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婚約破棄と思いきや…複雑かつ単なる思い込みによる片思いでした。

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天気も良くポカポカとした昼下がり…いい気持ちで寝ていたジーナは人の声で起こされた…。

執務までちょっとした時間ができたので久しぶりに中庭の端に立っている一番大きな木の上で。
枝ぶりがどっしりしたその木には昼寝するのにちょうどいい感じに適した窪みがあった。

人があまり寄り付かない。
昼寝するにはもってこいのジーナお気に入りの場所だった。

そんな至福の時間を邪魔されて気分は下降する。

しかも二人は何やら揉めている様で…小さかったやり取りの声もだんだん大きくなっていく。


 「なぜ…どうしてですか…」


(…?)

哀しそうに震える可憐な声に引き付けられるように聞き耳をたてた。


 「…落ち着いて聞いてくれないか?」

そんな令嬢に応えるのは心地よいバリトンボイスの青年。

 (ん?この声…)

どこか…聞き覚えのある声に少し身を乗り出して覗き込み見知った相手と知る。

慌てて首を引っ込め即座に身を潜めてやり過ごす事を決めたジーナ。

放置を決め込んでひたすら息をひそめ待つ。

しかし、下の状況は徐々にまずい状況になっていく。

 「婚約を…婚約を破棄されるというのですか?」

 「いや。婚約破棄も何も…。あのね、さっきも言ったように君との婚約はないと言っているんだ」

婚約破棄…?
彼は婚約してたのか…?
ほお…それはなんとも。
奇特な相手だなぁ。

思わずジーナは首を傾げながら感心する。


…にしても…そんなややこしい話をここで今しなくても…


と…眉間に皺を寄せて思う。


そして下では更にややこしく話が進んでいった。

 「婚約がないとは…どうしてそのような酷い事をおっしゃるんですか…」

今にも泣きそうな声で

「約束を反故にするおつもりですか?」

 「約束?僕は君と何も約束を交わした覚えはないよ」

素っ気ない言葉が返る。

 「そんなぁ…両家の関係も良く幼き時より親しくお付き合いをしてきました。何れは婚姻を。正式な婚約は程よい頃に取り交わそうと…」

 「いやいや。お付き合いも何も…今に限ったことじゃなくて。だって君の言動はおかしい。いや。君だけじゃなく君のご両親もいい加減にわかってくれてもいいんじゃないかと思うんだ。今までもこの話は断ってきているだろう?数え切れないほど何度もね」」

青年は淡々と事実を突き付けて令嬢の言葉を否定していく。


「どうして…そんな嘘を」

 信じられないと体で青年に詰るシルビア嬢の声は震えている。

 「噓?どうして?」



平行線を辿る果てしなく食い違う話にいい加減痺れを切らしたのか…幾分強い口調で。

「貴族として普通にお茶会や夜会で顔を合わして挨拶する程度。個人的はもちろん家としても親しくなかった。それ以前に交流は当に途絶え最近では余りの非常識に人を立てて抗議をさせて頂いている。その状況でどうやって付き合って婚約という話になるんだ?」

 

 

 


 
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