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第1章 ~転生しました。~

アリスの魔法講座。

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 「どんな魔法を教えてくれるの!?」

 おれの食いぎみな様子にアリスは若干引きながら、

 「まぁ落ち着くがよい。新たな魔法を教えるという訳ではない。ただ今のお主に少しだけ助言をしてやろうというだけじゃ。まず確認するがお主はこの世界に来てから魔法を習ったんでないか?それもアシナにだけ。」

 その言葉にアシナが少しだけぴくっとした。

 「うん。おれはこの世界に来てアシナに初めて魔法を教わったんだ。そもそもおれのいた世界では魔法は物語の中のもので現実にはなかったものなんだ。」
 「ふむふむ。それでのう。」

 アリスは謎が解けたような顔をした。

 「ならば魔法とはどのようなものと習ったのじゃ?」
 「…魔法とは、自分の魔力を使って想像を形に、現実にするものだって聞いたよ。」
 「そうじゃな。それは間違っておらぬ。じゃがその時お主とアシナを一緒の立場で考えたのではないか。」
 
 一緒の立場?
 実力の話かな。

 「それは魔法の実力を考えた場合ってこと?」
 「いや違う。存在そのものの事じゃ。魔法とは世界に想像した事象を、魔力を用いて世界に干渉し現実に起こすものじゃ。その時に世界に干渉しやすいのはアシナとジロー、どちらじゃと思う?」

 干渉しやすい方…。
 
 「アシナ…かな。」
 「それはどうしてじゃ?」
 「えっと、アシナの方が魔法を理解しているからかな。」
 「それは今回の問いとは少し方向性が異なるの。」
 「…ちょっとわかんないな。」
 
 アリスはアシナの方をちらっと見てから

 「答えは簡単じゃ。わしらの方がジローよりも、人間よりも世界のことわりに近い存在じゃからじゃ。」
 「世界に近い?」
 「そうじゃな。お主達風に言うと何と言うかのう。自然に近いとでも言うのかのう。」
 
 それはなんとなく理解できたかも。
 山とかで生活してる人の方が自然と近い感じはするもんね。

 「白と黒よりも、白と白の色の方が混ざりやすいように世界ともより近い方が干渉しやすいのは道理じゃ。わしらのみならずエルフやドワーフ、魔物なんぞも人間よりは世界により近いものじゃな。」
 「エルフとかはなんかわかるけど魔物もそうなの?」

 魔物ってなんとなく逆な感じがするけど。
 
 「魔物も人間などよりは理に近い存在だの。ちと知性が弱いがの。けども、魔物などはわしらのように様々な魔法は使えぬが固有魔法を使えるからの。強い魔物になればなるほど色んな固有魔法を持っておるの。そもそも魔法なんてものは何もないところから何かを生み出すもんじゃ。それは無から有を作り出すようなもの。それこそ神の所業に近い、いわば奇跡みたいなもんじゃ。」
 「それじゃあおれはアシナのようには魔法は使えないの?」
 
 アシナと同じところまで行けるとはおもっていなかった。
 でも頑張れば少しは近付けると思っていたのに…

 「話は最後まで聞くがよい。魔物はのう。固有魔法を使えはするが逆に言えば固有魔法しか使えぬのだ。エルフは精霊魔法を使いはするがそれ以外の魔法を使おうとはせぬ。だが人間はじゃ。」
 
 アリスは人差し指をピンと立てた。

 「人間は元々魔法を使えなかったのじゃ。」

 その言葉におれは俯きかけた顔を上げた。

 「人間は世界のことわりから遠いがために魔法を使えなかった。他の生物ならばそこで終わっていたろうな。だが人間はあきらめなかった。自ら魔法を使おうと努力したのじゃ。神のごとき所業を我が物にしようというのじゃから傲慢といえば傲慢じゃな。じゃがわしは人間のそういう部分を悪いところではあるがいいところでもあると思う。さて突然じゃがここで問題じゃ。魔物と人間の大きな違いは何じゃと思う?」

 人間と魔物の違いか。
 魔物をまだこの世界に来て見たことがないけどイメージでいいんだろうか。

 「魔物は本能だけで生きてる感じかなぁ。人間は理性も持ってるところ。」
 「ほぼ正解かの。人間は理性を持つがゆえに言葉が使えたのじゃ。じゃから言葉を使って世界に干渉しようとしたのじゃな。」

 なるほど言葉か。
 確かに魔法って詠唱とか魔方陣使うイメージがあったんだよな。

 「言葉とは簡単じゃがその反面とても強い力を持っておる。人間はその力を利用してエルフなどの真似をし最終的には独自の魔法を編み出したんじゃな。」

 言葉。言葉かぁ。
 日本にも言霊って言葉があったくらいだからな。
 人に死ねとか言われると暗くなったり、逆に頑張れって言われるとすごい力が湧いてきたりするもんね。

 「そしてこの部分がお主への助言になるわけじゃな。」

 ん?

 「ごめん。ちょっと意味がわかんないんだけど。」
 「だからじゃな。今お主はアシナから学んだ魔法を練習しておるじゃろう?じゃがさっきも言った通りアシナとお主では世界との関わり合いが違うのじゃ。力というものは強い力に引かれる性質があるからの。いずれはお主もアシナと同じことができるようになるやもしれぬが、途方もない時間も掛かってしまうかもしれん。」

 確かにここまで結構苦労したもんな。

 「しかしお主には理性という味方がおる。例えばじゃがお主が炎を想像するとしよう。その時にただ漠然と想像するのと『燃えよ』と口に出しながら想像するのとだはどちらがやりやすい。」

 それはもちろん後者だ。

 「口に出す方かな。おれは口に出した方が想像しやすいかも。」

 おれがそう口にするとアリスはニコッと笑いながら、

 「それはお主にとっては魔法も同じやもしれぬぞ?」 

 おれはその言葉にはっとした。

 「お主がアシナと全く同じがいいと言うならこれ以上は何も言わぬ。じゃが先ほども言った通り言葉には強き力がある。お主が強き思いを口にするならば、それは世界に干渉するときの助けになってくれるかもしれぬの?」

 そうしてアリスはまたニコッと笑うと、

 「あとはどうするかはお主次第じゃ。」

 

 
 
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