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14.さりげなき才覚、その様風流なり

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能ある鷹は爪を隠す。
太古の昔から言われている言葉だが、
実はこれがずっと爪を隠しているようでは全く駄目というのは、想像に難くないところだろう。
結局のところ、脳ある鷹であっても爪を使って狩をしなければ、それはまったく実用性のない能であって無能に等しいのである。
能を存分に発揮しつつも、それを涼しい顔で、誰に誇示するわけでもなく、発揮する。そんな所作はなかなか煩悩の塊たる人間には難しい。
だが、やはりそれをやってのける人がいるのは確かである。

今日はそんな人物について書きたいと思う。

彼との出会いは今でも覚えている。
講義を受ける席が私の前だった彼は、
初日に名前を書くペンを貸してくれと頼んだ。

そんな一瞬のことだったが、彼はどこか不準備で、あどけなく、風来坊な、それでいながら安心感のある、そんな空気感をまとっていたと思う。

風貌はかなりの背高で、上にひょうッと伸ばしたようなガタイ、そして象徴的とも言える眼鏡。背高な後ろ姿にどこか風に揺られているかのような心証を描いていた。

あのファーストインプレッションの時のどことないあどけなさは、少し話すうちに瞬く間になくなる。
明瞭な将来へのビジョン、そして論理的な語り口、相手への意見への深淵な返し、そして彩色豊かなユーモア。
ここまでの高度な論理と意思を持った会話をした人物は私自身ほとんど初めてだったような気がする。

しかしながら、彼の際立った凄みはここではないのである。

やはり、これは勉学の面にあろう。
私個人としては彼の勉学の才の在り方を心底素晴らしいと思っている。

というのも、やはり勉学というのはできるだけではしょうがない。
 
彼の場合は、もちろん教科の得手不得手はあろうものの、個人的な印象だが、人よりも興味を抱きながら学問をしていると思う。

知的好奇心の充足としての学問、これを完全ではないにしろ、達成している彼は尊敬に値するところがあると思う。

(しかしながら、勤勉かというとまたこれは違う話であって、教科の提出物を急ぎ足にやっている姿などは彼の風物詩のように思えるのもまた一面である。)


また、講義の最中の在り方も非常に好感を持てる。グループワークともなれば、積極的に議論に参加し、ワーカーの意見を聞きつつ、自身の意見を提示し、それを全体にわかりやすく発表する。
そして、彼の場合、気を衒おうなどというおこがましいことはまったくなく、そこには少々奇想天外であっても真に自己の意思としての意見が表象化されているのである。気を衒って、自己を尊大に誇示しようなどという思惑、そのようないやらしい感情を我々に微塵も感じさせないことこそ彼の才のあり方であり、私が尊敬する所以なのである。
(講義中の睡眠学習という彼の在り方は今回については度外視することにして【これを度外視することは虚構の創造のようだが、いや、そういうわけではない】)










勉強とは、ある目的のために必要な知識を得ることだが、
学問とは、真に知的好奇心の充足のみを本質とするのである。




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