ダウナー先輩OLは、今日も後輩くんを好きなことに気付かない。

戸松

文字の大きさ
5 / 10

第5話 恋雪は今日もごまかした

しおりを挟む
 出張は何事もなく終わり、また会社での仕事に戻ってきた二人。士郎は恋雪が出張先での曖昧な物言いを引きずっていた。

(先輩って、やっぱり俺のことそう思ってんのかな……)

 本人には聞かない。というよりは聞けないのだ。先輩と後輩という立場上、仕事に支障をきたすようなことをしてはならないし、相手にもさせてはならない。

 だから踏みとどまっている。踏みとどめている。もどかしい気持ちが心にありながら、それを解決する手段を封じられていることは、どうにもじれったく苦しく感じられるだろう。

 士郎は恋雪の方をチラチラと確認しながら、隙を見てじっくり観察する。

(察してほしいわけじゃないのに、なんでだろう……)

 一つため息をつき、タイピングに戻った。

 士郎は優しく押しつつも、あくまで先輩後輩の距離を保っている。いつかもっと近くにいたいと思うくらいの静かな尊重を残している。優しい青年は今日も仕事に励んでいる。





 雨の日の帰り。会社の近辺に駅がある。構内には小さなベンチが置かれており、二人が並んで座っていた。ザーザーと強く降っていて、雨宿り中のことだった。

 二人で仕事を終え、帰路につく頃、急な雨が降ってきた。折り畳み傘は一本。結局、ベンチで並んで座って雨が弱まるのを待っている。

「折りたたみ、一本だけで申し訳なかったです。濡れずにすんでよかったですけど……」

「……ううん。結城さんの肩……ちょっと濡れてましたよ……。……私のほうが、守られてた」

「それは、当然ですよ。先輩、髪乾かすの大変そうですし」

「……ほんと……ずるい……。いつも、そうやって……何気なく優しくして……」

「え、僕そんなにずるいですか?」

「……うん。ずるい。……私、たまに、勘違いしそうになるんですから」

 ぽつりと言ったあと、はっとしたように、恋雪は言葉を止めてしまう。

「……勘違いって、どんな……?」

「……なんでも、ないです……。……そういうの、口に出したら、終わっちゃいそうで……」

 士郎がなにかを言いかけて、でも止める。沈黙が流れる。

「……ねえ、結城さん。……私のこと、ほんとにただの先輩として見てます?」

「……そんなこと、ないですよ」

「……じゃあ、どういう……?」

「東雲先輩は、僕の特別な先輩なんです。言葉にすると軽くなりそうで、まだ言えてませんけど」

「……そういうの……言わないでください……。期待、したくないのに……」

「したっていいと思いますよ。少なくとも、僕は、裏切るようなことは、しませんから」

 恋雪が唇を噛むようにうつむき、ぼそりとつぶやく。

「……じゃあ、そばにいてくださいね。……たとえ私が、怖くなって逃げたとしても……」

「もちろんです。逃げるなら、ちゃんと僕の前からで逃げてください。追いつきますから」

「……もうほんと……そういうの……やめて……。本気になっちゃう……」

 そして、言ったあとすぐ自分でかぶせる。

「……って、うそ……です。いまの、忘れて……ください」

 恋雪は今日もごまかした。



 ◇◇◇◇



 士郎と恋雪と別の部署である同僚(女性)たち二人が、同じく駅の構内でうわさ話をしている。オフィスには複数の部署があり、士郎と恋雪とは離れた位置に、異なる部署の同僚たちが仕事をしているデスクがある。

 仕事が終わり、帰るために駅に来ているのだろう。そして二人を見つけたところだ。並んで座るベンチ、誰も触れられない時間を過ごす二人。

「……あのふたり、もう完全に両想いでしょ……」

「でもなんか、先輩のほうが自分は好かれないって思い込んでる感あるよね……」

「見てるこっちがじれったいんだけど……」

「あー、なんか月9のドラマ見てるみたいな感じするわー。ひゃーロマンチックねー」

「チュクチューンって音楽流したいな~」

 面白がっている同僚たちだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

貞操逆転世界で出会い系アプリをしたら

普通
恋愛
男性は弱く、女性は強い。この世界ではそれが当たり前。性被害を受けるのは男。そんな世界に生を受けた葉山優は普通に生きてきたが、ある日前世の記憶取り戻す。そこで前世ではこんな風に男女比の偏りもなく、普通に男女が一緒に生活できたことを思い出し、もう一度女性と関わってみようと決意する。 そこで会うのにまだ抵抗がある、優は出会い系アプリを見つける。まずはここでメッセージのやり取りだけでも女性としてから会うことしようと試みるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...