19 / 20
告白
しおりを挟む
「東峰さん。お話があります」
園内を走る汽車バスが俺達を通り過ぎた後、俺は東峰栞に声をかけた。その瞬間から胸の鼓動が忙しく躍動する。
いい年をした大人の男が告白一つで挙動不審になる。今まで恋から逃げていたツケを精算しなくてはならないようだった。
この園に来てすぐ俺は栞に封筒を託した。中身はアルバイト先の退職届だった。明日から暫くバイトを休むから店長に渡して欲しい。
そう頼むと、栞は不審がらずに快く引き受けてくれた。もうこれで俺の終活は完了した。後は最後の告白を栞にするだけだった。
「······俺は東峰さんが好きです。俺と付き合って下さい」
俺は栞の両目を真っ直ぐに見つめていたつもりだった。だが彼女の瞳を直視する事に動揺があったのかもしれなかった。
その証拠に、視界の端に季節外れの凧揚げをしている親子が映った。
「······気持ちを伝える時は。ちゃんと相手の目を、私の目を見て言ってください」
全てを見透かした様な栞の言葉に、俺は顔と心で赤面した。失敗だ。もう駄目だと俺は激しく動揺していた。
······どれ位の時間が過ぎたのか。俺は一言も喋れずに俯いていた。ふと顔を上げると、栞は俺をずっと見つめていた。
······待っていてくれていた。栞の表情は穏やかそのものだった。不甲斐ない俺に失望する事も無く。怒りを見せる事も無く。ただ優しく待っていた。
俺の中で何かが崩れていった。それは、死を恐れて内に閉じ籠もっていた自分への決別だった。俺は栞の両目だけを見つめ口を開く。
この瞬間。この時間。俺の視界に映る彼女だけが
俺の世界の全てだった。
「······好きです。栞さん。俺の恋人になって下さい」
「······はい。私で良ければよろこんで」
栞の返答の一語一語が、俺の聴覚を通し心の中心部に雪のようにゆっくりと降り積もって行った。体験した事の無い幸福感と充足感が足先から始まり頭の先まで伝わって行った。
そうだ。俺はこの気持ちを感じる為に今までい生きて来たんだ。頬を紅く染めた栞の笑顔。彼女の嬉しそうな表情を見た喜びに比べれば、過去の自分の生き方など何の価値も見い出せなかった。
俺の視界が暗転したのはその時だった。とうとうその時がやって来た。恋が成就した時に自分は死ぬ
。計らずも自分の仮説が正しいと証明されてしまった。
だが後悔は無かった。俺は満足していた。最後に感じたのは、俺に駆け寄る栞から香ったシャンプーの匂いだった。
園内を走る汽車バスが俺達を通り過ぎた後、俺は東峰栞に声をかけた。その瞬間から胸の鼓動が忙しく躍動する。
いい年をした大人の男が告白一つで挙動不審になる。今まで恋から逃げていたツケを精算しなくてはならないようだった。
この園に来てすぐ俺は栞に封筒を託した。中身はアルバイト先の退職届だった。明日から暫くバイトを休むから店長に渡して欲しい。
そう頼むと、栞は不審がらずに快く引き受けてくれた。もうこれで俺の終活は完了した。後は最後の告白を栞にするだけだった。
「······俺は東峰さんが好きです。俺と付き合って下さい」
俺は栞の両目を真っ直ぐに見つめていたつもりだった。だが彼女の瞳を直視する事に動揺があったのかもしれなかった。
その証拠に、視界の端に季節外れの凧揚げをしている親子が映った。
「······気持ちを伝える時は。ちゃんと相手の目を、私の目を見て言ってください」
全てを見透かした様な栞の言葉に、俺は顔と心で赤面した。失敗だ。もう駄目だと俺は激しく動揺していた。
······どれ位の時間が過ぎたのか。俺は一言も喋れずに俯いていた。ふと顔を上げると、栞は俺をずっと見つめていた。
······待っていてくれていた。栞の表情は穏やかそのものだった。不甲斐ない俺に失望する事も無く。怒りを見せる事も無く。ただ優しく待っていた。
俺の中で何かが崩れていった。それは、死を恐れて内に閉じ籠もっていた自分への決別だった。俺は栞の両目だけを見つめ口を開く。
この瞬間。この時間。俺の視界に映る彼女だけが
俺の世界の全てだった。
「······好きです。栞さん。俺の恋人になって下さい」
「······はい。私で良ければよろこんで」
栞の返答の一語一語が、俺の聴覚を通し心の中心部に雪のようにゆっくりと降り積もって行った。体験した事の無い幸福感と充足感が足先から始まり頭の先まで伝わって行った。
そうだ。俺はこの気持ちを感じる為に今までい生きて来たんだ。頬を紅く染めた栞の笑顔。彼女の嬉しそうな表情を見た喜びに比べれば、過去の自分の生き方など何の価値も見い出せなかった。
俺の視界が暗転したのはその時だった。とうとうその時がやって来た。恋が成就した時に自分は死ぬ
。計らずも自分の仮説が正しいと証明されてしまった。
だが後悔は無かった。俺は満足していた。最後に感じたのは、俺に駆け寄る栞から香ったシャンプーの匂いだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる