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LASTSEASON
響き合う魂よ
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(1)
「それでは気を付けて言ってきてくださいね」
「ああ、頑張って来るよ」
早朝から僕は荷物を持って税理士試験のある熊本へ向かった。
試験は3日間行われる。
今日に3科目、明日明後日に1科目ずつ、計5科目受ける。
会場に着くと、すでに人がたくさんいた。
皆最後の悪あがきにと必死に参考書を読んでいる。
僕は愛莉とメッセージのやり取りをしていた。
そして試験会場に入る。
試験は1科目につき2時間、理論に50分、計算に70分程度の時間配分が目安らしい。
試験が始まった。
一問ずつ慎重に解いてく。
2時間息がつまる思いがした。
ボールペンで書き込む音だけが流れる。
1科目目が終わった。
昼ご飯を食べに外に出る。
目星となるラーメン屋をチェックしていた。
お昼を食べると、会場に戻りそして気分転換に努める。
復習など決してしない。
しないでいいように、愛莉の管理の下、必死に体に馴染ませてきた。
2科目目、3科目目を受ける。
時間は19時を回っていた。
夕食を食べてからビジネスホテルに泊まる。
そして愛莉に電話する。
「お疲れ様です、どうでしたか?」
「取りあえず手ごたえはあったよ」
「それはよかったです、残り二日間がんばってくださいね」
「ああ、そっちは変わったことあった?」
「いいえ、特に何もありません」
「そうか、戸締りはちゃんとするんだよ」
「もう、私もそこまで子供じゃありませんよ」
「ごめん、じゃあまた明日電話する」
「いい結果お待ちしてます」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
スマホのアラームをセットすると、僕は眠りにつく。
今さら無駄な足掻きはしない。
明日の体調を気を付けるべきだ。
2時間集中力を持続させるのは難しい。
少しでも睡眠をとってリラックスしておくことが大事だと愛莉が言っていた。
愛莉の言ってることを実行出来れば受かるはずだ。
そうして受験一日目は終わった。
(2)
「おはようございます」
起きて来た純一さんに挨拶。
「おはよう、いつもごめんね」
「気にしないで、一人分作るのも二人分作るのも一緒だから。もうじきできる」
「わかった」
そういって純一さんはテーブルにつく。
朝食をつくるといってもトーストをやいてコーヒーを入れるだけ。
朝食を食べ終わると片づけをする。
それからやっと自分の準備の時間に入る。
準備と言っても着替えて顔洗うだけだけど。
純一さんはリビングでテレビを見ている。
「テストは大丈夫?」
「ええ、なんとかなってる」
「それはよかった」
「純一さんこそ大丈夫なの?今週末花火に行くみたいだけど」
「そのくらいの余裕は残してるよ」
純一さんはそう言って笑う。
時間になると家を出て駅に向かう。
同棲をはじめて通学時間が短縮できた。
朝の混雑は相変わらずだけど。
そうして、学校に着くと分かれてそれぞれの教室に向かう。
昼休みになると皆学食に集まる。
皆の話を聞きながら時間を潰す。
梅本君と晴斗先輩の話を聞きながらうなずいている。
梅本君はたまにスマホを弄っている。桜木さんとやりとりしているのだろう。
時間になるとまた教室に移動する。
そして今日の分の科目を終えるとバイトに行く。
制服に着替えてバイトを始める。
バイトを終えると、電車に乗って家に帰る。
駅から家までそんなに離れていない。
家に帰ると「おかえり~」と純一さんが言ってくれる。
「もうすぐご飯できるから先に風呂入りなよ」
言われたとおりに風呂に入る。
こんな当たり前の生活が数か月続いた。
テレビでやってた。当たり前のことを当たり前だと思えるのはその下で支えてる人がいるからだと。
私もそう思う。
渡辺班に背中を押されて、やっと手に入れたこの日常。
家に帰れば待ってる人がいる。
そんな当たり前を手に入れることにどれだけ苦労したことか。
食事をしながら純一さんと話をする。
食事が終ると私が片づけをする。
純一さんはリビングでテレビを見ている。
私も片づけを終えると純一さんの隣に座ってテレビを見る。
テレビの内容なんてどうでもよかった。
精々話題の足しになる程度。
時間になると寝室に行く。
ベッドに入ると純一さんの腕の中で眠りにつく。
また明日がやってくる。
以前の様な不安はなく。
まだ見ぬ明日に期待をよせていた。
(3)
「こう毎日試験だけってのもしんどいね」
「そうね」
「まあ、試験が終われば休みって退屈が待ってるんだけどね」
「豊は休みたくないの?」
「休みはしたいけど何の予定もない休みって退屈じゃない?」
「渡辺班の予定があるし、なによりバイトだってあるじゃない」
そんな話をしながら豊と歩いている。
豊と別れるとバイト先に行く。
SSのバイト。
同僚と話しながら仕事をする。
この時期の外仕事はきつい。冬も辛いと思うけど。水を使わなきゃいけないんだし。
接客しながら洗車しながら時間は過ぎていく。
バイトを終えると家に帰る。
コンビニで買った弁当を食べながらテレビを見てるとスマホが鳴る。
豊からだ。
今バイトが終わったらしい。
これから帰る所だという。
豊は車を持っていない。
「だって必要ない場所に住んでるんだから、維持費とか無駄なだけじゃん」
そんな理由で免許すら取ってない。
結果私の車でデートに出かける。
地元で車を持っていないことは致命傷に近い。
ましや私立大周辺だと電車はおろかバスすらそんなに走ってない。
「最寄りの交通機関から近い」と言うだけで「最寄りの交通機関が便利です」とは書いてない。
通学は私が送迎する。
私と豊のアパートはそんなに離れていない。
もう同棲した方が色々節約出来て良いんじゃないかと聞いてみたが。
「お互い自由になる空間て必要じゃない?」
という豊の一言で却下された。
その割には豊の足となっている私の自由は拘束されている。
それに対して文句を言ったことは無い。
文句も特段無い。
豊の自由を奪おうとも思ったことは無い。
自由にさせとくくらいがちょうどいい。
そして電話は終わる。
「じゃ、これから夕食して寝るから。また明日ね」
電話を終えると私は風呂に入る。
そしてまたテレビを見る。
そして時間が経つと私はテレビを消し照明を落としてベッドに入る。
タイミングを計ったかのようにメッセージが入る。
豊からだ。
「おやすみー」
「おやすみ」
と、返して私は眠りにつく。
そして次の日の朝「おはよう」のメッセージと共に新しい一日がはじまる
(4)
「じゃ、また明日ね」
香澄がそう言って、大原君と一緒に帰っていった。
私は校門の前で小泉君を待つ。
暫くすると小泉君の白い車が止まる。
「おまたせ」
助手席に乗り込むと走り出す。
今日のテストの内容などを話す。
帰りにスーパーに寄ると買い物をして帰る。
帰ると私は食事の準備、小泉君は風呂に入る。
テスト期間は仕事はオフにしてもらってある。
一日に2科目程度しか受けないのでその必要はないのだが。
その代わり休みが始まったらハードなスケジュールが待っている。
ローカル番組とはいえレギュラー出演も決まった。
小泉君が風呂から出ると夕食を食べる。
食レポが主な仕事らしいので私は自分で作った料理を自分で説明する練習をする。
それを聞いて、指摘をしてくれる小泉君。
食事が終ると、私が風呂に入ってる間に小泉君が片づけを引き受けてくれる。
その後は二人でリビングでくつろぐ。
テレビを見ながらこの芸人はどうだとか感想を言い合う。
私達にとってテレビ番組は教材なんだ。
面白い?どこが面白かった?どこに引き付けられた?トークについて語りつくす。
色々な番組を見る。
私達に足りないもの、それは話題の引き出しだと指摘された。
その為には色々な情報を仕入れ、本を読み、実際に現地に行って体感する事だと言われる。
とはいえ、寝不足でテストをミスったはしゃれにならない。
日付が変わる頃私達はベッドに入る。
小泉君は未だに緊張している。
そんな小泉君を見ながら私は眠っていた。
(5)
美月たちと別れた後、私達はスーパーに寄って帰る。
私が料理してる間彼は紀維(きずな)は風呂に入っている。
紀維が風呂から出ると夕食。
私がお風呂に入ってる間紀維が片づけをする。
それらが終るとお笑いのDVDを見る。
ネタをパクるわけじゃない。
どんなネタが今流行なのかを研究する。
そしてネタ帳にアイデアを書いて後日美月と打ち合わせをする。
私達の生活はお笑いの為にあった。
学校での生活、日常生活、渡辺班の出来事すら笑いのネタにならないか吟味していく。
仕事は私事。
そんな毎日に彼は飽き飽きしてないか?
そんな不安はあった。
高校時代は美月と二人で楽しかったネタ探しも今はそれぞれに彼氏が出来て彼氏とネタを探している。
美月と小泉君が同棲を始めた時焦った
私一人取り残された感。
紀維はいつになったら私を誘ってくれるの?
そんな焦りだった。
美月と張り合ってるわけじゃないけど、どうしても比較してしまう。
今もそうだ。
今美月たちは何をやっているんだろう?
そんな事を考えていた。
「どうしたの香澄?」
呼びかけられるまで自分の世界に没頭していた。
「どうしたの紀維」
「いや、突然思いつめた顔してたから」
どう返したらいいか分からなかった。
そして口にしたのは不安。
「私達はちゃんと芸人としてやっていけるのだろうか?」
紀維は頭を下げていた。
「僕ががちゃんとしたマネージャーだったら……ごめん!」
そんなつもりで言ったんじゃない。
私は紀維に頭を上げるように言う。
「ごめん、少しだけ不安に思っただけだから」
紀維に胸の内を打ち明ける。
紀維は笑っていた。
「心配しなくてもいいよ、徐々にだけど相手からオファーが来てるんだ。それにリピーターも多い」
紀維はそう言った。
何も心配しなくても確実にファンはついてると。
必死に私を励ましてくれた。
私達は仕事に集中してくれたらいいと紀維は言う。
「でも、それだと紀維をないがしろにしてしまう……」
それが不安なの。
紀維は私の手を握り締める。
「心配しなくても僕は二人をそばでちゃんと見てるから」
紀維が言う。
「そこは嘘でも”私だけを見てる”っていうべきなんじゃないの?」
「あ……」
慌てる紀維を見ながら笑ってた。
「今日はここまでにしよっか?」
「そうだね」
テレビを消すと寝室に行きベッドに入る。
紀維はベッドの隅っこにいる。
「そんな端っこで寝てたら落ちるよ?」
「で、でも……」
「恵美さんも言ってたでしょ”うちは恋愛禁止なんて馬鹿げた社則は無い”って……今更気にしなくてもいよ」
「でも間違いがあったら……」
「間違いがあったら困るような相手と同棲なんてしないよ!それとも何?”間違いを起こして欲しい”と私に言わせるわけ?」
もう言ってしまったけど。
紀維は観念して私の隣にきた。
私は紀維の胸に顔をうずめる。
「約束、ちゃんと私を支えてね」
「わかった」
お互いに約束を交わすと私達は眠りについた。
(6)
「永遠、今日暇か?」
「どうした?」
「久々に飲みに行かね?」
「いいけど?」
「よしっ!じゃあ朝まで遊ぼうぜ!」
「いいね!」
どうせ明日は昼からだ。
偶には友人と飲むのもいいだろう。
家に帰ると荷物を置いてシャワーを浴びると。支度して飲みに行く。
友人と二人で餃子屋で0次会
その後焼き鳥屋で1次会
「うわ、梅本君てめっちゃイケメンじゃん。もてるんじゃない?」
女性陣に囲まれる。
「そうでもないよ。もっといい男いっぱいいるじゃん」
「また~。謙遜しちゃって~」
皆と盛り上がってると着信だ。
どうせ渡辺班だろ?
放っておいても大丈夫。
舞台は2次会3次会へと続いて夜明けを迎えようとしていた。
「じゃ、お疲れ様でした~!」
そう言って皆と分かれる。
始発の時間までまだ時間あるな。
そんな時だった。
相変わらず鳴り響くスマホ。
皆朝まで元気だな。
スマホを見る。
え?
全部僕を呼んでいるメッセージだった。
「どうしたの?」
「どうしたの?じゃねーよ!お前彼女放って今まで何やってた!?」
美嘉さんが言う。
記憶を辿ると血の気が引いた。酔いも一気に醒めた。
「どうせ、毎日コンビニ飯だろ?今夜何か作りに行ってやるよ。バイト休みだし」
「マジ?サンキュー」
そんな個人メッセージのログが残っている。
完全に忘れていた。
「今日さ、私の事お持ち帰りしてもいいよ」
それどころじゃねーよ!
「ごめん!用事思い出した!」
「じゃあ、ID交換だけでもしない」
「まじごめん。お疲れっした!」
バスの始発なんて待ってられない。タクシーで帰る。
アパートの前に祥子の車が止まっている。
祥子には合鍵を渡してる、代わりに祥子からも合鍵を預かっている。
部屋に入ると祥子が一人机に突っ伏して眠っている。
テーブルには夕食がおかれて……。
時計は8時だった。
「祥子!」
祥子を起こす。
祥子は目を覚ました。
「人に飯作らせておいて朝帰りとはいい度胸してるぜ」
「ごめん!!」
俺は頭を下げる。
「まあいいや、さっさと食おうぜ。昨夜から食ってないんだ。腹減ったよ。今温めなおすから待ってろ」
そう言って祥子はレンジで温めなおしていた。
「今日テスト大丈夫なのか?」
「お前が言うか?2限からだから大丈夫だよ」
二人で朝食にはヘビーすぎる飯を食う。
「どうだ?」
「美味しい!」
「それはよかった。彼氏に料理作ってやるなんて初めてだからドキドキしたぜ」
祥子はそう言って笑ってる。
その後二人で片づけて祥子が準備を済ませる頃にはもう祥子が出ないと間に合わない時間になっていた。
「またくるわ、今度はちゃんと家にいろよ」
「ああ、気を付ける」
「……次来るときはお泊りの準備してくるわ」
「わかった」
そういって、祥子の車が去っていくのを見送る。
「……で、お前何やってたんだ?」
神奈さんが聞いてきた。
「……あんたまさか遊んでたとか言わないよね?」
亜依さんが追及する。
「ちょっと友達とあっていて」
合コンしてたなんて死んでも言えない。
だって友達と遊んでいただけでも物凄く叱られたから……。
別の人からメッセージが着た。
帰るときに連絡先聞いてきた奴だ。
ちょっとかわいい子だったな。
男子会に相談してみる。
すると男子会でも怒られた。
「だからそういう話を俺達に振るのは止めろ!」
「今すぐこのメッセージを消せ!妻に見られる」
慌ててメッセージを消す。
しかし遅かったようだ。
「誠君と瑛大が大人しくなったかと思ったら次はお前か永遠!」
「今日学校終わったら青い鳥にきなさい!みっちり教育してやるわ!これは命令よ!」
亜依さんと恵美さんが言う。
「今日私休みなんだ。私も行く。こういうのは早めの対処が肝心だからな」
「そうね、私も行くべきね。悪い芽は早い内に摘めと言うし」
美嘉さんと晶さんも言っている。
「……泊りなんて甘っちょろい事言ってる場合じゃないようだな」
祥子が言ってる。
「……夏休みの間に引っ越すぞ!嫌とは言わせねぇ!」
まじかよ。
「賢明な判断ね。この手の輩は一人にさせると何やるか分からない」
その後も女性陣の非難を浴びた。
帰りに咲さんに捕まって青い鳥に強制連行された挙句2時間近く説教された。
(7)
呼び鈴がなる。
大体予想はついた。
ドアを開ける。
美琴が買い物袋をもって立っていた。
「お邪魔しま~す」
そう言って美琴は勝手に上がり込む。
「へえ、意外と綺麗じゃん」
部屋の中を見回す美琴。
「近頃の女子大生は一人暮らしの男の家に無防備に上がり込んで何も危機感を感じないの?」
僕がそう言うと美琴は振り返る。
「1人暮らしの彼の家にに訂正させてもらうわ。ご飯作りに来るくらいどうってことないでしょ?」
苦労したんだよ、この辺スーパー無いしと美琴が言う。
「ご飯くらい自分で作れますよ」
「彼女の手料理って食べたいものじゃないの?」
キッチン借りるわよ、と材料を並べて勝手に料理を始める。
緊張していた。
だって、女性を家に入れた事なんてなかったから。
ぼーっと立っていると美琴が振り返る。
「そんなに見られると緊張するからテレビでも見てて!」
僕はテレビをつけると見てる。
偶に美琴の方を見る。
誠先輩の言うロマンを少しだけ理解した気がする。
今までそう言う欲求を持ったことのない僕ですら「抱きつきたい」と思ってしまった。
「できたよ」
美琴が作ったのはカレーライスだった。
見事にベタだな。
「これなら保存もきくでしょ」
美琴が言う。
一口食べてみる。
意外と美味い。
「美味しい」
何の捻りも無い感想だったけどストレートに伝えた。
「よかった」
それが愛想でな事くらい分かる。
食べ終わった後片づけまでしてくれた。
スマホが鳴り続ける。
スマホを見る。
梅本君に用があるらしい。
片づけが終ると帰るのかなと思った。
ちょっと寂しい気がしたけど。
だけど片づけが終るととんでもないことを言い出した。
「ちょっとお風呂借りるね」
は?
風呂掃除までさせるのはさすがに気の毒だ。
「ちょ、ちょっとまって」
「どうしたの?」
美琴はタオルとかを準備していた。
「何するの?」
「何ってお風呂入るんだ。大丈夫お泊りセット持ってきたから」
今なんて言った?
「お泊りセット?」
美琴の表情が険しくなる。
「咢……あんたまさか彼女に料理つくらせて、片づけまでさせて帰らせようと思っていたわけ?」
「片づけは自分でしようと思ってたんだけど……」
もっといい言い訳なかったのかな?
「残念だったわね。私はちゃんとお泊り用のセットも持ってきた。どうせあんたの事だからゴムすら持ってないだろうと思って買って来たわよ」
完全に逃げ道が無かった。
「そ、それはありがとう」
美琴は悪戯っぽく笑うとスマホを弄りだす。
すると僕のスマホが鳴りやまなくなる。
僕がスマホを見てる間に美琴は浴室に入っていった。
「一緒に入りたいって言うなら家族湯行くけど?」
聞かなかったことにしてスマホを見た。
「彼ったら、お泊りにきたらご飯だけ作らせておいて帰れって言うの」
色々訂正する箇所があると思うんだけどこの説明文。
しかし訂正する暇も無く次から次へとメッセージが入ってくる。
「この間抜け!ゴムくらい用意しとけ!」
「お前は女に恥かかせる気か腰抜け!」
「まあ、がんばれ」
「まあ、そういう経験も必要だろ」
怒る女性陣とどうでもよさそうな男性陣。
そんなメッセージの雨嵐を見てる。
梅本君は相変わらず応答がないらしい。
「ありがと、咢も風呂すませちゃいなよ」
風呂上り姿の美琴が言った。
取りあえず風呂に入る。
この後どうする?
予備の布団が無い。
むしろあったところで出番があるとは思えない。
暫し悩んだ挙句、風呂を出る。
美琴はドリンクを飲みテレビを見てくつろいでる。
自然体で。
「美琴、僕寝袋で寝るからベッドつかってよ……」
恐る恐る申し出てみる。
反応が返ってこない。
そのうち来る怒りの言葉に備えていた。
だけどそんな僕を待っていたのは美琴の抱擁だった。
温かい……。
「そんなに怖いか……初めてがあんなんだったもんな」
美琴の腕が震えている。
「びびってんじゃねーよ。私だってこんな甘え方するの初めてで怖いんだ……」
僕は何も言わずに、ベッドの中に入る。
その後に美琴が入ってくる。
そして……。
「これでよかったんだよな?」
美琴がふと漏らした?
「咢あの時が初めてだったんだろ?恐怖になってないか?トラウマになってないか心配だったんだ」
そういうことね。
「大丈夫……」
「そっか……」
しばらく沈黙の時が流れる。
「またきてもいいよな?」
美琴が言う。
「今度は来る前にアポがあると嬉しいな」
「分かった。じゃあ寝ようか」
「ああ、お休み」
僕は眠りについた。
朝起きると美琴が朝食の準備をしていた。
「おはよう」
「お!おはよう。ちょっと待ってろ。もうじき出来る」
美琴の作った朝食を食べて片づける。
「咢、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「私立大まで送ってくれね?頼む!」
「いいけど」
美琴を助手席に乗せて私立大に向かう。
「一回やってみたかったんだよね。彼氏の送迎で学校に行くっての」
「……なるほどね」
私立大に着くと彼女を降ろす。
「じゃ、また連絡する」
「ああ」
僕は地元大へと急いだ。
また、か……。
次は週末の花火かな?
今日も暑い日差しだった。
(8)
「ただいま~」
「おかえりなさい、お疲れ様でした……きゃっ!」
僕は愛莉に抱きついていた。
「だめですよ、そういうことは後にしてくださいな」
愛莉はそう言うと僕を突き放す。
「愛莉は冷たいな」
「だからあとでゆっくり甘えさせてください。私だって寂しかったんだから」
お風呂に入っててくださいというので、風呂に入ると愛莉と夕食にした。
「で、どうだったんですか?」
「ああ、手ごたえはあった」
「それはよかったです」
夕食を食べると愛莉が風呂に入る。
その間に寝室でスマホを見る。
瑛大の次は梅本君か……。
次から次へと……。
「永遠!男子会にプライベートなんてあると思うな。常に監視されていると思え!」
桐谷君がまた余計なことを言う。
「お前も余計な事を書くな!瑛大!」
渡辺君が注意してる。
他の皆は気づかないふりをしている。
しかし亜依さんと美嘉さんに見られたらしい。
「男共こそこそ話してないでこっちに来なさい!」
「お前ら男子会グル禁止だ!!」
二人が怒っている。
そんなことを渡辺班に載せると……。
「あら?メッセージが……」
愛莉が自分のスマホを見る。
すでに他の男性陣は検閲をされていたらしい。
「冬夜さんスマホ見せてくださいな」
愛莉に抱きつく。
「もういいよね。今夜は愛莉甘えさせてやるからな」
「まずスマホを見せてくださいな」
「もうくたくただよ、このまま眠りたいくらいだ」
「冬夜さん」
観念して愛莉にスマホを見せる。
愛莉は男子会を見る。
「この事だったんですね……」
「え?」
愛莉から夕方にあった青い鳥での出来事を聞く。
「なるほどね……」
「それじゃ、この件はお終いです」
まだ他に件があるの?
「お忘れですか?今夜は甘えさせてくれるって……」
「ああ、そうだね」
「それなのにこのまま眠りたいって酷すぎます」
なるほどね。
「眠らないうちにすませようか?」
「そうですね」
照明を落としてベッドに入る。
愛莉は試験の疲れをしっかりと癒してくれた。
「それでは気を付けて言ってきてくださいね」
「ああ、頑張って来るよ」
早朝から僕は荷物を持って税理士試験のある熊本へ向かった。
試験は3日間行われる。
今日に3科目、明日明後日に1科目ずつ、計5科目受ける。
会場に着くと、すでに人がたくさんいた。
皆最後の悪あがきにと必死に参考書を読んでいる。
僕は愛莉とメッセージのやり取りをしていた。
そして試験会場に入る。
試験は1科目につき2時間、理論に50分、計算に70分程度の時間配分が目安らしい。
試験が始まった。
一問ずつ慎重に解いてく。
2時間息がつまる思いがした。
ボールペンで書き込む音だけが流れる。
1科目目が終わった。
昼ご飯を食べに外に出る。
目星となるラーメン屋をチェックしていた。
お昼を食べると、会場に戻りそして気分転換に努める。
復習など決してしない。
しないでいいように、愛莉の管理の下、必死に体に馴染ませてきた。
2科目目、3科目目を受ける。
時間は19時を回っていた。
夕食を食べてからビジネスホテルに泊まる。
そして愛莉に電話する。
「お疲れ様です、どうでしたか?」
「取りあえず手ごたえはあったよ」
「それはよかったです、残り二日間がんばってくださいね」
「ああ、そっちは変わったことあった?」
「いいえ、特に何もありません」
「そうか、戸締りはちゃんとするんだよ」
「もう、私もそこまで子供じゃありませんよ」
「ごめん、じゃあまた明日電話する」
「いい結果お待ちしてます」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
スマホのアラームをセットすると、僕は眠りにつく。
今さら無駄な足掻きはしない。
明日の体調を気を付けるべきだ。
2時間集中力を持続させるのは難しい。
少しでも睡眠をとってリラックスしておくことが大事だと愛莉が言っていた。
愛莉の言ってることを実行出来れば受かるはずだ。
そうして受験一日目は終わった。
(2)
「おはようございます」
起きて来た純一さんに挨拶。
「おはよう、いつもごめんね」
「気にしないで、一人分作るのも二人分作るのも一緒だから。もうじきできる」
「わかった」
そういって純一さんはテーブルにつく。
朝食をつくるといってもトーストをやいてコーヒーを入れるだけ。
朝食を食べ終わると片づけをする。
それからやっと自分の準備の時間に入る。
準備と言っても着替えて顔洗うだけだけど。
純一さんはリビングでテレビを見ている。
「テストは大丈夫?」
「ええ、なんとかなってる」
「それはよかった」
「純一さんこそ大丈夫なの?今週末花火に行くみたいだけど」
「そのくらいの余裕は残してるよ」
純一さんはそう言って笑う。
時間になると家を出て駅に向かう。
同棲をはじめて通学時間が短縮できた。
朝の混雑は相変わらずだけど。
そうして、学校に着くと分かれてそれぞれの教室に向かう。
昼休みになると皆学食に集まる。
皆の話を聞きながら時間を潰す。
梅本君と晴斗先輩の話を聞きながらうなずいている。
梅本君はたまにスマホを弄っている。桜木さんとやりとりしているのだろう。
時間になるとまた教室に移動する。
そして今日の分の科目を終えるとバイトに行く。
制服に着替えてバイトを始める。
バイトを終えると、電車に乗って家に帰る。
駅から家までそんなに離れていない。
家に帰ると「おかえり~」と純一さんが言ってくれる。
「もうすぐご飯できるから先に風呂入りなよ」
言われたとおりに風呂に入る。
こんな当たり前の生活が数か月続いた。
テレビでやってた。当たり前のことを当たり前だと思えるのはその下で支えてる人がいるからだと。
私もそう思う。
渡辺班に背中を押されて、やっと手に入れたこの日常。
家に帰れば待ってる人がいる。
そんな当たり前を手に入れることにどれだけ苦労したことか。
食事をしながら純一さんと話をする。
食事が終ると私が片づけをする。
純一さんはリビングでテレビを見ている。
私も片づけを終えると純一さんの隣に座ってテレビを見る。
テレビの内容なんてどうでもよかった。
精々話題の足しになる程度。
時間になると寝室に行く。
ベッドに入ると純一さんの腕の中で眠りにつく。
また明日がやってくる。
以前の様な不安はなく。
まだ見ぬ明日に期待をよせていた。
(3)
「こう毎日試験だけってのもしんどいね」
「そうね」
「まあ、試験が終われば休みって退屈が待ってるんだけどね」
「豊は休みたくないの?」
「休みはしたいけど何の予定もない休みって退屈じゃない?」
「渡辺班の予定があるし、なによりバイトだってあるじゃない」
そんな話をしながら豊と歩いている。
豊と別れるとバイト先に行く。
SSのバイト。
同僚と話しながら仕事をする。
この時期の外仕事はきつい。冬も辛いと思うけど。水を使わなきゃいけないんだし。
接客しながら洗車しながら時間は過ぎていく。
バイトを終えると家に帰る。
コンビニで買った弁当を食べながらテレビを見てるとスマホが鳴る。
豊からだ。
今バイトが終わったらしい。
これから帰る所だという。
豊は車を持っていない。
「だって必要ない場所に住んでるんだから、維持費とか無駄なだけじゃん」
そんな理由で免許すら取ってない。
結果私の車でデートに出かける。
地元で車を持っていないことは致命傷に近い。
ましや私立大周辺だと電車はおろかバスすらそんなに走ってない。
「最寄りの交通機関から近い」と言うだけで「最寄りの交通機関が便利です」とは書いてない。
通学は私が送迎する。
私と豊のアパートはそんなに離れていない。
もう同棲した方が色々節約出来て良いんじゃないかと聞いてみたが。
「お互い自由になる空間て必要じゃない?」
という豊の一言で却下された。
その割には豊の足となっている私の自由は拘束されている。
それに対して文句を言ったことは無い。
文句も特段無い。
豊の自由を奪おうとも思ったことは無い。
自由にさせとくくらいがちょうどいい。
そして電話は終わる。
「じゃ、これから夕食して寝るから。また明日ね」
電話を終えると私は風呂に入る。
そしてまたテレビを見る。
そして時間が経つと私はテレビを消し照明を落としてベッドに入る。
タイミングを計ったかのようにメッセージが入る。
豊からだ。
「おやすみー」
「おやすみ」
と、返して私は眠りにつく。
そして次の日の朝「おはよう」のメッセージと共に新しい一日がはじまる
(4)
「じゃ、また明日ね」
香澄がそう言って、大原君と一緒に帰っていった。
私は校門の前で小泉君を待つ。
暫くすると小泉君の白い車が止まる。
「おまたせ」
助手席に乗り込むと走り出す。
今日のテストの内容などを話す。
帰りにスーパーに寄ると買い物をして帰る。
帰ると私は食事の準備、小泉君は風呂に入る。
テスト期間は仕事はオフにしてもらってある。
一日に2科目程度しか受けないのでその必要はないのだが。
その代わり休みが始まったらハードなスケジュールが待っている。
ローカル番組とはいえレギュラー出演も決まった。
小泉君が風呂から出ると夕食を食べる。
食レポが主な仕事らしいので私は自分で作った料理を自分で説明する練習をする。
それを聞いて、指摘をしてくれる小泉君。
食事が終ると、私が風呂に入ってる間に小泉君が片づけを引き受けてくれる。
その後は二人でリビングでくつろぐ。
テレビを見ながらこの芸人はどうだとか感想を言い合う。
私達にとってテレビ番組は教材なんだ。
面白い?どこが面白かった?どこに引き付けられた?トークについて語りつくす。
色々な番組を見る。
私達に足りないもの、それは話題の引き出しだと指摘された。
その為には色々な情報を仕入れ、本を読み、実際に現地に行って体感する事だと言われる。
とはいえ、寝不足でテストをミスったはしゃれにならない。
日付が変わる頃私達はベッドに入る。
小泉君は未だに緊張している。
そんな小泉君を見ながら私は眠っていた。
(5)
美月たちと別れた後、私達はスーパーに寄って帰る。
私が料理してる間彼は紀維(きずな)は風呂に入っている。
紀維が風呂から出ると夕食。
私がお風呂に入ってる間紀維が片づけをする。
それらが終るとお笑いのDVDを見る。
ネタをパクるわけじゃない。
どんなネタが今流行なのかを研究する。
そしてネタ帳にアイデアを書いて後日美月と打ち合わせをする。
私達の生活はお笑いの為にあった。
学校での生活、日常生活、渡辺班の出来事すら笑いのネタにならないか吟味していく。
仕事は私事。
そんな毎日に彼は飽き飽きしてないか?
そんな不安はあった。
高校時代は美月と二人で楽しかったネタ探しも今はそれぞれに彼氏が出来て彼氏とネタを探している。
美月と小泉君が同棲を始めた時焦った
私一人取り残された感。
紀維はいつになったら私を誘ってくれるの?
そんな焦りだった。
美月と張り合ってるわけじゃないけど、どうしても比較してしまう。
今もそうだ。
今美月たちは何をやっているんだろう?
そんな事を考えていた。
「どうしたの香澄?」
呼びかけられるまで自分の世界に没頭していた。
「どうしたの紀維」
「いや、突然思いつめた顔してたから」
どう返したらいいか分からなかった。
そして口にしたのは不安。
「私達はちゃんと芸人としてやっていけるのだろうか?」
紀維は頭を下げていた。
「僕ががちゃんとしたマネージャーだったら……ごめん!」
そんなつもりで言ったんじゃない。
私は紀維に頭を上げるように言う。
「ごめん、少しだけ不安に思っただけだから」
紀維に胸の内を打ち明ける。
紀維は笑っていた。
「心配しなくてもいいよ、徐々にだけど相手からオファーが来てるんだ。それにリピーターも多い」
紀維はそう言った。
何も心配しなくても確実にファンはついてると。
必死に私を励ましてくれた。
私達は仕事に集中してくれたらいいと紀維は言う。
「でも、それだと紀維をないがしろにしてしまう……」
それが不安なの。
紀維は私の手を握り締める。
「心配しなくても僕は二人をそばでちゃんと見てるから」
紀維が言う。
「そこは嘘でも”私だけを見てる”っていうべきなんじゃないの?」
「あ……」
慌てる紀維を見ながら笑ってた。
「今日はここまでにしよっか?」
「そうだね」
テレビを消すと寝室に行きベッドに入る。
紀維はベッドの隅っこにいる。
「そんな端っこで寝てたら落ちるよ?」
「で、でも……」
「恵美さんも言ってたでしょ”うちは恋愛禁止なんて馬鹿げた社則は無い”って……今更気にしなくてもいよ」
「でも間違いがあったら……」
「間違いがあったら困るような相手と同棲なんてしないよ!それとも何?”間違いを起こして欲しい”と私に言わせるわけ?」
もう言ってしまったけど。
紀維は観念して私の隣にきた。
私は紀維の胸に顔をうずめる。
「約束、ちゃんと私を支えてね」
「わかった」
お互いに約束を交わすと私達は眠りについた。
(6)
「永遠、今日暇か?」
「どうした?」
「久々に飲みに行かね?」
「いいけど?」
「よしっ!じゃあ朝まで遊ぼうぜ!」
「いいね!」
どうせ明日は昼からだ。
偶には友人と飲むのもいいだろう。
家に帰ると荷物を置いてシャワーを浴びると。支度して飲みに行く。
友人と二人で餃子屋で0次会
その後焼き鳥屋で1次会
「うわ、梅本君てめっちゃイケメンじゃん。もてるんじゃない?」
女性陣に囲まれる。
「そうでもないよ。もっといい男いっぱいいるじゃん」
「また~。謙遜しちゃって~」
皆と盛り上がってると着信だ。
どうせ渡辺班だろ?
放っておいても大丈夫。
舞台は2次会3次会へと続いて夜明けを迎えようとしていた。
「じゃ、お疲れ様でした~!」
そう言って皆と分かれる。
始発の時間までまだ時間あるな。
そんな時だった。
相変わらず鳴り響くスマホ。
皆朝まで元気だな。
スマホを見る。
え?
全部僕を呼んでいるメッセージだった。
「どうしたの?」
「どうしたの?じゃねーよ!お前彼女放って今まで何やってた!?」
美嘉さんが言う。
記憶を辿ると血の気が引いた。酔いも一気に醒めた。
「どうせ、毎日コンビニ飯だろ?今夜何か作りに行ってやるよ。バイト休みだし」
「マジ?サンキュー」
そんな個人メッセージのログが残っている。
完全に忘れていた。
「今日さ、私の事お持ち帰りしてもいいよ」
それどころじゃねーよ!
「ごめん!用事思い出した!」
「じゃあ、ID交換だけでもしない」
「まじごめん。お疲れっした!」
バスの始発なんて待ってられない。タクシーで帰る。
アパートの前に祥子の車が止まっている。
祥子には合鍵を渡してる、代わりに祥子からも合鍵を預かっている。
部屋に入ると祥子が一人机に突っ伏して眠っている。
テーブルには夕食がおかれて……。
時計は8時だった。
「祥子!」
祥子を起こす。
祥子は目を覚ました。
「人に飯作らせておいて朝帰りとはいい度胸してるぜ」
「ごめん!!」
俺は頭を下げる。
「まあいいや、さっさと食おうぜ。昨夜から食ってないんだ。腹減ったよ。今温めなおすから待ってろ」
そう言って祥子はレンジで温めなおしていた。
「今日テスト大丈夫なのか?」
「お前が言うか?2限からだから大丈夫だよ」
二人で朝食にはヘビーすぎる飯を食う。
「どうだ?」
「美味しい!」
「それはよかった。彼氏に料理作ってやるなんて初めてだからドキドキしたぜ」
祥子はそう言って笑ってる。
その後二人で片づけて祥子が準備を済ませる頃にはもう祥子が出ないと間に合わない時間になっていた。
「またくるわ、今度はちゃんと家にいろよ」
「ああ、気を付ける」
「……次来るときはお泊りの準備してくるわ」
「わかった」
そういって、祥子の車が去っていくのを見送る。
「……で、お前何やってたんだ?」
神奈さんが聞いてきた。
「……あんたまさか遊んでたとか言わないよね?」
亜依さんが追及する。
「ちょっと友達とあっていて」
合コンしてたなんて死んでも言えない。
だって友達と遊んでいただけでも物凄く叱られたから……。
別の人からメッセージが着た。
帰るときに連絡先聞いてきた奴だ。
ちょっとかわいい子だったな。
男子会に相談してみる。
すると男子会でも怒られた。
「だからそういう話を俺達に振るのは止めろ!」
「今すぐこのメッセージを消せ!妻に見られる」
慌ててメッセージを消す。
しかし遅かったようだ。
「誠君と瑛大が大人しくなったかと思ったら次はお前か永遠!」
「今日学校終わったら青い鳥にきなさい!みっちり教育してやるわ!これは命令よ!」
亜依さんと恵美さんが言う。
「今日私休みなんだ。私も行く。こういうのは早めの対処が肝心だからな」
「そうね、私も行くべきね。悪い芽は早い内に摘めと言うし」
美嘉さんと晶さんも言っている。
「……泊りなんて甘っちょろい事言ってる場合じゃないようだな」
祥子が言ってる。
「……夏休みの間に引っ越すぞ!嫌とは言わせねぇ!」
まじかよ。
「賢明な判断ね。この手の輩は一人にさせると何やるか分からない」
その後も女性陣の非難を浴びた。
帰りに咲さんに捕まって青い鳥に強制連行された挙句2時間近く説教された。
(7)
呼び鈴がなる。
大体予想はついた。
ドアを開ける。
美琴が買い物袋をもって立っていた。
「お邪魔しま~す」
そう言って美琴は勝手に上がり込む。
「へえ、意外と綺麗じゃん」
部屋の中を見回す美琴。
「近頃の女子大生は一人暮らしの男の家に無防備に上がり込んで何も危機感を感じないの?」
僕がそう言うと美琴は振り返る。
「1人暮らしの彼の家にに訂正させてもらうわ。ご飯作りに来るくらいどうってことないでしょ?」
苦労したんだよ、この辺スーパー無いしと美琴が言う。
「ご飯くらい自分で作れますよ」
「彼女の手料理って食べたいものじゃないの?」
キッチン借りるわよ、と材料を並べて勝手に料理を始める。
緊張していた。
だって、女性を家に入れた事なんてなかったから。
ぼーっと立っていると美琴が振り返る。
「そんなに見られると緊張するからテレビでも見てて!」
僕はテレビをつけると見てる。
偶に美琴の方を見る。
誠先輩の言うロマンを少しだけ理解した気がする。
今までそう言う欲求を持ったことのない僕ですら「抱きつきたい」と思ってしまった。
「できたよ」
美琴が作ったのはカレーライスだった。
見事にベタだな。
「これなら保存もきくでしょ」
美琴が言う。
一口食べてみる。
意外と美味い。
「美味しい」
何の捻りも無い感想だったけどストレートに伝えた。
「よかった」
それが愛想でな事くらい分かる。
食べ終わった後片づけまでしてくれた。
スマホが鳴り続ける。
スマホを見る。
梅本君に用があるらしい。
片づけが終ると帰るのかなと思った。
ちょっと寂しい気がしたけど。
だけど片づけが終るととんでもないことを言い出した。
「ちょっとお風呂借りるね」
は?
風呂掃除までさせるのはさすがに気の毒だ。
「ちょ、ちょっとまって」
「どうしたの?」
美琴はタオルとかを準備していた。
「何するの?」
「何ってお風呂入るんだ。大丈夫お泊りセット持ってきたから」
今なんて言った?
「お泊りセット?」
美琴の表情が険しくなる。
「咢……あんたまさか彼女に料理つくらせて、片づけまでさせて帰らせようと思っていたわけ?」
「片づけは自分でしようと思ってたんだけど……」
もっといい言い訳なかったのかな?
「残念だったわね。私はちゃんとお泊り用のセットも持ってきた。どうせあんたの事だからゴムすら持ってないだろうと思って買って来たわよ」
完全に逃げ道が無かった。
「そ、それはありがとう」
美琴は悪戯っぽく笑うとスマホを弄りだす。
すると僕のスマホが鳴りやまなくなる。
僕がスマホを見てる間に美琴は浴室に入っていった。
「一緒に入りたいって言うなら家族湯行くけど?」
聞かなかったことにしてスマホを見た。
「彼ったら、お泊りにきたらご飯だけ作らせておいて帰れって言うの」
色々訂正する箇所があると思うんだけどこの説明文。
しかし訂正する暇も無く次から次へとメッセージが入ってくる。
「この間抜け!ゴムくらい用意しとけ!」
「お前は女に恥かかせる気か腰抜け!」
「まあ、がんばれ」
「まあ、そういう経験も必要だろ」
怒る女性陣とどうでもよさそうな男性陣。
そんなメッセージの雨嵐を見てる。
梅本君は相変わらず応答がないらしい。
「ありがと、咢も風呂すませちゃいなよ」
風呂上り姿の美琴が言った。
取りあえず風呂に入る。
この後どうする?
予備の布団が無い。
むしろあったところで出番があるとは思えない。
暫し悩んだ挙句、風呂を出る。
美琴はドリンクを飲みテレビを見てくつろいでる。
自然体で。
「美琴、僕寝袋で寝るからベッドつかってよ……」
恐る恐る申し出てみる。
反応が返ってこない。
そのうち来る怒りの言葉に備えていた。
だけどそんな僕を待っていたのは美琴の抱擁だった。
温かい……。
「そんなに怖いか……初めてがあんなんだったもんな」
美琴の腕が震えている。
「びびってんじゃねーよ。私だってこんな甘え方するの初めてで怖いんだ……」
僕は何も言わずに、ベッドの中に入る。
その後に美琴が入ってくる。
そして……。
「これでよかったんだよな?」
美琴がふと漏らした?
「咢あの時が初めてだったんだろ?恐怖になってないか?トラウマになってないか心配だったんだ」
そういうことね。
「大丈夫……」
「そっか……」
しばらく沈黙の時が流れる。
「またきてもいいよな?」
美琴が言う。
「今度は来る前にアポがあると嬉しいな」
「分かった。じゃあ寝ようか」
「ああ、お休み」
僕は眠りについた。
朝起きると美琴が朝食の準備をしていた。
「おはよう」
「お!おはよう。ちょっと待ってろ。もうじき出来る」
美琴の作った朝食を食べて片づける。
「咢、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「私立大まで送ってくれね?頼む!」
「いいけど」
美琴を助手席に乗せて私立大に向かう。
「一回やってみたかったんだよね。彼氏の送迎で学校に行くっての」
「……なるほどね」
私立大に着くと彼女を降ろす。
「じゃ、また連絡する」
「ああ」
僕は地元大へと急いだ。
また、か……。
次は週末の花火かな?
今日も暑い日差しだった。
(8)
「ただいま~」
「おかえりなさい、お疲れ様でした……きゃっ!」
僕は愛莉に抱きついていた。
「だめですよ、そういうことは後にしてくださいな」
愛莉はそう言うと僕を突き放す。
「愛莉は冷たいな」
「だからあとでゆっくり甘えさせてください。私だって寂しかったんだから」
お風呂に入っててくださいというので、風呂に入ると愛莉と夕食にした。
「で、どうだったんですか?」
「ああ、手ごたえはあった」
「それはよかったです」
夕食を食べると愛莉が風呂に入る。
その間に寝室でスマホを見る。
瑛大の次は梅本君か……。
次から次へと……。
「永遠!男子会にプライベートなんてあると思うな。常に監視されていると思え!」
桐谷君がまた余計なことを言う。
「お前も余計な事を書くな!瑛大!」
渡辺君が注意してる。
他の皆は気づかないふりをしている。
しかし亜依さんと美嘉さんに見られたらしい。
「男共こそこそ話してないでこっちに来なさい!」
「お前ら男子会グル禁止だ!!」
二人が怒っている。
そんなことを渡辺班に載せると……。
「あら?メッセージが……」
愛莉が自分のスマホを見る。
すでに他の男性陣は検閲をされていたらしい。
「冬夜さんスマホ見せてくださいな」
愛莉に抱きつく。
「もういいよね。今夜は愛莉甘えさせてやるからな」
「まずスマホを見せてくださいな」
「もうくたくただよ、このまま眠りたいくらいだ」
「冬夜さん」
観念して愛莉にスマホを見せる。
愛莉は男子会を見る。
「この事だったんですね……」
「え?」
愛莉から夕方にあった青い鳥での出来事を聞く。
「なるほどね……」
「それじゃ、この件はお終いです」
まだ他に件があるの?
「お忘れですか?今夜は甘えさせてくれるって……」
「ああ、そうだね」
「それなのにこのまま眠りたいって酷すぎます」
なるほどね。
「眠らないうちにすませようか?」
「そうですね」
照明を落としてベッドに入る。
愛莉は試験の疲れをしっかりと癒してくれた。
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