大将首は自分で守れ

俣彦

文字の大きさ
19 / 33
担がれた神輿

表裏者

しおりを挟む
諏訪湖の南に位置する高遠は秋葉街道の要衝。この高遠を本拠に勢威を誇るのが高遠頼継。



高遠頼継「そなたか?武田晴信殿の使いと申すのは?」

山本勘助「はい。本日はお目通りいただき恐悦至極に存じ奉りまする。」



 山本勘助。駿河の国で生を受けた勘助は、三河の国牛窪城主牧野氏の家老大林勘左衛門の養子となるも、勘左衛門に実子が生まれたこともあり廃嫡。全国を流浪する日々を送ったのち、故郷駿河に戻り今川義元への出仕を試みるのでありました。しかし彼の容姿が偉業であったこと。加えて小者1人も連れてこなかったこともあり、『貧乏牢人』と嘲られ、仕官は叶わず悶々とした日々を過ごしていたところに声を掛けたのが武田家の重臣板垣信方。彼の推挙により武田晴信との対面が実現。そこで勘助の才覚。兵法と諸国の情勢分析の明るさに惚れた晴信は登用。武田家臣に侮られぬよう馬と槍。そして小者を付け甲斐へ入国させたのでありました。その勘助に対し板垣信方が託したものは……。



山本勘助「我が主君晴信は、諏訪の惣領には高遠様こそが相応しいと申しております。」



 高遠氏は諏訪氏の一族。高遠氏は代々。惣領を巡り諏訪頼重の祖父頼満と対立。高遠頼継も頼満に抵抗するも叶わず、今はその傘下に収まっているのでありました。



高遠頼継「私は今。頼重の傘下にあるし、武田殿も頼重と縁戚関係にあるのではないのか?」

山本勘助「左様に御座いまする。ただ諏訪様には少々気になるところがありまして……。」



 と、これまで武田は諏訪から度々攻め込まれていたため不本意ながら同盟を結んでいたこと。当主である諏訪頼満が死に、頼重が跡を継いだあとの戦い。海野平において武田が得た領域を差し出す形で山内上杉と勝手に講和を結んでしまったことを挙げ、いつ盟約を反故にされるかわからない状況であること。その節操なき対応を見た諏訪の一族である下諏訪の金刺氏が不安を訴え出ていることを告げ、晴信と金刺とのやりとりの中から出て来たのが新たな当主となるべく人物を探すと言うもの。その候補となったのが



高遠頼継「この私であった。ということなのか……。」

山本勘助「左様に御座いまする。」

高遠頼継「仮にいくさになったとしよう。仮に。の話であるが。」

山本勘助「秘密は守ります。」

高遠頼継「我らが勝利を収めた場合。諏訪は誰のものになる?」



 勘助が板垣からの伝言を披露。



山本勘助「我らの目的はあくまで諏訪の安定化であり、先のいくさで得た戦利を取り戻すことであります。」



 つまり佐久郡のこと。



高遠頼継「頼重の領域はどうする?」

山本勘助「すべて高遠様のもの。」

高遠頼継「要らぬ。と申すのか?」

山本勘助「晴信が求めているのは甲信国境の安泰でありますので。」

高遠頼継「頼重はどうなる?」

山本勘助「甲斐にて管理致します。」

高遠頼継「わしと武田が対立した時の旗印に使うつもりなのか?」

山本勘助「いえ。そのようなことをしましたら頼重のこと。我らが利用されるだけになるのは必定。二度と復活することが出来ぬよう甲斐に封じ込めるのであります。高遠様に負担を掛けることはけっしてありませぬ。」

高遠頼継「すべての怨念を武田殿が引き受けると申すのか?」

山本勘助「左様に御座いまする。」

高遠頼継「……話がうますぎるように思うのではあるが、わしも頼重には思うところがある。武田殿に伝えよ。この申し出を受ける。と……。」

山本勘助「有難き幸せ。」



 高遠頼継の了承を得た山本勘助は甲斐に帰国。



板垣信方「……そうか。頼継は乗って来たか。」

山本勘助「はい。ただ頼継は、我らの申し出を信用はしていない様子。」

板垣信方「共倒れを期待しているとでも思っているのか?」

山本勘助「『諏訪の全てを高遠に。』は警戒するでしょう。」

板垣信方「甲信国境を安泰にすることが目的であることは事実である。」

山本勘助「そうですね……。」

板垣信方「ただその方法が高遠が思っているのと異なるだけの話。」

山本勘助「加えて、諏訪には殿の妹君がおられます。」

板垣信方「共倒れを待っているような時間は無い。」

山本勘助「……佐久に兵を進めるフリをして……。高遠が諏訪を手に入れる前に……。」

板垣信方「準備に取り掛かるぞ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

処理中です...