35 / 52
犯人は貴方です。
しおりを挟む
······私は夢を見ていた。幼友達のラストルが村に帰ってくる夢だ。ラストルは一人では無かった。
銀髪の女性と一緒だ。ラ、ラストル? まさか、その瞳の大きい女性は恋人!? く、悔しい! ラストルに先を越されるなんて。
······リリーカ······リリーカ。あれ? 誰かが私の名前を呼んでいる。目を開いた私は天井を見ていた。
「娘! 気がついたか!」
「リリーカ! 大丈夫か!?」
聴覚を刺激する突然の大声に、寝起きの私は身体が固まった。私はベットの上で寝ており、左右にはタイラントとザンカルの心配そうな顔があった。
「リリーカ。あなた調理室で倒れていたのよ」
シースンが身体を支えてくれ、私はベットから半身を起こした。シースンの話によると、私は調理室のドアを開けたまま倒れたらしい。
司令室に居合わせたメイドが助けを呼んでくれ、たまたま近くにいたリケイが私を運んでくれた······って、リケイに運ばれた!?
私は両手で衣服の上から自分の身体が無事かどうか確認した。な、ななな何をされたの私? この発情魔族に一体何を!?
「リリーカ殿。取り敢えず私の部屋に運ぼうとしましたがザンカル殿と偶然遭遇し、彼がこの部屋に運んでくれました」
リケイがため息をつき、それはもう残念そうに説明する。あ、ありがとうザンカル! あなたが居なかったら私は一巻の終わりだったわ。
「リリーカ殿。あなたが飲んだ紅茶の中から薬の成分が確認されました」
リケイは獲物を取り逃がした猟犬の顔から、理性的な表情に豹変した。く、薬? あの紅茶に?
「ネフィト執事長はカラミィの犯行だと断言した。本人も自分がやったと認めている」
タイラントの言葉に私は驚愕した。カ、カラミィが私に薬を? つ、ついにあの天使の仮面を被った悪魔が行動を起こしたの?
······でも。何か変だ。この違和感は何かしら。何か忘れているような。私は考えがまとまらないままタイラントに申し出た。
「タイラント。カラミィに会わせて」
······この城の地下には、罪人を入れる牢屋があった。私は一人でカラミィとの面会を求め、心配するザンカルの同行を断った。
看守に中央扉を開けてもらい、私はカラミィの牢屋まで歩いて行った。
地下のこの空間は薄暗くかび臭かった。カラミィは鉄格子の向こうで姿勢正しく座っていた。
「······カラミィ。あなた誰かを庇っているの?」
私は何の前触れも無く真相に迫る質問を投げかけた。効果は抜群だった。突然の私の訪問と質問。
カラミィの表情は強張っていた。私は確信した。犯人はカラミィでは無い。私は牢屋を出てメイド達の司令室に向かった。
その途中でハクランとエマーリが私に駆け寄って来た。
「リリーカ様! カラミィ姉さんの犯行って本当なの?」
「何かの間違いですよー! カラミィ姉が捕まるヘマをする筈が無いですー!」
私は二人の顔を一瞥し一つだけ確認した。
「ハクラン。エマーリ。紅茶に薬を入れたのは、あなた達じゃないわよね?」
二人は首を横に振る。私がやるならナイフでひと刺し。私がやるなら後ろから花瓶を後頭部に叩きつける。ハクランとエマーリはそう言い切った。
今後ハクランの間合いに近づく事を避け、後方には常に気を配ろう。うん。そんな物騒な犯行手口を自信満々に聞かされ私は頷いた。
「安心して二人とも。犯人はカラミィじゃないわ」
私は二人にある人を調理室に呼んでもらうよう頼んだ。そして、程なくしてその人は調理室に現れた。
「リリーカ様。もう出歩いて大丈夫なのですか?」
長身の老紳士が、私の前に立っている。私は薬が入っていた紅茶のポットに手をやり、黒服をまとった男と向き合う。
「······犯人は貴方ですね。ネフィト執事長」
重たい沈黙の空気が、広くもない調理室を張り詰めていく。ネフィトさんは僅かに首を傾け、私を見下ろすように口を開く。
「リリーカ様。何の事でしょうか? 私には身に覚えがありません」
「ネフィトさん。貴方はカラミィを犯人に仕立て上げ、私をこの城から追い出そうとした。違いますか?」
「これは異な事を。カラミィ本人が罪を認めているではありませんか」
「カラミィは庇っているんです。妹であるハクランとエマーリを。カラミィは今回の事件である考えが頭を過りました。もしかしてこの犯行は、妹達のどちらかがやったのではないかと」
私とカラミィの共通点。それは、タイラントの近くにいる女性と言う点だ。村からやって来た人間の娘。
国王に想いを寄せる身分違いのメイド。ネフィトさんは、そんな私とカラミィを同時に排除しようとしたのではないだろうか?
私に無茶な量の仕事をさせ、音を上げて村に帰ると思ったが思いの外人間の娘はしぶとく帰らなかった。
そして私に薬を飲ませた。私はリケイに確認した。本来その薬は、麻酔を作る時に必要な成分らしい。紅茶に入れられた薬は微量であり、健康であれば影響は少ない。
でも疲労困憊の私に僅かな量でも効果はあった。日中の仕事後、私がいつも調理室にいる事をネフィトさんは知っていた。
私の仕事が終わる時間を見計らって、紅茶ポットに薬を入れたのだ。ネフィトさんは美人三姉妹の私への殺意を知っていた。
私が倒れた後、ネフィトさんはカラミィを尋問した。カラミィが妹達を庇う為に、自分が罪を被る事を知っていて。
そして薬を盛られたと知った私は、この城が恐ろしくなり村に逃げ帰る。それが、執事長の描いたシナリオではないか。
「······参りましたな」
突然、ネフィトさんの雰囲気が変わった。穏やかな細い目が開き鋭い眼光が私を射抜く。こ、この人怖い!
「······なかなか賢いお嬢さんだ。貴方は」
調理室という密室で、私は蛇に睨まれたカエルのように動けなかった。
銀髪の女性と一緒だ。ラ、ラストル? まさか、その瞳の大きい女性は恋人!? く、悔しい! ラストルに先を越されるなんて。
······リリーカ······リリーカ。あれ? 誰かが私の名前を呼んでいる。目を開いた私は天井を見ていた。
「娘! 気がついたか!」
「リリーカ! 大丈夫か!?」
聴覚を刺激する突然の大声に、寝起きの私は身体が固まった。私はベットの上で寝ており、左右にはタイラントとザンカルの心配そうな顔があった。
「リリーカ。あなた調理室で倒れていたのよ」
シースンが身体を支えてくれ、私はベットから半身を起こした。シースンの話によると、私は調理室のドアを開けたまま倒れたらしい。
司令室に居合わせたメイドが助けを呼んでくれ、たまたま近くにいたリケイが私を運んでくれた······って、リケイに運ばれた!?
私は両手で衣服の上から自分の身体が無事かどうか確認した。な、ななな何をされたの私? この発情魔族に一体何を!?
「リリーカ殿。取り敢えず私の部屋に運ぼうとしましたがザンカル殿と偶然遭遇し、彼がこの部屋に運んでくれました」
リケイがため息をつき、それはもう残念そうに説明する。あ、ありがとうザンカル! あなたが居なかったら私は一巻の終わりだったわ。
「リリーカ殿。あなたが飲んだ紅茶の中から薬の成分が確認されました」
リケイは獲物を取り逃がした猟犬の顔から、理性的な表情に豹変した。く、薬? あの紅茶に?
「ネフィト執事長はカラミィの犯行だと断言した。本人も自分がやったと認めている」
タイラントの言葉に私は驚愕した。カ、カラミィが私に薬を? つ、ついにあの天使の仮面を被った悪魔が行動を起こしたの?
······でも。何か変だ。この違和感は何かしら。何か忘れているような。私は考えがまとまらないままタイラントに申し出た。
「タイラント。カラミィに会わせて」
······この城の地下には、罪人を入れる牢屋があった。私は一人でカラミィとの面会を求め、心配するザンカルの同行を断った。
看守に中央扉を開けてもらい、私はカラミィの牢屋まで歩いて行った。
地下のこの空間は薄暗くかび臭かった。カラミィは鉄格子の向こうで姿勢正しく座っていた。
「······カラミィ。あなた誰かを庇っているの?」
私は何の前触れも無く真相に迫る質問を投げかけた。効果は抜群だった。突然の私の訪問と質問。
カラミィの表情は強張っていた。私は確信した。犯人はカラミィでは無い。私は牢屋を出てメイド達の司令室に向かった。
その途中でハクランとエマーリが私に駆け寄って来た。
「リリーカ様! カラミィ姉さんの犯行って本当なの?」
「何かの間違いですよー! カラミィ姉が捕まるヘマをする筈が無いですー!」
私は二人の顔を一瞥し一つだけ確認した。
「ハクラン。エマーリ。紅茶に薬を入れたのは、あなた達じゃないわよね?」
二人は首を横に振る。私がやるならナイフでひと刺し。私がやるなら後ろから花瓶を後頭部に叩きつける。ハクランとエマーリはそう言い切った。
今後ハクランの間合いに近づく事を避け、後方には常に気を配ろう。うん。そんな物騒な犯行手口を自信満々に聞かされ私は頷いた。
「安心して二人とも。犯人はカラミィじゃないわ」
私は二人にある人を調理室に呼んでもらうよう頼んだ。そして、程なくしてその人は調理室に現れた。
「リリーカ様。もう出歩いて大丈夫なのですか?」
長身の老紳士が、私の前に立っている。私は薬が入っていた紅茶のポットに手をやり、黒服をまとった男と向き合う。
「······犯人は貴方ですね。ネフィト執事長」
重たい沈黙の空気が、広くもない調理室を張り詰めていく。ネフィトさんは僅かに首を傾け、私を見下ろすように口を開く。
「リリーカ様。何の事でしょうか? 私には身に覚えがありません」
「ネフィトさん。貴方はカラミィを犯人に仕立て上げ、私をこの城から追い出そうとした。違いますか?」
「これは異な事を。カラミィ本人が罪を認めているではありませんか」
「カラミィは庇っているんです。妹であるハクランとエマーリを。カラミィは今回の事件である考えが頭を過りました。もしかしてこの犯行は、妹達のどちらかがやったのではないかと」
私とカラミィの共通点。それは、タイラントの近くにいる女性と言う点だ。村からやって来た人間の娘。
国王に想いを寄せる身分違いのメイド。ネフィトさんは、そんな私とカラミィを同時に排除しようとしたのではないだろうか?
私に無茶な量の仕事をさせ、音を上げて村に帰ると思ったが思いの外人間の娘はしぶとく帰らなかった。
そして私に薬を飲ませた。私はリケイに確認した。本来その薬は、麻酔を作る時に必要な成分らしい。紅茶に入れられた薬は微量であり、健康であれば影響は少ない。
でも疲労困憊の私に僅かな量でも効果はあった。日中の仕事後、私がいつも調理室にいる事をネフィトさんは知っていた。
私の仕事が終わる時間を見計らって、紅茶ポットに薬を入れたのだ。ネフィトさんは美人三姉妹の私への殺意を知っていた。
私が倒れた後、ネフィトさんはカラミィを尋問した。カラミィが妹達を庇う為に、自分が罪を被る事を知っていて。
そして薬を盛られたと知った私は、この城が恐ろしくなり村に逃げ帰る。それが、執事長の描いたシナリオではないか。
「······参りましたな」
突然、ネフィトさんの雰囲気が変わった。穏やかな細い目が開き鋭い眼光が私を射抜く。こ、この人怖い!
「······なかなか賢いお嬢さんだ。貴方は」
調理室という密室で、私は蛇に睨まれたカエルのように動けなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる