姉妹チート

和希

文字の大きさ
534 / 535

浸食

しおりを挟む
(1)

「もしもし、結?」
「あ、冬吾。時間が無いから用件だけ言う」

 俺は冬吾に電話していた。
 雪が誘拐されたから。
 俺は捜査から外された。
 直に捜査チームが実家に来るだろう。
 だからその前に伝えておきたい。

「心配しないでもいい、警察の言うとおりに従って」
「なんで大丈夫ってわかるんだ?」
「雪を誘拐したのは雪だから」

 じいじの言ってた踏み絵だ。
 奴らはZEROの正体を雪だと疑い始めた。
 だから雪に雪を誘拐させた。

「どうやって?」
「説明してる時間がない。雪は安全だから心配しないで欲しい」
「で、伝えたい事って」
「絶対にSHは動かないように空に伝えて欲しい」

 ここでSHとのつながりを疑われたら計画が台無しだ。
 絶対にSHは動かないでくれと頼んだ。

「それだと天音達は納得しないよ」
「……ラストは天音達に譲ると伝えてくれ」
「分かった」

 本当に大丈夫なんだろうね?
 
「それは心配ない」
「犯人の要求は何なのか知ってるの?」
「俺の命」
「大丈夫なのか?何かあったら茉奈が……」
「分かってる」

 こう見えて茉奈のウェディングドレス姿楽しみにしてるんだ。

「彼女の花嫁姿は感動するよ」
「だろうな」
「今警察来たみたいだから切るね」

 そう言って電話が切れた。
 その後茜にも電話してSHが動かないように重ねてお願いする。

「おっけぇ~」

 その後俺は指定された廃工場に向かった。

(2)

 川沿いにあるセメント工場跡地が指定した場所。
 大勢のリベリオンの兵隊と道化師がいた。
 7の苦悩の連中は来ていない。
 雪が「一人で十分だ」と言ったから。
 雪は無表情で俺を見ていた。
 雪の隣で雪のこめかみに銃を当てているのはもう一人の雪。
 雪の既存概念の上書きは脳に直接働きかける。
 リベリオンの人間には雪が二人いると誤認しているのだろう。
 リベリオンの連中も動揺しているようだ。
 俺は淡々と言った。

「ちゃんと来てやったんだからさっさと雪を解放しろ」

 道化師はしばらく考えていたようだけど判断したようだ。

「まあそう慌てるな。選択肢を与えてやる」

 なんとなく予想はついたけど聞いてみた。
 予想通りだった。
 俺の命と雪の命どっちを取る?
 そんな内容だ。
 ばかばかしい。
 鼻で笑ってやった。

「お前にそれが出来ると思っているのか?」
「あまり舐めた事言ってるとこの女殺すぞ」

 そう言うともう一人の雪が撃鉄を起こす。

「その前に一つだけ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「俺のエイリアスを邪魔しているのはお前か?」
「ああ、そうだ」

 ”汚染”という能力。
 エイリアスの中枢を汚染して行動を封じる能力。
 対俺の為に重宝されていた。
 重宝されていたならこんな場所にわざわざ来るな。
 これで一つまたクリアできそうだ。
 こいつが自爆したことにすればいい。

「分かった。どうもありがとう」
「じゃあ、お前が死ぬんだな?」
「死ぬのはお前だ。馬鹿」
「なんだと?」
「道化師だったか?エイリアスを封じる役割のお前がここに来たという意味を理解しているのか?」

 道化師と書いてジョーカーと読ませたかったのだろうけどただのピエロだ。

「じゃあ、女に死んでもらおうか」
「お前には出来ない」
「……ゼロ。やれ!」
 
 そう言うとゼロは躊躇うことなく引き金を引く。
 乾いた銃声が鳴り響く。
 だけど雪は無事だった。
 慌てる道化師。

「中学校では習わないんだけどこういう説がある。三次元空間に時間軸という概念がないという説だ」

 分かりやすく言うと時間を止めたとかではなく時間という概念を無視した理論。
 時間がないならどんな方法をもってしても傷一つ入れる事が出来ない。
 もちろん俺がそうしたんじゃない。
 エイリアスの能力だ。

「ば、馬鹿な。エイリアスは俺が……」
「だから馬鹿だと言ったんだ。俺の事を何一つ理解していない」

 俺の能力ステイシス・ルーラーの領域では俺以外の人間が能力を使う事は一切許されない。
 そんな中にのこのこ飛び込んだお前の能力を封じたらエイリアスは自由に動ける。
 理解したか?
 お前が罠に嵌めたと思ったのはただの勘違い。
 お前が俺の罠にはまったんだ。
 そう言うと俺はスマホを取り出してゲームを始めた。

「後は好きにしろ」

 すると姿を消していたバルバトスとレクスが現れる、

「ぜ、ゼロ!加勢をしてくれ」
「無理。結がいる以上私は能力を使えない。あなたの作戦は失敗したと報告しておくね」

 そう言ってもう一人の雪は消え去った。

「こうなったら結だけでも!」
「無理だな」

 俺のそばにはすでにバルバトスが構えている。
 上手く雪の背後に回って雪の後頭部に銃を突きつけた馬鹿も次の瞬間腕が消え去っていた。
 レクスだってちゃんと稼働している。
 あとはエイリアスが敵を一方的に痛めつけるのを待っていた。
 残った兵士が逃げようとするけどエデンがしっかり消失させる。
 片付いたころ合いを見計らって雪に声をかける。
 
「これでまた一歩攻略したね」
「もう一歩のはずだ」
「うん」
「……済まないな。誠司郎と約束の話は聞いたよ」
「うそっ!内緒だって言ったのに……」

 慌てる従妹を見て笑って言った。

「従兄として一つだけ忠告していいか?」
「どうしたの?」
「初体験で彼女の下着を気にする余裕のある奴なんてそういない」

 気合を入れても肩透かしをくらうだけだぞ。

「どうして男子ってそうなの?」
「簡単だよ」

 女性の裸自身に興味がいってしまうから。

「そっか……」
 
 少しだけ不満を感じている従妹に昔の茉奈を重ねていた。

(3)
 
 結に送ってもらって家に帰ると誠司郎達も来ていた。

「ただいま」
「おかえり」
「雪、こんな時間まで連絡もなしに遊んでいたらママだって心配するよ」

 パパがそんなことを言ってた。

「ごめんなさい」
「女の子なんだからあまり心配かけないでね」

 ママはそう言って頭を撫でてくれた。

「で、誠司郎も心配してくれたの?」
「当たり前だろ」

 本気で心配してくれたらしい。

「ちょっと部屋で話してもいいかな?」
「話だけでいいの?」

 愛莉がそう言って笑う。
 私は誠司郎を部屋に案内した。

「やっぱり怖かったか?」
「そりゃこめかみに銃口向けられていたからね」

 自分の分身とはいえ本当に大丈夫だろうかは心配だった。

「まだ……続くのか?」
「次で最後だろうと結が言ってた」

 封じられていたエイリアスの活動も復活した。
 相手も次で結を仕留めないとまずいと思っているだろう。
 今回の作戦が失敗した理由だって考えたらやっぱり私の正体にたどり着くだろう。
 その時が最後のミッション。
 もう段取りも出来てる。

「楽しみだね」
「どういう意味で?」
「それは私が聞きたいよ」
「なんで?」

 私は結が言ってたことを誠司郎に伝えた。
 誠司郎は笑ってごまかしていた。

「そんなに私の裸見たいなら見ればいいのに」
 
 見るだけなら今でもいいよ?

「それは厳密には違うんだ」
「どういう事?」

 すると誠司郎は説明した。
 まず裸というか秘部が気になる。
 動画でもぼかしの入ってる部分。
 どんな風になっているのかが気になる。
 男子の様にはっきり形が分かるわけじゃないから。
 で、それを見ると次のステップに進みたくなる。
 触ってみたい。
 どんな味がするんだろう?
 そうなるともう次のステップに進むだろ?
 分かるんだけど自分の彼女に何を力説してるんだろう?

 ぽかっ

「説明しろって言ったの雪だろ!」
「だからって力説しなくていいじゃない」

 少しは下着も見て欲しい。
 服と一緒だ。
 誠司郎の為にととっておきを用意しているんだ。

「それなら今でもいいか?」
「だめ」
「今日は違うのか?」

 誘拐されるのに気合の入った下着を穿くわけがない。
 それに……

「そろそろ帰りなさい」
 
 ママが来ていた。

「あ、じゃあ。また明日」

 そう言って帰ろうとする誠司郎にキスをしていた。

「お、親の前でするのか?」
「親の前でくらいどうってことないって誠司郎が言ってたでしょ」

 帰った後ママに叱られた。

「絶対に冬吾さんの前でしたらいけませんよ」

 また飲む口実を作るから。
 パパとじいじはただ笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

処理中です...