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LASTSEASON
夜明けのロゴス
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(1)
「ふぅ~」
片づけを終えた僕達は大浴場で一息ついていた。
女性陣も今頃風呂で寛いでるはず。
隣の浴場から微かに声が聞こえてくる。
今夜も大変だった。
多分風呂から出たらもう一波乱あるんだろうけど。
「お疲れ冬夜」
渡辺君が来た。
「お疲れ様」
「お互い苦労するな」
「そうだね」
何か対策は無いものだろうか。
その対策を講じなければならない3人は翔に絡んでいた。
「翔、ちぃはどうだった?」
「どうって何がですか?」
「何が?じゃない!ちぃとやることやってんだろ!?ちぃの初めてはどんな感じだったのか兄として聞く必要がある!」
「どうって……普通ですよ?お互い戸惑っていたけど……」
「なるほど……で、ちぃは上手かったか?」
「そ、そんな他の人としたことないし比較しようがないですよ」
「もうちょっと具体的な感想は無いのかよ!ちぃの声は可愛かったとか!」
「意外と大胆だったとか!?」
「意外と胸がでかいとか?」
「それは兄として気になるな、最後に一緒に風呂入ったのはちぃが小4の時だったからな」
「マジかよ!そんときどうだんだ!?」
とりあえず大声で叫ぶ話じゃないぞ誠。
僕と渡辺君はそんな4人をただ見てるだけ。
余計なもめ事には我関せずを決めることにした。
案の定女性陣からクレームが飛ぶ。
「兄!翔に変な事吹き込むの止めて!翔も兄の相手しなくていい!」
「このド変態!いい加減にしろ!」
「瑛大もだ!この変態!」
「隆司さんも変な事は真似しないで!」
ちぃちゃんとカンナと亜依さんと穂乃果さんが叫んでいる。
「兄として心配してるだけだ、夜の事まで指導できなかったから!」
誠色々問題あるぞそれは。
「当たり前だこの馬鹿!」
カンナが言う。
「むぅ……ここでは話にならないな。さっさと上がって部屋で話そうじゃないか。翔、ついてこい!」
「俺達も気になる、行こうぜ、中島君」
「いいですとも」
意気揚々と浴場を出る4人。
こりゃまた後で修羅場だな……。やれやれ。
「冬夜と遠坂さんは上手くやっているようだね」
「同棲生活はどうだ?冬夜」
木元先輩と檜山先輩が来た。
「まあ、最初はよかったけど仕事が増えると大変ですね」
愛莉の相手もしないといけないし。
僕がそう言うと木元先輩が肩を掴む。
「冬夜も苦労してるんだな。分かるよ。仕事しながら嫁の相手なんて土台無理だ」
「聞いたぜ、ゴルフコンペの時も大変だったんだってな」
木元先輩と檜山先輩が言う。
この二人も結構飲んでたな。
「渡辺君もそうだろう?仕事しながら奥さんの世話大変だろう」
「ははは、まあそうですね」
木元先輩が言うと苦笑いをする渡辺君。
僕達はあの二人がいなければ安寧に過ごせると思っていた。
別の火種があることに気が付かなかった。
「そう言う話題なら俺達も混ぜてください」
「僕も混ぜて欲しい」
「あの僕達も……」
真鍋君と竹本君と石原君と酒井君がまざる。
年長組の二人、丹下さんと椎名さんはゆったりと風呂を満喫している。
皆嫁に対して不満をもっていたようだ。
石原君と酒井君はストレスが酷いらしい。
2人ともいきなり社長だもんな。無理もない。
渡辺君と僕が皆の愚痴を聞いていると僕は丹下さんに呼び出された。
「どうしました?」
僕は丹下さんの傍に行った。
「いや、特に用はないんだが……」
「君達上手く行ってるんだろう?だったら余計な情報を入れない方がいいと思って呼び出しただけだよ」
丹下さんと椎名さんがいう。
「君は本当に遠坂さんに対して不満は無いのかい?」
椎名さんが言った。
「無いですね。感謝はしてますけど。普段ちゃんと仕事に行けるのは愛莉のお蔭だから」
「仲がいいんだな。それとも彼女が出来てるのかな?」
「僕にはもったいないくらいの彼女ですね」
「大切にしてやれ。その気持ちずっと忘れるな。時間が経つと忘れてしまいがちだからな」
丹下さんが言う。
「冬夜先輩ちょっといいっすか?」
晴斗が呼んでいる。
忙しいな。
2人に礼をすると、晴斗達の元に向かう。
「今年の新人4名に何かビシッと言ってやって欲しいっす!」
晴斗の周りには4人の見慣れない顔がいる。
何かアドバイスか……。
今日見た感じだと特に問題ないようだったけど。
「……そんなにじっと見てたわけじゃないけど良い?」
僕が言うと4人はうなずいた。
まずは月見里君だな。
「月見里君は、順調だと思うよ。小鳥遊さんの方から好意を持ってる。彼女と意気投合したんでしょ?」
「はい」
「その上で彼女は君に恋を抱いてる。後は君の心ひとつだよ」
「でも、本当に僕なんかでいいのか……。彼女の家大病院なんですよ」
「身分の差なんて気にしなくていい。二人の気持ちがあればいくらでも乗り越えられる。あの石原君と酒井君だってそうだったんだから」
「……わかりました。僕の心ひとつですね?」
彼の目は真っすぐだ。だからすごく心を読みやすい。彼は誰かが背中を押してくれてるのを待ってるだけ。彼の中で意思は固まっている。
「がんばれ」
「ありがとうございます」
次は梅本君だったかな?
梅本君も上手く桜木さんの心のドアを開いたようだ。
女性の扱いに慣れてるのかな?
「梅本君は僕からアドバイスすることは無いと思うよ。もう彼女の気持ちは転がりだしてる。きっとうまくいく。ただし慎重にね、彼女恋愛に対して何かトラウマを持ってるようだから」
「そんなことまでわかるんですか?」
「……当たっているみたいだね?」
梅本君は驚いてた。
次は大原君。大原君も特に問題ない。今のままで良いと思う。
「大原君は何か悩んでるの?」
「俺のやってる事って公私混同なんじゃないかって」
「そんな事言ったら有栖さんは結婚までしちゃったよ?」
「そうですね」
「今のまま上手くやったらいいよ」
「はい!」
最後に小泉君か。話は恵美さんから聞いていた。
「君も幸運の持ち主だね」
「自分でもそう思います」
「君に必要なのは自信。大丈夫、さっきの様子だと君への警戒心は無い。むしろ君にもっと積極的に来て欲しいと思ってる」
「そうなんですか?」
「ああ、君からもっと話題を振ってあげてみて。きっと反応あると思うから。ただ焦ることは無い。二人の時間はたっぷりあるんだから」
「わかりました」
これで全員かな?
「冬夜先輩あざーっす!何か4人で悩んで見てたみたいなので放っておけなくて」
「晴斗はどうなの?」
「え?」
「晴斗もなんか悩んでるみたいだったけど?」
「先輩に隠し事はできないっすね」
ちょっと前に彼女の実家に挨拶に行った時に「まだ結婚しないのか?」と迫られたらしい。
なるほどね。
「それは困ったね」
「で、就職する待て待って欲しいとは言っても仕事ならうちを継げばいいと言ってくれてその場は収まったんすけど……今度は春奈が……」
私が相手では不足なんだろうか?と不安を感じているらしい。
僕はくすりと笑った。
その回答は僕が一番知ってる。
「誠心誠意伝えるしかないよ。晴斗の準備が出来るまで待って欲しい。時が来たら必ず迎えにいくからって」
「……やっぱりそれしかないっすよね。わかったっす!あざーっす!」
「他人の恋愛相談も結構だが……」
「俺達の悩みも聞いてくれていいんじゃないか?冬夜」
振り返ると檜山先輩と木元先輩が立っていた。
「女どもが戻ってこないうちに俺達も出ようぜ」
「そうだな、男だけで語りたい事は俺達にだってある」
2人が言う。
僕は渡辺君を見る。
渡辺君もにやりと笑っている。
女性がいないうちに……その発想がまず間違いだと思うんだけど。
僕達は浴場をあとにした。
(2)
「全くあの馬鹿は!」
「本当懲りないやつらだな!」
「隆司さんまで一緒になって!」
「私……兄を軽蔑しました」
神奈と亜依と穂乃果と千歳さんがそう言ってる。
「皆大変だね……」
私にはそう言う事しかできなかった。
冬夜さんにはそう言う要素が全く無いから。
やっぱり共働きだと違うのかな?
「愛莉は片桐君がああならないようにきっちり見張っておかないとだめだよ!」
亜依が言う。
「女性は働くな!家にいろって暴論ですよね!」
穂乃果が言ってる。
「でも家にいても文句を言うんですよ!仕事での苦労が妻にはわかってもらえないって!」
「それは言えますね~面倒事を押し付けて。自分は仕事だからって飲んで帰ってきたり~……何様のつもり?」
専業主婦でも不満は溜まってるらしい。
「愛莉の事だからトーヤを甘やかしてるんだろうけど、それ絶対将来余計な苦労背負うぞ」
「余計な苦労って?」
「……愛莉は子育ても一人でするつもりか?」
カンナが聞いてきた。
「それは冬夜さんも手伝ってくれるよ」
「家事の一つもしないやつが子育て協力すると思うか?」
「冬夜さんは家事をしないんじゃないの、私がさせないようにしてるだけ。冬夜さん無理するから」
「それで愛莉が無理してたら意味ないでしょ」
亜依が言う。
「私先に出ますね。ちょっと気になることが……」
奈留が出ていった。
「気になる事って言えばさっきから瑛大の声が聞こえないね」
「そういや誠も声がしなくなったな」
「去年のパターンだねこれは」
亜依とカンナと穂乃果が言う。
3人も出ていった。
私も出ようとすると深雪さん達に呼び止められた。
なんだろう?
「同棲生活はうまくいってるみたいね?」
深雪さんが言う。
「はい、おかげさまで」
「周りの事なんて気にしなくていい。あなたの相手は片桐君なんだから」
聡美さんが言う。
「そうですね」
「分かってるならいいの。色々愚痴を聞かされて不安になってるんじゃないかって心配だったから」
聡美さんが言う。
「結婚って大変なんですね」
美里が言う。
「相手を見極めることは大事かもしれないわね。周りに流されずちゃんと自分の目で見て」
「その後は花見の時に遠坂さんが言った通りよ。覚悟を決める事。信じることが出来ないなら。諦めた方がいい」
深雪さんと聡美さんが言う。
「その見極めるポイントを教えてください」
小鳥遊さんが聞くと深雪さんが首を振った。
「そんなのないわ。強いて言うなら直感ね」
「直感?」
小鳥遊さんが聞き返す。
「あなたが月見里君を見て想ったこと。それを信じるしかない。人間だもの、結婚して変わることもある。それでも信じる強さを持てるか?いきつく所は勘よ」
深雪さんが説明した。
「小鳥遊さんは月見里君と同棲始めて何か変わった事ってある?」
私が聞くと小鳥遊さんは答えた。
「そうですね、自分の甘さを痛感しましたね。彼はバイトと勉強を両立させている。独り立ちしようとしている。家事もこなす。私の甘さを痛感すると同時に彼の凄さに驚かされるばかりです」
小鳥遊さんは月見里君を尊敬してるという。
「そういうのならうちの悠馬もそうね。私がブレーキかけてるけど」
咲が言った。
「そういう素晴らしい主人に出会う人だっているってこと。でもそこに優劣はつけない。だって自分で夫を選んだのだから」
聡美さんが言う。
そして真鍋君が自分を選んでくれたと言う。
皆そうだ、自分が選んでそして自分を選んでくれた。
どんなことがあろうとそれが事実。
価値観の違いや恋愛観の違いなんて関係ない。
たったひとつの事実。
私が選んだ人だから、私はついて行くだけ。
「さてと、私達もそろそろ上がりましょうか?難しい話をしていてもしょうがないわ。夜は盛り上がるのでしょう?」
聡美さんがそう言って笑う。
私達も部屋を出た。
(3)
案の定部屋は混沌と化していた。
皆言いたい放題の愚痴大会。
檜山先輩まで言っている。
散らかる菓子と空き缶。
僕と公生はただ話を聞いていた。
「片桐君は混ざらなくていいの?」
公生が聞いた。
「混ざる口実がないからね」
愛莉に不満がない。
だから困惑していた。
どうしてこんなに不満が湧いてくるんだろう?
そんなに二人で暮らす事って難しい事?
愛莉も同じように風呂で不満を言っているのだろうか?
「冬夜に公生!今夜は無礼講だお前達も吐き出せよ」
誠が絡んできた。
「僕は別に愛莉に不満なんてないよ」
「ぼ、僕もないかな?」
公生の様子がおかしい。
その理由はすぐにわかった。
「公生、行くよ」
奈留は公生の手を取って引きずっていく。
「まだ寝るには早いよ」
「酔っ払いの相手なんてする必要ない!そんなに眠れないなら私が相手してあげる!」
「わかったから引っ張るなって!」
「あいつも将来冬夜と同じ運命だな……」
誠が言う。
「だな!ずっと嫁に頭が上がらないタイプだ!」
桐谷君が言う。
「そ、そろそろ話題を変えないか?」
渡辺君が皆を押さえようとする。
だが勢いづいた皆を止めることは出来ない。
「渡辺君!今夜は行くところまで行こう!男性陣の反旗を上げる時が来た!」
木元先輩も泥酔してるらしい。
「くだらねぇ、咲良もいちいち目くじら立てやがって……」
檜山先輩ですらこの始末。
僕に出来ることはこの場から逃げ出す事。
そっと部屋を出ようとすると何かにあたる。
「どこに行く気だ?トーヤ?」
カンナと亜依さんが入り口に立っている。
渡辺君も美嘉さんに捕まっている。
今日はどうかしてた。
日頃の仕事のストレスが溜まっているのか、新生活という環境の変化がそうさせるのか?
それはウィルスのように蔓延し、大人しい石原君や酒井君、竹本君まで感染していた。
「僕は主人だぞ!!もっと敬意をはらったっていいんじゃないのか!」
「甚だ同感ですね!僕は亭主だぞ!」
「咲は僕の行動に一々口出しし過ぎだ!!ぼくは夫だぞ!子供じゃない!」
そんな様子をじっと見守っている女性陣。
20名を超える女性陣が見守る中言いたい放題の男性陣。
僕と渡辺君は見るに堪えなかった。
そして彼等に告げることは女性陣の怒気が許さなかった。
狂乱の宴は永遠に続くと思えた。
「あれ?冬夜と渡辺君は?」
桐谷君が気づいた。
「あの二人は駄目だ!嫁のあしらい方ってものを分かっていない!先輩としてアドバイスしてやろうじゃないか?どこだ?」
「確かにあの二人が舐められる元凶だな。アドバイスが必要かもしれねーな」
木元先輩と檜山先輩も探し始めると皆探し出す。
そして桐谷君が気づく。
「冬夜!そんな隅っこにいないでこっちに来い」
桐谷君は僕の手をとって、引っ張るが僕の手はきっちり愛莉が掴んでいる。
「愛莉……これが男共の実態だよ」
亜依さんが言う。
「あ、亜依……いつからそこに……」
桐谷君が床に座り込み後ずさる。
「旦那の威厳……面白わね望。いいわよ?しっかり見てあげる。続けてちょうだい」
「え、恵美……」
「あなたもそんな偉そうなことが言える人だとは知らなかったわ。善君?」
酒井君は言葉を失っている。
「悠馬は確かに私の夫だね、じゃあ私もあなたの妻として言わせてもらうわ」
「咲。い、いや僕はただ……」
「ただ何?」
「ご、ごめんなさい!」
竹本君は賢い選択に走ったようだ。
何も言わずに素直に謝る。
それを皮切りに皆が言い訳を始める。
しかしそんな苦し紛れの言い訳が通るはずがない。
「正志!お前も文句があるなら聞いてやるぞ?」
「み、美嘉冷静になれ……話せばわかる」
慌ててる渡辺君なんて初めてじゃないか?
他人の心配をしてる場合じゃなかった。
「冬夜さん。こっちにきてくれませんか?2人でゆっくり話をしましょう?」
「愛莉。ぼ、僕は何も言ってないよ!」
「だから二人で話をしましょう?冬夜さんの話聞きたいから」
「愛莉。この際だからしっかり絞めてやれ!」
カンナが言う。
皆は必死に謝っていた。
そして僕は愛莉に必死に弁解していた。
その修羅場は日付が変わっても続いた。
ちなみに公生もしっかり問い詰められたらしい。
(4)
皆必死に謝って眠りについた。
僕は結局無罪でお咎め無しだったんだけどあまり眠れなかった。
愛莉の本心が知りたかった。
愛莉は同棲を始めて不満を漏らした試しがない。
内心ストレスをためているんじゃないか?
そんな不安があって眠れなかった。
4時ごろ目を覚ますと何となく屋敷の中をうろついていると愛莉と出くわした。
愛莉も同じように眠れなかったらしい。
2人で2階のバルコニーに向かった。
まだ夜明け前と言った感じだった。
愛莉は黙ったままだ。
僕から話を切り出してみた。
「愛莉、まだ怒ってる?」
「どうしてですか?」
「いや、昨日あんなことあったし……」
「冬夜さんは何も不満はないのでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「私は冬夜さんを信じます」
愛莉はそう言って微笑む。
この際だから愛莉に聞いてみた。
「あのさ、愛莉は僕に不満とかないの?」
「どうしてですか?」
「愛莉と同棲始めて愛莉そう言うの一切なくなったろ?」
「そうですね。冬夜さんは気づいてませんか?」
「何を?」
気づいてないんですねと愛莉は笑う。
「朝は素直に起きて下さるようになった。夜は真っすぐ帰ってきてもらえる。お休みの日は私の相手をして下さる。そんな冬夜さんにどうして私が不満を抱きましょうか?冬夜さんと一緒です、不満なんてありませんよ」
そう言って愛莉は笑う。
「素敵な眺めですね」
「そうだね」
「私お風呂で言われた事があるんです」
「なに?」
「子育ては冬夜さん手伝ってくれるのか?って」
「そうなんだ」
「私は迷いもなく答えました『冬夜さんは手伝ってくれる』って」
「……3人作るんだっけ?」
「ええ、頑張らないといけませんね」
「そうだね」
「これからも一緒に頑張りましょうね」
愛莉はそう言って景色を見ていた。
「まだ肌寒いですね。もどりましょうか?」
僕は黙って上着を脱いで愛莉にかけようとする。
「いけません、冬夜さんが風邪ひいてしまいます」
愛莉がそう言うと愛莉に上着を着せて背中から抱き着く。
「これならいいだろ?」
「……困った旦那様ですね」
愛莉はそう言って笑った。
見渡す景色には朝もやがたちこめていた。
唇に流し込まれるがままに、朝もやを迷わず行こう。
「ふぅ~」
片づけを終えた僕達は大浴場で一息ついていた。
女性陣も今頃風呂で寛いでるはず。
隣の浴場から微かに声が聞こえてくる。
今夜も大変だった。
多分風呂から出たらもう一波乱あるんだろうけど。
「お疲れ冬夜」
渡辺君が来た。
「お疲れ様」
「お互い苦労するな」
「そうだね」
何か対策は無いものだろうか。
その対策を講じなければならない3人は翔に絡んでいた。
「翔、ちぃはどうだった?」
「どうって何がですか?」
「何が?じゃない!ちぃとやることやってんだろ!?ちぃの初めてはどんな感じだったのか兄として聞く必要がある!」
「どうって……普通ですよ?お互い戸惑っていたけど……」
「なるほど……で、ちぃは上手かったか?」
「そ、そんな他の人としたことないし比較しようがないですよ」
「もうちょっと具体的な感想は無いのかよ!ちぃの声は可愛かったとか!」
「意外と大胆だったとか!?」
「意外と胸がでかいとか?」
「それは兄として気になるな、最後に一緒に風呂入ったのはちぃが小4の時だったからな」
「マジかよ!そんときどうだんだ!?」
とりあえず大声で叫ぶ話じゃないぞ誠。
僕と渡辺君はそんな4人をただ見てるだけ。
余計なもめ事には我関せずを決めることにした。
案の定女性陣からクレームが飛ぶ。
「兄!翔に変な事吹き込むの止めて!翔も兄の相手しなくていい!」
「このド変態!いい加減にしろ!」
「瑛大もだ!この変態!」
「隆司さんも変な事は真似しないで!」
ちぃちゃんとカンナと亜依さんと穂乃果さんが叫んでいる。
「兄として心配してるだけだ、夜の事まで指導できなかったから!」
誠色々問題あるぞそれは。
「当たり前だこの馬鹿!」
カンナが言う。
「むぅ……ここでは話にならないな。さっさと上がって部屋で話そうじゃないか。翔、ついてこい!」
「俺達も気になる、行こうぜ、中島君」
「いいですとも」
意気揚々と浴場を出る4人。
こりゃまた後で修羅場だな……。やれやれ。
「冬夜と遠坂さんは上手くやっているようだね」
「同棲生活はどうだ?冬夜」
木元先輩と檜山先輩が来た。
「まあ、最初はよかったけど仕事が増えると大変ですね」
愛莉の相手もしないといけないし。
僕がそう言うと木元先輩が肩を掴む。
「冬夜も苦労してるんだな。分かるよ。仕事しながら嫁の相手なんて土台無理だ」
「聞いたぜ、ゴルフコンペの時も大変だったんだってな」
木元先輩と檜山先輩が言う。
この二人も結構飲んでたな。
「渡辺君もそうだろう?仕事しながら奥さんの世話大変だろう」
「ははは、まあそうですね」
木元先輩が言うと苦笑いをする渡辺君。
僕達はあの二人がいなければ安寧に過ごせると思っていた。
別の火種があることに気が付かなかった。
「そう言う話題なら俺達も混ぜてください」
「僕も混ぜて欲しい」
「あの僕達も……」
真鍋君と竹本君と石原君と酒井君がまざる。
年長組の二人、丹下さんと椎名さんはゆったりと風呂を満喫している。
皆嫁に対して不満をもっていたようだ。
石原君と酒井君はストレスが酷いらしい。
2人ともいきなり社長だもんな。無理もない。
渡辺君と僕が皆の愚痴を聞いていると僕は丹下さんに呼び出された。
「どうしました?」
僕は丹下さんの傍に行った。
「いや、特に用はないんだが……」
「君達上手く行ってるんだろう?だったら余計な情報を入れない方がいいと思って呼び出しただけだよ」
丹下さんと椎名さんがいう。
「君は本当に遠坂さんに対して不満は無いのかい?」
椎名さんが言った。
「無いですね。感謝はしてますけど。普段ちゃんと仕事に行けるのは愛莉のお蔭だから」
「仲がいいんだな。それとも彼女が出来てるのかな?」
「僕にはもったいないくらいの彼女ですね」
「大切にしてやれ。その気持ちずっと忘れるな。時間が経つと忘れてしまいがちだからな」
丹下さんが言う。
「冬夜先輩ちょっといいっすか?」
晴斗が呼んでいる。
忙しいな。
2人に礼をすると、晴斗達の元に向かう。
「今年の新人4名に何かビシッと言ってやって欲しいっす!」
晴斗の周りには4人の見慣れない顔がいる。
何かアドバイスか……。
今日見た感じだと特に問題ないようだったけど。
「……そんなにじっと見てたわけじゃないけど良い?」
僕が言うと4人はうなずいた。
まずは月見里君だな。
「月見里君は、順調だと思うよ。小鳥遊さんの方から好意を持ってる。彼女と意気投合したんでしょ?」
「はい」
「その上で彼女は君に恋を抱いてる。後は君の心ひとつだよ」
「でも、本当に僕なんかでいいのか……。彼女の家大病院なんですよ」
「身分の差なんて気にしなくていい。二人の気持ちがあればいくらでも乗り越えられる。あの石原君と酒井君だってそうだったんだから」
「……わかりました。僕の心ひとつですね?」
彼の目は真っすぐだ。だからすごく心を読みやすい。彼は誰かが背中を押してくれてるのを待ってるだけ。彼の中で意思は固まっている。
「がんばれ」
「ありがとうございます」
次は梅本君だったかな?
梅本君も上手く桜木さんの心のドアを開いたようだ。
女性の扱いに慣れてるのかな?
「梅本君は僕からアドバイスすることは無いと思うよ。もう彼女の気持ちは転がりだしてる。きっとうまくいく。ただし慎重にね、彼女恋愛に対して何かトラウマを持ってるようだから」
「そんなことまでわかるんですか?」
「……当たっているみたいだね?」
梅本君は驚いてた。
次は大原君。大原君も特に問題ない。今のままで良いと思う。
「大原君は何か悩んでるの?」
「俺のやってる事って公私混同なんじゃないかって」
「そんな事言ったら有栖さんは結婚までしちゃったよ?」
「そうですね」
「今のまま上手くやったらいいよ」
「はい!」
最後に小泉君か。話は恵美さんから聞いていた。
「君も幸運の持ち主だね」
「自分でもそう思います」
「君に必要なのは自信。大丈夫、さっきの様子だと君への警戒心は無い。むしろ君にもっと積極的に来て欲しいと思ってる」
「そうなんですか?」
「ああ、君からもっと話題を振ってあげてみて。きっと反応あると思うから。ただ焦ることは無い。二人の時間はたっぷりあるんだから」
「わかりました」
これで全員かな?
「冬夜先輩あざーっす!何か4人で悩んで見てたみたいなので放っておけなくて」
「晴斗はどうなの?」
「え?」
「晴斗もなんか悩んでるみたいだったけど?」
「先輩に隠し事はできないっすね」
ちょっと前に彼女の実家に挨拶に行った時に「まだ結婚しないのか?」と迫られたらしい。
なるほどね。
「それは困ったね」
「で、就職する待て待って欲しいとは言っても仕事ならうちを継げばいいと言ってくれてその場は収まったんすけど……今度は春奈が……」
私が相手では不足なんだろうか?と不安を感じているらしい。
僕はくすりと笑った。
その回答は僕が一番知ってる。
「誠心誠意伝えるしかないよ。晴斗の準備が出来るまで待って欲しい。時が来たら必ず迎えにいくからって」
「……やっぱりそれしかないっすよね。わかったっす!あざーっす!」
「他人の恋愛相談も結構だが……」
「俺達の悩みも聞いてくれていいんじゃないか?冬夜」
振り返ると檜山先輩と木元先輩が立っていた。
「女どもが戻ってこないうちに俺達も出ようぜ」
「そうだな、男だけで語りたい事は俺達にだってある」
2人が言う。
僕は渡辺君を見る。
渡辺君もにやりと笑っている。
女性がいないうちに……その発想がまず間違いだと思うんだけど。
僕達は浴場をあとにした。
(2)
「全くあの馬鹿は!」
「本当懲りないやつらだな!」
「隆司さんまで一緒になって!」
「私……兄を軽蔑しました」
神奈と亜依と穂乃果と千歳さんがそう言ってる。
「皆大変だね……」
私にはそう言う事しかできなかった。
冬夜さんにはそう言う要素が全く無いから。
やっぱり共働きだと違うのかな?
「愛莉は片桐君がああならないようにきっちり見張っておかないとだめだよ!」
亜依が言う。
「女性は働くな!家にいろって暴論ですよね!」
穂乃果が言ってる。
「でも家にいても文句を言うんですよ!仕事での苦労が妻にはわかってもらえないって!」
「それは言えますね~面倒事を押し付けて。自分は仕事だからって飲んで帰ってきたり~……何様のつもり?」
専業主婦でも不満は溜まってるらしい。
「愛莉の事だからトーヤを甘やかしてるんだろうけど、それ絶対将来余計な苦労背負うぞ」
「余計な苦労って?」
「……愛莉は子育ても一人でするつもりか?」
カンナが聞いてきた。
「それは冬夜さんも手伝ってくれるよ」
「家事の一つもしないやつが子育て協力すると思うか?」
「冬夜さんは家事をしないんじゃないの、私がさせないようにしてるだけ。冬夜さん無理するから」
「それで愛莉が無理してたら意味ないでしょ」
亜依が言う。
「私先に出ますね。ちょっと気になることが……」
奈留が出ていった。
「気になる事って言えばさっきから瑛大の声が聞こえないね」
「そういや誠も声がしなくなったな」
「去年のパターンだねこれは」
亜依とカンナと穂乃果が言う。
3人も出ていった。
私も出ようとすると深雪さん達に呼び止められた。
なんだろう?
「同棲生活はうまくいってるみたいね?」
深雪さんが言う。
「はい、おかげさまで」
「周りの事なんて気にしなくていい。あなたの相手は片桐君なんだから」
聡美さんが言う。
「そうですね」
「分かってるならいいの。色々愚痴を聞かされて不安になってるんじゃないかって心配だったから」
聡美さんが言う。
「結婚って大変なんですね」
美里が言う。
「相手を見極めることは大事かもしれないわね。周りに流されずちゃんと自分の目で見て」
「その後は花見の時に遠坂さんが言った通りよ。覚悟を決める事。信じることが出来ないなら。諦めた方がいい」
深雪さんと聡美さんが言う。
「その見極めるポイントを教えてください」
小鳥遊さんが聞くと深雪さんが首を振った。
「そんなのないわ。強いて言うなら直感ね」
「直感?」
小鳥遊さんが聞き返す。
「あなたが月見里君を見て想ったこと。それを信じるしかない。人間だもの、結婚して変わることもある。それでも信じる強さを持てるか?いきつく所は勘よ」
深雪さんが説明した。
「小鳥遊さんは月見里君と同棲始めて何か変わった事ってある?」
私が聞くと小鳥遊さんは答えた。
「そうですね、自分の甘さを痛感しましたね。彼はバイトと勉強を両立させている。独り立ちしようとしている。家事もこなす。私の甘さを痛感すると同時に彼の凄さに驚かされるばかりです」
小鳥遊さんは月見里君を尊敬してるという。
「そういうのならうちの悠馬もそうね。私がブレーキかけてるけど」
咲が言った。
「そういう素晴らしい主人に出会う人だっているってこと。でもそこに優劣はつけない。だって自分で夫を選んだのだから」
聡美さんが言う。
そして真鍋君が自分を選んでくれたと言う。
皆そうだ、自分が選んでそして自分を選んでくれた。
どんなことがあろうとそれが事実。
価値観の違いや恋愛観の違いなんて関係ない。
たったひとつの事実。
私が選んだ人だから、私はついて行くだけ。
「さてと、私達もそろそろ上がりましょうか?難しい話をしていてもしょうがないわ。夜は盛り上がるのでしょう?」
聡美さんがそう言って笑う。
私達も部屋を出た。
(3)
案の定部屋は混沌と化していた。
皆言いたい放題の愚痴大会。
檜山先輩まで言っている。
散らかる菓子と空き缶。
僕と公生はただ話を聞いていた。
「片桐君は混ざらなくていいの?」
公生が聞いた。
「混ざる口実がないからね」
愛莉に不満がない。
だから困惑していた。
どうしてこんなに不満が湧いてくるんだろう?
そんなに二人で暮らす事って難しい事?
愛莉も同じように風呂で不満を言っているのだろうか?
「冬夜に公生!今夜は無礼講だお前達も吐き出せよ」
誠が絡んできた。
「僕は別に愛莉に不満なんてないよ」
「ぼ、僕もないかな?」
公生の様子がおかしい。
その理由はすぐにわかった。
「公生、行くよ」
奈留は公生の手を取って引きずっていく。
「まだ寝るには早いよ」
「酔っ払いの相手なんてする必要ない!そんなに眠れないなら私が相手してあげる!」
「わかったから引っ張るなって!」
「あいつも将来冬夜と同じ運命だな……」
誠が言う。
「だな!ずっと嫁に頭が上がらないタイプだ!」
桐谷君が言う。
「そ、そろそろ話題を変えないか?」
渡辺君が皆を押さえようとする。
だが勢いづいた皆を止めることは出来ない。
「渡辺君!今夜は行くところまで行こう!男性陣の反旗を上げる時が来た!」
木元先輩も泥酔してるらしい。
「くだらねぇ、咲良もいちいち目くじら立てやがって……」
檜山先輩ですらこの始末。
僕に出来ることはこの場から逃げ出す事。
そっと部屋を出ようとすると何かにあたる。
「どこに行く気だ?トーヤ?」
カンナと亜依さんが入り口に立っている。
渡辺君も美嘉さんに捕まっている。
今日はどうかしてた。
日頃の仕事のストレスが溜まっているのか、新生活という環境の変化がそうさせるのか?
それはウィルスのように蔓延し、大人しい石原君や酒井君、竹本君まで感染していた。
「僕は主人だぞ!!もっと敬意をはらったっていいんじゃないのか!」
「甚だ同感ですね!僕は亭主だぞ!」
「咲は僕の行動に一々口出しし過ぎだ!!ぼくは夫だぞ!子供じゃない!」
そんな様子をじっと見守っている女性陣。
20名を超える女性陣が見守る中言いたい放題の男性陣。
僕と渡辺君は見るに堪えなかった。
そして彼等に告げることは女性陣の怒気が許さなかった。
狂乱の宴は永遠に続くと思えた。
「あれ?冬夜と渡辺君は?」
桐谷君が気づいた。
「あの二人は駄目だ!嫁のあしらい方ってものを分かっていない!先輩としてアドバイスしてやろうじゃないか?どこだ?」
「確かにあの二人が舐められる元凶だな。アドバイスが必要かもしれねーな」
木元先輩と檜山先輩も探し始めると皆探し出す。
そして桐谷君が気づく。
「冬夜!そんな隅っこにいないでこっちに来い」
桐谷君は僕の手をとって、引っ張るが僕の手はきっちり愛莉が掴んでいる。
「愛莉……これが男共の実態だよ」
亜依さんが言う。
「あ、亜依……いつからそこに……」
桐谷君が床に座り込み後ずさる。
「旦那の威厳……面白わね望。いいわよ?しっかり見てあげる。続けてちょうだい」
「え、恵美……」
「あなたもそんな偉そうなことが言える人だとは知らなかったわ。善君?」
酒井君は言葉を失っている。
「悠馬は確かに私の夫だね、じゃあ私もあなたの妻として言わせてもらうわ」
「咲。い、いや僕はただ……」
「ただ何?」
「ご、ごめんなさい!」
竹本君は賢い選択に走ったようだ。
何も言わずに素直に謝る。
それを皮切りに皆が言い訳を始める。
しかしそんな苦し紛れの言い訳が通るはずがない。
「正志!お前も文句があるなら聞いてやるぞ?」
「み、美嘉冷静になれ……話せばわかる」
慌ててる渡辺君なんて初めてじゃないか?
他人の心配をしてる場合じゃなかった。
「冬夜さん。こっちにきてくれませんか?2人でゆっくり話をしましょう?」
「愛莉。ぼ、僕は何も言ってないよ!」
「だから二人で話をしましょう?冬夜さんの話聞きたいから」
「愛莉。この際だからしっかり絞めてやれ!」
カンナが言う。
皆は必死に謝っていた。
そして僕は愛莉に必死に弁解していた。
その修羅場は日付が変わっても続いた。
ちなみに公生もしっかり問い詰められたらしい。
(4)
皆必死に謝って眠りについた。
僕は結局無罪でお咎め無しだったんだけどあまり眠れなかった。
愛莉の本心が知りたかった。
愛莉は同棲を始めて不満を漏らした試しがない。
内心ストレスをためているんじゃないか?
そんな不安があって眠れなかった。
4時ごろ目を覚ますと何となく屋敷の中をうろついていると愛莉と出くわした。
愛莉も同じように眠れなかったらしい。
2人で2階のバルコニーに向かった。
まだ夜明け前と言った感じだった。
愛莉は黙ったままだ。
僕から話を切り出してみた。
「愛莉、まだ怒ってる?」
「どうしてですか?」
「いや、昨日あんなことあったし……」
「冬夜さんは何も不満はないのでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「私は冬夜さんを信じます」
愛莉はそう言って微笑む。
この際だから愛莉に聞いてみた。
「あのさ、愛莉は僕に不満とかないの?」
「どうしてですか?」
「愛莉と同棲始めて愛莉そう言うの一切なくなったろ?」
「そうですね。冬夜さんは気づいてませんか?」
「何を?」
気づいてないんですねと愛莉は笑う。
「朝は素直に起きて下さるようになった。夜は真っすぐ帰ってきてもらえる。お休みの日は私の相手をして下さる。そんな冬夜さんにどうして私が不満を抱きましょうか?冬夜さんと一緒です、不満なんてありませんよ」
そう言って愛莉は笑う。
「素敵な眺めですね」
「そうだね」
「私お風呂で言われた事があるんです」
「なに?」
「子育ては冬夜さん手伝ってくれるのか?って」
「そうなんだ」
「私は迷いもなく答えました『冬夜さんは手伝ってくれる』って」
「……3人作るんだっけ?」
「ええ、頑張らないといけませんね」
「そうだね」
「これからも一緒に頑張りましょうね」
愛莉はそう言って景色を見ていた。
「まだ肌寒いですね。もどりましょうか?」
僕は黙って上着を脱いで愛莉にかけようとする。
「いけません、冬夜さんが風邪ひいてしまいます」
愛莉がそう言うと愛莉に上着を着せて背中から抱き着く。
「これならいいだろ?」
「……困った旦那様ですね」
愛莉はそう言って笑った。
見渡す景色には朝もやがたちこめていた。
唇に流し込まれるがままに、朝もやを迷わず行こう。
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