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第1章
2.初めて着いた西方の、港街で
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事前に十分準備していたらしいオレリアは西方へ直で向かう船に乗ったようだが、リディが乗った船は残念ながらそうではなかった。
東の果てにある紫禳に住む人々は「他の国へ行こう」との考えがあまり強くない。そのため紫禳から船で出ようと思ったら、何かしらの理由で寄港した船に交渉して乗せてもらうのが一般的だった。
広い知識を求める人や交易で一旗揚げようと狙う人、ときには旅へ出る人が居なくもないが、数が少ないので定期船を出しても採算が取れないのだ。
今回兄が、というより兄の命令で誰かが手配したのも『紫禳よりも西側に位置する東方の国家の商人』が所有している交易船だった。そのためリディは目的の港へ着いた後、更に西へ向かう船を探し、乗せてもらうための交渉をしなければならない。これはなかなかの手間だった。
巫女だった頃に多くの人に会ってきた経験と勘を元にして、リディは条件に合う船を慎重に探す。納得のいく船がなければ同じ港で何日も滞在することがあったが、重要なことなので手を抜くわけにはいかない。もしも焦って怪しい船に乗ってしまうと危険が待っているのだ。
こうして船を探すうち、リディは気になることを小耳に挟んだ。どうやらどこかの海上で大きな嵐が起きたらしいのだ。
日数的にはちょうどオレリアの船が海を進んでいる時のようだったが、寄港した港が違うようで詳しい話は分からない。
(嵐、大丈夫だったかなぁ。母様は船の運がない人だし……)
波の音を聞きながらリディはため息を吐く。
今のところリディの“初めての船旅”は船を見つけるのに難航する以外順調だが、オレリアはというと初の船旅の際、海賊に襲われたらしい。
しかも捕まって賊のねぐらとなっている隠れ島へ向かう最中、今度は嵐に見舞われた。流された船は東方の国のひとつへ入り込み、拿捕された。
「あの時は海賊も全員が酷い有様だったの。兵士さんたちもびっくりしてたわ。で、港に着いたらまず一般人を船から下ろしてくれてね」
その港町でオレリアは紫禳の貴人――リディの父、直芳と出会った。当時、世嗣だった直芳は外遊に来ており、滞在の館をこっそり抜け出して町の視察をしていたそうだ。このとき互いに一目で恋に落ちたとは父母共に合致した意見でもある。
母は父を「理知的で優しそうな人」だと思い、父は母を「凛としていて美しい人」だと思ったらしい。
「初めて乗った船での旅は散々だったけれど、おかげで素敵な夫と可愛い娘に会えたのだもの。私はとっても運が良かったわ」
母はそう言っていたが、リディは海賊に遭った母の運が良かったとはどうしても思えない。
(今回も運悪く嵐に遭ってたらどうしよう……)
実のところ、船旅のあいだリディが一番心配していたのは自分のことより母のことだった。
東方からの船はすべて、西方地域でも最も東にある街に着くと聞く。まずはそこで母を見た人物がいないかどうかを探そうとリディは決めていた。
* * *
初めて見た西方の街を見たリディの感想は「色合いは統一されているのに、なぜか色鮮やか」だった。
それは東方で見たことのない黄色の屋根のせいかもしれないし、くすんでいてもなお白い壁が強い日を弾いて輝いて見えるせいかもしれない。あるいは東方と違い、行きかう人の髪がさまざまな色をしているせいかもしれなかった。
気をつけてな、と言って見送ってくれる船員に礼を言い、知らない海鳥の声を聞きながら大地へ降り立ったリディは手をかざして空を見上げる。
(母様が「紫禳の夏は涼しい方」なんて言ってたのがずっと不思議だったけど……これだと確かに紫禳の夏って涼しいかも)
容赦なく照り付ける陽に苦笑したときふと、刺すような視線を感じた。何だろうと思いつつさりげなくそちらへ顔を向けると、少し離れた場所にひとりの男性が立っていた。
年齢は十六か十七ほど。癖のある短い茶色の髪を風に揺らす彼の顔立ちは元々きつめのようだが、それを差し引いても好意的な表情だとはとても思えない。
初めて会う人がどうしてこのような顔をするのだろうか。リディが不思議に思ったとき、ようやく彼も自分が何をしているのか気付いたようだ。高く上げたマントの襟で口元を隠し、立ち去ろうとする。
彼を追うかどうか、リディが悩んだのは一瞬だった。荷物を抱え直したリディは遠ざかる背に向かって足を踏み出す。しかしそのとき後ろから「おっ」という野太い声が聞こえた。
「嬢ちゃん、遠くから来たんだろ?」
思わず振り返ると、日に焼けた肌を持つ体格の良い男性が白い歯を見せて笑っていた。
「うん。でも、どうして分かったの?」
「二か月くらい前だったかな、そんな服を着てた人が言ってたんだ。かなり東の方にある国から来たって」
男の答えを聞いて、リディはどきりとする。リディが身に着けているのは紫禳特有の衣装、袴姿と呼ばれるものだ。西まで紫禳の服を着て来る人物が頻繁にいるとは思えない。
「……その服を着てたのは、どんな人だった?」
「長い金の巻き毛と綺麗な水色の目が印象的な人だったぜ。あんまりに別嬪さんだったんで、つい話しかけちまったんだよ。――なんでも長いこと東に住んでたらしくてな、どこへ行くのか聞いたら『あちこち見ながらまずはナグトを目指す』なんて言ってよぉ」
照れくさそうに頭を掻く男性の言葉を聞き、リディは破顔する。
(金の巻き毛と水色の目……母様だ! 無事だったんだ! 嵐に巻き込まれず、ちゃんと西へ到着したんだね!)
ほっと息を吐いて「聞かせてくれてありがとう」と述べると、男性は「いいって」と言いながら手を振った。
「嬢ちゃんは西へ来るの初めてか? どうだい、感想は」
「うーん、いろいろ思うことはあるけど、一番は『暑い』かな。船の中はそうでもなかったのに」
手で首筋を扇ぐリディを見て男は笑う。
「この辺は日照期に入ってるから日差しが強いのさ。まったく、こうもカンカンに照らされると暑くて溶けちまうよ」
「ええっ? 西の人って暑いと溶けるの?」
「……いや。例え話だから本気にしなくていいぜ」
小さく咳払いした男性は「まあ」と言ってくっきりと落ちた影を示す。
「日陰に入ると涼しいから、なるべく日差しを避けて動くこったな」
言われてリディは試しに船の影へ入ってみる。途端にすっと汗が引くほど気温が下がった。
「本当だ、ずいぶん涼しいね」
「だろ? できるだけ日陰を選んで動きなよ」
「うん、ありがとう」
「それにしても、嬢ちゃんはどうして西へ?」
誰かからそう聞かれた時の返事はもう用意してあった。
「実はね、冒険者になりたくて」
「冒険者に?」
母はリディをただ西へ来させたかったわけではなく、ここで何かさせようと考えているはずだ。であれば母探しはきっと長期戦になる。そのためにも生活の基盤が必要だった。
「そう。冒険者。この街にも冒険ギルドはある?」
「もちろんあるぜ。その道を行った先だ。でかいし、看板もあるし、すぐ分かるさ!」
男性が指さしたのは、たくさんの人が行き交う大きな通りだった。道の左右に並んでいる石造りの建物はどれも大きく思えるのだが、わざわざ『でかい』と言うくらいなのだからもっと大きいのだろう。
「あの先だね。ありがとう、行ってみるよ」
念のために先ほど嫌な目つきをしていた少年が居た辺りを見てみるが、やはりとうに姿はなかった。
あれが何だったのかは気になる。しかし立ち止まったおかげで良い話が聞けたのだから、これで良かった。
荷物を背負いなおしたリディは笑顔で男性に手を振り、晴れ晴れとした気分で大通りに足を向けた。
東の果てにある紫禳に住む人々は「他の国へ行こう」との考えがあまり強くない。そのため紫禳から船で出ようと思ったら、何かしらの理由で寄港した船に交渉して乗せてもらうのが一般的だった。
広い知識を求める人や交易で一旗揚げようと狙う人、ときには旅へ出る人が居なくもないが、数が少ないので定期船を出しても採算が取れないのだ。
今回兄が、というより兄の命令で誰かが手配したのも『紫禳よりも西側に位置する東方の国家の商人』が所有している交易船だった。そのためリディは目的の港へ着いた後、更に西へ向かう船を探し、乗せてもらうための交渉をしなければならない。これはなかなかの手間だった。
巫女だった頃に多くの人に会ってきた経験と勘を元にして、リディは条件に合う船を慎重に探す。納得のいく船がなければ同じ港で何日も滞在することがあったが、重要なことなので手を抜くわけにはいかない。もしも焦って怪しい船に乗ってしまうと危険が待っているのだ。
こうして船を探すうち、リディは気になることを小耳に挟んだ。どうやらどこかの海上で大きな嵐が起きたらしいのだ。
日数的にはちょうどオレリアの船が海を進んでいる時のようだったが、寄港した港が違うようで詳しい話は分からない。
(嵐、大丈夫だったかなぁ。母様は船の運がない人だし……)
波の音を聞きながらリディはため息を吐く。
今のところリディの“初めての船旅”は船を見つけるのに難航する以外順調だが、オレリアはというと初の船旅の際、海賊に襲われたらしい。
しかも捕まって賊のねぐらとなっている隠れ島へ向かう最中、今度は嵐に見舞われた。流された船は東方の国のひとつへ入り込み、拿捕された。
「あの時は海賊も全員が酷い有様だったの。兵士さんたちもびっくりしてたわ。で、港に着いたらまず一般人を船から下ろしてくれてね」
その港町でオレリアは紫禳の貴人――リディの父、直芳と出会った。当時、世嗣だった直芳は外遊に来ており、滞在の館をこっそり抜け出して町の視察をしていたそうだ。このとき互いに一目で恋に落ちたとは父母共に合致した意見でもある。
母は父を「理知的で優しそうな人」だと思い、父は母を「凛としていて美しい人」だと思ったらしい。
「初めて乗った船での旅は散々だったけれど、おかげで素敵な夫と可愛い娘に会えたのだもの。私はとっても運が良かったわ」
母はそう言っていたが、リディは海賊に遭った母の運が良かったとはどうしても思えない。
(今回も運悪く嵐に遭ってたらどうしよう……)
実のところ、船旅のあいだリディが一番心配していたのは自分のことより母のことだった。
東方からの船はすべて、西方地域でも最も東にある街に着くと聞く。まずはそこで母を見た人物がいないかどうかを探そうとリディは決めていた。
* * *
初めて見た西方の街を見たリディの感想は「色合いは統一されているのに、なぜか色鮮やか」だった。
それは東方で見たことのない黄色の屋根のせいかもしれないし、くすんでいてもなお白い壁が強い日を弾いて輝いて見えるせいかもしれない。あるいは東方と違い、行きかう人の髪がさまざまな色をしているせいかもしれなかった。
気をつけてな、と言って見送ってくれる船員に礼を言い、知らない海鳥の声を聞きながら大地へ降り立ったリディは手をかざして空を見上げる。
(母様が「紫禳の夏は涼しい方」なんて言ってたのがずっと不思議だったけど……これだと確かに紫禳の夏って涼しいかも)
容赦なく照り付ける陽に苦笑したときふと、刺すような視線を感じた。何だろうと思いつつさりげなくそちらへ顔を向けると、少し離れた場所にひとりの男性が立っていた。
年齢は十六か十七ほど。癖のある短い茶色の髪を風に揺らす彼の顔立ちは元々きつめのようだが、それを差し引いても好意的な表情だとはとても思えない。
初めて会う人がどうしてこのような顔をするのだろうか。リディが不思議に思ったとき、ようやく彼も自分が何をしているのか気付いたようだ。高く上げたマントの襟で口元を隠し、立ち去ろうとする。
彼を追うかどうか、リディが悩んだのは一瞬だった。荷物を抱え直したリディは遠ざかる背に向かって足を踏み出す。しかしそのとき後ろから「おっ」という野太い声が聞こえた。
「嬢ちゃん、遠くから来たんだろ?」
思わず振り返ると、日に焼けた肌を持つ体格の良い男性が白い歯を見せて笑っていた。
「うん。でも、どうして分かったの?」
「二か月くらい前だったかな、そんな服を着てた人が言ってたんだ。かなり東の方にある国から来たって」
男の答えを聞いて、リディはどきりとする。リディが身に着けているのは紫禳特有の衣装、袴姿と呼ばれるものだ。西まで紫禳の服を着て来る人物が頻繁にいるとは思えない。
「……その服を着てたのは、どんな人だった?」
「長い金の巻き毛と綺麗な水色の目が印象的な人だったぜ。あんまりに別嬪さんだったんで、つい話しかけちまったんだよ。――なんでも長いこと東に住んでたらしくてな、どこへ行くのか聞いたら『あちこち見ながらまずはナグトを目指す』なんて言ってよぉ」
照れくさそうに頭を掻く男性の言葉を聞き、リディは破顔する。
(金の巻き毛と水色の目……母様だ! 無事だったんだ! 嵐に巻き込まれず、ちゃんと西へ到着したんだね!)
ほっと息を吐いて「聞かせてくれてありがとう」と述べると、男性は「いいって」と言いながら手を振った。
「嬢ちゃんは西へ来るの初めてか? どうだい、感想は」
「うーん、いろいろ思うことはあるけど、一番は『暑い』かな。船の中はそうでもなかったのに」
手で首筋を扇ぐリディを見て男は笑う。
「この辺は日照期に入ってるから日差しが強いのさ。まったく、こうもカンカンに照らされると暑くて溶けちまうよ」
「ええっ? 西の人って暑いと溶けるの?」
「……いや。例え話だから本気にしなくていいぜ」
小さく咳払いした男性は「まあ」と言ってくっきりと落ちた影を示す。
「日陰に入ると涼しいから、なるべく日差しを避けて動くこったな」
言われてリディは試しに船の影へ入ってみる。途端にすっと汗が引くほど気温が下がった。
「本当だ、ずいぶん涼しいね」
「だろ? できるだけ日陰を選んで動きなよ」
「うん、ありがとう」
「それにしても、嬢ちゃんはどうして西へ?」
誰かからそう聞かれた時の返事はもう用意してあった。
「実はね、冒険者になりたくて」
「冒険者に?」
母はリディをただ西へ来させたかったわけではなく、ここで何かさせようと考えているはずだ。であれば母探しはきっと長期戦になる。そのためにも生活の基盤が必要だった。
「そう。冒険者。この街にも冒険ギルドはある?」
「もちろんあるぜ。その道を行った先だ。でかいし、看板もあるし、すぐ分かるさ!」
男性が指さしたのは、たくさんの人が行き交う大きな通りだった。道の左右に並んでいる石造りの建物はどれも大きく思えるのだが、わざわざ『でかい』と言うくらいなのだからもっと大きいのだろう。
「あの先だね。ありがとう、行ってみるよ」
念のために先ほど嫌な目つきをしていた少年が居た辺りを見てみるが、やはりとうに姿はなかった。
あれが何だったのかは気になる。しかし立ち止まったおかげで良い話が聞けたのだから、これで良かった。
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