青天の霹靂は、村娘の一言から

tosa

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だ、誰かこの発情した魔族を止めて!!

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 私の周囲に濃い霧のようにアルコール臭が漂っていた。私はその臭いだけで悪酔いしそうだった。

 隣の紫長髪美人シースンは、最早何杯目か計測不能の蒸留酒を更に飲み干していく。私は彼女に花積みに行ってくると言い残し、アルコール臭部屋から脱出。いや逃走した。

 ······何なの今日は。講義で恥をかき、短髪無骨男に押し倒されるわ、紫長髪美女にお酒で絡まれるわ。

 疲れ切って長い廊下を歩いていると、前から白髪眼鏡魔族が歩いてきた。

「おお。リリーカ殿。さっきの講義で質問があるのですが」

 ······今日はもう講義の話は止めてください。お願いしますから。断る元気も無かった私は、リケイにある部屋に連れて行かれた。

 まだ明るい時間なのに部屋は薄暗かった。窓が何処にも見当たらない。なんで?

「今灯りをつけます」

 リケイがそう言うと、彼の掌に炎が出現した。魔法? この人は魔法が使えるのかな? リケイは部屋のあちこちに置かれたロウソクに火をつけていく。

 すると室内の全容が明らかになってきた。壁一面に本棚が並んでいる。す、すごい数の本だわ。

 ガラス棚の中には植物のような物が入っており、机の上には試験管が無造作に置かれている。

 そして床だ。分厚い本が散乱している。そ、そして床に転がっているあの人の形をしたものは何なんですかリケイさん?

 私は額から汗を流しながら、その遺棄された物体を凝視する。

「ああ。それは人形ですよリリーカ殿。人体の研究に使用している物です」

 私は肺の中に溜め込んだ息を安堵の気持ちと共に大きく吐き出した。よ、良かった。死体じゃなくて!

「······リリーカ殿。大変お願いしにくい事なんですが」

 リケイが眼鏡を取り、手拭いでレンズを拭きだした。あれ······? こ、この人、すごい可愛い目をしている。

 白髪だったから、もっと年齢が上だと思ったけど、まだ三十歳前じゃないかしら? こ、こんな魔族の城に、村一番の美青年フェトに匹敵する美男子がいたなんて······!!

「リリーカ殿。その、なんと言いましょうか」

「は、はい!」

 い、いけない。私の胸がドキドキ言い出した。そう言えば、リケイさんだけは私に丁寧な対応をしてくれている。

 そうよ。リケイさんは紳士なんだわ。きっと真面目でまともな人なんだ。あの寝癖金髪国王や、いきなり押し倒し短髪無骨男どもとは一線を画している存在なんだわ。

「······その。無いんです。私」

 ······ちょっと待て。この台詞はどこかで聞いた事があるぞ。まさか。まさか貴方もですかリケイさん? ち、違いますよね?

 女を押し倒した事がないとか、男に押し倒された事がないとか言いませんよね? ね?

「私は、人間の女性の裸を見たことが無いんです」

 ······はい? 人間の女の裸を? 見た事が無いと?

「魔族の女性との相違点を私は知りたいんです。もちろん邪な考えではありません。純粋な探究心です」

 ちょっと待て白髪魔族。何故自分の胸のシャツのボタンを外し始める? そして何故眼鏡を机に置く? 何故息が荒くなってきた?

「リリーカ殿。やはりお互い交じわる事が、理解への早道かと」

 だ、誰と誰が交わるの!? いつ!? 何処で!? だ、誰かこの発情した魔族を止めて!!

 後ずさった私の背中にドアがぶつかる。その時、外からノックされる音がした。

「リケイ様。こちらにリリーカ様はいらっしゃいますか?」

 お、女の人の声だ! はい! います! リリーカはこちらに全力でいます!!

 リケイがドアを開けると、そこにはメイド服を着た女性が立っていた。か、カラミィ? い、いやよく見ると微妙に違う。とっても似てるけど違うわ。

「リケイ様。タイラント様がリリーカ様をお呼びです」

 茶色い髪のメイドは可愛らしく微笑んだ。上半身半裸の発情魔族は、頭を掻きながら私を見る。

「リリーカ殿。タイラント様がお呼びのようです。続きはまた後日」

 つ、続き? また後日? そんなモンある分けないでしょこのボケ!! 私は茶髪のメイドにしがみつく様にしてリケイの部屋から退去した。

 私は茶髪メイドの後ろについて行き、長い廊下を歩いていた。彼女のお陰で本当に助かったわ。お礼を言わないと。

「リリーカ様。姉のカラミィがリリーカ様に大変失礼な事をしました。お詫び致します」

 茶髪のメイドは、申し訳なさそうな表情で私を見た。え? 姉? カラミィの妹さん?

「······姉はその。タイラント様の事となると人が変わってしまって。根はとってもいい人なんですが」

 いえ妹さん。あれは人が変わると言う次元の物ではありませんよ。根っこの方が悪魔じみていますよ。貴方のお姉さん。

「あ、申し遅れました。私はハクランと申します。今日はお疲れだと思いますので、ゆっくりとお休み下さい」

「え? あの。私はタイラントに呼ばれたんじゃ······」

 去り際にハクランは片目を閉じ、人差し指を唇に添えた。そ、そうか! 彼女は私をリケイの魔手から救うべく、あの金髪寝癖国王の名を借りたんだわ!

 ハクランの後ろ姿が正に天使に見えた。やっとこの城で、まともな人格の魔族に会えたわ。

 ······世界の何処かにいらっしゃる勇者様。勇者様はお忙しいでしょうから、私を助けて頂くのは今すぐでは無くともかまいません。
 
 ハクランの後ろ姿を見ながら、私は勇者様にそう語りかけていた。
 

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