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LASTSEASON
居心地の良かった場所
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(1)
「ただいま」
「お帰り、冬夜」
「お、帰って来たか」
盆休みくらいはと実家に帰ってきた僕と愛莉。
前もって盆休みには帰るよと連絡しておいた。
遠坂家にも顔を出すつもりでいた。
愛莉を休ませてやるという目的もあった。
だが、両親はそうは受け取ってくれなかったみたいだ。
「泊っていくつもりでいたんだろ?」
「そうだけど?」
「じゃあ、すぐ出かけるぞ」
は?
「お前たちも社会人一年目で大変だったろう?親からの贈り物だ。受け取りなさい」
父さんは言う。
「愛莉ちゃんも大変だったでしょ?冬夜がまた我儘言って」
「そんなことないです。冬夜さんは毎日真面目に働いてくださって」
「まあ、そう言わずに羽をのばしなさい」
「え?」
母さんの話を今一理解できないでいる愛莉。
遠坂家と共謀していたらしい。
6人で別府のリゾートホテルに一泊するつもりでいたそうだ。
まあ、いいけど。
荷物を車に積むと愛莉と2人でリゾートホテルに向かう。
「こんな事なら、水着用意するべきでしたね」
「まあ、羽休めに思えばいいよ」
「はい、冬夜さんもゆっくり休んでくださいね」
途中ファミレスによって昼食にした。
いつものメニューを頼む。
「冬夜はちゃんとしてるかい?」
「ええ、とても優しいんですよ」
「愛莉ちゃんは、ちゃんと支えてくれてる~?」
「愛莉のおかげで助かってます」
母さんと愛莉ママの質問が次から次へと飛んでくる。
昼食を食べると少し観光をしてからホテルにチェックインする。
部屋に入るとベッドにダイブする。
「冬夜さんとこのホテルに来るのはいつぶりでしょうか?」
「そうだな、随分来てなかったな」
この忙しい中よく予約取れたものだ。
「冬夜さん運転でお疲れでしょう?りえちゃんから電話来るまで眠っててくださいな」
「それは無理な相談だね」
「どうしてですか?」
愛莉においでと手招きする。
愛莉が来ると抱きつく。
「もう、ダメですよ。そういうのは夜にしてくださいといつも言ってるじゃないですか」
そう言いながらも本気で拒絶しない愛莉。
夕食の時間になるまで、愛莉とゆっくり過ごした。
夕食を食べると、スマホを見る。
明日は渡辺班の打ち上げの日。
どうするか悩んだ。
愛莉とも相談する。
その結果欠席することにした。
どうせ家で飲むだろう。
偶には親に付き合うのも悪くない。
他にも帰省している組は欠席する様だ。
行くのは大学生組が中心らしい。
結婚組は西松夫妻、桐谷夫妻くらいらしい。
桐谷夫妻は仕事で帰省できないらしい。
桐谷君も働き出した。
やはりノルマがきついらしい。
それでも休日があるだけましだと言う。
そんなやりとりをしているとスマホが鳴る。
「夕食にしよう」
僕達は浴衣に着替えてレストランに向かう。
そして6人同じテーブルに座る。
ワインを頼むと皆で乾杯する。
一口飲むと早速食べ物を取りに行った。
「お前は相変わらずの様だな」
父さんが言う。
「これでも控えめな方なんですよ。最近私の言う事ちゃんと聞いて下さるんです」
愛莉が言う。
「お前もやはり逆らえないか……」
「う、うむ」
父さん’sは言う。
今なら少しだけ理解できる気がする。
結婚前からこれなんだ。結婚したらもっと大変なんだろうな。
ましてや子供が出来たら……。
考えるのは止めにしよう。
食事が終ると風呂に行く。
父さん’sも一緒だった。
3人で露天風呂に入る。
「……愛莉は上手く冬夜君を支えてくれてるかね?」
「ええ、とても助かってます」
「仲も良さそうだし順調みたいで良かった」
父さん達が言う。
実際愛莉はちゃんとしてくれてる。
愛莉がいるから毎日仕事に行けるし帰ってから休める。
税理士試験だってそうだ。
それに愛莉が家計を管理してくれてるから、何の心配も無くやれてる。
バスケで貯めたお金もほとんど手をつけてない。
引越しの時に少し使ったくらいだ。
そんな話を父さん達にしてた。
それを聞いて愛莉パパは納得したようだ。
風呂を上がると愛莉達を待つ。
愛莉たちが来ると部屋に戻る。
2人でスマホを弄りながらテレビを見てた。
日付が変わる頃愛莉がそろそろ寝ませんか?と言う。
「明日も朝早いしゆっくり休んで下さい」
「まだ休めないよ」
「どうしてですか?」
首をかしげる愛莉をベッドに押し倒す。
「愛莉のメンテ……残ってるだろ?」
「ありがとうございます」
盆休みは愛莉とのんびり過ごした。
(2)
「ただいま」
「こんにちは」
誠の家に帰省していた。
ちぃちゃん達も帰ってきていたらしい。
ちぃちゃん達も同棲を始めたらしい。
生活費は仕送りで賄ってるらしいが。
翔も来ていた。
その日は宴会だった。
明日にはちぃちゃんたちは翔の家に行くらしい。
渡辺班の打ち上げには参加しないらしい。
翔は緊張していた。
誠の親より誠の方が怖かったらしいが。
「うちの誠が神奈ちゃんを困らせるようなことはしてないかね?」
誠の父親が言う。
私は正直に答えた。
最近の誠は私を支えてくれてる。
家事も率先してやってくれてる。
誠のおかげで家でゆっくりできる。
誠の稼ぎ次第では私は専業主婦になるつもりだと告げる。
それを聞いて誠の父親は納得したようだ。
実際誠は変わった。
あの事件で懲りたのだろうか?
合コンとかそう言う類には顔を出してないらしい。
瑛大との悪ふざけも無くなった。
その事は亜依とも話をしてた。
宴が終ると、私とちぃちゃんは片づけを手伝う。
「千歳も家事が出来るようになったんだね」
誠の母親が言ってた。
「もう、大丈夫だから二人共お風呂入ってきて」
折角だからと、ちぃちゃんと二人で入る。
「兄は変わりましたね」
ちぃちゃんが言う。
ちぃちゃんも気づいたようだ。誠の変貌ぶりに。
気づかない方が無理かもしれないが。
「ああ、酒が入っても愚痴が減ったしな」
「でも不安になりませんか?じゃあどこで不満を解消してるのだろう?って」
ちぃちゃんも翔に不安を抱いてるらしい。
「きっと大丈夫だよ。私が保証する」
ちぃちゃんに話をする。
今日が終るその前に。
その頬照らされた月の光を心に添えて。
この先への私達の為に、愛し合うものの為に。
今日も二人の笑顔が途切れぬように。
月は強く強く輝けよとこの身を託され授かりし命に告げる。
悲しみの上にあった今を忘れてしまっては一体だ誰の為であろうと語りかける。
あの二人は分かってる。
優しさに触れるとにじむような弱さを知る。
弱いと認めると甘えることを覚えるように、人は誰しも強くないからこそ今隣り合わせた人を思い遣る魂を。
人はなにがしかの意味を彷徨い求めては、今もこうして血を通わせて生きている。
この姿を借りてあるべくしてある意味を知っている。
風呂を出ると誠の部屋に行く。
誠は一人で酒を飲んでいる。
「神奈も飲むか?」
「ああ」
誠に渡された缶ビールを飲みながらテレビを見る。
飲み終えるとテレビを消す。
「そろそろ寝るか?」
誠が言う。
「明日朝早いんだろ?俺送っていくよ」
「助かる」
「気にするな」
「ああ……」
そうして私達は眠りにつく。
月は今日もまた語りかける。
私達がすべて忘れてしまわぬように。
(3)
「ただいま」
「こんにちは」
私達は悠馬の実家に来ている。
「おう!良く帰ってきたな。まああがれや」
悠馬の義父さんはそう言って出迎えてくれた。
「部屋は2階に空き部屋あるから使ってくれ、準備はしてる」
「ありがとうございます」
私達は2階に荷物を置くと一階の居間で両親と話をしていた。
来年の就職は決まってる事とか、式を挙げる日取りとか伝える事は全て伝えた。
それを聞いて頷く両親。
「いいんじゃねーか?それで」
義父さんはそう言ってくれた。
母親の方も異論はないらしい。
その日の夕食は焼肉だった。
ビール片手に肉を焼く。
「咲さんもそんな固くなってないでリラックスして」
義父さんに言われるけどやっぱり緊張する。
醜態をさらすわけには行かない。
男共が酒を飲んでる間私と悠馬の母親で片づけをしていた。
「ごめんなさいね。手伝わせて」
「いえ、大丈夫です」
「……悠馬は元気にやってる?」
「ええ、家事も手伝ってくれるし」
働きすぎて壊れないか不安なくらいだ。
「昔っから一人で何でもしようとする子だから心配で」
それを制御するのが私の役割。
「大丈夫です、私がちゃんと見てるから」
「あの子の事……お願いね」
悠馬の母親はそう言って微笑んだ。
片づけが終ると風呂に入る。
「うちの風呂は広いんだ。二人でゆっくり入ってしまいな」
相変わらずだな、義父さんは。
「何言ってんの義父さん!」
悠馬が言ってる。
交互に風呂に入ると、すっかり酔った二人は盛り上がっている。
「英二さん、二人は明日咲さんの実家に行くの。あまり飲ませ過ぎないで」
「わかってるって紗耶香さん。で、結婚式はわかったけど孫はいつ見せてくれるんだ?」
「そんな先の事決めてないよ!」
悠馬は苦労しているようだ。
ようやく解放されると2階で休む事に。
次の日、朝ごはんを食べると私達は私の実家に向かった。
何か菓子折り用意した方がいいんじゃないかと悠馬は言うけど「そんなに気を使わなくていいって」と断った。
途中昼食は外食ですませた。
実家に行くと温かく迎えてくれた。
「今日はゆっくりしていってくれ」
父さんがそう言う。
悠馬は緊張している。
その気持ちはよく分かる。
親戚も来ていた。
夕食も外食。
居酒屋で食べる。
和やかに歓談する。
タクシーで家に帰ると風呂に入って部屋でゆっくりする。
居間では親戚の子供たちが騒いでる。
「お疲れ様」
「咲の苦労がわかったよ」
そう言って座り込む悠馬。
私はその隣に座る。
悠馬がそばにいるのが当たり前だった。
鈍くなってゆく想いが怖くて知らぬふりをしてた。
出逢えた喜びを、愛してゆく意味を、あふれる優しさで伝えて欲しい。
「ずっと一緒だよ」
お揃いで買った指輪、あのころと変わらず輝いてた。
悠馬の手を握る。
悠馬は私を見る。
こんなにも近くにいるのだからこの手を離さずにいてね。
言葉じゃ届かない想いがある。
大事な思いがある。
さよならも言えないくらいにしっかり抱きしめていてね。
言葉じゃ足りない想いだけが心をつなぎとめる。
そんな大事な想いがある。
「そろそろ寝ようか?」
「そうだね」
私達は眠りつく。
不思議な夢を見る。
綺麗な夢を見る。
夏の匂い。
青い風が私を通り抜ける。
夢歌う日々がある。
戸惑う日々もある。
悠馬の匂い。
にじむ空に心流れ着けば。
奥にかさばった遠い日の想いも今なら晒せるだろう。
叶わずも失くすことのない、あの日覚えた小さな騒めきもゆらめいて輝きますように日々をおよく。
紡いだ日々がある。
優しい人がいる。
水のにおい。
まどろむ悠馬が私を透かして見る。
語らずも分かち合えるなら。
躊躇いもせずあなたに触れたい。
煌めいて溢れ出すように日々を泳ぐ。
月はこの身を託され授かりし命に告げる。
悲しみの上にあった今を忘れてしまっては、いったい誰の為であろうと語りかけた。
(4)
「それじゃ、前期お疲れ様でした!乾杯!!」
西松先輩が言うと宴の始まり。
今日は前期が終わりの打ち上げの日。
盆休みと被ってしまったため、社会人組は帰省していた。
桐谷夫妻は両方とも仕事が忙しくて帰る暇はないらしい。
桐谷さんはやっぱり飛び込み営業がきついらしい。
俺も人の事言えない。
夏休みの間に家を探して、祥子と同棲が半強制で決まってしまった。
冗談だと思っていたが本気だったらしい。
同棲と言えば秋吉夫妻が月末に挙式するらしい。
他にも同棲をしている人は沢山いる。
しかしまいったな、突然同棲が決まるとは思っても無かった。
祥子の両親にも挨拶に行かないとな。
「その必要ねーよ」
祥子は言う。
あまり両親とは連絡を取ってないらしい。
本当は大学も行くはずなかったのだけど、「大学くらい出とけ」と親が言うから仕方なく言ってるらしい。
あまり両親とは良好な関係ではないらしい。
しかしなぁ……。
「お前が気にする事じゃねーよ。どうしてもって言うなら結婚の時に報告すればいい。それよりお前の浮気癖の方が問題だ」
祥子はそう言って笑う。
「何々二人共結婚まで考えてるわけ?」
亜依さんが言った。
「い、いや。まだそこまでは考えてないですよ」
俺は言った。
「同棲するんだったらもう勢いでしちゃいなよ。そんなに変わらないって」
亜依さんが言う。
「さすがにそれは強制でさせても嬉しくねーから、待ちますよ」
祥子が言う。
「それもそうね」と亜依さんが納得した。
「そんなに女性って結婚に憧れるものなの?ちょっと興味があるんだけど」
佐々木が言う
「そりゃ、憧れない女性の方が珍しいわよ。幸せをアピールしたいってのもあるかもしれないけど」
亜依さんが答えた。
「でも、こう言っちゃなんだけど桐谷さん達は逆に不幸になってる気がするんだけど」
佐々木が言うと亜依さんはにこりと笑った。
「そればっかりは柚希に聞いた方がいいんじゃない。あんたも他人事じゃないんだから」
「だ、そうだけど。柚希はどう思ってるの?」
「そうだね、あんたが結婚に対して理解が出来たら考えるよ。それまで待つから」
「理解ねえ」
佐々木は言ってる。
「覚悟……とても大切な事」
白鳥先輩が言う。
「しかしあんた達が羨ましいわ。今のうちに楽しんでおきなよ。卒業したら二度とこんな連休手に入らないんだから」
亜依さんが言う。
それは分かる。現に社会人組で来てるのは亜依さん達だけだ。
亜依さんも1次会で帰るらしい。
明日も仕事なんだとか。
大変なんだろうな。
瑛大さんと誠さんが馬鹿を言ってたのが懐かしく思える。
良くも悪くも二人は大人になってしまった。
そうならざるを得ないのだろう。
知りたくないことを知ってしまったから。
耳を塞いでいた声を聞いてしまったから。
皆、他愛も無い話で時間が経つのも忘れていた。
そんな日々が懐かしいと思う時が来るんだろう?
そんな気楽な気持ちをどこかに忘れてしまったのだろう?
ずっとかけがえのないもの、安らぎと温もりがあった。
いつも居心地のあの場所へは二度と戻れない。
強い絆がある今も。
これからも仲間であり続けたいと思う。
いつか最高の自分に生まれ変われる日が来るだろう。
もっと真っ直ぐな気持ちに出会える日を夢見て。
解り合える語り合える。
いつまでもそんな仲でいたい。
ずっとかけがえのないもの。安らぎと温もりがある。
いつも居心地の良かったあの場所に戻れるとしたら。
いつか最高の自分に生まれ変われる日が来るだろう。
きっと今までの自分に戻れると信じたい。
「そろそろ時間だ。二次会に行ける人どれだけいる?」
西松先輩が言う。
俺は祥子の顔を見て確認すると挙手した。
(5)
2次会はカラオケだった。
美里さんが歌っている。
他の皆は飲みながら騒いでいる。
美琴もドリンクを飲みながら桜木さん達と話している。
僕もドリンクを飲みながら皆が歌っている様子を見ていると梅本君が隣に来た。
「な~にしけた面してんのさ。パーッと楽しまないと二次会来た意味ないでしょ?」
「……こういう状況に馴染めないんだ」
実際こんな状況に自分がいることに驚いてるからね。
「桐谷さん達が言ってたろ。今しかないんだって!学生と言う身分でいられる最終段階。この4年間を過ぎたらもう二度と戻れない」
梅本君が言う。
渡辺班に入るまでは全然考えもしなかった。
バイトと勉強の両立。それだけを考えていた。
それがなぜか彼女が出来てそして色々体験した。
良い事も悪い事も。
最後の4年間か……。確かに大学院までは考えてなかった。
「タメのダチがいるんだけどさ、皆言ってるぜ『専門でもいって学生生活満喫すればよかった』って……」
梅本君が言う。
「どうあがいても最終的に行きつくところは社会人なんだから、今しかやれないことをやっとくべきじゃね?」
梅本君は僕に組み付いて言う。
「社会に出ると出逢いだってなくなるんだってよ。お前ついてるって自分で思わね?かなり幸運だぜ?相手から自分を求めて来るって」
梅本君の言う通りかもしれない。
偶然が積み重なって今がある。
「そうだな……お前は偶然あと少し踏み出すだけでゴール出来る千載一遇のチャンスに出会っているわけよ。こんなチャンス滅多にないって」
「梅本君は僕はどうすればいいと思う?」
「今、お前が思ってることを伝えればいいんじゃね?」
梅本君は言う。
僕は悩む。今言わなきゃいけない事なのか?もっとお互いを知るべきじゃないのか?
本当に後悔はしないか?
「なんだよ?まだ勢いが足りないみたいだな。これでも飲んで……」
「永遠!そいつ車で来てるんだぞ!無理強いするな!」
様子を見ていたらしい桜木さんが言った。
「そっか、じゃあまた今度だな」
そう言って梅本君は皆の輪に入っていった。
梅本君が言った言葉について考えていると美琴が来る。
「梅本に何言われたんだ?」
「ボールに触れるだけでゴールを決められるチャンスを逃すなって」
「なるほどなぁ……」
美琴はジョッキに入った飲み物を飲み干して言う。
「そいつはちょっと違うんじゃないのか?」
「どういう事?」
僕は聞き返していた。
「梅本の話だとまるで私を手に入れるチャンスみたいな物言いじゃねーか」
「違うの?」
「違うだろ!私は既にお前のものなんだぞ!」
今を逃したら手に入らないじゃない、すでにお前は手に入れてるんだと美琴は主張する。
「もう、お前の手の中にあるんだ。だから焦ることは無い。あとは時期を待つだけだ」
「その時期って言うのはいつなの?」
「そのくらい自分で考えろ!私はいつまでも待ってる。それとも私はそんなに信用無いか?」
「そんなことは無いけど」
「……ごめんな。本音を言うと今すぐにでも同棲したいくらいだ」
桜木さんに当てられたのかな?
「どんなに偉そうなことを言っても私はまだ親に守られてるんだ。それに比べたら咢はすげーよ……」
「僕だって学費は親任せだよ」
「私は全部親に任せっきりだ。それなのに親に逆らおうとしている。自分が情けなくなる」
「僕は親に逆らう事すらできずにいる。自我が無いんだ……」
美琴は飲み物のおかわりを頼んでいる。
「そんな事無い!あの時だって私を守ろうとしたじゃないか!お前を馬鹿にするやつがいたら私が蹴散らしてやる!」
それって結局僕は守られてるだけじゃないか。
「ありがとう。その気持ちだけで嬉しいよ」
「ありがとうって言いたいのは私だ。私を選んでくれて私は感謝している。私はお前が好きだ」
美琴の異変に皆が気づきだした。
「ちょっと水頼んで頂戴。美琴さん大丈夫?」
深雪先生が来た。
「このくらいなんてことない!」
そう叫ぶ美琴に深雪先生は水を飲ませると、僕に言う。
「あなた車で来たって言ったわね?今日はもういいから美琴さん送ってあげて」
「私はまだ飲むぞ!」
「だめよ!啓介手伝ってあげて」
深雪先生が言うと西松先輩が一緒に美琴を車まで運んでくれる。
美琴を助手席に乗せると西松先輩に礼を言って僕は車を出した。
「ごめん、また咢に迷惑かけてる」
「大丈夫だよ」
「本当に私迷惑になってない」
「彼女の面倒くらい見るよ。頼りないだろうけど」
「そんな事無い……」
彼女のアパートの駐車場に車を止める。
「美琴歩ける」
「だ、大丈夫かな……」
まともに立つことも出来ないようなので。肩を貸してやる。
部屋のドアの鍵を借りるとドアを開ける。
「お邪魔します」
電気をつけると意外と整理されている。
ベッドに彼女を寝かせる。
「鍵は、新聞受けに入れとくね」
そう言って立ち去ろうとすると美琴が僕の服を引っ張る。
「今日の私は駄目駄目だな。醜態ばかり晒してる」
「気にしてないから大丈夫」
「じゃあ、ついでに我儘言ってもいいか?」
美琴はそう言って僕の腰に手を回す。
「バイトまでの時間で良い。一緒にいてくれないか?」
美琴はそう言う。
さて、どう答えたらいいものか。
心細そうな美琴を残して帰るわけにもいかない。
でも、どうせなら。
「一度家に帰るよ……」
美琴は淋しそうな顔をする。
「着替えとか準備してくる。夏休みの間だけこっちに泊まるよ。鍵預かっていていいよね?」
「ああ!ありがとう。……ごめん。咢を困らせてる」
「すぐ戻るけど、少しでも休んでおいた方がいい」
「分かった」
僕はそう言うとアパートを出て自分のアパートに戻り荷物をまとめる。
今のままでも居心地の良かった場所だけど。
ずっとかけがえのないもの。
安らぎと温もりの場所。
最高の自分に生まれ変われるかもしれない。
もっと真っ直ぐな気持ちと出逢える予感がした。
(6)
リゾートホテルで一泊して帰ると、家で宴会をして一泊した。
そして夕方ごろまでリビングでごろごろする。
もちろん愛莉も一緒に。
結局その日の夕飯も6人で外食した。
焼肉をご馳走になると僕達はアパートに帰った。
「お疲れ様でした」
愛莉はそう言いながら洗濯物を洗濯機に放り込んでる。
「冬夜さん、一緒に洗いますから先にお風呂に入ってくださいな」
「じゃあ、愛莉も一緒だな」
「え?駄目ですよそんなに広くないし……」
「たまにはいいだろ?」
「困った旦那様です」
愛莉と風呂に入ると寝室でテレビを見てる。
愛莉はスマホを見てる。
何かあったら愛莉から言ってくるだろうから、僕は見ないようにしてる。
「皆さんもう夏休みなんですね」
「そうだな、そんな時期だったんだな」
羨ましい。
昔見た青空、照り付ける太陽。
心も輝いた季節。
今となれば想い出は美しく滲んでる。
戻りたいけど帰れない。
飛び散る光に何もかも眩しかったあの頃。
割れたら戻せない、綺麗な思い出。
それでももう一度あなたがきつく抱きしめてくれたなら、枯れてた涙があふれて来るでしょう。
「硝子の想い出か……」
あの頃にはもう戻れない。
「戻る必要ありますか?」
愛莉が手を重ねて聞いてくる。
過去があるから現在がある。
思い出よりも美しい現在を……。
「思い出は優しいから甘えたらダメなんですよ」
愛莉が笑って言う。
「そうだね」
硝子の時代を想い出たちだけが横切る。
痛みがあるから輝く。
青い日々がきらり。
何かが終って始まる。
雲が切れて僕を照らし出す。
「ただいま」
「お帰り、冬夜」
「お、帰って来たか」
盆休みくらいはと実家に帰ってきた僕と愛莉。
前もって盆休みには帰るよと連絡しておいた。
遠坂家にも顔を出すつもりでいた。
愛莉を休ませてやるという目的もあった。
だが、両親はそうは受け取ってくれなかったみたいだ。
「泊っていくつもりでいたんだろ?」
「そうだけど?」
「じゃあ、すぐ出かけるぞ」
は?
「お前たちも社会人一年目で大変だったろう?親からの贈り物だ。受け取りなさい」
父さんは言う。
「愛莉ちゃんも大変だったでしょ?冬夜がまた我儘言って」
「そんなことないです。冬夜さんは毎日真面目に働いてくださって」
「まあ、そう言わずに羽をのばしなさい」
「え?」
母さんの話を今一理解できないでいる愛莉。
遠坂家と共謀していたらしい。
6人で別府のリゾートホテルに一泊するつもりでいたそうだ。
まあ、いいけど。
荷物を車に積むと愛莉と2人でリゾートホテルに向かう。
「こんな事なら、水着用意するべきでしたね」
「まあ、羽休めに思えばいいよ」
「はい、冬夜さんもゆっくり休んでくださいね」
途中ファミレスによって昼食にした。
いつものメニューを頼む。
「冬夜はちゃんとしてるかい?」
「ええ、とても優しいんですよ」
「愛莉ちゃんは、ちゃんと支えてくれてる~?」
「愛莉のおかげで助かってます」
母さんと愛莉ママの質問が次から次へと飛んでくる。
昼食を食べると少し観光をしてからホテルにチェックインする。
部屋に入るとベッドにダイブする。
「冬夜さんとこのホテルに来るのはいつぶりでしょうか?」
「そうだな、随分来てなかったな」
この忙しい中よく予約取れたものだ。
「冬夜さん運転でお疲れでしょう?りえちゃんから電話来るまで眠っててくださいな」
「それは無理な相談だね」
「どうしてですか?」
愛莉においでと手招きする。
愛莉が来ると抱きつく。
「もう、ダメですよ。そういうのは夜にしてくださいといつも言ってるじゃないですか」
そう言いながらも本気で拒絶しない愛莉。
夕食の時間になるまで、愛莉とゆっくり過ごした。
夕食を食べると、スマホを見る。
明日は渡辺班の打ち上げの日。
どうするか悩んだ。
愛莉とも相談する。
その結果欠席することにした。
どうせ家で飲むだろう。
偶には親に付き合うのも悪くない。
他にも帰省している組は欠席する様だ。
行くのは大学生組が中心らしい。
結婚組は西松夫妻、桐谷夫妻くらいらしい。
桐谷夫妻は仕事で帰省できないらしい。
桐谷君も働き出した。
やはりノルマがきついらしい。
それでも休日があるだけましだと言う。
そんなやりとりをしているとスマホが鳴る。
「夕食にしよう」
僕達は浴衣に着替えてレストランに向かう。
そして6人同じテーブルに座る。
ワインを頼むと皆で乾杯する。
一口飲むと早速食べ物を取りに行った。
「お前は相変わらずの様だな」
父さんが言う。
「これでも控えめな方なんですよ。最近私の言う事ちゃんと聞いて下さるんです」
愛莉が言う。
「お前もやはり逆らえないか……」
「う、うむ」
父さん’sは言う。
今なら少しだけ理解できる気がする。
結婚前からこれなんだ。結婚したらもっと大変なんだろうな。
ましてや子供が出来たら……。
考えるのは止めにしよう。
食事が終ると風呂に行く。
父さん’sも一緒だった。
3人で露天風呂に入る。
「……愛莉は上手く冬夜君を支えてくれてるかね?」
「ええ、とても助かってます」
「仲も良さそうだし順調みたいで良かった」
父さん達が言う。
実際愛莉はちゃんとしてくれてる。
愛莉がいるから毎日仕事に行けるし帰ってから休める。
税理士試験だってそうだ。
それに愛莉が家計を管理してくれてるから、何の心配も無くやれてる。
バスケで貯めたお金もほとんど手をつけてない。
引越しの時に少し使ったくらいだ。
そんな話を父さん達にしてた。
それを聞いて愛莉パパは納得したようだ。
風呂を上がると愛莉達を待つ。
愛莉たちが来ると部屋に戻る。
2人でスマホを弄りながらテレビを見てた。
日付が変わる頃愛莉がそろそろ寝ませんか?と言う。
「明日も朝早いしゆっくり休んで下さい」
「まだ休めないよ」
「どうしてですか?」
首をかしげる愛莉をベッドに押し倒す。
「愛莉のメンテ……残ってるだろ?」
「ありがとうございます」
盆休みは愛莉とのんびり過ごした。
(2)
「ただいま」
「こんにちは」
誠の家に帰省していた。
ちぃちゃん達も帰ってきていたらしい。
ちぃちゃん達も同棲を始めたらしい。
生活費は仕送りで賄ってるらしいが。
翔も来ていた。
その日は宴会だった。
明日にはちぃちゃんたちは翔の家に行くらしい。
渡辺班の打ち上げには参加しないらしい。
翔は緊張していた。
誠の親より誠の方が怖かったらしいが。
「うちの誠が神奈ちゃんを困らせるようなことはしてないかね?」
誠の父親が言う。
私は正直に答えた。
最近の誠は私を支えてくれてる。
家事も率先してやってくれてる。
誠のおかげで家でゆっくりできる。
誠の稼ぎ次第では私は専業主婦になるつもりだと告げる。
それを聞いて誠の父親は納得したようだ。
実際誠は変わった。
あの事件で懲りたのだろうか?
合コンとかそう言う類には顔を出してないらしい。
瑛大との悪ふざけも無くなった。
その事は亜依とも話をしてた。
宴が終ると、私とちぃちゃんは片づけを手伝う。
「千歳も家事が出来るようになったんだね」
誠の母親が言ってた。
「もう、大丈夫だから二人共お風呂入ってきて」
折角だからと、ちぃちゃんと二人で入る。
「兄は変わりましたね」
ちぃちゃんが言う。
ちぃちゃんも気づいたようだ。誠の変貌ぶりに。
気づかない方が無理かもしれないが。
「ああ、酒が入っても愚痴が減ったしな」
「でも不安になりませんか?じゃあどこで不満を解消してるのだろう?って」
ちぃちゃんも翔に不安を抱いてるらしい。
「きっと大丈夫だよ。私が保証する」
ちぃちゃんに話をする。
今日が終るその前に。
その頬照らされた月の光を心に添えて。
この先への私達の為に、愛し合うものの為に。
今日も二人の笑顔が途切れぬように。
月は強く強く輝けよとこの身を託され授かりし命に告げる。
悲しみの上にあった今を忘れてしまっては一体だ誰の為であろうと語りかける。
あの二人は分かってる。
優しさに触れるとにじむような弱さを知る。
弱いと認めると甘えることを覚えるように、人は誰しも強くないからこそ今隣り合わせた人を思い遣る魂を。
人はなにがしかの意味を彷徨い求めては、今もこうして血を通わせて生きている。
この姿を借りてあるべくしてある意味を知っている。
風呂を出ると誠の部屋に行く。
誠は一人で酒を飲んでいる。
「神奈も飲むか?」
「ああ」
誠に渡された缶ビールを飲みながらテレビを見る。
飲み終えるとテレビを消す。
「そろそろ寝るか?」
誠が言う。
「明日朝早いんだろ?俺送っていくよ」
「助かる」
「気にするな」
「ああ……」
そうして私達は眠りにつく。
月は今日もまた語りかける。
私達がすべて忘れてしまわぬように。
(3)
「ただいま」
「こんにちは」
私達は悠馬の実家に来ている。
「おう!良く帰ってきたな。まああがれや」
悠馬の義父さんはそう言って出迎えてくれた。
「部屋は2階に空き部屋あるから使ってくれ、準備はしてる」
「ありがとうございます」
私達は2階に荷物を置くと一階の居間で両親と話をしていた。
来年の就職は決まってる事とか、式を挙げる日取りとか伝える事は全て伝えた。
それを聞いて頷く両親。
「いいんじゃねーか?それで」
義父さんはそう言ってくれた。
母親の方も異論はないらしい。
その日の夕食は焼肉だった。
ビール片手に肉を焼く。
「咲さんもそんな固くなってないでリラックスして」
義父さんに言われるけどやっぱり緊張する。
醜態をさらすわけには行かない。
男共が酒を飲んでる間私と悠馬の母親で片づけをしていた。
「ごめんなさいね。手伝わせて」
「いえ、大丈夫です」
「……悠馬は元気にやってる?」
「ええ、家事も手伝ってくれるし」
働きすぎて壊れないか不安なくらいだ。
「昔っから一人で何でもしようとする子だから心配で」
それを制御するのが私の役割。
「大丈夫です、私がちゃんと見てるから」
「あの子の事……お願いね」
悠馬の母親はそう言って微笑んだ。
片づけが終ると風呂に入る。
「うちの風呂は広いんだ。二人でゆっくり入ってしまいな」
相変わらずだな、義父さんは。
「何言ってんの義父さん!」
悠馬が言ってる。
交互に風呂に入ると、すっかり酔った二人は盛り上がっている。
「英二さん、二人は明日咲さんの実家に行くの。あまり飲ませ過ぎないで」
「わかってるって紗耶香さん。で、結婚式はわかったけど孫はいつ見せてくれるんだ?」
「そんな先の事決めてないよ!」
悠馬は苦労しているようだ。
ようやく解放されると2階で休む事に。
次の日、朝ごはんを食べると私達は私の実家に向かった。
何か菓子折り用意した方がいいんじゃないかと悠馬は言うけど「そんなに気を使わなくていいって」と断った。
途中昼食は外食ですませた。
実家に行くと温かく迎えてくれた。
「今日はゆっくりしていってくれ」
父さんがそう言う。
悠馬は緊張している。
その気持ちはよく分かる。
親戚も来ていた。
夕食も外食。
居酒屋で食べる。
和やかに歓談する。
タクシーで家に帰ると風呂に入って部屋でゆっくりする。
居間では親戚の子供たちが騒いでる。
「お疲れ様」
「咲の苦労がわかったよ」
そう言って座り込む悠馬。
私はその隣に座る。
悠馬がそばにいるのが当たり前だった。
鈍くなってゆく想いが怖くて知らぬふりをしてた。
出逢えた喜びを、愛してゆく意味を、あふれる優しさで伝えて欲しい。
「ずっと一緒だよ」
お揃いで買った指輪、あのころと変わらず輝いてた。
悠馬の手を握る。
悠馬は私を見る。
こんなにも近くにいるのだからこの手を離さずにいてね。
言葉じゃ届かない想いがある。
大事な思いがある。
さよならも言えないくらいにしっかり抱きしめていてね。
言葉じゃ足りない想いだけが心をつなぎとめる。
そんな大事な想いがある。
「そろそろ寝ようか?」
「そうだね」
私達は眠りつく。
不思議な夢を見る。
綺麗な夢を見る。
夏の匂い。
青い風が私を通り抜ける。
夢歌う日々がある。
戸惑う日々もある。
悠馬の匂い。
にじむ空に心流れ着けば。
奥にかさばった遠い日の想いも今なら晒せるだろう。
叶わずも失くすことのない、あの日覚えた小さな騒めきもゆらめいて輝きますように日々をおよく。
紡いだ日々がある。
優しい人がいる。
水のにおい。
まどろむ悠馬が私を透かして見る。
語らずも分かち合えるなら。
躊躇いもせずあなたに触れたい。
煌めいて溢れ出すように日々を泳ぐ。
月はこの身を託され授かりし命に告げる。
悲しみの上にあった今を忘れてしまっては、いったい誰の為であろうと語りかけた。
(4)
「それじゃ、前期お疲れ様でした!乾杯!!」
西松先輩が言うと宴の始まり。
今日は前期が終わりの打ち上げの日。
盆休みと被ってしまったため、社会人組は帰省していた。
桐谷夫妻は両方とも仕事が忙しくて帰る暇はないらしい。
桐谷さんはやっぱり飛び込み営業がきついらしい。
俺も人の事言えない。
夏休みの間に家を探して、祥子と同棲が半強制で決まってしまった。
冗談だと思っていたが本気だったらしい。
同棲と言えば秋吉夫妻が月末に挙式するらしい。
他にも同棲をしている人は沢山いる。
しかしまいったな、突然同棲が決まるとは思っても無かった。
祥子の両親にも挨拶に行かないとな。
「その必要ねーよ」
祥子は言う。
あまり両親とは連絡を取ってないらしい。
本当は大学も行くはずなかったのだけど、「大学くらい出とけ」と親が言うから仕方なく言ってるらしい。
あまり両親とは良好な関係ではないらしい。
しかしなぁ……。
「お前が気にする事じゃねーよ。どうしてもって言うなら結婚の時に報告すればいい。それよりお前の浮気癖の方が問題だ」
祥子はそう言って笑う。
「何々二人共結婚まで考えてるわけ?」
亜依さんが言った。
「い、いや。まだそこまでは考えてないですよ」
俺は言った。
「同棲するんだったらもう勢いでしちゃいなよ。そんなに変わらないって」
亜依さんが言う。
「さすがにそれは強制でさせても嬉しくねーから、待ちますよ」
祥子が言う。
「それもそうね」と亜依さんが納得した。
「そんなに女性って結婚に憧れるものなの?ちょっと興味があるんだけど」
佐々木が言う
「そりゃ、憧れない女性の方が珍しいわよ。幸せをアピールしたいってのもあるかもしれないけど」
亜依さんが答えた。
「でも、こう言っちゃなんだけど桐谷さん達は逆に不幸になってる気がするんだけど」
佐々木が言うと亜依さんはにこりと笑った。
「そればっかりは柚希に聞いた方がいいんじゃない。あんたも他人事じゃないんだから」
「だ、そうだけど。柚希はどう思ってるの?」
「そうだね、あんたが結婚に対して理解が出来たら考えるよ。それまで待つから」
「理解ねえ」
佐々木は言ってる。
「覚悟……とても大切な事」
白鳥先輩が言う。
「しかしあんた達が羨ましいわ。今のうちに楽しんでおきなよ。卒業したら二度とこんな連休手に入らないんだから」
亜依さんが言う。
それは分かる。現に社会人組で来てるのは亜依さん達だけだ。
亜依さんも1次会で帰るらしい。
明日も仕事なんだとか。
大変なんだろうな。
瑛大さんと誠さんが馬鹿を言ってたのが懐かしく思える。
良くも悪くも二人は大人になってしまった。
そうならざるを得ないのだろう。
知りたくないことを知ってしまったから。
耳を塞いでいた声を聞いてしまったから。
皆、他愛も無い話で時間が経つのも忘れていた。
そんな日々が懐かしいと思う時が来るんだろう?
そんな気楽な気持ちをどこかに忘れてしまったのだろう?
ずっとかけがえのないもの、安らぎと温もりがあった。
いつも居心地のあの場所へは二度と戻れない。
強い絆がある今も。
これからも仲間であり続けたいと思う。
いつか最高の自分に生まれ変われる日が来るだろう。
もっと真っ直ぐな気持ちに出会える日を夢見て。
解り合える語り合える。
いつまでもそんな仲でいたい。
ずっとかけがえのないもの。安らぎと温もりがある。
いつも居心地の良かったあの場所に戻れるとしたら。
いつか最高の自分に生まれ変われる日が来るだろう。
きっと今までの自分に戻れると信じたい。
「そろそろ時間だ。二次会に行ける人どれだけいる?」
西松先輩が言う。
俺は祥子の顔を見て確認すると挙手した。
(5)
2次会はカラオケだった。
美里さんが歌っている。
他の皆は飲みながら騒いでいる。
美琴もドリンクを飲みながら桜木さん達と話している。
僕もドリンクを飲みながら皆が歌っている様子を見ていると梅本君が隣に来た。
「な~にしけた面してんのさ。パーッと楽しまないと二次会来た意味ないでしょ?」
「……こういう状況に馴染めないんだ」
実際こんな状況に自分がいることに驚いてるからね。
「桐谷さん達が言ってたろ。今しかないんだって!学生と言う身分でいられる最終段階。この4年間を過ぎたらもう二度と戻れない」
梅本君が言う。
渡辺班に入るまでは全然考えもしなかった。
バイトと勉強の両立。それだけを考えていた。
それがなぜか彼女が出来てそして色々体験した。
良い事も悪い事も。
最後の4年間か……。確かに大学院までは考えてなかった。
「タメのダチがいるんだけどさ、皆言ってるぜ『専門でもいって学生生活満喫すればよかった』って……」
梅本君が言う。
「どうあがいても最終的に行きつくところは社会人なんだから、今しかやれないことをやっとくべきじゃね?」
梅本君は僕に組み付いて言う。
「社会に出ると出逢いだってなくなるんだってよ。お前ついてるって自分で思わね?かなり幸運だぜ?相手から自分を求めて来るって」
梅本君の言う通りかもしれない。
偶然が積み重なって今がある。
「そうだな……お前は偶然あと少し踏み出すだけでゴール出来る千載一遇のチャンスに出会っているわけよ。こんなチャンス滅多にないって」
「梅本君は僕はどうすればいいと思う?」
「今、お前が思ってることを伝えればいいんじゃね?」
梅本君は言う。
僕は悩む。今言わなきゃいけない事なのか?もっとお互いを知るべきじゃないのか?
本当に後悔はしないか?
「なんだよ?まだ勢いが足りないみたいだな。これでも飲んで……」
「永遠!そいつ車で来てるんだぞ!無理強いするな!」
様子を見ていたらしい桜木さんが言った。
「そっか、じゃあまた今度だな」
そう言って梅本君は皆の輪に入っていった。
梅本君が言った言葉について考えていると美琴が来る。
「梅本に何言われたんだ?」
「ボールに触れるだけでゴールを決められるチャンスを逃すなって」
「なるほどなぁ……」
美琴はジョッキに入った飲み物を飲み干して言う。
「そいつはちょっと違うんじゃないのか?」
「どういう事?」
僕は聞き返していた。
「梅本の話だとまるで私を手に入れるチャンスみたいな物言いじゃねーか」
「違うの?」
「違うだろ!私は既にお前のものなんだぞ!」
今を逃したら手に入らないじゃない、すでにお前は手に入れてるんだと美琴は主張する。
「もう、お前の手の中にあるんだ。だから焦ることは無い。あとは時期を待つだけだ」
「その時期って言うのはいつなの?」
「そのくらい自分で考えろ!私はいつまでも待ってる。それとも私はそんなに信用無いか?」
「そんなことは無いけど」
「……ごめんな。本音を言うと今すぐにでも同棲したいくらいだ」
桜木さんに当てられたのかな?
「どんなに偉そうなことを言っても私はまだ親に守られてるんだ。それに比べたら咢はすげーよ……」
「僕だって学費は親任せだよ」
「私は全部親に任せっきりだ。それなのに親に逆らおうとしている。自分が情けなくなる」
「僕は親に逆らう事すらできずにいる。自我が無いんだ……」
美琴は飲み物のおかわりを頼んでいる。
「そんな事無い!あの時だって私を守ろうとしたじゃないか!お前を馬鹿にするやつがいたら私が蹴散らしてやる!」
それって結局僕は守られてるだけじゃないか。
「ありがとう。その気持ちだけで嬉しいよ」
「ありがとうって言いたいのは私だ。私を選んでくれて私は感謝している。私はお前が好きだ」
美琴の異変に皆が気づきだした。
「ちょっと水頼んで頂戴。美琴さん大丈夫?」
深雪先生が来た。
「このくらいなんてことない!」
そう叫ぶ美琴に深雪先生は水を飲ませると、僕に言う。
「あなた車で来たって言ったわね?今日はもういいから美琴さん送ってあげて」
「私はまだ飲むぞ!」
「だめよ!啓介手伝ってあげて」
深雪先生が言うと西松先輩が一緒に美琴を車まで運んでくれる。
美琴を助手席に乗せると西松先輩に礼を言って僕は車を出した。
「ごめん、また咢に迷惑かけてる」
「大丈夫だよ」
「本当に私迷惑になってない」
「彼女の面倒くらい見るよ。頼りないだろうけど」
「そんな事無い……」
彼女のアパートの駐車場に車を止める。
「美琴歩ける」
「だ、大丈夫かな……」
まともに立つことも出来ないようなので。肩を貸してやる。
部屋のドアの鍵を借りるとドアを開ける。
「お邪魔します」
電気をつけると意外と整理されている。
ベッドに彼女を寝かせる。
「鍵は、新聞受けに入れとくね」
そう言って立ち去ろうとすると美琴が僕の服を引っ張る。
「今日の私は駄目駄目だな。醜態ばかり晒してる」
「気にしてないから大丈夫」
「じゃあ、ついでに我儘言ってもいいか?」
美琴はそう言って僕の腰に手を回す。
「バイトまでの時間で良い。一緒にいてくれないか?」
美琴はそう言う。
さて、どう答えたらいいものか。
心細そうな美琴を残して帰るわけにもいかない。
でも、どうせなら。
「一度家に帰るよ……」
美琴は淋しそうな顔をする。
「着替えとか準備してくる。夏休みの間だけこっちに泊まるよ。鍵預かっていていいよね?」
「ああ!ありがとう。……ごめん。咢を困らせてる」
「すぐ戻るけど、少しでも休んでおいた方がいい」
「分かった」
僕はそう言うとアパートを出て自分のアパートに戻り荷物をまとめる。
今のままでも居心地の良かった場所だけど。
ずっとかけがえのないもの。
安らぎと温もりの場所。
最高の自分に生まれ変われるかもしれない。
もっと真っ直ぐな気持ちと出逢える予感がした。
(6)
リゾートホテルで一泊して帰ると、家で宴会をして一泊した。
そして夕方ごろまでリビングでごろごろする。
もちろん愛莉も一緒に。
結局その日の夕飯も6人で外食した。
焼肉をご馳走になると僕達はアパートに帰った。
「お疲れ様でした」
愛莉はそう言いながら洗濯物を洗濯機に放り込んでる。
「冬夜さん、一緒に洗いますから先にお風呂に入ってくださいな」
「じゃあ、愛莉も一緒だな」
「え?駄目ですよそんなに広くないし……」
「たまにはいいだろ?」
「困った旦那様です」
愛莉と風呂に入ると寝室でテレビを見てる。
愛莉はスマホを見てる。
何かあったら愛莉から言ってくるだろうから、僕は見ないようにしてる。
「皆さんもう夏休みなんですね」
「そうだな、そんな時期だったんだな」
羨ましい。
昔見た青空、照り付ける太陽。
心も輝いた季節。
今となれば想い出は美しく滲んでる。
戻りたいけど帰れない。
飛び散る光に何もかも眩しかったあの頃。
割れたら戻せない、綺麗な思い出。
それでももう一度あなたがきつく抱きしめてくれたなら、枯れてた涙があふれて来るでしょう。
「硝子の想い出か……」
あの頃にはもう戻れない。
「戻る必要ありますか?」
愛莉が手を重ねて聞いてくる。
過去があるから現在がある。
思い出よりも美しい現在を……。
「思い出は優しいから甘えたらダメなんですよ」
愛莉が笑って言う。
「そうだね」
硝子の時代を想い出たちだけが横切る。
痛みがあるから輝く。
青い日々がきらり。
何かが終って始まる。
雲が切れて僕を照らし出す。
0
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