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第三章 紅巾族
第35話 紅の喧嘩屋⑤
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「それで、芦堂の人たちから何か要求はあった?」
「それが、八崎 海斗を引き渡せと……」
「八崎 海斗……」
白雪は、八崎を冷ややかな目で一瞥したかと思うと、すぐに視線を前に戻し、早乙女と共に芦堂の生徒の元へと歩き出した。
「初めまして。紅巾族総長の赤城 白雪です。こっちは副総長の早乙女 香織」
「……」
白雪から紹介された早乙女は、不服そうにしながらも挨拶を交わす。芦堂のロン毛野郎は、相変わらずくちゃくちゃと口を動かしながら、舐め回すような視線を白雪に向けている。
「おい、あいつが紅髪の白雪姫か?」
「ホントに女が総長やってんのかよ……」
「めっちゃ可愛くね!? 俺タイプだわ」
芦堂の取り巻きどもが、口々に何かを話していやがる。チッ。好き勝手言いやがって。あいつら、後で全員シバく。
「それで、もう一度確認したいだけど、あなた達は彼に用があるんだよね?」
「あ? だったら何だよ」
「そう……。彼は芦堂のメンバーなの?」
「ちげえよ。アイツはこないだウチに乗り込んできやがってよォ。そのケジメを取りに来たっつうわけだ。分かったらさっさと引き渡せ」
「……」
白雪は顎に手を当て、考え込んでいる様子だった。どうするべきか考えているのだろう。10秒程度考え込んでいた白雪だったが、すぐにその口を開いた。
「香織」
それだけで、白雪が言わんとすることが分かった。早乙女もそれを察したようだ。バツが悪そうに返事を渋っている。
「香織? 私が言いたいこと、分かるよね?」
「は、はい姉御。でも……」
白雪は、俺を芦堂の連中に引き渡せと言ってる。しかし早乙女は、つい今しがた俺と約束を交わしたばかり。それを反目にすれば、俺が白雪の記憶を取り戻すための手助けをしなくなると思っている。
義理堅いっつうかなんつうか、コイツもそれだけ白雪のことを何とかしたいと思ってるわけだな。しっかしどうしたもんか。俺一人でコイツらを今すぐ相手にすんのはさすがにな……。
「ハッ! お前まさか、本当にアイツを引き渡す気かぁ?! ハハハハハハ! やっぱ紅巾族は弱っちいなあ! 幹部連中も女だらけだし、所詮雑魚の集まりってか?」
ロン毛野郎が声高らかにそう言い放つと、それにつられるように取り巻きたちも笑い出す。
「あーあ。やっちまったな」
「あ? 何言ってんだてめえ」
「お前、死んだぞ」
「だからなにいっ……グエッ?!」
俺の予想通り、ロン毛野郎を白雪の一閃が襲った。弧を描くように綺麗に蹴り上げられた足が、ロン毛のこめかみを的確に捉えた。
ロン毛は案の定一発でKO。取り巻きたちも、そこでようやくことの重大さに気づいた。白雪に、仲間を侮辱するようなワードを吐くのは一番のタブー。昔から変わんねえんだな、そういうとこ。
「……やっちゃった。ごめん」
「いえいえ姉御! さすがです! おいお前ら! 残りの奴らも片付けんぞ」
「「「おー!!!!」」」
白雪の一撃で狼煙が上がってしまったようだ。まあやっちまったもんはしょうがねえな。総長として、仲間を馬鹿にされて黙ってられなかったのも分かる。
さて、こうなりゃ俺も混ぜてもらうか。それにこの喧嘩が広まれば、俺と紅巾族が深い関係だって言うのもアピールできる。そうと決まれば、腹括ってもうひと暴れといきますか!
「ま、待てやゴラあ……」
「お? あのロン毛野郎、意外と根性あんじゃねえか」
白雪の蹴りをまともに食らったはずのロン毛野郎だが、なんともう一度起き上がってきやがった。相手が芦堂ってことで、白雪も一応手加減したのか? まあどちらにせよ、俺もアイツを一発ぶん殴っときたかったから丁度いいや。
「てめえら、舐めたマネしやがって……殺してやグハアああああ!!!」
と、またもやロン毛野郎の悲痛な叫びがこだました。突然、ロン毛野郎を押しつぶすように芦堂の生徒が空から振ってきたのだ。いや、誰かに投げ飛ばされた生徒が、ロン毛野郎にぶつかったと言うべきか。
しかし人一人を投げ飛ばすなんて芸当、そうそうできるもんじゃねえはずだが、一体誰が?
「……お前ら、全員戦闘中止。今すぐこの場を去るぞ」
「あ、アンタは、間宮……!?」
芦堂の連中が驚いた様子で振り返ると、そこには芦堂の番である間宮 康平が立っていた。アイツが、ロン毛野郎めがけて人間一人をぶん投げたのか。なんつう怪力だ。
それに、こないだ見た時とは雰囲気が違う。まるで、何か覚悟を決めたような……。成瀬のやつ、よくアイツに勝てたな。
「い、今更現れてなに頭ぶってんだてめえ! お前らがやられた所為で、俺らが街で睨み利かせられなくなってんだぞ! どう責任取ってくれんだコラ!」
「……はぁ。それで、適当な奴を頭に据えて、女が多くて弱そうな紅巾族に喧嘩売りに来たってことか。やることな為すこと全部がだせえよ、お前ら」
「んだと?! おいお前ら! こんな奴全員でやっちまえ!」
こともあろうか、芦堂の連中はつい最近まで自分たちが担いでいた番長に対して喧嘩を仕掛けた。しかも1人に相手にあれだけの大勢で。いくらなんでも同情するぜ。
「お前ら全員、半殺し決定な」
間宮はそう呟くと、芦堂の連中と交戦を開始した。襲いかかってくる奴一人ひとりを確実に潰していく。どれも一発だ。あの動きからして、空手をやってやがったな。しかもかなりの高レベル。並の奴じゃ歯が立たないだろうありゃ。
「ブフォ!」
「い、いてえ……!」
「ぐ、ぐあああ!!」
間宮の一撃をもらった奴は、地面に伏し痛みに悶えている。見る見るうちに、戦える芦堂の生徒の数は減っていた。……成瀬、マジでよく勝ったなアイツに。
ものの数分で、間宮は襲いかかってきた芦堂の生徒全員をノックアウトしてしまった。敗れた生徒たちは山のように積み上げられ、その一番上に間宮が座して俺たちを見下ろしている。
「……強いね、君」
「そりゃどうも。ウチのもんが迷惑かけたな。こんなことになっちまってあれなんだけどよ、ウチはおめえら紅巾族と揉める気なんてサラサラねえんだ。今回のことは、これで手打ちにしてもらえねえか?」
「……」
白雪と間宮の間で、冷たい視線がぶつかりあった。その場にいた紅巾族の連中は、固唾を飲んで見守っている。さあ、白雪はどう答えるつもりなんだ。その答えによっちゃあ……。
「それが、八崎 海斗を引き渡せと……」
「八崎 海斗……」
白雪は、八崎を冷ややかな目で一瞥したかと思うと、すぐに視線を前に戻し、早乙女と共に芦堂の生徒の元へと歩き出した。
「初めまして。紅巾族総長の赤城 白雪です。こっちは副総長の早乙女 香織」
「……」
白雪から紹介された早乙女は、不服そうにしながらも挨拶を交わす。芦堂のロン毛野郎は、相変わらずくちゃくちゃと口を動かしながら、舐め回すような視線を白雪に向けている。
「おい、あいつが紅髪の白雪姫か?」
「ホントに女が総長やってんのかよ……」
「めっちゃ可愛くね!? 俺タイプだわ」
芦堂の取り巻きどもが、口々に何かを話していやがる。チッ。好き勝手言いやがって。あいつら、後で全員シバく。
「それで、もう一度確認したいだけど、あなた達は彼に用があるんだよね?」
「あ? だったら何だよ」
「そう……。彼は芦堂のメンバーなの?」
「ちげえよ。アイツはこないだウチに乗り込んできやがってよォ。そのケジメを取りに来たっつうわけだ。分かったらさっさと引き渡せ」
「……」
白雪は顎に手を当て、考え込んでいる様子だった。どうするべきか考えているのだろう。10秒程度考え込んでいた白雪だったが、すぐにその口を開いた。
「香織」
それだけで、白雪が言わんとすることが分かった。早乙女もそれを察したようだ。バツが悪そうに返事を渋っている。
「香織? 私が言いたいこと、分かるよね?」
「は、はい姉御。でも……」
白雪は、俺を芦堂の連中に引き渡せと言ってる。しかし早乙女は、つい今しがた俺と約束を交わしたばかり。それを反目にすれば、俺が白雪の記憶を取り戻すための手助けをしなくなると思っている。
義理堅いっつうかなんつうか、コイツもそれだけ白雪のことを何とかしたいと思ってるわけだな。しっかしどうしたもんか。俺一人でコイツらを今すぐ相手にすんのはさすがにな……。
「ハッ! お前まさか、本当にアイツを引き渡す気かぁ?! ハハハハハハ! やっぱ紅巾族は弱っちいなあ! 幹部連中も女だらけだし、所詮雑魚の集まりってか?」
ロン毛野郎が声高らかにそう言い放つと、それにつられるように取り巻きたちも笑い出す。
「あーあ。やっちまったな」
「あ? 何言ってんだてめえ」
「お前、死んだぞ」
「だからなにいっ……グエッ?!」
俺の予想通り、ロン毛野郎を白雪の一閃が襲った。弧を描くように綺麗に蹴り上げられた足が、ロン毛のこめかみを的確に捉えた。
ロン毛は案の定一発でKO。取り巻きたちも、そこでようやくことの重大さに気づいた。白雪に、仲間を侮辱するようなワードを吐くのは一番のタブー。昔から変わんねえんだな、そういうとこ。
「……やっちゃった。ごめん」
「いえいえ姉御! さすがです! おいお前ら! 残りの奴らも片付けんぞ」
「「「おー!!!!」」」
白雪の一撃で狼煙が上がってしまったようだ。まあやっちまったもんはしょうがねえな。総長として、仲間を馬鹿にされて黙ってられなかったのも分かる。
さて、こうなりゃ俺も混ぜてもらうか。それにこの喧嘩が広まれば、俺と紅巾族が深い関係だって言うのもアピールできる。そうと決まれば、腹括ってもうひと暴れといきますか!
「ま、待てやゴラあ……」
「お? あのロン毛野郎、意外と根性あんじゃねえか」
白雪の蹴りをまともに食らったはずのロン毛野郎だが、なんともう一度起き上がってきやがった。相手が芦堂ってことで、白雪も一応手加減したのか? まあどちらにせよ、俺もアイツを一発ぶん殴っときたかったから丁度いいや。
「てめえら、舐めたマネしやがって……殺してやグハアああああ!!!」
と、またもやロン毛野郎の悲痛な叫びがこだました。突然、ロン毛野郎を押しつぶすように芦堂の生徒が空から振ってきたのだ。いや、誰かに投げ飛ばされた生徒が、ロン毛野郎にぶつかったと言うべきか。
しかし人一人を投げ飛ばすなんて芸当、そうそうできるもんじゃねえはずだが、一体誰が?
「……お前ら、全員戦闘中止。今すぐこの場を去るぞ」
「あ、アンタは、間宮……!?」
芦堂の連中が驚いた様子で振り返ると、そこには芦堂の番である間宮 康平が立っていた。アイツが、ロン毛野郎めがけて人間一人をぶん投げたのか。なんつう怪力だ。
それに、こないだ見た時とは雰囲気が違う。まるで、何か覚悟を決めたような……。成瀬のやつ、よくアイツに勝てたな。
「い、今更現れてなに頭ぶってんだてめえ! お前らがやられた所為で、俺らが街で睨み利かせられなくなってんだぞ! どう責任取ってくれんだコラ!」
「……はぁ。それで、適当な奴を頭に据えて、女が多くて弱そうな紅巾族に喧嘩売りに来たってことか。やることな為すこと全部がだせえよ、お前ら」
「んだと?! おいお前ら! こんな奴全員でやっちまえ!」
こともあろうか、芦堂の連中はつい最近まで自分たちが担いでいた番長に対して喧嘩を仕掛けた。しかも1人に相手にあれだけの大勢で。いくらなんでも同情するぜ。
「お前ら全員、半殺し決定な」
間宮はそう呟くと、芦堂の連中と交戦を開始した。襲いかかってくる奴一人ひとりを確実に潰していく。どれも一発だ。あの動きからして、空手をやってやがったな。しかもかなりの高レベル。並の奴じゃ歯が立たないだろうありゃ。
「ブフォ!」
「い、いてえ……!」
「ぐ、ぐあああ!!」
間宮の一撃をもらった奴は、地面に伏し痛みに悶えている。見る見るうちに、戦える芦堂の生徒の数は減っていた。……成瀬、マジでよく勝ったなアイツに。
ものの数分で、間宮は襲いかかってきた芦堂の生徒全員をノックアウトしてしまった。敗れた生徒たちは山のように積み上げられ、その一番上に間宮が座して俺たちを見下ろしている。
「……強いね、君」
「そりゃどうも。ウチのもんが迷惑かけたな。こんなことになっちまってあれなんだけどよ、ウチはおめえら紅巾族と揉める気なんてサラサラねえんだ。今回のことは、これで手打ちにしてもらえねえか?」
「……」
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