匣の世界

和希

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匣の世界

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「そろそろ目を覚ましたらどうだい?」

男の声で私は目覚めた。
私はとある要人の暗殺のミッションを受けていた。
そしてミッションは失敗した。
当然私は消されると思った。
しかし私は生きている。
どうしてだ?

「どうして自分が生きているのか知りたいのか?ベント君」

男はなぜ名前を知っている?
私は顔を上げ男を見る。
男の容姿からして追跡者か。
真っ赤な髪の男。
腰には短刀を下げて黒いローブを纏っていた。
私が追跡されていた?
それが私の任務失敗の理由か?
だが、男はそんな私の考えを否定した。

「君にはそう映っているのか?だが、そうではない」
「……ここはどこだ?」

そしてお前は何者だ?
私の質問に男は答えた。

「私は箱だ。君に見えているのはただの幻像だ」

そしてここは箱の中。

「私はお前の中にいると言うのか?」
「まあ、そういう事になるな。死んでいるのか生きているのかはその基準が曖昧だから答えられない」

私が動いているという事が生きているという基準になるのなら生きているのだろう。
箱と名乗る男はそう言った。
私は自分の体が動かせることに気付いた。
拘束されてる様子はない。
武器もちゃんと持っている。
辺りは冷たい石壁に覆われていて、一つだけドアがある。
私がやるべきことは決まった。
起き上がると手に持った武器で男の喉元を切りつけた。
あとはドアの外に出るだけだ。
だが正確に男の首を切ったのに手ごたえが無い。
空振りしたかのようだった。
そんな私をみて男はにやりと笑う。

「言ったろ?私は君が作り出したイメージにしか過ぎない」

そう言って笑う男を無視してドアの外に出る。
鍵はかかってない。
しかしドアの向こうにはまた男がいる。
ドアの向こうに出て振り返ると小さな箱があるだけ。
何か悪い夢でも見ているのだろうか?

「夢じゃない。君は永遠に箱の外から出られない。ただそれだけだ」

こんな所に一生閉じこもっていろと言うのか。
冗談じゃない。
私は何度もドアの向こうへ行った。
しかし無限の空間から抜け出す事は出来なかった。
気が狂いそうになる。
暗殺者に必要なのはいかなる時も冷静に任務を全うする非情の心。
しかしこんな状況に置かれてそれを保つのは難しい。
この箱の中から飛び出すにはどうしたらいい?
そんな疑問に男は答えた。

「この箱の世界から出たいのか?」
「……何かあるのか?」

私が男に尋ねると、男は私に近づいて衣服をはぎ取って私を押し倒す。

「なんの真似だ?」
「黙って私を受け入れろ。そうすれば私の外に出られる」

意味が分からないが、死んでいるのか生きているのか分からない状態で、男の提案を受け入れるしか選択肢はない。

「大丈夫だ、すぐに済む」

男は自分の服を脱ぎながらそう言った。
私は男を受け入れた。
無意味な快楽の後に訪れたのは虚無感。
そして男は消えた。
どこへ行ったのか?
やはり夢だったのか?
すると声が聞こえた。

「案ずるな、私は君の中にいる。そして君はやがて私の外に出る」

どういう意味なのかはすぐに分かった。
お腹に感じる違和感。
痛みを感じる。
そして私は箱を産み出した。
箱を産み出したと同時に私は箱の外に放り出された。
そこはなにもな虚無の空間。
永遠に続く闇の世界。

「約束は果たしたぞ」

男の声が聞こえる。

「どういうことだ!?」
「君は箱の世界の中で過ごす予定だった。だが、君は箱の外に出る事を望んだ」

箱の中こそ世界の全て。
私は世界を産み出すことによって世界の外に放り出された。
その世界の外に広がるのは無限の闇。
私はもう箱の中には戻れない。
戻っても戻れなくても同じ。
その時私は悟った。
私はもう生というものを失っていたんだ。
ただ一人孤独に漂う無に等しい存在。
私は諦めた。
自分の武器を胸に突き立てる。
自分の人生に自ら終止符を打った。
世界は箱の中。
箱の外には何も無い。
人は箱という名の檻の中で生きている。
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