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LASTSEASON
暗闇も光るなら星空になる
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(1)
亜依さんと穂乃果さんの件が片付くとお笑いコンビ「ますたーど」の単独ライブが行われた。
いつもはALICEのライブの前座で行われているらしい。
評判は順調なようだ。
単独ライブが終ると皆が拍手していた。
酔いが回っていて盛り上がっていただけかもしれないが。
二人はマネージャーと一緒に恵美さんが僕達のもとにつれてきた。
「あなたが有名な片桐冬夜選手ですね。お会いできて光栄です」
三人は揃って礼をした。
「そんなにかしこまらなくていいよ。今はただの社会人なんだから」
「でも先輩の事は地元大では伝説になってるっすよ」
晴斗が言う。
少し話をすると三人は自分の席に戻った。
「どうして三人を渡辺班に?」
僕は恵美さんに聞いていた。
「宴会の盛り上げ役にと思ってね。彼女達の場慣れにもなるし」
なるほどね。
「それよりそっちの方はどうなの?うまく生活出来てる?愛莉ちゃんの相手してる?」
「さっき言った通りだよ。愛莉が何でもこなしてしまうから。無理し過ぎないように休日に休ませようとするんだけど、やっぱり愛莉に負担掛けてしまって」
そう言うと「そんなことありませんよ」と愛莉は笑って言う。
「冬夜さんは素敵な旦那様です。まっすぐ帰ってきてくれるし、夜遊びくらい覚悟してたけど、歓迎会に出席したくらいだし」
4月の祝日にゴルフコンペに行くのに態々申し訳なさそうに言うの。仕事みたいなものなのにね。と愛莉は笑って言う。
「あら?片桐君ゴルフ始めたの?」
晶さんが言って来た。
「プロゴルファーにでもなるつもり?」と晶さんが聞いてくると「ただの接待ゴルフだよ」と答えた。
その後も色々な人に色々質問されたけど、共通して言えることは「今の生活は楽しいよ」という事だけ。
愛莉も同じだった。幸せな毎日を送ってるらしい。
「とーやはちゃんと嫁さんの相手してやってるんだな感心感心」と美嘉さんが言う。
「話題変えてもいい?」
恵美さんに聞いていた。
「ええ、いいわよ?」
「あの吉野さんて人なんだけど、大原君と出来てる?」
「なんで分かったの?」
「そんなの見たらわかるよ」と僕は答えた。
「相変わらず観察眼は鋭いわね」
恵美さんが驚く。
「その観察眼を見込んでお願いしたいのですが」
西松君が4人を連れて来た。
「この4人なんだけどどう思いますか?」
桜木さんは梅本君を拒絶してる、でも無関心なわけじゃない少し興味をもっている。合宿でどうにかなるかもしれない。
小鳥遊さんは無関心だったけどさっきの事件で少し恋愛に興味を示したようだ。後は月見里君の頑張り次第。
だけど……。
「僕が色々口出ししていいの?」
僕は西松君と咲さんに言う。
「渡辺班は君達の代に世代交代したんだろ?君達でどうにかするべきなんじゃないの?どうしても助言が欲しいならするけど」
「冬夜、俺からもお願いしていいか?代替わりしたとはいえ、俺のグループには変わりない。アドバイスくらいしてやってもいいんじゃないかと思うんだが」
渡辺君が言うので「じゃあ、遠慮なく」と意見を言わせてもらった
「まず桜木さんだっけ?」
「はい?私がどうかしたのか?」
桜木さんは警戒心丸出しだ。
「君が思ってるほど、梅本君は軽い子じゃないよ。遊び友達程度で付き合ってみたらどうかな?」
「私に言い寄ってくる男はろくな男がいない、梅本もいきなり隣に座ってきたりチャラそうだしあり得ない」
僕は笑って言った。
「思ったより純粋なんだね君は。その警戒心は見た目からだね?」
「そうだよ、見た目で人を判断する奴ろくでもないやつばかり言い寄ってくるんだ」
「なおさらだ。梅本君なら、君の警戒心を解いてくれる。そうだね?梅本君」
「こんな素敵な彼女できるなら、一生大事にしますよ」
「恋人になれとは言わない。まずは遊び友達程度から始めてみたらどうだい?」
僕は桜木さんに言うと桜木さんは考え込んでしまった。
「合宿に参加したら多分梅本君は変わると思うよ」
「そこまでいうなら、友達程度なら……」
「まじで、やった。よろしく」
「か、勘違いするなよ!ただの友達だからな!」
桜木さんはそう言う。
「その合宿って参加する意味あるんですか?」
小鳥遊さんが言う。
「それは君自身がわかってるんじゃない?」
「どういう意味ですか?」
「さっき言った通り、恋愛って綺麗ごとばかりじゃないんだ。夫婦ですらあの始末だ。それでも二人が惹かれあうのが恋愛なんだ」
そしてそんな2人に興味を示した。違うかい?
「私が月見里君に恋をする保証はあるんですか?」
僕はくすりと笑って言った。
「すでに月見里君に興味を示しているじゃない」
僕が言うと彼女は気づいたようだ。
「最初はそれでいいよ、それだけで合宿に参加する意味はある。大丈夫、彼は誠実だよ」
小鳥遊さんは黙ってしまった。
「僕がとやかく言うのはここまでにしておくよ。また何か困ったことがあったら聞いておいで。合宿の時とかに相談に乗るから」
「じゃあ、ゆっくり話しない桜木さん。話したいことはたくさんあるんだ」
そう言って梅本君は桜木さんと一緒に席に戻っていった。
「あなたはどうなの?月見里君」
「そ、そうですね。折角ですからお話しませんか?」
月見里君がそう言うと二人も席に戻っていた。
「相変わらずですね。あっさりと攻略してしまう」
「やっぱり冬夜君には敵わないわ」
西松君と咲さんが言う。
「これからが大変だよ。彼等はまだスタートラインにすら立ってないんだ。そこまで誘導しなくちゃいけない」
僕が言うと二人はうなずいた。
「片桐先輩」
秋吉君と有栖さんが来た。
「片桐先輩のお蔭で僕達……」
「話は聞いてるよ、おめでとう」
二人は電撃入籍した。すでに引越しも済ませて二人で生活してるらしい。
「有栖、新婚生活はどう?」
「楽しいです。こんな幸せははじめて」
愛莉が聞くと有栖さんは答えた。
その後も色々な人が僕と渡辺君の元に挨拶に来る。
おかげで食事をする暇がない。
お酒もそこそこに抑えた。
するとあっという間に時間は過ぎる。
「お客様、ラストオーダーの時間です」
「じゃあ、僕は日本酒で」
「私はウーロンハイ」
僕と愛莉が注文する。
「この後二次会を予定してます。来れる方は……」
西松君が仕切ってる。
時間になると帰る人と挨拶をする。
「神奈帰るの?」
「残りたいんだけどな。明日仕事なんだ」
「じゃあ、次は神奈の結婚式だね」
「そうだな。愛莉もトーヤの世話大変だと思うけど」
「冬夜さんは優しいよ」
「そうか。じゃ、またな」
そう言って神奈と誠は帰っていった。
「私らも帰るわ。明日日勤なんだ。」
「私は準夜勤だけど隆司君が今夜は休めって言うから」
桐谷夫妻と中島夫妻も帰るらしい。
真鍋夫妻、丹下夫妻、新名夫妻、木元夫妻、檜山夫妻、佐、佐倉さん、公生と奈留も帰るらしい。
「とーや達は付き合うよな?」
僕は愛莉の顔を見る。
「冬夜さんに任せます。明日はお休みですし。ただ飲み過ぎには気を付けてくださいね」
「じゃ、残ろうか?」
「はい」
僕達は残ることにした。
そして2次会組はいつものカラオケ屋にむかった。
(2)
二次会はカラオケで盛り上がった。
僕と愛莉は渡辺君と美嘉さんと話をしていた。
小鳥遊さんと月見里くんは月見里君が色々話題を振っている。
小鳥遊さんはその話をつまらなさそうに聞いてる。
最初はしかたない、月見里君もきっと初めての経験なんだろう?
手探りで彼女の好みを探ることも重要な事だ。
桜木さんと梅本君も苦戦してるようだ。
彼もいつもの話術が桜木さんには通用しなくて苦戦してるようだ。
それでも何とか彼女の興味を引こうと頑張っている。
二組とも合宿までには何かしら進展があるだろう。
それが楽しみだ。
吉野さんと大原君は何の問題も無い。
二人で歌って話して楽しんでいる。
相思相愛というやつだろう。
「篠原さんにも相手を探してやらないとな」
渡辺君が言う。
「渡辺君は仕事どうなの?」
僕が聞いていた。
「相変わらずだよ、仕事が滞ってな。無駄に残業時間だけが増える」
渡辺君も苦労してるようだ。
「冬夜はどうなんだ?仕事は順調か?」
「まあね、ちょっと残業が増えてきたけど」
月末だし、仕方ないと僕は言う。
「まあ、順調そうでなによりだ」
渡辺君はそう言ってもう次のおかわりを頼んでいる。
「社会人組は大変そうだから気になってな。2次会に参加してないし」
そう言えばそうだな。週末くらいゆっくりしたい。そんな感じなんだろうか?
「ボーナスもらう頃には変わってるよ、仕事のコツ覚えて効率よくこなせるようになる」
美嘉さんが言う。
「それまでは愛莉も大変だと思うけど。頑張ってとーや支えてやれ」
「冬夜さんが無理してないか不安で……」
え?
「どういう意味だ?」
美嘉さんが聞いていた。
「花菜とかから聞いた話だと、社会人になると飲みに行ったりで帰りが遅くなるって話なのに冬夜さん毎日帰りがはやいの。仲間の付き合いも大事だと思うのに冬夜さん無理に断って帰ってきて孤立してるんじゃないか?って」
「歓迎会にちゃんとでたろ?」
「でもそれだけじゃないですか?やっとゴルフコンペがあるから休みを一日使うからごめんて言い出して……無理させてるんじゃないか?ってやっぱり不安で」
「ははは、遠坂さん、俺だって同じだよ。そんなに毎日飲み会があるわけじゃない。職場によって違うんだよ」
渡辺君が言った。
「そうだよ愛莉。うちの職場は世帯持ちが多いんだ。そんなに毎日飲んで遊ぶような余裕なんてないんだよ。職場の人も言ってくれてる『今のうちに彼女に優しくしておけ』って」
「ならいいんですが……」
「それに愛莉帰りが遅いと帰るまで待ってるだろ?お嫁さんにそんな無理させられないよ」
「やっぱり、無理してるじゃないですか?男には一人で飲みたいときもあるって主人が言ってたって花菜が言ってました」
「僕は愛莉と二人で飲んでる時の方がリラックスできるからそれでいいんだ。愛莉が心配しないでも息抜きさせてもらえてる。大丈夫だよ」
「それならいいんです。でも無理しないでくださいね?」
「わかってる。ありがとう」
「とーや達みたいなのをおしどり夫婦っていうんだろうな」
美嘉さんが言う。
「先輩たち話ばっかりしてないで歌って参加してください!」
咲さんが言う。
「ああ、俺達は色々話があるんだ。若い奴等で盛り上がってくれ」
「そう言う話なら私達も混ぜてもらおうかしら。ねえ望?」
「そうですね」
「善君もまぜてもらいなさいな」
「そうだね」
石原夫妻と、酒井夫妻が混ざった。
石原君は本業と副業の両立が大変、酒井君は毎日大取引の商談で大変なんだそうだ。
酒井君は新任で社長だもんな。石原君も副業の方が大変そうだ。
酒井君は晶さんの「映画が見たい」で数件の企業を破綻させたらしい。……大変みたいだ。
「その程度でつぶれる雑魚なんていちいち気にしていたらきりがないわよ。善君」
社長より権力ありそうだな。晶さん。
「片桐君は愛莉ちゃんの相手してるの?」
恵美さんが聞いていた。
「うん、休日はなるべく愛莉の相手してる。でも愛莉家事が忙しいから。私の仕事だからって手伝わせてもくれないし」
「冬夜さんは普段仕事してるのだからゆっくり休んでください。最近ゲームもしてないじゃないですか?」
私はちゃんと昼間に青い鳥に行ったりしてるから。やっと家事にも慣れてきたから気にしなくていいんですよ。と愛莉は言う。
「構ってもらえてるのね、それならよかったわ」
「休日出勤までしてるのよ、善君は」
二人とも自分から言わないと全く構ってくれないらしい。
けど愛莉にはそう言う不満は一切ないらしい。
愛莉は本当に幸せそうに話す。
それを聞いて僕は安心していた。
どうやらちゃんと亭主としての役割を果たせてるらしい。
そんな愛莉の自慢話を皆聞いて、朝まで盛り上がっていた。
朝になると始発で帰る。
家に帰ると着替えてスーツをしまって、シャツは洗濯機に入れる。
風呂に入ると愛莉が風呂に入ってる間寝室でテレビを見ながらネットを見る。
大した記事はない。
「まだ起きてらしたんですか?」
愛莉が戻って来た。
愛莉はドライヤーで髪を乾かす。
髪を乾かし終えると僕の隣に座ってじっとノートPCを見てる。
愛莉の意図がわかった僕はノートPCをたたむ。
「今日はゆっくり寝ようか?」
「はい」
愛莉は笑顔でそう言うとベッドに入る。
愛莉に重なり耳元で6文字の伝言を伝える。
愛莉は喜んで「ありがとうございます。今私はとても幸せです」と言う。
重なったまま僕達は二人で静かに眠りついていた。
愛莉は僕の胸に耳を当てて鼓動を確かめるように。
僕は小さな愛莉の体を優しく包み込むように。
(3)
目の前にいる男は「話をしませんか?」と言っておきながら何も話しかけてこなかった。
ただ飲み物をのみながら食べ物をつまんでいるだけ。
彼も私と同じように相手に興味がないんだろうか?
偶に目が合うと視線を慌てて逸らす。
私に声をかける者が使ってくる常套句「君の連絡先教えてよ」の一言もない。
このまま彼とにらめっこしてても状況が変わらない。
仕方ないから私から切り出してみた。
「私に話があったんじゃなかったの?」
「あ、そうですね……すみません」
すみませんっていうのは、その場のノリで言ってしまっただけだという事なのだろうか?
このまま帰っても良かった。
家に帰って勉強したかった。
「2人とも医学部だっけ?」
深雪先輩が声をかけてきた。
この人の凄さは知ってる。卒業してからわずか2年の間に次々と難しい手術をこなしている。外科医の羨望の的。
しかも彼女の担当する患者の死亡率はゼロだという。
奇跡のような医者。私も深雪先輩のようになりたい。
「そうです、医学部です」
彼が口を開いた。私はちょっとイラっと来た。
私には一言だけだったのに。
「専攻は?」
「全身科医です。一つでも知識を覚えたくて」
「そう。あなたの親も医者なの?」
「はい、姫島で小さな診療所を開いてます」
「それで全身科医ね……」
「ええ、一人でも多くの命を救いたいと思って」
気づいたら彼の身の上話に夢中になっていた。
深雪さんはそんな彼の話を聞いてくすっと笑って私を見る。
「小鳥遊さんもこんな風にすればいいのよ」
え?
「彼はあなたという女性を前にして緊張して喋れないの。だったらあなたから優しく心の扉を開いてあげたらいい」
「……それはどういう意味ですか?」
その回答はなんとなく想像ついた。
「あなたもまた彼の事が気になっているんじゃないの?」
それが恋愛感情なのかはわからないけど、深雪先輩はつけ足した。
「どうしてそんな事がわかるんですか?」
「あなたも医者の卵なら覚えておいた方がいいわ。患者がすべてを正直に話すわけじゃない。患者自身が気づいてない事だってある。そういう事に敏感でなければならない」
患者の心を読みとってやるのも医者の大事な仕事だと深雪先輩は言う。
この人は私の心を読んでいた。
「ここまで言えばあとは分かるわよね。若者二人でごゆっくりどうぞ」
そう言って深雪先輩は別のテーブルに移動した。
「……深雪先輩はすごいですよね。雑誌にも載っていました」
彼が初めて話しかけてきた。
「あなたもそう思ってるんだ?」
「彼女の言葉に胸を打たれました……善悪の彼岸ってわかります?」
「ええ知ってるわ」
物事には善悪の基準なんてないという既存の道徳を真っ向から否定した哲学。
「彼女はインタビューでこう言ったんです『医者の前には善人も悪人もない。金持ちも貧乏も関係ない。ただ一人の病に苦しむ患者にすぎない。医者とはそうあるべきだ』って……。父の理想がそこにありました」
「それであなたも医者を?」
「最初医者にあまり良いイメージなかったんです。金持ちで金の為だけに必要ない薬を売りつける。そんなイメージをもってました。父さんもそんな医者の仲間なのかと嫌悪したことがあります。でも彼女の言葉で父の目指していることが分かりました。父があんな態々あんな僻地に診療所を作った意味が理解できました」
気づいたら彼の話に聞き入ってた。
私が父親を嫌悪している理由と同じだったから。私は親のような医者になりたくない。深雪先輩のような医者になりたい。その一心で勉強してきた。いつか父を見返そうと思って医学の道を目指した。私と彼は理由は正反対だけど目指すところは一緒にある。
「で、話は変わるんですけど。僕は小さな診療所の島の診療所の医者の息子にすぎません。学費を払ってもらうのが精一杯でバイトをしないと生活もやっていけない。あなたの様な人を恋人なんて恐れ多くて……」
「……善悪の彼岸。非常に興味がある話題だったわ」
「え?」
私は彼の手を握っていた。
「もっとあなたと話をしたいと思った。お互いの思う医師の理想像について」
私は分かった。単なる仲のいい友達だけじゃない。愛を語りあうだけが恋なんかじゃない。同じ志を持つものが手を取り合って同じ道を歩んでいくやり方もあるんだって。
そう、たった今私は恋に落ちた。
「ねえ?私が思ったことを言わせてもらってもいい?」
「なんですか?」
「あなたが目指す道ってあなた一人じゃとてもじゃないけどやっていけない。そうは思わない?」
「そうですね、父も母と二人三脚で地道にやってますから」
「ならば私達もそうあるべきじゃない?診療所だって医者が何人いたっていすぎって事はないでしょ?」
「僕の家は本当にぎりぎりでやってるんです。医者を増やす余裕なんてない」
鈍いのね。私に最後まで言わせたいの。いいわ。私も初めての恋だもの。私から言ってあげる。
「馬鹿ね、家族になってしまえば給料は発生しないでしょ?」
「え!?」
彼は驚いていた、でも首を振った。
「無理ですよ。僕には余裕が無いんだ。小鳥遊さんを遊びに連れて行ってやることもできない。プレゼント一つ買えやしない。それに自分を弁えてる。あなたは綺麗だ。僕は何の取り柄もない」
どこまでも謙遜する。自虐的な人。そんなあなたの理想に私は惹かれた。
「デートが出来なくても愛を語ることは出来る。言葉が無くても心に花を咲かせることはできる。私にはデートもプレゼントもいらない。でもあなたから受け取った物ならたった一つある」
「え?」
彼は戸惑っている。
「それは理想。あなたと理想を共有したいと思った。そもそもデートの定義ってなに?私は二人でいる事が出来るならそれでいいと思ってる」
「それって……、小鳥遊さんは僕と……」
「一緒の道、歩かせてください」
私が心から願ったこと。
「こんな苦学生でいいならよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
思ってもみなかった。渡辺班は本当に不思議な縁を引き寄せてくれる幸せのグループ。
私には必要ないと思っていた感情をいとも簡単に与えてくれた。
折角の贈り物。
大切にしようと思った。
(4)
私は困惑していた。
「友達からでもいいから」
それならと、承諾したのはいいが。彼・梅本永遠は隣に座ってこそいるものの他の女性と楽しそうに喋っている。
特異のトーク力を駆使して連絡先を交換していた。
もちろん他の男性陣から不快感を買っていた。
だけどそんな事お構いなしに彼は2次会を楽しんでいる。
どういうつもりなのだろうか?
「どうしたの桜木さん?なんかつまらなさそうにしてるけど?」
咲先輩が声をかけてきた。
「いえ、特に……」
私は梅本君を見る。
その視線に気づいた咲さんはにやりと笑う。
「おい、梅本!誰の相手をしてるんだ?お前の相手は桜木さんだろ!」
咲さんがそう言う。
別にそう言うつもりは無い。
「あ、ごめん。祥子ちゃん。祥子ちゃんはこういうノリ嫌いなのかなと思って」
「そういうわけじゃねーよ」
ただ予想外の展開に困惑してるだけ。
「折角の俺達の歓迎会だぜ。一緒に楽しまなきゃ損だって」
梅本はそう言って笑う。
「ほらこれ」
梅本は私にカラオケの端末を渡す。
「まずはなんか歌おうよ。デュエットの相手なら受け付けるよ」
後半の部分は無視するとして、確かに楽しまなきゃ損だ。
歌って気分を晴らそう。
私は曲を入力する。
順番が来るとうたった。
こんな人生にどんな意味があるの?
何のために生まれてきたの?
繰り返す日々に何の意味があるの?
そんな疑問を詠った歌。
「へえ、そんな歌知ってるんだ?俺も結構ファンでさ」
歌い終わったあと梅本がそう言った。
「人生にどんな意味があるの?何のために生まれてきた?繰り返すだけの日々に何の意味がある?かあ、難しいよね。その歌が主題歌の映画見た?主演の人がめっちゃカッコよかった」
「私原作派なんだ……全然マッチしてない」
「あ、そうなんだ。俺原作ぜんぜん知らないんだよね」
いるんだよな、こういう奴。お前にその作品の何を知ってるんだと問い詰めたくなる。
「……そういうことじゃね?人生の意味なんて。何の為にうまれてきたの?繰り返す日々に何の意味があるの?って」
「どういうことだよ?」
「同じ人間は二人もいない。映画一つとっても人それぞれなんだよ。でもどれが正解なのか?自分でしか決着つかないっていうかさ」
「……つづけろよ」
「先輩たちを見て同じ事言える?」
梅本が言うと私は先輩たちを見た。意味もなく騒いで、ただひたすら楽しんで。そしてまた同じ日々を繰り返す先輩達。
「さっき話してたんだけどさ、先輩たち2年前に抗争に巻き込まれたんだって」
テレビでやってたやつか……確かユニティ。
「そん時思ったらしいんだよね。平穏が一番だって。繰り返す日々を楽しむのが一番だって。それからも先輩たちはこうやって集まって飲み会して騒いでるらしい。それに意味がないと祥子ちゃんは思うかい?」
平穏な日々に、退屈な日々に、繰り返す毎日に意味などあるか?
言葉にすると退屈だけど、それはかけがえのない平穏なんだろう。
「繰り返し芽吹く一瞬こそ全て」
梅本がそう言った。
「俺もそんなに偉そうな事言えないけどさ。今という瞬間に意味があれば後は深く考える必要ないんじゃね?今の積み重ねが明日という今に繋がるんだから」
喜びを喜び、悲しみを悲しみ。命を生きて、目覚めたまま夢見よ。
梅本の言葉に聞き入っていた。
「どしたの祥子ちゃん。そんな思いつめた顔して。同じ今を生きるならもっと明るく生きて行こうよ。将来の事なんて考えたってしょうがないって。考えてる間に未来はくるんだから」
繰り返し芽吹く一瞬こそすべて……か。
「梅本の言う事が正しいのかもしれねーな」
「それはわかんねーよ」
梅本は否定した。
「どんな人生が正しいかなんて最後に決めるのは自分なんだから。そんな簡単に結論付けられるもんでもないっしょ?」
「そうだな」
「やってみないと分かんない事がほとんどなんだって。出たとこ勝負っていうの?これから先何が起こるか分かんないんだから。これからも同じ日々を繰り返すって保証はなにもないんだから。その時に後悔しないように今を楽しもうよ」
梅本は今が良ければいいと思ってるらしい。梅本の全部を受け入れるつもりは無いが今の梅本は共感できる。
「そうやって今まで女性を口説いてきたのか?」
「気づいたら仲良くなってた。で、気付いたら別れてた。それの繰り返しだよ。もちろん毎回思うよ『これが最後の恋愛にしたい』ってでも実際付き合ってみないと分からないことってあるっしょ」
頭ごなしに、体目当てで付きまとってるって否定するのはおかしい。そう言う事なのか?
「念のため聞くが今フリーなのか?」
「俺みたいな男だからな。一時の恋ってやつ?飽きたらポイ捨てだよ」
梅本はそう言って笑う。その笑顔の裏にどれだけの涙を隠しているんだろう?
「デュエット曲歌いたいって言ってたな?なんでもいいか?」
「まじ!?歌ってくれるなら何でも歌っちゃいますよ!」
私は端末を借りると曲を入れる。
そして順番が回ってくると梅本と歌う。
君に出会えてよかった。
「なにこれ!?ひょっとして俺振られたわけ!?マジショックなんだけど?」
そう言って落ち込んでる梅本を見て笑っていた。
朝になると、皆カラオケ屋を出て解散する。
私達は電車で帰る。
路線が違う私達は改札口で別れる。
「じゃ、またね」
そう言って立ち去ろうとする梅本を捕まえた。
「どうしたの祥子ちゃん」
「肝心な事忘れてねーか?」
「え?」
本当にこいつチャラ男なのか?それとも私の事なんて眼中にないのか?
「お前他の女の連絡先は聞いてて本命の私のは聞かずに帰るつもりか?」
「教えてくれるんなら、喜んで聞くけど」
「ああ、友達に教えるくらい普通するだろ」
「それもそうだな。んじゃ教える」
そうして連絡先を交換する。
「いけね!電車出る。急がないと!じゃあ、また祥子ちゃん」
「ああまたな」
そう言って手を振って梅本を見送る。
あいつにとっては数えきれないほどいる女性の一人なんだろうけど。
私にとってはたった一人の男性の連絡先だった。
もう二度と恋愛なんてしないと思ってたのにな。
渡辺班の魔法は本物らしい。
凍てついた私の心を溶かしてくれた。
(5)
起きたのは夕方だった。
愛莉はいない。
リビングでテレビを見ていた。
「おはようございます」
僕に気づいた愛莉はにこりと笑ってそう言った。
「どうして起こしてくれなかったの?」
「朝まで騒いでたからお疲れかと思って……何か用でもありました?」
「……愛莉はなにしてたの?」
「家事を終えて今ゆっくりして冬夜さんが起きるのを待ってました」
愛莉は笑顔のままだ。
やってしまった。何をやってるんだ僕は?
愛莉を休ませてやるのが僕の役割だろう。
立ち尽くす僕を見て愛莉はくすくすと笑っている。
そして僕に言った。
「お困りのようなら一つ私からお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ、何でも聞いてあげる」
「じゃあ、デートに連れて行ってくれませんか?」
「いいよ」
「じゃあ、準備してくださいな。私はここで待ってますので」
僕は急いで着替えるとリビングに戻る。
「愛莉準備出来たよ」
「じゃあ、いきましょうか?」
愛莉は普段着だ。化粧もしてる様子が無い。
愛莉と外に出ると車に乗る。
「それでどこに行けば良いの?」
「スーパー」
へ?
「愛莉デートって……」
「買い物デートです。冬夜さんが起きたら連れて行ってもらおうと思って」
こういう子だったな。
愛莉を乗せてスーパーに行く。
買い物かごを取りながら愛莉は言う。
「夕食は何かご希望ありますか?」
愛莉が言うと僕は考えた。
「回鍋肉かな?」
「わかりました、じゃあ食材買いましょうか」
「カゴは僕が持つよ」
愛莉から籠を受け取る
「お願い聞いてもらえますか?」
愛莉が言う。
「どうした?」
「出来れば反対の手でカゴ持っていただけると嬉しいんですけど」
「いいけど?」
僕がカゴを持ち帰ると愛莉は僕の手を握る。
「えへへ~」
と恥ずかしそうに笑いながら。
買い物を済ますと、家に帰って愛莉は料理する。
僕はリビングでテレビを見ながら愛莉に話しかける。
愛莉は笑いながら返してくれた。
夕食をとるとお風呂に入っていつものように寝室で過ごす。
愛莉が酎ハイをもってくるとそれを飲む。
「明日はどこか行こうか?」
「家でごゆっくり休んでてくださいな」
「愛莉もずっと家だと退屈だろ?少しはサービスさせて」
「そういうことでしたら春だしどこかドライブでも連れて行ってもらえると嬉しいです」
「わかった。今年滝に行って無かったね。またチューリップが綺麗だろうし行ってみる?」
「はい」
そう言いながら愛莉はスマホを見ている。
僕はテレビを見ていた。
22時台のドラマが終る頃愛莉が言った。
「そろそろベッドに入りませんか?」
「ああ、わかった」
照明を落としてベッドに入る。
「ねえ、冬夜さん」
「どうした?」
「神奈と穂乃果のことであまり気にとめなかったのですが……」
「新人の事?」
「ええ」
「愛莉は話に夢中になってたんだね?」
「冬夜さんは違うんですか?」
愛莉が首を傾げている。
「今年も楽しい合宿になりそうだね」
僕がそう言うと愛莉は喜んでいた。
「それはよかったです」
家事で疲れていたのか愛莉はすぐに眠っていた。
幸せそうな表情を浮かべて。
暗闇も光るなら星空になる。
愛莉にとって僕は星なんだろうな。
そうであったらいいなと思っていた。
亜依さんと穂乃果さんの件が片付くとお笑いコンビ「ますたーど」の単独ライブが行われた。
いつもはALICEのライブの前座で行われているらしい。
評判は順調なようだ。
単独ライブが終ると皆が拍手していた。
酔いが回っていて盛り上がっていただけかもしれないが。
二人はマネージャーと一緒に恵美さんが僕達のもとにつれてきた。
「あなたが有名な片桐冬夜選手ですね。お会いできて光栄です」
三人は揃って礼をした。
「そんなにかしこまらなくていいよ。今はただの社会人なんだから」
「でも先輩の事は地元大では伝説になってるっすよ」
晴斗が言う。
少し話をすると三人は自分の席に戻った。
「どうして三人を渡辺班に?」
僕は恵美さんに聞いていた。
「宴会の盛り上げ役にと思ってね。彼女達の場慣れにもなるし」
なるほどね。
「それよりそっちの方はどうなの?うまく生活出来てる?愛莉ちゃんの相手してる?」
「さっき言った通りだよ。愛莉が何でもこなしてしまうから。無理し過ぎないように休日に休ませようとするんだけど、やっぱり愛莉に負担掛けてしまって」
そう言うと「そんなことありませんよ」と愛莉は笑って言う。
「冬夜さんは素敵な旦那様です。まっすぐ帰ってきてくれるし、夜遊びくらい覚悟してたけど、歓迎会に出席したくらいだし」
4月の祝日にゴルフコンペに行くのに態々申し訳なさそうに言うの。仕事みたいなものなのにね。と愛莉は笑って言う。
「あら?片桐君ゴルフ始めたの?」
晶さんが言って来た。
「プロゴルファーにでもなるつもり?」と晶さんが聞いてくると「ただの接待ゴルフだよ」と答えた。
その後も色々な人に色々質問されたけど、共通して言えることは「今の生活は楽しいよ」という事だけ。
愛莉も同じだった。幸せな毎日を送ってるらしい。
「とーやはちゃんと嫁さんの相手してやってるんだな感心感心」と美嘉さんが言う。
「話題変えてもいい?」
恵美さんに聞いていた。
「ええ、いいわよ?」
「あの吉野さんて人なんだけど、大原君と出来てる?」
「なんで分かったの?」
「そんなの見たらわかるよ」と僕は答えた。
「相変わらず観察眼は鋭いわね」
恵美さんが驚く。
「その観察眼を見込んでお願いしたいのですが」
西松君が4人を連れて来た。
「この4人なんだけどどう思いますか?」
桜木さんは梅本君を拒絶してる、でも無関心なわけじゃない少し興味をもっている。合宿でどうにかなるかもしれない。
小鳥遊さんは無関心だったけどさっきの事件で少し恋愛に興味を示したようだ。後は月見里君の頑張り次第。
だけど……。
「僕が色々口出ししていいの?」
僕は西松君と咲さんに言う。
「渡辺班は君達の代に世代交代したんだろ?君達でどうにかするべきなんじゃないの?どうしても助言が欲しいならするけど」
「冬夜、俺からもお願いしていいか?代替わりしたとはいえ、俺のグループには変わりない。アドバイスくらいしてやってもいいんじゃないかと思うんだが」
渡辺君が言うので「じゃあ、遠慮なく」と意見を言わせてもらった
「まず桜木さんだっけ?」
「はい?私がどうかしたのか?」
桜木さんは警戒心丸出しだ。
「君が思ってるほど、梅本君は軽い子じゃないよ。遊び友達程度で付き合ってみたらどうかな?」
「私に言い寄ってくる男はろくな男がいない、梅本もいきなり隣に座ってきたりチャラそうだしあり得ない」
僕は笑って言った。
「思ったより純粋なんだね君は。その警戒心は見た目からだね?」
「そうだよ、見た目で人を判断する奴ろくでもないやつばかり言い寄ってくるんだ」
「なおさらだ。梅本君なら、君の警戒心を解いてくれる。そうだね?梅本君」
「こんな素敵な彼女できるなら、一生大事にしますよ」
「恋人になれとは言わない。まずは遊び友達程度から始めてみたらどうだい?」
僕は桜木さんに言うと桜木さんは考え込んでしまった。
「合宿に参加したら多分梅本君は変わると思うよ」
「そこまでいうなら、友達程度なら……」
「まじで、やった。よろしく」
「か、勘違いするなよ!ただの友達だからな!」
桜木さんはそう言う。
「その合宿って参加する意味あるんですか?」
小鳥遊さんが言う。
「それは君自身がわかってるんじゃない?」
「どういう意味ですか?」
「さっき言った通り、恋愛って綺麗ごとばかりじゃないんだ。夫婦ですらあの始末だ。それでも二人が惹かれあうのが恋愛なんだ」
そしてそんな2人に興味を示した。違うかい?
「私が月見里君に恋をする保証はあるんですか?」
僕はくすりと笑って言った。
「すでに月見里君に興味を示しているじゃない」
僕が言うと彼女は気づいたようだ。
「最初はそれでいいよ、それだけで合宿に参加する意味はある。大丈夫、彼は誠実だよ」
小鳥遊さんは黙ってしまった。
「僕がとやかく言うのはここまでにしておくよ。また何か困ったことがあったら聞いておいで。合宿の時とかに相談に乗るから」
「じゃあ、ゆっくり話しない桜木さん。話したいことはたくさんあるんだ」
そう言って梅本君は桜木さんと一緒に席に戻っていった。
「あなたはどうなの?月見里君」
「そ、そうですね。折角ですからお話しませんか?」
月見里君がそう言うと二人も席に戻っていた。
「相変わらずですね。あっさりと攻略してしまう」
「やっぱり冬夜君には敵わないわ」
西松君と咲さんが言う。
「これからが大変だよ。彼等はまだスタートラインにすら立ってないんだ。そこまで誘導しなくちゃいけない」
僕が言うと二人はうなずいた。
「片桐先輩」
秋吉君と有栖さんが来た。
「片桐先輩のお蔭で僕達……」
「話は聞いてるよ、おめでとう」
二人は電撃入籍した。すでに引越しも済ませて二人で生活してるらしい。
「有栖、新婚生活はどう?」
「楽しいです。こんな幸せははじめて」
愛莉が聞くと有栖さんは答えた。
その後も色々な人が僕と渡辺君の元に挨拶に来る。
おかげで食事をする暇がない。
お酒もそこそこに抑えた。
するとあっという間に時間は過ぎる。
「お客様、ラストオーダーの時間です」
「じゃあ、僕は日本酒で」
「私はウーロンハイ」
僕と愛莉が注文する。
「この後二次会を予定してます。来れる方は……」
西松君が仕切ってる。
時間になると帰る人と挨拶をする。
「神奈帰るの?」
「残りたいんだけどな。明日仕事なんだ」
「じゃあ、次は神奈の結婚式だね」
「そうだな。愛莉もトーヤの世話大変だと思うけど」
「冬夜さんは優しいよ」
「そうか。じゃ、またな」
そう言って神奈と誠は帰っていった。
「私らも帰るわ。明日日勤なんだ。」
「私は準夜勤だけど隆司君が今夜は休めって言うから」
桐谷夫妻と中島夫妻も帰るらしい。
真鍋夫妻、丹下夫妻、新名夫妻、木元夫妻、檜山夫妻、佐、佐倉さん、公生と奈留も帰るらしい。
「とーや達は付き合うよな?」
僕は愛莉の顔を見る。
「冬夜さんに任せます。明日はお休みですし。ただ飲み過ぎには気を付けてくださいね」
「じゃ、残ろうか?」
「はい」
僕達は残ることにした。
そして2次会組はいつものカラオケ屋にむかった。
(2)
二次会はカラオケで盛り上がった。
僕と愛莉は渡辺君と美嘉さんと話をしていた。
小鳥遊さんと月見里くんは月見里君が色々話題を振っている。
小鳥遊さんはその話をつまらなさそうに聞いてる。
最初はしかたない、月見里君もきっと初めての経験なんだろう?
手探りで彼女の好みを探ることも重要な事だ。
桜木さんと梅本君も苦戦してるようだ。
彼もいつもの話術が桜木さんには通用しなくて苦戦してるようだ。
それでも何とか彼女の興味を引こうと頑張っている。
二組とも合宿までには何かしら進展があるだろう。
それが楽しみだ。
吉野さんと大原君は何の問題も無い。
二人で歌って話して楽しんでいる。
相思相愛というやつだろう。
「篠原さんにも相手を探してやらないとな」
渡辺君が言う。
「渡辺君は仕事どうなの?」
僕が聞いていた。
「相変わらずだよ、仕事が滞ってな。無駄に残業時間だけが増える」
渡辺君も苦労してるようだ。
「冬夜はどうなんだ?仕事は順調か?」
「まあね、ちょっと残業が増えてきたけど」
月末だし、仕方ないと僕は言う。
「まあ、順調そうでなによりだ」
渡辺君はそう言ってもう次のおかわりを頼んでいる。
「社会人組は大変そうだから気になってな。2次会に参加してないし」
そう言えばそうだな。週末くらいゆっくりしたい。そんな感じなんだろうか?
「ボーナスもらう頃には変わってるよ、仕事のコツ覚えて効率よくこなせるようになる」
美嘉さんが言う。
「それまでは愛莉も大変だと思うけど。頑張ってとーや支えてやれ」
「冬夜さんが無理してないか不安で……」
え?
「どういう意味だ?」
美嘉さんが聞いていた。
「花菜とかから聞いた話だと、社会人になると飲みに行ったりで帰りが遅くなるって話なのに冬夜さん毎日帰りがはやいの。仲間の付き合いも大事だと思うのに冬夜さん無理に断って帰ってきて孤立してるんじゃないか?って」
「歓迎会にちゃんとでたろ?」
「でもそれだけじゃないですか?やっとゴルフコンペがあるから休みを一日使うからごめんて言い出して……無理させてるんじゃないか?ってやっぱり不安で」
「ははは、遠坂さん、俺だって同じだよ。そんなに毎日飲み会があるわけじゃない。職場によって違うんだよ」
渡辺君が言った。
「そうだよ愛莉。うちの職場は世帯持ちが多いんだ。そんなに毎日飲んで遊ぶような余裕なんてないんだよ。職場の人も言ってくれてる『今のうちに彼女に優しくしておけ』って」
「ならいいんですが……」
「それに愛莉帰りが遅いと帰るまで待ってるだろ?お嫁さんにそんな無理させられないよ」
「やっぱり、無理してるじゃないですか?男には一人で飲みたいときもあるって主人が言ってたって花菜が言ってました」
「僕は愛莉と二人で飲んでる時の方がリラックスできるからそれでいいんだ。愛莉が心配しないでも息抜きさせてもらえてる。大丈夫だよ」
「それならいいんです。でも無理しないでくださいね?」
「わかってる。ありがとう」
「とーや達みたいなのをおしどり夫婦っていうんだろうな」
美嘉さんが言う。
「先輩たち話ばっかりしてないで歌って参加してください!」
咲さんが言う。
「ああ、俺達は色々話があるんだ。若い奴等で盛り上がってくれ」
「そう言う話なら私達も混ぜてもらおうかしら。ねえ望?」
「そうですね」
「善君もまぜてもらいなさいな」
「そうだね」
石原夫妻と、酒井夫妻が混ざった。
石原君は本業と副業の両立が大変、酒井君は毎日大取引の商談で大変なんだそうだ。
酒井君は新任で社長だもんな。石原君も副業の方が大変そうだ。
酒井君は晶さんの「映画が見たい」で数件の企業を破綻させたらしい。……大変みたいだ。
「その程度でつぶれる雑魚なんていちいち気にしていたらきりがないわよ。善君」
社長より権力ありそうだな。晶さん。
「片桐君は愛莉ちゃんの相手してるの?」
恵美さんが聞いていた。
「うん、休日はなるべく愛莉の相手してる。でも愛莉家事が忙しいから。私の仕事だからって手伝わせてもくれないし」
「冬夜さんは普段仕事してるのだからゆっくり休んでください。最近ゲームもしてないじゃないですか?」
私はちゃんと昼間に青い鳥に行ったりしてるから。やっと家事にも慣れてきたから気にしなくていいんですよ。と愛莉は言う。
「構ってもらえてるのね、それならよかったわ」
「休日出勤までしてるのよ、善君は」
二人とも自分から言わないと全く構ってくれないらしい。
けど愛莉にはそう言う不満は一切ないらしい。
愛莉は本当に幸せそうに話す。
それを聞いて僕は安心していた。
どうやらちゃんと亭主としての役割を果たせてるらしい。
そんな愛莉の自慢話を皆聞いて、朝まで盛り上がっていた。
朝になると始発で帰る。
家に帰ると着替えてスーツをしまって、シャツは洗濯機に入れる。
風呂に入ると愛莉が風呂に入ってる間寝室でテレビを見ながらネットを見る。
大した記事はない。
「まだ起きてらしたんですか?」
愛莉が戻って来た。
愛莉はドライヤーで髪を乾かす。
髪を乾かし終えると僕の隣に座ってじっとノートPCを見てる。
愛莉の意図がわかった僕はノートPCをたたむ。
「今日はゆっくり寝ようか?」
「はい」
愛莉は笑顔でそう言うとベッドに入る。
愛莉に重なり耳元で6文字の伝言を伝える。
愛莉は喜んで「ありがとうございます。今私はとても幸せです」と言う。
重なったまま僕達は二人で静かに眠りついていた。
愛莉は僕の胸に耳を当てて鼓動を確かめるように。
僕は小さな愛莉の体を優しく包み込むように。
(3)
目の前にいる男は「話をしませんか?」と言っておきながら何も話しかけてこなかった。
ただ飲み物をのみながら食べ物をつまんでいるだけ。
彼も私と同じように相手に興味がないんだろうか?
偶に目が合うと視線を慌てて逸らす。
私に声をかける者が使ってくる常套句「君の連絡先教えてよ」の一言もない。
このまま彼とにらめっこしてても状況が変わらない。
仕方ないから私から切り出してみた。
「私に話があったんじゃなかったの?」
「あ、そうですね……すみません」
すみませんっていうのは、その場のノリで言ってしまっただけだという事なのだろうか?
このまま帰っても良かった。
家に帰って勉強したかった。
「2人とも医学部だっけ?」
深雪先輩が声をかけてきた。
この人の凄さは知ってる。卒業してからわずか2年の間に次々と難しい手術をこなしている。外科医の羨望の的。
しかも彼女の担当する患者の死亡率はゼロだという。
奇跡のような医者。私も深雪先輩のようになりたい。
「そうです、医学部です」
彼が口を開いた。私はちょっとイラっと来た。
私には一言だけだったのに。
「専攻は?」
「全身科医です。一つでも知識を覚えたくて」
「そう。あなたの親も医者なの?」
「はい、姫島で小さな診療所を開いてます」
「それで全身科医ね……」
「ええ、一人でも多くの命を救いたいと思って」
気づいたら彼の身の上話に夢中になっていた。
深雪さんはそんな彼の話を聞いてくすっと笑って私を見る。
「小鳥遊さんもこんな風にすればいいのよ」
え?
「彼はあなたという女性を前にして緊張して喋れないの。だったらあなたから優しく心の扉を開いてあげたらいい」
「……それはどういう意味ですか?」
その回答はなんとなく想像ついた。
「あなたもまた彼の事が気になっているんじゃないの?」
それが恋愛感情なのかはわからないけど、深雪先輩はつけ足した。
「どうしてそんな事がわかるんですか?」
「あなたも医者の卵なら覚えておいた方がいいわ。患者がすべてを正直に話すわけじゃない。患者自身が気づいてない事だってある。そういう事に敏感でなければならない」
患者の心を読みとってやるのも医者の大事な仕事だと深雪先輩は言う。
この人は私の心を読んでいた。
「ここまで言えばあとは分かるわよね。若者二人でごゆっくりどうぞ」
そう言って深雪先輩は別のテーブルに移動した。
「……深雪先輩はすごいですよね。雑誌にも載っていました」
彼が初めて話しかけてきた。
「あなたもそう思ってるんだ?」
「彼女の言葉に胸を打たれました……善悪の彼岸ってわかります?」
「ええ知ってるわ」
物事には善悪の基準なんてないという既存の道徳を真っ向から否定した哲学。
「彼女はインタビューでこう言ったんです『医者の前には善人も悪人もない。金持ちも貧乏も関係ない。ただ一人の病に苦しむ患者にすぎない。医者とはそうあるべきだ』って……。父の理想がそこにありました」
「それであなたも医者を?」
「最初医者にあまり良いイメージなかったんです。金持ちで金の為だけに必要ない薬を売りつける。そんなイメージをもってました。父さんもそんな医者の仲間なのかと嫌悪したことがあります。でも彼女の言葉で父の目指していることが分かりました。父があんな態々あんな僻地に診療所を作った意味が理解できました」
気づいたら彼の話に聞き入ってた。
私が父親を嫌悪している理由と同じだったから。私は親のような医者になりたくない。深雪先輩のような医者になりたい。その一心で勉強してきた。いつか父を見返そうと思って医学の道を目指した。私と彼は理由は正反対だけど目指すところは一緒にある。
「で、話は変わるんですけど。僕は小さな診療所の島の診療所の医者の息子にすぎません。学費を払ってもらうのが精一杯でバイトをしないと生活もやっていけない。あなたの様な人を恋人なんて恐れ多くて……」
「……善悪の彼岸。非常に興味がある話題だったわ」
「え?」
私は彼の手を握っていた。
「もっとあなたと話をしたいと思った。お互いの思う医師の理想像について」
私は分かった。単なる仲のいい友達だけじゃない。愛を語りあうだけが恋なんかじゃない。同じ志を持つものが手を取り合って同じ道を歩んでいくやり方もあるんだって。
そう、たった今私は恋に落ちた。
「ねえ?私が思ったことを言わせてもらってもいい?」
「なんですか?」
「あなたが目指す道ってあなた一人じゃとてもじゃないけどやっていけない。そうは思わない?」
「そうですね、父も母と二人三脚で地道にやってますから」
「ならば私達もそうあるべきじゃない?診療所だって医者が何人いたっていすぎって事はないでしょ?」
「僕の家は本当にぎりぎりでやってるんです。医者を増やす余裕なんてない」
鈍いのね。私に最後まで言わせたいの。いいわ。私も初めての恋だもの。私から言ってあげる。
「馬鹿ね、家族になってしまえば給料は発生しないでしょ?」
「え!?」
彼は驚いていた、でも首を振った。
「無理ですよ。僕には余裕が無いんだ。小鳥遊さんを遊びに連れて行ってやることもできない。プレゼント一つ買えやしない。それに自分を弁えてる。あなたは綺麗だ。僕は何の取り柄もない」
どこまでも謙遜する。自虐的な人。そんなあなたの理想に私は惹かれた。
「デートが出来なくても愛を語ることは出来る。言葉が無くても心に花を咲かせることはできる。私にはデートもプレゼントもいらない。でもあなたから受け取った物ならたった一つある」
「え?」
彼は戸惑っている。
「それは理想。あなたと理想を共有したいと思った。そもそもデートの定義ってなに?私は二人でいる事が出来るならそれでいいと思ってる」
「それって……、小鳥遊さんは僕と……」
「一緒の道、歩かせてください」
私が心から願ったこと。
「こんな苦学生でいいならよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
思ってもみなかった。渡辺班は本当に不思議な縁を引き寄せてくれる幸せのグループ。
私には必要ないと思っていた感情をいとも簡単に与えてくれた。
折角の贈り物。
大切にしようと思った。
(4)
私は困惑していた。
「友達からでもいいから」
それならと、承諾したのはいいが。彼・梅本永遠は隣に座ってこそいるものの他の女性と楽しそうに喋っている。
特異のトーク力を駆使して連絡先を交換していた。
もちろん他の男性陣から不快感を買っていた。
だけどそんな事お構いなしに彼は2次会を楽しんでいる。
どういうつもりなのだろうか?
「どうしたの桜木さん?なんかつまらなさそうにしてるけど?」
咲先輩が声をかけてきた。
「いえ、特に……」
私は梅本君を見る。
その視線に気づいた咲さんはにやりと笑う。
「おい、梅本!誰の相手をしてるんだ?お前の相手は桜木さんだろ!」
咲さんがそう言う。
別にそう言うつもりは無い。
「あ、ごめん。祥子ちゃん。祥子ちゃんはこういうノリ嫌いなのかなと思って」
「そういうわけじゃねーよ」
ただ予想外の展開に困惑してるだけ。
「折角の俺達の歓迎会だぜ。一緒に楽しまなきゃ損だって」
梅本はそう言って笑う。
「ほらこれ」
梅本は私にカラオケの端末を渡す。
「まずはなんか歌おうよ。デュエットの相手なら受け付けるよ」
後半の部分は無視するとして、確かに楽しまなきゃ損だ。
歌って気分を晴らそう。
私は曲を入力する。
順番が来るとうたった。
こんな人生にどんな意味があるの?
何のために生まれてきたの?
繰り返す日々に何の意味があるの?
そんな疑問を詠った歌。
「へえ、そんな歌知ってるんだ?俺も結構ファンでさ」
歌い終わったあと梅本がそう言った。
「人生にどんな意味があるの?何のために生まれてきた?繰り返すだけの日々に何の意味がある?かあ、難しいよね。その歌が主題歌の映画見た?主演の人がめっちゃカッコよかった」
「私原作派なんだ……全然マッチしてない」
「あ、そうなんだ。俺原作ぜんぜん知らないんだよね」
いるんだよな、こういう奴。お前にその作品の何を知ってるんだと問い詰めたくなる。
「……そういうことじゃね?人生の意味なんて。何の為にうまれてきたの?繰り返す日々に何の意味があるの?って」
「どういうことだよ?」
「同じ人間は二人もいない。映画一つとっても人それぞれなんだよ。でもどれが正解なのか?自分でしか決着つかないっていうかさ」
「……つづけろよ」
「先輩たちを見て同じ事言える?」
梅本が言うと私は先輩たちを見た。意味もなく騒いで、ただひたすら楽しんで。そしてまた同じ日々を繰り返す先輩達。
「さっき話してたんだけどさ、先輩たち2年前に抗争に巻き込まれたんだって」
テレビでやってたやつか……確かユニティ。
「そん時思ったらしいんだよね。平穏が一番だって。繰り返す日々を楽しむのが一番だって。それからも先輩たちはこうやって集まって飲み会して騒いでるらしい。それに意味がないと祥子ちゃんは思うかい?」
平穏な日々に、退屈な日々に、繰り返す毎日に意味などあるか?
言葉にすると退屈だけど、それはかけがえのない平穏なんだろう。
「繰り返し芽吹く一瞬こそ全て」
梅本がそう言った。
「俺もそんなに偉そうな事言えないけどさ。今という瞬間に意味があれば後は深く考える必要ないんじゃね?今の積み重ねが明日という今に繋がるんだから」
喜びを喜び、悲しみを悲しみ。命を生きて、目覚めたまま夢見よ。
梅本の言葉に聞き入っていた。
「どしたの祥子ちゃん。そんな思いつめた顔して。同じ今を生きるならもっと明るく生きて行こうよ。将来の事なんて考えたってしょうがないって。考えてる間に未来はくるんだから」
繰り返し芽吹く一瞬こそすべて……か。
「梅本の言う事が正しいのかもしれねーな」
「それはわかんねーよ」
梅本は否定した。
「どんな人生が正しいかなんて最後に決めるのは自分なんだから。そんな簡単に結論付けられるもんでもないっしょ?」
「そうだな」
「やってみないと分かんない事がほとんどなんだって。出たとこ勝負っていうの?これから先何が起こるか分かんないんだから。これからも同じ日々を繰り返すって保証はなにもないんだから。その時に後悔しないように今を楽しもうよ」
梅本は今が良ければいいと思ってるらしい。梅本の全部を受け入れるつもりは無いが今の梅本は共感できる。
「そうやって今まで女性を口説いてきたのか?」
「気づいたら仲良くなってた。で、気付いたら別れてた。それの繰り返しだよ。もちろん毎回思うよ『これが最後の恋愛にしたい』ってでも実際付き合ってみないと分からないことってあるっしょ」
頭ごなしに、体目当てで付きまとってるって否定するのはおかしい。そう言う事なのか?
「念のため聞くが今フリーなのか?」
「俺みたいな男だからな。一時の恋ってやつ?飽きたらポイ捨てだよ」
梅本はそう言って笑う。その笑顔の裏にどれだけの涙を隠しているんだろう?
「デュエット曲歌いたいって言ってたな?なんでもいいか?」
「まじ!?歌ってくれるなら何でも歌っちゃいますよ!」
私は端末を借りると曲を入れる。
そして順番が回ってくると梅本と歌う。
君に出会えてよかった。
「なにこれ!?ひょっとして俺振られたわけ!?マジショックなんだけど?」
そう言って落ち込んでる梅本を見て笑っていた。
朝になると、皆カラオケ屋を出て解散する。
私達は電車で帰る。
路線が違う私達は改札口で別れる。
「じゃ、またね」
そう言って立ち去ろうとする梅本を捕まえた。
「どうしたの祥子ちゃん」
「肝心な事忘れてねーか?」
「え?」
本当にこいつチャラ男なのか?それとも私の事なんて眼中にないのか?
「お前他の女の連絡先は聞いてて本命の私のは聞かずに帰るつもりか?」
「教えてくれるんなら、喜んで聞くけど」
「ああ、友達に教えるくらい普通するだろ」
「それもそうだな。んじゃ教える」
そうして連絡先を交換する。
「いけね!電車出る。急がないと!じゃあ、また祥子ちゃん」
「ああまたな」
そう言って手を振って梅本を見送る。
あいつにとっては数えきれないほどいる女性の一人なんだろうけど。
私にとってはたった一人の男性の連絡先だった。
もう二度と恋愛なんてしないと思ってたのにな。
渡辺班の魔法は本物らしい。
凍てついた私の心を溶かしてくれた。
(5)
起きたのは夕方だった。
愛莉はいない。
リビングでテレビを見ていた。
「おはようございます」
僕に気づいた愛莉はにこりと笑ってそう言った。
「どうして起こしてくれなかったの?」
「朝まで騒いでたからお疲れかと思って……何か用でもありました?」
「……愛莉はなにしてたの?」
「家事を終えて今ゆっくりして冬夜さんが起きるのを待ってました」
愛莉は笑顔のままだ。
やってしまった。何をやってるんだ僕は?
愛莉を休ませてやるのが僕の役割だろう。
立ち尽くす僕を見て愛莉はくすくすと笑っている。
そして僕に言った。
「お困りのようなら一つ私からお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ、何でも聞いてあげる」
「じゃあ、デートに連れて行ってくれませんか?」
「いいよ」
「じゃあ、準備してくださいな。私はここで待ってますので」
僕は急いで着替えるとリビングに戻る。
「愛莉準備出来たよ」
「じゃあ、いきましょうか?」
愛莉は普段着だ。化粧もしてる様子が無い。
愛莉と外に出ると車に乗る。
「それでどこに行けば良いの?」
「スーパー」
へ?
「愛莉デートって……」
「買い物デートです。冬夜さんが起きたら連れて行ってもらおうと思って」
こういう子だったな。
愛莉を乗せてスーパーに行く。
買い物かごを取りながら愛莉は言う。
「夕食は何かご希望ありますか?」
愛莉が言うと僕は考えた。
「回鍋肉かな?」
「わかりました、じゃあ食材買いましょうか」
「カゴは僕が持つよ」
愛莉から籠を受け取る
「お願い聞いてもらえますか?」
愛莉が言う。
「どうした?」
「出来れば反対の手でカゴ持っていただけると嬉しいんですけど」
「いいけど?」
僕がカゴを持ち帰ると愛莉は僕の手を握る。
「えへへ~」
と恥ずかしそうに笑いながら。
買い物を済ますと、家に帰って愛莉は料理する。
僕はリビングでテレビを見ながら愛莉に話しかける。
愛莉は笑いながら返してくれた。
夕食をとるとお風呂に入っていつものように寝室で過ごす。
愛莉が酎ハイをもってくるとそれを飲む。
「明日はどこか行こうか?」
「家でごゆっくり休んでてくださいな」
「愛莉もずっと家だと退屈だろ?少しはサービスさせて」
「そういうことでしたら春だしどこかドライブでも連れて行ってもらえると嬉しいです」
「わかった。今年滝に行って無かったね。またチューリップが綺麗だろうし行ってみる?」
「はい」
そう言いながら愛莉はスマホを見ている。
僕はテレビを見ていた。
22時台のドラマが終る頃愛莉が言った。
「そろそろベッドに入りませんか?」
「ああ、わかった」
照明を落としてベッドに入る。
「ねえ、冬夜さん」
「どうした?」
「神奈と穂乃果のことであまり気にとめなかったのですが……」
「新人の事?」
「ええ」
「愛莉は話に夢中になってたんだね?」
「冬夜さんは違うんですか?」
愛莉が首を傾げている。
「今年も楽しい合宿になりそうだね」
僕がそう言うと愛莉は喜んでいた。
「それはよかったです」
家事で疲れていたのか愛莉はすぐに眠っていた。
幸せそうな表情を浮かべて。
暗闇も光るなら星空になる。
愛莉にとって僕は星なんだろうな。
そうであったらいいなと思っていた。
0
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辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
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