351 / 442
5thSEASON
夜空一杯の星を集めて
しおりを挟む
(1)
お風呂を出て冬夜君の部屋に戻る。
すると冬夜君は出かける準備をしている。
どうしたんだろう?
冬夜君は私を見て行った。
「愛莉もお出かけの準備して」
「どこに行くの?」
「内緒」
冬夜君とだったらどこにでも行くと言ったから実行しないと。
一人で遊びに行かない。一人にしないで。
単なる我儘でも冬夜君は守ってくれてる。
海外の試合にまで連れて行ってくれるほどだ。
車さんに無茶させないって約束も守ってくれてる。
偶に、無茶させようとすることあるけど我慢してくれてる。
そんな冬夜君に「いや」とか言えない。
「わかった~」
そう言って着替える。
まだ夜は冷えると思った私はカーデガンを持って冬夜君と家を出る。
車は山の方へ向かった。
え?この方向って……。
私はあの時の悪夢蘇った。
冬夜君の従兄・勝也さんに連れられた時の悪夢を。
足が震える。
落ち着け、相手は冬夜君だ。勝也さんじゃない。
でも駄目なものはだめ。
怖いものは怖い。
どうして急に?
冬夜君も誠君みたいになっちゃったの?
私はその要求に応える自信は無い。
「冬夜君戻ろう?」
私は冬夜君に訴えた。
「大丈夫だから」
冬夜君は左手で私の右手を離さない。
男の人には分かってもらえないのだろうか?この恐怖は。
山の駐車場で、車は止まった。今でも鮮明に覚えてるあの景色。
あの時は雪が降っていたけど。
冬夜君は懐中電灯を手に車を降りる。
私は降りたくない。
冬夜君は助手席のドアを開ける。
「おいで」
「いや!」
首を振って拒絶した。
冬夜君分かってよ。
冬夜君はじっとしてる。
困ってるようだ。
冬夜君は私の手を掴む。
「愛莉は絶対に僕を離さないで。目を閉じてついてくるだけでいい。それなら怖くないだろ?」
冬夜君が私にそこまで無理強いするのは初めてだ。
冬夜君のする事には意味がある。今までずっとそうだった。
私は息をのむ。呼吸を整える。
そして冬夜君の腰を掴むと離さないようにくっついて歩く。
「昨日雨降ったからかな。ぬかるんでるな。愛莉足下気を付けてね」
「うん……」
どのくらい歩いただろう?
どこをどう歩いてきたのだろう?
全然見てなかったから分からない。
やがて冬夜君は立ち止まった。
「目を開けてごらん?」
言われた通り恐る恐る目を開ける。
眼前に広がるのは星と街の明りが入り混じった夢のような世界だった。
「綺麗……」
冬夜君は何も言わなかった。
私はその夜景にただ見とれていた。
こんなに綺麗な場所が地元にもあったんだ。
「綺麗だろ?」
「うん」
冬夜君はこれを私に見せたかったんだね?
「ありがとう……」
「大したことじゃないよ。今まで連れてこなかった僕にも責任あるし」
え?
冬夜君は悪くないよ?
私が嫌がってこなかっただけじゃない。
「愛莉が怖がってるから連れてこない。それが間違いだったんだ」
「どうして?」
「食わず嫌いはよくないよ」
「ほえ?」
「僕さ、グラタンが苦手だったんだ」
また食べ物の話?
冬夜君にも苦手な食べ物あるんだね。
「昔ジャガイモが嫌いでね。グラタンに入ってるジャガイモが食べれなくて残してたら父さんに叱られてさ。食べ終わるまで席を立つことを許されなくて。グラタンて冷えると不味いだろ?なおさら食べれなくなって負の連鎖が続いたんだ」
そんな事があったんだ。
泣きながらグラタンを食べてる冬夜君の姿。今では思いつかない。
「それからグラタンだけは食べれなくなってた。ずっとトラウマになってたんだろうな」
「でもこの前作った時食べてたよ?」
「ジャガイモ嫌いじゃなくなったからね。それにお嫁さんの作った料理残すなんてできないだろ?沢山の愛情の詰まった料理を残すなんて無理だ」
そんな風に思ってくれてたんだね。
「そう思ったら食わず嫌い克服できたよ」
「でも嫌いだったら嫌いって言ってくれたらよかったのに」
「愛莉を困らせたくなかったから」
「そっか~ありがとう」
「……今がまさにその状況なんじゃないのか?」
え?
「こんなに綺麗な場所があるのに愛莉はの事件で観れずにいた。凄くもったいない事をしてると思ったんだ」
「……そうだね」
「だったら僕に出来ることは愛莉にここはこんなにきれいな場所なんだよって教えてあげる事。そう思って連れてきた」
周りを見る。カップルがたくさんいる。
皆同じ思いで見てるのかな?
私と同じように幸せな思いで見てるのかな?
「ありがとう」
私は冬夜君にお礼を言った。
「もう大丈夫?」
私は黙ってうなずく。
「じゃ、そろそろ行こうか?」
「うん」
今度は目を開けて冬夜君と手を繋いで車に戻っていった。
冬夜君は車に戻ると時計を気にしてる。
どうしたんだろう?
「愛莉、まだ時間早いしちょっとぶらっとしていかないか?」
「どこに行くの?」
「山を走ろうと思って」
「うぅ……また車さんに無茶させるの?」
「違うよ。今日天気が良くて夜空が綺麗だろ?そんな星空の下ドライブも悪くないんじゃないかって」
冬夜君もそんな素敵な事考えてくれるんだね。
「わかった、いいよ。ただ明日昼には美容室行かないとだから……」
「うん、わかってる。そんなに遅くはならない」
「じゃあ、いいよ」
冬夜君は車を走らせる。
ゆっくりと夜空いっぱいの星を集めながら私達はのんびりドライブを楽しんだ。
(2)
「おはよう冬夜君、朝だよ~」
「うん……おはよう愛莉」
愛莉の機嫌は良い。理由はわかる。
しかし僕は眠い……もうちょっとだけ!
ぽかっ
「だ~め!日課はちゃんとしなきゃだめだよ!」
折角の機嫌の良い愛莉を悪くしたら意味がない。
ここは我慢して起きよう。
さっさと日課こなして寝よう。
全身に力を入れると起き上がって着替える。
着替えを終えると日課をこなしてシャワーを浴びて朝食を食べる。
チャンスは今だ!
コーヒーを入れて部屋に持って戻り、テーブルに置くと僕はベッドに入り込む。
少しでも、ほんの少しでも眠っていたかったんだ。
でも愛莉はそれを許さなかった。
コードレスのドライヤーを顔に近づけると強で吹き付ける。
「愛莉熱い!」
起き上がって愛莉に辞めるように言う。
「お嫁さんほったらかして寝るからいけないんだよ」
「出かけるのは昼からだろ?じゃあ、少しだけ寝させてよ」
「ふ~ん、そんな事言うんだ。お嫁さんに構ってくれないんだ」
こういう言い方をするときは嫌な予感しかしない。
「いいもん、冬夜君が構てくれないなら私家事してくるから」
ほらね。
「わかった!わかったから愛莉!」
後から愛莉に抱きついて部屋を出ていくのを止める。
愛莉は振り返るとにやりと笑う。
「最初からそうすればいいのに本当に困った旦那様ですね」
それからは愛莉とコーヒーを飲みながらテレビを見て。愛莉がキッチンにマグカップを持って行ってる間にネットを見る。
ネットのニュースをチェックしていると愛莉が戻ってくる。
時計はまだ9時。何をしよう?
愛莉はテレビを見ている。
僕はデスクトップを見ている。
愛莉がテレビに没頭してるならいっか。
ゲームを始める。
TPSと呼ばれるゲームで孤島に投下されたプレイヤーを殺しあって生き残るゲーム。
結構面白い。
もちろんそんなゲームに没頭するのを愛莉が許してくれるはずがなく、突然後ろから抱きついてくる愛莉。
「愛莉、今はまずい!!」
「構ってくれるって言ったもん!」
そうこうしてるうちにプレイヤーは死んでしまった。
大人しくログアウトする。
「構ってくれるなら構って欲しいって最初から言えば」
「言ったけど冬夜君がPCにむかっちゃったんじゃない?」
「どうすればよかったの?」
「う~んそこほら。私がテレビ見てるんだから『膝枕~』って抱きついてくれるとか……あっ!いいこと思いついた」
こういう時の愛莉の発想は大体ろくな事じゃない。
今日も類にもれなかった。
愛莉は耳かき棒を用意する。
「また、耳かきしてあげる~♪」
下手に抵抗して機嫌を損ねるのも得策じゃないな。
大人しく愛莉の太ももの上に頭を乗せる。
「うぅ……冬夜君は手入れしてるんだね。綺麗でやり甲斐が無いよ」
理不尽な文句を言われながらも愛莉に耳かきをしてもらう。
耳かきが終ると起き上がる。
「次は愛莉をすればいいの?」
「うん♪」
愛莉を膝枕してあげて耳かきを始める僕。
全神経を耳に集中させて耳かきに没頭する。
そうして耳かきが終わった。
「次はなにすればいい?」
「一緒にテレビ観よう?」
土曜日のこの時間のテレビなんてあまり興味が無いんだけど愛莉がそう言うなら仕方ない。
愛莉の隣に座ってテレビを見ている。
当然のように愛莉は僕にくっ付いてくる。
愛莉の柔らかい感覚が腕に伝わってくる。
愛莉は気にも止めてないようでテレビを見ては笑ってる。
時折スマホを見ながら。
正午前になると愛莉から解放される。
愛莉は昼食の仕度にとりかかる。
少しでも眠りたい僕はこの時とばかりに横になる。
この際床でもいいや。
しかし愛莉はすぐに戻ってくる。
「ラーメンのびても知らないよ!」
それは良くない。
慌ててダイニングに移動する。
昼食を食べると片づけるのは母さん。
僕達は出かける準備をすると美容室に向かう。
愛莉は青のドレスを着ている。
髪形もいつもと違う上品な髪形にセットしてもらいコサージュをつけている。
いつか買ってあげたイヤリングとネックレスをつけて愛莉の準備は終わった。
僕も髪形をセットしてもらい。準備は整った。
一度家に戻り母さんに車で式場に送ってもらう。
そして皆と会う。
「今日の二次会は俺達の就職祝いも兼ねてだからな、あと朝倉さん達のお祝いも兼ねて」
てことは渡辺班でやるのね。
その時驚いたのは北村さんの恰好だった。
ヘアスタイルはいつも通りいや、コサージュをつけている。
ネックレスは嫌がっていたけど爽やかな水色のドレスを着ていて。手にはバッグを持ちパンプスを履いて化粧もしている。アクセサリの類は一切してなかったけど、いつもの北村さんからは想像のつかない格好だった。
「だって結婚式でしょ、最低限の服装くらい用意します」
一番面食らったのは栗林君らしい。栗林君の話を聞いていた。
(3)
俺は、約束の時間に美里の家に迎えに行った。
インターホンを押すと「今出るからちょっと待ってと帰ってきた。
すると出てきた北村さんに面食らった。
水色のドレスを着てパンプスを履いて化粧もしている。
いつもの恰好と違うので驚きを隠せなかった。
「どうしたの?」
彼女は聞いてくる。
「いや、いつもと恰好が違うから……」
「だって今日夕方から結婚式でしょ?」
まさか結婚式に行く格好でデートをするなんて誰が思っただろう?
俺も一応スーツを着ていたが。
時間がもったいないからと前から約束していた映画を見に行った。
彼女は何も言わずじっと見ていた。
昼飯はピザが好きだというのでイタリアンのお店に行った。
彼女は和風パスタとピザを頼んでいた。
ピザはシェアして食べた。
「私の事面倒な女だと思っていませんか?」
そんな悪戯な質問を投げかけてくる彼女。
「そんなことないですよ」
普通に返す。
「だと、いいんですけど」
「どうしてそう思ったんだい?」
俺は美里に聞いていた。
「だって好き嫌いは多いし、嫌いなものは多いし」
彼女の基準は食べ物にあるらしい。
「君の好み聞くのは好きだよ」
好きな人の好きなものを聞きたい、当たり前の感情だと説明する。
「そうですか!?じゃあ好きな食べ物は握り寿司天ぷらうな重餃子すき焼き牛丼……」
「デザートとかはないのかい?」
「大福みたらし団子羊羹軽羹しぐれいこもち……」
逆にモンブラン等甘すぎる洋菓子は嫌いらしい。生クリーム・カスタードクリームは駄目なんだろうな。そう言えばフロート系の飲み物も頼んでないな、聞いてみた。
「私炭酸系やコーヒー苦手だから……」
なるほどね、覚えておこう。それも彼女のトリセツにつながるのだろう。
「やっぱり面倒くさいですよね」
彼女は落ち込んでいる。
「好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、はっきり言ってくれると俺も助かるよ」
精一杯のフォローはしたつもりだった。
「ならいいんですけど」
その後も彼女の好き嫌いについて話は盛り上がってレストランを出て式場に来た。
(4)
「なるほどな……」
渡辺君は栗林君の話をじっくり聞いていた。
「皆さんはどう思いますか?やっぱり面倒だと思いますか?」
北村さんが聞いていた。
「いいんじゃないのか?自分の好みを伝えてくれる女性。俺は良いと思うが。『何でもいい』といって後で文句を言われるよりはよほどいい」
渡辺君が言う。
「そうだな、残されるよりは作り手としても嬉しいかもしれない」
美嘉さんが言う。
「作るでお願いがあるんですけど」
「なんだ?」
「今度どなたか私に料理を教えてもらえませんか?」
「は?」
聞けば彼女は料理は苦手らしい。
「それなら私が教えてあげるわ。簡単なものでいいのよね?」
恵美さんが言う。
「はい、お願いします」
北村さんは言う。
「彼氏に作ってあげたいと思ったのね。その気持ち分かるわ」
恵美さんが快諾する。
「さっき好き嫌いの事言ってたけどうちの瑛大も大したものよ」
亜依さんが言う。みそ汁にジャガイモは入れるな。秋刀魚は骨が多いから嫌いだ。一つ一つの料理に難癖をつけるらしい。
「片桐君はどうなの?何でも食べるイメージあるけど?」
亜依さんの問いに答えたのは愛莉だった。
「冬夜君も好き嫌いあるよ。でも私の手料理だったら何でも食べてくれるって言ってくれたの」
赤飯や栗系は勘弁してほしいけどな。愛莉にそっと伝える。
「うぅ……分かった♪混ぜご飯系は駄目なんだね?」
「いや、釜飯とか鳥めし、高菜ご飯とかは食べるから……」
「……困った旦那様ですね」
愛莉はそう言って笑ってた。
そんな話をしてる間に会場は開く。
僕達は中に入った。
ウェディングドレス姿の咲良さんを見る。
皆が写メを取る。
僕は食い物に集中してる。
大丈夫、北村さんも同じだから。
披露宴が終ると二次会に行く。
二次会はいつものパーティ会場を借り切っていた。
そこでも食べる、とにかく食べる。
「冬夜君、檜山先輩たちに挨拶してあげよう?」
愛莉が言うので挨拶した。
「檜山先輩おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
「一緒になれたのも片桐先輩の~渡辺班のお蔭です~」
「2人の努力の結果だよ。僕たちはちょっと後押ししただけに過ぎない」
最後は二人の意思だと僕は言う。
愛莉も同感だったらしい。
「遠坂先輩はいつ結婚するんですか~?」
「再来年の2月15日かな」
そういやそう言ったな。
「挙式の日も決めてあるんだよ~」
ああ、言質とられてたな。
「ぜひ呼んでくださいね」
「うん」
挨拶を済ませると、再び食いに走る。
「みんな3次会もぜひ来てくれ。まだ祝う事がある。4年生は特に参加してくれ」
渡辺君が言う。
なんだろう?
(5)
檜山先輩たちは帰っていった。
新婚初夜だもん、仕方ないよね。
新婚旅行は前期が終わったら行くらしい。
お酒を飲めない組が帰って残りは大体来た。
朝倉さんと如月君は残ってるけど。
祝う事と関係あるんだろうか?
「皆来てくれてありがとう」
渡辺君が言う。
「まずは朝倉さんと如月君だが、この度婚約が決まった」
そう言うと2人に拍手が送られた。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとう」
「次に4年生の大体が就職の内々定が決まった」
「おお~」と皆が驚く。
中島君と渡辺君は市役所の内々定を取り付けたらしい。
誠はサッカー。
亜依さんと穂乃果さんは西松医院の看護師。
酒井君は酒井コーポレーションの社長就任。
石原君はETCで働くらしい。
佐(たすく)もバスケ部のある企業に就職が内々定決まったらしい。
僕は無事に瀬川税理士事務所の内々定をとりつけた。
愛莉を養うくらいの収入は見込めるみたいだ。
後は新居を探すくらいか。
僕達は卒業したら同棲する予定だ。
そのくらいの貯えはある。
その前に五輪を勝たなきゃいけないけど、どっちみち同棲は変わらない。
皆はお互いに祝いそして盛り上がった。
問題は渡辺班をどう引き継ぐかだが……。
「さすがに大学の事までは手が回らない。そこで大学内の取りまとめ役を決めたいんだが……」
渡辺君の中では決まっているようだ。
咲さんと西松君を指名した。
「この二人なら顔が広いしうってつけの人材だと思う。性格ももう大丈夫だ。どうだ皆?」
「そんな俺はそんな大役こなす自信がない!」
「私も無理です!」
二人は遠慮する。
「誰だって自信はないと思うよ。今の二人なら渡辺班を任せても良いと思う。大丈夫。最終的な判断は渡辺君がするんだ。大学で新人スカウトするとか精々そのくらいだよ。僕達が手が回らない点をサポートしてくれたらいい」
僕がそう言うと皆賛同した。
「確かに今の二人なら任せられるな。私達が卒業した後は任せたぞ」とカンナ。
「うん、二人なら問題ないわ。任せられる」と亜依さん。
「そうね、二人なら問題ないかもね。私も賛成」と恵美さん。
「そういうことなら……引き受けます」
「私も……異論はないです」
2人がそう言うと拍手が送られる。
「じゃあ、新しい渡辺班の形も決まったことだし乾杯と行こうか?」
「待ってください!俺からも言いたい事がある!」
そう言いだしたのは中島君だった。
「穂乃果!来てくれ」
一ノ瀬さんがきょとんとして前に出た。
「今まで苦労や心配をかけてきた……こんな事を言うのも図々しいと思う。でも……」
「中島、回りくどい前振りは無しにしろ!さっさと要件を言え」
美嘉さんが言う。
皆大体事情は察したのだろう。
静かに見守っている。
「穂乃果、就職も決まったことだし。卒業したら結婚してくれないか?」
そう言って中島君は指輪を差し出す。
一ノ瀬んさんは泣いている。
「嬉しい……ありがとう。よろしくお願いします」
皆のボルテージは最高潮に達する。
「皆!今日はめでたい日は。朝まで逃がさないからな!!」
美嘉さんが言う。
「もちろんっす!春奈!俺達も残るっす!」
「そうね。ところで晴斗はいつになったらプロポーズしてくれるの?」
「へ?」
「なんだ!?もう一組婚約確定か!?」
美嘉さんが言う。
「さーせん!もう少し待って欲しいっす!まだ俺学生だし」
「2人でバイトすれば生活くらいできるわ」
「そういうわけにはいかないっす!春奈に無用の苦労かけたくない!」
「春奈さん、焦ることはない。今まで通りでいいんだ。晴斗は必ずしてくれるよ」
渡辺君が言う。
「そう……じゃあ、お願いを聞いて」
「なんでも!」
「もっと会える時間を作って。私一人で寂しい」
それが焦る理由か。
「晴斗、バイトも大切だが彼女に寂しい思いさせないことはもっと重要だぞ?」
渡辺君が言う。
「夜でいいなら会いに行くっす」
「それでいいよ」
「晴斗もトーヤといっしょで真面目てっていうか、頑固だな」
カンナが言う。
「まあ、人それぞれ考えがあるんだろうさ」
中島君が言う。
「香織……俺達はあと一年あるけど卒業したら……」
「……その前に就職先決めてね」
亀梨君達もノリでプロポーズしてるようだ。
「佐はいつプロポーズしてくれるの?」
佐倉さんも飲んでるみたいだな。
絶対普段なら言わない言葉言ってる。
「桜子が卒業するまで待つよ」
佐が言うと皆が囃し立てる。
「今日はもう絶好調じゃねーか!他にプロポーズするやついねーのか!」
美嘉さんが言う。
とはいえ、残ってるメンバーは大体結婚済ませてるんじゃないのか?
「次の結婚式は誰だ!?」
「多分俺達です。10月に予定入れてる」
僕のオリンピックを考慮してくれたらしい。
「その次は!?」
美嘉さんが言う。
「多分俺達じゃないかな?」
誠が言い出した。
誠そんな事考えてたのか!?
「契約金の提示はしてもらえた。4月末には式場とってる」
カンナも初めて聞いたらしい。
目を丸くしてる。
「神奈の花嫁姿も見たいしな」
誠は照れくさそうに言う。
「じゃ、じゃあその次は僕が行きます」
石原君が言う。
「6月に恵美にウェディングドレスを着せてあげたい!もう社会人になるんだ。言い訳はできない!」
石原君も大分酒が回ってるようだ。大丈夫なんだろうか?
「じゃあ次は僕が!」と名乗り出る男性陣達。
これからも渡辺班の幸せ報告は続くんだろうな。
「じゃあ、景気づけに歌おうぜ!誰から行く!?」
「じゃあ、私行く!」
亜依さんが言う。
皆食べて飲んで歌って騒いで。
そんな宴は夜明けまで続いた。
朝になるとみんな解散する。
タクシーを拾って僕達は家に帰る。
家に帰るとシャワーを浴びて寝る。
愛莉はシャワーを浴びてる最中だ。
……愛莉待ってやらないと駄目かな?
とか、考えてると愛莉が戻ってきた。
髪を乾かしてる。
「先に寝ててもよかったのに」
「寂しい思いをさせたくなかったからね」
「わ~い」
愛莉は髪を乾かし終えるとベッドに入ってきた。
「来年はすごいことになりそうだね」
「そうだな、皆結婚していくんだな」
「……焦らなくていいよ」
「え?」
「こうしていることが幸せだから」
「……わかった」
「じゃ、少しでも寝よう?」
「そうだな」
次の祝い事は僕のオリンピックか。
祝い事にしないとな。
僕の最後の試練はあと2カ月に迫っていた。
お風呂を出て冬夜君の部屋に戻る。
すると冬夜君は出かける準備をしている。
どうしたんだろう?
冬夜君は私を見て行った。
「愛莉もお出かけの準備して」
「どこに行くの?」
「内緒」
冬夜君とだったらどこにでも行くと言ったから実行しないと。
一人で遊びに行かない。一人にしないで。
単なる我儘でも冬夜君は守ってくれてる。
海外の試合にまで連れて行ってくれるほどだ。
車さんに無茶させないって約束も守ってくれてる。
偶に、無茶させようとすることあるけど我慢してくれてる。
そんな冬夜君に「いや」とか言えない。
「わかった~」
そう言って着替える。
まだ夜は冷えると思った私はカーデガンを持って冬夜君と家を出る。
車は山の方へ向かった。
え?この方向って……。
私はあの時の悪夢蘇った。
冬夜君の従兄・勝也さんに連れられた時の悪夢を。
足が震える。
落ち着け、相手は冬夜君だ。勝也さんじゃない。
でも駄目なものはだめ。
怖いものは怖い。
どうして急に?
冬夜君も誠君みたいになっちゃったの?
私はその要求に応える自信は無い。
「冬夜君戻ろう?」
私は冬夜君に訴えた。
「大丈夫だから」
冬夜君は左手で私の右手を離さない。
男の人には分かってもらえないのだろうか?この恐怖は。
山の駐車場で、車は止まった。今でも鮮明に覚えてるあの景色。
あの時は雪が降っていたけど。
冬夜君は懐中電灯を手に車を降りる。
私は降りたくない。
冬夜君は助手席のドアを開ける。
「おいで」
「いや!」
首を振って拒絶した。
冬夜君分かってよ。
冬夜君はじっとしてる。
困ってるようだ。
冬夜君は私の手を掴む。
「愛莉は絶対に僕を離さないで。目を閉じてついてくるだけでいい。それなら怖くないだろ?」
冬夜君が私にそこまで無理強いするのは初めてだ。
冬夜君のする事には意味がある。今までずっとそうだった。
私は息をのむ。呼吸を整える。
そして冬夜君の腰を掴むと離さないようにくっついて歩く。
「昨日雨降ったからかな。ぬかるんでるな。愛莉足下気を付けてね」
「うん……」
どのくらい歩いただろう?
どこをどう歩いてきたのだろう?
全然見てなかったから分からない。
やがて冬夜君は立ち止まった。
「目を開けてごらん?」
言われた通り恐る恐る目を開ける。
眼前に広がるのは星と街の明りが入り混じった夢のような世界だった。
「綺麗……」
冬夜君は何も言わなかった。
私はその夜景にただ見とれていた。
こんなに綺麗な場所が地元にもあったんだ。
「綺麗だろ?」
「うん」
冬夜君はこれを私に見せたかったんだね?
「ありがとう……」
「大したことじゃないよ。今まで連れてこなかった僕にも責任あるし」
え?
冬夜君は悪くないよ?
私が嫌がってこなかっただけじゃない。
「愛莉が怖がってるから連れてこない。それが間違いだったんだ」
「どうして?」
「食わず嫌いはよくないよ」
「ほえ?」
「僕さ、グラタンが苦手だったんだ」
また食べ物の話?
冬夜君にも苦手な食べ物あるんだね。
「昔ジャガイモが嫌いでね。グラタンに入ってるジャガイモが食べれなくて残してたら父さんに叱られてさ。食べ終わるまで席を立つことを許されなくて。グラタンて冷えると不味いだろ?なおさら食べれなくなって負の連鎖が続いたんだ」
そんな事があったんだ。
泣きながらグラタンを食べてる冬夜君の姿。今では思いつかない。
「それからグラタンだけは食べれなくなってた。ずっとトラウマになってたんだろうな」
「でもこの前作った時食べてたよ?」
「ジャガイモ嫌いじゃなくなったからね。それにお嫁さんの作った料理残すなんてできないだろ?沢山の愛情の詰まった料理を残すなんて無理だ」
そんな風に思ってくれてたんだね。
「そう思ったら食わず嫌い克服できたよ」
「でも嫌いだったら嫌いって言ってくれたらよかったのに」
「愛莉を困らせたくなかったから」
「そっか~ありがとう」
「……今がまさにその状況なんじゃないのか?」
え?
「こんなに綺麗な場所があるのに愛莉はの事件で観れずにいた。凄くもったいない事をしてると思ったんだ」
「……そうだね」
「だったら僕に出来ることは愛莉にここはこんなにきれいな場所なんだよって教えてあげる事。そう思って連れてきた」
周りを見る。カップルがたくさんいる。
皆同じ思いで見てるのかな?
私と同じように幸せな思いで見てるのかな?
「ありがとう」
私は冬夜君にお礼を言った。
「もう大丈夫?」
私は黙ってうなずく。
「じゃ、そろそろ行こうか?」
「うん」
今度は目を開けて冬夜君と手を繋いで車に戻っていった。
冬夜君は車に戻ると時計を気にしてる。
どうしたんだろう?
「愛莉、まだ時間早いしちょっとぶらっとしていかないか?」
「どこに行くの?」
「山を走ろうと思って」
「うぅ……また車さんに無茶させるの?」
「違うよ。今日天気が良くて夜空が綺麗だろ?そんな星空の下ドライブも悪くないんじゃないかって」
冬夜君もそんな素敵な事考えてくれるんだね。
「わかった、いいよ。ただ明日昼には美容室行かないとだから……」
「うん、わかってる。そんなに遅くはならない」
「じゃあ、いいよ」
冬夜君は車を走らせる。
ゆっくりと夜空いっぱいの星を集めながら私達はのんびりドライブを楽しんだ。
(2)
「おはよう冬夜君、朝だよ~」
「うん……おはよう愛莉」
愛莉の機嫌は良い。理由はわかる。
しかし僕は眠い……もうちょっとだけ!
ぽかっ
「だ~め!日課はちゃんとしなきゃだめだよ!」
折角の機嫌の良い愛莉を悪くしたら意味がない。
ここは我慢して起きよう。
さっさと日課こなして寝よう。
全身に力を入れると起き上がって着替える。
着替えを終えると日課をこなしてシャワーを浴びて朝食を食べる。
チャンスは今だ!
コーヒーを入れて部屋に持って戻り、テーブルに置くと僕はベッドに入り込む。
少しでも、ほんの少しでも眠っていたかったんだ。
でも愛莉はそれを許さなかった。
コードレスのドライヤーを顔に近づけると強で吹き付ける。
「愛莉熱い!」
起き上がって愛莉に辞めるように言う。
「お嫁さんほったらかして寝るからいけないんだよ」
「出かけるのは昼からだろ?じゃあ、少しだけ寝させてよ」
「ふ~ん、そんな事言うんだ。お嫁さんに構ってくれないんだ」
こういう言い方をするときは嫌な予感しかしない。
「いいもん、冬夜君が構てくれないなら私家事してくるから」
ほらね。
「わかった!わかったから愛莉!」
後から愛莉に抱きついて部屋を出ていくのを止める。
愛莉は振り返るとにやりと笑う。
「最初からそうすればいいのに本当に困った旦那様ですね」
それからは愛莉とコーヒーを飲みながらテレビを見て。愛莉がキッチンにマグカップを持って行ってる間にネットを見る。
ネットのニュースをチェックしていると愛莉が戻ってくる。
時計はまだ9時。何をしよう?
愛莉はテレビを見ている。
僕はデスクトップを見ている。
愛莉がテレビに没頭してるならいっか。
ゲームを始める。
TPSと呼ばれるゲームで孤島に投下されたプレイヤーを殺しあって生き残るゲーム。
結構面白い。
もちろんそんなゲームに没頭するのを愛莉が許してくれるはずがなく、突然後ろから抱きついてくる愛莉。
「愛莉、今はまずい!!」
「構ってくれるって言ったもん!」
そうこうしてるうちにプレイヤーは死んでしまった。
大人しくログアウトする。
「構ってくれるなら構って欲しいって最初から言えば」
「言ったけど冬夜君がPCにむかっちゃったんじゃない?」
「どうすればよかったの?」
「う~んそこほら。私がテレビ見てるんだから『膝枕~』って抱きついてくれるとか……あっ!いいこと思いついた」
こういう時の愛莉の発想は大体ろくな事じゃない。
今日も類にもれなかった。
愛莉は耳かき棒を用意する。
「また、耳かきしてあげる~♪」
下手に抵抗して機嫌を損ねるのも得策じゃないな。
大人しく愛莉の太ももの上に頭を乗せる。
「うぅ……冬夜君は手入れしてるんだね。綺麗でやり甲斐が無いよ」
理不尽な文句を言われながらも愛莉に耳かきをしてもらう。
耳かきが終ると起き上がる。
「次は愛莉をすればいいの?」
「うん♪」
愛莉を膝枕してあげて耳かきを始める僕。
全神経を耳に集中させて耳かきに没頭する。
そうして耳かきが終わった。
「次はなにすればいい?」
「一緒にテレビ観よう?」
土曜日のこの時間のテレビなんてあまり興味が無いんだけど愛莉がそう言うなら仕方ない。
愛莉の隣に座ってテレビを見ている。
当然のように愛莉は僕にくっ付いてくる。
愛莉の柔らかい感覚が腕に伝わってくる。
愛莉は気にも止めてないようでテレビを見ては笑ってる。
時折スマホを見ながら。
正午前になると愛莉から解放される。
愛莉は昼食の仕度にとりかかる。
少しでも眠りたい僕はこの時とばかりに横になる。
この際床でもいいや。
しかし愛莉はすぐに戻ってくる。
「ラーメンのびても知らないよ!」
それは良くない。
慌ててダイニングに移動する。
昼食を食べると片づけるのは母さん。
僕達は出かける準備をすると美容室に向かう。
愛莉は青のドレスを着ている。
髪形もいつもと違う上品な髪形にセットしてもらいコサージュをつけている。
いつか買ってあげたイヤリングとネックレスをつけて愛莉の準備は終わった。
僕も髪形をセットしてもらい。準備は整った。
一度家に戻り母さんに車で式場に送ってもらう。
そして皆と会う。
「今日の二次会は俺達の就職祝いも兼ねてだからな、あと朝倉さん達のお祝いも兼ねて」
てことは渡辺班でやるのね。
その時驚いたのは北村さんの恰好だった。
ヘアスタイルはいつも通りいや、コサージュをつけている。
ネックレスは嫌がっていたけど爽やかな水色のドレスを着ていて。手にはバッグを持ちパンプスを履いて化粧もしている。アクセサリの類は一切してなかったけど、いつもの北村さんからは想像のつかない格好だった。
「だって結婚式でしょ、最低限の服装くらい用意します」
一番面食らったのは栗林君らしい。栗林君の話を聞いていた。
(3)
俺は、約束の時間に美里の家に迎えに行った。
インターホンを押すと「今出るからちょっと待ってと帰ってきた。
すると出てきた北村さんに面食らった。
水色のドレスを着てパンプスを履いて化粧もしている。
いつもの恰好と違うので驚きを隠せなかった。
「どうしたの?」
彼女は聞いてくる。
「いや、いつもと恰好が違うから……」
「だって今日夕方から結婚式でしょ?」
まさか結婚式に行く格好でデートをするなんて誰が思っただろう?
俺も一応スーツを着ていたが。
時間がもったいないからと前から約束していた映画を見に行った。
彼女は何も言わずじっと見ていた。
昼飯はピザが好きだというのでイタリアンのお店に行った。
彼女は和風パスタとピザを頼んでいた。
ピザはシェアして食べた。
「私の事面倒な女だと思っていませんか?」
そんな悪戯な質問を投げかけてくる彼女。
「そんなことないですよ」
普通に返す。
「だと、いいんですけど」
「どうしてそう思ったんだい?」
俺は美里に聞いていた。
「だって好き嫌いは多いし、嫌いなものは多いし」
彼女の基準は食べ物にあるらしい。
「君の好み聞くのは好きだよ」
好きな人の好きなものを聞きたい、当たり前の感情だと説明する。
「そうですか!?じゃあ好きな食べ物は握り寿司天ぷらうな重餃子すき焼き牛丼……」
「デザートとかはないのかい?」
「大福みたらし団子羊羹軽羹しぐれいこもち……」
逆にモンブラン等甘すぎる洋菓子は嫌いらしい。生クリーム・カスタードクリームは駄目なんだろうな。そう言えばフロート系の飲み物も頼んでないな、聞いてみた。
「私炭酸系やコーヒー苦手だから……」
なるほどね、覚えておこう。それも彼女のトリセツにつながるのだろう。
「やっぱり面倒くさいですよね」
彼女は落ち込んでいる。
「好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、はっきり言ってくれると俺も助かるよ」
精一杯のフォローはしたつもりだった。
「ならいいんですけど」
その後も彼女の好き嫌いについて話は盛り上がってレストランを出て式場に来た。
(4)
「なるほどな……」
渡辺君は栗林君の話をじっくり聞いていた。
「皆さんはどう思いますか?やっぱり面倒だと思いますか?」
北村さんが聞いていた。
「いいんじゃないのか?自分の好みを伝えてくれる女性。俺は良いと思うが。『何でもいい』といって後で文句を言われるよりはよほどいい」
渡辺君が言う。
「そうだな、残されるよりは作り手としても嬉しいかもしれない」
美嘉さんが言う。
「作るでお願いがあるんですけど」
「なんだ?」
「今度どなたか私に料理を教えてもらえませんか?」
「は?」
聞けば彼女は料理は苦手らしい。
「それなら私が教えてあげるわ。簡単なものでいいのよね?」
恵美さんが言う。
「はい、お願いします」
北村さんは言う。
「彼氏に作ってあげたいと思ったのね。その気持ち分かるわ」
恵美さんが快諾する。
「さっき好き嫌いの事言ってたけどうちの瑛大も大したものよ」
亜依さんが言う。みそ汁にジャガイモは入れるな。秋刀魚は骨が多いから嫌いだ。一つ一つの料理に難癖をつけるらしい。
「片桐君はどうなの?何でも食べるイメージあるけど?」
亜依さんの問いに答えたのは愛莉だった。
「冬夜君も好き嫌いあるよ。でも私の手料理だったら何でも食べてくれるって言ってくれたの」
赤飯や栗系は勘弁してほしいけどな。愛莉にそっと伝える。
「うぅ……分かった♪混ぜご飯系は駄目なんだね?」
「いや、釜飯とか鳥めし、高菜ご飯とかは食べるから……」
「……困った旦那様ですね」
愛莉はそう言って笑ってた。
そんな話をしてる間に会場は開く。
僕達は中に入った。
ウェディングドレス姿の咲良さんを見る。
皆が写メを取る。
僕は食い物に集中してる。
大丈夫、北村さんも同じだから。
披露宴が終ると二次会に行く。
二次会はいつものパーティ会場を借り切っていた。
そこでも食べる、とにかく食べる。
「冬夜君、檜山先輩たちに挨拶してあげよう?」
愛莉が言うので挨拶した。
「檜山先輩おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
「一緒になれたのも片桐先輩の~渡辺班のお蔭です~」
「2人の努力の結果だよ。僕たちはちょっと後押ししただけに過ぎない」
最後は二人の意思だと僕は言う。
愛莉も同感だったらしい。
「遠坂先輩はいつ結婚するんですか~?」
「再来年の2月15日かな」
そういやそう言ったな。
「挙式の日も決めてあるんだよ~」
ああ、言質とられてたな。
「ぜひ呼んでくださいね」
「うん」
挨拶を済ませると、再び食いに走る。
「みんな3次会もぜひ来てくれ。まだ祝う事がある。4年生は特に参加してくれ」
渡辺君が言う。
なんだろう?
(5)
檜山先輩たちは帰っていった。
新婚初夜だもん、仕方ないよね。
新婚旅行は前期が終わったら行くらしい。
お酒を飲めない組が帰って残りは大体来た。
朝倉さんと如月君は残ってるけど。
祝う事と関係あるんだろうか?
「皆来てくれてありがとう」
渡辺君が言う。
「まずは朝倉さんと如月君だが、この度婚約が決まった」
そう言うと2人に拍手が送られた。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとう」
「次に4年生の大体が就職の内々定が決まった」
「おお~」と皆が驚く。
中島君と渡辺君は市役所の内々定を取り付けたらしい。
誠はサッカー。
亜依さんと穂乃果さんは西松医院の看護師。
酒井君は酒井コーポレーションの社長就任。
石原君はETCで働くらしい。
佐(たすく)もバスケ部のある企業に就職が内々定決まったらしい。
僕は無事に瀬川税理士事務所の内々定をとりつけた。
愛莉を養うくらいの収入は見込めるみたいだ。
後は新居を探すくらいか。
僕達は卒業したら同棲する予定だ。
そのくらいの貯えはある。
その前に五輪を勝たなきゃいけないけど、どっちみち同棲は変わらない。
皆はお互いに祝いそして盛り上がった。
問題は渡辺班をどう引き継ぐかだが……。
「さすがに大学の事までは手が回らない。そこで大学内の取りまとめ役を決めたいんだが……」
渡辺君の中では決まっているようだ。
咲さんと西松君を指名した。
「この二人なら顔が広いしうってつけの人材だと思う。性格ももう大丈夫だ。どうだ皆?」
「そんな俺はそんな大役こなす自信がない!」
「私も無理です!」
二人は遠慮する。
「誰だって自信はないと思うよ。今の二人なら渡辺班を任せても良いと思う。大丈夫。最終的な判断は渡辺君がするんだ。大学で新人スカウトするとか精々そのくらいだよ。僕達が手が回らない点をサポートしてくれたらいい」
僕がそう言うと皆賛同した。
「確かに今の二人なら任せられるな。私達が卒業した後は任せたぞ」とカンナ。
「うん、二人なら問題ないわ。任せられる」と亜依さん。
「そうね、二人なら問題ないかもね。私も賛成」と恵美さん。
「そういうことなら……引き受けます」
「私も……異論はないです」
2人がそう言うと拍手が送られる。
「じゃあ、新しい渡辺班の形も決まったことだし乾杯と行こうか?」
「待ってください!俺からも言いたい事がある!」
そう言いだしたのは中島君だった。
「穂乃果!来てくれ」
一ノ瀬さんがきょとんとして前に出た。
「今まで苦労や心配をかけてきた……こんな事を言うのも図々しいと思う。でも……」
「中島、回りくどい前振りは無しにしろ!さっさと要件を言え」
美嘉さんが言う。
皆大体事情は察したのだろう。
静かに見守っている。
「穂乃果、就職も決まったことだし。卒業したら結婚してくれないか?」
そう言って中島君は指輪を差し出す。
一ノ瀬んさんは泣いている。
「嬉しい……ありがとう。よろしくお願いします」
皆のボルテージは最高潮に達する。
「皆!今日はめでたい日は。朝まで逃がさないからな!!」
美嘉さんが言う。
「もちろんっす!春奈!俺達も残るっす!」
「そうね。ところで晴斗はいつになったらプロポーズしてくれるの?」
「へ?」
「なんだ!?もう一組婚約確定か!?」
美嘉さんが言う。
「さーせん!もう少し待って欲しいっす!まだ俺学生だし」
「2人でバイトすれば生活くらいできるわ」
「そういうわけにはいかないっす!春奈に無用の苦労かけたくない!」
「春奈さん、焦ることはない。今まで通りでいいんだ。晴斗は必ずしてくれるよ」
渡辺君が言う。
「そう……じゃあ、お願いを聞いて」
「なんでも!」
「もっと会える時間を作って。私一人で寂しい」
それが焦る理由か。
「晴斗、バイトも大切だが彼女に寂しい思いさせないことはもっと重要だぞ?」
渡辺君が言う。
「夜でいいなら会いに行くっす」
「それでいいよ」
「晴斗もトーヤといっしょで真面目てっていうか、頑固だな」
カンナが言う。
「まあ、人それぞれ考えがあるんだろうさ」
中島君が言う。
「香織……俺達はあと一年あるけど卒業したら……」
「……その前に就職先決めてね」
亀梨君達もノリでプロポーズしてるようだ。
「佐はいつプロポーズしてくれるの?」
佐倉さんも飲んでるみたいだな。
絶対普段なら言わない言葉言ってる。
「桜子が卒業するまで待つよ」
佐が言うと皆が囃し立てる。
「今日はもう絶好調じゃねーか!他にプロポーズするやついねーのか!」
美嘉さんが言う。
とはいえ、残ってるメンバーは大体結婚済ませてるんじゃないのか?
「次の結婚式は誰だ!?」
「多分俺達です。10月に予定入れてる」
僕のオリンピックを考慮してくれたらしい。
「その次は!?」
美嘉さんが言う。
「多分俺達じゃないかな?」
誠が言い出した。
誠そんな事考えてたのか!?
「契約金の提示はしてもらえた。4月末には式場とってる」
カンナも初めて聞いたらしい。
目を丸くしてる。
「神奈の花嫁姿も見たいしな」
誠は照れくさそうに言う。
「じゃ、じゃあその次は僕が行きます」
石原君が言う。
「6月に恵美にウェディングドレスを着せてあげたい!もう社会人になるんだ。言い訳はできない!」
石原君も大分酒が回ってるようだ。大丈夫なんだろうか?
「じゃあ次は僕が!」と名乗り出る男性陣達。
これからも渡辺班の幸せ報告は続くんだろうな。
「じゃあ、景気づけに歌おうぜ!誰から行く!?」
「じゃあ、私行く!」
亜依さんが言う。
皆食べて飲んで歌って騒いで。
そんな宴は夜明けまで続いた。
朝になるとみんな解散する。
タクシーを拾って僕達は家に帰る。
家に帰るとシャワーを浴びて寝る。
愛莉はシャワーを浴びてる最中だ。
……愛莉待ってやらないと駄目かな?
とか、考えてると愛莉が戻ってきた。
髪を乾かしてる。
「先に寝ててもよかったのに」
「寂しい思いをさせたくなかったからね」
「わ~い」
愛莉は髪を乾かし終えるとベッドに入ってきた。
「来年はすごいことになりそうだね」
「そうだな、皆結婚していくんだな」
「……焦らなくていいよ」
「え?」
「こうしていることが幸せだから」
「……わかった」
「じゃ、少しでも寝よう?」
「そうだな」
次の祝い事は僕のオリンピックか。
祝い事にしないとな。
僕の最後の試練はあと2カ月に迫っていた。
0
あなたにおすすめの小説
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる