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(1)
「亜咲。誰か来たみたいだから出てくれない?」
浴室からよく聞こえたな。
「樹理が出たらいいだろ?」
「私今お風呂だから!」
「バスタオル一枚で出たら父さん喜ぶぞ」
「父さんはそういうタイプじゃない!それに父さん達以外だったらどうするの?」
文句ばかり言ってると晩飯抜きだというので仕方なく出た。
すると驚いた。
なぜか社長と専務と里紗と……あと誰だ?
専務が最初に口を開いた。
「よ、悪いな。ちょっと込み入った話がある。悪いけどお邪魔してもいいかな」
「いいけど今樹理が風呂に入ってて……」
「そのくらい待つよ。ちょっと頼みたい事あってさ」
専務がそういうのでとりあえずリビングに通した。
残念ながら樹理は裸で部屋をうろうろするような奴じゃない。
だから樹理の裸を知っているのは多分悠翔だけだろ。
聞こうとしたら拒否された。
「亜咲には絶対に言うな!って言われてな……すまん」
兄貴の将弥も彼女以外に興味が無いらしい。
結構いい線言ってると思うんだけどな。
そうこうしているうちに将弥と樹理がやってきた。
樹理が早速専務たちの話を聞くことにした。
「最初にまず頼みたい事がある。こいつしばらく泊めてやってくれないか?」
そう言うと里紗が頭を下げる。
「何かあったんですか?」
「そうだな……まず里紗の隣の男を紹介するよ」
大塚洋介。
里紗が所属するバンドのメンバー。
てか、里紗俺たち以外のバンドと掛け持ちしてたのか?
凄いな。
まさか里紗の男とかいうのか?
俺は二股かけられていたのか?
俺が大塚とかいう奴を見ていると、そいつはにやりと笑った。
「お前が亜咲だっけ?里紗とは亜咲が思ってる関係じゃないよ」
「元カレだもんね」
里紗はこういう時は必ず揶揄ってくる。
現に大塚に注意されている。
その後専務に聞いていた。
「個人的に亜咲と話したい事があるから外出ててもいいですか?」
「ああ、あまり遅くなるなよ。どういう状況か分かってるだろ?」
社長がそう言うと「ちょっと付き合えよ」と大塚は俺を外に連れ出した。
いい加減寒いからジャンパーを着て外に出る。
「ホットでいいか?」
「ブラックで頼む。悪いな」
大塚に缶コーヒーを渡すと話を聞くことにした。
「俺と里紗はサイクロックスってバンドをやってるんだ。聞いたことないか?」
「ないな。そんなに有名なのか」
「まあ、インディーズから抜け出せずにいるけどな」
「お前は聞いたこと無いから分からないけど、里紗のギターなら問題ないだろ?」
それとも他のパートがそんなにへぼいのか?
「過去に事件を起こしてしまってな。お前が小学生くらいの頃の話だ」
ってことは里紗もそうだよな?
「どんな事件なんだ?」
「亜咲は全く心当たりがないのか?」
かなりやばい事件だったらしい。
ライブイベントで対バンというのがある。
決められた時間通りに入れ替わりでステージに立つ。
そしてその時に将弥達はまだ楽器の練習に必死だったから俺だけ他のバンドに助っ人で参加していた。
そのライブイベントの時に事件が起きた。
対立していたサイクロックスのメンバーがヤジを飛ばすと俺がキレて乱闘になった。
マイクスタンドを振り回して暴れていたら不運にもそいつの目に直撃した。
結果男は片目を失った。
まあ、サイクロックスって名乗ってるんだからちょうどいいんじゃないのか?
で、当時俺は小学生だから責任は無い。
成人していたリーダーが責任を負うところをリーダーはとんずらした。
その後その男が荒れて別の事件を起こして捕まる。
残った大塚と里紗や他のメンバーで立て直しを図る。
そして、里紗は俺達の演奏を見た。
しかし里紗はサイクロックスのメンバーでもある。
だから掛け持ちしていた。
ここからが問題だ。
「その元・リーダーが釈放された」
だから里紗が俺達と組んでいることを知られたら里紗が危険だ。
それで家にかくまって欲しい。
「お前じゃだめなのか?」
「里紗は亜咲の彼女なんだろ?」
だったらお前の側に置いておいた方がいいだろと大塚は言う。
「でも、お前の話だと俺に恨みがあるんだろ?俺の側で大丈夫なのか?」
「普通ならそう思うだろ?だからお前の家なんだよ」
「なるほどな……」
そういうことならしょうがねーな。
「しかし亜咲は全く覚えてないのか?人一人失明させてるんだぞ?」
「んな事件小学生の時なら山ほどあったよ」
FGだのリベリオンだの暴れてたからな。
SHに所属する人間なら日常茶飯事だ。
俺達の世代のリーダーの石原海翔は校舎を破壊しようとしてたんだぞ。
それを聞いたら多少は驚くかと思ったけど、そういう経験を大塚もしているらしい。
だから俺に忠告していた。
「覚えておいてくれ。そいつの名前は御堂士度。能力者だ」
能力者。
だとすると俺でも手に負えないか。
それで社長や専務が乗り出した。
「なんで専務や社長が知ってるのにお前らデビューできなかったんだ?」
「理由は二つ」
里紗はまだ教育をちゃんと受けるべき年だ。
最低でも高校は卒業させる。
それは俺達にも言われた条件だった。
そしてもう一つは過去の事件がある以上マスコミに嗅ぎつけられると面倒だからと専務たちでも庇えないほどの事をしでかしたらしい。
つまり俺の手で未来という光までも潰された。
それが俺を恨む理由。
そしてそこまで光にこだわった男の能力。
「じゃ、俺帰るから」
「……話聞いてた限りだとお前もやばそうだし気をつけろよ?」
「なるべく近づかないようにする。里紗はお前に預けるよ」
そう言って大塚は帰って行った。
俺も家に帰ると専務たちは帰っていた。
2人とも部屋に戻っている。
多分、里紗は樹理の部屋で過ごすんだろう。
そう思っていたけど自分の部屋に戻るとなぜか俺の物ではない荷物が置いてあった。
そして決定的なのはギターケースが置いてあったこと。
まさか樹理の奴……。
樹理に文句を言おうとすると風呂から上がってきた里紗がいた。
「あれ?今から覗きに行こうと思った?」
そう言って里紗はにこりと笑う。
その里紗の手を取って樹理の部屋に行くとノックをする。
さすがにそれだけは守っている。
樹理を怒らせたら俺は食事が出来なくなってしまう。
樹理がドアを開けて言った。
「どうしたの?」
「なんで里紗が俺の部屋なんだよ!」
「あのさ。私だって悠翔がいるの!」
自分の部屋にいる時くらい悠翔とゆっくり話がしたい。
俺の彼女なんだからちょうどいいでしょ。
「ああ、専務と社長から伝言」
「なんだよ?」
「彼女が自分の部屋で寝るのに何もないなんてふざけた事言ったらデビューする前に殺してやる……だって」
専務らしいな。
「……で、社長は?」
「気を付けてくれ。高校生で妊娠なんて状況になったら私達のバンドもデビューさせることが難しくなる」
あれで夫婦なんだからすごいよね。
樹理はそう言って笑っていた。
(2)
「おっはよ~。ゆーい君」
茉奈の囁きが俺に聞こえる。
またノルンの仕業か。
俺が目覚めると茉奈が隣で見ていた。
「どう?彼女に起こされる朝は?」
俺はどう答えたらいいんだろう?
「ほら、朝ご飯私が作ったんだ。早く支度して食べよう?」
茉奈はそう言って部屋を出る。
俺も着替えてダイニングに行く。
うちはパン食だけど茉奈の家はご飯食らしい。
香ばしい鮭の切り身の匂いとかがしていた。
当然それだけで足りる片桐家じゃない。
納豆や卵を使ってさらにかきこんでいた。
「で、彼女に起こされる朝ってどうだ?結」
比呂が聞いてきた。
「比呂だってカミラに頼めばいいだろう?」
「比呂はすぐに悪戯するから止めてるの」
朝から何をしでかしたんだ?
「で、今日のデートのプランは決めてるの?」
「まさか朝からプランを立てないといけないとは思わなかったよ」
「あ、今日は家に泊っていってよ」
「なんで?」
「いつも結の家だと……カミラとかカミルとかも気にするでしょ」
今日は優翔くらいしかいないから。
「優翔は気にしないのか?」
「優翔も樹里と一緒だから」
まあ、たまにはいいか。
「じゃあ、準備してくる」
そういってお泊りの準備をする。
そんなに荷物はいらないか。
着替えとスマホの充電器と髭剃りと……
準備してリビングに行くと茉奈に声をかける。
「先に荷物置いておきたいから茉奈の家に行こう」
「そうだね」
すると父さんが言った。
「まだ孫はいらないよ」
ぽかっ
「まだその癖抜けてないんですか?」
母さんに小突かれていた。
水奈に挨拶をして茉奈の部屋に案内してもらう。
やっぱり普通に整理されているんだな。
「結のプランだと夕方までのんびりしているの?」
とてもじゃないけどただのんびりしている自信がない。
茉奈自身も言っていたけど茉奈はとても女性らしい体つきをしている。
俺でも理性を保っている自信はなかった。
「映画でも見て時間つぶそうか」
「分かった」
そう言って駅までバスで移動する。
ちょうどいい映画をやってあった。
ちょっとしたコメディ映画。
クリスマスにはちょうどいいだろう。
映画を観ると昼食にしてカラオケで時間を潰す。
4時間ずっと歌いっぱなしってわけじゃない。
料理をつまんだり、話をしたりしていた。
密室だとやっぱり茉奈を押し倒しくなるけど我慢をしていた。
「こんなところで他人に見られたらどうするの!?」
そうやって怒られるのを恐れていたから。
クリスマスイブに喧嘩したくない。
だけど茉奈は違うようだ。
「もっと迫ってきてくれると期待してたんだけどなぁ」
私じゃやっぱり物足りない?
「夜の楽しみにしてるだけだよ」
「今夜は期待していいんだね?」
茉奈もとっておきの下着を用意しているらしい。
それで疑問に思った。
準備していてもシャワー浴びたら着替えるんじゃないか?
茉奈はくすっと笑って答えた。
「だから準備してるの。今穿いてるなんて言ってないよ」
見たい?
見たくないと言えばうそになるけど遠慮しておいた。
カラオケを出て夕食を食べ終わるとイルミが点灯している。
それをスマホに収めながら見て回る茉奈。
「あっ」
茉奈も気づいたみたいだ。
粉雪が舞っている。
思った以上に冷える。
適当に切り上げて茉奈の家に戻る。
「結、先にお風呂入っていいよ」
「いや、茉奈が先に入れよ」
「どうして?」
私のいない間に下着物色するの?
それなら別に俺が先でも関係ないだろ。
「そうじゃなくてさ、女子って髪乾かしたり大変なんだろ?」
髪を洗わない女子もいるらしいけど。
その間に俺が風呂を済ませるからさ。
「うん、分かった」
変なところを見ないでねと言って茉奈は着替えを持って風呂に行く。
その間にテレビを見てじっと待っていた。
じっとしていないといろいろ気になる物があるから。
茉奈が戻ってくると「いいよ~」というので風呂を借りる。
俺も下着くらい用意しとけばよかったのかな?
風呂を済ませると案の定茉奈はまだ髪を乾かしていた。
「長いと時間かかるんだよね」
「気にするな、時間はいくらでもあるんだ」
「……うん」
茉奈が髪を乾かし終えると隣に座ってテレビを見る。
肩と肩が触れ合い、お互いの顔を見ると溜まっていたものが爆発する。
無意識のうちに茉奈を押し倒していた。
「痛い!」
「ご、ごめん」
「ベッド行こう?もういいでしょ?」
我慢をしていたのは茉奈も一緒だったみたいだ。
「灯り消してもいい?」
「今さらだよ?」
「どういう意味?」
きっと今さら恥ずかしがるなと思ったのだろう。
そうじゃないと茉奈に言った。
「暗い中でも茉奈の体くらいもうイメージ出来てる」
ぽかっ
「そんなイメージしなくてもいい!」
見たいときに見せてあげるから。
薄明りの中で茉奈との行為に没頭する。
優翔がいるからと声を押し殺している茉奈。
茉奈を手伝ってやろうと口をキスで塞いでいた。
行為が終わると茉奈は俺に抱き着く。
女性特有の行動らしい。
茉奈に付き合ってやる。
「結も地元大学に行くんだよね?」
「ああ、茉奈もだろ?」
「うん、あのさ……」
「来年になったら学に挨拶に行くよ」
同棲したいんだろ?
「うん、ありがとう。それとさ……」
まだ何かあるんだろうか?
「結は何枚用意してる?」
え?
「足りないなら私もいくつか持ってるから」
もっと相手して欲しい。
そんな茉奈の願いをかなえてやることにした。
「亜咲。誰か来たみたいだから出てくれない?」
浴室からよく聞こえたな。
「樹理が出たらいいだろ?」
「私今お風呂だから!」
「バスタオル一枚で出たら父さん喜ぶぞ」
「父さんはそういうタイプじゃない!それに父さん達以外だったらどうするの?」
文句ばかり言ってると晩飯抜きだというので仕方なく出た。
すると驚いた。
なぜか社長と専務と里紗と……あと誰だ?
専務が最初に口を開いた。
「よ、悪いな。ちょっと込み入った話がある。悪いけどお邪魔してもいいかな」
「いいけど今樹理が風呂に入ってて……」
「そのくらい待つよ。ちょっと頼みたい事あってさ」
専務がそういうのでとりあえずリビングに通した。
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だから樹理の裸を知っているのは多分悠翔だけだろ。
聞こうとしたら拒否された。
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兄貴の将弥も彼女以外に興味が無いらしい。
結構いい線言ってると思うんだけどな。
そうこうしているうちに将弥と樹理がやってきた。
樹理が早速専務たちの話を聞くことにした。
「最初にまず頼みたい事がある。こいつしばらく泊めてやってくれないか?」
そう言うと里紗が頭を下げる。
「何かあったんですか?」
「そうだな……まず里紗の隣の男を紹介するよ」
大塚洋介。
里紗が所属するバンドのメンバー。
てか、里紗俺たち以外のバンドと掛け持ちしてたのか?
凄いな。
まさか里紗の男とかいうのか?
俺は二股かけられていたのか?
俺が大塚とかいう奴を見ていると、そいつはにやりと笑った。
「お前が亜咲だっけ?里紗とは亜咲が思ってる関係じゃないよ」
「元カレだもんね」
里紗はこういう時は必ず揶揄ってくる。
現に大塚に注意されている。
その後専務に聞いていた。
「個人的に亜咲と話したい事があるから外出ててもいいですか?」
「ああ、あまり遅くなるなよ。どういう状況か分かってるだろ?」
社長がそう言うと「ちょっと付き合えよ」と大塚は俺を外に連れ出した。
いい加減寒いからジャンパーを着て外に出る。
「ホットでいいか?」
「ブラックで頼む。悪いな」
大塚に缶コーヒーを渡すと話を聞くことにした。
「俺と里紗はサイクロックスってバンドをやってるんだ。聞いたことないか?」
「ないな。そんなに有名なのか」
「まあ、インディーズから抜け出せずにいるけどな」
「お前は聞いたこと無いから分からないけど、里紗のギターなら問題ないだろ?」
それとも他のパートがそんなにへぼいのか?
「過去に事件を起こしてしまってな。お前が小学生くらいの頃の話だ」
ってことは里紗もそうだよな?
「どんな事件なんだ?」
「亜咲は全く心当たりがないのか?」
かなりやばい事件だったらしい。
ライブイベントで対バンというのがある。
決められた時間通りに入れ替わりでステージに立つ。
そしてその時に将弥達はまだ楽器の練習に必死だったから俺だけ他のバンドに助っ人で参加していた。
そのライブイベントの時に事件が起きた。
対立していたサイクロックスのメンバーがヤジを飛ばすと俺がキレて乱闘になった。
マイクスタンドを振り回して暴れていたら不運にもそいつの目に直撃した。
結果男は片目を失った。
まあ、サイクロックスって名乗ってるんだからちょうどいいんじゃないのか?
で、当時俺は小学生だから責任は無い。
成人していたリーダーが責任を負うところをリーダーはとんずらした。
その後その男が荒れて別の事件を起こして捕まる。
残った大塚と里紗や他のメンバーで立て直しを図る。
そして、里紗は俺達の演奏を見た。
しかし里紗はサイクロックスのメンバーでもある。
だから掛け持ちしていた。
ここからが問題だ。
「その元・リーダーが釈放された」
だから里紗が俺達と組んでいることを知られたら里紗が危険だ。
それで家にかくまって欲しい。
「お前じゃだめなのか?」
「里紗は亜咲の彼女なんだろ?」
だったらお前の側に置いておいた方がいいだろと大塚は言う。
「でも、お前の話だと俺に恨みがあるんだろ?俺の側で大丈夫なのか?」
「普通ならそう思うだろ?だからお前の家なんだよ」
「なるほどな……」
そういうことならしょうがねーな。
「しかし亜咲は全く覚えてないのか?人一人失明させてるんだぞ?」
「んな事件小学生の時なら山ほどあったよ」
FGだのリベリオンだの暴れてたからな。
SHに所属する人間なら日常茶飯事だ。
俺達の世代のリーダーの石原海翔は校舎を破壊しようとしてたんだぞ。
それを聞いたら多少は驚くかと思ったけど、そういう経験を大塚もしているらしい。
だから俺に忠告していた。
「覚えておいてくれ。そいつの名前は御堂士度。能力者だ」
能力者。
だとすると俺でも手に負えないか。
それで社長や専務が乗り出した。
「なんで専務や社長が知ってるのにお前らデビューできなかったんだ?」
「理由は二つ」
里紗はまだ教育をちゃんと受けるべき年だ。
最低でも高校は卒業させる。
それは俺達にも言われた条件だった。
そしてもう一つは過去の事件がある以上マスコミに嗅ぎつけられると面倒だからと専務たちでも庇えないほどの事をしでかしたらしい。
つまり俺の手で未来という光までも潰された。
それが俺を恨む理由。
そしてそこまで光にこだわった男の能力。
「じゃ、俺帰るから」
「……話聞いてた限りだとお前もやばそうだし気をつけろよ?」
「なるべく近づかないようにする。里紗はお前に預けるよ」
そう言って大塚は帰って行った。
俺も家に帰ると専務たちは帰っていた。
2人とも部屋に戻っている。
多分、里紗は樹理の部屋で過ごすんだろう。
そう思っていたけど自分の部屋に戻るとなぜか俺の物ではない荷物が置いてあった。
そして決定的なのはギターケースが置いてあったこと。
まさか樹理の奴……。
樹理に文句を言おうとすると風呂から上がってきた里紗がいた。
「あれ?今から覗きに行こうと思った?」
そう言って里紗はにこりと笑う。
その里紗の手を取って樹理の部屋に行くとノックをする。
さすがにそれだけは守っている。
樹理を怒らせたら俺は食事が出来なくなってしまう。
樹理がドアを開けて言った。
「どうしたの?」
「なんで里紗が俺の部屋なんだよ!」
「あのさ。私だって悠翔がいるの!」
自分の部屋にいる時くらい悠翔とゆっくり話がしたい。
俺の彼女なんだからちょうどいいでしょ。
「ああ、専務と社長から伝言」
「なんだよ?」
「彼女が自分の部屋で寝るのに何もないなんてふざけた事言ったらデビューする前に殺してやる……だって」
専務らしいな。
「……で、社長は?」
「気を付けてくれ。高校生で妊娠なんて状況になったら私達のバンドもデビューさせることが難しくなる」
あれで夫婦なんだからすごいよね。
樹理はそう言って笑っていた。
(2)
「おっはよ~。ゆーい君」
茉奈の囁きが俺に聞こえる。
またノルンの仕業か。
俺が目覚めると茉奈が隣で見ていた。
「どう?彼女に起こされる朝は?」
俺はどう答えたらいいんだろう?
「ほら、朝ご飯私が作ったんだ。早く支度して食べよう?」
茉奈はそう言って部屋を出る。
俺も着替えてダイニングに行く。
うちはパン食だけど茉奈の家はご飯食らしい。
香ばしい鮭の切り身の匂いとかがしていた。
当然それだけで足りる片桐家じゃない。
納豆や卵を使ってさらにかきこんでいた。
「で、彼女に起こされる朝ってどうだ?結」
比呂が聞いてきた。
「比呂だってカミラに頼めばいいだろう?」
「比呂はすぐに悪戯するから止めてるの」
朝から何をしでかしたんだ?
「で、今日のデートのプランは決めてるの?」
「まさか朝からプランを立てないといけないとは思わなかったよ」
「あ、今日は家に泊っていってよ」
「なんで?」
「いつも結の家だと……カミラとかカミルとかも気にするでしょ」
今日は優翔くらいしかいないから。
「優翔は気にしないのか?」
「優翔も樹里と一緒だから」
まあ、たまにはいいか。
「じゃあ、準備してくる」
そういってお泊りの準備をする。
そんなに荷物はいらないか。
着替えとスマホの充電器と髭剃りと……
準備してリビングに行くと茉奈に声をかける。
「先に荷物置いておきたいから茉奈の家に行こう」
「そうだね」
すると父さんが言った。
「まだ孫はいらないよ」
ぽかっ
「まだその癖抜けてないんですか?」
母さんに小突かれていた。
水奈に挨拶をして茉奈の部屋に案内してもらう。
やっぱり普通に整理されているんだな。
「結のプランだと夕方までのんびりしているの?」
とてもじゃないけどただのんびりしている自信がない。
茉奈自身も言っていたけど茉奈はとても女性らしい体つきをしている。
俺でも理性を保っている自信はなかった。
「映画でも見て時間つぶそうか」
「分かった」
そう言って駅までバスで移動する。
ちょうどいい映画をやってあった。
ちょっとしたコメディ映画。
クリスマスにはちょうどいいだろう。
映画を観ると昼食にしてカラオケで時間を潰す。
4時間ずっと歌いっぱなしってわけじゃない。
料理をつまんだり、話をしたりしていた。
密室だとやっぱり茉奈を押し倒しくなるけど我慢をしていた。
「こんなところで他人に見られたらどうするの!?」
そうやって怒られるのを恐れていたから。
クリスマスイブに喧嘩したくない。
だけど茉奈は違うようだ。
「もっと迫ってきてくれると期待してたんだけどなぁ」
私じゃやっぱり物足りない?
「夜の楽しみにしてるだけだよ」
「今夜は期待していいんだね?」
茉奈もとっておきの下着を用意しているらしい。
それで疑問に思った。
準備していてもシャワー浴びたら着替えるんじゃないか?
茉奈はくすっと笑って答えた。
「だから準備してるの。今穿いてるなんて言ってないよ」
見たい?
見たくないと言えばうそになるけど遠慮しておいた。
カラオケを出て夕食を食べ終わるとイルミが点灯している。
それをスマホに収めながら見て回る茉奈。
「あっ」
茉奈も気づいたみたいだ。
粉雪が舞っている。
思った以上に冷える。
適当に切り上げて茉奈の家に戻る。
「結、先にお風呂入っていいよ」
「いや、茉奈が先に入れよ」
「どうして?」
私のいない間に下着物色するの?
それなら別に俺が先でも関係ないだろ。
「そうじゃなくてさ、女子って髪乾かしたり大変なんだろ?」
髪を洗わない女子もいるらしいけど。
その間に俺が風呂を済ませるからさ。
「うん、分かった」
変なところを見ないでねと言って茉奈は着替えを持って風呂に行く。
その間にテレビを見てじっと待っていた。
じっとしていないといろいろ気になる物があるから。
茉奈が戻ってくると「いいよ~」というので風呂を借りる。
俺も下着くらい用意しとけばよかったのかな?
風呂を済ませると案の定茉奈はまだ髪を乾かしていた。
「長いと時間かかるんだよね」
「気にするな、時間はいくらでもあるんだ」
「……うん」
茉奈が髪を乾かし終えると隣に座ってテレビを見る。
肩と肩が触れ合い、お互いの顔を見ると溜まっていたものが爆発する。
無意識のうちに茉奈を押し倒していた。
「痛い!」
「ご、ごめん」
「ベッド行こう?もういいでしょ?」
我慢をしていたのは茉奈も一緒だったみたいだ。
「灯り消してもいい?」
「今さらだよ?」
「どういう意味?」
きっと今さら恥ずかしがるなと思ったのだろう。
そうじゃないと茉奈に言った。
「暗い中でも茉奈の体くらいもうイメージ出来てる」
ぽかっ
「そんなイメージしなくてもいい!」
見たいときに見せてあげるから。
薄明りの中で茉奈との行為に没頭する。
優翔がいるからと声を押し殺している茉奈。
茉奈を手伝ってやろうと口をキスで塞いでいた。
行為が終わると茉奈は俺に抱き着く。
女性特有の行動らしい。
茉奈に付き合ってやる。
「結も地元大学に行くんだよね?」
「ああ、茉奈もだろ?」
「うん、あのさ……」
「来年になったら学に挨拶に行くよ」
同棲したいんだろ?
「うん、ありがとう。それとさ……」
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