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第二章 巨星堕つ
24 お茶会にて(2)
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「いずれせよ、まずはネアンの死守が最優先だ」
「そうですね。ネアンを取られると我々は谷の奥に閉じ込められてしまいますから」
谷の入口に近いネアンを抑えられれば文字通り谷に蓋を閉められることとなる。そうなれば物流が断たれたサザンは、たちまちのうちに干上がってしまうだろう。
もちろん備蓄は確保しているため、仮にそうなったとしても直ぐに継戦能力が破綻することはない。しかし軍としての体裁は保てたとしても、住民の生活は成り立たなくなってしまう。
「肝心のネアンはこのサザンほど防御力は高くありません。攻められれば保ってひと月、長くても季節が変わるまででしょう。そう考えるとやはり水際で止めることが肝要かと」
「やはりエンでの防衛が重要だな。オイヴァ殿、エンの守りはどうなっていますか?」
「はい、現在ビリエルがンバイ側の防御力強化に努めております。ですが、ネアン側と違い大軍への防御力はそれほど期待できないでしょう」
ザオラルの問いにそれまで黙っていたオイヴァが重い口を開く。
エンは切り立った断崖のようなカモフ側に比べれば、反対側はなだらかな山間部となっている片峠だ。木々が生い茂り見通しも悪いため、大軍を展開するスペースはないが軍勢を隠すのには都合が良く奇襲を受けやすい地形だった。
見通しを確保するため一部の木々は伐採したものの効果は限定的でそこまで効果はないだろう。現在はそれに加え、幅八メートルの空堀を掘り石積みの防御壁を建設しているが、それでもいざ開戦となれば防御力という面では心許なかった。
「いっそエンを埋めてしまいたいですな」
重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように、クラウスが軽い調子で苦笑する。
「気持ちは分かるが、ドーグラス公がそれでこのカモフを諦めてくれるとは思えんな」
街道を遮断することでカモフへの侵攻を断念するなら、やる価値はあるかも知れない。だがそれが難しいことは発言したクラウスも分かっていることだ。カモフの塩鉱山には苦労してでも手に入れるだけの旨味があったのだ。
それに行軍には向かないだけで他のルートがない訳ではない。エンを閉じたことで新たなルートを開拓されれば、対応が後手に回ることになる。それならば防御を固めてもエンを開けておいた方が、どこから来るか分からない状態よりはまだ対処はしやすいだろう。もちろん正面を攻めると見せかけて違うルートから侵入する可能性も排除できないことは確かだが、まずはエンでしっかりと敵の侵攻を食い止める事が肝心なのだ。
「防御といえば五式銃の量産はどうなっている?」
話を変えるようにザオラルがトゥーレに向き直る。
五式銃とはエン攻めで実験し、タカマ高原で急遽実戦投入された五号弾専用の銃のことだ。試射時には一発撃っただけで銃身に歪みが生じて使い物にならなくなっていたが、それを改良した物がタカマでの襲撃時に効果を挙げた。実績を残したことから先日正式に採用が決定し、五号弾から名を取って五式銃の名が与えられたのだ。
実際のところ五号弾とは、エン攻めの際に試射したふたつの弾丸のことを差す。タカマ高原で使用された弾丸はそれから改良を加えられたもので、ルーベルトに言わせれば五号弾とは別物であり、正確には十一号弾三式改というらしい。
ルーベルトの試作する弾丸は作成した順番に通し番号で名付けられているため、五号弾の改良型であっても八号弾と呼ばれたり十一号弾と呼ばれるため非常にややこしかった。しかもタカマで使用した弾丸は十一号弾の派生型の改良というさらにややこしくなっていた。そのため正式採用に当たって、便宜上大口径の散弾は全て五号弾と呼ばれることとなったのだ。
「差し当たり同仕様の銃は三丁完成してます。冬までには更に十丁用意できそうです。ですが扱えるものが今のところルーベルトしかいません」
ルーベルトの手によって改良が続けられていた銃を原型に量産に取り掛かった。構造については、彼の手による詳細な図面があったためにすぐに取り掛かることができた。しかし改良したとはいえ発射時の衝撃は依然として大きく、トゥーレですら射撃時の衝撃は恐怖を覚えるほどで、それを押さえ込んで何とか射撃できる程度なのだ。
「数は何となっても使えなければどうしようもないぞ」
エン防衛の切り札となりそうなのが五式銃だ。
数十丁の五式銃が間断なく咆哮すれば、いくら射程が短いとはいえ相手からすれば脅威以外の何物でもない。だが、現在のところ問題なく射撃できるのは、ルーベルト唯一人しかいないため、実質彼専用の兵器といってよかった。
目下の課題は、五式銃を扱える者を増やすことが急務なのだ。
「こればかりは一朝一夕ではできません。ですが、春までには十名は揃えるつもりです」
「うむ。焦っても仕方ないな。これはお前に任せる」
五式銃の量産と運用についてはトゥーレに一任される。
「エンでの防衛は基本だが、場合によってはネアンで迎撃する可能性もある。しかし・・・・」
「地形が悪すぎますね」
エンを抜かれればネアンまでは障害物もなく真っ直ぐだ。しかも勢いに乗って下ってくる敵を迎え撃たなければならない。
「オイヴァ殿には悪いが、最悪ネアンを放棄する可能性もある。住民の避難準備を進めておいて欲しい」
「わかりました」
「すまぬ」
苦渋の表情でザオラルがオイヴァに頭を下げた。
ネアンを防衛できるに越したことはないが、平地に建つネアンを防衛する事は至難の業なのだ。
「ですが、ネアンが敵に渡れば水陸両面からサザンを攻めることが可能になります。それだけは何としても避けたい所です」
「ドーグラス公の軍勢は基本的に陸軍が主体だ。例えネアンを奪われてもキンガ湖は渡しませんよ」
トゥーレが自信ありげに胸を張る。その言葉を肯定するようにオリヴェルも力強く頷いた。
サトルトでは急ピッチで造船所と港の整備が進んでいる。これは元漁師だが従軍経験が豊富なピエタリが一族を引き連れて加わったのが大きい。操船に長けたピエタリはこの辺りでは飛びぬけた操船の経験値があった。
あと二年もすれば、内陸部としては過剰なほどの水軍が姿を現すことだろう。ネアンが奪われたとしても、水上での戦闘ではそうそう後れを取ることはない筈だ。
「トゥーレの言う通り、水上を封鎖できたとしても陸路を行く軍勢を止めることはできん。陸路のみでサザンを落とせるとは思えぬが、囲まれれば我らは終わりだ」
「そうさせないためにはどこかで迎撃する必要がありますが、やはりカントで迎え撃つのが最善かと存じます」
「私もカントで迎え撃つしかないと愚考いたします」
クラウスとヘルベルトが揃ってカントでの迎撃を進言する。
カントからアーリンゲ川を挟んだ先にはキンガ湖とタステ山に挟まれたタステ狭道がある。狭道の名の通り道幅は狭く、精々二列で行軍できるほどの広さしかない。狭道から続く林を抜けた先で迎撃をおこなえば、寡兵の不利を感じさせず戦うことができる。
ウンダルからの援軍が期待できない以上、籠城という選択肢は彼らには既になく、野戦での決戦を挑むしか残されていないのだ。
「そうだな。そこしかないだろうな。カントならば迎え撃つことは可能だろう。その後方で攪乱することもできる」
ザオラルが二人の意見に頷く。
もしネアンを突破されれば、カモフ側はカントの地で雌雄を決する最終決戦で、文字通り生死を賭けるしか方法がなかったのだ。
「なら、その攪乱工作は俺に任せてもらいたい」
「はははっ。相手の嫌がることをさせればトゥーレ様の右に出るものはございませんからな。いいんじゃないですか?」
「そうだな。ドーグラス公のイライラした顔が目に浮かぶようだ」
クラウスの意見にザオラルも苦笑しながら頷いた。
こうして攪乱工作についてはトゥーレに一任されることになったのだった。
「そうですね。ネアンを取られると我々は谷の奥に閉じ込められてしまいますから」
谷の入口に近いネアンを抑えられれば文字通り谷に蓋を閉められることとなる。そうなれば物流が断たれたサザンは、たちまちのうちに干上がってしまうだろう。
もちろん備蓄は確保しているため、仮にそうなったとしても直ぐに継戦能力が破綻することはない。しかし軍としての体裁は保てたとしても、住民の生活は成り立たなくなってしまう。
「肝心のネアンはこのサザンほど防御力は高くありません。攻められれば保ってひと月、長くても季節が変わるまででしょう。そう考えるとやはり水際で止めることが肝要かと」
「やはりエンでの防衛が重要だな。オイヴァ殿、エンの守りはどうなっていますか?」
「はい、現在ビリエルがンバイ側の防御力強化に努めております。ですが、ネアン側と違い大軍への防御力はそれほど期待できないでしょう」
ザオラルの問いにそれまで黙っていたオイヴァが重い口を開く。
エンは切り立った断崖のようなカモフ側に比べれば、反対側はなだらかな山間部となっている片峠だ。木々が生い茂り見通しも悪いため、大軍を展開するスペースはないが軍勢を隠すのには都合が良く奇襲を受けやすい地形だった。
見通しを確保するため一部の木々は伐採したものの効果は限定的でそこまで効果はないだろう。現在はそれに加え、幅八メートルの空堀を掘り石積みの防御壁を建設しているが、それでもいざ開戦となれば防御力という面では心許なかった。
「いっそエンを埋めてしまいたいですな」
重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように、クラウスが軽い調子で苦笑する。
「気持ちは分かるが、ドーグラス公がそれでこのカモフを諦めてくれるとは思えんな」
街道を遮断することでカモフへの侵攻を断念するなら、やる価値はあるかも知れない。だがそれが難しいことは発言したクラウスも分かっていることだ。カモフの塩鉱山には苦労してでも手に入れるだけの旨味があったのだ。
それに行軍には向かないだけで他のルートがない訳ではない。エンを閉じたことで新たなルートを開拓されれば、対応が後手に回ることになる。それならば防御を固めてもエンを開けておいた方が、どこから来るか分からない状態よりはまだ対処はしやすいだろう。もちろん正面を攻めると見せかけて違うルートから侵入する可能性も排除できないことは確かだが、まずはエンでしっかりと敵の侵攻を食い止める事が肝心なのだ。
「防御といえば五式銃の量産はどうなっている?」
話を変えるようにザオラルがトゥーレに向き直る。
五式銃とはエン攻めで実験し、タカマ高原で急遽実戦投入された五号弾専用の銃のことだ。試射時には一発撃っただけで銃身に歪みが生じて使い物にならなくなっていたが、それを改良した物がタカマでの襲撃時に効果を挙げた。実績を残したことから先日正式に採用が決定し、五号弾から名を取って五式銃の名が与えられたのだ。
実際のところ五号弾とは、エン攻めの際に試射したふたつの弾丸のことを差す。タカマ高原で使用された弾丸はそれから改良を加えられたもので、ルーベルトに言わせれば五号弾とは別物であり、正確には十一号弾三式改というらしい。
ルーベルトの試作する弾丸は作成した順番に通し番号で名付けられているため、五号弾の改良型であっても八号弾と呼ばれたり十一号弾と呼ばれるため非常にややこしかった。しかもタカマで使用した弾丸は十一号弾の派生型の改良というさらにややこしくなっていた。そのため正式採用に当たって、便宜上大口径の散弾は全て五号弾と呼ばれることとなったのだ。
「差し当たり同仕様の銃は三丁完成してます。冬までには更に十丁用意できそうです。ですが扱えるものが今のところルーベルトしかいません」
ルーベルトの手によって改良が続けられていた銃を原型に量産に取り掛かった。構造については、彼の手による詳細な図面があったためにすぐに取り掛かることができた。しかし改良したとはいえ発射時の衝撃は依然として大きく、トゥーレですら射撃時の衝撃は恐怖を覚えるほどで、それを押さえ込んで何とか射撃できる程度なのだ。
「数は何となっても使えなければどうしようもないぞ」
エン防衛の切り札となりそうなのが五式銃だ。
数十丁の五式銃が間断なく咆哮すれば、いくら射程が短いとはいえ相手からすれば脅威以外の何物でもない。だが、現在のところ問題なく射撃できるのは、ルーベルト唯一人しかいないため、実質彼専用の兵器といってよかった。
目下の課題は、五式銃を扱える者を増やすことが急務なのだ。
「こればかりは一朝一夕ではできません。ですが、春までには十名は揃えるつもりです」
「うむ。焦っても仕方ないな。これはお前に任せる」
五式銃の量産と運用についてはトゥーレに一任される。
「エンでの防衛は基本だが、場合によってはネアンで迎撃する可能性もある。しかし・・・・」
「地形が悪すぎますね」
エンを抜かれればネアンまでは障害物もなく真っ直ぐだ。しかも勢いに乗って下ってくる敵を迎え撃たなければならない。
「オイヴァ殿には悪いが、最悪ネアンを放棄する可能性もある。住民の避難準備を進めておいて欲しい」
「わかりました」
「すまぬ」
苦渋の表情でザオラルがオイヴァに頭を下げた。
ネアンを防衛できるに越したことはないが、平地に建つネアンを防衛する事は至難の業なのだ。
「ですが、ネアンが敵に渡れば水陸両面からサザンを攻めることが可能になります。それだけは何としても避けたい所です」
「ドーグラス公の軍勢は基本的に陸軍が主体だ。例えネアンを奪われてもキンガ湖は渡しませんよ」
トゥーレが自信ありげに胸を張る。その言葉を肯定するようにオリヴェルも力強く頷いた。
サトルトでは急ピッチで造船所と港の整備が進んでいる。これは元漁師だが従軍経験が豊富なピエタリが一族を引き連れて加わったのが大きい。操船に長けたピエタリはこの辺りでは飛びぬけた操船の経験値があった。
あと二年もすれば、内陸部としては過剰なほどの水軍が姿を現すことだろう。ネアンが奪われたとしても、水上での戦闘ではそうそう後れを取ることはない筈だ。
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「そうさせないためにはどこかで迎撃する必要がありますが、やはりカントで迎え撃つのが最善かと存じます」
「私もカントで迎え撃つしかないと愚考いたします」
クラウスとヘルベルトが揃ってカントでの迎撃を進言する。
カントからアーリンゲ川を挟んだ先にはキンガ湖とタステ山に挟まれたタステ狭道がある。狭道の名の通り道幅は狭く、精々二列で行軍できるほどの広さしかない。狭道から続く林を抜けた先で迎撃をおこなえば、寡兵の不利を感じさせず戦うことができる。
ウンダルからの援軍が期待できない以上、籠城という選択肢は彼らには既になく、野戦での決戦を挑むしか残されていないのだ。
「そうだな。そこしかないだろうな。カントならば迎え撃つことは可能だろう。その後方で攪乱することもできる」
ザオラルが二人の意見に頷く。
もしネアンを突破されれば、カモフ側はカントの地で雌雄を決する最終決戦で、文字通り生死を賭けるしか方法がなかったのだ。
「なら、その攪乱工作は俺に任せてもらいたい」
「はははっ。相手の嫌がることをさせればトゥーレ様の右に出るものはございませんからな。いいんじゃないですか?」
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