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運命の前夜
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世間では新年度が始まった。新しい環境に見を置く人々を祝福するかのように、雲ひとつ無い青空が何処までも広がっていた。
「本当に広いですね。東京ドーム何個分だろう? と言うか、私の東京ドームなんて行った事無いんですけど」
ピンクの春コートを着た東峰栞は、目の前の広大な敷地に気分が高揚している様子だった。俺達は「自然の国」と呼ばれる場所にいた。
東京ドー厶三個分の面積の敷地には、豊かな自然や動物園、また子供向けの遊具が充実していた。本来なら子供達が遊ぶ場所だったが、俺は栞をここに誘ってみた。
そう。俺は人生で初めて女性をデートに誘ったのだ。幸運にも栞は了承してくれた。園内では各所から家族連れの楽しそうな声が響いてくる。
俺の心境はその平和的な情景とは対極にあった。何故なら俺はこれから死ぬ運命になるかもしれなかったからだ。
俺はこれから、東峰栞に告白するつもりだった。
東峰栞が同じ弁当屋で働き始めてから、俺達は直ぐに気心が知れる間柄になった。以前の俺なら、女性に対して見えない壁を張っていたが、栞に対しては自然な自分でいられた。
もう俺は自分の運命を全て受け入れていた。どうせ死ぬなら恋をして死ぬ。名前も知らぬあの少女に言われた言葉を、俺は体現することにしたのだ。
そして俺は奇妙な事に気付く。それは、俺が自分の気持ちを自覚した頃だ。俺は明らかに東峰栞に惹かれていた。
これ迄の人生で色恋沙汰に無縁だった自分でも確実に理解出来た。俺は栞に恋をしていた。俺は混乱した。
恋をしたら死ぬ運命の自分が、何故今恋をしているのに生きているのか。俺は無い知恵を絞って考えに考え抜いた。
そしてある一つの仮説に辿り着いた。俺の死の運命は、どうやら恋をした瞬間では無いようだった。その恋が成就した時。つまり俺に恋人が出来た時ではないのか。
それを確かめるには、自分で女性に告白するしか無かった。恋人を作らなければこの先も死ぬ事はないのかもしれない。
だが俺にはもう迷いは無かった。内に籠もっていた冬眠のような人生で生き長らえるより、過酷な外の世界に歩み出す事を俺は選択した。
そして俺は、自分の人生の幕引きの準備に取り掛かった。二つあった預貯金を現金化し、全てを親元に送った。
アパートや公共料金の解約手続き済ませ、部屋の家具は一切合切処分した。言わいる終活と呼ばれる雑務をこなしながら、俺は独り苦笑する。
そもそも東峰栞が俺の告白を拒否すれば、俺は死ぬ事も無く一連のこの行動も全て無駄になるのでは無いか。
それでも俺は終活を完遂して東峰栞をデートに誘った。それを受け入れてくれた時の彼女の表情を、俺は一生忘れる事はないだろう。
デートを明日に控えた前夜。遠足の前日に興奮する子供のように俺はなかなか寝付けなかった。その時、スマホに栞からラインメッセージが送られてきた。
《明日は晴天です!!》
ただの文字の筈のその一言に、俺は何故か栞の体温を感じたような気がした。それは、春の陽光を連想させる暖かさだった。
「本当に広いですね。東京ドーム何個分だろう? と言うか、私の東京ドームなんて行った事無いんですけど」
ピンクの春コートを着た東峰栞は、目の前の広大な敷地に気分が高揚している様子だった。俺達は「自然の国」と呼ばれる場所にいた。
東京ドー厶三個分の面積の敷地には、豊かな自然や動物園、また子供向けの遊具が充実していた。本来なら子供達が遊ぶ場所だったが、俺は栞をここに誘ってみた。
そう。俺は人生で初めて女性をデートに誘ったのだ。幸運にも栞は了承してくれた。園内では各所から家族連れの楽しそうな声が響いてくる。
俺の心境はその平和的な情景とは対極にあった。何故なら俺はこれから死ぬ運命になるかもしれなかったからだ。
俺はこれから、東峰栞に告白するつもりだった。
東峰栞が同じ弁当屋で働き始めてから、俺達は直ぐに気心が知れる間柄になった。以前の俺なら、女性に対して見えない壁を張っていたが、栞に対しては自然な自分でいられた。
もう俺は自分の運命を全て受け入れていた。どうせ死ぬなら恋をして死ぬ。名前も知らぬあの少女に言われた言葉を、俺は体現することにしたのだ。
そして俺は奇妙な事に気付く。それは、俺が自分の気持ちを自覚した頃だ。俺は明らかに東峰栞に惹かれていた。
これ迄の人生で色恋沙汰に無縁だった自分でも確実に理解出来た。俺は栞に恋をしていた。俺は混乱した。
恋をしたら死ぬ運命の自分が、何故今恋をしているのに生きているのか。俺は無い知恵を絞って考えに考え抜いた。
そしてある一つの仮説に辿り着いた。俺の死の運命は、どうやら恋をした瞬間では無いようだった。その恋が成就した時。つまり俺に恋人が出来た時ではないのか。
それを確かめるには、自分で女性に告白するしか無かった。恋人を作らなければこの先も死ぬ事はないのかもしれない。
だが俺にはもう迷いは無かった。内に籠もっていた冬眠のような人生で生き長らえるより、過酷な外の世界に歩み出す事を俺は選択した。
そして俺は、自分の人生の幕引きの準備に取り掛かった。二つあった預貯金を現金化し、全てを親元に送った。
アパートや公共料金の解約手続き済ませ、部屋の家具は一切合切処分した。言わいる終活と呼ばれる雑務をこなしながら、俺は独り苦笑する。
そもそも東峰栞が俺の告白を拒否すれば、俺は死ぬ事も無く一連のこの行動も全て無駄になるのでは無いか。
それでも俺は終活を完遂して東峰栞をデートに誘った。それを受け入れてくれた時の彼女の表情を、俺は一生忘れる事はないだろう。
デートを明日に控えた前夜。遠足の前日に興奮する子供のように俺はなかなか寝付けなかった。その時、スマホに栞からラインメッセージが送られてきた。
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