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第二幕〈再会〉
春の嵐 11
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風もさわやかだし、陽射しも申し分ない。
ここ数日の天気の良さもあってか、ノエル領の城下は午後からの市で賑わっている。
「おい、そろそろ河岸変えるぞ」
「あー…、あ。なぁ、ちょっとまて。女物の小間物っておまえ詳しい?」
おんなもの? という顔でクラウドは書店の軒先に立つレスタをふりむいた。
図版も書籍も扱う店内は、ノエルの領内でも指折りの品数を誇る。印刷物特有の紙の匂いにつつまれて、至極ご満悦といったようすで書架の背表紙を眺めていたレスタは、視線で問い返してきたクラウドに結婚式、と短く答えた。
「…ああ。例の」
「そ。日数的には今日か、遅くとも明日には到着の先触れがノエルに届くんだよな。いくら略式でも花嫁の被り物ぐらいは要るんじゃなかろうかと」
で、詳しい? とレスタはくりかえした。クラウドはあきれたように肩をすくめた。
「詳しいと思ってんのかよ」
「だよな。女たらしの種類が違うもんな」
分類としては貢ぐ側ではなく貢がれる側だ。もはや色恋をすっ飛ばしてその身分と立場的にも。
「ていうか当人見てからにすれば。仮に到着が今日だとしても明日いきなり挙式ってほど急ぎでもねえだろ」
「…てめーにしてはまともな参考意見をありがとう。確かにそうだ、顔も知らねえし」
書店を出たレスタは、クラウドと並んで賑わう表通りを歩きだした。
極めて目立つ容姿をふたつ並べて、そのくせ人目を忍ぶ気配すらない大胆不敵なふたり連れは、お忍びというより単に私的な市中散策という風情だ。
どちらも明らかに高位の身分だと分かるが、外見だけで素性が知れるほど王族や貴族の詳細が市井に流れているわけもない。
加えてここ数日はずっと上天気で、わざわざ顔や頭を隠して出歩くことほど露骨なこともねえよ、というレスタの発言のもと、注目されるのに慣れているふたりは以前と同じように賑わいを歩いた。
さて、思いがけず龍神との再会を果たしたあの日以降、レスタはおとなしく静養する日々に幕を降ろした。
生憎と何らかの恩恵でもって怪我が治ったというような都合のいい計らいはなく、自分の足で歩けるからには自分で歩いて外出する、という意向を実践したに過ぎない。
さいわい右足の怪我は包帯も取れて完治した。右手の怪我はまだ添え木も取れないが、歩けなかったときレスタはずっと退屈していたし、馬に乗りたいとも言っていた。
また行き先は勝手知ったるノエルの城下で、馬の手綱はクラウドが持つという。
レスタは渋る城代に言った。
「馬にはひとりで乗らなきゃいいんだろ。だったら手綱はクラウドにまかせる。表通り以外の胡散臭い場所にも行かない。それならいいよな?」
クラウドは淡々と呟いた。
「…おまえが言うとぜんぶ反故にするつもりに聞こえるわ」
「……俺っていったい」
クラウドの指摘は城代の心配そのままだったが、もちろんクラウドもそんな城代の心配を無碍にする気はない。
きっとリヒトが聞いたら驚くだろうが、クラウドはこの好々爺然とした老練の城代に好感を持っている。それは初見のときから不思議としっくり馴染んでいる相互の信頼に基づくものだ。
「どっちにしろ今回俺はおまえのお守り役だ。いい子にしてろよ」
「俺はいつでもいい子だろうがよ」
「だそうだ、城代」
「………」
そこで城代は溜息を吐き、他の侍従らの不安をひとまず収めた。
その後ノエルの市街警備に連絡を入れさせ、ジェイドたち近衛に少数での私服警護を指示した城代は、クラウドに一礼して粛々と告げた。
「くれぐれも、度を超したわがままなどお聞きになりませんよう」
「承知した」
クラウドは喉奥で笑いを堪えながら応えた。
かくして、レスタはノエルの市中散策という新たな日々を手に入れた。
実に二年ぶりのことである。
+ + +
貴族女性の旅は支度も道程も大変だが、ここ数年で飛躍的に数が増えた。
舗装整備はもちろんのこと、旅路の安全確保に各領主が注力したことで行程や宿泊の困難が減り、近隣だけでなく遠隔地への物見遊山にも出掛ける貴族が多くなったためらしい。
とはいえ到着までに数日を要する旅行というのは、やはりなかなかに難しい道楽のひとつだ。ゆえに貴族のあいだでも特に手間暇の掛かる娯楽として定着していた。
金と膨大な時間を消費してはじめて成立する旅行こそ、見栄を張りたがる者にとっては何よりの贅沢らしかった。
「でもそれは金銭よりも時間を持て余したひとの偏った考えね…。実際は誰しもそんなに暇ではないし、三日も四日も馬車で移動するのはとても大変」
王都からの旅路の途中、日々の華やかな装いを身軽な平服へと変えた貴族の姫君は、少しの退屈と疲労を滲ませた声で言った。
長い髪は後ろにきちんと編み込んで、上衣は衿の高いブラウスと短めの套衣、下衣はスカートの下にふっくらとしたズロースを重ねて踵のない編み上げのブーツを履いている。
見たところ裕福な町娘のような装いだったが、やはり纏う雰囲気はまったく違った。
「そう考えると、ナーガの中央までお出向きになったユアル様はご立派だわ。一度も、王都を離れたこともなかったのに」
「異国の旅路ですものね。よほどレスタ様にお会いしたかったということでしょう」
「あら、でもそれは貴女も…」
「エレナ様、わたくしごときを引き合いに出すものではございません」
ノエルの領都へと向かう馬車の中、向かいに腰掛けた公爵令嬢の揶揄にマリアは声を強めた。それを受けて淑やかに笑ったエレナは、領都へと近づきつつある辺境の風景を車窓越しに眺め、でも、ともう一度やんわりとくりかえした。
「本当のことだからいいのよ。ひと使いの荒い殿下は手っとり早くキアム殿を連れ帰らせるためだけに貴女を呼んだのかもしれないけど、その思いつきに二つ返事で応えた貴女は大したものだわ」
「手助けを買って出てくださったエレナ様も大したものです」
「意外な相談ごとだったからよ」
ハルクの書簡はノエルの名で正式に届けられた。すぐにも返事をしたためて遣いを送り返したマリアは、突然の旅(それも遠路の)の理由について、親交のあった公爵令嬢に相談を持ち掛けた。
エレナはノエル辺境伯爵家のハルクとも、いまではユアルを通じて浅からぬ親交がある。話を聞いた彼女は、それなら、と自ら旅路の同行を申し出た。
最初に旅に誘ったのはエレナのほうからということにして、シャンテ伯爵の不審をかわす一役を買ったのだ。
決してお転婆ではないものの、物怖じせず真っ直ぐな気性のエレナにとって、困っているマリアを放っておけなかったというのも大きな理由のひとつだが、それ以上にマリアを呼び寄せたのがあのレスタだと知らされて、協力する気になったというのもある。
根拠はないが、悪いようにはならない気がしたのだ。
そしてその一方で、事態があまり大きくならなければいいが、とも思った。
何しろレスタの影響力は目に見えるものも見えないもの、もかなり大きい。それでいて外野など気にせずやりたいようにやってしまうので、その型破りの行動力には賛否の山が出来あがる。
この二年、とてもあのユアルの兄とは思えないレスタの言動に、エレナは何度も溜息をついた。母親の面影を残す美しい顔立ちも同様で、父親似のユアルとはあまり似ていない。
けれど無難な型にはまりがちな宮廷貴族では比較にならないほど、レスタの視野は広く、そして柔軟で、的確な牽引者の才覚を持っていた。ユアルに対する要求の高さに誰もが無理難題だと首を振っても、その努力と実力を引きあげる後押しの加減は絶妙で、ユアルは少しずつ、そして確実に、ものごとの表裏や正道邪道といった世の在りようを理解しつつある。
レスタの外見を厭う者でさえ、その見識と指導力については精度の高い人物であると認めざるを得なかった。誰もが舌を巻くほどの傑物なのだと。
それなのに、レスタはこの国の王にはならない。
前例をぶち壊す革新の王として君臨するとは言わなかった。
ユアルの後ろ盾になったことで、補佐役としての任を担うということで宮廷側の認識は一致しているが、実際のところレスタ本人はそんなことは一度も明言していない。
トロワ王弟殿下との今後の交流や立ち位置についても。
「…トロワ殿下は、レスタ様とどんなお話をされたんでしょうね」
ぽつりとマリアが呟いて、物思いに沈みかけていたエレナは引き戻されるように視線を向けた。
「そうね。…もともとあまり交流もお持ちでないし、トロワ殿下は物静かな方のようにお見受けしているけれど、一方のレスタ様はけっこうな短気者だし…」
「そのお話、レスタ様って本当にそうなんですか?」
黒い眸を瞬いて、マリアは少しだけ意外そうな驚きをその表情に垣間見せた。
女性ながら凛と冴えた印象のあるマリアは、華やかな話題にばかり関心を示す多くの貴族令嬢とは一線を画し、ふわふわとした浮つきを好まない毅然とした一面を持っている。それがエレナと気の合う所以でもある。
「レスタ様といえば、遠目でもとても鋭利な印象の方だというのはわかります。けれど…、」
「短気者には見えない?」
「…というより、何となく底が知れません。上手く説明できませんが…」
的確な言葉が見つからないようで、マリアは考える顔で黙り込んだ。エレナは楽しげに目を細めた。
「そうね。レスタ様の短気は気性というよりむしろ示唆ね。相手に対して、もっと早くとか、もっと出来るはずだとか。だから追い立てられて急かされる心地になる反面、実際に出来る者はそうやって底上げされていくの。どんなに無理だって嘆いても諦めない者は最後まで努力するし、そういう相手にこそ高い要求を突きつける。多くではなくひとつを高く。そうやって目標に到達できたら喜ぶことで誉めるのよ。よくやった、って。ユアル様の教育方針もそうね」
「…よくやった。…それだけですか?」
「ええ、だいたいそう。よくやった、よく頑張った。…誉めるというより一緒に喜ぶの。でもユアル様にはそれが何より嬉しいみたいよ。親身な感じがするからかしらね」
「…親身」
宮廷ではあまり聞き慣れない言葉だ。
「普段から兄上こわい、ってものすごく怖がってるくせに、ご一緒のときは片ときも離れずにもうべったり。仲のよいご兄弟なのは結構なんだけど」
「…目に浮かびます」
マリアは、ふたりの王子について楽しげに語る公爵令嬢に微笑んだ。笑みが自然と優しくなっていた。
「エレナ様も、レスタ様をお慕いしていらっしゃるのね」
「あら、もちろんよ。とても厳しくて容赦もない方だけど、心から尊敬しているわ」
否定をくちにしなかったエレナは悪戯っぽくマリアを見て、それからやわらかく溜息をついた。
「でも、ちょっと寂しいわ。レスタ様はわたくしからユアル様を取りあげた張本人のような方ですもの。少年らしく行動的になられたのは嬉しいのだけど、以前はあんなにおとなしかったのに」
レスタの影響だと思われるのは、もはや勉学だけではない。馬術も剣術も、果ては体術にいたるまで、近頃では王子としての手習いの域を超えた鍛錬と修得に励んでいる。
「男の子ですもの、喜ばしいと思わなくては」
「でもね、兄上に頼りにされるような男になる、というのが目標らしいの。それを聞いてお付きの侍従たちも笑っていたわ。いずれは大事な姫君をお守りするための剣になさいませ、兄上様もそれを期待しておられますからね、ですって」
エレナもマリアも鈴の音のようにころころと笑った。
ふたりの姫君は、時折そうして他愛のない談笑を挟みながら、やがてようやくとなるノエル領の都へと入っていった。
景色は一気に平坦な田園風景から街並みの景観へと移り変わり、彼女たちも暫くはそれぞれの車窓を黙って眺めた。
ノエルの屋敷は城壁の周りを堀で囲った砦造りの典型的な城だ。城を中心に円を描くように城下町が広がり、さらにその外周を下町の賑わいが取り囲んでいる。
いま現在レスタが静養している西の離宮は、ここよりさらに国境に程近い領都の郊外にあるらしい。
「レスタ様はこちらの城下をよく散策なさったらしいわ」
ひとりごとのようにエレナは言った。
「…ほんとは、レスタ様ほど玉座にふさわしい方もいらっしゃらないでしょうに」
けれど物事はそう単純には運ばない。
「キアムさまもそんなことを仰っていました。…だからこそ、トロワ殿下も直接競い合うことを望まれておいでなのだと」
「そう…。やっぱり殿方というのはなかなかに複雑ね…」
王弟の側近の中でもタカ派といわれているレグゼン伯爵家の継嗣も、心の奥ではレスタのことを正しく高く評価している。
だからこそトロワのためにその存在を疎みもするし、主君の好敵手として敬意も抱く。確かに宮廷の男たちの事情は複雑だ。
「心のうちでは誰より感服していらっしゃるのかもしれないわね。トロワ殿下もキアム殿も。そうでなければ意識などしないもの」
呟いたエレナにマリアも無言で頷いた。
確かに殿方は難しい。特に貴族というのは常に面子や体面や外聞を気にして、ふたことめには家柄だ家格だ格式だのと。
彼らは着飾る貴婦人たち以上に、見栄や自尊心という衣装を身に纏っているようなものだ。
おかげで着ぶくれてしまった人間もいる。
冷静にマリアはそう思った。己の父親のことだった。
「………」
賑わいはもうだいぶ近い。それだけ城下が近いのかも知れない。
再び沈黙が落ちた。そのとき馬車ではない単騎の蹄の音が近づいてくるのが聞こえた。護衛の隊列からは制するような誰何の声も。
なにごとかと思ったところで、エレナたちの耳に届いたのは思いもよらない人物の名前だった。
「身を乗り出すな、レスタ」
馬蹄に紛れてはいたが、間違いなくそう聞こえた。彼女たちはとっさに顔を見合わせた。
蹄の音はすぐ近くで響いており、併走に従ったのか馬車の速度は少しずつ緩やかに落とされていった。
マリアは思わず揺れる車窓から外へと顔を覗かせた。それに倣ってエレナもマリアの背後から隙間を見やった。はっきり見えたのは御者の横についた一頭の馬と、それに乗った人物の黒髪と背中だった。
けれど、おそらくその人物ひとりではない。ふたりで一頭の馬に同乗しているようだ。
ひとりは漆黒の髪を背に流した男で、もうひとりは見間違いようもない、陽にきらめく金色の。
「ああ、いいから停まるな。往来なんだからそのまま走らせろ。――シャンテの娘も一緒か? エレナも?」
「おい、窓見てみろ。顔ふたつ覗いてる」
手綱を持つ男に促されて、レスタはひょいと馬車の窓をふりむいた。
「レスタ! 貴方こんなところで何してるの…!!」
同時にエレナが怒鳴りつけた。
その後、ほどなくしてホルスト公爵家の家紋を標した旅馬車は、無事にノエルの屋敷へと到着を果たした。
思いもかけない旅路の結末にエレナはどっと疲れ果て、マリアもまた予期せぬかたちでのレスタとの対面に驚きを隠せないようだった。
エレナからの先触れを受け、新たな客人を出迎えに立ったハルクも、同じくその場に臨席したトロワも、そして恋人の到着を待ちかねていたキアムも皆いちように、異国の友人とともに突然現れたレスタの姿に目をまるくした。
しかも公爵令嬢は到着早々からおかんむりだ。
キアムはとりあえず今回の長旅を労って恋人との抱擁を交わしたが、そのあとはぽかんとしながらエレナに叱られているレスタを眺めた。その隣のトロワもまったく同じ表情だ。
「信じられない! 利き腕が使えないのに馬に乗るなんて! 貴方は静養でここに来てるのよ? 少しは周りの心配を考えてちゃんと安静にしてくれないと、ハルク殿までお父上に叱られることになるでしょう?!」
「あーはいはい分かった分かった」
「これが分かってる人間のすることですか!! だいたい貴方…――」
「あああああのあのエレナ姫ちょっと落ち着いて…」
ハルクがおろおろと割って入る。レスタはあとは任せたという顔でハルクの大きな腕をぽんと叩くと、玄関広間の隅に立つトロワのほうへ近づいていった。
「…驚いた。突然どうしたんだ…? 先触れでは公爵令嬢と一緒にマリア姫が到着するとしか…」
トロワの問いにレスタは軽く肩をすくめた。
「いや、城下で公爵家の馬車を見つけたんで声掛けただけ。単なる偶然」
「偶然って……、結局その怪我で城下に遊びに出てたのか…」
「馬の手綱だって持ってないだろ。散策ぐらいやらせろよ」
レスタはひらひらと左手を振った。聞き咎めたエレナはキッとなってふりむいた。
「ちょっと! どういうこと!」
「…うるせぇ女だな」
二度目に割って入った声は険を含んだものだった。
途端にその場の空気は水を打ったようにしんと静まりかえった。
そこで初めて、エレナはレスタの傍らに立つ見知らぬ人物へと視線を向けた。
「………」
異国の身なりに、国に依ってはある種の権威を示すという長いドレッドロックスの混じる髪。無頼のように他を威圧する気配を全身に纏いながら、そんな輩でないことはただならぬ風格ですぐにも分かる。
剣呑な光を湛えた金の双眸が、冷ややかな眼差しで公爵令嬢を一瞥した。
ひやり、とした。
ここ数日の天気の良さもあってか、ノエル領の城下は午後からの市で賑わっている。
「おい、そろそろ河岸変えるぞ」
「あー…、あ。なぁ、ちょっとまて。女物の小間物っておまえ詳しい?」
おんなもの? という顔でクラウドは書店の軒先に立つレスタをふりむいた。
図版も書籍も扱う店内は、ノエルの領内でも指折りの品数を誇る。印刷物特有の紙の匂いにつつまれて、至極ご満悦といったようすで書架の背表紙を眺めていたレスタは、視線で問い返してきたクラウドに結婚式、と短く答えた。
「…ああ。例の」
「そ。日数的には今日か、遅くとも明日には到着の先触れがノエルに届くんだよな。いくら略式でも花嫁の被り物ぐらいは要るんじゃなかろうかと」
で、詳しい? とレスタはくりかえした。クラウドはあきれたように肩をすくめた。
「詳しいと思ってんのかよ」
「だよな。女たらしの種類が違うもんな」
分類としては貢ぐ側ではなく貢がれる側だ。もはや色恋をすっ飛ばしてその身分と立場的にも。
「ていうか当人見てからにすれば。仮に到着が今日だとしても明日いきなり挙式ってほど急ぎでもねえだろ」
「…てめーにしてはまともな参考意見をありがとう。確かにそうだ、顔も知らねえし」
書店を出たレスタは、クラウドと並んで賑わう表通りを歩きだした。
極めて目立つ容姿をふたつ並べて、そのくせ人目を忍ぶ気配すらない大胆不敵なふたり連れは、お忍びというより単に私的な市中散策という風情だ。
どちらも明らかに高位の身分だと分かるが、外見だけで素性が知れるほど王族や貴族の詳細が市井に流れているわけもない。
加えてここ数日はずっと上天気で、わざわざ顔や頭を隠して出歩くことほど露骨なこともねえよ、というレスタの発言のもと、注目されるのに慣れているふたりは以前と同じように賑わいを歩いた。
さて、思いがけず龍神との再会を果たしたあの日以降、レスタはおとなしく静養する日々に幕を降ろした。
生憎と何らかの恩恵でもって怪我が治ったというような都合のいい計らいはなく、自分の足で歩けるからには自分で歩いて外出する、という意向を実践したに過ぎない。
さいわい右足の怪我は包帯も取れて完治した。右手の怪我はまだ添え木も取れないが、歩けなかったときレスタはずっと退屈していたし、馬に乗りたいとも言っていた。
また行き先は勝手知ったるノエルの城下で、馬の手綱はクラウドが持つという。
レスタは渋る城代に言った。
「馬にはひとりで乗らなきゃいいんだろ。だったら手綱はクラウドにまかせる。表通り以外の胡散臭い場所にも行かない。それならいいよな?」
クラウドは淡々と呟いた。
「…おまえが言うとぜんぶ反故にするつもりに聞こえるわ」
「……俺っていったい」
クラウドの指摘は城代の心配そのままだったが、もちろんクラウドもそんな城代の心配を無碍にする気はない。
きっとリヒトが聞いたら驚くだろうが、クラウドはこの好々爺然とした老練の城代に好感を持っている。それは初見のときから不思議としっくり馴染んでいる相互の信頼に基づくものだ。
「どっちにしろ今回俺はおまえのお守り役だ。いい子にしてろよ」
「俺はいつでもいい子だろうがよ」
「だそうだ、城代」
「………」
そこで城代は溜息を吐き、他の侍従らの不安をひとまず収めた。
その後ノエルの市街警備に連絡を入れさせ、ジェイドたち近衛に少数での私服警護を指示した城代は、クラウドに一礼して粛々と告げた。
「くれぐれも、度を超したわがままなどお聞きになりませんよう」
「承知した」
クラウドは喉奥で笑いを堪えながら応えた。
かくして、レスタはノエルの市中散策という新たな日々を手に入れた。
実に二年ぶりのことである。
+ + +
貴族女性の旅は支度も道程も大変だが、ここ数年で飛躍的に数が増えた。
舗装整備はもちろんのこと、旅路の安全確保に各領主が注力したことで行程や宿泊の困難が減り、近隣だけでなく遠隔地への物見遊山にも出掛ける貴族が多くなったためらしい。
とはいえ到着までに数日を要する旅行というのは、やはりなかなかに難しい道楽のひとつだ。ゆえに貴族のあいだでも特に手間暇の掛かる娯楽として定着していた。
金と膨大な時間を消費してはじめて成立する旅行こそ、見栄を張りたがる者にとっては何よりの贅沢らしかった。
「でもそれは金銭よりも時間を持て余したひとの偏った考えね…。実際は誰しもそんなに暇ではないし、三日も四日も馬車で移動するのはとても大変」
王都からの旅路の途中、日々の華やかな装いを身軽な平服へと変えた貴族の姫君は、少しの退屈と疲労を滲ませた声で言った。
長い髪は後ろにきちんと編み込んで、上衣は衿の高いブラウスと短めの套衣、下衣はスカートの下にふっくらとしたズロースを重ねて踵のない編み上げのブーツを履いている。
見たところ裕福な町娘のような装いだったが、やはり纏う雰囲気はまったく違った。
「そう考えると、ナーガの中央までお出向きになったユアル様はご立派だわ。一度も、王都を離れたこともなかったのに」
「異国の旅路ですものね。よほどレスタ様にお会いしたかったということでしょう」
「あら、でもそれは貴女も…」
「エレナ様、わたくしごときを引き合いに出すものではございません」
ノエルの領都へと向かう馬車の中、向かいに腰掛けた公爵令嬢の揶揄にマリアは声を強めた。それを受けて淑やかに笑ったエレナは、領都へと近づきつつある辺境の風景を車窓越しに眺め、でも、ともう一度やんわりとくりかえした。
「本当のことだからいいのよ。ひと使いの荒い殿下は手っとり早くキアム殿を連れ帰らせるためだけに貴女を呼んだのかもしれないけど、その思いつきに二つ返事で応えた貴女は大したものだわ」
「手助けを買って出てくださったエレナ様も大したものです」
「意外な相談ごとだったからよ」
ハルクの書簡はノエルの名で正式に届けられた。すぐにも返事をしたためて遣いを送り返したマリアは、突然の旅(それも遠路の)の理由について、親交のあった公爵令嬢に相談を持ち掛けた。
エレナはノエル辺境伯爵家のハルクとも、いまではユアルを通じて浅からぬ親交がある。話を聞いた彼女は、それなら、と自ら旅路の同行を申し出た。
最初に旅に誘ったのはエレナのほうからということにして、シャンテ伯爵の不審をかわす一役を買ったのだ。
決してお転婆ではないものの、物怖じせず真っ直ぐな気性のエレナにとって、困っているマリアを放っておけなかったというのも大きな理由のひとつだが、それ以上にマリアを呼び寄せたのがあのレスタだと知らされて、協力する気になったというのもある。
根拠はないが、悪いようにはならない気がしたのだ。
そしてその一方で、事態があまり大きくならなければいいが、とも思った。
何しろレスタの影響力は目に見えるものも見えないもの、もかなり大きい。それでいて外野など気にせずやりたいようにやってしまうので、その型破りの行動力には賛否の山が出来あがる。
この二年、とてもあのユアルの兄とは思えないレスタの言動に、エレナは何度も溜息をついた。母親の面影を残す美しい顔立ちも同様で、父親似のユアルとはあまり似ていない。
けれど無難な型にはまりがちな宮廷貴族では比較にならないほど、レスタの視野は広く、そして柔軟で、的確な牽引者の才覚を持っていた。ユアルに対する要求の高さに誰もが無理難題だと首を振っても、その努力と実力を引きあげる後押しの加減は絶妙で、ユアルは少しずつ、そして確実に、ものごとの表裏や正道邪道といった世の在りようを理解しつつある。
レスタの外見を厭う者でさえ、その見識と指導力については精度の高い人物であると認めざるを得なかった。誰もが舌を巻くほどの傑物なのだと。
それなのに、レスタはこの国の王にはならない。
前例をぶち壊す革新の王として君臨するとは言わなかった。
ユアルの後ろ盾になったことで、補佐役としての任を担うということで宮廷側の認識は一致しているが、実際のところレスタ本人はそんなことは一度も明言していない。
トロワ王弟殿下との今後の交流や立ち位置についても。
「…トロワ殿下は、レスタ様とどんなお話をされたんでしょうね」
ぽつりとマリアが呟いて、物思いに沈みかけていたエレナは引き戻されるように視線を向けた。
「そうね。…もともとあまり交流もお持ちでないし、トロワ殿下は物静かな方のようにお見受けしているけれど、一方のレスタ様はけっこうな短気者だし…」
「そのお話、レスタ様って本当にそうなんですか?」
黒い眸を瞬いて、マリアは少しだけ意外そうな驚きをその表情に垣間見せた。
女性ながら凛と冴えた印象のあるマリアは、華やかな話題にばかり関心を示す多くの貴族令嬢とは一線を画し、ふわふわとした浮つきを好まない毅然とした一面を持っている。それがエレナと気の合う所以でもある。
「レスタ様といえば、遠目でもとても鋭利な印象の方だというのはわかります。けれど…、」
「短気者には見えない?」
「…というより、何となく底が知れません。上手く説明できませんが…」
的確な言葉が見つからないようで、マリアは考える顔で黙り込んだ。エレナは楽しげに目を細めた。
「そうね。レスタ様の短気は気性というよりむしろ示唆ね。相手に対して、もっと早くとか、もっと出来るはずだとか。だから追い立てられて急かされる心地になる反面、実際に出来る者はそうやって底上げされていくの。どんなに無理だって嘆いても諦めない者は最後まで努力するし、そういう相手にこそ高い要求を突きつける。多くではなくひとつを高く。そうやって目標に到達できたら喜ぶことで誉めるのよ。よくやった、って。ユアル様の教育方針もそうね」
「…よくやった。…それだけですか?」
「ええ、だいたいそう。よくやった、よく頑張った。…誉めるというより一緒に喜ぶの。でもユアル様にはそれが何より嬉しいみたいよ。親身な感じがするからかしらね」
「…親身」
宮廷ではあまり聞き慣れない言葉だ。
「普段から兄上こわい、ってものすごく怖がってるくせに、ご一緒のときは片ときも離れずにもうべったり。仲のよいご兄弟なのは結構なんだけど」
「…目に浮かびます」
マリアは、ふたりの王子について楽しげに語る公爵令嬢に微笑んだ。笑みが自然と優しくなっていた。
「エレナ様も、レスタ様をお慕いしていらっしゃるのね」
「あら、もちろんよ。とても厳しくて容赦もない方だけど、心から尊敬しているわ」
否定をくちにしなかったエレナは悪戯っぽくマリアを見て、それからやわらかく溜息をついた。
「でも、ちょっと寂しいわ。レスタ様はわたくしからユアル様を取りあげた張本人のような方ですもの。少年らしく行動的になられたのは嬉しいのだけど、以前はあんなにおとなしかったのに」
レスタの影響だと思われるのは、もはや勉学だけではない。馬術も剣術も、果ては体術にいたるまで、近頃では王子としての手習いの域を超えた鍛錬と修得に励んでいる。
「男の子ですもの、喜ばしいと思わなくては」
「でもね、兄上に頼りにされるような男になる、というのが目標らしいの。それを聞いてお付きの侍従たちも笑っていたわ。いずれは大事な姫君をお守りするための剣になさいませ、兄上様もそれを期待しておられますからね、ですって」
エレナもマリアも鈴の音のようにころころと笑った。
ふたりの姫君は、時折そうして他愛のない談笑を挟みながら、やがてようやくとなるノエル領の都へと入っていった。
景色は一気に平坦な田園風景から街並みの景観へと移り変わり、彼女たちも暫くはそれぞれの車窓を黙って眺めた。
ノエルの屋敷は城壁の周りを堀で囲った砦造りの典型的な城だ。城を中心に円を描くように城下町が広がり、さらにその外周を下町の賑わいが取り囲んでいる。
いま現在レスタが静養している西の離宮は、ここよりさらに国境に程近い領都の郊外にあるらしい。
「レスタ様はこちらの城下をよく散策なさったらしいわ」
ひとりごとのようにエレナは言った。
「…ほんとは、レスタ様ほど玉座にふさわしい方もいらっしゃらないでしょうに」
けれど物事はそう単純には運ばない。
「キアムさまもそんなことを仰っていました。…だからこそ、トロワ殿下も直接競い合うことを望まれておいでなのだと」
「そう…。やっぱり殿方というのはなかなかに複雑ね…」
王弟の側近の中でもタカ派といわれているレグゼン伯爵家の継嗣も、心の奥ではレスタのことを正しく高く評価している。
だからこそトロワのためにその存在を疎みもするし、主君の好敵手として敬意も抱く。確かに宮廷の男たちの事情は複雑だ。
「心のうちでは誰より感服していらっしゃるのかもしれないわね。トロワ殿下もキアム殿も。そうでなければ意識などしないもの」
呟いたエレナにマリアも無言で頷いた。
確かに殿方は難しい。特に貴族というのは常に面子や体面や外聞を気にして、ふたことめには家柄だ家格だ格式だのと。
彼らは着飾る貴婦人たち以上に、見栄や自尊心という衣装を身に纏っているようなものだ。
おかげで着ぶくれてしまった人間もいる。
冷静にマリアはそう思った。己の父親のことだった。
「………」
賑わいはもうだいぶ近い。それだけ城下が近いのかも知れない。
再び沈黙が落ちた。そのとき馬車ではない単騎の蹄の音が近づいてくるのが聞こえた。護衛の隊列からは制するような誰何の声も。
なにごとかと思ったところで、エレナたちの耳に届いたのは思いもよらない人物の名前だった。
「身を乗り出すな、レスタ」
馬蹄に紛れてはいたが、間違いなくそう聞こえた。彼女たちはとっさに顔を見合わせた。
蹄の音はすぐ近くで響いており、併走に従ったのか馬車の速度は少しずつ緩やかに落とされていった。
マリアは思わず揺れる車窓から外へと顔を覗かせた。それに倣ってエレナもマリアの背後から隙間を見やった。はっきり見えたのは御者の横についた一頭の馬と、それに乗った人物の黒髪と背中だった。
けれど、おそらくその人物ひとりではない。ふたりで一頭の馬に同乗しているようだ。
ひとりは漆黒の髪を背に流した男で、もうひとりは見間違いようもない、陽にきらめく金色の。
「ああ、いいから停まるな。往来なんだからそのまま走らせろ。――シャンテの娘も一緒か? エレナも?」
「おい、窓見てみろ。顔ふたつ覗いてる」
手綱を持つ男に促されて、レスタはひょいと馬車の窓をふりむいた。
「レスタ! 貴方こんなところで何してるの…!!」
同時にエレナが怒鳴りつけた。
その後、ほどなくしてホルスト公爵家の家紋を標した旅馬車は、無事にノエルの屋敷へと到着を果たした。
思いもかけない旅路の結末にエレナはどっと疲れ果て、マリアもまた予期せぬかたちでのレスタとの対面に驚きを隠せないようだった。
エレナからの先触れを受け、新たな客人を出迎えに立ったハルクも、同じくその場に臨席したトロワも、そして恋人の到着を待ちかねていたキアムも皆いちように、異国の友人とともに突然現れたレスタの姿に目をまるくした。
しかも公爵令嬢は到着早々からおかんむりだ。
キアムはとりあえず今回の長旅を労って恋人との抱擁を交わしたが、そのあとはぽかんとしながらエレナに叱られているレスタを眺めた。その隣のトロワもまったく同じ表情だ。
「信じられない! 利き腕が使えないのに馬に乗るなんて! 貴方は静養でここに来てるのよ? 少しは周りの心配を考えてちゃんと安静にしてくれないと、ハルク殿までお父上に叱られることになるでしょう?!」
「あーはいはい分かった分かった」
「これが分かってる人間のすることですか!! だいたい貴方…――」
「あああああのあのエレナ姫ちょっと落ち着いて…」
ハルクがおろおろと割って入る。レスタはあとは任せたという顔でハルクの大きな腕をぽんと叩くと、玄関広間の隅に立つトロワのほうへ近づいていった。
「…驚いた。突然どうしたんだ…? 先触れでは公爵令嬢と一緒にマリア姫が到着するとしか…」
トロワの問いにレスタは軽く肩をすくめた。
「いや、城下で公爵家の馬車を見つけたんで声掛けただけ。単なる偶然」
「偶然って……、結局その怪我で城下に遊びに出てたのか…」
「馬の手綱だって持ってないだろ。散策ぐらいやらせろよ」
レスタはひらひらと左手を振った。聞き咎めたエレナはキッとなってふりむいた。
「ちょっと! どういうこと!」
「…うるせぇ女だな」
二度目に割って入った声は険を含んだものだった。
途端にその場の空気は水を打ったようにしんと静まりかえった。
そこで初めて、エレナはレスタの傍らに立つ見知らぬ人物へと視線を向けた。
「………」
異国の身なりに、国に依ってはある種の権威を示すという長いドレッドロックスの混じる髪。無頼のように他を威圧する気配を全身に纏いながら、そんな輩でないことはただならぬ風格ですぐにも分かる。
剣呑な光を湛えた金の双眸が、冷ややかな眼差しで公爵令嬢を一瞥した。
ひやり、とした。
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