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2ndSEASON
君がいる夏
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夏休み。
高校生初めての夏休み。
だけど何も変わらなかあった。
夏期講習を受けるわけでもなく、どこかに遊びに行くわけでもない。
淡々と夏休みの宿題を終わらせていく。
去年と違うことといえば、カンナがいない。
カンナはここぞとばかりに、バイトのシフトを入れたらしい。
たまに来る程度で殆どバイトに時間を費やしてる。
宿題大丈夫なのか……?
「私の話を聞けえ!!」
何かどっかで聞いたようなセリフを愛莉が叫んでた。
「どうした?愛莉」
「どうしたもこうしたも話しかけても上の空だしさ……」
そう言ってむくれる愛莉。
「ごめん、ちょっと考え事を……」
「どうせ、神奈の事でも考えてたんでしょ!」
「なんでそれを……あ!」
なんでこの手の誘導尋問に弱いんだろう
「やっぱりそうだったんだね!」
「いや、僕もバイトした方が良かったかな?って」
「なんで?」
「いや、何も高1の夏から勉強ばかりしなくても有意義な時間を過ごせるんじゃないか?って」
「私と一緒にいるのに有意義じゃないの?」
へ?
「私は毎日有意義に過ごせてるよ。冬夜君とデートできてるし」
デートって勉強することか?
ていうか、カンナの存在忘れてないか?
「……要は僕と居れればいいわけね」
「うん!」
愛莉は満面の笑みで答える。
「なるほどねえ」
「それだけじゃ冬夜君は不満みたいだね」
「まあね。不満てわけじゃないけど」
好きな人と二人っきりで過ごす時間の大切さはわかっているつもりだ。
でもさ、どこかに遊びに行きたいとかこう毎日部屋に閉じこもってるのも不健康じゃないか?って思うわけで。
「そんなあなたの為にとっておきの情報があります」
僕の心を読み取ってるのか?
「確認したらさ、明日も明後日も神奈来れないみたいなんだよね。たまには私の家で勉強しない?」
勉強は変わらないのね……。
「愛莉の家でする理由は?」
「たまにはいいでしょ?……私の家の方が気が楽でしょ?」
「どっちでも変わらないよ」
「冬夜君の家はいつ親は行ってくるかわかんないしなんか緊張するんだよね~」
女子の家に行ってそういうことしてて緊張しない男子がいると思うのか?
「まあ、愛莉の好きな方でいいよ」
「じゃ、決まりね!あ、夜は泊りだから、麻耶さんに言っとかないと……」
「僕から言っとくからいいよ」
なんか勝手に泊まることになってるけど、今更驚かない。
本当に今更だよなあ。
その晩愛莉を送った後に両親に伝える。
「仲が良いのはいいけど、ほどほどにして。勉強も疎かにしたらだめよ」
わかってるよ。
(2)
次の日の朝、愛莉の家に行く。
勉強を始める。
いつもなんだけど愛莉は勉強してる時は本当に真面目にしてる。
スイッチのオンオフがうまく使い分けれてるんだよなあ。
愛莉の成績が優秀なのは単に才能だけじゃなくてそういう普段の生活の成果なのかもしれない。
一緒に同じように勉強してる僕の成績が良いのがそれを証明している。
まあ、ずっと黙って勉強してるわけでもなく、普通におしゃべりもしてるけど。
愛莉ママは妙なところに気が利く。
お昼になると愛莉のスマホが鳴る。
愛莉が出ると「ごはんよ~」と知らせが。
いくらなんでも朝からはないだろ愛莉ママ。
お昼を食べると眠くなる。
愛莉が頬をつねって起こす。
とはいえやはり眠気に耐えられず寝てしまう。
起きたとき僕の頭は愛莉の膝の上にあった。
「ご、ごめん」
「いいよ。じゃ、勉強しよっ!」
その後夕飯の時間まで勉強して、夕飯をご馳走になって。お風呂に入って愛莉の部屋にもどる。
愛莉はまだ勉強していた。
「ただいま」
「あ、お帰り~。じゃあ、私も入ってこようかな……あっ!」
「どうした?」
「一緒に入ればよかった」
なんてことを言い出すんだ。
「なーんてね。半分冗談だから気にしなくていいよ」
半分は本気なのかよ。
愛莉が風呂に入ってる間に自分の勉強を進める。
愛莉も戻ってきて勉強を再開する。
愛莉の勉強スイッチが切れたのはちょうど23時。
「はい、今日はお終い!」
そういって僕の隣にきてぴったりくっつく。
「冬夜君もお終いだよ~」
「も、もうちょっとだけ」
「は~い」
そう言って僕の手元をじっと見てる。
「愛莉」
「な~に?」
「じっとみてたら気が散って集中できない」
「じゃ、やめちゃお?」
「もう5分だけ」
「ダラダラ続けてたって意味ないよ?」
「これだけ済ませてしまいたいんだよ」
「つまんないの~」
そう言って本棚から小説を取り出し読み始める。
やっと終わった。
「終わったよ愛莉」
机に突っ伏して寝てる。
珍しいな。
どうするかな?
ベッドから布団をとってかけてやる。
「ん……あれ?」
目を開け上体を起こす愛莉。
「私寝てた?」
「うん」
不安そうな表情を浮かべる。
「どのくらい寝てた?」
「多分1,2分じゃないかな」
「撮ったりしてないよね?寝顔」
「可愛く撮れたよ」
「ダメ!すぐ消して!!」
慌てて僕のスマホを取ろうとする愛莉。
ちょっと意地悪が過ぎたかな。
「嘘だよ。まあ脳裏には焼き付けたけどね」
「それも消して!」
僕の胸をぽかぽか叩く愛莉。
小動物のように可愛い。
テレビを見ようと思ってたけど……。
「今日はもう寝ようか?」
愛莉は無言でうなずいた。
(3)
7月末。
夏休みもちょうど半分を迎えた頃。
今日は愛莉が来ない。
珍しいな、風邪でもひいたか?
見舞いに行こうかな?
とか考えていた。
昼ごはんを食べていると母さんから言われた。
「今日はお泊りだから用意しときなさい」
ん?また実家で急用か?
「実家行くの?」
「違うわよ。遠坂さん達と火の海祭り行くのよ」
「ふ~ん」
また勝手に決めて。
もう突っ込む気にもなれなかった。
……あれ?
「祭りに行くのに泊まりの準備?」
「そうよ?父さんたち飲む気だから、有給までとっちゃって」
母さんたちも飲むんだろ?
じゃなきゃ母さんが運転して帰れば済むだけの話だしね。
「早めに出るからそのつもりで準備しときなさい」
「は~い」
そう言って部屋に戻る。
泊まりの準備を始める。
準備を終えたあとベッドでくつろぐ。
まあ、ゲームしたリ漫画読んだり寝たり。
え?勉強は?
愛莉が居ない日くらい休んだって……
「冬夜君起きて」
学校行く時間かな?
また耳たぶ噛まれるのは嫌だから起きた。
あれ?今日はハグはないのか?
そう思って目を覚ますと、制服姿ではない浴衣姿の愛莉がいた。
あ、そうか。祭り行くんだっけ?
「浴衣似合ってるよ」
取りあえず褒めておけ
誠が言ってたっけ?
愛莉は微笑む。
「ありがとう。じゃ、行こ」
少しどころじゃない大分早いけど僕たちは祭り会場近くのホテルに向かった。
部屋割は予想通りだった。
もう今更突っ込む気にもならない。
こういう親達なんだと割り切った。
そういう親ならこういうことしてもいいよね?
「愛莉」
部屋に入り窓の景色を眺める愛莉に後ろから抱き着く。
「あ、だめ……。浴衣がしわくちゃになっちゃう」
あ、そうだった。
「ごめん」
「祭りから帰ったら着替えるからその時にまたしてね♪」
余計な事をしたのかもしれない。
日も暮れると人混みが出来る。
当然飲食店も混みだす。
そうなることを予想して早めに焼き肉屋さんに到着していた。
肉肉肉ご飯肉肉偶に野菜。
とにかく、目一杯食べる。
両親’sはすでにお酒が入っている。
浴衣を着てる愛莉に肉を焼いたりさせるわけにはいかない。
ていうか焼き肉屋を選んだのがまずかったか?
ごめん、愛莉。
せめてもの償いだ。
「愛莉あまり食べれないよな?」
「うん?食べてるよ?」
不思議そうな顔をする愛莉。
食べにくいだろ。
美味しく焼け上がってる、カルビを取りたれをつけて愛莉の口元に運ぶ。
「ほれ、あーん……」
「え、ちょっと親が見てるよ!!」
酔ってるから覚えてないよ。
愛莉は少し恥ずかしそうにしながらもぱくっと食べる。
「ありがとう。珍しいね、冬夜君からこんなことしてくれるの」
喜んでるみたいだ。
「いや、浴衣だから食べるの大変だろうと思って」
「あ、そういうことね。大丈夫だよ。……でも、折角だから甘えちゃおうかな~」
そこに愛莉ママが入ってくる。
「ごめんなさいね。うちの娘もまだまだ甘えたがり屋さんで」
「いえいえ、いつも愛莉ちゃんに甘えてるのはうちの冬夜で……」
と、僕の母さん。
にこにこしてる愛莉。
「冬夜はまだお子様だからなぁ。あ、一人前になったのか!」
「……う、うむ」
「ありがとうございます、うちの息子を男にしてもらえて」
「う、うちの娘こそ……」
訳の分からない話をして盛り上がってる父さん’s
親の発言じゃないぞ父さん。
調子に乗ってアイスクリーム食べたらお腹痛くなった……。
「調子に乗るから……」
と、あきれた様子の愛莉。
トイレを済ませて、もどると親’sがいない。
「愛莉、親は?」
「先に行ったよ~」
「そうか、じゃ行こうか?」
「うん」
こういう時どうしたらいいかちゃんと学んできた。
愛莉の手をつかむ。
「!」
愛莉は驚いた顔でこっちを見るがにっこり笑うと手を払われた。
あれ?違ったか?
「こっちの方が良い~」
て腕を組む愛莉。
まあ”歩くスピードを合わせる”事が重要なのでこれがいいならこれでもいっか。
会場につくとすぐに親を見つけた。
ビールを打ってる出店のそばにあるテーブルに陣取って宴を始めている親’s
「お前たちは前の方に行ってみてこい。ホテルの部屋の鍵は大丈夫だな。ここからは自由行動だ」
「あんまりはしゃぐんでないよ」
「愛莉ちゃん浴衣はちゃんとたたむのよ」
「……うむ」
うん、いつも通りだ。
愛莉を連れて出店を回る。
フランクフルトたこ焼き箸巻き焼きそば……。
ぽかっ!
「さっきお腹壊したばかりでしょ!」
「冷たいもの食べなきゃ大丈夫だって!」
「私かき氷食べたい!」
「あとでまたあーんしてやるから!」
「うぅ……、じゃあ3個までなら……それ以上は絶対ダメだからね!」
あーんって結構愛莉には有効な技だな、覚えておこう。
そして僕はたこ焼き焼きそば焼き鳥をチョイス。
愛莉は綿飴とかき氷を選んだ。
最前列を取ることが出来た。
自分の物を食べる前にまず愛莉の口の中にかき氷を入れてやる。
愛莉は満足気だ。
さて、僕も……。
「あ、冬夜君これもってて」
そう言って自分の買った綿あめを僕に渡す。
「うーん、かき氷一気に食べると頭きーんってくるね!」
「……そんなに急いで食わなくてもいいよ」
人の話を聞いていないのか急いで食べる愛莉。
「はい、ありがとう」
そう言って僕から綿飴を受け取る愛莉。
「……」
「どうしたの?」
「いや、その……」
「?」
綿飴を食べながら不思議そうに僕を見る。
男性ならわかってくれるよね?
その、こういうこと男から聞いて良いのか……?
「食べないの?」
「……平気?」
「え?」
「お手洗い平気?」
「……今日の冬夜君やけに優しいね。今は大丈夫」
良かったみたいだ。
安心して食べ物にありつく。
「浴衣の効果かな?毎日浴衣で勉強しにいこうかな?」
「……たまにだからいいんじゃないか?」
「そうなの?」
「たぶん」
ひゅ~……。ど~ん。
花火が上がりだした。
最後の食べ物、焼きそばを食べてる時。
「お口の周り汚れてるよ……」
そう言ってハンカチで僕の口の周りを拭いてくれた時目が合った。
二人の時間が止まったかのように見えた。
周囲の目が花火に見とれてる中、僕たちは口づけをしていた。
(4)
バイトが終わって帰ろうとしたとき、誠が外で待っていた。
「よぉ!」
よぉ!じゃねーよ!
「何してるんだよ?」
「神奈待ってた」
「待ってるなら待ってるでメッセージくれれば」
「なんとなく驚かせたくてさ」
そういうサプライズはいらないんだよ。
普通にいてくれるだけでいいのに、どうしてこう男共は……。
「今日泊まってくんだろ?何か作るよ晩飯は……」
そう言うと誠は紙袋を見せた。
私の働いてるファーストフード店の物だった。
「疲れてるのにご飯作らせるわけにいかないだろ?あと神奈が仕事してるところみてみたかったしな」
顔が赤くなるのが自分でもわかった。
ご飯を食べた後、お風呂に入ってテレビを見る。
テレビをつけたとき「しまった!」と思った。
ちょうど間の悪いことにインターハイの話題だった。
誠たちは初戦で敗退してしまった。
触れちゃまずいよなと思ったのに……。
「その……残念だったな」
「ああ、まあ相手が福岡の強豪校だったからな。何より相手のFWが凄すぎた!すごいぜ、まるで冬夜がFWになったみたいだった。ああいうのをファンタジスタって呼ぶんだろうな」
誠は悔しがるどころか相手を褒めている。そんなに差があったのか。
「悔しかったら泣いてもいいんだぞ?私で良ければ……」
「いや、逆に清々しい気分なんだ。まあ、冬夜が居てさえくれればとか考えるくらいかな?あそこまでやられると全然くやしくないんだ」
ニュースで見てた。今年の優勝校だ。
そのFWもU-18の代表候補だとか……。
「そう言えば冬夜たちは元気か?」
「あいつらは元気だよ、冬夜と言えばクラスマッチのサッカーでさ……」
冬夜のプレイを私の頭で理解できる言葉で説明した。
「くぼみを使ってパスね。あいつならやるな」
「なんでわかるんだ?」
「昔聞いたことがあるんだ『なんで足元ばっかり見てるんだ?』って。そしたら『足元観てないとボールや地面が分からないだろ?』って。『でも足元ばっかり見てたら周りが分かんないだろ?』って聞いたら『そんなの大体の感覚で分かるよ』ってさ」
「……もう訳の分かんない世界だな」
「多分トッププレイヤーは俺達にはわかんない世界にすんでるんだろうな。悔しいとしたらそこだな。そんな世界にいる冬夜がサッカーをやらない。しかも『めんどくさい』が理由だぜ。お前の才能俺にくれよ!っていいたくなるよ」
「でもそんな奴ばっかりじゃないんだろ?誠だって頑張れば凄い選手になれるよ。頑張ってるじゃん毎日。胸張れよ!」
「俺くらい努力してるやつなんてごまんといるさ。こうして神奈と過ごしてる時間もがんばってるやつだっているんだ」
「……私、邪魔か?」
聞いてはいけない事だったか?
聞くのが怖かった。
つい聞いてしまった。
でも誠は私の予想に反した行動に出る。
咄嗟に私に抱き着く誠。
「その言葉、もう二度と言うな。これでも充実した高校生活送れてるんだ。紛れもなく神奈のお蔭だよ」
「誠……」
ガチャ。
扉の鍵が開錠される音がする。
とっさに、誠が私から離れる。
母さんが帰ってきた。
「うん、今夜は誠君が来てるのかい?」
私は部屋を出て母さんを出迎える。
「おかえり。うん、今日は誠泊まってくって」
「そうかい、仲良くね」
「あ、晩御飯ハンバーガーだけど用意してるから。誠が買ってくれた」
「そうかい、ありがとうって伝えておいてね」
そう言うと母さんは自室に戻り着替えを始めた。
私も自分の部屋に戻る。
「母さん帰ってきた」
「じゃ、今夜は無理だな」
「今更……何とも思ってないよ」
ただ、今はもう少しだけいちゃつかせてくれ。
そう言ってテレビを再び見始めた。
(5)
朝早くから雀が鳴いている。
私は目を覚ますと、起き上がろうとする。
必然的に私に抱き着いてる誠を起こすことになる。
「神奈?」
「あ、悪い。ちょっと朝ごはん仕度するわ」
「手伝うよ」
「いや、ゆっくり休んでいてくれ」
そう言うと私は服を着て台所に向かう。
仕度をしていると母さんが起きてくる。
「おはよう」
「おはよう、もうすぐ出来上がるから、準備してなよ」
私がそう言うと母さんは洗面所に向かった。
母さんは朝食を食べると準備をして早くから仕事に向かった。
9時ごろ誠を起こす。
誠は服を着るとダイニングに出てきた。
一口食べて「美味い!」との感嘆する。
「いつも通り手抜きだよ」
「いや、神奈良い嫁さんになるよ」
「ありがとうと言いたいけど……他人事なんだな」
ちょっと意地悪くいってみた。
「あ、いや。神奈を嫁さんにもらえる人は幸せだなあって……」
「やっぱり他人事じゃん」
「え……?」
誠は気づいていない。
私が望んでいる回答に。
私は微笑んで言った。
「ま、いいや。早く食べなよ。出かけるんだろ?」
私も準備を済ませると、街へ出かけた。
映画を見たり昼食をとったりカラオケに行ったり、買い物をしたり。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので。
気付いたら夕方だった。
私たちは家に帰る。
今夜も泊まるらしい。
食材は冷蔵庫にたくさんある。
「あんまり凝らなくていいからな。て、いうか手伝うよ」
そう言って誠もキッチンに立つ。
正直邪魔だった。
一人で作ってる時のペースが維持できない。
時折悪戯してくる誠に包丁を向けて注意する。
ちょっと張り切り過ぎた。
が、念のため母さんの分を先に取り分けておく。
案の定誠は全部食べつくした。
よく食べるなあ。
食器を片付けてる間に風呂入ってきなと言うと誠は風呂に入った。
その後私が入る。
そして、テレビを見て二人で話をしてた。
「神奈、明日うちにこないか?」
「え?」
「そろそろうちの親にも神奈紹介したい」
そうくるか。
「良いけど……」
「おっし!」
とガッツポーズをする誠。
次の日、私と誠は誠の家に向かった。
初めてだ。
緊張する。
「母さんただいまー、連れてきたよ」
「おかえり、あらいらっしゃい!初めまして」
「はじめまして、音無と言います」
先に挨拶するべきだったか。
「まあ。上がってちょうだい。話もあるから……」
話?
急に不安になる。
結論を言おう。
何も心配することは無かった。
「うちの誠がいつも入り浸っていてごめんなさいね。粗相はしてませんか?」
「高校はどこ?防府?すごいわね。大学には行くの?」
「バイトしてるの!?家の為に!?偉いわねえ」
「家事もこなすとか。もういつでもお嫁さんになれるわね。うちの誠なんてどう?」
親ってみんなこんなものなのか?
たたみかけるように質問してくる誠の母親。
「母さん、神奈がこまってるだろ」
「あ、ああ。ごめんなさいね、誠が彼女を連れてくるなんて初めてだから。どんな娘さんなんだろう?って。そしたら凄い美人さんじゃない」
「誠……初めてなのか?」
私は誠に聞いた。
「ん?初めてだけど?」
意外だった。
「うちの子をよろしくお願いしますね」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
そう言って頭を下げる。
その後昼食をご馳走になって誠の部屋に行く。
……、とりあえず座るスペースを確保するか。
無言で雑誌や漫画を集めて片づける。
「ああ、ごめん。しばらく帰ってなかったから……」
「気にするな。それにしても派手に散らかしてるな」
結局2時間かけて誠の部屋を掃除する。
「あら?誠だらしないから……。片づけまでしてくれてありがとうね。あとはゆっくりどうぞ」
と、いって誠の母さんがジュースを持ってきた。
しかしそんなにゆっくりしてられない。
後1時間もしたら誠は寮に帰らないといけない。
ちょっと離しをしていたら、1時間なんてあっという間だ。
そして誠と家を出る。
「また来てね~」
と、誠の母さん。
「ごめんな……変な話になって」
「気にするな、初めてだとあんなもんなんだろ?」
もっと常軌を逸した家族を知ってるしな。
誠は私を家まで送ると寮に帰る。
「今度はいつ会える?」
「わかんない……。でも会えるように努力はするよ」
「そんな努力をする暇があったらサッカー頑張れよ」
「そんな事なんて言うなよ。神奈とも思い出を残したい……10年経った後も会えるように」
「そんな先の事なんてわかんねーよ」
「俺も10年後サッカーをやってるなんてわかんないよ。でも、神奈とは一緒にいたい」
「わかったよ……信じてる」
「じゃあな」
そう言って誠は自転車を漕ぎだした。
もう夏が終わる。
バイトに明け暮れていた夏。
でも最後に誠が来てくれた。
それだけでも十分だ。
10年後も会えるように……。
その時は……。
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