成長したら相手するわけ?」

 なずなに聞かれて困りだす遊。
 そんな遊を見てなずなは笑って言うんだそうだ。

「そんなに父親にべったりしている期間は無いから今のうちに楽しんでおきなさい」

 琴音が本当に遊の相手をすることはないだろう。
 その頃には琴音の相手は快だろうから。

「それはそれで寂しいな」

 そんな話をしてたら瑛大が余計な事を言う。

「大丈夫だ、まだ希望がある!恋がそうだっただろう!」
「何が希望だこの変態!遊は絶対にお前の様にさせないからな!」

 そう言って瑛大と亜依が喧嘩するまでが日常なんだそうだ。
 今日おめかししているのは児童だけじゃなかった。
 教師もいつもと違ってびしっとスーツ姿でいる。
 卒業式の練習は何度もしてきた。
 中には貧血で倒れる子もいた。
 すると優奈と愛菜も具合が悪いと嘘を吐く。

「無駄だよ。多分絶対やるから見張っておいてくれって学から聞いてるの」

 そう言って真面目に練習しろと怒られていた。
 卒業式が始まって、卒業証書授与がはじまると順番に呼ばれている。
 しかし優奈と愛菜は寝ていて気づかない。
 全く世話の焼ける彼女だ。
 肩を叩いて起こしてやる。
 しかしちゃんと練習していなかったからやり方を忘れていた。
 そして優奈はこういう場所だと緊張するらしい。
 歩くときに手と足が同時に出ていて笑われていた。
 念の為そいつらをチェックする。
 案の定黒いリストバンドをしていた。
 卒業式が終わって最後のHRが終わる。
 校門前に皆集まって下級生から花の形をした紙を胸につけてもらう。

「先生、今までありがとう……」
「おめでとう。今までよく頑張ったね。中学に行っても頑張ってね」

 中山先生が言うと優奈と愛菜と琴音は泣き出した。
 女子ってこういう時泣いてしまうって聞いたことがある。
 天音も泣いていたって大地がばらして天音に怒られていた。
 だからそれが普通なんだって優奈を見守っていた。
 しかしそんな空気をぶち壊すのがFG。
 泣いてる3人を見て笑っていた。
 優奈と愛菜が怒り出して殴り掛かろうとするのを僕と智也で抑えていた。

「なんだよかかってこないのか?こんな時だけいい子ぶってんじゃねーよ!」
「離せ海翔!この馬鹿はここに埋めてやらない時が済まない!」
「だめだよ。折角の優奈の綺麗な思い出が汚れてしまう」
「でも……」
「何のために僕がいるの?」
「海翔?」

 不思議そうに僕を見る優奈を抑えながら馬鹿を睨みつける。

「お、やる気になったのか?彼女の前だからってかっこつけてると痛い目見るぞ」

 本気で言ってるのが馬鹿の証拠なんだろうけど無視して伝える事だけ伝えた。

「あのさ、君たちあまりいい気にならない方がいいよ?」
「なんだと?」

 にいにが言ってた。
 今FGは調子に乗っているから片っ端からゴミ箱に放り込んでやる。
 実際に菫達やにいに達がFG狩りを開始した。
 それは空が許可したと言っている。
 そんなに殺されたいなら、僕達だってさっさと殺処分したいから喜んで協力してやる。
 その黒いリストバンドを見た時から俺達の標的だ。
 だけど今日は卒業式。
 皆がずっと通い続けた小学校から巣立つ時。
 だからチャンスをやる。
 僕の気が変わらないうちにさっさと消え失せろ。
 さもなければ一瞬でお前達をバラバラにしてやる。
 言う通りにすれば多分中学校に入学は出来るだろう。
 だけどそのあとの事は保証しない。
 学校にいる間中茉莉と菫は授業時間など構わずに仕掛けてくる。
 お前らFGの間ではそのくらい情報すら共有できてないのか?
 そう言うと馬鹿達は帰って行った。
 少しでも長生きしたいらしい。
 だけどそれはほんのひと時の間だけ。
 SHに対してふざけた真似をした清算はしっかりしてもらう。

「海翔……ありがとう」
「彼氏ってそういう役割なんでしょ」
「私達は彼氏に恵まれたな」
 
 そう言って優奈と愛菜は笑っていた。

(2)

「しかし、こう言ったらなんだけど海翔のどこに大地の要素があるんだ?」

 水奈が私に聞いていた。

「射撃のセンスと幼稚園の頃からCQC会得してたところじゃないか?」
「それって天音でも私でもそうだっただろ?」
「それもそうだな」

 多分、大地の血とかじゃなくて恵美さんの教育の賜物だろう。
 彼女くらい守る。
 海翔が慕っている結がそうだったからそれが当たり前だと思っているんだろう。

「でも、江木も立派な息子になったじゃねーか」

 水奈が晃也に言っていた。

「知代がしっかり育てていたから」

 自分の彼女くらい自分で守り抜け。
 それができない奴に彼女を作る権利はない。
 智也に愛菜という彼女が出来たと聞いた時から知代がそう教えたらしい。
 野生の世界では当たり前の事だ。
 
「しかし、悠翔はそういうのないわけ?」

 なずなが聞いていた。

「ああ……その件で私も学に怒られてな」

 前に学と話し合っていたらしい。

「優奈と愛菜と茉奈には恋人が出来た。なのに悠翔には出来ない。水奈はどうしてだと思う?」
「わかんね。親目線でみると悠翔はいい男だと思うんだけど。学は理由が分かるのか?」
「……俺にも分からなかったから前にキャンプの時に聞いたんだ。そしたらなんて答えたと思う?」
「わかんね。なんて答えたんだ?」

 すると学は一言静かに言ったらしい。

「妹の世話や家事が忙しいからそういう事に興味を持つ時間が無い」

 さすがに水奈も反省したらしい。

「悠翔は小さい時の俺にそっくりなんだ。兄妹の面倒見たり勉強で手一杯でそういう色気には関係ないと思ってた」

 水奈が告白した時には戸惑ったらしい。
 2人でいる時間なんて全くないかもしれないけどそれでもいいならって交際を始めた。
 結構水奈の事を考えてたりして苦労したらしい。
 茉奈には結がいたからよかった。
 だけど、そんな苦労を悠翔にはさせたくないと学は考えた。
 別に学の時と違って水奈は主婦だ。
 普通なら遊びたい盛りの悠翔にもっと時間を与えてやりたい。
 これから中学になったら受験勉強だってある。
 だけど部活動で青春するという手もある。
 そんな選択肢を悠翔に与えてやりたいと学は言ったそうだ。
 水奈でも高校に行けたんだからそんなの考えなくても大丈夫だろ?
 それで水奈もやれる事から始めた。

「母さん、俺がやるよ」

 そう言って心配している悠翔。
 子供にそんな思いをさせてしまっていたと気付いた水奈がそこで諦めるわけがない。

「最近作ってなかったから自信ないけど大丈夫だから」

 適当にテレビを見るとかしてろと言ったらしい。

「そっか。じゃあ、悠翔の相手見つけてやらないといけないね」

 なずながそう言っていた。

「それは多分しない方が良い」

 水奈が答えた。
 水奈も学と相談したらしい。
 しなくてもいいと言っても家事を手伝う悠翔。
 そんな生真面目な悠翔に無理やり彼女を用意しても、きっと彼女に構ってやれる時間を作れなくて自然消滅するのがおちだ。
 だから自分でそういう子を探した方が良い。
 水奈の言う通り悠翔は良い奴だ。
 ただそういう恋人の扱い方を知らない。
 悠翔の年齢で知り尽くしているなんてふざけた馬鹿は私がぶん殴るけど。

「で、肝心の悠翔は何かやりたい事とかないのか?」

 私が悠翔に聞いてみた。

「興味がある事ならある」
「なんだそれ?」
「ギター」

 悠翔が答えた。

「それなら今度ギター買ってやろうか?」
「いいの?」
「家の中ではエレキはダメだ。それを守れるならいいよ」
「って事はアコギと両方くれるの?」
「ああ、連休にでも買いに行こうか?」

 悠翔は喜んでいた。
 するとなずなが言った。

「まあ、バンドでもやりだしたら彼女も出来るかもね。それはいいんだけど、私からも一ついいかな?」
「どうしたんだ?」

 私がなずなに聞いたらなずなが言った。

「さっき海翔が言ってたこと本当なの?」

 ああ、馬鹿の殺処分の話か。

「なずな達はパパ達に馬鹿が喧嘩売ったの知らないのか?」
「年越しパーティの話?あの時花や祈と話してたから」
「よりにもよってSHに喧嘩を売るといいながら母さんを恫喝したんだ」

 大地が言う通りだった。
 SHになら空や私に言えばいい。
 それを寄りにもよって恵美さんに喧嘩を売った。
 パパに喧嘩を持ち掛けた。
 
「いいわよ。そんなに殺したいなら一年もいらないわ。一か月で皆殺しにしてやる」
「久々に間抜けが釣れたみたいね。思う存分遊んでやるわよ」

 恵美さんと晶さんがそう言ってやる気になっているのをパパが止めた。

「子供からおもちゃを取り上げたらいけない。僕達は子供達の後始末だけしてやろう」

 パパがそう言うと空に「このくらいお前達で始末しなさい」と言っていた。
 パパはどうも空には厳しいらしい。
 もちろん純也への支援もしっかりしていた。
 その結果「黒いリストバンドをつけた馬鹿を見つけたら躊躇わずに叩きのめせ」と私が言いそうなことを空が皆に命じた。
 空の許可が出たなら私達が遠慮する必要はない。
 結莉達にも言って聞かせてある。
 そうしてFG狩りが始まっていた。

「大丈夫なの?背後には暴力団いるんでしょ?」
「空は私の兄だぞ。そのくらいわきまえてるよ」

 純也が4課の同僚に交渉した。
 茜はすでに遠坂の爺さんをやった相手に武器を売った奴を特定していた。
 そいつの情報を4課に流す代わりにその取引相手のリストに上がってるやつに何があっても目をつぶれ。
 無茶な取引が成立すると空に連絡する。
 そこからは大地と善明達の仕事だ。
 一人ずつ始末していく。
 だけど相手も馬鹿じゃない。
 反撃に出ようとする。
 そして空はそれを待っていた。
 そいつを押さえつけると芋づる式に引きずり出していった。
 そしてついに誠心会の地元の本拠に爆弾をお返しにプレゼントしてやった。
 その不祥事は県知事の晴斗さんと警察の力でもみ消す。
 対立組織との抗争という形で報道されていた。

「じゃあ、もう片付いたわけ?」
「いや、空は言ってた」

 ゴキブリ一匹見つけたら無数にいると思った方が良い。
 だからまだFG狩りが続く。
 結が小学生になるまで容赦なく時間が迫っている。
 リベリオンとFGを同時に相手するなんて面倒な事をしたくない。
 さっさとケリをつける。
 空がそう決断した。
 ここらへんで、FGも負けを認めればよかったのに馬鹿はさらに私達を怒らせる真似をする。

(3)

「おめでとう、遠坂警視」
「渡瀬本部長こそお疲れさまでした」
「おめでとう、純也」

 SHと渡辺班がパーティを開いてくれた。
 渡瀬本部長は今年度で退職することになった。
 そして自分の後任に現・南署の署長を推薦した。
 警察はある程度まで出世すると椅子に空きが出来るまで上に上がれない。
 俺も異例の早さで出世していた。
 渡瀬本部長の口添えもあったから割と早く出世で来た。
 そして遠坂の爺さんの願いを叶える時が来た。

「部下が自由に動けるようにすべての責任を背負える上司になりなさい」

 決して「責任を取るのは俺だ」と部下の捜査の足を引っ張る真似をする警官になるな。
 事件は現場で起きている。
 だから現場の判断を尊重してやればいい。
 面倒な手続き等を引き受けるのが上司の仕事。
 渡瀬本部長は南署の署長に本部長の座を譲る替わりに俺を南署の署長にするように推してくれた。
 南署の署長からもそれなりの信頼もあったけどそれだけじゃない。
 後任を決める前に空達がやってくれた。
 誠心会の地元支部を壊滅させてしまった。
 その手柄を俺に譲ってくれた。

「そんなもの、僕達がやったって発覚して檻の中に入るのはごめんだ」

 空はそう言って笑っていた。

「政治にサツに4大企業。私達にもう敵はいないな」

 美嘉さんはそう言って盛り上がっていた。

「渡瀬本部長、今までお世話になりました」
「世話になったのは俺の方です」

 渡辺班が解決した事件はどれも地元県警レベルでどうにかなるものじゃない。

「俺もやっと肩の荷が降りました。あとは遠坂君が上手くやってくれるはず。遠坂先輩も天国で見守ってくれてるはずです」
「そうですね……」

 愛莉が少し寂しそうにしていた。

「パパさんの仇を子供たちが見事に打ってくれた。パパさんも喜んでくれてるでしょう」
「愛莉ちゃん、今日はそういう湿っぽい話は無し。盛り上がりましょう」
「そうだよ、愛莉。あんたの子供はみんな立派なんだから胸張りなよ」

 恵美さんと亜依さんが言っている。

「この勢いでFGとかふざけた連中も掃除してくれるさ。なあ空」

 渡辺さんが言うけど、空は難しそうだった。
 それは冬夜も一緒だったみたいだ。

「何か問題あるのか?」
「ここ、日本ですよ?」

 空が言うと周りの人間が空の話を聞いていた。

「日本だと何か問題があるのか?」
「ええ、問題だらけです」

 空が渡辺さん達に説明する。
 空爆、解体工事、隕石落下。
 広大な土地のある海外なら可能だった。
 だけどここは狭い日本。
 いくら狙いを絞ったところで無関係の隣人の迷惑になる。

「んなもん構う事ねーだろ!日本中を絨毯爆撃してやればいい!」
「天音も少し考えなさい。日本の国防だってそこまで無能じゃない」

 日本の上空を爆撃機が爆弾まき散らしながら飛んでいたらスクランブルだ。
 地元の県政だけなら晴斗さんが何とかする。
 でもそれは出来ればしたくない。
 清廉潔白を謳い文句にしていた晴斗さんの切り札を失う。
 それに日本政府を相手にするのはさすがに効率が悪い。
 相手は世界を舞台に展開しているコングロマリット。
 上手いように介入して日本政府が敵に回るような事になったら面倒だ。
 俺だって今の立場にいられなくなる。
 人類の敵と開き直って暴れ回る4兄弟がいたけど俺達はそうはいかない。
 梨々香や純達がいるように皆にも家族がいる。

「それともう一つ。まだDOLLを引きずり出せていない」

 父さんがそう言った。
 なにがしかの能力者の集団DOLL。
 今までは結が相手していたから相手にならなかったけど、他の人間には脅威だ。

「雪と結が二人始末したから残りは5人」

 だけど能力が分からないうちは危険なのは変わりない。
 ここからが本番だ。
 リベリオンが控えてるからもたもたしてられない。

「で、空は何か手を考えてるの?」

 父さんが空に聞くと空はうなずいた。
 世界中に散らばっているコングロマリットを一つ一つ潰していたんじゃらちがあかない。
 だから薔薇乙女の本部を突き止める。
 その前にまずはDOLLを片付ける。
 奴らはきっとDOLLが切り札なんだろう。
 だからその切り札を潰す。
 もちろん茜達がしっかりと情報を集めている最中。
 多分その薔薇乙女とアルテミスは何かしら関係をもっているはず。
 その辺の情報を俺に渡して証拠を固めて摘発する。
 薔薇乙女だろうがDOLLだろうが反社会勢力には違いない。
 警察が踏み込むには十分だろう。
 空がそう説明していた。

「……しかしそれだと一つ問題があるんだけど?」
「どうしたの?」
「DOLLを始末すると言っていたけどどうやって?」

 5人しかいないとはいえ能力者だ。
 厄介な相手には変わりないよ?
 すると愛莉が父さんに言っていた。

「冬夜さんに話す機会が無くて黙ってたのですが」

 そう言って愛莉が結を見る。
 結は俺達の話を伺っていたようだ。
 
「どういう事?」

 父さんが聞くと俺は父さんにメモを見せた。
 ひらがなで名前を書いてあった。
 さすがに感じはまだ難しいらしい。

「これを……結が?」

 父さんでも驚いていたらしい。
 そりゃそうだ。
 茜ですら手こずっていた情報を14歳の子供が手に入れたんだ。
 電脳世界の住人
 そう名付けたらいいのだろうか。
 結はネットワークが繋がっているところへならどこへでも移動できるスキルがある。
 そのスキルを流用したらしい。
 ネットの中にある情報をセキュリティを破壊して盗み出す。
 結は前にDOLLの人間のスマホを奪っていた。
 結でもDOLLは7人と分かっていたそうだ。
 そして7人の情報を捕まえた。
 DOLLの間での面識はないらしい。
 すべてスマホでのやり取りだった。
 それが彼らの最大のミス。
 ミスというけどしょうがない気もする。
 まともに考えてハッキングもせずに情報を盗まれるなんて誰も分からない。
 だから結がその気になればいつでもDOLLを潰せる。
 しかしそこに制約があった。
 まだ14歳。
 そんなに一人で遠出を許すことは出来ない。
 瞳子もそういう風に注意していた。
 だからのこのこ現れた間抜けを始末するしかない。
 結の能力の中に”破裂の人形”というのがある。
 文字通り人形を破裂させる気でいるらしい。

「お前の家の子供はどうなってんだ?冬夜」

 誠さんが驚いていた。
 父さんはそれを聞きながら結を呼んでいた。

「どうしたの?」
「結は立派な能力を持ってるし、それをちゃんと制御できてる。だから自分一人で鉄砲玉になるつもりはないんだろ?」
「うん」
「それはそれで間違ってない。瞳子や冬吾だって結の親だ。結が一人で出かけたら心配する」
「分かってる」
「問題は別にある。結は自分にどんな制約をかけた?」
「え?」

 瞳子が驚いていた。
 神奈さんも驚いている。
 父さんは言う。
 これだけ滅茶苦茶な能力を使いこなすんだ。
 父さんは結に力を強化するために何か制限をかけた方がいいとアドバイスした。
 しかしどんな制約かは結から聞いてない。
 あまりにもでたらめな能力だから心配したんだろう。
 だけど結は言った。

「それは言ったらだめなんじゃないの?」
「……それが分かってるならいい」

 食事中ごめんねと父さんが言うと結は戻っていった。

「冬夜さん大丈夫なんですか?」

 瞳子が不安そうにしている。
 だけど父さんは笑う。

「あの子は使い方を間違えていない。今の返事もしっかりしていた」

 致命的な弱点になりかねないそれを簡単に誰が聞いているか分からない場所で言うべきじゃない。

「それを確かめるためにわざわざ聞いたんですか?」

 愛莉が聞いていた。

「まあね」

 ってこの会話おかしくないか?

「ひょっとしてトーヤは気づいてる?」
「さあね」
「誤魔化すな。ちゃんと話せ!孫の事だぞ」

 神奈さんが言うと父さんは笑った。

「だから言わないんじゃないか。孫の弱点教えるほど馬鹿じゃないよ」
「ヒントくらい教えてくれないか?」

 渡辺さんが言うけど父さんは拒んでいた。

「言ったろ。それが結の致命的な弱点になるんだ。手掛かりになるような事は絶対に言わない」
「愛莉も知ってるのか?」

 神奈さんが愛莉に聞いていた。

「冬夜さんの言った通り黙秘する。ごめん」
 
 て、事は愛莉も知ってるんだろうな。
 一体結はどんな代償を払ってあの力を使っているんだろうか?
 結がいるから大丈夫。
 そんな油断を誰もが持っていたのかもしれない。
 その油断が大きなミスを冒す事をまだ誰も知らないでいた。
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