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童
しおりを挟む始まりは,応仁の乱。室町時代に起こった戦。
その混沌とした10年戦争は、京の町を焼き,
関西地方は多大なる被害を受けた。
村は襲われ,女子供はなす術もなく殺されていく。
力がものを言う時代なのだ。
これにより幕府は力をさらに弱め、洪水、地震、疫病が不幸な事にたて重なり都は死体の匂いで立ちこめていた。
野犬だけでなく人が死体を喰らい、生きていく。
秩序も何もありやしない。
冷たい風が吹き荒れる。
砂が風と共に去り,雲は灰色。
ここはどこかの京の都。
少し前までは、商人が行き交う活気のある場所だった。
そんな中、一人の子供が荒廃した家宅の隅に座っている。
衣服はボロボロで顔は泥だらけで痩せこけている。
眼は、ただただ漆黒だった。
親はどうしたのかもよく覚えていない。
皆、みてみぬふりをする。
自分一人でも精一杯なのだ。
童はただ一人きりだった。
「一人か?童」
突如、頭上から声が聞こえた。
俯いていたので人がいることさえ知らなかった。
童は、声の人物を見た。
その人物は髪を無造作に縛り,目がくっきりとした、幼さがまだ抜けていない青年だった。
髪の毛が風の流れに沿って落ち着きがなく揺れている。
この時はまだ彼が命の恩人になるとは知り得なかった。
青年は、にっこりと笑い童の手を握り歩き始めた。
童は青年が正直言って気味悪かった。
上手く歩けず崩れ落ちた童を青年はおぶって歩く。
何を考えているか分からなかった。
だが,人生を悲観していた童は事の流れには逆らわなかった。
童の記憶は曖昧で、そこからはよく覚えていない。
だが,運が良かった。
青年はお人好しなのか自分を家に連れ込み,体を洗い,飯を食わせた。
おかげで青年の元に転がり込んで数日食べるものには困らず,寝床もある。
今まさに焼き魚にかぶりついているところだ。
「美味いか、この頬が可愛いなぁ」
青年の名前は銕三郎といった。
言葉は曖昧にしか分からなかったこの頃だが,「銕三郎」と連呼していたので名前はなんとなく分かった。
何が目的で自分を拾ったのかは分からない。
本当にただのお人好しなのだろうか?
銕三郎への嫌疑は強まるばかりだった。
童は仁と名付けられた。
名付けられたといっても、自分が仁だという事を自覚するのには時間がかかった。
まだ仁になりたての童と銕三郎の間には、壁がある。
銕三郎はふと,仁を見る。
魚についた塩がボロボロと下に落ちていく。
また魚に塩を塊のままかけてしまったことがいけなかったと銕三郎は気付いた。
せっかくの貴重な塩をまた無駄にしたと悔いる。
「仁、塩が落ちてしまっている。
拭ってやるからじっとしてろよ、塩が床に落ちる。
あと、結構貴重なんだから、塩」
銕三郎は、仁の足に大量に落ちた塩を拭い,今度は別の布で顔を拭ってやった。
仁は、目をぱちくりした。
結構強い力で拭われたから驚いたのだ。
銕三郎は、仁を家から連れ出し森の中を散歩する。
仁は歩くのが遅く,銕三郎は横目でチラチラ見ながら動きに合わせる。
木々の穏やかな音が耳をすませば聞こえ,今が混濁の世だと言うことを忘れさせてくれる。
「風が気持ちいいな,仁」
「…………」
「じきにきのこが美味い時期になるから食わせてやるよ」
何も返さない仁にひたすら銕三郎は話しかけた。
それでも、感情を表に出さない仁に銕三郎も困り果てていた。
そんな生活が8ヶ月ほど続いたとある朝の日,仁は家の庭で土いじりをしていた。
石をどけてダンゴムシを探す。
その時,一羽の鳩が屋根に止まったのを見た。
その鳩の足には,紙が付いており仁はなんだかそれが気になった。
感情を表に出すことはないが,別に感情がないわけではない。
好奇心は人並みにある。
まだその事を銕三郎は気がついていないだけだ。
仁は梯子によじ登り、屋根を歩き鳩に近づく。
鳩はこちらをじっと見つめて動かない。
仁は、鳩の足から紙を剥ぎ取り中身を見た。
しかし,何が書いてあるのか分からなくて小首をかしげる。
「仁っ、何でそんなとこに乗ってるんだ、
早く,おりるんだっ!
あっ!こら奥行くな」
銕三郎も屋根に上がって来た。
しかし,そこにいた鳩を一目見た銕三郎は、目の色を変え、
銕三郎は素早く小刀を抜き,鳩を突き刺した。
鳩は逃げることもせずにじっとしていた。
刃によって肉が裂け、首がもげる。
しかし,赤い鮮血はでていない。
摩訶不思議なことに、鳩の体は一枚の紙へと姿を変え、どこかへひらひらと飛んでいった。
安堵した銕三郎だったが,仁の事を思い出し、焦った。
「仁,下に降りようか
落ちたらひとたまりもないぞ」
銕三郎は、 笑いながら仁の手を引く。
仁は、なされるがままに,動く。
だが,その手は少し震えていた。|
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