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2ndSEASON
愛の住処
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(1)
ルンルン~♪
身支度完了♪
準備OK♪
「じゃあ、りえちゃんいってくるね~♪」
「いってらっしゃ~い」
2軒隣の家に到着。
そして呼び鈴を押す。
「遠坂です」
「はい、愛莉ちゃんいらっしゃ~い」
麻耶さんに扉を開けてもらう。
中に入れてもらうとキッチンにまず向かう。
既に用意されている私用のエプロン。
荷物をリビングのソファーに置くとエプロンを身につける。
そして麻耶さんとキッチンに立つ。
調理するのは私の役目。
麻耶さんは私に指導してくれる役目。
誕生日以降ずっとやってきている事。
色々知った。
冬夜君の好みの玉子焼きの味とかスープの味の濃さとか。
オムレツを作る際、チーズとナツメグを入れるのが好みらしい。
お弁当にはから揚げを忘れずに。
休日にはお昼ごはんも作ったりしてる。
ちゃんと洗濯とか洗い物もしてるよ。
調理が終わり、食事をテーブルに並べると、冬夜君を起こしに行く。
今日はどうやって起こそうかな?
今日はどう待ち構えてるかな?
……今日はシンプルに行こうかな?
私の時のお返しで。
今日は12月7日。
あなたの誕生日なんだよ?
そうっと扉を開けるとぐっすり寝ている冬夜君。
部屋を見回す。綺麗だ。
て、ことは本当に寝てるんだね?
私はそうっと冬夜君の側に寄る。
穏やかな寝顔。
どんな夢を見ているの?
貴方の甘い寝息が胸に刺さる。
冬夜君と迎える朝が一番大切だから……。
貴方だけを見つめているの……。
私はそっと冬夜君の唇に唇を重ねる。
……冬夜君は起きない。
どれだけ夢に浸っているんだ?
冬夜君の胸に耳をあて、耳を澄ませる。
鼓動が聞こえてくる。
そして目を閉じると彼の夢が見えてくる気がしたの。
顔が熱くなった。
冬夜君が私を抱き寄せ静かに眠っている夢。
って、このままにしておくわけにはいかないよね?
貴方の事全て知ってるんだから。
貴方の弱い所も。
「冬夜君、朝だよ」
そう言って耳に息を吹きかける。
すると冬夜君はすぐさま身を起こす。
そして私を探してる。
「おはよう、冬夜君」
彼は私の顔をみつけて、答えてくれた。
「おはよう愛莉」
冬夜君は私を抱きしめてくれた。
プレゼントするのは私なんだよ。
冬夜君が私にプレゼントしてどうするの?
私は鞄からプレゼントを取り出すと冬夜君に渡す。
「お誕生日おめでとう」
手帳にした。
失敗したかな?
「ありがとう。大事に使うよ」
彼は喜んでくれた。良かった~。
「早く着替えた着替えた。朝ごはん冷めちゃうよ」
私はそう言って彼を急かす。
「美味しいよ」
たった一言がどれだけ嬉しい事か。
でも今日はそれだけじゃないんだからね。
冬夜君はご飯を食べ終わると、洗面所に向かう。
その間に私は摩耶さんに相談する。
「すいません、今日の夕食ですけど……」
(2)
今日は朝から愛莉の機嫌がいい。
理由はよくわからないけど。
僕の誕生日だから愛莉の機嫌がいいのか?
でも今日に限ったことじゃない。
先月末くらいから機嫌がいい。
多分僕が、「いつか一緒に暮らそう」って言ったからだろうけど。
彼女の中では「結婚しよう」と脳内変換されたんだろうか?
愛莉のご機嫌の良さは学校でも続いた。
いつもなら「お弁当があるでしょ!」と僕が購買部にパンを買いに行くのを止めるのに今日はそれがなかった。
何か考え事をしているのか?妄想が暴走しているのか?買いに行ったことすら気づいてないようだった。
愛莉の機嫌のよさは他の人から見てもそう思ったらしい。
カンナが愛莉に聞いていた。
「愛莉。なんかあったのか?最近浮かれ気味だけど」
カンナも、機嫌が良さそうだけどな。多分誠の進路が決まったからだろうけど。
誠の家のパーティにカンナも呼ばれたらしい。
そこで何があったのかまでは教えてくれなかった。
でも多分良いことがあったんだろう。
「べつに~なにもないよ~♪」
あからさまに機嫌がいい事をアピールしてるぞ愛莉。
指原さんが加わる。
「私もそれ思った。渡辺君からちょっと話聞いたけど。まさか愛莉も片桐君と同棲するつもり!?」
「それは言われたけど、断ったよ~♪焦らなくていいんだよ~って♪」
「あら?もったいない。せっかくの申し出を断るなんて」
江口さんがそう言うと愛莉は首を振った。
「今同棲しても、どうせ親の仕送りで生活するようなもんでしょ?私達家が近いから。親も認めてくれてるからいつでも好きな時に泊まれるしそれなら、別に今同棲しなくてもいいんじゃないかな~って♪」
確かに同じことを言われた。
それを情けないよな?って言った。
でも愛莉は認めてくれた。
「情けないと思えるだけ、凄い事だと思うよ」って。
「じゃあ、なんでそんなに機嫌がいいんだよ」
カンナが聞くと、気のせいか僕の顔を見てにこりと笑い言った。
「冬夜君が優しいから。ご飯を食べて美味しいと言ってくれる。朝起きる時に、夜勉強するときに、いちゃついてくれる。何をするときも笑ってくれてる。言い出したらキリがないくらい優しいの」
なるほどね。
3人の女子の視線を一身に浴びながら、僕は納得していた。
細やかな事に幸せを感じる娘。良くも悪くも欲が無い。
そう愛莉パパに言われてたっけ。
たまに拗ねたり、我儘言うけど、思うとそんなに大したことじゃない。
愛莉の事を思う。
それだけで幸せな気分になれる。
試験前だからと控えようとおもってたけど「普段通り勉強してたら問題ないよ」の言葉を信じてなにかしてやるかな?
お昼休み
「誠の奴自動車学校に通ってるんだって?学校の帰りに」
カンナが突然言い出した。
そっか、大学受験終わったから、暇なんだな。
サッカーの練習でもしてたらいいのに。
「大学行ったら、サッカーの練習また始まるだろ?だから今のうちに取っておいた方がいいって」
「なるほどね」
愛莉の奴、から揚げの下味のつけ方も完ぺきだな。
愛莉にその事を言うと、愛莉は「ありがとう♪」と嬉しそうにしていた。
「で、『神奈車どんなのに乗りたい?』ってさ。『自分で買うから好きなの買えよ』っていうと『一緒にドライブしたいじゃないか。そん時に困るだろ』って」
「一緒にドライブか~いいなぁ~」
愛莉はそう言って僕の顔を見る。
免許まだ持ってないのに気が早くないか?
「誠はワンボックスタイプのが良いらしいんだけどさ。その理由効いて唖然としたよ。『だって車の中でするのに広い方が良いだろ?』って……あいつはそういうやつなんだろうなって……」
「……神奈また、困ってる?」
愛莉がカンナに聞いていた。
「うーん、例えば冬夜がもしこの前みたいに馬鹿食いしてたら愛莉困るか?怒るか?」
「まあ、怒りはするけど、本気じゃないかな?もうそういうものだとあきらめてるっていうか。私の彼氏はそういう人なんだって気分かなぁ?」
「私も同じだよ。誠のあれはもう多分治らない。そういうものだと思って受け入れて行こうって。あいつの気持ちは本物らしいから」
「なるほどね……。でも、冬夜君。だからって思い通りに食べさせてあげると思ったら大間違いなんですからね!」
うっ、受け入れてくれるって言ったそばから。
「今日は寄り道禁止だからね!まっすぐ家に帰るの!」
「愛莉、愛莉の細やかな願い事はちゃんと聞いてあげようって思ってるよ。だから僕の細やかな願いも……」
誕生日くらいいいだろ?
「それはちゃんと叶えてあげるから。私の細やかな願い事聞いて♪」
上目遣いでおねだりする仕草の愛莉。
狙ってやってるだろ?
「……分かったよ」
「わ~い。ところで冬夜君?」
なんだ?まだ何かあるのか?
まさか焼きそばパン食べたことバレたか!?
「冬夜君はどんな車に乗りたいの?」
「まだ、免許ももってないんだぞ?」
「でも卒業したら免許とるんでしょ?」
「そうだけど……」
「やっぱり、車の中で……したい?」
「別に車の中でする必要はないんじゃないかと思うけど」
「私も免許取るの~。車は国産の軽にしときなさいってりえちゃんに言われた」
「なんで?」
「通学するのに便利だからって。だからお出かけするときは冬夜君の車でって思って」
ああ、通学するときにも運転させるつもりなんだな?
で、お出かけするときも僕に運転させるつもりなんだな?僕の車が一番重要ってことか?
「私はどんなのでもいいよ、冬夜君の隣に座ってるだけで幸せだから~。今度一緒に車のカタログ見よっか」
「とりあえず大学受験終わったらな」
とはいえ何となく決めてるんだけど。
頭の文字がDのような漫画にでてくる車には興味が無い。
父さんに聞いたけど運転席が高い車が運転が楽でいいとも聞いた。
また高級車を下品に車高低くしたりエアロつけたりする気も全くない。
じゃあ、どんなのがいいかって?
荷物をたくさん詰めてそれなりに馬力があって……SUV車かな。
それなりに空間があってゆったりできれば文句はない。
燃費は……あまり気にしないかな?
どうせそんなに出かけることは無いだろう?
「まあ、免許とってからゆっくり決めるさ」
「そっかぁ、お楽しみはあとでだよね♪」
「ところで愛莉。……愛莉ママたちは平気なのか?」
「何が?」
「その、僕の運転で通学することに」
むぅ、としかめっ面をする愛莉。
「冬夜君は女の子に運転させて助手席でボーっとしてるタイプなの?」
「愛莉が運転好きならそうするけど……」
「私は冬夜君の隣で冬夜君の口の中にガムとかを入れたみたい~」
ああ、後ろから見たらすごいバカップルに見えるあれね。
あれ横向いてるけどスマホしながら運転並みに危なくないか?
(3)
「また来たのか……正志」
部屋の鍵は、美嘉から預かっている。
部屋の中を見回す。
相変わらず散らかっている。
カーテンは閉められたまま。
「学校には行ってるのか?」
「心配しなくても行ってるよ。正志が心配しすぎなんだよ!」
美嘉はベッドに横になり、テレビを見ていた。
見ているのかただつけているだけなのかわからないが。
「進路決めたのか?」
「就職先は決めたよ」
「ほう、面接受かったのか?」
俺は、驚いた。
ちゃんと就活してたんだな。
と、思ったのはつかの間。
「正志の嫁に永久就職だ」
信じた俺が馬鹿だったのか。
「てのは、冗談だ。ちゃんと地元のレストランに勤務が決まったよ」
そうか、それはよかった。
「一緒に暮らしたら正志に美味しい料理くわせてやるからな」
「それは楽しみだな」
「私の腕を疑っているのか?」
「そんなことはないが」
むしろキッチンドリンカーにならないかのほうが心配だよ。
「もうすぐ、車の免許もとれそうなんだ」
「そうか、就職決まったもんな」
「正志、好きなところに連れて行ってやるからな」
「飲酒運転だけは勘弁してくれよ」
そういうと美嘉の機嫌を損ねたのか、俺に向かって息を吹きかけてきた。
アルコールの匂いはしない。
「な?これでも我慢してるんだぜ。正志が『一緒に暮らそう』って言ってくれた日から。私もしっかりしなくちゃ!って頑張ってるんだぞ」
「そうか、すまなかったな」
その割には部屋は散らかってるが。
「そうだ、折角だから、今日泊まって行けよ、どうせじじーもばばーも帰ってこないし。私の腕前見せつけてやるから」
「今度休日にゆっくり来るよ。今日は様子見に来ただけだから」
「毎日来なくても大丈夫だぞ?少しは信用してくれ」
「そのつもりだ、そろそろ試験あるしな」
「正志も大変だな……がんばれよ」
「ああ、ありがとう」
そう言って立ち上がる。
「もう帰るのか?」
美嘉がそう言って不安そうな顔をする。
「せっかく心配してきてくれるなら……少しは優しくしてくれよ」
そう言って抱き着く美嘉?
俺は美嘉を抱きしめて言う。
「美嘉……すまんな。本来なら俺も就職目指すべきなんだろうが……」
「正志は頭が良いんだ。やりたいようにやれよ」
今はその言葉に甘えておくよ。
「とーやとかは元気でやってるのか?」
美嘉が唐突に聞いてきた。
「ああ、相変わらずのようでそうでもないらしい」
「何かあったのか!?」
美嘉の表情が一変する。
「まさかまた刺されたとか!?」
「違うよそういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味だ?」
「あの二人また成長したらしい、遠坂さんもなんだが、冬夜の遠坂さんを見る目が優しくなった。遠坂さんもそれを実感しているんだろうな。さらに優しくなったよ」
「良いカップルだな」
「そうだな」
「私たちもそうなろうな」
「そのつもりだ」
俺はいつでも美嘉をそういう目で見ているつもりだが?
そう思いながら美嘉の顔を見る。
美嘉も俺の顔を見ている。
やがて美嘉は目を閉じて俺に迫ってくる。
俺はその意図を受け入れた。
(4)
今日は本当に寄り道を許してくれなかった。
コンビニに寄ろうものなら案の定愛莉に怒られた。
「喉、乾かない?」
「お家に帰ったらジュースあるでしょ!」
飲み物も許してくれないなんて、何があったんだ。
なんか僕気付かないうちにへまやらかしたか?
落ち着いて考える僕。
……昼までは機嫌良かったよな。
でも昼から買い食い禁止宣言でてたな。
今日は僕の誕生日だぞ。
少しくらい僕の我儘を……。
「冬夜君危ない!」
知ってるよ赤信号なんだろ?
ブレーキを握り止まる僕。
午後授業を受けて、掃除してHRやって帰ってる。
うん、何もやってない。
僕の誕生日がキーワードか?
突然目の前が暗くなる。
愛莉が目隠ししたらしい。
「な~に考えてるか当ててあげようか?」
どうせ、お見通しなんだろ?
どうせなら答えを教えてくれよ。
「今日はお腹を空かせておいて欲しいから」
?
……ああ、そういうことか。
「愛莉、明日から模試だぞ?大丈夫か?」
「私はいつも通りだよ」
愛莉のいつも通りは確かに大丈夫だろう。
愛莉は一旦自分の家に帰り部屋着に着替えて僕の家にやってくる。
大きな荷物を持ってきて。
模試前だというのに容赦ないのね。
「冬夜君は一人で勉強しててね!私はキッチンでお勉強があるから」
そう言って部屋を出る愛莉。
やがていい臭いが漂ってくる。
この匂いは……なんだろう?
「もういいわよ……冬夜読んできてちょうだい」
「は~い」
エプロン姿の愛莉が部屋に現れる。
「出来たよ~」
テーブルにはランチョンが敷かれ真っ白なお皿が並べられ、サラダ、スープ、そしてメインのローストビーフとパンが並べられていた。
「じゃあ、冬夜。お誕生日おめでとう」
父さんがそう言うと食事にとりかかる。
「美味しい!」
一言僕がそう言うと愛莉は満足そうだった。
「本当に美味いな。これ全部愛莉ちゃんが作ったのか?」
父さんが驚いている。
「そうなのよ、私はちょっと味付けの確認をしただけ」
母さんは横で見ていただけらしい。
「お口にあったみたいでよかったです」
愛莉は照れながらそう言った。
「でもこれだけじゃないんですよ」
愛莉はそう言うと、冷蔵庫から大きな箱を出す。
「これ、昨日のうちに作ったんだけど……」
それはバースデーケーキだった。
「愛莉、ありがとう」
「ううん、いつもお世話になってるから」
愛莉の方が嬉しそうだ。
それらをすべてたいらげると、母さんが「片づけは私がやるから愛莉ちゃんはお風呂にはいってきなさい」というと愛莉は首を振る。
「片づけまでがお仕事ですから」
じゃ、僕は今のうちに入ってきていいよね。
ぽかっ
「冬夜君は居間でくつろいでおいてね」
風呂は一緒に入るんだぞという無言の圧力。
まあ、今更だからいいけどさ。
「お前も、無駄な悪あがきはやめたか……」
父さんは呟く。父さんもそうだったのか?
「どうも俺の周りの男はそういう性質の女性を好きになるらしい。遠坂さんところもそうみたいだしな」
「アナタ、聞こえてるわよ」
母さんの微笑みが今日ほど恐怖に思えたことは無い。
片づけが終わりお風呂に入った後。
愛莉は髪を乾かしている。
僕は風呂上がりのジュースを飲んでいる。
髪を乾かし終えると「どれどれ、冬夜君の勉強のチェックでもしましょうかね?」とテーブルを見る。
「ちょっと!全然やってないじゃない!?」
愛莉は驚き、床に転がってるゲーム機のコントローラーを目にした。
「明日模試だよ!何やってるの!?」
「愛莉だって料理してたろ?」
「冬夜君はお嫁さんが料理してる時にゲームしてる人なの?」
「今日は僕の誕生日だから何しててもいいだろ?」
「うぅ、今回だけだからね!」
愛莉はそう言って勉強道具をテーブルの上に並べようとしたがその手に僕の手を重ねる。
驚いてこっちを見る愛莉。
その真意を悟ったのか愛莉は言う。
「ちょ、ちょっとまだ勉強時間……」
「今日くらい、いいだろ?」
「う、うぅ……で、でもちょっとまってまだ時間早いよ。それに心の準備が」
「愛莉はいつも不意打ちしてくるよ」
「う、うぅ……」
困ってる愛莉。
本当に可愛いな。
「じゃあ、心の準備ができるまでテレビでも……いてっ!」
「明日模試って言ったよね?心の準備が出来るまでお勉強♪」
「それで準備出来るのかよ」
「出来るよ♪」
愛莉は平然と言った。
僕の隣に移動してノートを開く。
僕の方がどきどきしてきたぞ。
誘ったのは僕だけど……。
「本当は私はいつでもOKなんだよ。でもそれで冬夜君の足を引っ張るのはイヤ。だから勉強するの」
そういってにこりと笑う愛莉。
勉強どころじゃないと思うんだが。
「冬夜君なら大丈夫。冬夜君すぐに”ふろー”に入っちゃうから」
そりゃ賢者時間という絶対的時間をもってるけどさ、愛莉がその世界に入るのを遮ってるんだが。
「私じゃま?」
上目遣いで訴えるような表情をする愛莉。
その表情と声は卑怯だと何回言えば……教えてくれ。
その後勉強して……案外簡単に入れるんだな、”フロー”状態って。
飛行機の時間がやってきて、愛莉に言われるまでそんなに時間が経ってないかのように思えた。
その後勉強道具を仕舞うと愛莉と共にベッドに入る。
「愛莉……」
そう言って服を脱がそうとしたときに気づいた。
愛莉がすやすやと眠っている。
今日はいっぱい働いたもんな。
とはいえ、目の前で無防備な彼女がすやすやと寝ている。
多分服を脱がしても気づかないだろうし怒られることもないだろう。
喜んで抱き着いてくる彼女が目に浮かぶ。
「冬夜君……」
そんな寝言を言いながら抱きついてくる愛莉。
どんな夢を見てるの?
そっと愛莉を抱き寄せる。
愛莉の寝息一つが僕を離さない。
愛莉を思う時間が僕を変えていく
「愛しているよ」
上手く言えないけど、いつまでも僕の側で、飾らない心でいて欲しい。
我儘も弱さも涙も一つ残らず愛莉を受け入れるから。
愛の住処は愛莉の中にある。
とはいえ、欲情したこの気持ちどう処理したらいい?
エッチなDVDでも見ればいい?
言ったろ?
今愛莉に抱き着かれてるって。
愛莉を起こしたら?
それは可哀そうだろ?
……観念しよう。
チャンスはいくらでもある。
これから先何回でも。
僕も眠りについた。
愛莉と同じ場所で迎える朝が一番大切なのだから。
ルンルン~♪
身支度完了♪
準備OK♪
「じゃあ、りえちゃんいってくるね~♪」
「いってらっしゃ~い」
2軒隣の家に到着。
そして呼び鈴を押す。
「遠坂です」
「はい、愛莉ちゃんいらっしゃ~い」
麻耶さんに扉を開けてもらう。
中に入れてもらうとキッチンにまず向かう。
既に用意されている私用のエプロン。
荷物をリビングのソファーに置くとエプロンを身につける。
そして麻耶さんとキッチンに立つ。
調理するのは私の役目。
麻耶さんは私に指導してくれる役目。
誕生日以降ずっとやってきている事。
色々知った。
冬夜君の好みの玉子焼きの味とかスープの味の濃さとか。
オムレツを作る際、チーズとナツメグを入れるのが好みらしい。
お弁当にはから揚げを忘れずに。
休日にはお昼ごはんも作ったりしてる。
ちゃんと洗濯とか洗い物もしてるよ。
調理が終わり、食事をテーブルに並べると、冬夜君を起こしに行く。
今日はどうやって起こそうかな?
今日はどう待ち構えてるかな?
……今日はシンプルに行こうかな?
私の時のお返しで。
今日は12月7日。
あなたの誕生日なんだよ?
そうっと扉を開けるとぐっすり寝ている冬夜君。
部屋を見回す。綺麗だ。
て、ことは本当に寝てるんだね?
私はそうっと冬夜君の側に寄る。
穏やかな寝顔。
どんな夢を見ているの?
貴方の甘い寝息が胸に刺さる。
冬夜君と迎える朝が一番大切だから……。
貴方だけを見つめているの……。
私はそっと冬夜君の唇に唇を重ねる。
……冬夜君は起きない。
どれだけ夢に浸っているんだ?
冬夜君の胸に耳をあて、耳を澄ませる。
鼓動が聞こえてくる。
そして目を閉じると彼の夢が見えてくる気がしたの。
顔が熱くなった。
冬夜君が私を抱き寄せ静かに眠っている夢。
って、このままにしておくわけにはいかないよね?
貴方の事全て知ってるんだから。
貴方の弱い所も。
「冬夜君、朝だよ」
そう言って耳に息を吹きかける。
すると冬夜君はすぐさま身を起こす。
そして私を探してる。
「おはよう、冬夜君」
彼は私の顔をみつけて、答えてくれた。
「おはよう愛莉」
冬夜君は私を抱きしめてくれた。
プレゼントするのは私なんだよ。
冬夜君が私にプレゼントしてどうするの?
私は鞄からプレゼントを取り出すと冬夜君に渡す。
「お誕生日おめでとう」
手帳にした。
失敗したかな?
「ありがとう。大事に使うよ」
彼は喜んでくれた。良かった~。
「早く着替えた着替えた。朝ごはん冷めちゃうよ」
私はそう言って彼を急かす。
「美味しいよ」
たった一言がどれだけ嬉しい事か。
でも今日はそれだけじゃないんだからね。
冬夜君はご飯を食べ終わると、洗面所に向かう。
その間に私は摩耶さんに相談する。
「すいません、今日の夕食ですけど……」
(2)
今日は朝から愛莉の機嫌がいい。
理由はよくわからないけど。
僕の誕生日だから愛莉の機嫌がいいのか?
でも今日に限ったことじゃない。
先月末くらいから機嫌がいい。
多分僕が、「いつか一緒に暮らそう」って言ったからだろうけど。
彼女の中では「結婚しよう」と脳内変換されたんだろうか?
愛莉のご機嫌の良さは学校でも続いた。
いつもなら「お弁当があるでしょ!」と僕が購買部にパンを買いに行くのを止めるのに今日はそれがなかった。
何か考え事をしているのか?妄想が暴走しているのか?買いに行ったことすら気づいてないようだった。
愛莉の機嫌のよさは他の人から見てもそう思ったらしい。
カンナが愛莉に聞いていた。
「愛莉。なんかあったのか?最近浮かれ気味だけど」
カンナも、機嫌が良さそうだけどな。多分誠の進路が決まったからだろうけど。
誠の家のパーティにカンナも呼ばれたらしい。
そこで何があったのかまでは教えてくれなかった。
でも多分良いことがあったんだろう。
「べつに~なにもないよ~♪」
あからさまに機嫌がいい事をアピールしてるぞ愛莉。
指原さんが加わる。
「私もそれ思った。渡辺君からちょっと話聞いたけど。まさか愛莉も片桐君と同棲するつもり!?」
「それは言われたけど、断ったよ~♪焦らなくていいんだよ~って♪」
「あら?もったいない。せっかくの申し出を断るなんて」
江口さんがそう言うと愛莉は首を振った。
「今同棲しても、どうせ親の仕送りで生活するようなもんでしょ?私達家が近いから。親も認めてくれてるからいつでも好きな時に泊まれるしそれなら、別に今同棲しなくてもいいんじゃないかな~って♪」
確かに同じことを言われた。
それを情けないよな?って言った。
でも愛莉は認めてくれた。
「情けないと思えるだけ、凄い事だと思うよ」って。
「じゃあ、なんでそんなに機嫌がいいんだよ」
カンナが聞くと、気のせいか僕の顔を見てにこりと笑い言った。
「冬夜君が優しいから。ご飯を食べて美味しいと言ってくれる。朝起きる時に、夜勉強するときに、いちゃついてくれる。何をするときも笑ってくれてる。言い出したらキリがないくらい優しいの」
なるほどね。
3人の女子の視線を一身に浴びながら、僕は納得していた。
細やかな事に幸せを感じる娘。良くも悪くも欲が無い。
そう愛莉パパに言われてたっけ。
たまに拗ねたり、我儘言うけど、思うとそんなに大したことじゃない。
愛莉の事を思う。
それだけで幸せな気分になれる。
試験前だからと控えようとおもってたけど「普段通り勉強してたら問題ないよ」の言葉を信じてなにかしてやるかな?
お昼休み
「誠の奴自動車学校に通ってるんだって?学校の帰りに」
カンナが突然言い出した。
そっか、大学受験終わったから、暇なんだな。
サッカーの練習でもしてたらいいのに。
「大学行ったら、サッカーの練習また始まるだろ?だから今のうちに取っておいた方がいいって」
「なるほどね」
愛莉の奴、から揚げの下味のつけ方も完ぺきだな。
愛莉にその事を言うと、愛莉は「ありがとう♪」と嬉しそうにしていた。
「で、『神奈車どんなのに乗りたい?』ってさ。『自分で買うから好きなの買えよ』っていうと『一緒にドライブしたいじゃないか。そん時に困るだろ』って」
「一緒にドライブか~いいなぁ~」
愛莉はそう言って僕の顔を見る。
免許まだ持ってないのに気が早くないか?
「誠はワンボックスタイプのが良いらしいんだけどさ。その理由効いて唖然としたよ。『だって車の中でするのに広い方が良いだろ?』って……あいつはそういうやつなんだろうなって……」
「……神奈また、困ってる?」
愛莉がカンナに聞いていた。
「うーん、例えば冬夜がもしこの前みたいに馬鹿食いしてたら愛莉困るか?怒るか?」
「まあ、怒りはするけど、本気じゃないかな?もうそういうものだとあきらめてるっていうか。私の彼氏はそういう人なんだって気分かなぁ?」
「私も同じだよ。誠のあれはもう多分治らない。そういうものだと思って受け入れて行こうって。あいつの気持ちは本物らしいから」
「なるほどね……。でも、冬夜君。だからって思い通りに食べさせてあげると思ったら大間違いなんですからね!」
うっ、受け入れてくれるって言ったそばから。
「今日は寄り道禁止だからね!まっすぐ家に帰るの!」
「愛莉、愛莉の細やかな願い事はちゃんと聞いてあげようって思ってるよ。だから僕の細やかな願いも……」
誕生日くらいいいだろ?
「それはちゃんと叶えてあげるから。私の細やかな願い事聞いて♪」
上目遣いでおねだりする仕草の愛莉。
狙ってやってるだろ?
「……分かったよ」
「わ~い。ところで冬夜君?」
なんだ?まだ何かあるのか?
まさか焼きそばパン食べたことバレたか!?
「冬夜君はどんな車に乗りたいの?」
「まだ、免許ももってないんだぞ?」
「でも卒業したら免許とるんでしょ?」
「そうだけど……」
「やっぱり、車の中で……したい?」
「別に車の中でする必要はないんじゃないかと思うけど」
「私も免許取るの~。車は国産の軽にしときなさいってりえちゃんに言われた」
「なんで?」
「通学するのに便利だからって。だからお出かけするときは冬夜君の車でって思って」
ああ、通学するときにも運転させるつもりなんだな?
で、お出かけするときも僕に運転させるつもりなんだな?僕の車が一番重要ってことか?
「私はどんなのでもいいよ、冬夜君の隣に座ってるだけで幸せだから~。今度一緒に車のカタログ見よっか」
「とりあえず大学受験終わったらな」
とはいえ何となく決めてるんだけど。
頭の文字がDのような漫画にでてくる車には興味が無い。
父さんに聞いたけど運転席が高い車が運転が楽でいいとも聞いた。
また高級車を下品に車高低くしたりエアロつけたりする気も全くない。
じゃあ、どんなのがいいかって?
荷物をたくさん詰めてそれなりに馬力があって……SUV車かな。
それなりに空間があってゆったりできれば文句はない。
燃費は……あまり気にしないかな?
どうせそんなに出かけることは無いだろう?
「まあ、免許とってからゆっくり決めるさ」
「そっかぁ、お楽しみはあとでだよね♪」
「ところで愛莉。……愛莉ママたちは平気なのか?」
「何が?」
「その、僕の運転で通学することに」
むぅ、としかめっ面をする愛莉。
「冬夜君は女の子に運転させて助手席でボーっとしてるタイプなの?」
「愛莉が運転好きならそうするけど……」
「私は冬夜君の隣で冬夜君の口の中にガムとかを入れたみたい~」
ああ、後ろから見たらすごいバカップルに見えるあれね。
あれ横向いてるけどスマホしながら運転並みに危なくないか?
(3)
「また来たのか……正志」
部屋の鍵は、美嘉から預かっている。
部屋の中を見回す。
相変わらず散らかっている。
カーテンは閉められたまま。
「学校には行ってるのか?」
「心配しなくても行ってるよ。正志が心配しすぎなんだよ!」
美嘉はベッドに横になり、テレビを見ていた。
見ているのかただつけているだけなのかわからないが。
「進路決めたのか?」
「就職先は決めたよ」
「ほう、面接受かったのか?」
俺は、驚いた。
ちゃんと就活してたんだな。
と、思ったのはつかの間。
「正志の嫁に永久就職だ」
信じた俺が馬鹿だったのか。
「てのは、冗談だ。ちゃんと地元のレストランに勤務が決まったよ」
そうか、それはよかった。
「一緒に暮らしたら正志に美味しい料理くわせてやるからな」
「それは楽しみだな」
「私の腕を疑っているのか?」
「そんなことはないが」
むしろキッチンドリンカーにならないかのほうが心配だよ。
「もうすぐ、車の免許もとれそうなんだ」
「そうか、就職決まったもんな」
「正志、好きなところに連れて行ってやるからな」
「飲酒運転だけは勘弁してくれよ」
そういうと美嘉の機嫌を損ねたのか、俺に向かって息を吹きかけてきた。
アルコールの匂いはしない。
「な?これでも我慢してるんだぜ。正志が『一緒に暮らそう』って言ってくれた日から。私もしっかりしなくちゃ!って頑張ってるんだぞ」
「そうか、すまなかったな」
その割には部屋は散らかってるが。
「そうだ、折角だから、今日泊まって行けよ、どうせじじーもばばーも帰ってこないし。私の腕前見せつけてやるから」
「今度休日にゆっくり来るよ。今日は様子見に来ただけだから」
「毎日来なくても大丈夫だぞ?少しは信用してくれ」
「そのつもりだ、そろそろ試験あるしな」
「正志も大変だな……がんばれよ」
「ああ、ありがとう」
そう言って立ち上がる。
「もう帰るのか?」
美嘉がそう言って不安そうな顔をする。
「せっかく心配してきてくれるなら……少しは優しくしてくれよ」
そう言って抱き着く美嘉?
俺は美嘉を抱きしめて言う。
「美嘉……すまんな。本来なら俺も就職目指すべきなんだろうが……」
「正志は頭が良いんだ。やりたいようにやれよ」
今はその言葉に甘えておくよ。
「とーやとかは元気でやってるのか?」
美嘉が唐突に聞いてきた。
「ああ、相変わらずのようでそうでもないらしい」
「何かあったのか!?」
美嘉の表情が一変する。
「まさかまた刺されたとか!?」
「違うよそういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味だ?」
「あの二人また成長したらしい、遠坂さんもなんだが、冬夜の遠坂さんを見る目が優しくなった。遠坂さんもそれを実感しているんだろうな。さらに優しくなったよ」
「良いカップルだな」
「そうだな」
「私たちもそうなろうな」
「そのつもりだ」
俺はいつでも美嘉をそういう目で見ているつもりだが?
そう思いながら美嘉の顔を見る。
美嘉も俺の顔を見ている。
やがて美嘉は目を閉じて俺に迫ってくる。
俺はその意図を受け入れた。
(4)
今日は本当に寄り道を許してくれなかった。
コンビニに寄ろうものなら案の定愛莉に怒られた。
「喉、乾かない?」
「お家に帰ったらジュースあるでしょ!」
飲み物も許してくれないなんて、何があったんだ。
なんか僕気付かないうちにへまやらかしたか?
落ち着いて考える僕。
……昼までは機嫌良かったよな。
でも昼から買い食い禁止宣言でてたな。
今日は僕の誕生日だぞ。
少しくらい僕の我儘を……。
「冬夜君危ない!」
知ってるよ赤信号なんだろ?
ブレーキを握り止まる僕。
午後授業を受けて、掃除してHRやって帰ってる。
うん、何もやってない。
僕の誕生日がキーワードか?
突然目の前が暗くなる。
愛莉が目隠ししたらしい。
「な~に考えてるか当ててあげようか?」
どうせ、お見通しなんだろ?
どうせなら答えを教えてくれよ。
「今日はお腹を空かせておいて欲しいから」
?
……ああ、そういうことか。
「愛莉、明日から模試だぞ?大丈夫か?」
「私はいつも通りだよ」
愛莉のいつも通りは確かに大丈夫だろう。
愛莉は一旦自分の家に帰り部屋着に着替えて僕の家にやってくる。
大きな荷物を持ってきて。
模試前だというのに容赦ないのね。
「冬夜君は一人で勉強しててね!私はキッチンでお勉強があるから」
そう言って部屋を出る愛莉。
やがていい臭いが漂ってくる。
この匂いは……なんだろう?
「もういいわよ……冬夜読んできてちょうだい」
「は~い」
エプロン姿の愛莉が部屋に現れる。
「出来たよ~」
テーブルにはランチョンが敷かれ真っ白なお皿が並べられ、サラダ、スープ、そしてメインのローストビーフとパンが並べられていた。
「じゃあ、冬夜。お誕生日おめでとう」
父さんがそう言うと食事にとりかかる。
「美味しい!」
一言僕がそう言うと愛莉は満足そうだった。
「本当に美味いな。これ全部愛莉ちゃんが作ったのか?」
父さんが驚いている。
「そうなのよ、私はちょっと味付けの確認をしただけ」
母さんは横で見ていただけらしい。
「お口にあったみたいでよかったです」
愛莉は照れながらそう言った。
「でもこれだけじゃないんですよ」
愛莉はそう言うと、冷蔵庫から大きな箱を出す。
「これ、昨日のうちに作ったんだけど……」
それはバースデーケーキだった。
「愛莉、ありがとう」
「ううん、いつもお世話になってるから」
愛莉の方が嬉しそうだ。
それらをすべてたいらげると、母さんが「片づけは私がやるから愛莉ちゃんはお風呂にはいってきなさい」というと愛莉は首を振る。
「片づけまでがお仕事ですから」
じゃ、僕は今のうちに入ってきていいよね。
ぽかっ
「冬夜君は居間でくつろいでおいてね」
風呂は一緒に入るんだぞという無言の圧力。
まあ、今更だからいいけどさ。
「お前も、無駄な悪あがきはやめたか……」
父さんは呟く。父さんもそうだったのか?
「どうも俺の周りの男はそういう性質の女性を好きになるらしい。遠坂さんところもそうみたいだしな」
「アナタ、聞こえてるわよ」
母さんの微笑みが今日ほど恐怖に思えたことは無い。
片づけが終わりお風呂に入った後。
愛莉は髪を乾かしている。
僕は風呂上がりのジュースを飲んでいる。
髪を乾かし終えると「どれどれ、冬夜君の勉強のチェックでもしましょうかね?」とテーブルを見る。
「ちょっと!全然やってないじゃない!?」
愛莉は驚き、床に転がってるゲーム機のコントローラーを目にした。
「明日模試だよ!何やってるの!?」
「愛莉だって料理してたろ?」
「冬夜君はお嫁さんが料理してる時にゲームしてる人なの?」
「今日は僕の誕生日だから何しててもいいだろ?」
「うぅ、今回だけだからね!」
愛莉はそう言って勉強道具をテーブルの上に並べようとしたがその手に僕の手を重ねる。
驚いてこっちを見る愛莉。
その真意を悟ったのか愛莉は言う。
「ちょ、ちょっとまだ勉強時間……」
「今日くらい、いいだろ?」
「う、うぅ……で、でもちょっとまってまだ時間早いよ。それに心の準備が」
「愛莉はいつも不意打ちしてくるよ」
「う、うぅ……」
困ってる愛莉。
本当に可愛いな。
「じゃあ、心の準備ができるまでテレビでも……いてっ!」
「明日模試って言ったよね?心の準備が出来るまでお勉強♪」
「それで準備出来るのかよ」
「出来るよ♪」
愛莉は平然と言った。
僕の隣に移動してノートを開く。
僕の方がどきどきしてきたぞ。
誘ったのは僕だけど……。
「本当は私はいつでもOKなんだよ。でもそれで冬夜君の足を引っ張るのはイヤ。だから勉強するの」
そういってにこりと笑う愛莉。
勉強どころじゃないと思うんだが。
「冬夜君なら大丈夫。冬夜君すぐに”ふろー”に入っちゃうから」
そりゃ賢者時間という絶対的時間をもってるけどさ、愛莉がその世界に入るのを遮ってるんだが。
「私じゃま?」
上目遣いで訴えるような表情をする愛莉。
その表情と声は卑怯だと何回言えば……教えてくれ。
その後勉強して……案外簡単に入れるんだな、”フロー”状態って。
飛行機の時間がやってきて、愛莉に言われるまでそんなに時間が経ってないかのように思えた。
その後勉強道具を仕舞うと愛莉と共にベッドに入る。
「愛莉……」
そう言って服を脱がそうとしたときに気づいた。
愛莉がすやすやと眠っている。
今日はいっぱい働いたもんな。
とはいえ、目の前で無防備な彼女がすやすやと寝ている。
多分服を脱がしても気づかないだろうし怒られることもないだろう。
喜んで抱き着いてくる彼女が目に浮かぶ。
「冬夜君……」
そんな寝言を言いながら抱きついてくる愛莉。
どんな夢を見てるの?
そっと愛莉を抱き寄せる。
愛莉の寝息一つが僕を離さない。
愛莉を思う時間が僕を変えていく
「愛しているよ」
上手く言えないけど、いつまでも僕の側で、飾らない心でいて欲しい。
我儘も弱さも涙も一つ残らず愛莉を受け入れるから。
愛の住処は愛莉の中にある。
とはいえ、欲情したこの気持ちどう処理したらいい?
エッチなDVDでも見ればいい?
言ったろ?
今愛莉に抱き着かれてるって。
愛莉を起こしたら?
それは可哀そうだろ?
……観念しよう。
チャンスはいくらでもある。
これから先何回でも。
僕も眠りについた。
愛莉と同じ場所で迎える朝が一番大切なのだから。
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