23 / 52
喧嘩する気満々なんですが?
しおりを挟む
私達は城内にある鍛錬場に移動した。屋根はアーチ状になっており、壁は煉瓦造り。床は石畳になっていた。
ここに入った時、汗と鉄を混ぜたような臭いがした。壁や地面の所々に黒い染みが見える。
こ、これって訓練で流された血? 石畳の中央に互いに鎧を脱いだザンカルとゴントさんが向かい合っている。
大柄な二人は身長がほぼ同じだ。胸の厚さも腕の太さも拮抗している。違いがあるとすれば表情だった。
敵意剥き出しのザンカルに対して、ゴントさんは至って冷静だ。この二人はこれから素手で戦う。私を賭けて。
な、なんでこんな事になったの? と、言うか私の意思を無視して皆何をしているの? やっぱりこの喧嘩を止めよう。私がはっきりと主張すれば済む事だ。
私がザンカルの元へ行こうとすると、タイラントが私を呼び止めた。
「娘。何をするつもりだ?」
「何って。ザンカルを止めるのよ。彼、完全に興奮状態よ」
「娘。お前は何も分かっていない。あれはザンカルの演技だ」
え、演技? ザンカルが? な、何の為の?
「勇者達を挑発し、その実力の一端を知る為だ。ザンカルは我が軍最強の戦士。その腕前に奴らがどこまで対抗するか。これは情報収集の一貫なのだ」
······勇者達はいつ魔族である自分達の敵になるか分からない。その時の為に少しでも勇者達の力を知る必要がある。タイラントはそう続けた。
そ、そんな事をザンカルは考えていたの? ごめんなさいザンカル。あなたの事を猪武者みたいって思っちゃった。
でも、やはりこの争いを止めたくてザンカルに近寄った。ザンカルは私に不敵な笑みを見せる。
「見てろリリーカ。お前は絶対に渡さねぇ! あの野郎、ギタギタにしてやるぜ!!」
······あの。タイラントさん。貴方のご親友、喧嘩する気満々なんですが? いや。これは喧嘩する事しか考えていませんよ?
私が冷たい視線をタイラントに向けると、金髪魔族は小さく頷く。いや、だからね。国王様。ザンカル、情報収集する気ないですよ?
「よし! この俺が審判を買って出よう。いいか二人共、俺が合図をしたら決闘開始だ」
誰も呼んでいないに口達者男ハリアスさんがしゃしゃり出る。ザンカルとゴントさんの横に立ち、ハリアスさんは片手をゆっくりと上げる。
「決闘開始!」
突然クリスさんが大声で叫んだ。一言も喋れなかったハリアスさん。いや、もうハリアスでいいや。
ハリアスは片手を上げたまま呆然としていた。貴方はそのまま固まっていて下さい。とにかく、クリスさんの掛け声で決闘は開始された。
······そして、一瞬で決着はついた。ザンカルの右拳がゴントさんの顔面を捉え、ゴントさんの右拳がザンカルの顔にめり込んだ。
二人はしばらくその状態で静止したままだったが、両人共同時に膝が崩れ背中から石畳に倒れた。い、いきなり相討ち!?
私達は二人に駆け寄った。ザンカルは仰向けに倒れたままピクリとも動かない。鼻と口から血を流し完全に失神している。
それはゴントさんも同様だった。タイラントが腰の杖を握り、ソレットさんに冷たい口調で呟いた。
「これでは決着がつかんな。どうだ勇者よ。この二人の続きは私とそなたで行うか?」
あ、あの魔法石の杖! 前に見た黒い光の鞭でタイラントはソレットさんと戦う気? ソレットさんは首を横に振った。
「止めておこう。俺達は戦う為にここに来たのでは無い」
「······勇者よ。その右手は負傷しているのか?」
タイラントの質問に、ソレットさんは右手の包帯を取っていく。包帯の下から見えた右手は黒く染まっていた。な、何これ?
「ある邪神教団を滅ぼした時に受けた呪いだ。この黒い右手で剣を振るうと強大な力を発揮するが、呪いも効力を増し身体を蝕んでいく」
の、呪い? そんな。魔法とかで治せないの?
「諸刃の力か。その呪いを解く方法は無いのか?」
タイラントは魔法石の杖を腰に戻しながら勇者に問いかける。
「今それを探している最中だ。だからなるべく戦いは避けたい」
ソレットさんの穏やかな物言いにタイラントもそれ以上挑発する事は無かった。私は自分の考えを話す時は今だと判断した。
「あ、あのソレットさん。あと仲間の皆さん。私なんかの為にこの城に来てくれてありがとうございます」
口先男約一名を除き、私は三人に頭を下げ感謝した。
「この城に連れて来られた時は、もう駄目かと思いました。込み入った事情が多々あるんですが、今私は自分の意思でこの城で働いています」
······死を覚悟して魔族の親玉を怒鳴りつけた。親玉は私に質問して来た。魔族は人間を殺してはいけないのかと。
妙な性格の親玉だった。親玉の仲間達も変な人達ばかりだ。押し倒すだの、押し倒されないだの、人間の娘の裸が見たいだの。
三人姉妹には常に命を狙われるし。恋に落ちそうになった美形男子は四本腕だし。いつの間にか講義の先生にされるし。
······そして、親玉は親の愛情を知らない困った性格の持ち主だ。
私はどう言えばソレットさん達に伝わるか迷った。私の頭では上手く説明出来ない。私は自分の赤切れだらけの左手を見た。
「全員、食堂に来て下さい!」
私は鍛錬場の出口を指さした。この出口の先に、私の職場がある。そこで私は何をするつもりなのか?
この時の私は、自分の考えに確固たる自信があった訳では無かった。
ここに入った時、汗と鉄を混ぜたような臭いがした。壁や地面の所々に黒い染みが見える。
こ、これって訓練で流された血? 石畳の中央に互いに鎧を脱いだザンカルとゴントさんが向かい合っている。
大柄な二人は身長がほぼ同じだ。胸の厚さも腕の太さも拮抗している。違いがあるとすれば表情だった。
敵意剥き出しのザンカルに対して、ゴントさんは至って冷静だ。この二人はこれから素手で戦う。私を賭けて。
な、なんでこんな事になったの? と、言うか私の意思を無視して皆何をしているの? やっぱりこの喧嘩を止めよう。私がはっきりと主張すれば済む事だ。
私がザンカルの元へ行こうとすると、タイラントが私を呼び止めた。
「娘。何をするつもりだ?」
「何って。ザンカルを止めるのよ。彼、完全に興奮状態よ」
「娘。お前は何も分かっていない。あれはザンカルの演技だ」
え、演技? ザンカルが? な、何の為の?
「勇者達を挑発し、その実力の一端を知る為だ。ザンカルは我が軍最強の戦士。その腕前に奴らがどこまで対抗するか。これは情報収集の一貫なのだ」
······勇者達はいつ魔族である自分達の敵になるか分からない。その時の為に少しでも勇者達の力を知る必要がある。タイラントはそう続けた。
そ、そんな事をザンカルは考えていたの? ごめんなさいザンカル。あなたの事を猪武者みたいって思っちゃった。
でも、やはりこの争いを止めたくてザンカルに近寄った。ザンカルは私に不敵な笑みを見せる。
「見てろリリーカ。お前は絶対に渡さねぇ! あの野郎、ギタギタにしてやるぜ!!」
······あの。タイラントさん。貴方のご親友、喧嘩する気満々なんですが? いや。これは喧嘩する事しか考えていませんよ?
私が冷たい視線をタイラントに向けると、金髪魔族は小さく頷く。いや、だからね。国王様。ザンカル、情報収集する気ないですよ?
「よし! この俺が審判を買って出よう。いいか二人共、俺が合図をしたら決闘開始だ」
誰も呼んでいないに口達者男ハリアスさんがしゃしゃり出る。ザンカルとゴントさんの横に立ち、ハリアスさんは片手をゆっくりと上げる。
「決闘開始!」
突然クリスさんが大声で叫んだ。一言も喋れなかったハリアスさん。いや、もうハリアスでいいや。
ハリアスは片手を上げたまま呆然としていた。貴方はそのまま固まっていて下さい。とにかく、クリスさんの掛け声で決闘は開始された。
······そして、一瞬で決着はついた。ザンカルの右拳がゴントさんの顔面を捉え、ゴントさんの右拳がザンカルの顔にめり込んだ。
二人はしばらくその状態で静止したままだったが、両人共同時に膝が崩れ背中から石畳に倒れた。い、いきなり相討ち!?
私達は二人に駆け寄った。ザンカルは仰向けに倒れたままピクリとも動かない。鼻と口から血を流し完全に失神している。
それはゴントさんも同様だった。タイラントが腰の杖を握り、ソレットさんに冷たい口調で呟いた。
「これでは決着がつかんな。どうだ勇者よ。この二人の続きは私とそなたで行うか?」
あ、あの魔法石の杖! 前に見た黒い光の鞭でタイラントはソレットさんと戦う気? ソレットさんは首を横に振った。
「止めておこう。俺達は戦う為にここに来たのでは無い」
「······勇者よ。その右手は負傷しているのか?」
タイラントの質問に、ソレットさんは右手の包帯を取っていく。包帯の下から見えた右手は黒く染まっていた。な、何これ?
「ある邪神教団を滅ぼした時に受けた呪いだ。この黒い右手で剣を振るうと強大な力を発揮するが、呪いも効力を増し身体を蝕んでいく」
の、呪い? そんな。魔法とかで治せないの?
「諸刃の力か。その呪いを解く方法は無いのか?」
タイラントは魔法石の杖を腰に戻しながら勇者に問いかける。
「今それを探している最中だ。だからなるべく戦いは避けたい」
ソレットさんの穏やかな物言いにタイラントもそれ以上挑発する事は無かった。私は自分の考えを話す時は今だと判断した。
「あ、あのソレットさん。あと仲間の皆さん。私なんかの為にこの城に来てくれてありがとうございます」
口先男約一名を除き、私は三人に頭を下げ感謝した。
「この城に連れて来られた時は、もう駄目かと思いました。込み入った事情が多々あるんですが、今私は自分の意思でこの城で働いています」
······死を覚悟して魔族の親玉を怒鳴りつけた。親玉は私に質問して来た。魔族は人間を殺してはいけないのかと。
妙な性格の親玉だった。親玉の仲間達も変な人達ばかりだ。押し倒すだの、押し倒されないだの、人間の娘の裸が見たいだの。
三人姉妹には常に命を狙われるし。恋に落ちそうになった美形男子は四本腕だし。いつの間にか講義の先生にされるし。
······そして、親玉は親の愛情を知らない困った性格の持ち主だ。
私はどう言えばソレットさん達に伝わるか迷った。私の頭では上手く説明出来ない。私は自分の赤切れだらけの左手を見た。
「全員、食堂に来て下さい!」
私は鍛錬場の出口を指さした。この出口の先に、私の職場がある。そこで私は何をするつもりなのか?
この時の私は、自分の考えに確固たる自信があった訳では無かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる