八重歯の神様は気まぐれ

tosa

文字の大きさ
5 / 20

夕暮れの帰り道

しおりを挟む
 政府から正式な通達が来たのは三日前だった。世界で唯一の男となった俺を政府は保護隔離すると言って来た。

 世界連合軍が日本へ攻め込むと言う噂は一介の学生である俺でも知っていた。だが、どの国も職業軍人である女性は少数であり、各国は一般市民を徴兵する事より始めなくてはならなかった。

 当然軍隊の編成、兵器の運用にも時間がかかり、その時間を利用して政府は俺を手元に置き、各国との政治的取引に使うらしい。

「草臥(くたび)君。貴方との性交渉の値段を想像出来る? 一度につき百億円よ。しかもこれは昨日の値段。今日は三百億の値がついたわ。明日はその倍になるでしょうね」

 眼鏡をかけた色気ムンムンの政府関係者の美女は、俺に内部情報をこっそりと教えてくれた。どうやら俺の存在は世界最後の種馬として大きな市場と化しているらしい。

 政府は特定の国に対して俺の種馬を提供すると裏取り引きを持ちかけていた。勿論、そこには見返りの莫大な金が動いていた。

 その結果、世界連合軍の足並みにき裂が生じ、早晩連合軍は瓦解すると色気女は話していた。

「残念だけど草臥君。貴方の存在はもう自分で自由に出来る物じゃなくなったの。三日後に迎えにくるわ。それまでやり残した事を片付けておいてね」

 色気満載美女はそう言い残して黒塗りの車で去って行った。俺は無造作に後ろを振り返る。俺を尾行、監視している黒服の男達はそれを隠そうともしなかった。
 
 俺はため息をつきながら歩き出した。日はもう西に落ちそうになっていた。俺は歩きスマホをしながらニュースを流し読みする。

 ニュースは事件や事故ばかりだった。不慣れな女性消防官が火災に巻き込まれ死亡。妊娠中の女性トラックドライバーが過労死。

 原発の故障に対応できる人材が不足し、放射能漏れに対応し被爆したのが二十代の女性。

 男の存在が消え、その負担はそのまま残された女性にのし掛かった。社会環境は混乱し、流通は上手く機能しなくなった。

 スーパーやコンビニは常に商品が不足し、今俺が触っているスマホも度々通信障害が起こった。そもそも電力も正常に供給されなかったので停電は日常茶飯事となっていた。

 そのしわ寄せで俺の唯一の楽しみのゲー厶やアニメも楽しめなくなった。あれ程他の女達に冷たくして満たされた復讐心も、時間が経過すればただ虚しくなるだけだった。

 俺はふと足を止めた。目の前には古びた平屋が建っていた。俺は学校の帰り道、この平屋の住人に飼われていたデブネコと戯れるのが習慣だった。

 だが、世界が変わってからデブネコはその姿を見せなくなった。どうやらあのデブネコは雄だったらしい。

 あの八重歯の神様は律儀にも世界から全ての雄を消し去ったみたいだ。お気に入りの古本屋も閉店した。

 仙人みたいな老人店主が消えたからだろう。築五十年を超えた団地の家に帰っても、家には誰も居なかった。

 俺の父親も当然消え、母親は家計を支える為に毎日遅くまで働いていた。俺は着替もせず自分の部屋に寝転んだ。

「なんだかなあ」

 俺は独り言を呟く。これが俺の望んだ世界だったのだろうか? 俺は俺を馬鹿にした女達を軽蔑して満足したのか?

 ······分からない。幾ら自問自答しても答えは出なかった。心の中を反芻しても残るのは虚しさだけだった。

 あと三日で俺は自分の自由すら失う。その後は巨大な権力者達に良いように利用されるだけだった。

「······自殺でもしようかな」

 夕焼けの明かりが窓越しに俺の頬を照らしていた時、俺は何気なくそう呟いた。その呟きが、その言葉が。

 かつてない確固たる意思に急速に変化して行く事を俺は自分自身で感じていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...