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あなたが…

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トウゴの訃報から一年が過ぎる頃。第二王子が戦争による傷がもとで床に着き命の灯火の消えかけていた。
 第一王子の勝利が確実視される中、ある人物の台頭によって戦果は大きく変わっていく。
そして、第二王子の死とほぼ同時期。第一王子が討ち取られ、彼の死をもって3年半に及ぶ軍事に重きをおいた国の戦乱の火は終結する。




 軍事に重きをおいた国は、戦時中、地方から指揮をとり戦争を終結に導いた男による統治が始まった。



セレス王国は相変わらず平和で、軍事に重きをおいた国がある程度の落ち着きを取り戻した頃から、第三王子の訃報以降、婚約者不在となったオリビアに、周辺諸国から、新たな縁談が多数集まり始めた。

 国王や宰相たちが思案する中、オリビアは、公務以外、成人までの残された時間を離宮で静かに過ごしていた。

 外界から隔離され、安全を考慮をされて造られている離宮は、数少ない使用人と護衛とで、過ごすことができる環境だった。

 兄妹とともに育ち、かつてトウゴと追い駆けっこをした思い出の住処である。



トウゴ亡き後、彼の国で戦火が続いても海を隔てたセレス王国には、影響もなくオリビアの日常は、平穏で静かな生活だった。

トウゴの訃報を知った後、あれだけ活発であった幼き王女の姿はなくなった。
ただ、静かに佇むオリビアの心は、潰されかのように感情の起伏がなくなっていた。

そこに、在るのは比類なき美貌に笑顔なき静かな王女。

と呼ばれるようになったオリビアがいた。



 月を見上げるオリビアの想いは、かつて確かにあったぬくもりへと 遠くに馳せる。

 時期早々に嫁ぎ先が決められるであろう。


 何も変わらない日常の中で14才の少女は、知る。


 死んでしまったなんて
貴方がいないなんて。
 信じることができなくて…。
どうすることもできないことだと解っていても。
それでも諦めきれず…。
 時間だけが過ぎても…。
もっと、あいたいと。
もっとそばにいたいと…。
もっとそばにいて欲しいと…。
 言えていたら。
 伝えることができたていたなら。
 伝えることが出来るなら…。
 話さなければならない事が…。
 話したい事が。

いっぱい、いっぱい、あって…。
 悔ばかり募る。その想いの中で、願うことは…。


どうか。

あなたのそばに…。

ただあなたのそばに…。

 来世は、共に…。

どうか逝く時は共にありたいと。






 子供であった。
 貴方に甘えていた。
 伝える事が叶わなかった想いがあふれ出る…。




 私は、貴方が好きでした。





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