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どんな世界も日々多難
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······世界は以前の姿を取り戻した。否。戻ったと言うのは語弊があるかもしれない。何せ世界から男が全て消え去り、その男達が突然舞い戻ってきたのだ。
しかもたった一晩で。当然めでだしめでだしとは行かなかった。男中心の世界から権力を得た女達は当惑し、やがてそれは怒りに変化した。
権力の座を巡って男と女の対立が世界各地で頻発していた。どうやら権力という名の蜜に群がるのは性別は関係ないらしい。
あの八重歯の不審者は好き勝手に世界を変えた癖にアフターケアは考えてないらしい。でも。それでも。
問題は山積していても男達がこの世界に帰還した。それは消えた父親が。恋人が。友人が。その人にとっては大切な人達が戻ってきたのだ。
それだけで良かった。人類最後の一人の男となった頃の超特別待遇扱いは嘘のように無くなり、俺は元のチビテブ不細工の三重苦男子に戻った。
あれ程俺をちやほやしていた学校の女子達は、潮が引いたように俺から遠ざかっていった。その不遇な日常に不満が無いと言えば大嘘だが、父が戻ってきた母親の姿や、恋人と嬉しそうに一緒にいる畑美香を見ると少しは救われた。
悪役にも善人にもなりきれない中途半端や奴。俺は自嘲気味に弱々しくため息をつき朝登校していた
。
「邪魔だ馬鹿野郎! どけよ!!」
その居丈高な罵声は、突然俺の背後から聞こえた。油を差していない自転車のブレーキ音が耳をついたと思った瞬間、俺は背中に衝撃を感じ転倒した。
俺は全身の各所に激しい痛みを感じながらも状況を把握しようと辺りを見回す。すると、目の前に倒れたママチャリと制服を着た女子が視界に入った。
「てめぇっ! なに歩行者優先道路で私のチャリの道を塞いでんだ!!」
女子生徒は茶色い長い髪を振り乱し俺に詰め寄った。そう。彼女が言う通り俺が歩いていた道は歩行者優先道路だ。
朝のこの時間帯は車両は侵入禁止だ。そう標識に書かれている。自転車は除かれるが、それにしたって自転車より歩行者の方が交通弱者なんだから、優先されるべきは彼女じゃなく俺じゃないか?
「この道歩いていたって事はお前。私と同じ学校か?」
茶髪で柄の悪い女子生徒は俺を一瞥し胸ぐらを掴んできた。俺も彼女の着崩した制服を見ると、確かに自分の高校の女子の制服だった。
自慢じゃないが俺は校内のヤンキー系には漏れなくイジメられていたので連中の顔は知っていた。こ
、こんな女子生徒いたっけか?
茶髪の女子生徒は暫く無言で俺を見つめると、俺から目を逸らし胸から手を離す。よ、よく見るとこの女子生徒、結構可愛い顔しているな。
「······ちっ。まあいいや。私は今日転校初日なんだ。おいお前。私を教室まで案内しろよ」
茶髪の女子生徒は何故か俺と視線を合わせず、どういう訳か照れた口調で、しかも小声になってるぞ
? なんで?
「ふふふ。そこのチビデブ不細工君。その女には気をつけた方がいいわよ。何せ昔飼っていた不細工犬と人間の男を混同するような馬鹿な女なんだから」
その冷笑は、突然俺と茶髪の女子生徒の背後から聞こえた。そこには、俺と同じ学校の制服を着た長身の女子が立っていた。
長身の女子生徒は、長い黒髪を指で撫で不敵に笑っている。け、結構な美人だなこの娘。
「てめぇ! 礼子!! なんでお前と転校先まで一緒なんだよ!」
茶髪の女子生徒は長身の黒髪女子を礼子と呼び威嚇する。
「仕方ないでしょう? 丸子。あなたが前の学校でしでかした不祥事に私も巻き込まれたんだから」
礼子と呼ばれた黒髪女子は茶髪女子を丸子と呼ぶ。な、なんだ? 二人は知り合いなのか?
「ああん!? どう考えてもあの主犯格はてめえだろが礼子! ってかさっき私の事を犬と人間をごっちゃにするってほざいたよな! お前こそ家畜しか好きになれない人間辞めろレベルだろうが!!」
「か、家畜じゃないわ!! プーちゃんは家族よ! わ、私の大切な家族だったんだから!!」
丸子の罵声にポーカーフェイスが崩れた礼子は、声を震わし涙声になる。は、話が一向に見えない。俺は勇気を振り絞り、柔らかく控えめに丸子と礼子に事情を聞いた。
すると驚くべき事実が判明した。丸子が昔飼っていたズタと言う名の土佐犬は、ダンプに轢かれたと思う程に顔面崩壊していたと言う。
だか丸子はそのズタの顔を愛し、犬が老衰して死ぬまで大切に飼っていたと言う。
そして礼子の飼っていたのはトレーラーに体当たりしたとしか思えない程の歪んだ顔をした豚らしい。
だが礼子はそんな豚(名前はプーちゃん)を溺愛し、病気でプーちゃんが死んだ時も決して食料にはしなかったと言う。
因みに丸子と礼子は前の学校でセクハラ教師を耳も塞ぎたくなるような手口で破滅させ、それが大問題になり俺の学校に転校してきたらしい。
······俺は丸子と礼子が言い合う状況をこれ幸いと立ち去ろうとする。この妙な二人には関わらない方が絶対いいと感じたからだ。
速歩きの速度を上げようとした時、俺の両肩に誰かの手が置かれた。恐る恐る振り返る俺。その手は
、丸子と礼子の物だった。
「······お前。そのツラ何かズタに似てんな」
「······あなた。その残念な姿。プーちゃんに似てるわね」
丸子と礼子は薄ら笑いを浮かべ、自分達の顔を俺の顔に近づける。俺は脂汗を流しながら、頭の中にある記憶が甦った。
······そう言えばあの八重歯の神様。最後に言っていたよな。俺が好みの女を集めるとかどうとか?
こ、この二人がそうだって事か?
い、嫌だ。こんな問題しかなさそうな連中に好かれたくない。俺は丸子と礼子の手を振り解き全力で駆け出した。
「お、おい待てこらズタ!!」
「待ちなさいプーちゃん!!」
背後から聞こえる不吉な固有名詞を無視し俺は必死に朝の通学路を走って行った。どんな容姿でも。どんな人間でも。どんな世界ても。生きていくという事は受難を抱えていく事だと俺は知った。
草臥損のお話 完
しかもたった一晩で。当然めでだしめでだしとは行かなかった。男中心の世界から権力を得た女達は当惑し、やがてそれは怒りに変化した。
権力の座を巡って男と女の対立が世界各地で頻発していた。どうやら権力という名の蜜に群がるのは性別は関係ないらしい。
あの八重歯の不審者は好き勝手に世界を変えた癖にアフターケアは考えてないらしい。でも。それでも。
問題は山積していても男達がこの世界に帰還した。それは消えた父親が。恋人が。友人が。その人にとっては大切な人達が戻ってきたのだ。
それだけで良かった。人類最後の一人の男となった頃の超特別待遇扱いは嘘のように無くなり、俺は元のチビテブ不細工の三重苦男子に戻った。
あれ程俺をちやほやしていた学校の女子達は、潮が引いたように俺から遠ざかっていった。その不遇な日常に不満が無いと言えば大嘘だが、父が戻ってきた母親の姿や、恋人と嬉しそうに一緒にいる畑美香を見ると少しは救われた。
悪役にも善人にもなりきれない中途半端や奴。俺は自嘲気味に弱々しくため息をつき朝登校していた
。
「邪魔だ馬鹿野郎! どけよ!!」
その居丈高な罵声は、突然俺の背後から聞こえた。油を差していない自転車のブレーキ音が耳をついたと思った瞬間、俺は背中に衝撃を感じ転倒した。
俺は全身の各所に激しい痛みを感じながらも状況を把握しようと辺りを見回す。すると、目の前に倒れたママチャリと制服を着た女子が視界に入った。
「てめぇっ! なに歩行者優先道路で私のチャリの道を塞いでんだ!!」
女子生徒は茶色い長い髪を振り乱し俺に詰め寄った。そう。彼女が言う通り俺が歩いていた道は歩行者優先道路だ。
朝のこの時間帯は車両は侵入禁止だ。そう標識に書かれている。自転車は除かれるが、それにしたって自転車より歩行者の方が交通弱者なんだから、優先されるべきは彼女じゃなく俺じゃないか?
「この道歩いていたって事はお前。私と同じ学校か?」
茶髪で柄の悪い女子生徒は俺を一瞥し胸ぐらを掴んできた。俺も彼女の着崩した制服を見ると、確かに自分の高校の女子の制服だった。
自慢じゃないが俺は校内のヤンキー系には漏れなくイジメられていたので連中の顔は知っていた。こ
、こんな女子生徒いたっけか?
茶髪の女子生徒は暫く無言で俺を見つめると、俺から目を逸らし胸から手を離す。よ、よく見るとこの女子生徒、結構可愛い顔しているな。
「······ちっ。まあいいや。私は今日転校初日なんだ。おいお前。私を教室まで案内しろよ」
茶髪の女子生徒は何故か俺と視線を合わせず、どういう訳か照れた口調で、しかも小声になってるぞ
? なんで?
「ふふふ。そこのチビデブ不細工君。その女には気をつけた方がいいわよ。何せ昔飼っていた不細工犬と人間の男を混同するような馬鹿な女なんだから」
その冷笑は、突然俺と茶髪の女子生徒の背後から聞こえた。そこには、俺と同じ学校の制服を着た長身の女子が立っていた。
長身の女子生徒は、長い黒髪を指で撫で不敵に笑っている。け、結構な美人だなこの娘。
「てめぇ! 礼子!! なんでお前と転校先まで一緒なんだよ!」
茶髪の女子生徒は長身の黒髪女子を礼子と呼び威嚇する。
「仕方ないでしょう? 丸子。あなたが前の学校でしでかした不祥事に私も巻き込まれたんだから」
礼子と呼ばれた黒髪女子は茶髪女子を丸子と呼ぶ。な、なんだ? 二人は知り合いなのか?
「ああん!? どう考えてもあの主犯格はてめえだろが礼子! ってかさっき私の事を犬と人間をごっちゃにするってほざいたよな! お前こそ家畜しか好きになれない人間辞めろレベルだろうが!!」
「か、家畜じゃないわ!! プーちゃんは家族よ! わ、私の大切な家族だったんだから!!」
丸子の罵声にポーカーフェイスが崩れた礼子は、声を震わし涙声になる。は、話が一向に見えない。俺は勇気を振り絞り、柔らかく控えめに丸子と礼子に事情を聞いた。
すると驚くべき事実が判明した。丸子が昔飼っていたズタと言う名の土佐犬は、ダンプに轢かれたと思う程に顔面崩壊していたと言う。
だか丸子はそのズタの顔を愛し、犬が老衰して死ぬまで大切に飼っていたと言う。
そして礼子の飼っていたのはトレーラーに体当たりしたとしか思えない程の歪んだ顔をした豚らしい。
だが礼子はそんな豚(名前はプーちゃん)を溺愛し、病気でプーちゃんが死んだ時も決して食料にはしなかったと言う。
因みに丸子と礼子は前の学校でセクハラ教師を耳も塞ぎたくなるような手口で破滅させ、それが大問題になり俺の学校に転校してきたらしい。
······俺は丸子と礼子が言い合う状況をこれ幸いと立ち去ろうとする。この妙な二人には関わらない方が絶対いいと感じたからだ。
速歩きの速度を上げようとした時、俺の両肩に誰かの手が置かれた。恐る恐る振り返る俺。その手は
、丸子と礼子の物だった。
「······お前。そのツラ何かズタに似てんな」
「······あなた。その残念な姿。プーちゃんに似てるわね」
丸子と礼子は薄ら笑いを浮かべ、自分達の顔を俺の顔に近づける。俺は脂汗を流しながら、頭の中にある記憶が甦った。
······そう言えばあの八重歯の神様。最後に言っていたよな。俺が好みの女を集めるとかどうとか?
こ、この二人がそうだって事か?
い、嫌だ。こんな問題しかなさそうな連中に好かれたくない。俺は丸子と礼子の手を振り解き全力で駆け出した。
「お、おい待てこらズタ!!」
「待ちなさいプーちゃん!!」
背後から聞こえる不吉な固有名詞を無視し俺は必死に朝の通学路を走って行った。どんな容姿でも。どんな人間でも。どんな世界ても。生きていくという事は受難を抱えていく事だと俺は知った。
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