大将首は自分で守れ

俣彦

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担がれた神輿

河越城の戦い

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『駿河の権益を放棄する』屈辱的な条件を受け入れることにより甲斐駿河方面からの脅威を当面の間収めることに成功した北条氏康。とは言え……。



北条氏康「こっちはこっちで……。」



 山内上杉憲政を中心とした関東の連合軍に包囲された河越城は武蔵野台地の北の端に位置し、北は河川。東と南は湿地に囲まれた天然の要害。西はそれ程となっているのは築城したのが扇谷上杉で、想定していた相手が河越の東に位置する古河公方であったから。ここを拠点に室町時代。上杉と古河公方の間で幾多の戦いが繰り広げられてきたのでありましたが、今治めているのは北条氏康。その氏康から城を奪還すべく長年対立関係にあった上杉と古河公方が手を結び、これに北条を除く関東のほぼ全ての勢力が乗って来た。そのため……。



北条氏康「河越に連絡する術がない……。」



 武蔵は元々扇谷上杉の領土。そこを北条は切り開いてきたのでありましたが、統治の仕方は直接では無く、その土地土地の有力者。国人の協力を得てのもの。今回のいくさにおいて彼らが選択したのは北条からの離脱。扇谷上杉への帰参でありました。そんな中……。



太田景資「(太田)資顕がお味方すると申しております。」



 太田景資は江戸太田家の庶長子。江戸太田家は元々上杉の家臣であったが今は北条家臣。その中において景資は正室の子で無かったため、家督は異母弟に譲り補佐する立場にあった人物。その景資が氏康に勧めた人物、太田資顕は岩槻太田家。一度北条方となるも扇谷上杉に帰参した家。



北条氏康「信用できるのか?」

太田景資「境目に位置します故。表立って上杉に反旗を翻すことは出来ませぬが、境目であることを理由に北条の進路を塞ぐと言う名目で上杉からの出陣要請を無視することは出来まする。今は河越へのルートの確保が必要。」



 この時1546年3月。足利・両上杉が河越を囲んで早半年にして漸く連絡路を確保することが出来た北条氏康。=孤立無援の中、半年もの長い間守り続けた河越城の北条綱成。とは言え。



北条氏康「兵力の差はどうにもならぬ。」



 北条1万に対し関東の連合軍は8万。ただ3月まで持ちこたえたことにより。



北条氏康「自分の田畑が気になる時期になって来たな……。」



 河越周辺に密偵を放つ氏康。その結果。



伝令「申し上げます。敵方の指揮軒並み下落。厭戦気分が蔓延しておりまする。」



 8万とは言え。本気で北条と相対しているのは両上杉と足利などごく一部。そのほかは勝ち馬に乗るため。



北条氏康「ならば……。」



 と氏康が採った戦略。それは……。徹底して自分の弱みを晒し続けること。まず手始めに氏康の妹婿である関東公方足利晴氏にわび状と城の明け渡しを。両上杉に対してもわび状と綱成の助命を嘆願。これまでの北条の動きから計略と見て取った両上杉はこれを拒絶し、北条と合戦。これに連戦連敗を繰り返したのが北条氏康。「北条に戦意無し」を植え付けに植え付けたところで……。



北条氏康「綱成に頼むぞ。」



 と綱成の弟・綱房を河越城へ密かに派遣。迎えた4月20日深夜。北条氏康は自ら率いる部隊を4つに分け。その内の1つの部隊を油断し、武装を解いていた両上杉の陣へと突入。不意の襲撃に大混乱に陥る上杉を尻目に2つ目の部隊が突入。更に3つ目が。その次には再び1つ目が。と波状攻撃を仕掛ける氏康。(4つ目は物見兼もしもの時のため待機。)この混乱の中、山内上杉憲政は死地を脱するも扇谷上杉家は滅亡。この動きに呼応したのが北条綱成率いる籠城軍。古河公方足利晴氏の陣に突入。既に晴氏に戦意なく山内上杉共々各人の本拠へ退却するのでありました。このいくさの結果。武蔵は北条のものとなるのでありました。
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