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深夜の屋上
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自殺。何故俺は今までそうしなかったのか不思議でならない。そう思うほど俺と言う存在はこの世界に適合しなかった。
色々思案してみたが、結論はやはりその勇気がなかったのだろう。あの八重歯の神様はそんな俺に奇跡を起こしてくれた。
だが、その奇跡は俺の手に余る物だった。もっと頭が良く、要領の良い人間ならその奇跡を上手に使いこなしていただろう。
これまでも。そして世界にたった一人の男になったこの世界も、俺にとっては居場所が無かったのだ。
浅はかさと短慮を背中に背負い、俺は視野狭窄と言う名の山頂から転げ落ちようとしていた。時刻は深夜三時。
俺は人気の無い校舎の屋上に立ってた。団地の住まいが一階だった為、窓から外に出て監視員達に気付かれずに済んだ。
校舎の窓を割り中に入り、屋上の扉の前にたどり着いたが鍵の事を失念していた。幸運にも施錠はされていなかった。
教員達も男が消えた人員不足の影響か。校内の管理が行き届いて無いらしい。何故俺は身を投げる場所をこの学び舎に選んだのか。
何てことは無かった。狭い世間しか知らない高校生にとって思いつく場所が多くは無かったのだ。一つも良い思い出の無いこの校舎こそ命を断つ場に相応しい。
俺は自虐気味にそう心の中で呟いた。自分に酔っていた。スマホの遺言アプリを使おうとしたが、俺はスマホを地面に投げ捨てた。
遺言など伝えるのは母親くらいしか思いつかず、全てが煩わしく面倒だった。俺は屋上を囲う柵に手をかけた。東の空には名も知らぬ秋の星座が光り輝いていた。
それを命の輝きと連想するには俺の心はあまりにも荒んでいた。躊躇いなく柵を登ろうとした時、俺の聴覚が誰かの声に反応した。
「······もしかして、草臥君?」
それは、女の声だった。深夜三時の校舎の屋上に何故女が。それも自分の名を知っている者がいるのか。
「······畑? 畑さん?」
声の主はクラスメイトの畑美香だった。ジーパンとダウンを着込んだ畑の姿を、彼女が持つスマホの灯りが照らしていた。
どうやら畑美香も俺がスマホを使っていた時の灯りで俺の顔を判別したらしい。それにしても何故彼女がここにいるのか?
理由は直ぐに分かった。畑美香は両手に数珠のような物を持っていた。それは、ある宗教団体が信者に渡している物だった。
世界が変わってから怪しげな宗教団体が数多に出現した。彼女が持っている数珠を売り物にしている宗教組織は、その中でもとびきり質の悪い連中だった。
「······深夜。思い出の場所でこの数珠を持って願うとね。想い人が帰ってくるって」
晩秋の深夜。この校舎の屋上で畑美香は何時間恋人の帰りを願っていたのだろうか。彼女の震える声は寒さのせいか、それとも悲しみのせいか。
全てを終わらそうとしていた俺の感情は、畑美香への同情心へと一変した。彼女だけでは無い。連れ合いを失った自分の母親。
母親や畑美香と同じような境遇の世界中の女性達。この世で男は俺一人。俺にとって都合のいい筈の世界は、俺以外には傍迷惑な世界だったらしい。
「······もういいよ」
気付くと俺は独り呟いていた。もういい。元の世界へ戻してくれ。いい事なんか一つも無かったあの世界でもいい。
少なくとも俺の母親と畑美香は救われる。それでいい。だから元へ戻してくれ。頼むよ。
「頼むよぉ!!」
深夜の屋上で俺は叫んだ。冷たい空気が俺の肺に入り込み、むせそうになった時だった。
「あれぇ? ハーレム設定は気に入らなかった?年頃は難しいねえ。繊細だねえ。面倒くさいねえ」
およそ深刻さとは対極にある軽薄な声。あの八重歯が特徴の不審者(いや神様?)は俺の背後に突然現れた。
「じゃあ、こんなのはどうかな? 君みたいな男子がタイプの女性を集めよう。うん。いいアイデアだ! 面白いねえ。ワクワクするねえ。結果が楽しみだねえ!」
神様(否。やっぱり不審者か?)は一方的にそう言いの残して姿を消した。あっけにとられている俺は、いつの間にか東の空が明るくなっている事に気付かなかった。
色々思案してみたが、結論はやはりその勇気がなかったのだろう。あの八重歯の神様はそんな俺に奇跡を起こしてくれた。
だが、その奇跡は俺の手に余る物だった。もっと頭が良く、要領の良い人間ならその奇跡を上手に使いこなしていただろう。
これまでも。そして世界にたった一人の男になったこの世界も、俺にとっては居場所が無かったのだ。
浅はかさと短慮を背中に背負い、俺は視野狭窄と言う名の山頂から転げ落ちようとしていた。時刻は深夜三時。
俺は人気の無い校舎の屋上に立ってた。団地の住まいが一階だった為、窓から外に出て監視員達に気付かれずに済んだ。
校舎の窓を割り中に入り、屋上の扉の前にたどり着いたが鍵の事を失念していた。幸運にも施錠はされていなかった。
教員達も男が消えた人員不足の影響か。校内の管理が行き届いて無いらしい。何故俺は身を投げる場所をこの学び舎に選んだのか。
何てことは無かった。狭い世間しか知らない高校生にとって思いつく場所が多くは無かったのだ。一つも良い思い出の無いこの校舎こそ命を断つ場に相応しい。
俺は自虐気味にそう心の中で呟いた。自分に酔っていた。スマホの遺言アプリを使おうとしたが、俺はスマホを地面に投げ捨てた。
遺言など伝えるのは母親くらいしか思いつかず、全てが煩わしく面倒だった。俺は屋上を囲う柵に手をかけた。東の空には名も知らぬ秋の星座が光り輝いていた。
それを命の輝きと連想するには俺の心はあまりにも荒んでいた。躊躇いなく柵を登ろうとした時、俺の聴覚が誰かの声に反応した。
「······もしかして、草臥君?」
それは、女の声だった。深夜三時の校舎の屋上に何故女が。それも自分の名を知っている者がいるのか。
「······畑? 畑さん?」
声の主はクラスメイトの畑美香だった。ジーパンとダウンを着込んだ畑の姿を、彼女が持つスマホの灯りが照らしていた。
どうやら畑美香も俺がスマホを使っていた時の灯りで俺の顔を判別したらしい。それにしても何故彼女がここにいるのか?
理由は直ぐに分かった。畑美香は両手に数珠のような物を持っていた。それは、ある宗教団体が信者に渡している物だった。
世界が変わってから怪しげな宗教団体が数多に出現した。彼女が持っている数珠を売り物にしている宗教組織は、その中でもとびきり質の悪い連中だった。
「······深夜。思い出の場所でこの数珠を持って願うとね。想い人が帰ってくるって」
晩秋の深夜。この校舎の屋上で畑美香は何時間恋人の帰りを願っていたのだろうか。彼女の震える声は寒さのせいか、それとも悲しみのせいか。
全てを終わらそうとしていた俺の感情は、畑美香への同情心へと一変した。彼女だけでは無い。連れ合いを失った自分の母親。
母親や畑美香と同じような境遇の世界中の女性達。この世で男は俺一人。俺にとって都合のいい筈の世界は、俺以外には傍迷惑な世界だったらしい。
「······もういいよ」
気付くと俺は独り呟いていた。もういい。元の世界へ戻してくれ。いい事なんか一つも無かったあの世界でもいい。
少なくとも俺の母親と畑美香は救われる。それでいい。だから元へ戻してくれ。頼むよ。
「頼むよぉ!!」
深夜の屋上で俺は叫んだ。冷たい空気が俺の肺に入り込み、むせそうになった時だった。
「あれぇ? ハーレム設定は気に入らなかった?年頃は難しいねえ。繊細だねえ。面倒くさいねえ」
およそ深刻さとは対極にある軽薄な声。あの八重歯が特徴の不審者(いや神様?)は俺の背後に突然現れた。
「じゃあ、こんなのはどうかな? 君みたいな男子がタイプの女性を集めよう。うん。いいアイデアだ! 面白いねえ。ワクワクするねえ。結果が楽しみだねえ!」
神様(否。やっぱり不審者か?)は一方的にそう言いの残して姿を消した。あっけにとられている俺は、いつの間にか東の空が明るくなっている事に気付かなかった。
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