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第3章 ~ジロー、学校へ行く?~

薬草学

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 ケビンとの勝負、少しムキになってしまって魔法を使いすぎてしまった。
 ヤバイかなと思ったけど意外なことにあっさりと受け入れられてしまった。
 どうやら、おれがそんなことをする前にアリスが色んなところでもっと激しいそれを繰り返していたらしい。

 もちろん生徒相手ではないよ?

 アリスに結婚を強要してくる貴族なんか相手に決闘で勝ったら嫁にいってやるみたいな感じらしい。それは貴族と直接戦うこともあれば貴族が「代理決闘だ!」とか言って傭兵なんかを雇ってきたこともあるらしいからそれはもう激しいものもあったらしい。

 これまで全勝らしいけど。
 
 そういうこともあってか、おれがあれだけやっても、さすがはエクシル先生の連れてきた助手、さすがは化け物の弟子、みたいな感じですんなり受け入れられてしまった。
 見ていたのが生徒達だけだったのも多分あるけどね。

 当分大人しくしようと決めて、今日は、フォルマスが担当している薬草学の授業を聴講させてもらっている。

 フォルマスの荷物を運んだ日の後日、アリスから彼も薬草学を担当している先生だと聞いてダメ元で頼んでみたのだ。
 すると快く了承してくれ、さっそく明日も授業があるからとこうして参加させてもらっているのだ。

 他の授業も参加させてもらったけど、フォルマスの授業はそれはもう生徒が多い。
 どうやらこうしてエルフの話が直接聞ける機会というのはあまりないらしい。しかも、エルフ独特の薬草学となると特別らしい。

 「前回の授業の内容を覚えている者はいるか?」

 すると生徒が一斉に手を上げる。
 もちろん、おれは今回からなので手を上げていない。

 「ではそこの前から2番目の。」

 指名された女生徒は椅子から立ち上がると、

 「はい。前回は同じ植物でも採取した時期、時間、また天候などによってもその効能が変わるといったお話でした。」
 「よろしい。座ってくれ。」

 女生徒が椅子に座るのを確認してフォルマスは続けた。

 「彼女が言ってくれたように植物は採取する時によって効能が変わる。それは植物によって好きな季節や時間帯があるからだ。」

 好きな季節かー、旬の季節みたいなものなのかな。

 「君たちで言うと寒いときが好きだったり、はたまた朝が一番気分がいいなど個人によって変わるだろう。そのようなことだと考えてくれるといい。」
 「それは植物によって変わるのでしょうか?」
 「もちろんだ。この教室に同じ容姿、性格の者はいるか?同じ人族なのに皆それぞれ違い個性があるだろう。他の種族も同様のように、植物にも同じことが言えるのだ。」
 
 みんな聞き入るように聞いてる。エルフならではの考えなんだろうな。

 「例えばこの薬草、人からすれば全て同じに見えるだろう。だがこの草一つ一つに個性があり、そして性格がある。」
 「性格……ですか?」
 「そうだ。だからこそ我々エルフはそれぞれの一番良いときに採取させてもらっているのだ。人から見ればほんの少しの違いかもしれない、だがその少しを掛け合わせることで大きな違いになる。そのような積み重ねがエルフの薬は優れているという所以だ。」

 そこで一人の男子生徒が手を上げた。

 「質問か?」

 男子生徒は立ち上がると、

 「はい、その……先生は薬草、植物一つ一つに違いがあると言われました。けど、正直僕にはそんな違いはわかりません。どうしたらわかるようになれるのですか?」
 「ふむ。人間らしい発想だな。しかし、今は私もその世界に身を置く者、その質問にも答えねばなるまい。」

 フォルマスは、持っていた植物を机に置くと生徒達に向き直る。

 「人は何かあれば教わろうとする。それは生が短い人族ならばしょうがないことなのかもしれん。短い命の間に多くのことを学ぼうとする努力というやつなのだろう。
 しかし、我々エルフは教わるということはほとんどない。教わるのではなく学ぶのだ。」

 教わるのではなく学ぶ?

 「エルフ一人一人皆同じ訳ではない。君達の中にはエルフは誰しもが弓が得意なのではと思っている者はいないか?
 もちろん種族的にいってそういう者が多いのは確かだ。しかし、そうでない者もいる。それは人で言うと個性というものだ。そしてそれは誰かに教わったものではなく、長い年月を経て自ら積み上げたものだ。弓なら弓、精霊魔法なら精霊魔法、私のように植物と関わり続けた者もいる。
 私のこの知識も多少は見聞きしたものもあるがほとんどは私の独学だ。私自身、多くの失敗をし、長い年月を森で生きたことによって今の考え方がある。」
 「それでは僕達ではエルフのような知識は得られないということですか?」
 「そうは言っていない。ただ種族としての違いを話しただけだ。我々が長い年月を費やすのに対し、人は教わることによって、効率性を重視しただけの話だ。お前達の言葉で言うなら努力の積み重ねというやつだろう。実際に壮絶な修練を重ね、エルフよりも強い人間なら多く見てきた。そういう者でも最初は君達のように普通の人間であった者がほとんどだ。」

 思いを馳せるようにフォルマスは、目を細める。誰かを思い出しているのだろうか。

 「少々話が離れてしまったな。君の話を否定したような感じになってしまったが教わることを否定したわけではない。そもそも学校ここはそういう場所だからな。ただ我々のようになるには覚悟と努力が必要だという話だ。ああ、すまない。座って構わん。」

 男子生徒が立ち上がったままなことに気付き着席を促す。

 「お前達があくまで学びたいというのであれば私は協力しよう。ここで教鞭を振るっている限り私もエルフの考え方を貫くべきではないと考えている。分からないことがあれば聞いてくるといい。他に質問は?」

 軽く顔を巡らせて質問がないことを確認する。

 「質問がないようであれば、今日の内容に入ろう。今日は薬草の中でも月見草と呼ばれる種類についてだ。月見草というのは……。」

 考え方の違いか。そういえばアシナ達も言っていたな。命の長さや生き方で価値観なんかは大きく違ってくるって。

 ただ、こうして生徒達に教えているフォルマスを見るとやっぱりそういうのは関係ないって思えちゃうな。人もエルフも関係ないって。そう思ってしまうおれは楽観的過ぎるのだろうか。

 種族の問題というのはおれが考えるより難しい問題なんだろうな。 
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