優等生と劣等生

和希

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LASTSEASON

赤や緑の花びら

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(1)

「冬夜さん、今日はどうなさいますか?……きゃっ!」

とりあえず愛莉に抱き着く。

「もう、朝からだめですよ」
「たまにはいいだろ?」
「……困った人ですね」

愛莉の温もりを堪能すると起き上がる。

「さて、ご飯にしようか。愛莉?」

愛莉は寂しそうだ。

「愛莉、今日は夕方までお休みだよ」
「またですか?」
「うん。後で一杯構ってやるから」
「ありがとうございます、すぐに食事準備しますね」

軽い足取りで寝室を出ていく愛莉。
ダイニングに行くと朝食を作っている愛莉と会話。
朝食を食べると愛莉は片づける。
その間も愛莉の話し相手。
普段ろくに話を聞いてやれないからこういう時間を大事にする。
愛莉と二人でいる時は大体寝室で過ごす。
愛莉が隣でもじもじしてる時は肩を抱いてやればいい。
喜んで抱きついてくる。
昼食を挟んで夕方になるまで愛莉との時間を楽しむ。
愛莉の相手をしている間は愛莉は家事をしない。
僕に夢中になっている。
時間がくると背中をさすってやり「そろそろ時間だよ?」と言う。
まだ物足りなさそうだけど「今日は飲まないから夜も相手できるよ」と囁いてやる。

「でも明日からお仕事では?」
「休日くらい趣味に没頭させてよ」
「趣味ですか?」
「愛莉って趣味に没頭させて」
「わかりました。でもお仕事に差し支えない程度にしてくださいね」
「わかってる」

愛莉とキスをすると。「じゃあ、仕度しますね」と着替え始める。
僕も着替える。
テレビを見ながら愛莉の仕度を待つ。
愛莉の仕度が終ると車で事務所に出かける。
事務所は花火会場の近くにあり、駐車場が使える。
だから皆で花火を見に行こうってなった。
皆揃っていた。
神木さんは「時間外労働はしないので」と来なかった。
皆に愛莉を紹介する。

「うわ、すげえ美人じゃん。やっぱりスターは違うね!」

達彦先輩が驚いている。

「初めまして、遠坂愛莉です。いつも冬夜さんがお世話になっています」

愛莉が挨拶する。

「いや、こちらこそ。大体の奴が試用期間で辞めていくから。それに冬夜は即戦力だし助かってます」
「上原の言う通りです。片桐の評価は担当先のお客さんからも良くて」

達彦先輩と社長が言う。

「そろそろ行くとするかね。場所取りが大変だ」

そう言って皆会場に移動する。
愛莉は女性社員とすぐに打ち解けたようだ。
楽しそうに話をしている。
僕達は会場に着くと座って話をしている。
飲み物の買い出しに行くのは下っ端の僕の役目。

「冬夜さん私もついて行きます」
「一人で大丈夫だからゆっくりしてて」
「すいません」

買い物を済ませて戻ってくると皆がにやにやしている。

「冬夜お前年内にプロポーズするんだって?」

達彦先輩が言った。
ああ、話したのね。

「ええ、そう言う約束だから」
「子供の数も決めてるんだって?」
「そう言う話をしただけですよ」
「益々頑張らんといかんのう、片桐君」

社長がそう言って笑う。
その後も「片桐君の子供ならさぞ優秀な子供ができるだろう」とかそんな話で盛り上がっていた。

(2)

「じゃあ、デパート前で待ってるよ」
「分かった」

神奈を見送ると俺は家に帰る。
やることは沢山ある。
家に出る時に回して置いた洗濯機が乾燥を終えて止まってる。
アイロンをかけてたたんで仕舞う。
それが終ると練習に出かける。
練習を済ませると家に帰る。
どっちを先にするか?
考えた末先に掃除からにした。
掃除を済ませると着替えて脱いだ服を洗濯機に放り込む。
一連の作業が終わると、テレビを見てる……つもりが寝ていた。
電話がなって目が覚める。
瑛大からだ。

「どうせ同じ電車だろ?一緒に行こうぜ」
「ああ、わかった」

家を出ると歩いて駅に向かう。
駅には檜山夫妻と瑛大、佐々木君と小林さんがいた。

「今日は何人くらい来るんだ」
「えーと……」

瑛大が数えだす。

俺と神奈、桐谷夫妻、檜山夫妻。中島夫妻、木元夫妻、石原夫妻、酒井夫妻、西松夫妻、水島夫妻、晴斗、白鳥さん、亀梨君、森園さん、三沢君、岸谷さん、如月夫妻、ちぃ、翔、美里、栗林君、梅本君、桜木さん、若宮さん、涼宮君、佐々木君、小林さん、月見里君、小鳥遊さん。

渡辺夫妻は同僚と行くらしい。
真鍋君達も同じらしい。
冬夜達もだ。
高校生組も別行動。
卜部さんと神田さんは二人きりで過ごすらしい。
滅多に休みが合わないんだ。そうなるだろう。
それでもすごい人数には変わりないけど。
電車が来ると皆乗る。
地元駅まで行くと白鳥さんと晴斗と合流。
二人とも先に来て映画を見ていたらしい。
それからみんなを待ってデパートに行く。
神奈が待っていた。
街は賑わっていた。

「この人数でこの時間ならファミレスかな?」

俺が言うと皆同意したみたいだ。
さすがにまとまって座ることが出来ずに皆バラバラに座る。
俺の席には神奈、中島夫妻、桐谷夫妻がいた。

「中島君はその後仕事の方がどうなんだ?」
「相変わらずのクレーム対応が主だよ。たまらねーぜ。こっちが悪いわけでも無いのに頭下げなきゃいけねーんだから」

相変わらずつらいらしい。

「……でも、家に帰れば待ってる人がいるって思ったら気が楽になった。俺の居場所はちゃんとあるんだって」

それを聞いて穂乃果さんが安心している。
飯を食うと会場の河原まで歩く。
人の群れが出来ていた。
何とか場所を確保して時間まで待つ。
皆それぞれが話をしている。
神奈はじっと花火が上がるのを待って空を見上げている。
神奈は人混みが嫌いだ。
イライラするらしい。

「神奈大丈夫か?」

俺は神奈に聞いてみた。

「ああ、今の仕事始めて少しはましになったんだ」
「そうか……」
「お前は大変だろうな、沢山の観客の中でプレイしなきゃいけないんだから」
「まあな。でも試合中は不思議と気にならないんだ」

歓声すら聞こえなくなる時がある。

「お前も試合の中に入っているのか?」
「……そうかもな」
「すげーよお前も」

やがて花火が上がりだす。
赤や緑の花びらがパッと咲いて静かに消える。
俺達の世界も似たようなものだろう。パッと咲いて静かに消える。
皆それぞれの世界に入ってるのかもな。
その世界の一つの駒にしか過ぎない存在。
俺達に一体どれくらいの値打ちがあるのだろう?
俺が今生きているこの世界に。
全てが無意味だって思える。
ちょっと疲れてるのだろうか?
手に入れたものと引き換えにして切り捨てた幾つもの輝き。
一々憂いていれるほど平和な世の中でもない。
一体どんな理想を描いたらいい?
どんな希望を抱き進んだらいい?
答えようもないその問い掛けは日常に葬られていく。
神奈ならなんていうのかな?
「暗い」と茶化してわらうのかな。
その柔らかな笑顔に振れて俺の憂鬱が吹き飛んだらいいのに。
決して捕まえることの出来ない花火のような光だったとして。
もう一回俺はこの手を伸ばしたい。
誰も皆悲しみを抱いているけど素敵な明日を願っている。
臆病風に吹かれて波風がたった世界をどれだけ愛することが出来るだろう?
笑っていても泣いて過ごしても平等に時は流れる。
未来が俺達を呼んでいる。
その声は今神奈に届いているだろうか?
誰も皆問題を抱えている。
だけど素敵な明日を願っている。
花火が終ると皆帰りだす。
車で来たものは車で、バスで来たものはバスで、電車で来たものは駅へ向かう。
あと何回こうして皆集まる時があるだろう?
そんな事を考えていた。
帰りの電車の中で亜依さんと神奈と咲良さんと小林さんは楽しそうに話していた。
そして駅に着くとそれぞれの家に帰る。
神奈と家に帰ると神奈に先に風呂に入るように言う。
神奈が入った後俺が入る。
風呂を出るとテレビをつけてスマホを弄っている神奈がいた。
冷蔵庫から缶ビールを2本取り出して一本神奈に渡す。

「サンキュー」

そう言って神奈はビールを受け取ると飲みだす。
ビールを飲みながらスマホを弄る神奈の隣に今座っている。
当たり前のように座っている。
それだけでこんなに世界が美しく見えるなんて想像さえもしていなかった。
神奈はそれを単純だって笑うだろうか?
でも俺はいま神奈に心からありがとうを言うよ。

「さて、そろそろ寝るか」

さいごの一滴まで飲み干すと神奈は言う。

「そうだな」

俺もビールを飲むとベッドに入る。
逢いたくなった時の分まで、淋しくなった時の分まで何度でも神奈を強く焼き付けておこう。
皆問題を抱えている。
だけど素敵な明日を願っている。
臆病風に吹かれて波風がたったこの世界を、どれだけ愛することが出来るだろう。
当たり前のように毎年見ていた花火も当たり前じゃなくなってきていた。

(3)

花火が打ちあがる。
パッと光って咲いた花火を見ていた。
パッと花火が夜に咲いた。
夜に咲いて静かに消えた。

「意外とここから見えるもんなんですね」
「穴場だろ?」

俺が言うと長谷部先輩が答えた。

「飲みながら花火を見れるって最高だな!」

美嘉はそう言った。
俺達は某ホテルのビアガーデンに来ている。
屋上から見える花火。

「その後悠木先輩とはどうなんですか?」

俺は長谷部先輩に聞いていた。

「うん、普通に交際させてもらえてるよ」

長谷部先輩は答えた。
意外だった。そんな素振り職場では全く見せなかったから。
特段一緒に帰ってる感じでもなかったし。

「公務員の職場恋愛って結構リスク高いのよ」

悠木先輩が言う。

「今日あんた達誘ったのだって理由があるんだから。あんた達が一緒ならばれても問題ないでしょ?」
「バレたら問題あるのか?」

美嘉が聞いていた。

「同期の仲間が職場恋愛してるのバレた時、即人事異動がかかったわ」

悠木先輩がそう言って笑う。
噂では聞いていたが本当だったのか?

「だからこの事を知ってるのはうちの部署では渡辺君だけ。わかったわね」

悠木先輩が念を押す。

「じゃ、普段のデートは?」
「家デートね。彼の家に泊まりこんでる」

それはリスク高くないか?

「案外デートスポットをウロウロしてるよりばれにくいものよ」

デートしたいときは渡辺君に頼むわという。

「2人きりでいたいだけなら家で全然問題ないし」
「大変なんですね」

花火が終り、ビアガーデンも閉店時間になった。

「じゃ、私達はこれで」

そう言って二人はバスターミナルに向かっていった。

「公務員ってのも大変なんだな」

美嘉が言う。

「そうだな……」
「どうする?美嘉。家に帰るか?」
「正志に任せる。家で飲んだ方が気楽で良さそうだ」
「珍しいな」
「正志に迷惑かけらんねーしな」

そいつはありがたい。
俺達はコンビニで酒を買うと家に帰って飲んだ。

(4)

花火が上がる。
パッと花火が夜に咲いて静かに消えた。
真鍋君は原田総合デザインに。
私は江口トレーディングカンパニーに。
悠馬は地元の工務店に。
私と同期の皆は就職が決まっていた。
桜子と咲良は専業主婦になるらしい。
西松君は医大生だからあと2年学生生活を過ごす。
私と悠馬は真鍋君の就職先原田総合デザインの人たちと花火を見に来ていた。

「いいのか、俺達だけで?」
「渡辺班で一緒にみるんじゃないの?」

丹下さんと椎名さんが聞く。

「その渡辺先輩ですら、職場の人と見るって言ってるんだし大丈夫でしょう」

真鍋君が言う。
皆、渡辺班の活動に専念できなくなる。

「まあ、あいつらも大人になったってことだろうな」

丹下さんが言う。
大人になるってどういう事だろう?
絆が薄れていくこと?
何年もかけて作り上げてきた絆がほつれていくと言う事?

「大人になるってどういう意味ですか?」

悠馬が丹下さんに聞いていた。

「巣立つってことさ」

渡辺班という巣を飛びだって行くこと。
それを卒業だと丹下さん言う。
永遠だと思っていたものは永遠ではなかった。
いつか必ず終わりが来る。
パッと咲いて静かに消える花火のように。
皆がいた夏は遠い夢の中。
空に消えていく打ち上げ花火のように。
先輩たちは私達に託した意味がようやく分かった。
そして今度は私達が次の世代に託す番。
あの夜のようにもう冬夜君達が私達にしてやれることは無い。
私達も私達が独り立ちするしかない。
やがて親離れするように。
永遠などないと気づいた時から笑いあったあの日も歌い合ったあの日も深く胸に刻まれていく。
だからこそ他の誰でもない誰にもない声を挙げて私を生きていくよとひとり一つ道を選ぶ。
さよならは悲しい言葉じゃないそれぞれの夢へと僕らを繋ぐもの。
共に過ごした日々を胸に抱いて一人で飛び立とう。次の空へ。
私達が分かち合う言葉がある。
こころからこころへ言葉を繋ぐ。
いつかまた巡り逢うその時まで忘れはしない誇りと共に空へ。
私達に出来る事。
それは先輩たちに頼ることなく独り立ちしてそして先輩たちがしたように次の世代にバトンタッチする事。
私達はまた変われる、強くなれる。
例え違う空へ飛び立とうとも途絶えはしない想いは今も胸に刻み続ける。
赤や緑の花びらがパッと咲いて静かに消えていく夜空を胸に刻んでいた。
同じものは二度とないのだから。

(5)

「公生もう花火始まってるよ!」

奈留と瞳美と和と4人で花火を見に来た。
ちょっと夕食でゆっくりし過ぎたようだ。
仕方ないだろ?あんなにファストフード店が混んでるなんて思ってもみなかったのだから。
座るのは無理そうだ。立ってみよう。
出来るだけ前の方に位置取る。

「奈留見える?」
「大丈夫!」

どうして人はこんなに花火を見に来るんだろう?
ただパッと咲いて静かに消えていく物に。
奈留はその夜空のアートに見とれていた。
次々と空に消えていく打ち上げ花火。
それに見とれる愛しき君に僕は見とれていた。
花火が終ると皆が一斉に帰りにつく。
やっぱり自転車で来てよかった。
自転車は駅の近くに止めてある。
僕達も歩き出す。

「奈留、離れないで」

そう言って振り返ると「はい」と言って僕の手を取る奈留の顔に見とれている。
まだ打ち上げ花火は上がっている。
僕の目がどうかしてる?
彼女の頬がうっすらピンク色に染まっているように見えた。
自転車置き場まで歩くと自転車で帰りだす。
ハッと息を飲めば消えちゃいそうな光がきっとまだ胸に住んでいた。
手を伸ばせば触れたあったかい未来は密かに二人を見ていた。
何度でも言葉にして君を呼ぶよ。
波間を選びもう一度
もう二度と悲しまずに済むように。
きっとまだ終わらない夏が曖昧な心を解かして繋いだ。
この夜が続いて欲しかった。
だけど終わりは必ず来る。
けれどそれは新しい朝の始まり。
生まれて来る朝と死んで行く夜。
生まれて来る意味、死んで行く意味。奈留が生きている今。

「しあわせにおなりなさい」

泣きながら僕達は同じ苦しみを抱きしめて来る。
笑いながら僕達は遥か地平線の向こうへ行く。
廻り合う君の唇に僕の詩を灯そう。
いつの日か僕達が繋がる物語。
僕達のこの寂しさはよく似た色をした宝石。
僕達のこの刹那さはよく似た色をした美花。
僕達は彷徨える追憶に揺れる風車。
廻り行くどの地平にも詩を灯すだろう。
朝と夜の狭間を彷徨える焔。
天使が笑いし美しき幻想。

そこにロマンはあるのだろうか?

此れは僕と奈留の現在を生きて行く憧憬。

(6)

パッと光って咲いた花火を見ていた。
この夜が続いて欲しかった。

「綺麗だね」

春馬さんが言う。

「……そうですね」

春馬さんは私が緊張しているのに気づいたのだろうか。

「ごめんね、こんな場所しかなかったんだ」

川向うに会ったホテルは潰れて解体されてる。
私達がいるのはその反対側にあるラブホテル。
他にゆっくり花火を見れる場所が無かったらしい。
この部屋をこの日に予約するのも苦労したのだとか。
彼とこの場所に来たことには抵抗はない。
何も今日が初めてというわけでも無い。
ただ、初めて味わう空間に戸惑っていただけ。
ゆったりとしたダブルベッドにベッドの上に置かれてある二枚のビニール袋。
とりあえず見ないことにして花火を見ることにした。

「あと何度君と同じ花火を見られるかな?」

春馬さんはそう言って笑う。

「二度とないですね」

私はちょっと意地悪してみた。

「え?」

春馬さんは戸惑っている。

「来年も同じ花火とは限らないじゃないですか」
「あ、ああそう言う意味ね」

胸をなでおろす春馬さん。
この花火は遠い夢の中。
空に消えていく打ち上げ花火。
花火が終る。

「さて、終わったしどうする?愛海がよかったら……」
「私は明日日勤だから」
「そ、そうか。じゃあ帰ろうか?」

私はくすっと笑う。

「ちゃんと着換えは用意してきた」

喜びを必死に隠そうとする春馬さん。

「先にシャワー浴びてくる」
「ああ……」

どうしてこんなに無駄に広いシャワールームなんだろう?
椅子の形もなんか変。
気にせず体を洗って、シャワーを出る。

「いいよ、春馬さんも浴びて来て」
「ああ」

そう言って浴室に向かう。
緊張してきた。
取りあえず気を紛らわそうとテレビをつけた。
つけてすぐに後悔した。
即消した。
春馬さんが浴室から出て来る。
備えつけられたソファーに座って時間を過ごす。
すると彼が立ち上がる。
冷蔵庫の中にあるビールを二つ取り出す。
緊張をほぐそうとしてくれたんだろう。
ビールを飲む。
ホテルの雰囲気、そしてビールの酔いが私を積極的にさせた。
彼に身を預ける。
察した春馬さんは「ベッドに行こうか」と言う。
私は黙ってベッドに入る。
照明を薄暗くする。
彼なりの配慮なのだろうか?

朝になる。
私は着替えて支度をする。
春馬さんも起きると着替えを始める。

「早めにチェックアウトしてモーニングでも食べようか?」

春馬さんが言うと私はこくりとうなずいた。
ホテルを出てコーヒーショップでモーニングを食べる。
彼が突然私の両手を掴んで言う。

「もうそろそろいいんじゃないか?」



「俺達も将来について考えてもいいんじゃ、愛海を幸せにするくらいは」

嬉しかったけど、私は首を振ってしまった。
落胆する春馬さん。

「お話は嬉しいの。それは分かって欲しい」
「だったらなぜ?」
「私はまだ仕事に就いてそんなに経ってない。ちゃんと仕事を知ってそれから判断したい」
「……君が共働きを望むなら俺も協力するよ」
「……上手く言えないけど……仕事を覚えることで精一杯で……。もう少し待ってもらえませんか?」
「……君がそう言うならそうするよ。君に押し付けるようなことはしたくない。君の人生を支えたい」
「ありがとう」

モーニングを食べると病院に向かう。

「あの……、あんな勝手な事を言ってしまった手前、こんな身勝手な事言えないけど」
「どうした?」
「日勤の時、泊まりに行ってもいいですか?」
「え?」
「いつも外食なのでしょう?少しでもお手伝いしたい」
「ありがとう」
「いいえ」

病院に着くとそれぞれの部署についた。
申し送りの時穂乃果と亜依はくたくただった。

「日勤からの深夜勤とは言え、遊んでたからきついわ」

そう言って亜依は笑う。
そんな2人に春馬さんから伝えられたことを言う。

「なんで断ったの!せっかくのチャンスじゃん!」

亜依が言う。

「どんな仕事にもやり甲斐があると思う。せめてそのやり甲斐を見つけて判断したい」

専業で行くのか兼業で行くのか。

「なるほどね……」

穂乃果が納得する。
その後二人が帰る。
私はいつも通り職務についた。

(7)

「冬夜さん、朝ですよ。起きてくださいな」

愛莉に起こされる。
僕が起きたのを見ると、愛莉はキッチンに行く。
着替えて、朝食を食べると愛莉の片づけを見守ってリビングでくつろぐ。

「冬夜さんはお仕事大丈夫ですか?」
「え?」

愛莉は昨夜聞いたらしい。
僕の担当が増えると言う事を。

「今まで楽だったんだ。大丈夫だよ」
「だと良いのですが」
「疲れたら愛莉が癒してくれるんだろ?」
「本当に困った旦那様ですね」

愛莉はそう言って微笑む。
出勤の時間が来た。

「それではお気をつけて。行ってらっしゃい」
「行ってくる」

愛莉にそう言うと僕は愛莉に見送られ会社に向かう。
事務所につくと神木さんが既に来ていた。
相変わらず妙な体操をやっている。
仕事の準備を始める。今日は2件外回りがあるな。
朝礼が始まる。
朝礼が終ると業務開始。
資料等をまとめて出先に行く。

今週もまた暑い一週間が始まった。
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