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深夜のコンビニバイト六日目 かぐや姫来店
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深夜のコンビニバイト六日目。
ピロリロピロリロ
「いらっしゃいま.....せ?」
今日は、おかしい。
ゾロゾロと深夜2時、五人くらいの男性がご来店した。
こんな大勢が一気に来たのは初めてだ。
全員着物を着ていて、全員切羽詰まった様子でキョロキョロと早歩きで店内を歩き回っている。
よく見ると全員の手には一枚の紙切れ。
「そこのもの、一つ問いたい」
一人、黒髪を後ろになでつけた緑の着物を着た美青年が俺に声をかけてきた。
その瞬間、他の人達もぐりんと俺の方に注目する。
何!?何怖いんだけど何!?
「私は車持皇子(くらもちのみこ)と申すものだ。其方に問いたい。これは何を指しているものなのだろうか」
ぺらりと手に持っていた一枚の紙切れを指さし、困った顔で聞かれても。
なになに...紙には、
『甘い果実を模した傷ついた満月』
とだけ、書いてあった。
「.....いや、これうちにはないやつです」
「そんなはずはない、かぐや姫はここにあると申したのだ」
くらもちのみこさんは断固として譲らない。
気がつけば他の人達もぞろぞろと俺の付近に集まってきて、紙切れをレジ前に並べ始めた。
「僕には全然わからないのです」
「探すのに協力してたもう」
「これはどういう食料を意味するのか...力を貸してもらいたい」
「傷ついた甘い満月とはなんだ」
「誰よりも先に見つけてかぐや姫に差し出さねばならぬのでおじゃる」
うるさいうるさいうるさい。
「いや待ってください一気に話さないで俺は聖徳太子じゃないんですから。レジは順番に並んでください」
「最年少の僕が先です」
「何をいう一番年上の私が先だ」
「私に譲るでおじゃる」
「貴様はさっき聞いただろう一番後ろに行くがよい!」
「まだ回答が出ておらんのだまだ私の番だ」
あー!もううるさいうるさい。
レジ前で口喧嘩をおっぱじめるのやめて!!
レジ台に肘をついて呆れていると、
「じゃんけんポンで恨みっこなしだ!」
「おーし!負けないぞ!」
「後出しはなしだぞ!」
「正々堂々勝負だ!」
「ふふ、腕がなるでおじゃるよ」
そうして、じゃんけんぽんの後大人しく順番に並ぶあたりこの人達絶対仲良しだろ。
最初に来たのは、ロングヘアをポニーテールにした、青い着物を着た驚く程にイケメンの男性だった。
「私は石作皇子(いしつくりのみこ)この紙を共に解読してたもう」
紙には、
『軽やかに口の中で踊る支柱』
「うちに支柱はありませんので、ここに売ってるものではないかと」
「少しは考えてたもう!」
「つ、次は私だな!見るでおじゃるよ」
いしつくりのみこさんを押しのけて大きく体を揺らして前に出たのは、肥満体質のオレンジの着物を着たいかにも今まで好きなものだけ食べてきましたって顔をした男性だった。
「私は阿部右大臣(あべのうだいじん)。誰よりも早くこの紙に書いてあるものを見つけねばならないのでおじゃる」
紙を押し付けられるように渡されて確認すると、
『魔氷から作られた青く彩られし盾』
「うちは武器屋じゃないんで」
「そんな事はわかっているでおじゃる!頼むでおじゃる!」
俺の制服にすがりついてきたあべのうだいじんを引き剥がすと、ガタイのいい熱血そうな短髪の赤色の着物を着た髭の生えた男性が前に出てきた。
「すまないな、他のものは品がなくて。私も自分で考えては見たのだが、さっぱりでな。協力してくれないか?」
唯一落ち着いていて好印象だな、この人は。
なになに、
『刺激的な黄金の黄昏を飲み込んで』
「もはや商品じゃないじゃないですかこれポエムじゃないですか」
わかるかよこんなもんんんん!!
段々イライラしてきて、ビリビリに破きたくなってきた。
「もうさっさと最後のも見せてください」
最後の子の中で一番若いショートボブの女の子みたいな俺より若いピンク色の着物を着た青年の手掴んで中身を見ると、
『異世界の青春聖書』
「ラノベタイトルじゃねえんだよ!!んぁああ!!!」
「僕の名前は、石上中納言(いそのかみちゅうなごん)です。かろうじて書籍という事はわかったのですが、いくら調べてもそのような書籍は出てこないのです』
眉をしゅんと下げ俯いたいそのかみさん、他の人達も俺と同じで頭を抱えて紙を見ながら唸っていた。
ピロリロピロリロ
「闇夜に現れし一つの魂....そう、我こそは」
「「「「「かぐや姫!!」」」」」
え?
フリフリの白いレースが至る所に散りばめられ、黒いゴスロリ風の膝下くらい短い着物を着た黒いツインテールの中学生くらい美少女が来店して来た。
「参上...くっくっく我が下僕達、帰りが遅いから様子を見に来てみれば何を遊んでいるの?10分以上我を一人にしたら月に帰ると前にいったはずでしょう?」
バサっと持っていた黒いレースの傘を店内でさすのやめてくれませんかね。
「かぐや姫...可愛い」
「最高に可愛いでおじゃるよ」
「かぐや姫に心配かけさせてしまった...」
え?え?
「15分もお部屋で一人にさせてしまった.....何て罪深い事をしてしまったんだ!!」
「下僕失格です...」
え?え?何どういう事。
もしかして、この和服ゴスロリ美少女がかぐや姫?
何?俺の知ってるかぐや姫と違う。
こんな...こんなあの、厨二病に発症して自分の事を魔の眷属と勘違いしちゃった系の人と違う!!グレてる!!竹取の翁もびっくりだよ!!
「鬱陶しい朝が来る。さっさと闇夜に紛れるわよ下僕達」
「え...でも、まだ買い物が」
「...失望の片鱗。はぁ、我の望むものを手に入れられない無能な下僕はいらないわ.....」
ため息交じりで心底呆れたように言うと、
「月に帰るわよ」
低い声でぼそりと呟くと五人の公達は、血相を変えてかぐや姫に駆け寄っていく。
「やめて!かぐや姫!行かないでたもう!」
「朝まで探すでおじゃる!」
「大丈夫です、もう見つけました!これですよね!これですよね?あれ?これですか?」
「行かないでください...かぐや姫!僕にできる事ならなんでもしますから...見つけられなかったらお仕置きしてください?」
「今日中に必ず見つけだします!もう少々お時間をください!かぐや姫!」
ゴスロリの小さいかぐや姫に必死にすがりつく五人の公達。
はたから見たらただのロリコン集団だった。
だが実際は女王様と下僕のような関係なのだろう。
俺は、レジ台から離れかぐや姫の前に立つと、
「一旦ちょっと皆さん、暑苦しいので離れてください。俺はこのかぐや姫さんに少し話があります」
「其方もかぐや姫の美しさに魅せられたのか....だがかぐや姫は渡さんぞ!」
「ちょっと熱血の人、黙って離れて下さい。大丈夫です。手荒な事は絶対しませんから」
俺が冷静に、真剣に一人一人見つめると
公達は渋々離れていく。
かぐや姫は怯えたような、でも威厳は忘れないと言う表情で、
「何だ。一般人」
「一般人じゃないでしょ」
俺は、俺より背の低い彼女に目線を合わせて、できるだけ優しい声色で話す事を心がけた。
「ダメでしょ、年上の大人をからかったりしちゃ。自分の欲しいものは自分で手に入れなきゃ、変な暗号文を書いておじさん達に買ってきてもらおうとせずに自分でちゃんとコンビニに来なきゃダメでしょ」
「なっ、何だ貴様、我に説教すると申すか!」
傘を突き上げ、ドタドタと地団駄を踏み出したかぐや姫に、俺は冷静に彼女を見て答える。
「貴様じゃないでしょ、君は見るからに俺より子供でしよ。レジのお兄さんでしょ」
「う、うるさい!黙れ、黙れ!我と下僕の主従関係を貴様にとやかく言われとうないわ!」
「主従関係じゃないでしょ。あのおじさん達はね、君が我儘ばっかり言って困ってるんだよ。君の我儘に付き合ってあげてるだけなの。そんなおじさん達にたまには肩でも揉んであげたらどうなの」
「☆○2×<#〒*!!」
言葉にならない声を上げ顔を真っ赤にしたらかぐや姫は、
「我は昔からおじいさんとおばあさんに褒められた事しかなかったのに、こんな見ず知らずの冴えない人間に...しかも説教されるなんて、我は怒ったぞ...月に変わって貴様を竹をスパンと割るように真っ二つに引き裂いてやる!」
随分物騒な事を言うんだな。どういう教育を受けているんだ。
かぐや姫は、赤い左目を左手で隠し、意味深なポーズを決め、
「震えて刮目せよ...我の漆黒の翼を!」
かぐや姫が背負っていたリュックサックの背負う部分に赤いボタンがあって、かぐや姫がそこをポチッと押すと、ンバッと背中のリュックから黒い羽が飛び出てきた。
「ど、どうだ!驚いただろう!魔法だぞ!我は貴様と違うのだ!こうやって貴様も魔法でめっためたのぎったぎたにしてやるんだぞ!」
シュッシュッとボクシングのパンチの真似をしているかぐや姫に、
「.....あんまりおじさん達を困らせちゃだめだよ。わかった?」
「スルーするな!お前!許さんぞこらー!」
ぽかぽかと俺にぐるぐるパンチを食らわせるかぐや姫。
「ありがとうございます!」
「助かりました!!」
後ろでそのおじさん達の声がしたと思ったら、店長が音もなくレジに立っていた。
「て...店長」
グッと親指を立てる店長に、俺がかぐや姫と話している間に何が起きたのか理解するのに数秒かかった。
公達の手には各々商品をカゴいっぱいに入れて満遍の笑みを浮かべていた。
「かぐや姫!『甘い果実を模した傷ついた満月』買ってきましたよ!」
メロンパンだった。
「かぐや姫!『軽やかに口の中で踊る支柱』です!」
いろんな種類のじゃがりこだった。
「かぐや姫!『魔氷から作られた青く彩られし盾』でおじゃるよ!」
ソーダバーだった。
「かぐや姫!『刺激的な黄金の黄昏を飲み込んで』見つかりましたよ!」
ジンジャーエールだった。
「僕のも見てください!色んな種類の『異世界の青春聖書』ですよ!」
分厚い漫画雑誌だった。
「いやー、あの人は凄かったですね。瞬時にかぐや姫の求める物を探し当てて...」
かぐや姫は、満遍の笑みで店長を見ていた。
まさか──。
「決めたわ!さっきの男を我の下僕とする。あんた達はクビよ」
「そ、そんな!かぐや姫!そんな事言わないでください!!」
困惑する公達の間を、店長はのっしのっしとかき分けこちらに歩いて来た。
ゆっくりと、店長はかぐや姫の前に屈むと、
「あんまり、大人をからかうもんじゃぁねぇよ。お嬢ちゃん。後店内では傘は差しちゃいけねえってお母ちゃんに教わらなかったかぃ...?」
大きな片手をかぐや姫の頭にずしっと乗せた。
まるでそれは、巨人が捕食する人間の頭を鷲掴みにしている様だった。
かぐや姫から笑顔が消え、ガタガタと震えだした。
「殺さないで.....」
涙がポロポロこぼれ落ち、消え入りそうな声で彼女が絞り出した言葉に、
「かぐや姫に手を出すな!」
「かぐや姫を泣かせるなんて許せません!」
公達が駆け寄って来て、店長をかぐや姫から引き剥がそうと力一杯五人で摑みかかる。
勿論あの店長だ。五人がかりでもビクともしなかった。
「かぐや姫を殺すなら私を殺すでおじゃる!」
「其方には感謝しているが、かぐや姫を
泣かせるなんて許せないです!」
まるで、目の前で繰り広げられているのは巨人に立ち向かう人類との戦いのようだった。
「みんなぁ...我の為に...ぐすっ我、酷い事いっぱい、言ったのに」
「かぐや姫!私達はそんな事全く気にしておりません!」
「そうですよ!可愛いかぐや姫が健康で、元気でそして、笑顔でいてくれさえいれば我々は嬉しいのです」
「そうでおじゃる!我らはかぐや姫が大好きなのでおじゃる!涙ではなく麗しのかぐや姫には常に笑顔でいてほしいでおじゃるよ」
「かぐや姫の為なら命を捨てる覚悟です」
「僕は、かぐや姫に下僕と罵られても、嫌な気持ちは全くありませんよ。むしろ毎日が...ハァッご褒美だと感じています!」
一人高らかにドM発言した奴がいたけど気のせいだよね。
店長がかぐや姫から離れると、公達はかぐや姫の所に駆け寄って、かぐや姫を守るように店長の前に立ちはだかる。
店長の恐ろしさに、カチカチ歯を鳴らして震えるおじゃるもいたが、そんな事よりかぐや姫を守るという気持ちが全員からひしひしと伝わってきた。
店長は、フッと微笑んで、
「なんだよ、あんたら格好いいじゃねえか...お嬢さんを、俺みたいな奴から守ってやるんだぜ」
グッと親指を立てた店長に、
「これが僕らの下僕魂ですよ.....」
何だよ下僕魂って。
かぐや姫を守り囲うようにして出ていった公達の背中を腕を組みながら見ていた店長は、
「最近のわけぇもんのファッションは奇抜なのが多いねぇ...」
と呟いてボリボリ頭をかきながら休憩室に戻った。
いやなんか俺途中置いてけぼりでドラマが始まってたけど一つ言えるのは、店長やっぱりマジカッケェって事だけだな。
ピロリロピロリロ
「いらっしゃいま.....せ?」
今日は、おかしい。
ゾロゾロと深夜2時、五人くらいの男性がご来店した。
こんな大勢が一気に来たのは初めてだ。
全員着物を着ていて、全員切羽詰まった様子でキョロキョロと早歩きで店内を歩き回っている。
よく見ると全員の手には一枚の紙切れ。
「そこのもの、一つ問いたい」
一人、黒髪を後ろになでつけた緑の着物を着た美青年が俺に声をかけてきた。
その瞬間、他の人達もぐりんと俺の方に注目する。
何!?何怖いんだけど何!?
「私は車持皇子(くらもちのみこ)と申すものだ。其方に問いたい。これは何を指しているものなのだろうか」
ぺらりと手に持っていた一枚の紙切れを指さし、困った顔で聞かれても。
なになに...紙には、
『甘い果実を模した傷ついた満月』
とだけ、書いてあった。
「.....いや、これうちにはないやつです」
「そんなはずはない、かぐや姫はここにあると申したのだ」
くらもちのみこさんは断固として譲らない。
気がつけば他の人達もぞろぞろと俺の付近に集まってきて、紙切れをレジ前に並べ始めた。
「僕には全然わからないのです」
「探すのに協力してたもう」
「これはどういう食料を意味するのか...力を貸してもらいたい」
「傷ついた甘い満月とはなんだ」
「誰よりも先に見つけてかぐや姫に差し出さねばならぬのでおじゃる」
うるさいうるさいうるさい。
「いや待ってください一気に話さないで俺は聖徳太子じゃないんですから。レジは順番に並んでください」
「最年少の僕が先です」
「何をいう一番年上の私が先だ」
「私に譲るでおじゃる」
「貴様はさっき聞いただろう一番後ろに行くがよい!」
「まだ回答が出ておらんのだまだ私の番だ」
あー!もううるさいうるさい。
レジ前で口喧嘩をおっぱじめるのやめて!!
レジ台に肘をついて呆れていると、
「じゃんけんポンで恨みっこなしだ!」
「おーし!負けないぞ!」
「後出しはなしだぞ!」
「正々堂々勝負だ!」
「ふふ、腕がなるでおじゃるよ」
そうして、じゃんけんぽんの後大人しく順番に並ぶあたりこの人達絶対仲良しだろ。
最初に来たのは、ロングヘアをポニーテールにした、青い着物を着た驚く程にイケメンの男性だった。
「私は石作皇子(いしつくりのみこ)この紙を共に解読してたもう」
紙には、
『軽やかに口の中で踊る支柱』
「うちに支柱はありませんので、ここに売ってるものではないかと」
「少しは考えてたもう!」
「つ、次は私だな!見るでおじゃるよ」
いしつくりのみこさんを押しのけて大きく体を揺らして前に出たのは、肥満体質のオレンジの着物を着たいかにも今まで好きなものだけ食べてきましたって顔をした男性だった。
「私は阿部右大臣(あべのうだいじん)。誰よりも早くこの紙に書いてあるものを見つけねばならないのでおじゃる」
紙を押し付けられるように渡されて確認すると、
『魔氷から作られた青く彩られし盾』
「うちは武器屋じゃないんで」
「そんな事はわかっているでおじゃる!頼むでおじゃる!」
俺の制服にすがりついてきたあべのうだいじんを引き剥がすと、ガタイのいい熱血そうな短髪の赤色の着物を着た髭の生えた男性が前に出てきた。
「すまないな、他のものは品がなくて。私も自分で考えては見たのだが、さっぱりでな。協力してくれないか?」
唯一落ち着いていて好印象だな、この人は。
なになに、
『刺激的な黄金の黄昏を飲み込んで』
「もはや商品じゃないじゃないですかこれポエムじゃないですか」
わかるかよこんなもんんんん!!
段々イライラしてきて、ビリビリに破きたくなってきた。
「もうさっさと最後のも見せてください」
最後の子の中で一番若いショートボブの女の子みたいな俺より若いピンク色の着物を着た青年の手掴んで中身を見ると、
『異世界の青春聖書』
「ラノベタイトルじゃねえんだよ!!んぁああ!!!」
「僕の名前は、石上中納言(いそのかみちゅうなごん)です。かろうじて書籍という事はわかったのですが、いくら調べてもそのような書籍は出てこないのです』
眉をしゅんと下げ俯いたいそのかみさん、他の人達も俺と同じで頭を抱えて紙を見ながら唸っていた。
ピロリロピロリロ
「闇夜に現れし一つの魂....そう、我こそは」
「「「「「かぐや姫!!」」」」」
え?
フリフリの白いレースが至る所に散りばめられ、黒いゴスロリ風の膝下くらい短い着物を着た黒いツインテールの中学生くらい美少女が来店して来た。
「参上...くっくっく我が下僕達、帰りが遅いから様子を見に来てみれば何を遊んでいるの?10分以上我を一人にしたら月に帰ると前にいったはずでしょう?」
バサっと持っていた黒いレースの傘を店内でさすのやめてくれませんかね。
「かぐや姫...可愛い」
「最高に可愛いでおじゃるよ」
「かぐや姫に心配かけさせてしまった...」
え?え?
「15分もお部屋で一人にさせてしまった.....何て罪深い事をしてしまったんだ!!」
「下僕失格です...」
え?え?何どういう事。
もしかして、この和服ゴスロリ美少女がかぐや姫?
何?俺の知ってるかぐや姫と違う。
こんな...こんなあの、厨二病に発症して自分の事を魔の眷属と勘違いしちゃった系の人と違う!!グレてる!!竹取の翁もびっくりだよ!!
「鬱陶しい朝が来る。さっさと闇夜に紛れるわよ下僕達」
「え...でも、まだ買い物が」
「...失望の片鱗。はぁ、我の望むものを手に入れられない無能な下僕はいらないわ.....」
ため息交じりで心底呆れたように言うと、
「月に帰るわよ」
低い声でぼそりと呟くと五人の公達は、血相を変えてかぐや姫に駆け寄っていく。
「やめて!かぐや姫!行かないでたもう!」
「朝まで探すでおじゃる!」
「大丈夫です、もう見つけました!これですよね!これですよね?あれ?これですか?」
「行かないでください...かぐや姫!僕にできる事ならなんでもしますから...見つけられなかったらお仕置きしてください?」
「今日中に必ず見つけだします!もう少々お時間をください!かぐや姫!」
ゴスロリの小さいかぐや姫に必死にすがりつく五人の公達。
はたから見たらただのロリコン集団だった。
だが実際は女王様と下僕のような関係なのだろう。
俺は、レジ台から離れかぐや姫の前に立つと、
「一旦ちょっと皆さん、暑苦しいので離れてください。俺はこのかぐや姫さんに少し話があります」
「其方もかぐや姫の美しさに魅せられたのか....だがかぐや姫は渡さんぞ!」
「ちょっと熱血の人、黙って離れて下さい。大丈夫です。手荒な事は絶対しませんから」
俺が冷静に、真剣に一人一人見つめると
公達は渋々離れていく。
かぐや姫は怯えたような、でも威厳は忘れないと言う表情で、
「何だ。一般人」
「一般人じゃないでしょ」
俺は、俺より背の低い彼女に目線を合わせて、できるだけ優しい声色で話す事を心がけた。
「ダメでしょ、年上の大人をからかったりしちゃ。自分の欲しいものは自分で手に入れなきゃ、変な暗号文を書いておじさん達に買ってきてもらおうとせずに自分でちゃんとコンビニに来なきゃダメでしょ」
「なっ、何だ貴様、我に説教すると申すか!」
傘を突き上げ、ドタドタと地団駄を踏み出したかぐや姫に、俺は冷静に彼女を見て答える。
「貴様じゃないでしょ、君は見るからに俺より子供でしよ。レジのお兄さんでしょ」
「う、うるさい!黙れ、黙れ!我と下僕の主従関係を貴様にとやかく言われとうないわ!」
「主従関係じゃないでしょ。あのおじさん達はね、君が我儘ばっかり言って困ってるんだよ。君の我儘に付き合ってあげてるだけなの。そんなおじさん達にたまには肩でも揉んであげたらどうなの」
「☆○2×<#〒*!!」
言葉にならない声を上げ顔を真っ赤にしたらかぐや姫は、
「我は昔からおじいさんとおばあさんに褒められた事しかなかったのに、こんな見ず知らずの冴えない人間に...しかも説教されるなんて、我は怒ったぞ...月に変わって貴様を竹をスパンと割るように真っ二つに引き裂いてやる!」
随分物騒な事を言うんだな。どういう教育を受けているんだ。
かぐや姫は、赤い左目を左手で隠し、意味深なポーズを決め、
「震えて刮目せよ...我の漆黒の翼を!」
かぐや姫が背負っていたリュックサックの背負う部分に赤いボタンがあって、かぐや姫がそこをポチッと押すと、ンバッと背中のリュックから黒い羽が飛び出てきた。
「ど、どうだ!驚いただろう!魔法だぞ!我は貴様と違うのだ!こうやって貴様も魔法でめっためたのぎったぎたにしてやるんだぞ!」
シュッシュッとボクシングのパンチの真似をしているかぐや姫に、
「.....あんまりおじさん達を困らせちゃだめだよ。わかった?」
「スルーするな!お前!許さんぞこらー!」
ぽかぽかと俺にぐるぐるパンチを食らわせるかぐや姫。
「ありがとうございます!」
「助かりました!!」
後ろでそのおじさん達の声がしたと思ったら、店長が音もなくレジに立っていた。
「て...店長」
グッと親指を立てる店長に、俺がかぐや姫と話している間に何が起きたのか理解するのに数秒かかった。
公達の手には各々商品をカゴいっぱいに入れて満遍の笑みを浮かべていた。
「かぐや姫!『甘い果実を模した傷ついた満月』買ってきましたよ!」
メロンパンだった。
「かぐや姫!『軽やかに口の中で踊る支柱』です!」
いろんな種類のじゃがりこだった。
「かぐや姫!『魔氷から作られた青く彩られし盾』でおじゃるよ!」
ソーダバーだった。
「かぐや姫!『刺激的な黄金の黄昏を飲み込んで』見つかりましたよ!」
ジンジャーエールだった。
「僕のも見てください!色んな種類の『異世界の青春聖書』ですよ!」
分厚い漫画雑誌だった。
「いやー、あの人は凄かったですね。瞬時にかぐや姫の求める物を探し当てて...」
かぐや姫は、満遍の笑みで店長を見ていた。
まさか──。
「決めたわ!さっきの男を我の下僕とする。あんた達はクビよ」
「そ、そんな!かぐや姫!そんな事言わないでください!!」
困惑する公達の間を、店長はのっしのっしとかき分けこちらに歩いて来た。
ゆっくりと、店長はかぐや姫の前に屈むと、
「あんまり、大人をからかうもんじゃぁねぇよ。お嬢ちゃん。後店内では傘は差しちゃいけねえってお母ちゃんに教わらなかったかぃ...?」
大きな片手をかぐや姫の頭にずしっと乗せた。
まるでそれは、巨人が捕食する人間の頭を鷲掴みにしている様だった。
かぐや姫から笑顔が消え、ガタガタと震えだした。
「殺さないで.....」
涙がポロポロこぼれ落ち、消え入りそうな声で彼女が絞り出した言葉に、
「かぐや姫に手を出すな!」
「かぐや姫を泣かせるなんて許せません!」
公達が駆け寄って来て、店長をかぐや姫から引き剥がそうと力一杯五人で摑みかかる。
勿論あの店長だ。五人がかりでもビクともしなかった。
「かぐや姫を殺すなら私を殺すでおじゃる!」
「其方には感謝しているが、かぐや姫を
泣かせるなんて許せないです!」
まるで、目の前で繰り広げられているのは巨人に立ち向かう人類との戦いのようだった。
「みんなぁ...我の為に...ぐすっ我、酷い事いっぱい、言ったのに」
「かぐや姫!私達はそんな事全く気にしておりません!」
「そうですよ!可愛いかぐや姫が健康で、元気でそして、笑顔でいてくれさえいれば我々は嬉しいのです」
「そうでおじゃる!我らはかぐや姫が大好きなのでおじゃる!涙ではなく麗しのかぐや姫には常に笑顔でいてほしいでおじゃるよ」
「かぐや姫の為なら命を捨てる覚悟です」
「僕は、かぐや姫に下僕と罵られても、嫌な気持ちは全くありませんよ。むしろ毎日が...ハァッご褒美だと感じています!」
一人高らかにドM発言した奴がいたけど気のせいだよね。
店長がかぐや姫から離れると、公達はかぐや姫の所に駆け寄って、かぐや姫を守るように店長の前に立ちはだかる。
店長の恐ろしさに、カチカチ歯を鳴らして震えるおじゃるもいたが、そんな事よりかぐや姫を守るという気持ちが全員からひしひしと伝わってきた。
店長は、フッと微笑んで、
「なんだよ、あんたら格好いいじゃねえか...お嬢さんを、俺みたいな奴から守ってやるんだぜ」
グッと親指を立てた店長に、
「これが僕らの下僕魂ですよ.....」
何だよ下僕魂って。
かぐや姫を守り囲うようにして出ていった公達の背中を腕を組みながら見ていた店長は、
「最近のわけぇもんのファッションは奇抜なのが多いねぇ...」
と呟いてボリボリ頭をかきながら休憩室に戻った。
いやなんか俺途中置いてけぼりでドラマが始まってたけど一つ言えるのは、店長やっぱりマジカッケェって事だけだな。
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