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プロローグ

第2話 始まりの出会い②

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「間宮さん! お願いしますよ!」

「あ? てめえ誰に口効いてんだ?」

「うっ……! そ、それは……」


芦堂高校。
それは、全国の悪が集まる不良の巣窟。
中学で名を馳せた猛者が集う、群雄割拠の戦場だった。

彼が現れるまでは。

間宮 康平。芦堂高校3年生。彼はこの芦堂高校の頭に君臨している。喧嘩の腕は、他の生徒とは格が違う。腕に覚えのある猛者達が何人も彼に挑んだが、その全てが返り討ちにあったという。

連続で100人を相手にして、ほぼ無傷で勝利したという噂もあるくらいだ。

だが、間宮 康平は自身が芦堂の頭であることを否定している。周りがいくら頭として持ち上げようと、彼が芦堂の番長として動いたことは一度たりともない。


「た、頼みますよ間宮さん!昨日俺らボコってきたやつシメてきてくださいよ! あの赤い髪の野郎、間宮さんしか勝てないんすよ!」

「へえ。そんなに強いやつなのか」

「そうなんすよ! だからまみ……」

「だったら、そいつに勝てるまでお前が挑んでこいよ。俺には関係ねえだろ。違うか?」

「で、でも! 間宮さんはうちの頭だし……。このままだと、俺ら舐められちまうじゃないすか!」

と、そこで間宮の強烈な蹴りが不良生徒を襲った。もろに腹に蹴りをくらった生徒は、上手く呼吸することができず、荒い呼吸でのたうち回っている。

「そんなに敵討ちしてほしいんだったら、新庄の野郎に頼んでみたらどうだ? あのお人好しだったら、お前の糞みたいな頼みでも聞いてくれるんじゃねぇか?」

「ケホッ……そ、それは無……むり、っすよ……!だ、誰が新庄なんかに…… 」

その時、旧校舎の中庭にある男が現れた。

「……い! おい! 間宮! 何をやってるんだ!」

「……チッ。本当に来やがった」

現れたのは、新庄 敦(しんじょう あつし)。
この芦堂高校のもう1人の頭。

新庄は、不良が蔓延っていた芦堂高校を更正するため入学。始めは誰にも受け入れられなかったが、彼は地道な努力を続けた。時には、実家の道場で培った合気道を駆使して。そして3年生になった今、芦堂高校の約半分の生徒は彼を支持するようになった。

新庄を始めとする改革派は新校舎。
間宮を支持する保守派は旧校舎と、活動拠点も綺麗に分かれていた。

「新庄、俺には仲間なんていらねえんだよ。こいつが意味わかんねえこと言ってたからシメただけだ」

「間宮、お前の力はそんなことをするためにあるのか?」

「あ?」

「昔は、うちの道場と肩を並べる空手道場で、一生懸命空手に打ち込んでたじゃないか。武道の心得を知っているお前が、なぜ……」

「んなもん知るか。俺は何かに縛られるのが嫌いなんだ。お前みたいに、自分の価値観を押し付ける奴もな」

「間宮……」

「分かったら、いちいち俺に突っ掛かってくんじゃねえぞ」

間宮はそう言って、その場を去っていった。
新庄はその背中にかける言葉が見つからず、 ただ立ち尽くすしかできなかった。


「……大丈夫か?」

「っ! んだよ! てめえみたいな腑抜けに心配される筋合いはねぇわ!」

新庄は、間宮に蹴られた生徒に手を差し伸べた。しかしその手は、無下に振り払われた。
それもそのはず。間宮派と新庄派の間には、簡単には埋まらない溝があるのだ。

「お前新庄さんに向かってなんて口の利き方してんだコラッ!」
「あ!? んだとゴラッ! ぶっ殺すぞ!」
「やれるもんならやってみろや!」

「やめないか! 身内同士で争ってどうする!」

新庄の言葉で、何とかその場は収まった。間宮派の人間も、新庄の実力は認めている。下手に表立ってやり合う訳にはいかないことは、誰もが理解していた。

「……くそっ! 今に見てやがれ。間宮さんさえその気になれば、てめえらなんて一瞬で殺してやる」

「…………」

新庄は、ただ黙ってその生徒を見送った。
2つに分かれてしまった芦堂高校が、1つにまとまることなど、果たしてこの先訪れるのだろうか。
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