八重歯の神様は気まぐれ

tosa

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告白

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「東峰さん。お話があります」

 園内を走る汽車バスが俺達を通り過ぎた後、俺は東峰栞に声をかけた。その瞬間から胸の鼓動が忙しく躍動する。

 いい年をした大人の男が告白一つで挙動不審になる。今まで恋から逃げていたツケを精算しなくてはならないようだった。

 この園に来てすぐ俺は栞に封筒を託した。中身はアルバイト先の退職届だった。明日から暫くバイトを休むから店長に渡して欲しい。

 そう頼むと、栞は不審がらずに快く引き受けてくれた。もうこれで俺の終活は完了した。後は最後の告白を栞にするだけだった。

「······俺は東峰さんが好きです。俺と付き合って下さい」

 俺は栞の両目を真っ直ぐに見つめていたつもりだった。だが彼女の瞳を直視する事に動揺があったのかもしれなかった。

 その証拠に、視界の端に季節外れの凧揚げをしている親子が映った。

「······気持ちを伝える時は。ちゃんと相手の目を、私の目を見て言ってください」

 全てを見透かした様な栞の言葉に、俺は顔と心で赤面した。失敗だ。もう駄目だと俺は激しく動揺していた。

 ······どれ位の時間が過ぎたのか。俺は一言も喋れずに俯いていた。ふと顔を上げると、栞は俺をずっと見つめていた。

 ······待っていてくれていた。栞の表情は穏やかそのものだった。不甲斐ない俺に失望する事も無く。怒りを見せる事も無く。ただ優しく待っていた。

 俺の中で何かが崩れていった。それは、死を恐れて内に閉じ籠もっていた自分への決別だった。俺は栞の両目だけを見つめ口を開く。

 この瞬間。この時間。俺の視界に映る彼女だけが
俺の世界の全てだった。

「······好きです。栞さん。俺の恋人になって下さい」

「······はい。私で良ければよろこんで」

 栞の返答の一語一語が、俺の聴覚を通し心の中心部に雪のようにゆっくりと降り積もって行った。体験した事の無い幸福感と充足感が足先から始まり頭の先まで伝わって行った。

 そうだ。俺はこの気持ちを感じる為に今までい生きて来たんだ。頬を紅く染めた栞の笑顔。彼女の嬉しそうな表情を見た喜びに比べれば、過去の自分の生き方など何の価値も見い出せなかった。

 俺の視界が暗転したのはその時だった。とうとうその時がやって来た。恋が成就した時に自分は死ぬ
。計らずも自分の仮説が正しいと証明されてしまった。

 だが後悔は無かった。俺は満足していた。最後に感じたのは、俺に駆け寄る栞から香ったシャンプーの匂いだった。


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